まだまだ、口先だけのブラフにすぎないが、チキンレースは容易に降りられない状況になりつつある。それでも中国も米国も金は無く、とても双方とも紛争を起こすまではしないだろう。だが、事態は悪化する一方だ。
中国、対尖閣で拠点基地建設へ 大型船の停泊可能 距離近い温州市に海警局が計画 【産経ニュース】2015.6.13 12:51
東シナ海などでの監視活動を担い、沖縄県・尖閣諸島の周辺海域への公船派遣を繰り返している中国海警局が、浙江省温州市に大型船が停泊可能な大規模基地を建設する計画を進めていることが13日までに分かった。
尖閣諸島に地理的に近い温州市での拠点建設により、尖閣での監視活動を支援する態勢を強化し、領有権主張を強める構えだ。
浙江省のウェブサイトで今月上旬、温州市が海警局と行った会議の内容が掲載され、その中で海警局が大型基地を建設する計画を明らかにした。
計画中の「温州指揮総合保障基地」は敷地面積が約50万平方メートルで、岸壁の長さは約1.2キロに及ぶ。排水量1万トン級までの大型船を含む計6隻が停泊できる施設や、飛行機やヘリの格納庫、大型の訓練施設などが含まれる。総工費は約33億4千万元(約664億円)で、全額を中央政府が負担する。同サイトは、中国は2012年9月に尖閣諸島周辺での公船航行を常態化させたと指摘。基地建設の目的を「釣魚島(尖閣諸島の中国名)の海上権益を守るために常態化している巡航に有利だ」と明記した。尖閣までの距離は約356キロで、温州は中国大陸で尖閣に最も近い都市とし、地理的な利点があると説明した。ただ、基地建設に関する記載はその後、削除された。(共同)

南シナ海で優位に立つ中国 米国vs中国、これは新たな冷戦なのか?
【Financial Times/JBpress】2015.6.12(金)
南シナ海で奇妙なことが起きている。中国は過去18カ月間で、2000エーカー(約8平方キロメートル)の土地を埋め立て、水面下の砂礁や岩礁を完全な「島」に変えた。中国による埋め立ての取り組みは、他国、特に近隣のスプラトリー(南沙)諸島に対する領有権を主張するフィリピンとベトナムによる埋め立てを圧倒する規模だ。
中国は埠頭や港、数階建てのビルも建設している(もっとも、国際サッカー連盟=FIFA=のサッカー競技場はまだない)。
スプラトリー諸島のファイアリクロス礁では、中国政府が自由に使える、あらゆる軍用機に対応可能な全長3キロの滑走路を建設した。
活発な活動を受け、警鐘が鳴り響いている。今月、フィリピンのベニグノ・「ノイノイ」・アキノ大統領は東京で行った講演で、中国の活動をナチスドイツのチェコスロバキア併合になぞらえた。米国のアシュトン・カーター国防長官は中国の行動を、国際的な規範からの「逸脱」と呼んだ。
カーター長官は、米国は国際法が許す限りどこでも「飛行、航行し、作戦行動を実施する」と述べ、「水面下の岩礁を飛行場に変える」行為は、当該国にどんな主権を与えるものでもなければ、他国の航行、上空飛行の権利を制限するものでもないと明言。中国と、領有権を主張する他の国々は、即刻すべての埋め立てをやめるべきだと述べた。
米国の警告は口先だけ?
