コラム:経済成長なき「豊かな生活」は可能か
【ロイター】2014年 12月 10日 18:07 JST


━━経済成長を抜きにして豊かな暮らしは可能なのか。西側は、特に西欧諸国は、この問いに正面からぶつからざるを得ないだろう。

Hugo Dixon

[8日 ロイター]- 経済成長を抜きにして豊かな暮らしは可能なのか。その質問を投げかけること自体、所得を継続的に伸ばすことが社会の第一目標であるべきという現代の一般通念に挑むものだ。しかし西側は、特に西欧諸国は、この問いに正面からぶつからざるを得ないだろう。

欧州は景気後退の後遺症に苦しんでいるだけでなく、低成長の時代に突入したかもしれないからだ。

国内総生産(GDP)の伸び率は過去に比べて低いまま推移する公算が大きい。低成長の理由の一端は、欧州社会の急速な高齢化によるものだ。力を付けつつある発展途上国との競争激化も背景にあるだろう。環境的制約も原因になっているかもしれない。地球温暖化の防止策はエネルギーコストの上昇につながるからだ。

イタリアを筆頭として、特に高齢化が急速に進んで起業家精神が衰えている国では、GDPの年間成長率は今では実質ゼロ近辺だろう。高齢化のスピードが比較的緩やかで、活気ある起業家精神を維持している英国でさえ、GDP伸び率は2%を下回りそうだ。

低成長経済がいかに暗黒の世界をもたらすかは想像に難くない。高い若年失業率は「失われた世代」を生み出すことになるだろう。持続不可能な政府債務負担は、公共サービスの一段の削減を余儀なくさせるかもしれない。いくつもの社会階層が貧困に陥り、政治離れがますます進む可能性がある。

低成長を前提とした生き方はあるのだろうか。それに答えるにはまず、経済は社会に役立つべきと認識することが出発点となる。その逆ではない。つまり、経済の社会的役割は、人々が良い生活を営める状況を作り出すことにある。

そこで問いになるのは「豊かな生活とは何か」だ。そのヒントは古代ギリシャの哲学者アリストテレスの言葉に求められるかもしれない。アリストテレスは、豊かな生活には人間の本質に照らして自分の役割を果たすことが含まれると説いた。また人間の本質には、動物と人間の2つの側面があるとも考えた。アリストテレスの教えは、豊かな生活を考えるには2つの要素があると言い換えられそうだ。動物の側面である身体的な要素と、人間にしかない側面である精神的な要素だ。

そうであるなら、豊かな生活には、一定の物理的要素が不可欠になる。最も明らかなのは衣食住だが、その他にも、特に健康面で多くの物理的要素が必要だ。現代社会は医療や健康問題にますます注意を払うようになっている。しかし、肥満のまん延といった現象に目を向けるだけで、身体的な要素については必ずしも上手く行っていないと気づくはずだ。

精神的な要素には、価値観や創造力、美意識や知的好奇心、人生を意味あるものにするための努力など、さまざまな人間の意識が包含される。消費の多寡は必ずしもこれらの大小に直結しない。むしろ、リチャード・レイヤード氏などの経済学者による研究では、一定の金額を超えると収入の増加は幸福感につながらないことが示されている。

西側の経済成長はこれまで、そこで暮らす人々の孤独感やうつの増加を伴ってきた。このことは、物質至上主義的な価値観は人間の本質とは相いれないことを示唆している。あくなき成長を追求すれば、他の貴重なものが犠牲になりかねない。そこで損なわれるのは物理的環境だけでなく、我々の社会環境や地域社会、家族や友人の輪なども含まれる。

一部の人は、すでに裕福な西側社会なら、一段の成長がなくても豊かな生活を送る環境は作り出せると思うかもしれない。そういう人は量より質を重視している。また、経済的活力には価値を認めているが、金儲けを成功の基準にしていないのだろう。そして、社会機構を大切にしているのだろう。

