『「石油の支配者」浜田和幸 著 文春新書 』を読む

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浜田氏は、時として彼のダークサイドが発動して、陰謀論信奉者に近い「トンでも論」に走ってしまうこともあるが、この本については、浜田和幸氏の正常な見識機能が働いた書籍です。

もっとも、この本は石油が高騰している最中に執筆をはじめ、急落した相場に対応し、次々に内容を修正していった箇所が、随所発見でき、だいぶ苦闘した跡が見受けられ、浜田氏の修正の苦労を想像すると思わず苦笑してしまいます。しかし、石油ピーク説を否定する第4章「石油はいつまでもつのか」だけでも十分に読む価値がある、皆様に推奨する1冊です。

参考になる箇所を抜粋して少々論評を加えます。

p32 「ドル安」に対応して原油価格を上げた!⇒なるほど、原油国の立場からすると、ドル建で原油取引をするため、米ドルの価値が下がればドルが下げた分だけ原油価格を値上げしたい動機がある。当然、次のドル安時の原油価格も要注意ということである。

p57 カーライルの巧みなマネーゲームに着目したCIC(中国投資有限責任公司)では、その資金力をバックに、一気にカーライルを買収しようとする動きをみせている。すでに、有望資源株や有望株に投資している、投資ファンドグループのブラックストーングループにCICは10%の出資をして筆頭株主だ。⇒国富ファンドが金融資産やエネルギー企業株を根こそぎ買収される恐れがでてきた。⇒世界各国で透明性を求め規制をする動き。

p74~75 原油価格が上昇すると経済が減速し石油の需要が減り、やがて原油価格が下落する。⇒今回は原油価格が上昇しても、未だ世界全体では成長が続いている。⇒石油を大量消費しなくとも経済成長できる社会構造となりつつある。

p82アメリカは2005年にサウジに見切りをつけた。サウジ+クウェートを合せた分量以上をギニアから輸入することとした。アメリカは今後10年先の輸入計画は中東諸国からアフリカへ軸を移す。中国にとって最大の石油供給国はアンゴラである。米中はアフリカの原油を巡り対立する可能性がある。

p87~89 この箇所は石油危機の発生と、今日のドルの行方を考察する上で非常に参考となります。
1973年2月12日、ニクソン大統領は再び世界を驚かす政策を発表したのである。それは、他の主要通貨に対する10%ものドルの切り下げであった。

絵図を描いたキッシンジャー

今から振り返れば、この決定の背後にも実は原油価格の高騰という隠された環境変化に対するアメリカの予防線を張る戦略があったことが読み取れる。なぜなら、その八カ月後、1973年10月6日、エジプトとシリアがイスラエルに対する軍事侵攻を開始したからである。偶発的に起きたといわれるが、極めて疑わしい。

というのも、この戦争勃発により、OPEC加盟国は一夜にして原油価格を四倍に跳ね上がらせた。これは出来すぎといえるだろう。アラブの産油国は莫大な原油収入を得ることになった。中でも世界最大の産油国であったサウジアラビアの収入は天文学的水準に達したといわれている。
しかも、この莫大なオイルマネーはそっくりそのままアメリカに還流しアメリカの不動産や企業の株式に吸収されたのである。見ようによっては、「アメリカの経済危機を救うために中東の戦争が計画され、その結果四倍という極端な原油高がもたらされ、その原油収入はアメリカに還流することでアメリカを経済破綻から救った」という構図が浮かび上がるのである。

もし、アメリカ経済を苦境の極みから救うために誰かが中東における紛争を演出し、戦争までけしかけたとすれば、おそらくその構図を描いたのは当時の国務長官であり、ニクソン大統領の知恵袋であった、ヘンリー・キッシンジャー氏をおいて他には考えられないだろう。当時キッシンジャー氏はウォーターゲート事件で瀕死の状態に陥っていたニクソン大統領に代わり、実質的な大流領職にあったと言っても過言ではない。

1974年、OPEC加盟国の収入は原油高で大幅に膨らんだが、そのうち70%近くがアメリカに還流したのである。その時、死に体状態にあったニクソン大統頷に代わりキッシンジャー国務長官はOPEC加盟諸国との問で「原油取引の決済に当たってはアメリカの通貨、ドルに限る」とする密約を交わしたと言われる。これが、今日まで続くペトロダラーの始まりであった。ここで最後に笑ったのはアメリカというわけだ。

1956年ピークオイル説を発表したハーバード博士に対して、大反論および、従来の理論では説明できないインド、ペルー、ブラジル(石油大国の仲間入りするだろう)コロンビア、ボリビア、エクアドルの大油田の発見が相次いでいる。また、アメリカ国内の油田には依然潤沢な油田が手つかずのまま眠っている。

ケンブリッジリサーチアソシエーツのダニエルヤーギン氏によれば、ピークオイル説をとなえる学者の石油埋蔵量見積もり1兆2000万バレルに対し、4兆8200万バレルの見積もりを出している。

p126~127
ロシアの「原油無機説」

ピークオイル説を、科学的根拠のない極端な悲観論に過ぎないとみなす最右翼がロシアである。ロシアの科学アカデミーが中心となり、ウクライナの研究者と共同で進められた「原油無機説」の信奉者たちである。この原油無機説は1951年にニコライ.クルリャーツェフ博士が理論をまとめ、旧ソ連邦石油地質学会議において発表した。

そのポイントは西側の研究者の問で定着していた「原油有機説」を全面的に否定するものであった。1956年にロシアのウラジミール・ポルヒィエフ博土は「原油は地球のマグマに近い超深度地帯で自然発生的に形成された資源である。これを有機物ととらえる発想は資源有限説を理由に原油の価格を高くしようとする西側石油資本の陰謀としか思えない」とまで述べている。

