たいげい
海上自衛隊の最新鋭潜水艦SS-513 「たいげい」の命名・進水式が10月14日、三菱重工業神戸造船所で行われた。
■来歴
海上自衛隊の潜水艦は、平成16年度予算での建造分より、2,900トン型(そうりゅう型)に移行した。これは先行する2,700トン型(おやしお型)をもとにした発展型で、特にスターリングエンジンによる非大気依存推進(AIP)システムを導入したことが注目された。同システムは高出力の発揮は望めないものの、シュノーケルを使用せずとも長期間潜航できることから、電池容量を温存できるようになり、従来よりもダイナミックな作戦行動を可能とするものと期待された。

結果、そうりゅう型11番艦SS-511「おうりゅう」からリチウムイオン電池は搭載され、本艦は12番艦SS-512「とうりゅう」に続くGSユアサが開発したリチウムイオン電池を世界で三番目の潜水艦となった。なお、当初よりリチウムイオン電池を搭載する潜水艦として計画されたものとしては、最初のクラスとなる。「おうりゅう」と比べ「たいげい」はより多くリチウムイオン電池を搭載したと思われるが、正確な数字は軍事機密である。
海上自衛隊は潜水艦部隊を22隻体制に拡充する予定だが、試験艦1隻、練習艦2隻が別に加わり実質25隻体制になる予定だ。おやしお型のネームシップ1番鑑の「おやしお」と2番艦の「みちしお」はすでに練習潜水艦として運用されている。
ご存じの通り、たいげいは当初SS(通常動力型潜水艦)として就役するが、艦種変更時期については未定だが、試験潜水艦に艦種変更となり、ポスト3000トン型潜水艦や搭載兵器の開発に携わる。
■そうりゅう型との違い
海自初の貫通型潜望鏡を搭載しない船体となり、89式長魚雷の後継である最新の18式長魚雷を装備する。軽量のTAS(曳航アレイ)が採用され、高性能化した。
また、潜水艦への女性自衛官配置制限の解除を受けて、居住区内に仕切り等を設けて女性用寝室を確保するとともに、シャワー室の通路にカーテンを設けるなど、女性自衛官の勤務に対応した艤装が行われている。
全長84メートルと全幅9.1メートルは、そうりゅう型と同じだが、深さは10.4メートルとなり、そうりゅう型より0.1メートル大きい。
基準排水量については3000トン、そうりゅう型より50トン多い。水中排水量については公表されていないが、そうりゅう型4200トンに対し4500トン(推定)
さらに、そうりゅう型では船尾の潜柁はX舵型が採用され、高い舵効が確認され、高い水中運動性を得た。また着底した際の損傷を防ぐ効果がある。
操舵手が左右(針路制御)および上下(姿勢制御)と操作した結果を信号処理装置で4枚の舵角に変換するという手間はかかるが、利点の方が大きい。
X舵は「たいげい」でも採用された。たいげい型はそうりゅう型より若干幅が広がったように見える。
たいげい型でもはまき型は継承されたが、船体構造は一新され浮架台が採用された。
これは諸外国の潜水艦で採用が進みつつある浮き甲板(フローティング・デッキ)と同様の構造により、低雑音化・耐衝撃特性向上を図るものである。
進水直後
防衛装備庁艦艇装備研究所では、音波吸収材や反射材の最適装備法等とともに「被探知防止・耐衝撃潜水艦構造の研究」として開発されており、平成19から23年度で試作、平成22から26度で試験が行われた。
たいげいの後半建造艦には順次採用されていくと思われます。
第2次大戦後に原子力潜水艦が登場して潜航時間が大幅に延伸、水中速力も向上して、ディーゼル電気推進潜水艦の能力を大幅に超えることになった。しかし原子力潜水艦は、騒音が大きく容易に発見されやすい目標であった。ディーゼル電気推進機関を中心とした在来型潜水艦と呼ばれる潜水艦は、その時徴を生かしたチョークポイントで待ち伏せ運用がなされている。
たいげいでは、そうりゅうよりも高効率のシュノーケルが採用された。

“そうりゅう”型以降は、電動機として従来の直流電動機に替わって多くの利点がある交流電動機(永久磁石同期電動機)が採用されている。主蓄電池(直流電圧)で交流電動機を作動させるには直流交流変換装置が必要であるが、近年は電力用半導体による変換効率の高い装置が開発されている。