しかし、経済成長にあまり依拠しない価値観であっても、失業にどう対処するかや、GDP成長なしで公的債務をどう減らせるかなどの厄介な問題は残る。長年にわたってゼロ成長やマイナス成長を掲げている「緑の党」の政策に答えがあるのかもしれないが、英国のシンクタンク「グリーンハウス」から最近出された大量の論文を見ても、説得力ある解決策は見当たらない。

例えば、グリーンハウスは失業対策の一環として、ワークシェアリングを提唱している。働きす過ぎの人は労働時間を短くし、失業者が仕事を得る余地を作るという考えだ。

ただ実際には、失業対策はそれほど単純な話ではない。まず、長時間働いている人は自分の仕事を減らしたくないだろう。仮に強制的に労働時間を短縮されたとしても(こうした強制はそもそも豊かな生活には明らかに反するが)、失業者のための雇用創出につながるとは限らない。失業者の多くは必要とされるスキルを有していないからだ。ワークシェアリングよりむしろ、職業訓練や教育にこそ重きを置くべきだろう。

膨大な公的債務に対するグリーンハウスの解決策は、各予算が国民に恩恵をもたらすかどうか、国民の同意を得られるのかどうか、監査を実施するというものだ。監査を通らなかった予算は「忌むべきもの」として拒否される。こうした案は、スペインのポデモス党やギリシャの急進左派連合(SYRIZA)など、左翼ポピュリスト政党の間で支持が広がっている。

イラクのサダム・フセインのような独裁者が債務を膨れ上がらせたのならば、その後継者がそれを拒否するのは理にかなっている。しかし、西側の民主主義社会は、この状況にはまったく当てはまらない。一方的な債務の棒引きは経済的な混乱につながり、さらなる失業者を生み出すだろう。とても解決策とは言えない。

経済成長を抜きに豊かな暮らしは可能なのか。1つだけ明らかなことがある。豊かな生活を追及するあまり、経済成長を軽んじるという考え方を変えない限り、その答えを見つけることはできない。

コラム:原油安は続くか、そして2015年の10大予想
【ロイター】2014年 12月 12日 17:02 JST

John Lloyd

[11日 ロイター] - 毎年この時期になると、新年の予想を立てるのがジャーナリストの恒例行事となっている。原油安の動向など、2015年の10大予想を挙げてみた。

(1)原油相場は底入れ:原油価格は過去5カ月間で40%も下げ、経済成長に追い風を吹かせようとしている。しかし原油の開発・掘削コストは下がっておらず、原油価格が1バレル=70ドルを下回る水準では元が取れなくなる。中東産油国は原油供給を増やして北米のシェールオイル生産を採算割れに追いやろうとしている疑いがあるが、彼らとてさらなる市況低迷は望まないだろう。景気がさらに拡大すれば石油需要は再び増え、価格も上がるだろう。今のうちに安値を拾っておくべきだ。

(2)中国共産党は民主化要求に屈せず:香港の民主化要求デモが事実上収束したことは、中国共産党および香港政府トップの梁振英・行政長官にとって勝利を意味する。中国の習近平・国家主席は2013年3月に就任して以来、抗議活動を一切容赦してこなかった。香港のデモが収束し、彼は2015年もその考えを曲げることはないだろう。しかし市民の民主化への欲求はくすぶり続けるはずだ。

(3)中東情勢が緊迫化:今年の中東では主な役者がこぞって態度を硬化させた。エジプトのシシ大統領はイスラム組織「ムスリム同胞団」支持者ら数千人を殺害、あるいは拘束し、東部と西部の国境地帯ではサウジアラビア指導者らの全面協力を得て、イスラム原理主義組織「ハマス」を後ろ盾とする反乱軍と戦っている。シリアのアサド大統領は過激派「イスラム国」打倒を目指す。イスラエルでは、来年3月の総選挙後に発足する次期議会が、民主国家よりもユダヤ国家の側面を強調する物騒な提案を再び取り上げるとみられ、国民の4分の1を占めるアラブ系市民はますます宙に浮きそうだ。イランは核兵器の部品密輸が疑われているため、核協議の見通しは暗い。中東情勢は間もなく深刻化しかねない。

