相撲部屋でちゃんこ体験したり、ビストロスマップのスタジオ見学をして東京で3週間東京の過ごしたマイケル・ブース一家は次に北海道を訪れた。

[3of3]日本食の旅~北海道~2011「日本語吹き替 

8 カニとラーメン――北海道 1

サッポロの新ラーメン横丁でマイケル・ブース氏は、カニとバターコーンみそラーメンの洗礼を受ける。
p102-103
適当に店を選んで入り、カウンターの前に腰かけて待つと、熱々の鉢に入ったバターコーンラーメンが現れた。うず高く重なったスライスしたローストポーク、冷たいバターのキューブ、缶詰のスイートコーン、細く刻んだネギ、のりのシート、半分に切った茹で卵、それが全部、たっぷり入って絡み合う縮れた麺の上に載っている。

センセーショナルだった。それまでに食べたラーメンのなかで最高だった。最初に陶器のスプーンで汁をすくったとき、油が浮いているのが気になったが、それを□に入れたとたん、ラーメン天国にいる気分になった。ポークの味がして、ほどよく脂ぎっていて、塩とニンニクがしっかりと効いて、冷たいバターとコーンが焼けるように熱いスープにさらされた口のなかにショックを与えてくれる。ネギはピリリとした辛みで歓迎してくれ、ラー油はマゾヒズム的余韻を残してくれる。これほど満足なスープはない。

本当は、ラーメン店を少なくとも3つは回るつもりでいた。でも、この最初のラーメンを最後のひと口まですべて食べ尽くしたいという衝動を抑え切れず、ものすごい量を全部食べてしまったせいで、支払をしようと立ち上がったらお腹がチャポチャポとみっともない音を立てて、これ以上何かを食べるなんてもう考えられなかった。


p104-105
この経験のおかげで、その後数週間、僕は奇妙な感覚に襲われ続けた。北海道から南へ向かって移動するにつれて、北海道の力二が恋しくなったのだ。列車のなかで、飛行機のなかで、順にはあのとらえ難い風味がよみがえった。その風味の大部分を占めるのは食感で、生の力二身の半分液体で半分固体の不思議な味わいは、舌の上で余韻を楽しもうにも、早々にかき消されてしまう。 

こういうことからも、日本人の食感に対する意識が異常なほど洗練されていることがはっきりとわかる。日本人は口に入れた食べ物の舌触りを味と同じように重視し、料理の温度についてはさほどではないものの(なにしろ、温かい料理はやけどするほど熱々にするのが、デフォルト設定だから)、食感についてはとてもきめ細かいニュアンスを大切にする。クラゲの奇妙な噛みごたえとか、もち(米粉のお菓子)の柔らかいゴムみたいな感触とか、パン粉のサクサクとした小気味よい感じとか。もっとすごいのは、たとえば、さまざまなお菓子やデザートに詰め物として使われる小豆ペーストや調理したヤマイモのパサついた食感も、日本人は喜ぶということだ。                                                  
食感のバリエーションとコントラストは、今回の日本食べ歩き旅行で得た最大の発見だった。ひとつの料理のなかで、あるいは食事全体のなかで異なる食感を組み合わせることについては、日本人から学ぶべきことがとてもたくさんあるはずだ。それを学べば、食に対する身体の感性は鋭くなるに違いない。

札幌の力二は、味覚倒錯しそうなくらい官能的だった。僕は今でもあの力二万恋しくて、なぜ札幌にいる間に、もう見るのもいやだと思うようになるくらい毎日でもたらふく食べなかったのかと心から思う。気に入った食べ物を見つけたときの僕にしては珍しいことで、僕の食べるキャリアのなかでもずっと後悔していることのひとつだ。昔から僕は、ミルキーウェイから玉ねぎのピクルスに至るあらゆるジャンルの食べ物で、好きなものと出会ったら最後、うんざりするまでとことんそれを食べ続ける。なのにこのときは、飽きるほど食べる価値があるものにせっかく出会えたというのに、一度味見をしただけですませてしまったのだ。今後の教訓にしたいものだ。 

30分後、リスンや子どもだちとと合流した僕は、ラーメンを絶賛した。膨らんだ腹と消化不良で苦しそうにしている僕を尻目に、3人はラーメン横丁へ連れていけと要求した。

イメージ 2
日本人の食感のこだわりを見抜いたマイケル・ブース氏の感性は鋭い。
ところが、食感を大切にする日本蕎麦の記述がない・・・マイケル・ブース氏に極上の日本蕎麦を食べさせてあげたかった。





9 海藻のキング――北海道 2

p114-115
 僕は、太平洋に面する町、南茅部町に着いてからも、2メートル80センチほどもある毛むくじゃらの肉食動物がいはしないかと、展望台から恐る恐る周りを見渡した。南茅部町は、北海道でも最高級の昆布の生産地として有名だ・日本の昆布の15パーセント以上――年間売上額100億円規模――がこの地域で収穫され、天皇にも献上しているらしい。                             
この大きくて緑色をした動物の皮のような姿の海藻が、日本の食事にとってどれほど大切かは計り知れない。日本人は50種類もの海藻を食べるが、昆布はそのなかのキングだ。だし汁に、必ず使われる材料でもある・伝統的な精進料理では、本のなかにひと切れの昆布を数時間浸しておいただけのだし汁を使う場合もある――繊細で禅らしい清涼感加ある海の味わいがして、うまい。         
昆布の使い道はだし汁を取るだけじゃない――汁物、ソース、酢の物、ころもとつゆなど、無数に用途があるところをみると、日本料理においては聞違いなく相当高い地位にある。酢に浸してから乾燥させて薄く削ればとろろ昆布となり、それを、のりの代わりに味噌汁に入れたりもする。水、醤油、みりんに砂糖を加えて煮てから塩をまぶせば、塩昆布のでき上がりで、家庭のおやつとして食べる。サバ鮨を包むのにも使われる。そして、味の素社を懲らしめてやろうと思って訪問したときに知ったのだが、昆布には、言うまでもなく、天然物質のなかでも特にグルタミン酸が豊富に含まれていて、そのことがMSG「グルタミン酸ナトリウム]の開発につながった。

健康と長寿で知られる日本人にとって、昆布がとても重要な食材に違いないと思うのには、ちゃんとした理由がある。日本人が食するもののなかで、昆布は、カリウム、鉄、 ヨウ素、 マグネシウム、カルシウムなどのミネラルを何よりも多く含んでいて、ビタミンBやビタミンCも豊富で、そのうえ、解毒作用もあると考えられている。海藻には、がんの予防効果があるとされるリグナンも含まれている。しかも、あたり前だけど、脂質もカロリーもゼロだ。2ヵ月ほど後に知ることだが、
沖縄県のひとり当たりの昆布消費量は日本一多い。日本一どころか、世界一長寿なのはどこの住民か? 答えは沖縄だ(熊の数がずっと少ないことが、長寿の理由のひとつだと思えてならないけど)。
昆布に言及していることは、本書が外国人の見る和食の本としてレベルが高いことを物語る。