バブル崩壊後、世界中の専門家から政策の失敗を指摘された日本だが
現在では多くの国が同じ悩みに直面している

これまで外交専門家も政治家も識者も一様に、90年に始まった日本の景気低迷について考えてきた。
日本政府は各方面に助言を仰いだが、その大半が誤った前提に基づいていた――日本の景気停滞は固有の問題で、主な原因は政策立案のお粗末さにあるというものだ。

しかし08年以降、ユーロ圈もアメリカも、かつて「日本病」と呼ばれたものに陥り、長引く低成長(経済学で言う長期停滞)に悩まされてきた。どうやら問題は世界的なもので、特定の国の政策決定ではなく資本主義の本質そのものに関係しているようだ。
そろそろ見方を変えるべきだ。そこでこれから日本の「失われた20年」から得られる重要な教訓を見ていこう。
GDP成長率が中長期的な潜在力を下回っているすべての国にとって、政策を考える上で役に立つ明確な教訓が含まれているはずだ。

日本は確かにミスを犯した。最も明らかなのは病んだ経済を根本から治療するのではなく一時しのぎに走ったこと――有権者受けを気にする政治家が「愛のムチ」を避けたがる民主主義国ではありがちな偏った考え方だ。それでも、少なくとも小泉純一郎首相は構造改革という「痛みを伴う」真の改革に取り組んだ。

事実、この問題に特効薬はない。日本は長引く不況に際して、その影響を緩和することに注力した。アメリカの無為無策の議会やEUの緊縮派はここから学ぶことがあるはず。少なくとも、もう人ごとではないと既に承知しているはずなのだから。

 GDPより成長モデルに注目せよ

EUという世紀の実験はうまくいっていない。現在19力国となったユーロ圏の国々が自国通貨を捨て単一通貨ユーロを導入した99年以降、ドイツをはじめユーロ圏北部の国々は貿易上有利になり、それをてこに製造大国、輸出大国になった。最大の輸出先はユーロ圏南部だった。国内消費が伸び悩んでいたドイツは、10年間で貿易黒字が急拡大。一方、南欧では急激な消費拡大に伴って債務も急増した。

南欧の経済が08年以降の世界同時不況で特に打撃を受けたのは確かだが、実はトラブルはユーロ圏創設当初から始まっていた。例えばイタリアは2000~14年半ばに3度の景気後退を経験、その間の実質GDP成長率は平均0.5%にとどまっている。さらには通貨統合により、経済危機の際に以前のように通貨を切り下げてしのぐことができなくなり、産業が空洞化した。

しかし各国政府は問題に取り組むどころか、赤字が膨れ上がり年々ユーロ圈の金融機関の債務がかさんでも、建設ラッシュを放置した。EU各国の首脳は数々の警告に気付かないか見て見ぬふりをしてきたが、ついに10年、ギリシャがデフォルト(債務不履行)寸前に。ギリシャ債務危機が浮き彫りにした構造的欠陥は極めて深刻で、ユー口圏は加盟国の離脱による「ひび割れ」の危機に直面している。

日本の教訓 

経済的に成功すると傲慢化し、視野が狭くなり、リスクを見過ごしがちになる。日本の場合、輸出主導の「奇跡」の高度経済成長は80年代前半に限界を迎えた。ところが政府は世帯収入を増やして国内消費を奨励する政策を断行するのではなく、大規模な公共投資拡大を試みた。その結果が、投資マネーが株と不動産に集まって起きた危険な資産バブルと90年のバブル崩壊だった。

今にして思えば、日本が高度経済成長を維持できるというのは政府の過信だった。改革派(自民党上層部にも多くいた)の声は無視された。この失策のツケが、日本の「失われた20年」だった。

日本と同じようにEUも構造的欠陥を修復できなければ、ギリシヤを皮切りに弱小国のユーロ圏離脱が相次ぐ恐れがある。アメリカも2000年のドツトコムバブル崩壊後の対応を誤った。

借金してまで不動産や株を買う資産バブルの過熱を許し、07~08年にまたしてもバブルが崩壊する事態になった。要するに是が非でもGDPを成長させようとすれば、高い代償を払う羽目になるということだ。