(4)欧州に移民排斥の波:欧州では移民排斥の傾向が一層強まるだろう。英国で2015年に予定される総選挙では、反移民の英国独立党が躍進しそうだ。フランス、イタリア、スウェーデン、オランダの各国でも反移民政党が台頭している。ドイツでも反欧州の「ドイツ代替党」が反外国人色を一層強めている。外国人を敵対視するムードは、ポーランドと英国を除く欧州全域での経済成長の停滞が一因となっており、来年もさほど状況好転は見込めそうにない。

(5)キリスト教に重い十字架:2013年3月のローマ法王フランシスコの選出でキリスト教は勢いづいた。オープンで比較的リベラルな法王の姿勢は世界中のメディアに好意的に取り上げられている。しかし法王の限界もまた、鮮明になってきた。女性司祭、聖職者の妻帯、同性婚、避妊などへの不寛容な姿勢だ。カトリック教会の支持者層が、アフリカと南米で台頭するペンテコステ派や不可知論者へと流れている。英国のカンタベリー大主教は最近、英国国教会が分裂しかねないと警鐘を鳴らした。そしてキリスト教信仰全般が、イスラム教圏、特にパキスタンでの不寛容、攻撃、殺害などに一層苦しむことになるだろう。

(6)富める者はますます豊かに:大富豪はさらに富み、貧しいものは貧しいまま、労働者層あるいは中間層はほんの少し豊かになるかもしれない(米国ではようやくそうした状況が訪れつつある)。2014年のベストセラー、「21世紀の資本主義」を著したトマ・ピケティ氏は「資本主義は容赦のない持続不可能な不平等を自動的に生み出し、その不平等は民主主義社会が基盤とする能力主義的価値観を劇的に損なう」と論じている。つまり今日の富は明日になれば早速さらなる富を生み出すが、勤労がもたらすものは(あなたが幸運であれば)毎年少しずつ家計が楽になる程度のこと。来年もまた、家計は少ししか潤わないということだ。

(7)モディ首相が改革遂行:ことし5月に就任したインドのモディ首相は、同国に力強い経済成長を取り戻し、世界第2位─間もなくトップになるだろう─の人口大国らしく振舞えるようにすることに尽力している。首相はインドの大企業とメディアからほぼ全面的な支持を得ており、彼なら成し遂げられるかもしれない。

(8)ウクライナとロシアの経済悪化:ウクライナ経済は「メルトダウン」状態に近い。外貨準備は急スピードで減り、通貨フリブナは先月、1ドル=13フリブナから16フリブナまで下がり、さらに下落しそうだ。これによって銀行は多額の損失を負っており、財政赤字は国内総生産(GDP)の10%を超えて一段と拡大する見通しだ。ピーターソン国際経済研究所のウクライナ・ロシア専門家、アンダース・アスランド氏は先月、「ウクライナの銀行システムが凍結するのは時間の問題に見える。生産と生活水準が急降下するだろう」と記した。アスランド氏によるとロシアはウクライナよりゆっくりとしたペースではあるが、やはりメルトダウンに向かう。経済制裁がロシアの銀行と企業を打ちのめし、原油価格の下落が国民を苦しめる。するとプーチン大統領は経済立て直しに専念するため、ウクライナから手を引き始めるのだろうか。期待は禁物だ。

(9)民主主義の正念場:ここ数年、民主主義の評判が悪い。その経済システムである資本主義は大衆に富をもたらしていない。中国を筆頭に独裁的指導者が権力を握り、民主主義の中心地たる欧州では、第二次大戦このかた政治を司ってきた中道政党がポピュリズムの波に脅かされている。あらゆる西側諸国において、かつて着実な経済成長が潤滑油の役割を果たしていた統治者と市民との社会契約にほころびが目立ち始めた。民主主義を信奉する政治家は来年こそまなじりを決して立ち向かうべき、いや、立ち向かわねばならない。有権者に対し、また政治家が互いに、世界が今直面する試練の大きさを示し、すべてはかつての状態に戻るだろうと信じるふりをやめ、新たな戦略を採用することに同意を取り付けようと努めねばならない。

