山本雅文 プレビデンティア・ストラテジー マーケットストラテジスト

[東京 22日] - ユーロ圏では景気が低迷する中で実勢インフレ率がついにマイナス圏入りし、持続的に物価が下落するデフレ状態に入るリスクが高まっている。欧州中央銀行(ECB)による国債購入を中心とする量的緩和(QE)導入は不可避な状況だ。

市場はECBの量的緩和導入を織り込んだ「QEトレード」、すなわちユーロ売り、欧州国債買い、欧州株買いというポジションを大きく積み上げてきた。オランド仏大統領は導入を明言、ドラギ総裁をはじめとする多くのECB高官もこれまでしきりに量的緩和を示唆する発言を繰り返してきた。このため、今回導入されなければユーロの急反発が景気低迷とデフレ圧力を助長し自らの首を絞めることになる、という状況まで来ている。

とはいえ、デフレがもはや現実のものとなり、量的緩和措置の必要性は疑う余地がなくなっていることから、その導入タイミングについては、今回1月会合でも次回3月会合でも大差はないだろう。特に、今回は国債購入開始が見送られ、社債購入でお茶を濁すとしても、それによりECBのバランスシートが拡大する限りにおいて、購入対象が何であるかは本質的な問題ではなくなってきているし、次の政策オプションとしては国債購入に絞られてくるため、国債購入を通じた量的緩和が実施される可能性はむしろ高まる面もある。このため、短期的にユーロが反発するとしたら格好の戻り売り機会となろう。

重要なのは規模とスピードだ。特に2国間のコントラストが重要となる為替相場への影響を考える場合、英米が量的緩和を終了している今、日銀との比較が重要となる。すなわち、日銀の年間80兆円・月間6.7兆円(ユーロ換算で年間5800億、月間490億)のマネタリーベース(≒バランスシート)拡大よりも大きいのか速いのかが、ECBの積極度およびユーロ安圧力のバロメーターとなる。

今回の量的緩和に関する市場コンセンサスは5000―6000億ユーロで、期間は不明だが1年間であると仮定すれば、これだけで日銀の量的緩和の規模・スピードに匹敵し、まずまずのスタートと言えそうだ。この点で面白いのは、ユーロ円相場が昨年10月末の日銀のサプライズ緩和発表前の水準である137円にほぼ逆戻りしており、日欧の量的緩和合戦は引き分け、という市場の評価となっていることだ。

なお、実はECBはすでに的を絞った資金供給(TLTRO)および資産担保証券(ABS)・カバード債購入を通じたバランスシート拡大策を始めており、これらは現在までで月間合計180億ユーロ規模となっていることから、今回の追加資産購入が年間5000億ユーロであっても月間規模が600億ユーロ程度と、日銀を上回るペースと言える。こうした認識が広まると、ユーロ円はさらに下押し圧力を受けるだろう。

<ECBをめぐる不確実性>

ECBの量的緩和決定は、日銀にも跳ね返ってくる。今回1月21日の会合では特に追加量的緩和が議論にならなかったが、原油安の影響で総合インフレが物価安定から大きく下方かい離している状況はECBも日銀も同じだ。

そして、今回日銀は2015年度のインフレ見通し(生鮮食品を除くコアCPI)を、消費税率引き上げの影響を除くケースで前回10月の前年比プラス1.7%からわずかプラス1.0%へ事前予想以上に大きく引き下げ、2015年度中のプラス2%達成はかなり困難になった。こうした状況を放置していると、ECBの量的緩和開始を受けたユーロ円の下落が日本株安や企業マインドに悪影響を与え、さらに追加緩和の必要性を高めることになるだろう。

日銀が2015年度を中心とするインフレ目標達成時期と、参照するインフレ率について原油など本来金融政策ではコントロールできない物価も含み、生鮮食品しか除かないインフレ率をターゲットとし続けるのであれば、早ければ今年4月、遅くとも7月の決定会合で追加緩和を決める可能性が高まってくるだろう。