 リーダー選びは人気投票じゃない

景気がいいとき、政治家はまるでスーパーマンのように絶賛される。最近の例で言うと、中国の長期にわたる高度成長は、「長期的な視点」を持つ「賢明」で「決断力のある」指導者のおかげ、と言われる。

好況に沸いたビルークリントン大統領時代のアメリカでは、民主・共和両党とも経済の「新パラダイム」をつくり上げたと自画自賛した。ヨーロッパのテクノクラートも07年に金融危機が起きるまで、通貨統合は歴史的な偉業だと胸を張っていた。

一方、不況になると、政治家は無能扱いされる。バラク・オバマ米大統領は、就任前に決まっていた銀行支援策について、こてんぱんにたたかれた。
ヨーロッパの主要国では、金融危機以降、政権交代が相次いだ。中国でも人民元切り下げと、効果が乏しかった株価安定策に対して、ネット上で批判が拡大している。どうやら経済が落ち目のときは、「能なしをクビにしろ」が世界共通の合言葉のようだ。

問題は、有権者は政府が経済成長を維持することを求めるのに、実際の成長維持策には反対することだ。景気過熱を防ぐための財政や金融の引き締め策は、往々にして大企業や利益団体、そして有権者の猛反発に遭う。政治や金融の世界では、常識外れの大成功を収めるより、常識的な失敗を犯すほうが長い目で見れば安全策であることが多い。

日本の教訓 

偉大なリーダーとは、たとえ有権者に人気がない政策でも、正しい政策を選択できる人物だ。 投機色が強くなった株式市場の熱狂を冷まし、住宅価格を抑え、景気の過熱を防ぐ措置は、たちまち批判を浴びる。構造改革は短期的には雇用誠につながり、それまで手厚く保護されてきた業界に打撃を与え、成長を減速させるからだ。

こうした改革を民主主義国で実行するのは難しい。改革を断行して不況をもたらしたら、首相をはじめ政治家は再選が難しくなるからだ。政治家個人の「政治生命」を考えれば、改革を進めるより現状を維持したほうがリスクは小さくて済む。

日本では90年以降、ほとんど功績のない短命政権が続いた。しかし例外が3人いる。小泉純一郎首相(01~06年)は自民党内の反対を押し切り、いわゆるソンビ企業(大口債権者)を一掃。さらに郵政民営化を断行し、公共事業を削減して「土建国家」からの脱却を図った。

安倍晋三首相は第2次内閣以降(12年~)、日本の競争力を高めるために「3本の矢」を放った。TPP(環太平洋経済連携協定)の交渉参加は、安倍の強い決断力を示している。

橋本龍太郎首相(96~98年)は、97年に消費税率を引き上げた。この後、日本の景気はさらに冷え込み、橋本政権も急速に人気を失った。だが、不況に陥ったのは日本だけではない。同じ頃、近隣諸国もアジア通貨危機に見舞われた。特に韓国、タイ、インドネシアは大打撃を受け、IMF(国際通貨基金)の管理下に入った。

改革は常にリスクを伴う。だからこそ「痛みを伴う改革」を実行しようとする政治家はほとんどいないのだ。

 成長の源はイノベーション 

シリコンバレーはもはやイノベーションの聖地とは言えないようだ。アメリカの開業率(総事業所数に対する新規開業の事業所の割合)は78年の約15%から11年には約8%に落ち込んだ。

アメリカでは「この30年間で初めて、企業の倒産件数が新規開業件数を上回った」と、ブルッキングズ研究所のエコノミスト、ロバート・ライタンは指摘している。

ライタンによれば、これは深刻な事態だ。歴史的に見ても、電報、自動車、飛行機、コンピューターなど「将来性ある新技術」を商業ベースに乗せてきたのは主に新興企業だったからだ。

ソウトウェア部門の起業で成功し、現在はボストン大学の講師を務めるジエームズーベッセンもこう警告する。「新興企業の評価額が数十億ごドルに上るなど、シリコンバレ――‐は活況のようだが、その陰で米企業の新技術の開発・事業化に関わる根底的な問題は見過ごされている」