ここで1つの疑問が生じる。米国はこれについて何をするのか、という疑問である。短い答えは「特に何もしない」というものかもしれない。
米国は新たな島の近くに軍用機を飛ばし続けている。米国とその他諸国は共同戦線を張っていることを示そうとして軍事協力を強化している。だが、中国の埋め立てプログラムは依然、急ピッチで進行している。カーター長官の言葉は、シリアにおけるバラク・オバマ大統領の「レッドライン(越えてはならない一戦)」のように聞こえる。
中国政府が米国政府にやれるものならやってみろと挑み続けたら、真実が明らかになるだろう。つまり、米国は声高に話すが、小さな力しか行使しない、ということだ。
米国政府が行動するのがこれほど難しいのは、なぜか。1つには、中国の行動は協調の精神には則っていないかもしれないが、明白な違法行為でもないということがある。フィリピンとベトナムも土地を埋め立てた。中国は単に工業規模で同じことをしただけだ。
また、スプラトリー諸島に対する中国の領有権主張も完全に間違っているわけではないと法律の専門家は言う。
確かに、これらの島は中国よりも、(ブルネイとともに)やはり領有権を主張しているフィリピン、ベトナム、マレーシアの3カ国に近い。
しかし、アルゼンチンがフォークランド(マルビナス)諸島を巡る英国との紛争に関して証言できるように、距離の近さは必ずしも決定的な要因ではない。
最後に、中国はあからさまに航行の自由を脅かしているわけではない。領有権を主張する海域内での軍事活動は制限しようとしている。これは国際法に違反しているかもしれないが、国連海洋法条約は軍事活動――偵察など――は関係沿岸国の権利に「然るべき配慮」をしたうえで行われるべきだと定めている。
中国が明らかにこれを試みているのは、軍事活動の制限を人工島に広げる取り組みにおいてだ。米国が最近、新たな人工島の近くに哨戒機「P-8ポセイドン」を飛ばした時、中国海軍は同機に立ち去るよう警告した。
はったりのゲームなら、中国の方が戦う意欲が強い
ここでも結局、米国はこれについて何をする用意があるのかという問題に行き着く。
米国は、中国の人工島の12カイリ(約22キロ)以内に軍艦を派遣することを検討していると話している。この脅しを口にした以上、米国は多分に実行に移さざるを得ないと感じるだろう。
しかし、中国は対応する力を持たないわけではない。中国も軍艦を送り込むことができる。また、本当に大きな賭けに出たいと思えば、南シナ海の全域あるいは一部の上空に防空識別圏の設定を宣言し、理論上、圏内に入る航空機に中国当局に存在を報告することを義務づけることもできる。
もし中国と米国がはったりのゲームを繰り広げているのだとすれば、疑われるのは、中国の方が戦う意欲があるのではないかということだ。
一つひとつは血を流す価値がない一見小さな問題について喧嘩を売るのが中国の戦術だ。
それでも、これらを総合すると、ほとんど察知されずに、地域における米国の「優位性」に挑む中国の野望を前進させるのだ。
オーストラリア人の学者、ヒュー・ホワイト氏は、中国は「非常に長いソーセージの非常に薄いスライス」を切っていると言う。中国の習近平国家主席はすでに、ソーセージがどんな姿をしているのかを我々に教えてくれた。
アジアにおける米国の優位性に挑戦
習主席は、アジアにおいて中国により大きな敬意――および力――を与える新しいタイプの「大国関係」を求めている。これは世界的な米国の優位性を脅かさないが、中国が少なくとも対等な国として扱われることを望んでいるアジアでは米国の優位性に挑むものだ。
南シナ海での中国の行動は、この戦略の重要な部分だ。ニューサウスウェールズ大学の安全保障の専門家、カール・セイヤー氏はこう書いている。「中国は『現実世界における事実』を変え、地域に既成事実を突き付けた」
既成事実の問題は、米国政府が気づきつつあるように、それについて何もできないということだ。
米軍は明らかに、ヨーロッパで居眠りをしている老紳士に気が付かないように、着々と準備を整えはじめている。
対中国新冷戦シフトに向かっている。2008年北京オリンピック頃からの米軍は新しい軍事戦略エアーシー・バトルを構想し始めていた。
FT紙は国会前で「戦争反対」と叫べば平和が守られると信じ込む単細胞の愚民達と同じレベルだ。
実際に米中が戦闘状態になる確率は低いが、中国を包囲し抑え込むだけの軍事的優位を築いて、中国の軍事支出を増大させ中国経済を疲弊させるのが米国の戦略だ。
エアーシーバトル の本質について理解する、優れた記事があったので、長文ながら紹介したい。
アメリカ海軍と空軍の新海洋戦略
