画像は、ANNnewsより
「大きな発見」は、それまでの常識を覆したところに生じる。発見が偶然から生じることも、歴史上に多くあることだ。今回紹介する「発見」も、そうした偶然から生まれたものだった――。

 現在、福島で行われている「除染」。それは、福島第一原発事故によってまき散らされた放射性物質が付着した表土を剥ぎ取り、あるいは枝葉などを集めて袋に詰める、という果てしない作業だ。福島で原発に近い地域に行けば、巨大な袋がたくさん積み重ねられた光景に出くわす。放射性物質を袋の中へ移しているだけであり、「除染」ではなく「移染」と呼ぶべきだという声も多い。


 そんな中「放射能そのものを消す」という、これまでの科学の常識を覆す技術に注目が集まっている。この技術の普及に奮闘しているのは、聖環境開発株式会社の代表取締役である宮本祥一氏だ。

 宮本氏は科学者や技術者ではなく、半導体に関わるセールスを行っていた。ふとしたきっかけから、ある機械から生み出される特殊な電解水に、宮本氏は着目した。

                                   
宮本氏近影         「細菌感染して弱っている猫がいて、 試しにその電解水を飲ませたら、元気になったんです。それで、なんかあるって思いました」
                     
                    
 試行錯誤を重ねて宮本氏は、この特殊な電解水が放射能に効果があるとの考えに至る。そして2011年7月から福島県に入り、電解水を生成する装置を開発。それが「放射性物質低減化装置 GFX11―MA001」だ。

GFX11―MA001

■放射能が消える? 実験内容

   画像は、実際の実験の様子
 放射能汚染された、土、石、稲わら、コケ、キノコなどを用いて実験が繰り返される。それらを電解水に浸けるのではなく、上から電解水を噴霧すると効果があることが分かった。放射能汚染された土壌に、その電解水を噴霧した結果について、2014年2月、公益財団法人「原子力バックエンド推進センター」で測定が行われた。土壌そのもの、水道水を噴霧した土壌、2種類の電解水をそれぞれ噴霧した土壌の4種類が、密封されたプラスチック容器に入れられ、セシウム-137の濃度について測定された。

 土壌そのものの濃度は、1Kgあたり898、000ベクレル。電解水Aを噴霧された土壌の濃度は、1Kgあたり542,000ベクレル。電解水Bを噴霧された土壌の濃度は、1Kgあたり611,000ベクレル。ちなみに、水道水を噴霧した土壌は960,000ベクレルで元に戻っていた。

画像は、原子力バックアンド推進センターで行われた測定結果。確実に数字に現れているのがわかる

 電解水Aの噴霧で39%、電解水Bの噴霧で31%、放射性濃度が低減している。右上の画像を見れば一目瞭然だが、密封された容器内で放射能はどこにも行きようがない。つまり、空中に散布された可能性や土中に埋まった可能性も否定される。まさに「放射能が消えた」としか言いようがない結果なのだ。もちろん、「放射能が消えるメカニズムは不明」。だが、何度実験を重ねても「消える」のだ。

■電解水を噴霧しての除染実験でも驚きの結果

  加藤鉄工株式会社での除染結果
 2012年9月には、福島県福島市の福島工業団地内の加藤鉄工株式会社の敷地で、電解水を噴霧しての除染実験が行われ、地上33カ所が計測された。作業前に最も高かった場所は、毎時7.52マイクロシーベルトであった。それが作業後の2013年11月には、毎時0.37マイクロシーベルトまで下がっている。また噴霧から約3年後になる2015年8月には0.18マイクロシーベルトまでさらに下がっている。これは現在の大阪辺りと同じくらい低い値だ。その後、加藤鉄工には行政による除染作業が行われたが、その時の事前のモニタリングで、「なぜここ(特殊な電解水を散布した場所)だけ、こんなに濃度が低いんだ」と担当者は不思議がったという。

 2013年10月には、福島県伊達市の北部日本自動車学校で、同様の実験が行われた。13カ所の計測で、最も高かった毎時2.40マイクロシーベルトだった場所が、作業後には0.83マイクロシーベルトに下がっている。計測を行ったのは、独立行政法人「日本原子力研究機関機構」だ。