技術革新を阻む要素は多くある。長期にわたる経済の減速、人口の伸び悩み、起業家の足を引っ張る政策、さらにアメリカの場合は公教育の質の低下も大きなマイナス要因になっている。

ライタンによると、老舗企業は漸進的な革新しか行わず、官僚主義的で新技術の事業化に必要な柔軟性を欠いている。それでも現状では、技術革新の主要な担い手である中小企業は大企業に太刀打ちできない。大企業は資金力にものいわせて議会に圧力をかけ、特許訴訟を次々に起こして新規参入を阻み、政府の研究開発事業の入札でも、零細企業を押しのけて受注を獲得するからだ。

日本の教訓 

イノベーションこそが経済の好循環を生む「秘密の源」だ。日本の戦後の高度経済成長を支えたのは、ソニーやトヨタなど独創的な新技術で世界をリードした企業だった。

しかし、この2社の行方は明暗を分けた。時代の流れを読み損なったソニーは今や隣国に本拠を置く最大のライバル、サムスンに規模で圧倒されている。片やグローバル企業に変身を遂げたトヨタは今も勝ち組だ。国内の工場を維持しつつ、巨大な潜在需要が見込める中国、メキシコ、東ヨーロッパに新工場を建設。複数の指標で世界トップの座を誇っている。

米ヘッジファンドを率いるダン・ローブが昨年5月1日付の投資家宛ての手紙で、「日本のアップル」と呼んだ会社がある。工場の自動化システムで世界をリードしているファナックだ。

また、スタンフォード大学の研究チームによる日本の起業家精神に関する調査でも、日本の起業カルチャーは過小評価されており、実態はアメリカと遜色ないと報告している。

起業を妨げる障壁は依然として高いが、日本には強固な労働倫理、質の高い公教育といった強みがある。新時代の盛田昭夫の登場に期待したい。

 不況の最大の被害者は若者だ

ピュー・リサーチセンターの昨年の調査で、アメリカの世帯構成に大きな変化が起きていることが分かった。米経済が回復基調に入った12年、両親と同居する25~34歳の若者は23・8%と、史上最高を記録。80年代は11%だったから大幅な増加だ。

多世代世帯(2世代以上の成人が同居する家庭)の増加は、アメリカの若者が経済の先行きを悲観している証拠だと、専門家は言う。「若者の雇用と賃金が減った結果、自活能力が低下しているのだろう」と、ピューの報告書は指摘している。

07年以降の大不況で、アメリカでは学生ローンを組んで大学に進んだあと、就職を遅らせ、就職しても十分な賃金を得られない若者が増えた。2010年の16歳以上のアメリカ人(学生・軍人を除く)の雇用率は58%と、史上最低水準を記録した。初婚年齢は上昇し、結婚率は低下した。大卒者でさえ、記録的な数が実家にUターンしている状況だ。

社会人になるのを遅らせたミレニアル世代(80~00年代に生まれた世代)は、親の世代より稼ぎが減り、出世のペースも遅くなるとみられている。

このトレントはヨーロッパ、とりわけフランス、イタリア、スペインで顕著に見られる。ミレニアル世代の多くにとって、核家族を構えることは、これまでになく遠い先の話になった。

日本の教訓 

今どきの若者は、いつまでも親のスネをかじって……。そう考えるのは間違いだ。彼らは働く意欲を持たない「パラサイト・シングル」とは違う。
今の若者も、自分たちが置かれた経済環境に対して合理的に反応しているにすぎない。日本では90年代に、工場でも大企業でも、昔ながらの「日本株式会社」の雇用慣行が崩れ始めた。その余波を一番もろに受けたのは若者たちだ。

パートや派遣社員など、非正規雇用に従事する若者が増えた。それしか働き口が見つからないからだ。労働時間も減った。低賃金で長時間労働をする意味を、若者が見いだせなくなったからだ。そんな彼らが重視するのは、預金残高よりも生活の質だ。

日本で少子高齢化が急速に進行している背景には、こうした事情もある。それを真に是正するには、家族を十分養えるくらいの賃金の雇用を増やし、中間層を維持して、幅広く力強い経済を構築する必要がある。

