「バズーカ3」は不発、追加緩和か迷い相場乱高下
【ロイター】2015年 12月 18日 16:41 JST

[東京 18日 ロイター] - 黒田日銀が再び市場の意表を突いた「バズーカ3」は不発に終わった。上場投資信託(ETF)の新たな買い入れ枠設定など量的・質的金融緩和(QQE)の強化策を打ち出したものの、マネタリーベースの目標額は据え置き。市場は追加緩和なのかどうか迷い、日本株やドル/円JPY=EBSは乱高下した。日本経済に与える効果も疑問視され、金融政策の手詰まり感がより鮮明になってしまったとの指摘が市場で広がっている。

<「過去の記憶」で最初は買い>

10年ぶりとなる米利上げを無難に通過し、「今回の日銀決定会合は現状維持」(邦銀ストラテジスト)と決め込んでいた市場には、再び大きなサプライズとなった。黒田東彦日銀総裁が「物価の基調は改善している」との発言を繰り返していたことなどから、今回、何かあるとみていた市場関係者はほぼ皆無だった。

しかし、日銀は18日の金融政策決定会合で、年間80兆円の国債購入を柱とする従来の金融緩和の継続を決める一方で、新たなETF買い入れ枠の設定や長期国債の残存期間延長などQQEの強化策を打ち出した。

意表を突かれた市場は、まず株買い・円売り・債券買いで反応。日経平均.N225は一時500円高まで上昇、ドル/円も123円後半まで約1円上昇した。長期金利も0.265%と1月28日以来の低水準を付けた。「これまで2回のQQEで急激な株高・円安が進んだ記憶による初期反応」(大手証券・株式トレーダー)という。

日銀のQQEが市場に与えたインパクトは大きい。2013年4月4日に決定され、「バズーカ砲」と呼ばれた第1弾は日経平均を5月高値まで3867円、ドル/円を11円押し上げた。14年10月31日の第2弾の時も日経平均は1カ月強で2372円、ドル/円は12円上昇した。

<すぐに冷めた「熱狂」>

だが、今回は日本株、ドル/円ともに急速に上げ幅を縮小。日経平均の下げ幅は300円を超え1万9000円割れで取引を終えた。ドル/円も122円を割り込み、ともに強化策発表前の水準を下回ってしまった。

日銀は今回、マネタリーベースを年間約80兆円増加させる金融調節目標や、長期国債の保有残高を年間80兆円程度増加させるなど資産の買い入れ額については、これまでの方針を維持した。それゆえ「追加緩和」ではないという見方が広がっている。

黒田総裁も18日の会見で、下振れリスクに対応した追加緩和ではないとの見解を示した。

また、市場が最も「食いついた」ETFの新たな買い入れ枠の設定についても、過去に日銀が買い入れた銀行保有株式の売却の再開(2016年4月から)に伴って行うものだ。ともに3000億円ずつであり、ETFの年間3兆円という購入規模は変わらない。

いったんは、過去の記憶からポジティブ方向に反応したマーケットだったが、「株式市場にとっての影響はニュートラル」(UBS証券エクイティ・ストラテジストの大川智宏氏)で、強化策の消化が進むに従って瞬間的な「熱狂」が冷め、失望に変わった格好だ。

<「手詰まり」感じるとの声も>

市場の期待のコントロール失敗は、今月3日の欧州中央銀行(ECB)でも見られた。ドラギ総裁が追加緩和の期待を過度にあおった結果、追加緩和の内容が失望され、市場では株価が急落するなどリスクオフとなった。

日銀が打ち出した強化策は、結果的に市場に受け入れられず、日経平均は上下880円の乱高下。市場では「黒田総裁は、米利上げを成功させたイエレンFRB議長に続くことができず、ドラギECB総裁の失敗の轍を踏むことになってしまった」(外資系証券)との声も出ている。

市場の関心は、果たして追加緩和がこの先あるのかに早くも移ってきているが、シティグループ証券・チーフエコノミストの村嶋帰一氏は「わかりやすい金融緩和策によって、国民や市場の期待に働きかけようとしたのが、黒田日銀のやり方であったはずだ。しかし、今回の強化策はあまりにわかりにくい。手詰まり感さえ感じられてしまう」と話している。

日銀のETF購入新枠は、設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業の株式を対象にするという。もはや「非伝統的」という言葉でさえとらえにくいほどのターゲットの広がりだ。

世界で株式を購入している主要な中央銀行はない。リスクをさらに抱えることになる日銀の行方を、市場も不安を持って見つめている。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

黒田日銀は異次元の金融緩和、つまり量的緩和によってほぼ300兆円(正確には280兆円程度)もの日本国債を買入れた。決して量的緩和政策に反対ではないが、量的緩和だけでは経済への影響は限られる量的緩和さえ行えば日本は経済成長するという目論みは、今のところ外れている。これ以上の緩和はもはや意味が無いと私は思っている。

量的緩和のおかげで、為替は円安となり貿易収支は多少改善しているが、しかしこれを除くと、300兆円も量的緩和を行っているのにはっきりとした効果はいまだ現れていない。それどころか消費税増税や補正予算の緊縮型への転換によって、この効果さえ吹き消され日本経済はほぼゼロ成長に陥っている。

消費税増税による緊縮政策が日本の屋台骨を破壊しているという事実を認識すべきで、金融緩和より消費税増税を直ちに止めるべきと思う。
 日銀は18日の金融政策決定会合で、設備投資や賃上げに積極的な企業の株式を組み込んだ上場投資信託(ETF)を年3千億円買うことなどを柱とする量的・質的金融緩和の「補完策」を導入した。限界が見え始めた大量の資産買い入れを進めやすくして、物価2%目標の実現に向けて金融緩和を粘り強く続けられるようにする。追加緩和の余地を広げる日銀の“くせ球”に市場は惑い、日経平均株価は乱高下した。