「高エネルギー水素水」を使った放射線除染の記録


■従来の除染との革新的な差 各大学も注目

 従来の水で洗い流す「除染」では、水が放射能汚染されるので、水をさらに処理する必要がある。また、作業中に汚染水が飛散してしまうこともある。しかし、この電解水を噴霧する方法に、さらなる作業は必要ない。その点だけでも、極めて画期的と言えるのではないだろうか。

 現在、宮本氏の研究には、広島大学、奥羽大学、東北大学を含む複数の大学研究者が関心を寄せている。奥羽大学の研究者は、飼い猫にその電解水を飲ませてみると、19歳と高齢でよだれを垂らしているような状態だった猫が、尻尾をピーンと立てて部屋中を歩き回るようになったと言うし、広島大学と共同で行われた「鶏に特殊な電解水を飲ませる実験」では「特殊な電解水は、水道水に比べて、体内からの放射性物質排出促進効果が高い」という実験結果も出ている。さらに、東北大学では原子核工学出身の学者が関心を寄せているという。


厚生労働省が報告した電解水の水質検査では、環境や人体に影響がない水であることが明らかになっている

■これからの除染研究に大切なこと

 原子力や物理学の研究者にとって、データに示された「放射能が消えている」という事実はそう簡単に受け入れられるものではない。だが、「自然環境を壊さずに、簡単な方法で除染をしたい」という目的は科学者も宮本氏も同じだ。これからの森林や山の除染に最適な方法について、常識に縛られすぎない研究が求められる時代にきているといえるだろう。

 福島第一原発では、今も1日約300トンの汚染水が発生し、貯蔵タンクは約1,000基にまで至っている。「放射能が消えるメカニズム」が解明されれば、汚染水や、日本や世界中にもある放射性廃棄物の問題の解決にもつながるかもしれない。日本、そして世界に少しでも安全で綺麗な土地が増えることを願って、今日も宮本氏は実験を続けている。
(取材・文=深笛義也)

※現在では文中の「特殊な電解水」という呼び名を改め、高エネルギー水素水と呼ばれている(聖環境開発で商標登録済み)
「放射能が消えるメカニズムは不明」では申し訳ないが、かなり怪しい情報だと思う。ガセネタである可能性も高い。ただ、放射能を移動するのではなく除去する科学的方法を持たないわけだから、メカニズムが不明というのもある意味でもしかしたらという可能性もある。結果的に本当に除去できるのならまったく無視できない情報でもあるので、あえて転載した次第であります。

30年近く社会人をやっておりますので、その間にガンに効く物質とか、M資金とか、政治ゴロ、右翼の先生、かなり怪しい人物とお付き合いした経験があります。
この記事には怪しい匂いがプンプンする話ではあるが、科学的なデータも無しに「科学的でない」とするのは逆に科学的な態度ではない。 

「常識的に考えて」ありえないと思うが、その常識を疑うのが実は科学的な態度だという
。ひょっとすると何か大発見があっておかしくないかもしれないと思うのであります。

権威がある大学教授しか大発見しかできないと思うのもおかしい。日本の活力は無数の中小企業が開発した技術によるものだ。次に紹介するの話は信頼できそうだ。

納豆菌から開発した水質浄化剤で開発途上国を支援(日本ポリグル株式会社・会長 小田兼利氏) 月刊「ニュートップL.」 2012年3月号 吉村克己(ルポライター)

納豆のねばねば成分から独自に開発した水質浄化剤を低価格で販売し、世界の開発途上国の人々に貴重な飲み水を提供している小さな世界企業が大阪にある。                         

日本ポリグルの小田兼利会長は年齢を感じさせないバイタリティーで世界を飛び回り、貧しい人たちのために安全な水を作り出し、同時に現地の人々に水質浄化剤の販売を手伝ってもらうことで雇用を生み出し、貧困の撲滅をめざしている。