 多国籍企業を当てにするな

アメリカの最大手クラスの企業は、軒並み史上最高益を計上している。ただし彼らは、オバマが望むように、グローバル市場で稼いだカネをどんどん祖国に還元してはくれない。
代わりにタックス・ヘイブン(租税回避地)に現金をプールし、株主への配当を上げ、国外の新事業を買収し。自社株を大量に買い戻している。
14年半ばの時点で、アメリカの非金融部門の企業が保有する現金は帳簿上で1兆6500億ドル。その多くが本国の税金を逃れるため外国に移転されている。国内で事業を拡大すれば雇用が生まれて中間層が1つが、自社株買いや配当の増額では富裕層が潤うだけだ――オバマはそう嘆いて、多国籍企業は「愛国心がない」と批判している。

日本の教訓 

世界的ブランドになった企業に愛国心を求めても無駄だ。80年代の「日本株式会社」論は、日本企業が政官界との連携を強みにグローバル市場進出に成功したという見方だった。国内の雇用を支えることもこの戦略の一環とされた。

だが90年以降、日本のトップ企業は選択を迫られた。海外に進出して成長するか、国内にとどまり続けて衰退するか。最も優良な企業は前者の道を選んだ。例えば、トヨタと日産。いずれも輸出向けの国内生産重視の方針を変え、海外に生産拠点を移した。

企業にとって、外国の顧客の近くに工場があるほうが効率がいいし、多くの場合、外国のほうが人件費などのコストも安くつく。グローバル化の波に乗った日本企業はアペノミクスの恩恵を受けた。海外で稼いだ純利益がGDPに占める割合は90年代にはわずか1%だったが、14年には円安効果もあって5%に増えた。

しかし、日本企業はまだ政府と国民に対して、彼らが待望する見返りを提供していない。賃金の引き上げ、株主への増配、国内での研究開発投資の増額といった形での還元は「少なくとも今はまだなされていない」と、オリェンタルー・エコノミスト5月号で経済ジヤーナリストのリチャードーカッツは指摘している。

 ポピユリストを警戒せよ

経済の停滞は為政者の運命を狂わせがちだ。その昔、中国では洪水や干ばつや飢饉が王朝の衰退に関わったように、現代でも景気低迷が民主主義国家を倒す可能性がある。

アメリカでは08年秋のリーマン・ショックに端を発する大不況を受けて、旧態依然としたワシントン政治に終止符を打つべく、重い税負担を批判し「小さな政府」を掲げるポピュリスト(大衆迎合的)運動が始まった――草の根保守派連合の「ティーパーティー」だ。

ヨーロッパでは極右および極左政党が台頭。ギリシヤやポルトガルでもポピュリスト政権が誕生している。イタリアでは13年の総選挙でコメディアン出身のベッペ・グリッロ率いるポピュリスト政党「五つ星運動」が4分の1を超える票を獲得した。フランスでは昨年5月の欧州議会選挙でマリーヌ・ルベン党首の極右政党「国民戦線」がフランス第1党に躍進。「3世代にわたりフランスを統治してきた右派・左派政党に対する信頼が崩れている」証拠だとCNNは報じた。

躍進を遂げた非主流派は一様に、古い政治秩序を無能かつ不当と見なし、旧秩序を打破しようと躍起だ。

日本の教訓 

日本の場合、貧富の差は比較的小さく、社会の一体性は強い。そのため、一部の国民の不満を背景に聞こえのいい過激な主張を行う勢力が台頭
する余地が日本には少ない。 こうした点で日本に肩を並べられるのは、北欧諸国くらいのものだ。北欧以外のヨーロッパの国々と中国とアメリカは、社会の分裂を深める経済政策が自国の政治的混迷を招いていると見なすべきだろう。さもないとポピュリスムの炎はますます燃え盛ることに
なる。

 デレバレツジに潜む落とし穴

08~09年、グローバル経済は数十年ぶりの同時不況を経験したが、特に打撃を受けたのはアイルランドやアイスランドといった新興の金融センターだった。サブプライム危機の根底にあったのは――レバレッジ要は債務だ。

