宇宙から届く「重力波」を米国の研究チームが世界で初めて検出したことが11日、関係者への取材で分かった。アインシュタインが100年前に存在を予言しながら未確認だった現象で、新たな天文学や物理学に道を開く歴史的な発見となった。今後の検証で正しさが揺るがなければ、ノーベル賞の受賞は確実だ。

検出したのはカリフォルニア工科大とマサチューセッツ工科大などの共同研究チーム。米国の2カ所に設置した大型観測装置「LIGO」(ライゴ)の昨年9月以降のデータを解析し、重力波をキャッチしたことを確認した。

重力波は重い天体同士が合体するなど激しく動いた際、その重力の影響で周囲の空間にゆがみが生じ、さざ波のように遠くまでゆがみが伝わっていく現象。アインシュタインが1916年、一般相対性理論でその存在を示したが、地球に届く空間のゆがみは極めて微弱なため検出が難しく、物理学上の大きな課題になっていた。

チームは一辺の長さが4キロに及ぶL字形のLIGOで空間の微弱なゆがみを検出。ブラックホール同士が合体した際に発生した重力波をとらえた。信頼度は極めて高く、検出は間違いないと判断した。欧州チームも研究に協力した。

重力波の観測装置を望遠鏡として使えば、光さえのみ込んでしまうブラックホールなど、光や電波では見えない天体を直接とらえることができる。また、重力波は減衰せずに遠くまで伝わる性質があるため、はるか遠くを探ることで宇宙誕生の謎に迫れると期待されており、宇宙の研究に飛躍的な進展をもたらす。

重力波の検出は1990年代以降、日米欧が一番乗りを目指して激しく競ってきた。米国は装置の感度を従来の数倍に高める工事を行い、昨年9月に観測を再開したばかりだった。

日本は東大宇宙線研究所が昨年11月、岐阜県飛騨市神岡町に大型観測装置「かぐら」を建設したが、米国と同水準の高感度で観測を始めるのは早くても約1年後の予定で、一歩出遅れた形となった
1916年に、一般相対性理論に基づいてアルベルト・アインシュタインによってその存在が予言された後、100年近くにわたって検出が試みられた重力波を初めて観測したと、米国の研究チームが発表した。
日本の東大宇宙線研究所の重力波望遠鏡「かぐら」が3月より観測を開始し始める直前だけに嬉しいやら残念やら・・・
 だが、数億年後必ず滅びる地球から人類が脱出する為の知に大きな飛躍をもたらす歴史的な快挙だ。最大限の称賛を贈りたい。
 観測できる重力波は、地球と太陽の距離(約1億5千万キロ)に対し、水素原子1個分ほどのゆがみだという。研究チームは「直接観測は不可能」とも言われた、わずかなゆがみを捉えた。
 光や電磁波が届かないブラックホールの構造や誕生直後の宇宙の姿は、重力波によって観測の扉が開かれる。原始宇宙で空間が急膨張したとされる「インフレーション理論」、重力波や「暗黒物質」、宇宙を加速膨張させる「暗黒エネルギー」はいずれも正体不明だが、重力波が解明の糸口になるかもしれない。
それより、重力波がどういうものか解明することにより、2016年の現在では想像もできないSFのような画期的な発見や発明が数年後、数十年後出る期待が高い。

「重力波観測」の特報に胸が高鳴る6つの理由
【日経ビジネス】山根 一眞2016年2月15日(月)

(略)

私にとって重力波の発見が「大変だ!!」の理由はいくつかある。

1)アインシュタインの一般相対性理論で予想した重要な物理現象であること。
2)だが、この100年間、確認できなかった最後の課題であること。
3)重力波は空間をゆがませるが、それは想像を絶するほどとてつもなく小さいこと。
4)よって重力波をとらえるなんて、まず、不可能じゃないかと思っていたこと。
5)この分野では日本が新しい観測装置で観測を開始する直前であること。
6)そして、日本がその初観測をなしとげてくれればなぁと期待していたこと。

重力波は「波」の一種だが、100年間、発見されなかったほどの「波」なのだから、私たちにとって身近さはゼロだ。「そりゃ、一体何だ?」と、わからなくて当然(私だって、よくわかっちゃいない)。だが、「大変だ!!」ということはわかる(という思いで、このコラムを書いています)。