(10)新しいメディア:われわれの商売であるジャーナリズムに一筋の光明が差しつつある。私のような新聞屋でもインターネットの時代に入ったことは理解している。ジャーナリズムとは、世界で、国々で、自分の住む町で、何が起こっているかを伝える手段に過ぎない。いまでは週末まで待たなくても、数分後にそうした情報がただで手に入る。地域情報を伝えるウェブサイトもあちこちで立ち上がっている。民主主義を嫌う独裁主義者は独立系のメディアもまた嫌がる。しかしわれわれにはニュースメディアの将来が見えており、それはかつてなく豊かで多様性に富み、政治的な力を備えたものだ。

米国株が急落、原油安・弱い中国指標を嫌気       【ロイター】2014年 12月 13日 08:39 JST

[ニューヨーク 12日 ロイター] - 12日の米国株式市場は急落。下げ止まらない原油相場に加え、弱い中国の経済指標が圧迫した。

S&Pエネルギー株指数.SPNYは2.2%下落。年初来からの下落率は16.5%に達した。

米原油先物はこの日、バレル当たり58ドルの水準を割り込み5年ぶり安値を更新。ダウ構成銘柄のエクソン・モービル(XOM.N: 株価,企業情報, レポート)、シェブロン(CVX.N: 株価, 企業情報, レポート)はともに1年ぶり安値に沈んだ。

中国経済の減速を示唆するさえない指標を嫌気し、S&P素材株指数.SPLRCMは2.9%下げた。

12月の米ミシガン大消費者信頼感指数は約8年ぶりの高水準となったが、原油安や中国経済をめぐる懸念がこれを相殺した。

エネルギー相場のボラティリティが株式市場にも波及するとの懸念から、シカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティ・インデックス(VIX指数)は5%上昇の21.08となった。

ダウ工業株30種.DJIは315.51ドル(1.79%)安の17280.83ドル。

ナスダック総合指数.IXICは54.56ポイント(1.16%)安の4653.60。

S&P総合500種.SPXは33.00ポイント(1.62%)安の2002.33。

週間では、ダウが3.7%、 S&Pが3.5%、ナスダックが2.7%いずれも下落。1週間の下落率としては、ダウが2011年11月以来、S&Pは2012年5月以来の大きさとなった。

日本でアベノミクス反対論が瓦解した理由
2014.12.11(木)  Financial Times

安倍晋三首相率いる自民党は「景気回復、この道しかない。」というスローガンを掲げて選挙運動を行っている。

このスローガンは、安倍氏がそれ相応に楽観的に見える真っ赤なポスターと、(もしかしたら決死の覚悟で)最後の戦いに挑む武将のようなポーズを取る不気味なグレーのポスターに印刷されている。

安倍氏はこのスローガンが好きなあまり、日曜日の総選挙に向けた選挙遊説で着る白いウインドブレーカーに縫い込ませたほどだ。

日本のテンプル大学の客員研究員、マイケル・チュチェック氏が言うように、1つの信念をこれほど執拗に力説する理由は1つしかない。それは事実ではないのだ。

アベノミクスに代わる政策はいくらでもあるはずなのに・・・

経済の新陳代謝を速めるために日銀の紙幣増刷に頼る積極的なリフレ政策であるアベノミクスには、明らかに、代替策がいくつもある。だが、今回の選挙について目を見張ることは、共産党を別にすると、誰も別の道筋を明確に示すことができないことだ。

しかも、安倍氏の支持率が円相場とほぼ同じくらい急激に低下し、世論調査では安倍氏の経済計画を支持すると答える人より反対すると答える人の方が多いにもかかわらず、そうした状況になっている。表面上は、野党がなぜ、アベノミクスの褪せる輝きから政治的資本を獲得できないのか理解するのは難しい。