■何のため

 「金融緩和をしっかりと継続し、物価目標の早期実現に必要と判断した場合には迅速に調整するための措置だ」


黒田総裁は記者会見で今回の措置の狙いをこう説明した。日銀は市場に大量の資金を供給するため、年80兆円のペースで市場から国債を買い入れている。ただ国債の新規発行の減少もあって、市場に出回る国債は減り続けている。「大規模な買い入れはあと2~3年で限界」との声もあるなか、日銀には限界説を払拭する必要があった。

 最近は日銀が買う年限の短い国債の不足感が強まり、マイナス金利も常態化している。このため「補完策」では日銀が買う国債の平均残存期間を7~10年から7~12年に広げ、市場の流通量に比較的余裕がある超長期債を買いやすくした。

 銀行などが資金を受け取る際に日銀に預ける適格担保の対象も広げる。100兆円を超える残高がある住宅ローン債権なども対象として、銀行が担保にするために抱え込んでいる国債を手放しやすくする。不動産投資信託(REIT)も購入の制約を緩めた。

なぜ今

 「経済・物価見通しの下振れに対応する追加緩和ではない」
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黒田総裁は今回の措置が追加緩和にはあたらないと強調した。この時期に分かりにくい「補完策」を打ち出した背景には、10年以上塩漬けになっている約3兆円の株式の売却を巡る課題がある。

 日銀は金融不安が強かった2002年11月に金融機関が保有する株式の買い入れを始めた。これらの株式は16年4月から売却する予定となっており、市場への影響をどう和らげるかが課題だ。

 今回の措置では保有株を年3000億円ずつ売る一方、新たに年3000億円の上場投資信託(ETF)を買い取る。保有株を金融緩和の対象資産であるETFに入れ替えれば、市場への影響を避けられるとの判断だ。

 「(設備投資や賃上げを)日銀としてできる限りサポートする」

 総裁は「設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業」の株式を組み入れたETFを買い入れ対象とした理由をこう説明した。当初はJPX日経インデックス400に連動するETFを念頭に置くが、設備投資などに着目した新型ETFをつくるように運用会社に促すという。

 日銀はすでに年3兆円のETFを買い取っており、さらに買い増せば市場の日銀頼みが行き過ぎる可能性もある。新たな仕組みに対し黒田総裁を含む6人の政策委員が賛成したが、石田浩二、木内登英、佐藤健裕の3審議委員が反対した。

 日銀は物価2%上昇を実現する上で賃金の上昇を重視しており、総裁は「来年の春闘は非常に重要だ」と指摘した。賃金交渉の本格化を前に、脱デフレに積極的に取り組んでいる姿勢をアピールする狙いもありそうだ。

 甘利明経済財政・再生相は18日に「設備投資や賃上げを促進している政府の政策にも合致したものだ」と評価した。麻生太郎財務相も「適切な判断がなされたと、私にはそう見える」と話した。

■今後は

 「追加緩和しなければならないときには、当然思い切ったことをやる」
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黒田総裁は必要があれば三たび大胆な金融緩和に打って出る姿勢を示した。今回の措置を発表した直後、市場では「日銀は戦力の逐次投入をしているのではないか」との疑念が広がった。大胆さとわかりやすさで前体制との違いを強調してきただけに、今回の措置で昔の日銀に戻ったとみられては困るというわけだ。

 市場には「日銀は必要があれば動くということが確認できた」(東京海上日動火災保険の桑山祐介氏)との評価がある一方、「対話がなく混乱につながった」(バークレイズ銀行の門田真一郎氏)との声も。技術的な制度改正を集めて1つのパッケージにみせたため、措置の狙いが分かりにくくなった面もある。

 「原油安で短期の物価上昇予想は低下している」

 では「必要な時」はいつ訪れるのか。米利上げによる米国への資金回帰もあり、足元では原油安が加速し、物価が上がりにくくなっている。日銀は1月に「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」をまとめるが、このまま原油価格が下落を続ければ、物価見通しの下方修正もありうる。

 企業や家計の先行きの物価見通しもじりじりと低下している。物価の基調を生命線とする黒田日銀にとって看過できない情勢になりつつある。

 この先、新興国経済の減速などのリスクが現実のものとなり、物価2%目標の達成がさらに遠のいた場合、黒田日銀は思い切った追加緩和に動けるのか。本気度が試される局面はそう遠くない可能性がある。
リーマンショック後の世界は総じて「緊縮財政」政策の潮流にのまれたが、いずれも誤っていた。ゆえに金融緩和とセットのアベノミクスはある程度効果があったが、消費税の増税がアベノミクスの評価を落としている。

歴史的に振り返っても、金本位制へ復帰するために採られた緊縮策はことごとく失敗した。欧州の単一通貨制度(ユーロ)は加盟国に緊縮財政を迫ったがゆえに、ギリシヤ問題などをかえって悪化させてしまっている。総じて「緊縮策」は、平和や繁栄や債務削減をもたらすのに無益である。

財政赤字を続ければ通貨が売られるのではないかと危惧する向きもあるが、財政赤字の日本は円高となり、円高を解消するために金融緩和を行ったのだ。

リーマンショック後金融緩和を行い米ドルは紙切れになると大騒ぎをしたが、まったくの安泰。米政府は莫大な債務を抱えても、ドルは依然として世界の準備通貨としての地位・を失っていない。

財政再建は社会の最下層の人々に負担を掛けるだけだが、金融緩和ももう十分だろう。富裕層への累進課税を強めて平等化を図るべきだろう。

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