「電波の発見」に匹敵

 専門家も、重力波をわかりやすく伝えるのには苦労しているようだが、以下は、とってもわかりやすい説明です(「KAGRA 大型低温重力波望遠鏡」のウェブサイト)。

 人類は、太古よりつい最近まで可視光でしか自然を観察できませんでした。しかし19世紀に入って電波やX線が発見されると、遠くに一瞬で情報を伝えたり、人体や物質の中の様子が観察できるようになりました。そのため今まで全く未知だった世界への扉が開かれ、人類の知識の増大・世界観の変化に大きく役立ちました。

 そう、電波(電磁波)という「波」だって、人は152年前までは存在すら知らなかったのだ。

1864年 英国のマックスウェルが電波(電磁波)の存在を理論予想。
1888年 ドイツのヘルツが電波を飛ばす実験に成功。
1895年 イタリアのマルコーニが無線による通信に成功。
1895年 ドイツのレントゲンがX線の存在を実験で報告。

 電波もX線も、かつては存在すら知られていなかった「波」(電磁波)だが、今、一般の人たちはその理論なんてまったく知らなくても、テレビ、スマホ、カーナビ、がん検診と、これらの波なしにはあり得ない日々を送っている。

 その後も赤外線・紫外線やガンマ線など、次々と新しい「観測手段」が発見されるごとに、未知なる世界が人類に解き放たれています。これらはすべて「波動現象」を利用した情報伝達による自然観察と言うことができます。従って電磁波と同じ「波動現象」である「重力波」も、この歴史にならって新しい観測手段となり人類に未知なる世界を垣間見ることを可能にするであろうと期待されるのです。

 この説明を拡大解釈するなら、重力波の観測・発見は、電波の発見に匹敵するほど、「大変!!」なことなのだ(と、私は受けとめた)。

(略)
マックスウェルが1964年にその存在を予想するまで人間は電磁波の存在を知らなかった。そしてその30年後マルコーニが無線を発明した!

その成果はすぐに役立つわけではないが、もしかしたら30年後重力波を研究することで、人類は今から想像できないような成果を受け取るかもしれない

もしかしたら重力場や重力波を調整する方法が発見されたのならば、時間と空間を制御する方法を人類は手にするかもしれない。もしそうなれば、重力場や重力波を応用してタイムトラベルや、UFOのような画期的な発明を手にするかもしれない。

これは夢物語かもしれないが・・・・人類にとってかなり画期的なことではなかろうか? 


13億年前のブラックホールの合体によって発生した重力波を、米国の研究施設LIGOが世界で初めて検出した。LIGOによる説明動画を紹介。

LIGOのビームチューブの最初の部分。実験施設の直径は4km。LIGOは2002年から2010年の最初の運用では重力波の検出ができなかったため、5年間で改良を行い、2015年9月、総額6億2000万ドルをかけた「世界最大の重力波施設」が完成した。                                                         
レーザー干渉計重力波検出器「LIGO」(Laser Interferometer Gravitational Wave Observatory)を使った実験を続けている科学者らが2月11日(米国時間)に大規模な記者会見を開催し、重力波を世界で初めて検出したことを明らかにした。重力波とは、重力の強い相互作用が生み出す時空のさざ波のことだ。
この波は、ブラックホールの合体が起きる最後の瞬間に発生したもので、2015年9月14日午前5時51分(米国東部時間)に地球に到達し、ルイジアナ州リヴィングストンとワシントン州ハンフォード・サイトに設置されているLIGOの検出器によって捉えられた。ルイジアナ州の検出器の方がこの信号を数ミリ秒早く捉えた(以下の画像)ため、この重力波を発生させた事象は南半球の方向で起こったことになる。