大雑把に言って、安倍氏がこれほど弱い抵抗にしか遭っていない理由が2つある。まず、野党・民主党は内部崩壊したも同然だ。首相の政策を「アホノミクス」と呼ぶ同志社大学大学院のエコノミスト、浜矩子氏は、民主党は与党の術中にはまったと言う。

浜氏によると、民主党は安倍氏のリフレのギャンブルの前提をすべて否定する代わりに、政策の論理を受け入れ、それを力なく批判しようとしてきた。それは相手の「土俵」で戦う力士に等しいと同氏は言う。

事実上崩壊した二大政党制

民主党の降伏は、日本の二大政党制とされるものが死んだか、少なくとも危篤状態であることを意味している。

半世紀にわたる、ほぼ切れ目のない自民党支配に終止符を打った2009年の総選挙での民主党の勝利は、政治の様相を永遠に変えることになるはずだった。

しかし、政権与党として、民主党は事態をめちゃくちゃにしたように見えたため、日本の有権者が同党を再び信じるようになるまでは恐らく何年もかかるだろう。

「これは戦後政治に関する非常に悲しい出来事だ」。コロンビア大学で政治学を教えるジェラルド・カーティス教授はこう言う。「これだけの歳月を経た後に、二大政党制は発達して深く根を下ろすどころか、基本的に崩壊してしまった」

安倍氏の勢いの2つ目の理由は、アベノミクスに対する国民の熱意の欠如はさておき、アベノミクスを途中で放棄する意欲がそれ以上に小さいことだ。人々は、頭をもたげるインフレが賃金上昇ペースを上回っていることに不満を抱いている。

総選挙での勝利が意味すること

だが、何はともあれ数字に強い日本の有権者が、物価が上昇すれば自分たちが豊かになった気持ちになると考えたはずがない。労働市場の急激な逼迫からすると、来年の春闘の年次交渉の後に賃金が上昇することは妥当だと考えるのに、何も生まれ変わったアベノミクス信者である必要はない。

日本国民は、安倍氏を今追い払うよりは、むしろ同氏の政策が実を結ぶことができるかどうか成り行きを見守ることを望んでいるわけだ。

世論調査を信じるなら、解散総選挙に踏み切ることにした安倍氏の賭けは奏功する。ほんの数週間前には40議席失うリスクがあると見られていたが、連立与党は逆に、議席を若干伸ばす可能性さえある。

たとえ数議席失ったとしても、与党はなお国会で安定多数を維持し、安倍氏はさらに4年間の任期を獲得することになる。

「今回の選挙の結果によって、彼は一段と自信を強めることになるだろう」。首相に近いある人物はこう話す。「今回の選挙は野党・民主党が相手というよりは、むしろ自民党の腰の重い党内分子との争いだった」

つまり、選挙での勝利は、政敵を無力化するだけでなく、党内の不和も取り除くわけだ。そうなれば、安倍氏は、これまでのところ実現できていない構造改革の「第3の矢」を含め、自身の経済政策を自由に追求できるようになる。

安倍氏にとって、何の障害もないクリアな道筋には、1つだけマイナス面がある。もしアベノミクスが失敗したら、責める相手は自分しかいない、ということだ。
 

By David Pilling
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私の選挙区である江田けんじ候補は反財務省で応援したかったが、今回は財務省と対決する安倍晋三にエールを送った。

解散・総選挙を仕掛けた理由は、「安倍総理の周辺も政権の真の敵である財務省とこれに支配されている増税派(財政再建派)議員」に文句を言わせないための選挙である。野党に加担しても、民主党のように財務省に操縦されるだけであろう。

安倍総理は、衆院解散を決めた背景に財務省による消費増税の多数派工作があったことを明らかにしている。少なくとも2年前の衆議院選では自民党は消費税の10%への増税を掲げて闘ったのである。これを御破算にするには解散・総選挙が必要であったのである。