エアシー・バトルを解読する
これがアメリカの対中国軍事作戦だ
軍事評論家 野木恵一氏 執筆記事より
(略) 一九八〇年代末に東西の冷戦が終わり、アメリカ軍はこんにちまで冷戦後の姿を模索してきた。一九九〇年代には「戦争以外の軍事作戦」(MOOTW)の概念が提示され、地域紛争解決のための緊急介入が重視された。二OO一年の同時多発テロをきっかけに「テロとの戦い」が始まったが、二〇〇八年にはイラク・アフガニスタンからの撤退の方針を掲げてB・オバマが大統領に当選した。面あるいは人数で抑え込む要素の強い対テロ戦争が終われば、いまほどの地上兵力は必要ないとの論理だろう。結論からすると、米軍のエアシー・バトルは中国に対する強烈なブラフであって、本気で戦争するわけではないが、こう戦うぞという決意表明である。
アメリカの国家的関心の中心は、いま中東地域から東アジア・西太平洋地域へと移行しつつあるようだ。アメリカ軍の仮想敵は冷戦時代のようなロシア(ソ連)でもなく、一九九〇年代のイラクでもなく、二〇〇〇年代のようなタリバーンや国際テロリスト勢力でもない。いまやアメリカにとっての最大の軍事的ライバルは中国となったのだ。
アメリカの国防上の関心がヨーロッパでもなく中東でもなく東アジアに向いたのは、ヴェトナム戦争以来実に四十年振りのことかも知れない。
空海のバトル
この新国防方針の核となり、東アジアにおける今後のアメリカ軍の装備や編成を規定することになるのが、「エアシー・バトル」AirSea Battle)と呼ばれる新しい作戦概念だ。
名前では「空」が先に立っているが、エアシー・バトルは基本的には海洋が舞台の作戦で、主体となるのはあくまでも海軍であり、空軍が協力することになる。海軍にはこの場合海兵隊も含むかもしれないが、陸軍は基本的に埓外にある。古典的な言い方をすれば、制海権を巡る戦いと理解しても大間違いではないだろう。
第二次大戦の太平洋戦域がまさにそのような意昧でのエアシー・パドルであったわけだ。
ハワイ諸島やアリューシャン列島、オーストラリア大陸まで舞台とした太平洋戦争は、今回のエアシー・バトルよりも地理的にはむしろ広かっと。もっとも現代のエアシー・バトルの舞台は地球の表面だけではなく、宇宙空間にまで及んでいるのだが。
エアシー・バトルはアメリカ海軍と空軍の作戦概念だが、日本にとっても到底他人事ではない。中国が対象ならば舞台は西太平洋で、日本も主要登場人物の一人となる。またイランが対象であっても、中東地域から大量の石油を輸入している日本が、のんびり観客席にいられるものではない。どちらの場合も、どのような形になるにしろ、日本は主体的に参加しなければならない (もちろん戦いの先頭に立てと言っているのではない)
エアシー・パドルという概念は非常に若い。この用語が提唱されてからまだほんの四、五年で、まだ熟した概念とは言い難い。論者によって用法が異なっていたりするし、だいいち表記すら安定していない。空海をくっつけて”AirSea”と一単語 のように(ただしSは大文字で) 書く例もあれば、Air-Seaと複合語として表記する例もある。ただ日本も含めだんだんと前者の表記が定着して来ているようだ。
エアシー・パドルと聞けば、一 九八〇年代のアメリカ陸軍の教義(ドクトリン)「エアランド・バトル」を連想する人も多いのではな いか。実際エアシー・パドルの命名者が誰かは知らないが、エアランド・バトルを意識しているのは 間違いない。
エアランドーバトルの場合にも、(AirLand Battle)のように「空陸」をくっつけて書くのが慣用となっていた。というよりこっちがエアシー・パドルの表記のモデルだろう。
なおエアシー・パドルを「空海戦闘」と直訳することもできるが、日本でもすでに片仮名書きで定着しているようなので、ここでも片仮名表記を用いることにする。それに空海戦闘だと「オン・アビラウンケン・バザラダドバン」、護摩を焚いて金剛杵でも振りかぎして戦うようだ。
二つの列島線
中国海軍の外洋進出に関しては、本誌でもなんども取り上げられ、筆者も関連記事を執筆したことがある。いまさら詳しい解説は不要だろう。
二〇〇七年五月に訪中したアメリカ太平洋コマンド (USPACOM) のティモシー・J・キー・ティング司令官(当時)が中国海軍の高官から、太平洋を東西に二分して未申で分割支配しようとの提案を聞かされたとのとんでもない話まである。キーティング提督の二〇〇八年三月の議会公聴会での公式発言だが、あまりな内容にキーティング提督も「面白半分の冗談だろう」と断っている。しかし冗談の中に本音が混じっている(意図して混ぜている)ように思えないでもない。