◇    ◇    ◇

アオコで濁った水が入ったビーカーに1さじの粉を入れてかき混ぜると、あっという間に汚れが固まり、それが沈殿すると、きれいなうわ水が残った。
日本ポリグルを創業した小田兼利会長(71歳)はその水を布で濾過してコップにあけると、グイと飲み始めた。

「いつも目の前でこれをやると皆さん驚くんですよ」と小田会長はいたずらっぽく笑う(以下、発言は同氏)。

小田会長が開発した「PGα21Ca」という凝集剤は、納豆のねばねば成分であるポリグルタミン酸を主原料とし、カルシウム化合物を添加した水質浄化剤である。
水中の汚れや重金属類などの毒物を短時間で凝集させ、「フロック」と呼ばれる微細粒子の集合体に変える魔法の粉だ。
フロックは水に比べて比重が重いのですぐに沈殿し、透明で無毒な水を作り出す。

「通常では汚れの粒子にマイナス電荷がかかっており、互いに反発してくっつかないのですが、カルシウムなどの無機成分はマイナス電荷を中和し、ポリグルタミン酸が粒子間を接着してフロックを形成するのです。ただし、殺菌効果はないので、飲み水として用いるには煮沸するか塩素を入れたほうが安全です。とはいえ、大腸菌などの雑菌類はほとんど除去され、うわ水には残りません」

PGα21Caは、1グラムで10リットルもの水を浄化できる。
汚れた池にこの粉を溶かした水を噴霧するだけで、たちまちきれいになる。
テレビで何度も実験風景が放映されたので目にした方もいるのではないか。


セシウムを除去できる磁性体凝集剤も開発


PGα21Caは工場の排水処理用として、自動車や製鉄業界などで幅広く利用されている。
海外からの注文も多く、現在、40か国に出荷しており、2011年度売上高10億円のうち、50%が海外である。

同社は、ポリグルタミン酸に磁性体をもたせた凝集剤「PG‐M」も発売している。
フロックが磁性をもつので、電磁石などを併用すれば、汚濁物質を引き寄せて回収することが可能だ。
PG‐Mとゼオライトを用いれば、放射性物質であるセシウムをほぼ100%除去できることが東京工業大学の研究で明らかになった。
ウクライナ政府もPG‐Mに関心を抱いており、チェルノブイリ原発事故現場から流れ出したストロンチウムなどの除去に同社が協力していくことが先頃、決まった。

「実は東京電力などの幹部とも会い、福島第一原発の汚水浄化でこの技術を使用する話が進んでいたのですが、その後頓挫し、何の音沙汰もなくなってしまいました。われわれだけでなく、日本にはこの悲惨な状況を救える中小企業が多くあります。国難なのになぜオールジャパンで取り組もうとしないのか理解できません」と小田会長は憤(いきどお)る。

海外から高い評価を受けている日本ポリグルだが、ここに至るまでには小田会長の粉骨砕身の努力があった。
海外に目を向けるきっかけは、04年に発生したスマトラ沖地震だった。同社に在籍していたタイ人社員を通じて、タイ政府から要請があり、大きな被害を受けた現地に飲み水を作るため、PGα21Caを無償で提供した。

数千万円するフランス製浄水装置がうまく作動せず困っていたなかで、日本ポリグルの魔法の粉はたった30分で大量の飲み水を生み出し、現地の人々から大いに感謝された。


バングラデシュで活躍するポリグルレディ

07年にはバングラデシュをサイクロンが襲い、多くの死者が出た。
ダッカの国際ライオンズクラブはPGα21Caのことを耳にしたのだろう、100キロ提供してほしいと要請があり、小田会長は無償で送った。

すると、その威力に驚いたのか、300キロを買いたいと注文が入った。
だが、小田会長はむやみに販売すると、現地で困っている貧しい人たちの手に届かない価格になるのではないかと心配し、まずは自分の目で現地を見に行くことにした。