LIGOの研究チームは、検出した信号の解析結果から、今回の重力波の元になった事象が起こった時期を13億年前と推定している。このとき、質量が太陽の29倍を超えるブラックホールと、36倍を超えるブラックホールが、らせん状にぶつかって合体。この合体が起きた直後に、太陽の3倍に相当する質量がエネルギーに変わり、重力波となって放出されたという。この信号が発生した事象によって、ほんの一瞬の間に、可視宇宙の残り全部が合体したときよりも強力なエネルギーが生み出されたことになる。
このような事象が発生することはきわめてまれだ。だが、そのひとつの検出に成功したという事実は、今後同じような事象がいつ発生しても捉えることのできるハードウェアを手にしたことを意味する。新しい波長を観測する能力を手にしたようなものだと言えるかもしれない。
ブラックホールの専門家であるキップ・ソーンは次のように述べている。「今回の新しい発見により、われわれ人類は驚くべき新たな探求の旅に乗り出すことになる。これは、宇宙の“ゆがんだ側面”を探求する旅、つまり、時空のゆがみによってつくり出される現象を探求する旅となる」
LIGOでは、この天文学研究の精度をさらに高めるため、同じようなアプローチで研究を行っている欧州の検出施設「VIRGO」と提携する予定だ。また、日本も同様の検出施設「KAGRA」を計画しているほか、インドにLIGOのような検出施設を建設する交渉が進められている。4つの検出施設が稼働すれば、重力波を発生させた事象について、「南半球のどこか」ではなく、さらに正確な場所を発表できる日が来るかもしれない。



天文学に新たな道を開く重力波の初検出。大発見の背景と今後の展望を探る。



「重力波を検出した。われわれはやった」

研究チームを率いる米フロリダ大のライツィー教授は会見でこう話し、笑顔で両手を広げた。会場から一斉に歓声と拍手がわき起こる。アインシュタインが100年前に示した予言を、米国が実証した“勝利宣言”の瞬間だった。

「ガリレイは400年前、望遠鏡を空に向け現代の観測天文学を開いた。それと同じくらい重要な成果だ」。ライツィー氏は誇らしげに意義を説明した。

中継映像を見ていた大阪市立大の神田展行教授は「すごいことだ。重力波のみならず、ブラックホールを人類が初めて直接観測した大快挙で、ものすごく感動している」と語った。

日本の研究者は歴史的な偉業に賛辞を惜しまない。だが胸中には、無念さもあるはずだ。東大宇宙線研究所が岐阜県に建設した大型装置「かぐら」が来月に観測を開始する矢先の出来事だったからだ。

「悔しさよりも、重力波天文学がエキサイティングな時代に入ったことを、よかったと思う」。同研究所長の梶田隆章氏は12日の会見で、こう語った。

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米国チームが重力波をとらえたのは大型装置「LIGO」(ライゴ)。一辺の長さが4キロに及ぶL字形の巨大施設で、ワシントン州とルイジアナ州に計2台ある。1992年に建設計画がスタートし、2002年に稼働した。

日本はなぜ米国に先を越されたのか。宇宙論の佐藤勝彦東大名誉教授は「実力の差が大きかった」とみる。「米国は日本よりずっと以前から、長い時間をかけて、多くの人と金を使ってきた圧倒的に巨大な組織。一番乗りしたのは自然なことかもしれない」

LIGOの総工費は約1千億円で、チームが発表した論文には千人もの研究者が名を連ねた。これに対し日本のかぐらは総工費155億円、研究者は約250人で大きな開きがある。

ただ、装置が本格稼働したときの性能はほぼ同水準で、日本がもっと早く観測に入っていれば同時に検出できた可能性もある。

日本学術会議は平成17(2005)年、「大型装置の早期実現を望む」と表明したが、国の予算がついたのは22年。4年後の観測開始が計画されたものの、東日本大震災でトンネルの掘削工事が約1年中断し、さらに遅れを招いた。

東大の安東正樹准教授は「予算がついていれば、という思いはある。しかし、技術的に可能だったかというと、何ともいえない。力不足もあった」と明かす。

米国は装置の感度を10倍に高める工事をしていたが、いったん中断。昨年9月、数倍に向上した段階で観測を再開し、その直後にブラックホールの合体で生じた重力波が地球に届いた。運も味方した形だが、佐藤氏は「準備した者には幸福が訪れるということだ」と話す。

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米チームは米国立科学財団(NSF)から資金援助を受け、技術に磨きをかけてきた。財団のコルドバ長官は「資金援助は大きなリスクだったが、NSFはリスクをとる機関だ」と話す。基礎研究を支える体制も日米で差があった。

世界初の栄誉は逃したかぐらだが、価値を失ったわけではない。重力波は1台の装置で検出しても、それが宇宙のどこから来たのかは分からない。日米欧が協力して複数の装置で観測することで、発生源の方角を特定できるからだ。

一番乗りを目指してしのぎを削ってきた日米欧はライバルであると同時に、科学の真理を追究する同志でもある。日米欧の計4台の装置が力を合わせることで宇宙と天体の理解を進めることができると、ライツィー氏は強調した。