安倍総理の第三の矢が消費税増税で不発に終わっている。そのおかげで巷では
資本主義の終焉を説く輩が横行している。確かに投下した資本が自己増殖していくのが資本主義のメカニズムだが、ゼロ金利下においては、資本を投下しても利潤を生み出さない時代。資本主義の死に突入しています。日本の資本主義は最終局面を迎えていると、水野和夫がうるさい。

【著者に訊け】水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』語る     NEWS ポストセブン】 8月21日(木)11時6分配信

【著者に訊け】水野和夫氏/『資本主義の終焉と歴史の危機』/集英社新書/ 740円+税

「最近はガソリンが高くて困る」「株価は上がっても給料が上がった気がしない」。こうした現実が実は、資本主義の死期が近づいているサインらしい。金融緩和、財政出動、成長戦略を軸としたアベノミクスの“三本の矢”は、〈危機をより深刻にする〉だけだと、日本大学教授・水野和夫氏は言う。

もはや収奪の対象となる〈フロンティア〉=〈地理的・物的空間〉は地上からほぼ消滅し、
〈電子・金融空間〉もバブルの生成と崩壊を繰り返すだけで既に飽和状態。その間、〈「中心」と「周辺」〉の組み替え作業とも言えるグローバリズムは周辺固有の文化すら破壊し、深刻な格差を地球規模で生んだ。

ポストモダンと言いながら近代の延命ばかりに汲々とする昨今、まずは歴史に立ち返り、〈成長の病〉を脱した次なるステージを本書は展望する。
脱近代は脱成長と、イコールなのだから。

「今でも経済学者の9割は成長=善だと信じています。その中で資本主義の終焉を明言する私のような〈変人〉の本が受け入れられて、本人が一番驚いています(笑)」

 本書が10刷14万部と版を重ねる背景には、もう右肩上がりに経済は進まないと薄々予感し、〈「強欲」資本主義〉の後に続く次なるシステムを待望する時代の気分があるのだろう。その気分に水野氏は明確な根拠と歴史的解説を与えてくれる。

 例えば〈交易条件〉という概念である。これは輸出物価指数を輸入物価指数で割った比率なのだが、例えば自動車1台の輸出代金で、購入できる原油が半減すると、交易条件指数は100から50に悪化する。

 日本ではこの交易条件が1973年のオイルショック以降大幅に悪化。しかも現在の原油高は〈新興国の近代化〉に伴う需要の急増が背景にあり、長期化は必至だ。原油価格が高騰すれば、製造業で利益をあげることは難しい。〈交易条件が悪化するということは、モノづくりが割に合わなくなったことを意味します〉と氏は説く。

「経産省もこの程度の数字は把握しているはず。それでも技術力で経済を立て直すのは無理だと誰も言わないのは、やはりショッキングすぎるからでしょうか」

 製造業を中心とする実物経済での市場拡大に限界を見た先進国、特に米国はITと金融自由化を結合させて金融帝国への道を邁進、140兆ドル規模のマネー空間を創出した。21世紀の〈電子・金融空間〉を創出したその米金融テクノロジーを「偽りの空間革命」と呼ぶ。

「こうした資本主義の延命策で、米国などの先進国は自国民を苦しめています。資本は自由に国境を越えますが、労働者が自分の土地を離れることは難しく、実質賃金の減少が恒常化したからです。資本主義は今も昔も〈中心〉が〈周辺〉から奪う営みですから、サブプライム層や非正規雇用者など、国内に新たな〈周辺〉を作り出しただけです」

 こうした現象は実は初めてではない。歴史家ブローデルによれば、中世から近代の過渡期である〈長い一六世紀〉(1450~1640年)にも物価が上昇し、実質賃金が急減した。金利を見ても現代との共通点は多い。イタリア・ジェノバで11年にわたり国債利回りが2%を割るという歴史的事件があった。これも、1997年に10年物国債利回りが2%を割って以来、超低金利が続く日本と重なる現象だ。

「金利に注目するのは、国債の利回りがほぼ利潤率と等しいからです。利潤が得られなければ資本は自己増殖を続けることができません。つまり、資本主義が死にかけているという兆候です。