現地を訪れ、小田会長は衝撃を受けた。日本人には考えられないような汚れた河川の水を飲料水や料理に使っている。下痢が原因で死亡する乳幼児も多かった。
この人たちにおいしい飲み水を届けたい。だが、いつまでも無償で提供していては同社の経営が立ち行かなくなるし、何より現地の人たちが自立した生活をできなくなると考えた。
「バングラデシュの平均月収は3,100円ほど。PGα21Caを1グラム1円程度にすれば、1円で10リットルもの安全な水を手に入れられるので買ってもらえるだろうと思いました。ですが、汚いとはいえ、これまでタダで手に入れていた水におカネを支払うという感覚を、現地の人々には理解してもらえなかった。そこで、現地の女性による実演販売を始めました」

汚れた水にたった1さじの粉を入れるだけで浄化され、おいしい水に変わる。目の前でそれを見せて、実際に皆に飲んでもらった。
「ポリグルレディ」と名付けた女性販売員の活動が功を奏し、次第に売れるようになっていった。
現在、100グラムを125〜150円ほどで販売しており、ポリグルレディは同国内で75人に増えた。
彼女たちは月平均5,000円近く稼ぎ、大きな副収入を得ている。ポリグルレディは、一般的に地位が低いとされる女性たちの経済的、精神的な自立に大きく貢献。
いまでは、ミャンマーにも20人のポリグルレディがいる。

小田会長はこれまで30回以上もバングラデシュを訪問し、現地の人々と交流してきた。持ち前の明るさもあって現地で人気者だ。

バングラデシュでの売上は昨年度の2,500万円から、今年度は7,500万円と3倍増。支社の職員も85人に増え、すべての業務を現地のスタッフに任せているという。

「5年間辛抱したら、発展途上国のビジネスは大きくなります。ポリグルレディを日本に招いたとき、そのうちの1人が『自分たちはこれまで夢を見ることはできなかったが、いまは見られるようになった』と言ってくれたのがうれしかった。貧困をなくすには現地で起業家を育てることが大事。日本の中小企業には、それを実現する力があると確信しています」


ポリグルタミン酸の量産に成功

小田会長は工学博士号をもち、大学卒業後は現在のダイキン工業に勤め、エアコンの自動制御を担当した。
15年ほど在籍した後、仲間11人を引き連れて独立・起業。
包装袋を切る機械の精度を上げるために使用する「光電マーク」を発明して大ヒットした。現在、光電マークは世界的に普及している。

次に開発したのが、数字を合わせて解錠するオートロックだ。
シャープがこのアイデアに興味をもち、20人もの社員を配置して共同開発を始めた。
完成すれば自社の知名度が高まると小田会長は期待したが、完成寸前に消防署から「火災時にどう解錠するのか」と指摘され、開発は中止。
負債を抱えて、1970年に倒産してしまった。

しばらく休養した後、技術コンサルタントとして活躍し、様々な開発に携わった。
一種の発明家と言えるだろう。

だが、95年に発生した阪神・淡路大震災を機に、再び経営者として歩み始めることになる。
自身も大阪で被災して飲み水に困るなか、濁った池を見て、この水を飲用にできないかと考えた。
研究を進めるうちに納豆のねばねば成分であるポリグルタミン酸の存在とその浄化作用を知った。
簡単な実験をすると水の浄化に成功。
ただ、ポリグルタミン酸は当時、高価だった。そこで、ねばねば成分を大量に作る納豆菌の株の開発に着手。3年を要したが、見事に成功した。

こうして、98年にPGα21Caを売り出した。マスコミにも多く取り上げられ喜んだが、当初はまったく売れなかった。
下水処理に使えると考え、自治体などに売り込んだが、公共工事に無名の零細業者が入り込むことはできなかったという。

02年に日本ポリグルを設立。04年、前述したスマトラ沖地震の被害を受けたタイで実績を挙げたことから海外に着目するようになった。

その後、メキシコ、バングラデシュなどへ無償でPGα21Caを提供しはじめると、水不足に悩む途上国から引き合いが増えていった。
小田会長はサンプルをバッグに詰め込み、海外を巡って、各地で実演して見せた。そのうち、評判を聞きつけた他の国々からも注文が入るようになり、いまでは中国、オーストラリア、カナダなどの工場排水処理にも使われている。

