藻からジェット機などに使われる燃料を生産する――。こんなバイオ燃料をIHIが作ろうとしている。4月に就任した斎藤保社長が取り組む、ものづくり革新活動を象徴するプロジェクトの1つだ。「IHIの持続的成長には技術開発への継続的な投資が必要」として2012年度の研究開発費を前年度比10%増の330億円にまで積みます戦略も打ち出したIHI。生産・技術部門出身の斎藤社長が目指すのは研究開発を通じて、新たな成長軌道を構築することだ。


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HI は藻からジェット機などの燃料を作る研究開発を進めている(横浜市のIHI横浜工場内) 

 原子力発電設備や化学プラント機器などの工場があるIHI横浜工場(横浜市)。研究開発棟の一室では十数個の水槽が置かれ、白衣の社員が黙々と実験を続ける。培養しているのは油を作り出す特殊な藻で、近く大量培養に向けた試験を本格化する。

 IHIは11年8月、バイオ関連ベンチャー企業であるジーン・アンド・ジーンテクノロジー(G&GT、大阪府吹田市)などと組み、藻類バイオ燃料会社を設立した。IHIが注目したのはG&GTが開発した「榎本藻(えのもとも)」だ。同じ種類の藻に比べ増殖能力が1000倍で、雑菌に強くプールのような場所で太陽光を使い培養できるなど設備も低コストにできる。抽出した油はジェット燃料など様々な用途に使える。

 IHIはこの研究開発にまず2年間で4億円を投じる。まだ生産コストが高く、社内には事業として成立させるには原油に対抗できる価格競争力が必要になるとの慎重論もあった。だが「将来の資源・エネルギーの主流が見えない中で、他社にないものづくりの基盤づくりが必要」(出川定男副社長)と投資を決めた。14年をメドにサンプル販売を始め、20年前後の事業化を計画している。バイオ燃料の低コスト化に成功すれば「原油価格高騰と地球温暖化の両方の解決策になる」(同)

[ScienceNews]「藻」からバイオ燃料 加速する研究開発


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所属部署:産業グループ
                                                   氏名:菊川 篤

藻類バイオ燃料とは

藻類バイオ燃料(Algae biofuel)とは、藻類を原料として生産されたアルコール燃料や合成ガスのことです。化石燃料である石油はいずれ枯渇する可能性が高いことから、バイオ燃料は主に自動車や航空機の輸送用燃料の代替燃料として期待されています。

石油の起源については諸説ありますが、光合成によって植物や藻類から生産される有機物が酸素の少ない海底などの場所に堆積(たいせき)し、長い年月をかけて石油へ変化したと考えられています。藻類を利用してバイオ燃料を生産することは、地球が何億年もかけて作った石油を、科学の力により短時間で効率よく生産する革新的なプロセスであるといえます。

藻類バイオ燃料への期待


2005年~2008年にかけて石油価格が高騰した際、トウモロコシやサトウキビなどの穀物を原料としたバイオ燃料の研究開発・実用化が進みました。しかし、穀物系バイオ燃料の需要が急増した結果、食料価格が高騰したこと、栽培に広大な土地が必要で、農業機械を動かし肥料、農薬、水などを投入するために非常に大きなエネルギーを必要とすることが問題となりました。そのため、穀物系バイオ燃料は代替燃料として適さないという意見も多く、米国などでバイオエタノールの生産に多額の補助金が投入されていることに強い批判が集まっています。2009年の主要国(G8)農相会合では非穀物系の次世代バイオ燃料を開発推進することが共同宣言にて採択されました。

非穀物系バイオ燃料の原料として、有力な候補の一つが藻類です。表に示すように穀物などの陸上植物を原料とする場合、1ヘクタール(ha)当たりの年間オイル生産量(面積収率)はアブラヤシの6.1キロリットルが最大であるのに対し、微細藻類では47.7~143.1キロリットルと数十倍の面積収量とすることができ、効率の良い土地活用が可能となります。また、藻類を使用することで、通常の農業では使用できない耕作地が使用可能であり、穀物との競合を避けることができること、培養する際に排水、塩水などを利用することができるなどの利点もあります。

                   表:原料の種類によるオイルの面積収量比較
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資料:Thomas F.Riesing(2006)「Cultivating Algae for Liquid Fuel Production」より日立総研作成