中国海軍の野心に関して、必ず押さえておかねばならないのは西太平洋の列島を連ねた二つの線だ。
第一の列島線は千島から日本列島、南西諸島、台湾、フィリピン、ボルネオ島に至るラインで、日本海や黄海、東シナ海、南シナ海がまるまる含まれる。中国が領有を主張する台湾島や、西沙群島、南沙群島もこの第一列島線に囲い込まれる。
第二の列島線は伊豆諸島から小笠原諸島、グアム、サイパン、パプアニューギニアまでの太平洋に引かれたラインで、日本の南方海域やフィリピン海が含まれる。英語だとそれぞれ"First lsland Chain Second lsland Chain"となる。
海洋地形学的な話をすれば、この第一列島線までがユーラシア大陸の外縁で、第一列島線のすぐ外側の琉球海溝やフィリピン海溝から先は海が一段深くなる。第二列島線の外側には日本海溝や伊豆小笠原海溝、マリアナ海溝がある。第一列島線の内側と外側とでは海軍作戦、特に対潜作戦(ASW)のあり方ががらりと違ってくる。
中国海軍はこの二つの列島線を、いわば天然のバリケイドと考えているようだ。アメリカのエアーシー・パワーに対して、第一列島線の内側からアメリカ海軍を完全に閉め出し、第二列島線の内側でもその行動を大幅に制約するのが、中国海軍の意図と推測されている。
中国の立場になって考えれば、アメリカ海軍を自国の沿海域に何としても近付けたくないとの気持ちも分かる。中国の商工業と人目の多く、すなわち富の大部分か沿岸の諸省に集中しており、アメリカの海からの攻撃圏内にある。
一九六〇年代半ばヴェトナム戦争の初期に中国は地理的な脆弱性をいま以上に気にして、本気で重工業の奥地への移転を計画したことがある。いわゆる「三線建設」がそれで、三つの線とは中国の地理において沿岸、平原、山地を言い、三線(第三線)が四川省や甘粛省、陵西省などの西部地域の省になる。
三線建設は一九六四年八月のトンキン湾事件と、それをきっかけとする北爆に大きな衝撃を受けた毛沢東ら中国指導部が発動した政策で、毛は工場だけでなく研究機関や学校も引っ越せ、内陸への鉄道を大至急敷け、レールが足りなければ余所のを引き剥がして使えと煽ったが、もちろんそんなことが行われたら中国全体が文字通り上を下への大騒ぎになったろう。
幸いかどうかはともかく、毛自身が発動した文化人革命がそれを上回る政治的経済的大混乱を巻き起こして、三線建設の構想も実施される前にうやむやになった。
現在の中国の沿岸数省への人目と富の集中は文革以前の比ではなく、中国は地形的に言わばでっぷり太った下腹を敵に突き出しているわけだ。しかし毛沢束の権力が絶頂であった時期にも無理だった疎開が、いまの中国政府に実施できるわけがない。そこでぶよぶよ肥大した腹に分厚い二重の鎧を被せようとするのが列島線戦略というわけだ。
まだ醸成中の概念
ハイフン入りの「エア=シー・バトル」の語は、オバマ政権になってからの最初の「四年毎の国防見直し」(QDR2010)ですでに登場している(参考文献2)。
QDR2010「戦力のバランスを再検討する」の章では、「空軍と海軍は共同で新しい統合エア=シー・バトル概念(a new joint air-sea battle concept)を開発する。この概念は、高度の対アクセス及びエリア拒否(anti-access and area denial)
の能力を持つ者を含む対抗者を、広範な軍事作戦によって打ち負かすためのものである。この概念は、アメリカの行動の自由への拡大する挑戦に対抗して、すべての作戦領域すなわち空、海、陸、宇宙、サイバースペースでの能力を統合する方法を要請する。この概念が熟成されれば、有効なパワープロジェクション作戦に必要な将来の能力を開発するのに役立つであろう」と書かれている(参考文献2、三二ぺージ)。
この個所では新概念の対象がどこになるのか述べられてはいないが、その前のぺ-ジでは北朝鮮、イラン、中国が名指しされている。
新しいエア=シー戦略がとりわけ中国とイランを強く意識したものであるのは隠す必要も無いようだ。
QDR2010を受けて国防総省は二〇一一年八月一二日、海軍海兵隊空軍合同の「エア=シー・バトル室」 (air-sea battle office)、ASBOを新たに設置している。
今年一月一七日には統合参謀本部がオバマ大統領の国防方針発表を受けるように、「統合作戦アクセス概念」(Joint Operationa1 Access Concept)ヴァージョン1.0を発表した。