07年までは不動産バブルと株価上昇が投資家をかつてないほど豊かにし、多くの消費者が借金してまで分不相応の贅沢に走った。企業はゼロに近い金利で融資を受け、悪い時期に業務拡張を図り、経済の成長が止まると各国政府が介入して大規模な景気刺激策を実施。おかげで1930年前後の大恐慌の再来は避けられたものの、公的債務は危険な水準に膨れ上がった。

デレバレッジとは債務を返済または帳消しにするプロセスだ。米経営コンサルティング会社マッキンゼーの最近の調査によれば、07年以降世界の主要47力国の債務残高総額は17%増加。途上国の債務はそれを上回るペースで膨れ上がっているという(中国だけで過去8年間に4倍になった)。
各国の中央銀行が金利を下げ過ぎているせいだと国際決済銀行(BIS)は指摘する。行き過ぎた利下げは「基本的に市場経済における『長期停滞』に関係している」と、エコノミストでスイスの大手銀行UBSの経済顧問を務めるジョージ・マグナスは言う。

日本の教訓 

デレバレッジは特効薬ではない。度が過ぎれば悲惨な結果を招く。例えばギリシヤではEUからのお仕着せの緊縮策で国の年金制度が破綻、公共医療の基盤が崩れ、失業が広がった。ギリシヤ全体のGDPは10年の債務危機以降25%縮小している。

日本は過去20年間、支出を減らし、金融機関の不良債権を処理し、債務残高を減らすよう、外国から忠告されてきた。マッキンゼーの試算では、日本の債務残高は対GDP比400%と先進国最悪の水準に達している。

しかし日本では個人も企業も倹約ムードで財・サービスに対する民間需要が落ち込んだ。政府は公共投資を増やして財・サービスに対する民間需要の落ち込みをカバーする以外にほとんど選択の余地がなかったと、野村総合研究所のチーフェコノミスト、リチャードークーはみる。

こうした「バランスシート不況」に日本はうまく対処したと、クーは主張する。確かに経済の仲びは鈍いが、破綻してはいない。政府の高齢者や子供や貧困層向け福祉にも、後退は見られない。おかげで市民の暴動は起きておらず、社会不安もEU南部に比べればマシだ。
2000年代前半中国や新興国、欧州米国の成長を尻目に日本だけが「失われた10年」と世界中の経済学者から日本がいかにダメか過剰なまでに揶揄されていた。 
その後も外国の学者やエコノミストらは、長い間、力強い成長を実現できない日本を嘲笑してきた。多くの経済学者は、日本を経済的衰退の危機に対する無策と失敗の典型例と位置付けた。

その先鋒はバーナンキ前FRB議長やローレンス・サマーズ元財務長官、ノーベル賞経済学賞受賞者ポール・クルーグマンやジョセフ・E・スティグリッツなど世界的に有名な経済学者から有名無名のアナリストまでが安易に批判できる対照であった。
特にアメリカを中心とするネオリベラル新自由主義派のエコノミストは、日本に叱責を加え、規制緩和、金融市場の自由化、「ゾンビ企業」の退出「構造改革」を説いた。

何も考えない小泉純一郎はネオリベラル派が説く、「構造改革」を断行したが、社会的副作用は今日まで痕を残している。変わり身の早いクルーグマンは安倍内閣が成立後黒田日銀総裁を支持し、さっさと間違っていた謝罪している。その点はさすがだ!

天に唾を吐いたのか、ブーメランなのか2015年の世界経済は日本の失われた20年と同じく長期停滞の入り口に立たされている。人口の高齢化、所得格差、生産性向上の縮小、雇用創出の鈍化、巨額の債務・・・

欧州米だけでなく中国経済の崩壊は世界経済の減速に拍車をかけ世界は「失われた20年」を経験したバブル崩壊後の日本と同じようになってきている。正月から中国の株バブルとその崩壊状況は、日本以上だ。中国の金融システムの深刻な不調を示唆する最新の事例は事欠かない。日本もしなかった強引な株価下支え策は、この先ますます落ちていく穴を深く掘っているようにしか見えない。