かぐらの近くにある素粒子観測施設での研究でノーベル賞に輝いた梶田氏。かぐらでもノーベル賞級の成果を狙うのかと聞かれ、こう答えた。

「やってみないと分からないので予言は難しいが、科学者なら当然だ」

暗黒世界の扉を開く…重力波は鳥のさえずりのような不思議な音色だった


「アインシュタインは正しかった! 重力波の検出おめでとう。宇宙を理解するための突破口だ」

米オバマ大統領は米チームの発表直後、ツイッターで歴史的な快挙を祝福した。

ニュースは世界中を駆け抜けた。闘病を続ける英物理学者のホーキング氏は「観測結果は私が1970年代に行ったブラックホールの理論研究と一致している。自分の予言が実際に観測されるのを、生きているうちに見ることができ、わくわくしている」とネット上で心境を明かした。

ホーキング氏が胸を躍らせたのは、これまで直接観測できなかったブラックホールを、重力波で初めて「見る」ことができたからだ。

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ブラックホールは非常に重い天体で、その巨大な重力で全てのものを吸い込んでしまう。光さえも脱出できない「黒い穴」のような存在だ。光や電波を観測する望遠鏡では、決して見ることはできない。

だが米チームは2つのブラックホールが衝突、合体する際に生じた重力波をキャッチ。そのダイナミックな“実像”を映し出す驚くべき成果を挙げた。

日本の観測装置「かぐら」チームの安東正樹東大准教授は「ブラックホールの合体は、すぐに見つかる可能性は低いと考えられていたので予想外だ。新しい天文学が幕を開けた」とたたえた。

重力波は「聞く」こともできる。米チームは空間のゆがみである重力波を、空気の揺らぎである音波に変換して公開した。はるか13億光年離れた場所から、地球に届いた宇宙の響き。それは鳥のさえずりのような不思議な音色だ。

大阪市立大の神田展行教授は「重力波の観測は、目で見るより耳で聞くのに近い感覚だ。寺の鐘の音が高ければ小さい鐘、低ければ大きい鐘と想像できるように、星の重さなどを推定できる」と解説する。

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重力波研究のターゲットはブラックホールなどの天体だけではない。最も期待されるのは宇宙誕生の謎の解明だ。

宇宙は138億年前の誕生直後、ビッグバンと呼ばれる現象で超高温の火の玉になったと考えられている。空間は物質の原料となる素粒子で埋め尽くされ、光は邪魔されて真っすぐ進めない状態になった。その後、宇宙は徐々に冷えて素粒子同士が結合し空間に隙間ができ、38万年後には光が差し込む「晴れ上がり」を迎えた。

望遠鏡で見ることができるのは晴れ上がってからの宇宙で、それ以前の「暗黒時代」を観測する手段を人類は持っていない。だがこの原始宇宙は、空間が急膨張した時期でもある。空間のゆがみの痕跡を重力波として観測すれば、暗黒時代の重い扉が開かれる可能性があるのだ。

特に注目されるのは、ビッグバンの直前に起きたとされる加速度的な急膨張の解明だ。「インフレーション理論」で提示されたシナリオで、これが実証されると宇宙誕生時の姿が見えてくる画期的な発見になる。

原始重力波は宇宙膨張によって引き伸ばされ、ブラックホールなどの場合よりも長い波長で届く。非常に微弱で地球では検出できず、より高感度観測が可能な宇宙でとらえる構想が進んでいる。

インフレーション理論の提唱者の一人で東大名誉教授の佐藤勝彦氏は「原始重力波の直接観測は今世紀末までには必ず実現し、宇宙誕生の現場を描き出すだろう」と期待を寄せる。

宇宙はどのように誕生し今日の姿になったのか。人類が古来、抱き続けてきた大いなる疑問だ。重力波はその謎を解く究極の鍵として、重要な手掛かりを与えてくれるだろう。



この企画は草下健夫、黒田悠希、伊藤壽一郎が担当しました。




宇宙の謎に挑む究極の手段

 アインシュタインが100年前に存在を予言し、宇宙の謎を解く鍵として注目される「重力波」。その直接観測に挑む取り組みが国内外で加速している。成功すればこれまで観測が不可能だった天体現象や、原始宇宙の解明に迫る大きな成果が期待されている。(草下健夫、黒田悠希)