エアシー・バトルの概念を広めるのに大きく貢献したのが、二〇一〇年の前半に相次いで発表された民間シンクタンク「戦略予算評価センター」(Center for Stralegic and BudgetaryAssessments)の二つの論文(参考文献3、4)だ。
二本の論文の著者はそれぞれアンドルー・F・クレパインヴィッチ、シャン・M・ヅアン=トールとなっているが、実際には共著者あるいは助言者としてお互いの名を挙げており、CSBAの研究者数人の討議の中から生まれてきた論文であることをうかがわせる。
ちなみにクレパインヴィッチは退役陸軍中佐、ヴァン=トールは退役海軍大佐と軍歴こそ異なるが、どちらも国防総おの総合評価室(ONA)に籍を置いたことがあり、「軍事における革命」(RMA)の提唱者アンドルー・W・マーシャル直系といえそうだ。
クレパインヴィッチはCSBAの事実上の創設者だが、すでに二〇〇三年の論文(参考文献5)でA2/ADの脅威を強く指摘している。
エアシー・バトル概念が国防総省においてようやく醸成が始まった段階である以上、現時点でエアシー・パドルを論じるのはある程度推測混じりにならざるを得ない。いまのところクレパインヴィッチとヴァン=トールの論文がエアシー・バトルに関するもっともまとまった論述であるようだが、おかげで二つの論文に軍事評論界の論調が支配される落とし穴がないではない。
暗殺者の剣
中国は二つの列島線で仕切られた海域地域からアメリカ海空軍の勢力を締め出し(対アクセス)、あるいは活動を著しく制約する(エリア拒否)能力を備えようとしている。
対アクセス(A2)は「戦域や戦場に敵を到達、役人させない行動又はその様態」、エリア阻止(AD)は「緊要な区域における敵の占有や自由な活動を阻止する行動又はその様態」と定義される。最近は両者を合わせて「A2/AD」と略すことが多い。
ただし前述CSBAの論文では、A2は戦域内の固定(陸上)基地を利用させない能力、またADは戦域内での行動の自由を阻害する能力、といった意味で使っているようにも見える。
これを日本の状況に即して解釈すれば、A2は沖縄や佐世保、横須賀の基地をアメリカ海軍が使用できないようにする能力、またADはアメリカ海軍が日本の近海で自由に活動できないようにする能力、ということになりそうだ。
J・ヴァン=トールも指摘しているように(参考文献言、アメリカ軍はこれまでの大戦争で拠点を敵に本格的に脅かされたことが無かった。アメリカ軍にとって後方基地は事実上の「聖域」(サンクチュアリ)で、そこで休養を取り整備を行い態勢を整え、そこから最前線の作戦基地に移動することができた。
第二次大戦のヨーロッパ戦域のイギリス、太平洋戦域のハワイ、朝鮮戦争やヴェトナム戦争における日本などがその後方基地に当たる。しかし中国との戦争においては日本は戦場のまっただ中、第二列島線はグアムの上を通っている。ハワイでさえももう聖域とは呼べないだろう。
それどころか中国が衛星迎撃実験にも成功した以上、宇宙空間すら聖域とはならないかもしれない。たび重なる中国からのコンピューター・ネットワーク攻撃からすると、サイバー・スペースもまた聖域ではない。
もっとも中国海軍自身はA2/ADに相当するような直接的な表現をしたことはないようだ。あくまでも西側の分析の結果の、中国の意図の推測(憶測)であることは注意して置かねばならない。
クレパインヅイッチは論文(参考文献3)
の中で、A2/ADに相当する人民解放軍(PLA)shashoujianの用語は(
シャショウチャン)であると書いているのだが、これはどんなもんだろうか?
shashoujianは、クレパインヴィッチの説明だと、「暗殺者の剣(あるいは矛)」(assasin's mace) を意味するとのことで、漢字(繁体字)だとおそらく「殺手剣」になる。確かに現代中国語では「殺手」(shashou)は「暗殺者」「殺し屋」の意味だから、日本語に訳せば「暗殺剣」あるいは「殺人剣」といったところか。
しかしどう訳して見たところで、それは攻撃の手段あるいは能力の形容(比喩)であって、A2/ADのような戦略的な概念とは違うだろう。クレパインヴィッチは論文(参考文献3)で「非常におおざっぱには似たような意味」と書いているが、なにか勘違いしているように思えてならない。
実際のところA2/ADは軍事的手段で達成されるとは限らない。例えばアメリカ軍が基地を置く国で(反米とまでは行かなくても)非協力的な政権を成立させれば、あるいは反基地運動を過激化させれば、A2は達成できる。西太平洋を巡るエアシー・バトルでアメリカが一番恐れねばならないのは、日本に反米政権が成立すること、日本の世論が反米に大きく傾くことではないのか?