FRB(米連邦準備理事会)の利上げはBRICs諸国からの資金流出に拍車を掛け、これらの国々の財政状況をさらに悪化させるだろう。 事実上のゼロ金利が6年以上も続いているにもかかわらず、先進国の民間投資は弱いままで、完全雇用を維持できない。

 欧米の当局者はかつて日本政府の無索を嘲笑したが、いざ自分達が危機に直面すると、同じようになすすべがないことを露呈したのだ。先進国は深刻な需要不足のため、資産バブルに頼る以外、経済成長を維持できない。各国の指導者が世界経済の新たな立て直し戦略を模索しているが、出口は見えていない。

日本は大型財政政策が唯一の対策だったが、早い段階で公的支出の削減を求める強い圧力が政府にのしかかり景気回復を阻んでしまった。 

残念ながら、民主主義はこの種の景気後退に対処するのには向いていないかもしれない。日本はまだデフレをが完治したわけではない。依然としてGDPの伸びはささやかで、それさえも公的債務を急増させることで何とか維持しているのが実情だ。安倍音三首相は就任から4年目に入ったが、アペノミクスの「第3の矢」、つまり日本経済の構造改革はまだ進んでいないにもかかわらず消費税増税をしたらアベノミクスの命運も尽きる可能性が高い。

それでも日本はデトロイトのような財政破綻に見舞われた主要都市もない。日本の当局者は教育システムと社会保障のセーフティーネットを維持することで、無数の若年層と高齢者を保護しているのが救いだ。

 成長をほしいままに貪り喰っていた中国と独逸の停滞兆候はこの20年間辛い思いをしてきた日本人にとっては”蜜の味”に思えてならない。

日本化する中国の未来 THE GREAT LEAP SIDEWAYS
 【Newsweek】ジョージ・ウェアフリッツ(元北京支局長,元東京支局長)

展望 日本のバブル崩壊と酷似する経済不況のシナリオだが
中国特有の事情が不透明さに拍車を掛けている

中国人民銀行(中央銀行)が景気刺激のために金利の引き下げに踏み切ったのは14年11月のこと。その後も利下げは繰り返された。金融を緩和すれば経済活動は活発になるはずだが、そうはなっていない。生産者物価は急落し、消費者物価の動向も今やデフレが懸念される水準にある。たぶんに水増しされている公式発表の経済成長率も80年代前半以来の低さだ。なぜ、金融緩和が機能しないのか?

中国は長らく資本主義と統制経済の二股を掛けてきた。リーマンーンヨツク後には高成長を維持するため、インフラ事業に莫大な資金をつぎ込んだ。
おかげで景気後退は免れた。しかし、もう限界だ。過去8年で、経済成長率は7%以下に落ち込んだ。実際は3~4%で、さらに減速中との見方もある。

今の中国は、アメリカや日本、欧州と同じような難題を抱え込んでいる。
もはや金融緩和だけでは本物の経済成長を維持できないという現実だ。経済理論からすれば、型どおりの金融政策だけでは逆効果にすらなり得る。資産バブルを膨らませ、金融の不安定化を助長するからだ。長期にわたる住宅建設ブームと青天井の株式市場という中国の状況は、バブル崩壊前夜の日本にそっくりではないか。

実際、中国の株価は2・5倍に膨れ上がった後、昨年の6月に暴落した。これを処理するべく、中国は人民元を切り下げ、世界の為替市場だけでなく国内の株式市場も怯えさせた。

市場の動揺を抑えるため、政府は証券会社を通じて大量の資金を株武市場に注入し、一定水準の株価を維持するよう命じた。資本主義においてはルール違反だが、おかげで株価の暴落は食い止めた。しかし習近平国家主席は高いツケを払わされることになった。市場原理の尊重という彼の評価が地に落ちたからだ。

中国はいよいよ長期停滞期に入ったのか? その兆候は確かにある。生産性の鈍化、労働人口の高齢化、急速に増加する負債。低迷する民間需要を補うため、中国経済は政府主導の投資に大きく依存し続けている。