物体の周りの空間は、その重力によってゆがめられている。物体が動くと、空間のゆがみはさざ波のように周囲に広がっていく。これが重力波だ。アインシュタインが1916年、一般相対性理論でその存在を示した。

重力波は人が腕を動かしても生じるが、波動が小さいため観測できない。検出可能なのは中性子星という非常に重い星同士の合体やブラックホールなど、巨大エネルギーを放つ天体現象によるものだ。

光や電波と違って全ての物質を貫通し、減衰せずに伝わっていく。このため天体の内部や、はるか遠くの原始宇宙で発生した場合でも地球に届く。検出できれば、人類は宇宙の究極の観測手段を手に入れることになる。

成功ならノーベル賞

米国のハルスとテイラーは79年、互いに回転し合う2つの中性子星の運動の変化から重力波の存在を間接的に証明し、93年にノーベル賞に輝いた。直接観測に成功すれば、これもノーベル賞は確実だ。

重力波が到達すると空間にゆがみが生じ、距離がごくわずかに伸びたり縮んだりする。そこで考案されたのがL字形の観測装置だ。中心から2方向にレーザーを発射し、先端に置いた鏡で反射して戻るまでの時間に差が生じれば空間がゆがんだと分かり、重力波の検出につながる。

日本は99年、小型の装置を東京都三鷹市に設置し観測を開始。今世紀に入ると米国に1辺の長さが4キロ、イタリアに3キロの大型装置が完成し、高感度の観測が始まった。だが検出可能な天体現象は150年に1回程度しか起きない。地上に建設したため風や人間活動による振動で感度が低下した影響もあり、期待薄の状態が続いてきた。

日米欧の競争激化

世界初の検出を目指す東大宇宙線研究所は昨秋、岐阜県飛騨市神岡町に大型装置「KAGRA」(かぐら)を完成させた。固い岩盤の地下に建設したのが最大の特徴で、地上と比べ振動は1%以下と少ない。3月中旬に試験観測を開始。2017年度に本格観測に入れば、1年以内に検出できるとみている。

米欧も負けじと振動対策やレーザーを強化する改良を進めており、年内にも工事を終える。日米欧は本格観測時にほぼ同水準の性能になりそうで、競争の激化は必至だ。

重力波の観測装置は宇宙の神秘を探る新たな望遠鏡の役割を担う。ノーベル賞を昨年受賞し、同研究所長としてかぐらを統括する梶田隆章氏は「一刻も早い検出を目指し、重力波天文学を国際協力で創成したい」と話している。

地下空間に独自技術の結晶

観測装置「かぐら」の現場を昨年11月に訪れた。国道から車で山道に入ると、ほどなくトンネルに到着。ヘルメットを着けて中へと歩いた。

時折、自転車に乗った研究者とすれ違う。観測チームの三代木伸二准教授は「ここを走れるのは電気自動車と自転車だけ。トンネル内に排ガスがたまると体に悪いから」と話す。

5分ほど歩くと、L字形装置の中心部である中央実験室に到着。地中なのでひんやりした空間を想像していたが、セ氏22度と暖かい。機器に悪影響を与えるほこりを徹底的に除去するため100台超の空気清浄機が稼働しており、その発熱が原因という。

ひときわ目立つのが高さ約4メートルの冷却装置。本格稼働時には、ここに直径22センチのサファイアの単結晶でできた鏡を収納する。氷点下253度に冷やし、熱による鏡の振動を極力抑える独自の工夫だ。

中央実験室の先には、レーザーが行き来する真空パイプが3キロ離れた先端へ真っすぐ延びていた。かぐらは7億光年かなたから届く重力波もキャッチするという。人類の宇宙の探究は、ここからどんな展開を見せていくのだろう。

原始宇宙の急膨張を検証

重力波観測のターゲットは天体現象だけではない。宇宙創生の謎を解き明かすため、初期宇宙で発生した「原始重力波」を探す試みが世界的に進んでいる。

南米チリのアタカマ高地。標高約5千メートルの砂漠で、望遠鏡を使った「ポーラーベア」と呼ばれる観測が行われている。原始重力波の痕跡を世界に先駆けて検出しようという日米欧などの国際プロジェクトだ。