藻類をバイオ燃料とする研究は、1970年代から米国エネルギー省を中心として進められてきました。同省は、「National Algal Biofuels Technology Roadmap」をまとめ、藻類バイオ燃料に関する基盤技術、将来の展望や技術課題などを公表しています。さらに、藻類バイオ燃料の商業化に向けて最大2,400万ドルの助成金を提供し、3つの研究コンソーシアムを援助するなど、藻類バイオ燃料に対する研究開発や関連民間企業への投資に積極的です。

商業化では米国の後塵を拝していますが、日本でも藻類バイオ燃料に関する研究は盛んになっています。JX日鉱日石エネルギー(旧 新日本石油)、日立プラントテクノロジーとユーグレナの3社による共同研究や筑波大学、豊田中央研究所、デンソー、出光興産などからなる「藻類産業創成コンソーシアム」が発足しており、研究・実用化の検討が進められています。

有機排水を利用したオイル生産を可能とするオーランチオキトリウム


2010年12月に筑波大学で開催された「第一回アジア・オセアニア藻類イノベーションサミット(The 1st Asia-Oceania Algae Innovation Summit)」にて筑波大学 渡邉信教授らの研究グループにより発表されたのが、オイル生産効率の高い藻類「オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)」です。オーランチオキトリウムの特徴はその増殖スピードにあります。これまで検討されてきたボトリオコッカス・ブラウニー(Botryococcus braunii、以下ボトリオコッカスと略す)は増殖スピードが遅く、オイル生産コストは1リットル当たり約800円であり、1リットル当たり約50円の重油と比較して高コストでした。しかし、オーランチオキトリウムは、オイル含有量はボトリオコッカスの3分の1にとどまるものの、ボトリオコッカスの36倍の速さで増殖するため、オイル生産効率は単純計算でボトリオコッカスの12倍となります。

オーランチオキトリウムは光合成を行わない従属栄養生物と呼ばれる藻類で、周囲の有機物を取り込むことでオイルを生産します。そのため、下水などの有機排水に対して活性汚泥としてオーランチオキトリウムを投入することで、オイル生産と同時に水の浄化ができる可能性があります。

下図は筑波大学 渡邉信教授が提唱する排水処理とオイル生産を兼ね備えたシステムで、主な工程は以下の通りです。

家庭や工場から出る有機排水に含まれる固形物を凝集沈殿させる

得られた一次処理水の中にオーランチオキトリウムを投入し、オイルを生産する

オイル抽出後の二次処理水に対し、ボトリオコッカスを用いた光合成によるオイル生産を行う

有機排水中の有機物除去を行う際に、有機物を栄養としてオイル生産を行うオーランチオキトリウムと、光合成によりオイル生産を行うボトリオコッカスを、段階的に使用することでオイル生産効率を高めた点にこのプロセスの特徴があります。また、オイルを抽出した後に残るオーランチオキトリウムやボトリオコッカスは、メタン発酵に利用したり家畜の飼料とすることができます。

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資料:各種公表資料より日立総研作成
図:筑波大学 渡邉教授が提唱する排水処理とオイル生産システム

実用化へ向けた課題


筑波大学 渡邉信教授によるとオーランチオキトリウムによるオイル生産の実用化は、10年後をめどに実現する見込みです。実用化に向けた課題は、図に示した「培養」「収穫」「抽出」「精製」を含め、さまざまな工程にあります。

例えば「培養」ですが、微細藻類はあらゆる場所に存在するため、ほかの種類の藻類が混入し、繁殖しないようコントロールし、オーランチオキトリウムのみを培養することは容易ではありません。また、藻を培養装置内で攪拌(かくはん)する際に多くのエネルギーが消費されるため、最適な培養システム・培養装置を設計しなければなりません。藻を収穫し、オイルを抽出する場合にも、エネルギー消費を抑えたプロセスを構築する必要があります。

藻類バイオ燃料を実用化するためには、今後大規模商業化に向けた研究開発と実証(RD&D)が必要であり、米国エネルギー省が行っているような官民一体となった規格や基準作りなどの支援が求められます。

現時点では、技術的な課題は多く存在しますが、藻類を原料とするオイル生産を排水処理プロセスに適用することができれば、排水処理の省エネルギー化と輸送燃料代替の両面で、日本のエネルギー自給率の改善に貢献し、世界におけるエネルギー資源の偏在に対する解決策の一つとなり得る可能性を秘めています。



【ミドリムシをバイオ燃料に(日経新聞2010.03.08)

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