〈長い一六世紀〉のイタリアでの利子率低下=利潤率低下の際には、地中海世界の外に空間を広げて利潤をあげることで乗り切りました。かのカール・シュミットが大航海時代を評した〈空間革命〉です。しかし、今回は利潤率を回復させる新たな空間が残されていない。ですから、〈長い一六世紀〉という転換期よりもさらに大きな変化を迎える〈歴史の危機〉と言えるのです」

 なぜ低金利が続くのかという純粋な疑問から、利子率がローマ教皇によって公認されたはるか13世紀にまで検証を遡る柔軟な態度は一般的な経済学者とは一線を画す。実は水野氏はここ7年来、富山県利賀村を拠点に活動する演出家・鈴木忠志氏の公演に毎年足を運んでいる。そこで毎回上演される演劇『世界の果てからこんにちは』(初演・1991年)の〈日本はお亡くなりになりました〉といった台詞から刺激を得た結果だと言う。

「私は芸術的素養の全くない人間ですが、鈴木さんの劇を繰り返し観ると、経済だけをやっていたら気づけない視点を与えてもらえる。進歩は善だと思いこむ経済人の常識こそ疑うべきである、というような発想は、ここに通わなければ、得られなかったかもしれません。

 驚くべきは『この世界は病院だ』という鈴木さんの洞察です。『リア王』の舞台は精神病棟だし、『世界……』の舞台は老人病棟。それが何度も見るうちに、舞台に立つ人たちの方がマトモで、病んでいるのは近代に正常な疑問を抱く人を変人扱いする観客側じゃないかと、主客が逆転する感覚がありました。自称変人の鈴木さんは変人としか付き合わないらしく、資本主義の終焉を語るエコノミストは確かに十分変人ですけれど(笑い)」

 問題は終焉の、その後だ。

「少なくともEUではもう成長戦略は採っていないし、EU圏内での通貨とエネルギーの共有を軸に次のステージを模索している。政治形態としては国民国家を超えつつ、南は北アフリカ、東はウクライナが入るかどうかくらいの経済圏で物的・人的資源の自給を図ろうとしている。つまり、従来の覇権的帝国とは違う“閉じた帝国”です。オバマ大統領が世界の警察の役割を降りると発言したアメリカもいずれは閉じた帝国をめざすでしょう。

 となれば、地理的に隣接している日中韓は好き嫌いを超えて連携する他ない。このまま成長戦略と好き嫌い外交を続ければ21世紀も戦争の世紀になる。そうさせないためにも脱成長は必要です。今後三世代くらいをかけてソフト・ランディングできれば、実はこんなに面白い時代もないのです」

「芸術家が歴史の目盛りを刻む」とシュミットが言ったように、彼らの理屈以前の感覚が時代の胎動をいち早く察知する例は歴史的に多い。そうした異分野にも柔軟な目を配るエコノミストもまた、舞台上の変人ならぬ賢明な住人に違いない。

【著者プロフィール】水野和夫(みずの・かずお):1953年愛知県生まれ。早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了後、八千代証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)入社。チーフエコノミスト等を経て、2010年退社。同年内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、2011~2012年内閣官房内閣審議官(国家戦略室担当)。2012年埼玉大学大学院で博士号(経済学)。現在日本大学国際関係学部教授。著書に『100年デフレ』『超マクロ展望 世界経済の真実』(共著)等。168cm、65kg、A型。

(構成/橋本紀子)