海外に普及すると国内企業からも引き合いが増え、ビジネスは軌道に乗った。08年には20億円の売上を記録したが、そのとき事件が起きた。

国内事業を任せていた役員と社員併せて8名が結託し、大手商社も絡んで、小田会長をオーナーの座から追い落とそうとする動きが起こったのである。架空売上を計上され、6億8,000万円も使い込まれたという。

銀行から融資も受けられず、経営危機に陥った。やむなく65人ほどいた社員を半分に減らして資産を売却し、国内営業に力を入れて踏ん張った。
だが、反乱した社員がインターネット上で根拠もなく誹謗中傷するなど、小田会長は精神的に追い込まれ、自宅マンションから飛び降りようと思ったこともあった。

「自宅の部屋の壁に貼っていた世界地図を目にしたとき、各地で親しくなった人たちの顔が浮かんできたんです。この仲間たちに喜んでもらうためにも負けてはならない、と肝が据わりました。海外の貧しい人たちに助けられたようなものです」

その後、経営危機は免れたが、国内の大手得意先からは取引を止められた。否応(いやおう)なく、小田会長は海外や途上国ビジネスに力を入れるようになった。


BOPビジネスこそ日本の中小企業の出番

期せずして小田会長が取り組むことになった開発途上国向けのビジネスを「BOPビジネス」と呼ぶ。
BOPとは「ベース・オブ・ザ・エコノミック・ピラミッド」の略で、経済ピラミッドの底辺を占める低所得者層を指す。
この層は約40億人おり、その市場規模は年5兆ドルといわれ、日本の実質GDPに匹敵する。
一人当たりの購買力は小さくても集まれば大きな市場となるのだ。

BOPビジネスは世界的にも注目されており、小田会長はその担い手こそ日本の中小企業だと力説する。

「日本人はやさしく努力家で、技術や品質へのこだわりをもっている。ほどほどの利益で、相手を大切にしながら、楽しくBOPビジネスができるのは日本の中小企業だけだと思います。日本ブランドへの信頼も厚いし、経営者はどんどん途上国へ出て行くべきです。あきらめずに続ければBOPビジネスは必ず儲かるようになります」

厳しい経済状況が続く昨今、ボランティアをやる余裕などないという経営者も多いだろうが、小田会長自身、当初は社会貢献という気持ちよりも海外市場での成功を考えていたという。
だが、生活環境が悪くともたくましく生きている人々に実際に会うことで、次第に本腰を入れるようになった。
現在では、BOPビジネスを推進する経済産業省や外務省が同社を支援しているという。

最近ではコーヒー豆の果実をくるむ皮に凝集効果があることがわかり、皮のエキスを使ったより安価な浄化剤を開発中だ。

「たとえば、日本の中小企業100社がBOPビジネスに乗り出せば、世界にとって光明となるでしょう。そうしたところにぜひ目を向けてもらいたいと思います」
20年前常温核融合のニュースが駆け巡り、再現実験ができないと擬似化科学とされてきましたが、最近再び脚光を浴びてきた。

放射性廃棄物の無害化に道? 三菱重、実用研究へ 
2014/4/8 7:00日本経済新聞 電子版

 三菱重工業は重水素を使い、少ないエネルギーで元素の種類を変える元素変換の基盤技術を確立した。原子炉や大がかりな加速器を使わずに、例えばセシウムは元素番号が4つ多いプラセオジウムに変わることなどを実験で確認した。将来の実証装置設置に向け、実用化研究に入る。放射性セシウムや同ストロンチウムを、無害な非放射性元素に変換する放射性廃棄物の無害化処理に道を開くもので、原発メーカーとして実用化を急ぐ。

■百数十時間で元素変換

    クリーンルームで元素変換の実験に取り組んでいる(三菱重工の先進技術研究センター)
       
