追加緩和でも円高・株安招いた白川総裁の「自負」
日経新聞編集委員 小栗太 2012/05/04 6:00

日銀が4月27日に追加金融緩和に踏み切って1週間。市場が期待した円安・株高効果はあっという間に消えうせ、その間に円相場は一時、約2カ月ぶりに1ドル=80円を突破した。2月の追加緩和が大幅な円安・株高の起点になったことは、市場参加者の記憶に新しい。なぜ今回は効かなかったのだろうか。

まず27日の追加緩和発表直後の市場の値動きを改めて振り返ってみる。
市場参加者の間では当初、長期国債の購入額を5兆円増やすとの予想が大勢だった。ところが日銀はその2倍の10兆円を増額し、株式市場を刺激するために上場投資信託(ETF)の購入まで盛り込んだ。

■たった1時間の円安・株高

「日銀サプライズ」に驚いた市場は、一気に円安・株高に傾いた。円相場は80円台から81円台半ばに急落し、日経平均株価の上昇幅も100円を超えた。2月の追加緩和が再現されるような激しい値動きだった。

だが次第に勢いは弱まり、円安・株高にブレーキがかかり始める。そして1時間後。円相場も日経平均株価も追加緩和発表前の水準に逆戻りしていた。
「結局のところ、日銀の白川方明総裁はセントラルバンカー過ぎた」。クレディ・スイス証券の深谷幸司氏は円安・株高が失速した理由をこう表現する。

市場が円安・株高にブレーキをかけたきっかけは、日銀が追加緩和の発表文に、金融緩和を強力に推進する目標に置く消費者物価上昇率1%について「遠からず達する可能性が高い」と明記したことだ。市場は「次回の追加緩和のハードルが上がった」と受け止め、日銀が引き続き円安・株高を後押ししてくれることへの期待は急速に薄らいでしまった。

白川総裁は追加緩和後の記者会見でも、一段の追加緩和に消極的と受け取れる発言を繰り返した。「年末までに銀行券を上回る状況になろうかと思います」。日銀は国債を際限なく買って財政拡大に拍車がかかる事態を避けるため、国債の保有額を銀行券の発行額以内にとどめる「銀行券ルール」を定めている。

今回の追加緩和は基金を設けて国債を購入するため、日銀は「ルールに抵触しない」との立場。だが市場は白川総裁の財政リスクへの言及を追加緩和継続への危機感の表れと受け止めた。「物価と金融の番人」という生粋のセントラルバンカーとしての自負が表に出て、結果的に市場の追加緩和期待は縮んだ。

■株価高騰でも追加緩和期待

これに対し、弁舌の鋭さでならした学者出身の米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長はしたたかだった。日銀の追加緩和の2日前の記者会見で、追加緩和の可能性について「引き続きテーブルに載っている」と強調。5月に入ってダウ工業株30種平均が一時、約4年4カ月ぶりの高値を付けたにもかかわらず、市場はなお追加緩和期待を抱き続けている。日米の中央銀行トップの記者会見を比べ、市場が「円安よりも円高」を意識するのも無理なかった。
もっとも日米の中銀トップの姿勢だけが円安・株高の抑制要因になったわけではない。構造的にも日銀の追加緩和は円安効果を発揮しづらくなっている。

市場が金融政策から円相場を見通す際に最も強く意識するのが2年物国債利回りで比べた日米金利差だ。「3年先の経済予測は一般にかなり精度が落ちる」(白川総裁)ため、金融政策運営を反映しやすい2年債の金利差が為替売買の重要な手がかりになる。実際、市場が金利差を強く意識している証しに、これまで円相場と日米金利差は高い連動性を示してきた。

だが市場には「いくら日銀が追加緩和を続けても、2年債利回りは下がらない」(みずほ証券の上野泰也氏)との見方が広がっている。直近の2年債利回りは0.1%強。日銀は金融機関から預かる超過準備預金に0.1%の利子を付けており、市場金利は0.1%を下回りづらい状況にある。つまり日銀が追加緩和を続けても、2年債利回りの低下余地は皆無で、円安を後押しする効果は限りなく小さくなっているわけだ。

日銀の追加緩和による円安誘導効果はなくなったのだろうか。実は必ずしも「ない」と言い切れない。

■追加緩和効果はタイミング次第

2月と4月の追加緩和を比べると、市場環境に違いがあることが分かる。1つは、世界経済への見方だ。2月はギリシャの債務不安が一服し、市場がリスク投資を増やしやすい状態だった。日銀の追加緩和と相まって市場心理も円安・株高に傾きやすかったわけだ。一方、4月はスペイン国債の格下げで欧州債務不安が再燃の兆しを見せ、市場のリスク回避が強まった矢先。むしろ避難通貨とされる円が買われやすい環境にあった。

それだけではない。短期的な相場動向に大きな影響力を持つヘッジファンドの持ち高にも違いがあった。2月は円の買い持ちを積み上げたタイミングで、大規模な円売りを仕掛けやすかった。逆に4月は円の売り持ちが膨らみ、一段の円売りに動きづらい状況だった。

白川総裁は2月の追加緩和以降の大幅な円安・株高について「日銀の政策姿勢も1つの要因だが、基本的には大きな環境の変化、世界経済の変化が影響している」との認識を示す。つまり追加緩和と外部環境のタイミングさえ合えば、再び大幅な円安・株高が実現する可能性が見えてくるわけだ。