ロシアの研究者たちはこの原油無機説に基づく研究成果を応用し、既に枯渇したと思われていた原油や天然ガス田の再開発に相次いで成功したのである。特に1990年代、ロシアとウクライナは両地域にまたがるドニエプル・ドネッツ油田において驚異的な油田再開発を成し遂げた。

当時、枯渇したと思われていた61の油田のうち37の油田で再び原油を生産することが可能になったのである。これは今日の西側の油田探査技術と比べても圧倒的に成功率が高い結果と言えるだろう。このようなロシアの油田再開発技術は、近年まで西側に知られることがなかった。

しかし、相次ぐロシアにおける油田の再開発や新規油田の発見のニュースに驚いたアメリカの政府、特に国防総省が中心となって調べた結果、このロシアの油田開発事業の成功の裏にはロシア・ウクライナの研究者たちが進めてきた原油無機説が影響していることに気づいたのである。これを知ったアメリカの国防関係者の問には大きな衝撃が走った。下手をすれば原油争奪戦や資源確保競争においてロシアに大きく水を開けられることになるかもしれない。そんな不安と恐れがアメリカの政策立案者の間に広まった。

それ以降、アメリカはロシア周辺に軍事拠点を相次いで設置し始め、ミサイル網やレーダー網の整備等、攻撃的な軍事戦略に軌道修正するようになったのである。これは明らかに「ロシアが新たな原油大国としての力を背景に、西ヨーロッパや中国、その他ユーロアジア圏に対する影響力を拡大するのではないか」との恐れを高めた結果に他ならない。

アメリカとすれば、いかにしてこの新生ロシアの膨張を防ぐべきか、検討に迫られたわけだ。
その対策として生まれたのがロシア包囲網であったと思われる。
p134
スターリンの秘密計画

実はこのような原油無尽蔵説はロシアの科学者たちが1946年から研究を進めていたものである。当時、旧ソ連の指導者スターリンの下で大規模な原油に関する研究が開始された。なぜなら、スターリンにとって西側の国々と戦争を行う場合に石油が欠かせない資源であるとみなされたからである。近代的な戦争を遂行するためにはエネルギーとして石油資源が欠かせない。

そこで・旧ソ連は国内の研究者を総動員し原油に関するあらゆる側面を研究し尽くしたのである。いかにして原油が生まれ、いかにして原油が蓄積されるのか。そのような原油をいかにすれは最も効率よく開発、抽出できるものか、研究か進められた。アメリカは原爆の開発に取り組み、マンハッタン計画と呼ばれる研究プロジェクトを推進したものであるが、スターリンの進めた原油生成メカニズムの解明というプロジェクトはアメリカのマンハツタン計画を資金面でも研究者の層の厚さという面でも遥かに上回るものであった。
p138~139
一方で、人工的に地下100キロメートルのマグマに近い環境を作り、1500度近い高熱と大気圧の五万倍という圧カをかけることで原油の生成過程を再現する実験も行われた。これはテキサス州ヒューストンにある原油資源研究所のJ・F・ケネア博士が主導した実験である。その結果、原油の自然生成過程が徐々に明らかになった。このような科学者による実証研究が積み重ねられた結果、急速にピークオイル誰は根拠を矢うことになりつつある。

中東やアフリカなどでは地表に近い油田からこれまで大量の原油が抽出されてきたが、なぜ一部の地域だけに太古の恐竜や動植物の死骸が密集していたのか、化石燃料説では説明のつかないことがあまりにも多かった。しかし、地球内部で常に原油や天然ガスが生成されていることが科学的に明らかになってきたため、今後は油田の探査や開発は従来とは全く違った取り組みが可能になるだろう。

原油は「岩石」から人工的に作れる

原油はけっして過去の恐竜や動植物の死骸から生まれたものではなく、地中深くに存在する岩石が高温と高圧により資源化したものであることが解明されるようになったことの意味は大きい。

また、石油の埋蔵量は、大本営発表であり、真実の数値は公表されていないとの指摘がありました。

私もこの石油ピーク説には非常に懐疑的です。なぜ、石油がプランクトンの死骸が何億年も堆積してできたという説は、石炭が植物が炭化し化石化したことに由来していると思うが、石油の生成過程が解明されていないという説も実に怪しい。旧ソビエトで解明された研究プロジェクトこそ、正しいと私は思います。そうでなければ、ブラジルの大西洋沖や、アフリカ西岸沖の海底油田の生成理論が、従来の浅い暖かい海が安定的に続いた説と合致しない可能性が高い。確かに大陸が分裂して間もない間にはそういった時期もあったと思うが、従来説では説明がつかないとのこと。

それならば、日本周辺にも、石油が埋蔵されている可能性は高いではないかと思う。中国が推定する大陸棚で埋蔵されている石油の量は、西側が推定している量と格段に違う。

1970年代初頭に、五島列島周辺に巨大な油田があるのではないかという説が囁かれたことがある。当時石油ショックの痛手から、願望とも妄想とも批判され、いかに石油は出ないかと当時の専門家の解説を読んだ記憶がある。 となると、ひょっとして五島列島周辺地域、中国が魔の手を伸ばしつつある、鳥島周辺海域に油田が発見される可能性も高い。

今後、中国が石油権益目的の覇権主義を強めた場合、尖閣諸島周辺がきな臭くなることは確実である。
今次オバマ政権が、ヒラリークリントン女史を国務長官に任命すると発表したことは、まことに憂慮すべき事態と思います。