※週刊ポスト2014年8月29日号
水野和夫も焼きがまわった。人類はもうここが限界と考え続け、危機を煽る。
日本ではこの交易条件が1973年のオイルショック以降大幅に悪化。しかも現在の原油高は〈新興国の近代化〉に伴う需要の急増が背景にあり、長期化は必至だ。原油価格が高騰すれば、製造業で利益をあげることは難しい。〈交易条件が悪化するということは、モノづくりが割に合わなくなったことを意味します〉と氏は説く。
今年8月の文章だが原油価格が急落したならば、日本は交易条件が大幅に改善したことになるはずだから、日本の製造業が復活するではないか?水野氏はシェールガス革命のことをスルーしており原油高の見通しがまるでトンチンカンであり、原油価格上昇による日本の衰退論には無理がある。
例えばマルサスの人口論だ、マルサスは18世紀末に「人口論」を著し、人口の増加のペースは食料生産のそれを上回り、食料確保のため実質所得は上昇しないと予測した。マルサスの人口論は西欧諸国による植民地獲得競争に火をつけ、植民地獲得競争は帝国主義となり人類に測り知れない災いをもたらしたのである。
マルサスの時代、地球の人口は8億人程度だった。石油のエネルギー資源化と化学肥料、農業機械という食料生産技術の進歩が人口の増加を支える農業革命を可能にし、地球の人口は72億人に達しているのだ。水野和夫が説く資本主義の死は昔から続く単なるペシミズム(pessimism)にすぎない。
金利率ゼロだから収益もゼロになるというのは、ファイナンス理論からすると飛躍がある。 金利率はゼロではないし、ゼロに近くても、収益がゼロに近づく訳ではない。
常識で考えても、企業が利潤ゼロの投資を行う筈はない。仮に投資を行う企業がなくなれば、水野が懸念する過剰生産設備はあっという間に解消する。金利ゼロを利潤ゼロとし、資本主義の終焉に結び付けるのは無理だ。
日本がデフレになったのは、財政政策、金融政策を誤ったことに加え、過去20年間の資源配分が適切な形ではなく、労働者に賃金として渡すべき資源を借金返済や、内部留保に溜め込んでしまったこと、産業構造が製造業からサービス業に遷移し、デフレを引き起こすように変化したことだ。一人当たり付加価値額の高い分野から低い分野への労働人口の移動があったことに加え、サービス業での生産性の向上が実現しなかったことが、付加価値額、即ちGDPの低下を引き起こし、消費、即ち需要不足を引き起こした可能性が高い。
日本がデフレに陥って以降、グローバル化は大きく進んだが、日本は波には乗れなかった。この間、米国、ドイツの製造業の付加価値額は伸びている。製造業が伸びていない英国では、金融と通信部門の付加価値額が飛躍的に増加し、経済も成長した。そんななかで、日本の製造業が付加価値額を伸ばせず、輸出も相対的に減少した理由の一つは、円高デフレ経済下で製造業がキャッシュフローを返済に回し、研究開発費を削減したため、円高で、全て国外へ外注してしまった結果、他国との技術競争に敗れたためではないだろうか?
 もはや収奪の対象となる〈フロンティア〉=〈地理的・物的空間〉は地上からほぼ消滅し、〈電子・金融空間〉もバブルの生成と崩壊を繰り返すだけで既に飽和状態。
と、水野氏は主張するが、世界には自給自足経済を中心とし一日1ドル以下で生活している人が10億人以上いる。2ドル以下となると25億人、3人に1人だ。この人達の生活を向上させる必要がある。世界には辺境がもうなく、経済成長は不要というのは、あまりに身勝手な論理だ。
世界には十分な食料を買えない人が多くいることを考えるべきだ。インドでは、「生まれてから一度も満腹感を味わったことがない人の比率がインドでは約8割」とのアンケート結果があり、フロンティアはいくらでもある。
 私たちは、まだ経済成長を必要とする社会に住んでいる。気候変動、エネルギー・環境問題を考えながら、持続可能な発展を求めるべきだ。市場が格差を拡大しているのであれば、再配分政策を通し是正を図るのが資本主義の政策ではないのか。中国の過剰設備、歴史を理由に資本主義の終焉を主張し、脱経済成長を主張するのが正しいとは思えない。
 日本も欧米諸国に負けない技術開発に力を入れ、再度製造業を中心とした経済成長を図る一方、非製造業の生産性向上を考えるべきだ。蓄電装置、原子力、バイオ燃料、水素自動車など、これからのフロンティアはエネルギー分野、観光などなどまだ無限にある。