宇宙は約138億年前の誕生直後、アメーバが一瞬で銀河サイズになるほどの急激な膨張を起こしたと考えられている。「インフレーション理論」と呼ばれる仮説で、佐藤勝彦自然科学研究機構長らが1980年代初頭に提唱した。観測で証明されればノーベル賞受賞の期待が大きい。

残念ながら現代の地球で初期宇宙を直接見ることはできない。光が直進するようになったのは、宇宙誕生の38万年後に「宇宙の晴れ上がり」という現象が起きた後のことだからだ。このときの光は「宇宙背景放射」と呼ばれる。

太古の宇宙で起きた急膨張は時空をゆがませ、重力波を発生させたはずだ。この原始重力波は、偏光という特殊な電波を宇宙背景放射に残したと考えられている。ポーラーベアが探すのは、この現象に特有の渦巻き模様だ。

観測に携わる高エネルギー加速器研究機構の羽澄(はずみ)昌史教授は「インフレーション理論が検証できるだけでなく、宇宙の全く新しい概念や根本的な原理が見えるかもしれない」と声を弾ませる。

羽澄教授は米国と共同で渦巻き模様を地上より高精度に観測するため、「ライトバード」という衛星を日本主導で打ち上げる準備も進めている。「時期は未定だが2025年頃と予想する。世界1位の感度が得られるはず」と意気込んでいる。

宇宙で直接観測の構想も

原始重力波の直接観測を目指す動きもある。日本の大学や国立天文台などの研究者が提案する「DECIGO」(デサイゴ)は地表の振動の影響を受けず、超高感度の観測が可能な宇宙空間で原始重力波をとらえる構想だ。

3基の観測機を打ち上げ、1辺が1000キロに及ぶ巨大な正三角形の頂点に1基ずつ配置。互いにレーザーを発射して距離を計測し、地球では検出できない微弱な原始重力波をとらえる仕組みだ。成功すれば、インフレーション理論の詳しい理解につながる。

2030年頃の実現を目指すが、実証機の開発が昨年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の内部選考で落選してしまった。

東大の安東正樹准教授は「宇宙の誕生と進化の謎を解き明かすことは、科学の究極の目標の一つだ」と観測の重要性を訴えている。

米首都ワシントンのナショナルプレスクラブで開かれた記者会見で重力波の初観測について発表するLIGOのデービッド・ライツェ所長(2016年2月11日撮影)〔AFPBB News
「重力波検出」の報道があり、深く静かに衝撃を受けています。

 最初に経済誌コラム的な部分を書けば、この業績が事実と認められたら間違いなくノーベル賞を取るに決まっています。

 あれは毎年出るもので、珍しいものでも何でもない。日本国内で基礎科学の賞として話が通りやすいのでノーベル賞、ノーベル賞と言いますが、今回のケースは、そんなレベルにとどまる話ではなく、事実ならば画期的な新たな一歩を私たち人類の宇宙理解にもたらすことになります。

 それに関連していくつか記してみたいと思います。

何が素晴らしいのか?

 最初に、この業績の何が画期的で素晴らしいのかを端的に記しておきましょう。

 「ブラックホールが直接観測できるようになる」という、私が生きている間には不可能ではないかと思っていた、新しい科学の世界の扉が開いた。正直相当びっくりし(あまりにあっけなく突然だったので)また心底嬉しくて仕方がありません。

 中学高校生以来、あるいは大学で物理学科の学生時代以来の、ある知的興奮を抑えることができない。

 と言うのは、これ、何に似てるかというと、小柴昌俊さんのカミオカンデの第1報にちょっと似てるんですね。

 私たちが子供の頃、「ニュートリノ」というのは「見えないもの」、何でも突き抜けてしまう電気的に中性な微粒子(中性微子)と習っていたわけですが、ちょうど大学の物理学科に在学していたとき、最初の超新星爆発によるニュートリノを古い方のカミオカンデが捉えた。

 世界で始めてニュートリノの直接観測だ、というので沸き立ちましたが、世の中の報道は「ニュートリノとは何であって・・・」みたいな話が出回ったりした。

 そうじゃない、ニュートリノが何か、以上に、ニュートリノを捕まえることができたテクノロジーが素晴らしい。

 また、それによって可能になった新しい世界、宇宙から降り注ぐニュートリノを観測するニュートリノ天文学が創始されたことが素晴らしく(小柴氏のノーベル賞受賞理由はこれ)、また今までは幽霊でしかなかったニュートリノを実際に捕まえられるようになったので、その物理的性質を調べることで、物理法則の究極を確かめることが可能になった。