日銀が次に追加緩和に動くのはいつだろうか。その際には売買を判断するうえで外部環境をじっくり見極めることが重要になる。

日本の長期金利(10年最長期国債利回り)が0.8%台に低下し、市場ではさらに低下余地を探る動きも出ている。米、独国債も利回り低下基調を鮮明にしており、マネーの安全資産買いは一段と加速する気配を見せている。

だが、消費税増税に反対する小沢一郎・元民主党代表の党員資格停止処分の解除方針も決まり、同法案に反対する民主党議員が勢い付いている。衆院での同法案採決が先送りされる展開になれば、政治情勢を無視して国債買いを継続することのリスクが増大するだろう。「国債バブル」が膨張したところで、政治的なショックが加わると"想定外"の市場反応が起きかねない。これから先の展開は、市場参加者のリスク感覚も問われることになる。


8日の10年日本国債入札は応札倍率が3.74倍と順調で、長期金利は入札結果の発表後も0.860%付近での推移となり、根強い国債需要を見せつけた。円債市場でのこの動きは、米独での国債買い人気と歩調を合わせているとみることができる。米連邦準備理事会(FRB)と日銀は長期間のゼロ金利政策維持を約束する「時間軸効果」を目いっぱい効かせる政策を展開。欧州中銀(ECB)も3年物資金供給オペ(LTRO)を2度も実施して、大量の資金供給で金融システム不安を封じ込めている。

その結果、世界のマーケットにはかつてない規模のマネーが供給されているが、リスクオン市場になり切れない情勢になっている結果、米独日の国債は安全資産としてマネー流入の受け皿になっている。特に日銀の超金融緩和政策に慣れきっている東京市場では、金利反転のリスクに対する警戒感が、米欧市場に比べ格段に弱い。市場の一部では、長期金利が2010年10月に付けた0.820%の直近での最低水準を割り込むのではないかとの観測も出ているようだ。

<日本国債の弱点、政治的な優柔不断>

だが、国の公的債務残高が国内総生産(GDP)の200%に達しようとしている日本にとって、「政治的な優柔不断」は、多くの市場関係者が想定している以上に日本国債のウイークポイントとなっていると指摘したい。

日本国債が市場で現在の信認を確保し、長期金利1%割れの水準を実現している大きな要因の1つは、40兆円台の税収をかさ上げできる手段としての消費税率引き上げの余地が大きいことだ。ところが、肝心の消費増税法案成立のメドが5月になっても、全く立っていない。

衆院本会議が8日午後に開かれ、消費税増税法案を含む関連法案の趣旨説明が始まり、ようやく審議が開始された。しかし、衆院に設置した社会保障と税の一体改革特別委員会で、実質審議がスタートするのは16日。6月21日の通常国会会期末までは、残すところ1カ月余りで、早くも通常国会の会期延長に関する思惑が与野党の間で浮上。早期成立への機運は高まっていない。

野党多数の参院で議決しない限り、消費税増税法案は成立しない。言い換えれば、自民党や公明党の賛成がなければ、ゴールテープを切ることができない。しかし、自公両党は、参院で問責決議案を可決された田中直紀防衛相と前田武志国交相の辞任を要求し、消費税増税法案の可決に向けたシナリオは描き切れていない。

日本国債(JGB)を空売った外人ヘッジファンドはまたまた、今頃夜逃げである。
何度カラ売りを仕掛けても、JGBが暴落しないのである・・・私は愉快で愉快で笑が止まらないのである。世の中に財務省のプロパガンダに乗り不安を煽る連中がいかに馬鹿げているか・・・
日本国債暴落論は財務省のプロパガンダの最大の被害者はJGBを空売ったヘッジファンドの皆さんのような気がします。
日本国債の外国人の保有はほとんどなく(全体の5%程度)、国債の保有の大半は日本政府の息のかかった国内の金融機関である。もちろん日銀が国債を買うという選択肢もある。百歩譲って日本の金融機関が国債を売ったとしても、売却で得た資金の運用先がない。再び日本国債を買う他はないのである。
だいたいS&PやMoodysなどの格付機関の信頼性はサブプイムローン問題などで地に落ちている。

海外の投資家が日本国債を買えば、当然、それは円高要因となる。一方で財務省は円高阻止のための為替介入をやって借金を増やしておきながら、海外に日本国債をセールスして資金を集めるといった本当にばかげたことをやっている。
海外勢の日本国債の保有が増える度に、財政が悪化し米国債の保有額が増えるという図式になる。
今日、莫大な金余りを背景に金融業界はゼロサムゲームの「どろどろ」の世界になっている。投資家や金融機関は「騙すか騙されるか」の情報戦をやりながら収益を上げる他はない。そのなかでも財務省は札付きの嘘つき野郎ということだろうか?
いずれにしても、ユーロ崩壊リスクが高り、再び世界的にリスク回避の気運が高まり円が買われている。
S&PやMoodysに頼らずとも、世界中のマネーは各通貨のリスクを十分に承知している。これほどまでに日本国の体たらくを目撃しても依然円の信頼に揺るぎがない。現在円がドルに代わって実質的な基軸通貨の役割を果たしているのである。ある意味では喜ぶべきことかもしれない。
 
財務省や日銀はこのことを逆手にとって円建の国債を償還分を何割か米ドル建に置き換えることはできないであろうか?どうせ政府短期証券は当面円に戻ることがないのだから、ドル建の国債で資金を調達すれば簡単に円安となると思うのだが?