 3月下旬、米ボストンのマサチューセッツ工科大学の講義室。世界から集まった100人以上の研究者を前に、三菱重工・先進技術研究センターの岩村康弘インテリジェンスグループ長は「元素変換はマイクロ(100万分の1)グラム単位で確認できた」と報告した。多数の質問を受け、同社の実験を説明する理論の提案も数多く発表されたという。

 三菱重工の横浜市の先進技術研究センター。700を超える幅広い製品群を擁する同社の次世代研究を一手に引き受ける秘密基地だ。研究棟の1階の約3分の1を占めるクリーンルームで研究者が白衣に身を包み、約25ミリ四方の薄膜の金属板を装置にセットする。超高温や超高圧をかけることなく、数日で内部で元素が変わり、新たな元素が生まれてくる。


 具体的には厚さが数十ナノ(ナノは10億分の1)と極めて薄い金属のパラジウムと酸化カルシウムの薄膜を交互に積層した多層膜に変換したい金属を付ける。この膜に重水素を透過させると百数十時間で元素番号がそれぞれ2から4、6多い元素に変わった。

 セシウムはプラセオジウムに、ストロンチウムはモリブデン、カルシウムはチタン、タングステンは白金に変わることを確認した。特殊な薄膜に重水素を透過させる独自技術は日本での特許に続き2013年、欧州でも特許を取得した。

 先進研の石出孝センター長は「ここ数年で研究が大きく加速した」という。様々な手法で重水素の濃度を高めることで、新しい元素の収量がナノグラムからマイクログラムへ3桁増えた。測定精度も上がり、1平方センチメートル当たり最大数マイクログラムの元素変換を確認したとしている。

 セシウムの元素変換率は、ばらつきはあるものの100%近いものもあるという。元素変換を示唆するガンマ線も微量ながら検出している。同社はセシウムの場合、パラジウム多層膜の内部で4個の重水素が1個のセシウムの原子核に十分近づき、陽子4個と中性子4個が加わりプラセオジウムになったとの仮説を立てている。ただ、詳しいメカニズムや理論は分かっていない。

 元素変換は「エネルギー収支が合わず、従来の物理学の常識では説明できない」などの指摘がある。新しい元素の量が少なく「外から混入した可能性も完全には排除できない」との声もある。

■未知の現象を解明する実験

                   三菱重工が開発した金属の薄膜
 もともと低いエネルギーで元素が変わるのは、1989年に提唱された常温核融合と同じ考え方。1億度などという超高温でなくても核融合が起こり、過剰熱が発生するという夢の現象を再現しようと世界中で再現実験が研究されたが、ほぼ否定された。

 三菱重工も当時から研究を始めた。途中からエネルギーの発生を証明するより、元素の変換を示す方が実証しやすいのではないかと考え、元素変換に的を絞った。微量の元素が生まれたことは、兵庫県にある世界最高水準の物質分析技術を持つ大型の放射光施設「SPringー8」を使っても確認している。

 同社の研究に協力した独立行政法人物質・材料研究機構の西村睦水素利用材料ユニット長は「現在まだ解明されていない新種の元素変換反応の可能性を示唆している」としている。トヨタグループの研究開発会社、豊田中央研究所(愛知県長久手市)も元素変換の研究を続けており、成果が出ているようだ。

 昨年12月の東京工業大学。元素変換や低温核融合などをテーマに研究する研究者や技術者が全国から集まった。三菱重工のほか、大学の発表も行われた。岩手大学工学部の成田晋也教授もその一人。「未知の現象の解明を進める」ための実験を続けている。

       2009年、三菱重工の元素変換研究を視察した有馬朗人元文科相(中)
      
 岩村氏は「元素変換を確信できる量が取れた。理論的なメカニズムはわかっていないが、我々はメーカー。次のステップに進みたい」という。大学の研究者の間でも「もっと変換の量が増えれば、文句がつけられなくなる」との声がある。

 三菱重工は実験の規模を拡大し、収量を増やし実用化のメドを付ける方針。これまで小規模な体制で先進技術研究センターで研究していたが、他の事業本部や外部の大学や研究機関との共同実験を増やす。