 そこで問題設定してチャレンジが成功したのが、この間、東京大学の梶田隆章さんにノーベル賞がやって来た「ニュートリノ振動」ニュートリノ質量の観測という本質的な仕事だったわけです。

全く同様に述べていくなら

 私たちが子供の頃、「ブラックホール」というのは「見えないもの」、何でも吸い込んでしまう宇宙の暗黒天体と習っていたわけですが、今回ちょうど、最初のブラックホール連星系の融合に伴う重力波を(今後間違いなく古い方の、と言われるようになる)LIGO干渉計システムが捉えた。

 世界で初めて重力波の直接観測だ、というので沸き立ちましたが、世の中の報道は「重力波とは何であって・・・」みたいな話ばかりでしょう。科学を本質的にあまり分かっていない、と言うより、たぶんあまり興味のない科学担当の方が作ったのでは、と思うような記事ばかり目にします。

 例えば、NHKの一報を再度リンクしておきましょう。

 そうじゃない、重力波が何であるか以上に、重力波を捉まえることができたテクノロジーが素晴らしいし、また、それによって可能になった新しい世界、宇宙から頻繁に押し寄せる重力波を観測する重力波天文学が創始されたことが素晴らしいんでしょう? 

 もっと分かりやすく言えば「ブラックホール観測天文学」です。

 これはすごいことです。どれくらいすごいかと言うと、今までは幽霊でしかなかった重力波を実際に捉まえられるようになったので、その物理的性質を調べることで、一般相対論ならびにそれに量子力学を適用した基礎理論から、宇宙の究極を確かめることが可能になったのです。

 そこで今こそ、無数の問題設定が可能になり、このあいだ梶田さんに降ってきたみたいな重力の本質的問題にもアプローチが可能になり、ここから本当の意味での物理法則の統一理論、つまり重力を含む超統一理論に向けての、最初の実験結果、ファクトが得られたという、生きている間に遭遇するとは思っていなかった朗報に出くわし、静かな知的興奮ですがどうにも抑えることができません。

「ブラックホール」の最初の直接観測

 先ほどのNHKの解説など最低最悪と思うのは、こんなアホダラ経ではせっかく子供たちがこういう歴史的な発見に触れても、その躍動感も感動も宇宙への憧れも究極の科学への情熱も何も得ることができないからです。

 なぜって、これを歴史的発見と理解できず、躍動感も感動も宇宙への憧れも究極の科学への情熱もへったくれも何ももってない人が書いたと一目で分かる原稿だから・・・。実際に引用してみましょう。

 「重力波は、ブラックホールなどの天体によって生み出された宇宙空間の『ゆがみ』が波となって伝わる現象で、研究チームによりますと、2つのブラックホールが合体するときに出た重力波を去年9月に観測したということです」

 「2つのブラックホールは、質量がそれぞれ太陽の29倍と36倍と極めて大きく、観測された重力波は13億年前に出たものだと説明しています。重力波はこれまで直接観測されたことがなく、アメリカだけでなく日本やヨーロッパなど世界の科学者が観測を目指していました」

 こんなふうに書いてしまうと「ブラックホールありき」になってしまうでしょうが。違うんです。理論的には存在すると思われる「ブラックホールと思しい天体」は20世紀後半から少しずつ増えてきました。

 でも以前はあくまで傍証だけであって、ブラックホールそのものを直視することはできなかった。それが発するX線など傍証で見ていたに過ぎず、それをもって「ブラックホールなのだろう」と解釈していた。

 言ってみれば、暗闇で向こうから人がやって来た。顔は見えないけれどドギツイ香水の臭気を発しているので誰それと察せられる、というような状態ですね。

 今回のシグナルはそうではない。露骨に2つのブラックホールがぶつかって合体し、1つに融合するとき、ゆがみがだんだん速くなってピークが出て・・・という動き、ダイナミクスが見えている。もう、こんな知的興奮を味わうのは相当久しぶりというくらに驚くべきデータが公表されている。

 ところが何も理解せず、右から左に、小学生のできの悪い作文みたいなものが、天下の報道機関から発信されている。

 「観測に成功した『LIGO重力波観測所』は、アメリカの西部ワシントン州と南部ルイジアナ州の2か所に施設があり、研究チームを率いるカリフォルニア工科大学のデビッド・ライツィー教授は会見の冒頭で「重力波を観測したぞ!」と叫び、喜びを表していました」