ただし、ECBに関しては2つの不確実性がある。1つは、資産購入額が示されても、その達成期間が明示されないことだ。市場予想である5000―6000億ユーロ規模の資産購入が発表されても、それが1年間で達成されるものであれば上述の通り日銀を上回るペースとなるが、2年間なのであればペースは半減する。

これと関連して、実はECBはすでに、バランスシート規模を現在の2兆ユーロ強から3兆ユーロ程度へ約1兆ユーロ拡大させる意向を示しているが、具体的な達成期間が明示されていない。実際、ドラギ総裁はまだ目標ではなく意図に過ぎないと明言している。こうした不明確な部分が明確化されるかどうかも、ECBの量的緩和がユーロ相場に与える効果を見る上で重要だ。

量的緩和イコール国債購入、というイメージがあるが、本来は中銀のバランスシートが拡大するのであれば、為替市場へのインパクトの観点からは上述の通り、その規模とペースが重要で、購入対象資産は何であっても大差なく、二次的な問題と言える。

確かに、為替市場では中長期国債利回り格差との連動性が意識されやすいことから、直接的に国債利回りを押し下げる国債購入の方がインパクトは大きい。社債やABS・カバード債の購入は、これら債券の対国債スプレッドを縮小させる「信用緩和」的効果はあるものの、為替市場にインパクトが大きい国債利回り低下にはつながらない。

また、将来的に購入可能な規模についても、国債を除く債券の市場規模が大きい米国と違い、国債市場の方が他の債券よりも規模が大きく、大規模な購入を行うことが可能という面でも、潜在的なインパクトを大きくしている。

もっとも、ドイツ国債利回りはすでに2年債でマイナス0.1%台、10年債で0.4%台へ低下しており、利回り低下の面からの追加的なユーロ安効果はほとんどない。ECBは今後、資産購入規模やペースを通じたシグナル効果をより重視していく必要がある。

<ECB版QEは5年前後拡大か>

どの国債をどう買うかという方法論についても様々な議論が出ている。最も自然なのはECBへの出資比率に応じて機械的にユーロ圏参加国国債を購入するもので、ECBだけでなく各国中銀も購入に参加する方が、ユーロシステム全体としてのデフレ阻止への一致した決意を示すという点で市場へのアナウンスメント効果が高いとみられる。

ギリシャなど低格付けの国債購入に関しては一定の条件が付く可能性があるが、購入対象から完全に排除してしまうと、当該国の国債市場ひいては財政に不必要なストレスをかけてしまうリスクがあり、ユーロ圏全体にとっても利益にはならないだろう。また、低格付け国債も購入することは、ECBのバランスシート劣化を示し、この面からもユーロ安圧力が強まろう。

その他の資産を購入する可能性はないだろうか。前回の政策理事会後の記者会見でドラギ総裁は、金以外のあらゆる資産購入について検討したと述べている。すでに社債のほか、欧州投資銀行(EIB)が域内のインフラ整備資金調達のために発行する債券を購入する案が出ている。イタリア、スペイン、ギリシャなど高債務国の国債が「赤字国債」的性格が強いのに対して、EIB債は「建設国債」的側面が強い。将来的な成長率押し上げにつながることから、国債購入よりも合意が得やすいかもしれない。

ただし、金融市場にインパクトが大きいのは、日銀のような株式・ETF・REIT購入だ。過去の日米英の量的緩和の効果を評価する上で、最も即効性があり効果が目に見えやすいのは通貨安と株高を通じたチャネルであり、国債購入のように批判的見解が絶えず、今後の量的緩和拡大が必要になる局面でも毎回もめるよりは、株式・ETF・REITであればそうした議論は回避できる。今回は可能性が低いものの、将来的に株式購入が開始される可能性も、ゼロではないだろう。

今年第1四半期に量的緩和を開始するとして、過去の日米英の例を見れば、今後さらに拡大され数年間続く可能性が高い。英国は2009年3月から12年7月の最後の拡大まで約3年半、米国では俗に言う08年11月のQE1から13年末のQE3縮小まで約5年間、日本は遡れば01年3月から、途中06年に一旦途切れたが10年に再開され現在までを合わせれば実に14年間、量的緩和拡大が続いている。