だが、こうした負の側面は表面的には分からない。きらびやかな都市、世界中を旅行する新たな富裕層、南シナ海から地中海にまで及ぶ中国軍の強気な態度。そして、いつか人民元を世界貿易の主要通貨にさせるという大国としての壮大なビジョンー経済成長を維持するために中国政府がもがいていることなど、みじんも感じさせない。

こうした状況は、ますます日本の陰鬱な記憶を呼び起こさせる。「80年代を覚えている年齢の人なら知っているだろうが、(当時は)みんな日本の勃興を確信していた」と、中国在住の金融専門家マイケルーベティスは指摘する。「しかし、結局は経済の調整がいかに困難かを思い知らされた」

90年以降、日本が輸出と投資中心の経済政策を転換させようとして失敗したのはよく知られた話だ。市場開放と消費者主導の経済戦略を示した「前川レポート」も出たが、その提言は何ら実行に移されなかった。中国版「前川レポート」の出来 「政府は市場に資金を流し続け、バブル崩壊の引き金を引き始めた」と、ジャーナリストのリチャード・カッツは『腐りゆく日本というシステム』(邦訳・東洋経済新報社)で述べている。

一方で中国の習は現代版の「前川レポート」を書こうとしている。「新常態(ニューノーマル)」を掲げ、家計の消費力を高め、経済成長の牽引役にしようというシナリオだ。しかし習は、重厚長大な国有企業を延命させようともしている。これは明らかな矛盾だ。もはや大方の国有企業に成長力はなく、国費の注入という生命維持装置につながれている。

それでも習の処方による経済改革は可能だと、中国政府は考えているようだ。なにしろ新常態は「命令」であって、議論の余地などないからだ。
これに対し、ある匿名の中国人学者は米誌フォーリンーアフェアーズに寄稿して、今の中国は「自己増殖するスタグネーション(経済停滞)に陥りつつあり、それはよほどの経済的、社会的あるいは国際的なショックがなければ打破できない」と警告している。

この学者は中国指導部が直面する「イデオロギー的な行き詰まり」も指摘している。主要産業を牛耳る肥大化した国有企業、いまだ大規模な政策金融を行っている4大国有銀行、党の上層部とつながる特権集団の腐敗、そして巨大な軍部と軍産複合体。いずれも改革に抵抗する保守派だ。

「工場やビルはどんどん建った。しかし経済的な価値はほとんどなかった。空室が目立ち、銀行のバランスシートには赤字が目立つ」――。空室だらけの高層ビル群が立ち並ぶ中国の大都市に関する記述ではない。建設ブームの終焉を恐れる地方政府が簿外に隠した負債を見つけた監査法人の報告書でもない。バブル崩壊前の日本について、かつてガッツが著書に記した文章だ。つまり、今日の中国は30年前の日本に酷似しているということだ。

日本は「土建国家」と呼ばれ、産業の非効率と利権主義で悪名をはせたものだ。中国はもっとひどい。コンサルティング会社のマッキンゼーが指摘するように、07年にGDPの158%程度だった金融機関を含む中国の負債総額は、わずか6年で282%まで膨らんだ。今や世界に冠たる借金大国だ。

中国版「土建国家」は日本以上に厄介だろう。地方政府が管轄地域内の土地売買を独占しているからだ。地方政府の予算の約3割は、土地売買で
賄われている。そして売買には地方政府の設けたペーパーカンパニーが介在する。膨らむ債務を簿外に隠すためだ。

この「融資平台」と呼ばれる地方政府ご用達の資金調達会社は00年頃に出現し、高速道路、鉄道、空港などの大型プロジェクトに利用されてきた。
エール大学の陳志武教授(金融学)によると、地方政府は融資平台に土地の所有権を移転し、融資平台はその土地を担保に開発資金を借り入れる仕組みだ。これなら地価が上昇している限り、借金を続けられる。

しかし最近は地価が急落し、中国は転換点に立たされている。陳の試算では、今後も不動産需要が変わらないとしても、5年分の需要を満たすだけの空き物件が既に存在している。しかも、今後の需要はおそらく減るという。 大きな問題に直面した場合、とりあえず問題を否定したくなるのは世の常だろう。中国指導部が躍起になって不動産バブルの問題を隠そうとする気持ちも、分からないではない。