 この後半の作文としての救いようのなさは、もう言及する価値もないので捨て置きましょう。問題は、それと同レベルに救いがたい前半部分にあります。「米国西部ワシントン州と南部ルイジアナ州」という言葉が無意味に並んでいますが、これをきちんと斟酌しなければ、報道する価値は一切ありません。

 ワシントン州というのはシアトルなどのある米国最西北端で、すぐ北にはカナダのバンクーバーなどがあるところです。

 一方、ルイジアナ州はメキシコ湾に面してテキサスとアラバマに挟まれた東南部、正確な距離をどう表現すればよいか分かりませんが3000キロは余裕で離れており、日本列島を定規に見立ててワシントン州に北海道を宛がっても、九州南端の鹿児島はまだルイジアナに届かないくらいの距離があります。

 今回の測定が、まず間違いなく重力波であろうと結論されるポイントを端的に言うなら、網走と沖縄くらい離れた2か所で、完全に独立して、同じ精密の粋を尽くした機器=干渉計で重力波を検出しょうとしたら、運転2日目で全く同じと解釈される信号が出てきたことから「事実であろう」つまりファクトと考えられるというわけです。

 逆に言えば、今現在の状態は「2つのデータが同じ形だよ」という段階にとどまっているわけで、本来ならその形、つまり重力波とされる信号の波形ですね、これは今から13億年ほど前に、質量がおのおの太陽の29倍と36倍という、太陽系の尺度から言えば途方もない巨大なブラックホール同士が合体、融合し、その結果歪んでしまった時空間のひずみが、そのまま伝播してきて、全く別の場所で同一の信号として観測されたよ、と言っているわけですね。

 2か所の距離が長く取ってある理由など、ほかにも基礎的な事柄がいくつもあり、またNHKの原稿も、ずっと尻尾の方に行くと、少しは解説めいたことが書いてあるのですが、ヘッドラインしか読まないプライムタイムのニュースでは、前記の何も言っていないのと同様の文言しか放送されないわけで、これでは何の意味もありません。

 従来はあくまで、周りから発せられる香水のにおいならぬX線などから、間接的にその巨大な質量や内部、外部での(常識を完全に超越した一般相対論的な、さらには量子竜力理論的な)すさまじい現象を推察するにとどまっていたのが、本当に巨大密度の質量同士が亜光速で引きつけ合うとき、あたかも弾性体のように「ボヨ・・・ヨヨヨン」と加速しながら時空間を歪ませている「らしい」という、すさまじい結果を淡々と示すことに成功した。

 「君はブラックホールを見たか? 僕らは重力の波、時空のひずみという新しいヒカリで、初めてブラックホールの揺らぎを直接見たんだぞ!」

 というのが、このニュースを物理の目と科学に惹かれる少年の心で見るとき、ナイーブな感想の1つ(私はそう思った、というだけですが)だと思います。

 こんなレベルの作文を報道と称して散布して、子供の理科離れもへったくれもあるものか。久々に・・・一昨年のSTAP詐欺はあまりにレベルが低く、心など全く動かされませんでしたが、そんなもの比較にならぬほど・・・メディアの質の低下に若干の怒りすら覚えています。

 科学というのは「ファクト」です。そしてその正確な「出来事」を観察できる、新しい「顕微鏡」技術が確立された。その事実に素直な心で驚かねば、こんな歴史的な事態を前に、あまりにもったいないし、特に子供には柔らかな心をもって、しっかり受け止めて感動してほしい。

 これから地球上の様々な場所に、重力波干渉計が設置され、日常茶飯事としてブラックホールを直接観察するという、全く新しい未曾有の時代がすぐにやってくるでしょう。

 単に天文学と言うにとどまらず、宇宙の大域的構造から、私たちの宇宙が従う物理法則の根幹にいたる、決定的なファクトが、この新しい技術の先で見出されていくでしょう。

 あたかも、ひずみなく正しくものを拡大できる顕微鏡が発見されたことで、多くの病原菌が見出され、またその病原菌を退治する抗体療法や抗生物質など、あらゆる医学生命科学の発展がその先で可能になったように・・・。

 少し予定を改め、次回もこの科学史的な大転換に関連して、もう少しお話してみたいと思います。