現在のECBの場合、原油価格が急反発する場合にはユーロ圏消費者物価指数(HICP)が比較的早く反発する可能性も考えられるが、そうでない場合、5年前後拡大が続く可能性を想定しておいた方がいいだろう。

多少の振れはあろうが、ユーロドルは今年末にかけて1.10ドル、その後も長期にわたり下落基調が続くとすると、パリティ(1ユーロ=1ドル)も視野に入ってこよう。
やっとECBがやっと量的金融緩和を実施した。先日フランスのオランド大統領がついうっかり、量的緩和を実施することを意図的かうっかりなのか?怪しいが金融緩和を漏らしており、それが確認できてほっとした。
昨年1月も相場が荒れ、節分底となったのだが、ECB量的緩和実施で1/15が目先の底となる可能性が大である。しかしながら、日経平均の窓は閉っていないので、依然16500円まで急落する可能性もなくはない。
このジェットコースターのように急騰急落相場は日米の量的緩和で生じたホットマネーが動き回っていることだ。
とりあえず欧米市場の株価は暴騰している。

木野内栄治 大和証券 チーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジスト

[東京 21日] - 日本企業が生産活動を国内に回帰させる動きが出てきた。報道によれば、パナソニック、シャープ、ダイキン工業、キヤノン、TDK、小林製薬、ホンダといった大手メーカーが、中国などで生産し日本に輸入している製品を国内生産に切り替える検討に入ったという。

また、トヨタ自動車、日産自動車、富士重工業も、米国で販売する車の一部を、日本の余裕のある設備で追加的に生産する可能性があると報じられている。

筆者は、こうした国内回帰の動きは他の企業にも拡大していくと見ている。

この先、2015年度は原発再稼動による電力料金の低下も予想され、法人減税の継続も期待できる。環太平洋連携協定(TPP)の大筋合意や、労働規制改革が進む可能性もある。地方創生プログラムで操業を優遇する自治体も出てこよう。つまり、安倍晋三首相の言うところの「世界で一番ビジネスがしやすい環境となる」期待が日本にはたくさんある。

一方、中国に目を向けると、人件費の高騰が続いており将来的に不安だ。外資に対する優遇策も減少し、高成長に対する期待も剥落してきた。米国を見ても、自動車工場はフル操業が続いており、同国で増産となると大規模な投資が必要だ。また、世界的に日本製に対する安心感やブランド力も根強い。

このように見ると、2015年度あたりの事業計画では国内回帰の動きが広がろう。

<国内回帰によるJカーブ効果が顕現化>

国内回帰が拡大すれば、貿易収支が改善し円安一服につながると考える。

前回、国内回帰がブームとなったのは2007年だ。例えば、キヤノンが大分で新工場を建設し、東芝がフラッシュメモリーの新工場を建設し、エルピーダメモリは能力増強に3000億円を投じた。

また、何年ぶりとの新工場建設の話題が相次いだ。ホンダが埼玉で約30年ぶり、東京製鉄は鉄鋼業界で14年ぶり、ブリヂストンが30年ぶり、川崎重工業は産業ロボットで40年ぶりと、国内回帰が話題になった。

上記2007年は05年初めからの円安3年目だった。どうやら円安が3年弱続くと、貿易収支が改善する「国内回帰によるJカーブ効果」という新たな経済法則を指摘できる。

経済産業省の海外現地法人調査を見ると、これまでも円安3年目には海外設備投資比率が減少に転じるパターンが続いている。四半期で見ると、2007年4―6月期には海外子会社設備投資額の前年同期比が一時的にマイナスに転じ、08年7―9月期には米国の金融混乱も相まって、明確にマイナスに転じた。それに遅れて日本の貿易黒字は07年10月や10年10月に向けて増加した(12カ月平均ベース)。

足もと、海外現地法人の設備投資額は昨年4―6月期の段階ですでに前年割れとなった。今後の日本の貿易収支は黒字方向に圧力がかかることになるだろう。なお、国内回帰とは別に、最近の鉱物性燃料の価格下落による貿易収支改善効果は甚大で、原発の再稼動も同収支の改善が継続する要因だ。