 金属薄膜を大きくしたり、ハニカム構造にして表面積を大きくしたりする方策などを検討している。放射性元素の変換の実験はまだ始めていないが、例えば放射性のセシウム137はユーロピウムに変換する可能性があるという。

 放射性廃棄物の処理以外にもレアメタルなどの希少元素の生成や、新エネルギー源としての応用を想定している。ただ、レアメタルや新エネルギーは既存技術があり経済性との比較になる。

 岩村氏は「現在、決定的な解決策がない放射性廃棄物の無害化は価値が最も高い。当社は原発メーカーでもある。10年後には実用化したい」という。

《記者の目》細々と続けてきたのが実情

 3年前の東日本大震災。放射性物質を拡散する東京電力福島第1原子力発電所の光景を前に、ある三菱重工業関係者は「元素変換をもっと大規模に研究していれば」と叫んだ。三菱重工は約20年、元素変換を研究してきたとはいえ、予算も人員も「細々と何とか続けてきた」というのが実情だ。

 三菱重工は1990年代前半に元素変換の研究を始めた。一般に内容が知られたのは、関連学会の論文誌に岩村氏が論文を発表した後の2002年ころだ。ただ、常温核融合の負のイメージもあり「現代の錬金術」との見方もされ、同社は対外的なアピールに慎重だった。

 岩村氏は技術統括本部のインテリジェンスグループ長という肩書を持つ。「技術もマーケティングが必要」との考えから10人のチームを束ね、エネルギー・環境分野を中心に他社の技術開発動向を探る。

 「グループ長の仕事に専念してほしい」と遠回しに元素変換の研究からはずれるように言われたこともある。社内の研究予算はついていたが「07、08、09年ごろはけっこう危なかった」という。

 岩村氏は「この10年で研究の精度が飛躍的に上がり、世界で研究仲間も増えてきた。中国の大学は我々そっくりの装置で研究している」と元素変換の認知度向上とともに、競争の激しさを実感している。

 10年前から大がかりな研究体制をとれば、現時点で放射性廃棄物処理の具体的な実証実験ができていた可能性がある。しかし、実態は「基礎から実用研究へ移行できそうな段階」にとどまる。

 元素変換は重工幹部も時折、「おもしろい研究をしているんだ」と口にする。「あんな研究を続けられるのも重工くらいだよねぇ」という外部の声もある。研究を途切れさせなかったのは三菱重工の懐の深さだが、現状の体制で、10年後に大きな成果が期待できるのか。そろそろ企業として腹をくくる時だ。

(企業報道部 三浦義和)


原子核反応を起こすには、原子核を高エネルギーに加速することが必須です。ところが、1989年に、英国と米国の電気化学の研究者が、Pd電極を 用いた重水の電気分解により異常な発熱現象を見出し、Pd電極中でD+D核融合が生じている可能性を提起しました(いわゆる「常温核融合」)。このような 「凝縮系中での超低エネルギー核反応」の研究を推進しようと、2015年4月に、電子光理学研究センターと株式会社クリーンプラネットが設置したのが、こ の(産学連携)共同研究部門です。

 常温で核反応が生じることは、従来の核物理学の常識から大きく逸脱しています。しかしながら一 方では、凝縮系が超低エネルギー核反応にどんな影響を及ぼしているのかは、十分に調べられていません。これまで世界各国で、金属中での低エネルギー核反 応、Pd電極の重水電気分解・Pdナノ粒子の重水素ガス吸蔵での異常な発熱現象、重水素ガスのPd薄膜透過に伴う核変換現象等を中心に、研究が展開されて きました。観測された現象が未知の核反応によるものであれば、原子核反応の概念に大変革をもたらします。また、「凝縮系核反応」は、社会的にもクリーンな 原子核エネルギーとして、将来の産業構造に大きな変化をもたらすと期待されています。

 本共同研究部門では、以下の研究開発に取り組んでいます。


  1.    「凝縮系核反応(CMNR)」の学術的基盤データの増強と機構解明
  2.    将来のクリーンエネルギー技術としての可能性追求
  3.    革新的放射性廃棄物処理技術に向けた基礎研究