深海から宇宙まで
先に述べたように、エアシー・バトルの戦場は実際には宇宙空間からサイバー・スペースにまで及んでいる。その点からすればエアシースベースサイバー・バトルとても呼んだ方が良いくらいだ。逆に深い方では、戦場は太平洋の海底にまで広がっている。
宇宙やサイバー・スペースが戦場となるのは、現代のアメリカ軍が衛星通信とコンピューター・ネットワーククに深く依存しているからだ。アメリカ海軍艦艇の上構上のいろいろな波長さまざまな指向性のアンテナ群を一瞥するだけで、現代の海軍作戦において電波と通信が決定的な役割を果たしていることが理解できるだろう。衛星破壊やコンピューター・ハッキングなどの手段でこのリンクを断ち切られたら、海軍作戦そのものが成り立だなくなる。
ただこのようなネットワークヘの依存は、程度は別としても中国軍に関しても言えることで、特に西太平洋を舞台にするような広域の海軍作戦は通信ネットワークなしには成り立だない。
衛星破壊にしてもサイバー攻撃にしても、その点では両刃の剣とも言える。
中国のA2/AD能力に関連してアメリカ側か神経を尖らせているのが、中国が開発中と伝えられる対艦弾道ミサイル (Anti Ship Ballistic Missile)だ。
ASBMについては中国人民解放軍第2砲兵部隊に関する二〇一〇年十一月号の拙稿でやや詳しく述べた。東風21号(DF21)の発展型と思われるASBMは射程が一五〇〇にm級で、中国本土から発射して第二列島線内のアメリカ空母打撃群(CVSG)を攻撃し得る。
しかし拙稿でも指摘した如く、千数百km以上遠くの艦船の現在位置をピンポイントで把握するのは大変難しい。洋上哨戒機や無人偵察機(UAV)、水上艦艇、偽装漁船、潜水艦、水平線越え(OTH)レーダー、海洋偵察衛星などさまざまな探知手段が考えられるが、一長一短のうえに妨害や反撃の可能性がある。
リアルタイムの情報が得られたとしたら、こんどは通信と指揮統制が鍵になる。
CSBAの論文は他にも航空機から機雷まで、アメリカ海軍のアクセスとエリア利用を妨害し得るさまざまな兵器を列挙しているが、ここではこれ以上は取り上げないでおこう。
それはそれとしてCSBAの二つを始め、中国のA2/ADとエアシー・バトルを論じたアメリカの論文を読んで一番違和感を感じるのは、論文に書かれてはいないことだ。
もしアメリカと中国が西太平洋でのっぴきならぬ軍事的敵対状態となり、好むと好まざるとに係わらず戦火を交えることが有り得るとすれば、それは中国の台湾侵攻(武力併合の事態を措いてはなかろうというのは、おそらく全ての論者が合意するだろう。それ以外でも米中海軍の角逐、鍔迫り合いはあるかもしれないが、西太平洋全域に及ぶ全面的な軍事的対決に発展するとは到底思えない。
そして中国があえて台湾に侵攻(上陸)を試みた場合、アメリカは如何なる手段で対抗が可能か? 本当に海空軍力だけで侵攻を阻止できるのか? そもそもアメリカは国交のない台湾側に立ち、中国と軍事的外交的に全面対決するのか?
エアシー・バトルの論者はそのような当然の議論から逃げているように見える。もちろん台湾問題は政治的外交的にきわめてセンシティヴであり、大っぴらな論及を避けたくなる気持ちは充分に分かる。しかし西太平洋と中国を巡る軍事問題を論ずるときに、台湾問題を回避するのは無理だろう。その点でアメリカのエアシー・バトル論はなにか机上の空論、言葉遊びの気配がしてならないのだ。
しかし、米軍は常に臨戦態勢であり、米軍に肩を並べようと中国は軍拡を行いソ連のように崩壊する。エアシー・バトルは中国を経済的に疲弊させるのがその隠された戦略である。
コメント