本艦のソナーは艦首に円筒アレイ(CA=cylindrical array)、艦側面に側面アレイ(FA=flank array)、艦尾に曳航アレイ(TAS=towed array sonar)、および艦首の上に取付ける音響逆探知装置(AIR:AcousticInterceptReceiver)からなる統合ソナー・システムを有している。
艦首アレイはそうりゅう2番艦うんりゅう以降に搭載されたZQQ-7Bを改良したZQQ-8 統合ソナーが搭載される。ZQQ-8では大型化(開口拡大)するために艦首の形状に沿ったコンフォーマル化艦首の円筒アレイを艦首形状と一体化して吸音材一体面の音波受信器として感度向上し、曳航アレイは光ファイバー受波技術を適用して指向性を向上している。
艦側面の聴音アレイに光ファイバーソナーを採用し「音波による音の発生ではなく光の干渉作用を探知できる」といわれる。この形のソナーは電磁発信の探知にも効果がある。船体側面に沿ってアレイを長く配置して艦首の円筒アレイより低周波数の音に対応する。側面アレイでは吸音材と一体面とした受渡器の採用による開口拡大効果がある。
曳航アレイ(TAS)も同じく低周波数の感知用だが、曳航式ソナーアレイで長距離かつ全方向追尾を行う。曳航式アレイは、船体からの距離と指向性によって曳航船の水中放射雑音からの影響を軽減し、ソナーの受波器入口雑音レベルの抑制が期待できる。またアレイ長が艦船の規模によって制約されないことから、必要に応じて長くすることで低周波に対応できる。
探知方向が明確でなく航路を変針して測定する必要がある。開口拡大と光ファイバー受渡アレイ技術による指向性補償処理、艦内の信号処理部における複数異種アレイ(艦首/側面/曳航アレイ)からの探知情報の自動統合が行われる。反転捜索ソナーアレイ、ブロードバンド送信アレイも装備する。
そして異種ソナー間の探知情報を自動統合アルゴリズムの構築で統合化し、ソナーに関わる業務を大幅に自動化する。これには「次世代潜水艦用ソナーの研究」(2005~2009)、および「次世代潜水艦用ソナー・システム」(2010~2015)の研究成果が反映される。各種ソナーの搭載で合成ソナー図が同艦の新型戦闘システムで実現し、標的の移動分析以外に発射解も示せるようになる。
■潜望鏡
本艦では新しい形式の電子光学潜望鏡/電子光学マストセを採用、光学経路を船体内に導入せず、制御信号や得られた電子光学信号を伝送するケーブルのみを船体内に導入する。非貫通型潜望鏡を採用した。
「たいげい」型は船体強度に影響する貫通孔が小さく、そうりゅう型を上回る最大深度に達する。個人的予想では1000mを超えると思われます。

本艦は魚雷発射管「HU-606」533mm魚雷発射管 6門を装備する。
潜水艦用長魚雷(G-RX6)

発射母艦から有線誘導され、アクティブ/パッシブ・ホーミングによって目標に接近する。有線誘導も可能な新型システムは水素酸素組み合わせ式の推進機構でステルス化している。

おとりと本当の標的をソナーで区別し、弾頭の爆発時間調整により深海、浅海それぞれの交戦に応じた効果を実現する。攻撃対象には水上艦艇、および潜水艦。
魚雷は、目標を直撃したときでけでなく、目標の近くを通った時にも爆発する必要がある、このため磁気起爆装置が付いている。これまでの起爆装置は目標の艦艇から生じる磁気を感知して爆発する仕組みだった。これに対し「アクテイブ磁気起爆装置」は、自らが磁気を出し目標の艦艇により磁場が変わることを感知して最適タイミングで起爆する装置。これで「18式魚雷」は正に一撃必殺の長魚雷となった。
従来の主センサーに加えて目標探知距離の延伸を図る低周波パッシブ・センサー、目標の音響画像化方式を用いて目標の大きさ・形状の識別により魚雷防御手段を排除する画像センサー、さらに海面および海底面の距離検出による目標直下・直上検知を行なう境界面センサーから構成される複合センサー・モジュールが採用されている。
海自のTCMを検索できなかったが・・・
TCM-torpedo counter measure
もしくは・・・
ZARGANA - Torpedo Counter Measure System for Submarines

無人機との連携が考えられている。

装備されている上記のような各種装備品を効果的に運用して潜水艦としての能力を最大限に発揮するには、戦域情報システム(ネットワーク・システム)、戦術管制システムおよび武器管制システムで構成される戦闘システムが不可欠である。
・[OYX-1]情報処理サブシステム
・多機能共通コンソールである潜水艦状況表示装置(MFICC:MultiFunctionIntelligence ControIConsole)
などで構成されている。
■静粛性

中国海軍はそうりゅう前型「おやしお」が20年以上前から南シナ海で活動していたことに、まったくきがつかなかった。中国海軍の対潜能力水準では「おやしお」すら探知することが不可能なうえに「そうりゅう」型の探知は絶望的である。その「そうりゅう」型を上回る静粛性を持つ「たいげい」型となれば、探知することを最初から諦めている嫌いがある。
■運用思想
また、AIP潜水艦では使用時間に限界のあるAIPをいつ使用するのか困難な判断を迫られるが、‘‘おうりゅう”ではそうした判断の必要はない。AIP潜水艦が酸素を使い切って充電が必要となる状況では同様に充電を行なうが、少し時間をかけて完全に充電すると、AIPの燃料と酸素を回復したのと同じこととなる。これはドイツ型では実現不可能である。情報を得て侍敵海域に進出する際にはAIP潜水艦よりも高い速力の使用が可能となり、敵を待ち受ける正面幅が広くなる。また、攻撃位置に着く場合にも高速使用が容易になり、攻撃成功率が高まる。そして、これらについても電池容量が大きい分ドイツ型よりも有利である。さらに、AIP潜水艦では回避で電池を使い切るとAIPの出力で可能な低速力で回避を継続せざるを得ないが、‘‘おうりゅう’’では高速使用時の電池消耗が抑えられる他、AIP相当分の電池残量も回避に使用できるため、高速回避を長く継続することができ、回避成功率がAIP潜水艦よりも高くなる。