従来は1年半程度円安が続くと円安が一服するのがパターンだったが、1990年代半ば以降は円安局面が3年弱で一服することがパターンとなっている。かつてはJカーブ効果が貿易収支に1年半で効いてきたが、現代は「国内回帰によるJカーブ効果」が3年目に貿易収支に効いてきて円安一服につながっているのだろう。

<円安一服でも収益改善の根拠>

筆者は円安一服にもかかわらず、日本企業の収益が一段と向上すると期待している。

なぜなら、国内回帰によって、これまで取り逃していた大幅な円安メリットを享受することが可能になるからだ。家電業界は国内で売る製品の多くを海外で作っており、円安の進行で採算が悪化していた。

例えば、パナソニックにとって、対ドルで1円の円安は家電部門での営業利益が18億円減る要因だった。想定為替レート105円/ドルの同社にとって、現在の円安は無視できない減益要因だったので、国内回帰の方針を固めたのだろう。今年、円安が一服しても、これまでの大幅な円安(コスト高)によって取り逃がしていた利益を、今後は取り返すことができよう。

自動車各社では米国での生産がひっ迫しており、国内の稼働率引き上げで対応することになる。新たな設備投資などが最小で済むために限界的な高い利益率を享受することになる。

また、新たに積極投資を行う企業も出てきている。三井造船は船舶やエンジン、港湾クレーンなどを生産する国内主要生産拠点に約170億円を投じて設備を増強することを決めた。ソニーは世界首位の画像センサーの国内2工場に2015年度までに約350億円を投資し、生産能力を1割増強する。東芝は四日市工場に3年間で7000億円を投じる。こうした国内増強も企業の利益に跳ね返ってこよう。

さらに、国内回帰による雇用増加効果も見込める。2015年4月もベースアップ(ベア)が期待できる。一方で、前年比で見ると、昨年の消費増税時の下駄が外れるので、実質賃金は上昇しよう。結果、消費増税でデメリットを被った内需企業の復調も期待できることになる。

いろいろなかたちで日本の企業業績は一段と改善する可能性があるだろう。

<過去にも円安一服局面で海外勢の日本株買い>

以上のように、企業業績の一段の改善と円安が一服する投資環境を前提とすると、筆者は日本株が内外で大変注目されると思う。

外国人投資家にとっては、こうした投資環境は魅力的だ。実は、昨年の夏以降、ドル建て東証株価指数(TOPIX)は下落が続いている。しかし、円安が一服すればドル建て株価は上昇しやすく、企業収益の伸び以上のパフォーマンスが期待できる。外国年金など、為替リスクも取る外国人の投資意欲をおおいに刺激するだろう。

実際、かつて1.5年や3年弱円安が続いた後の円安一服局面では外国人投資家が日本株を大量に買った。例えば、1980年、83年、91年、99年などだ。こうした場面では、電機株や精密株の対TOPIXの相対株価(レシオケータ)は、円安が終了してもなお1年程度は上昇する傾向が見られた。

同じ状況でも近年の2002年や08年は世界同時多発攻撃やリーマンショックで株高が起こらなかったので、現在、投資家はかつてのパターンに気がついていない。

日本人にとっては、円安が一服する投資環境では外貨建て投資がやや減退すると考えられる。一方、日本企業業績の一段の改善となれば、日本株だけが投資対象となり得る。事業会社が国内回帰を探る中で、投資資金も国内回帰を検討すべきなのは当然だ。日本株が世界の中でも日本の中でも注目される時期が近づいていると筆者は考えている。

*木野内栄治氏は、大和証券投資戦略部のチーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジスト。1988年に大和証券に入社。大和総研などを経て現職。各種アナリストランキングにおいて、2004年から11年連続となる直近まで、市場分析部門などで第1位を獲得。平成24年度高橋亀吉記念賞優秀賞受賞。現在、景気循環学会の理事も務める。





執筆中