日本は何と偉大な国だろう、大学や企業が失敗を恐れずに困難な研究開発課題に果敢に挑み(チャレンジ)、新たな成長分野を切り開いていく(イノベーション)、 新たな科学技術のシステムを始めた。政府の科学技術・イノベーション政策の司令塔である総合科学技術・革新的研究開発推進プログラム ImPACTである。


原子力発電所などで生じる放射性廃棄物の処理問題は日本のみならず世界的な問題である。現在高レベル放射性廃棄物はガラス固化し安定した大深度の地下地層に廃棄するしか選択肢がないが、根本的解決策ではない。長期間保管に不安であり後の世代に負担を強いる。

世界に先駆け有害な放射線を何十万年も出し続ける「核のごみ」などを、無害な別の物質に変えてしまう「核変換」技術を確立し、何百万年も放射能を放す物質を安定核種や短寿命核種に核変換し、廃棄物の放射能を効率良く弱めたり、パラジウムやモリブデンなどの貴重資源を採集する方法を開発することにより「核のごみ」などを無害化する研究を2014年に始めた。

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そして、理研がその第一歩として世界初の破砕反応データ取得に成功した。
要旨
理化学研究所(理研)仁科加速器研究センター櫻井RI物理研究室のワン・へ国際特別研究員、櫻井博儀主任研究員と多種粒子測定装置開発チームの大津秀暁チームリーダーらの研究チームは、理研の重イオン加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)[1]」を用いて、放射性廃棄物の主要な成分であるセシウム-137(137Cs、原子番号55、質量数137)とストロンチウム-90(90Sr、原子番号38、質量数90)を不安定核ビームとして取り出し、破砕反応[2]のデータ取得に世界で初めて成功しました。

原子力発電所などで生じる放射性廃棄物の処理問題は日本だけでなく、世界的な問題です。この問題を解決するためには、長寿命の放射性核種[3]を、安定核種もしくは短寿命核種に効率良く核変換し、放射能を弱める方法を開発することが必要です。そのためには、開発の基盤となる核反応データを取得することが重要です。

研究チームが着目した137Cs(半減期30.1年)と90Sr(半減期28.8年)は、熱中性子捕獲反応[4]では、核変換しにくいことが知られています。そこで核変換の反応として、陽子と重陽子[5]を照射することにより、これらの放射性核種を壊す反応(破砕反応)を考えました。しかし、137Csと90Srの破砕反応の確率やどうような核種にどれだけ変わるのか、その基礎データはありませんでした。そこで研究チームは、RIBFを用いて137Csと90Srをビームにし、陽子と重陽子を標的にして照射する「逆反応法[6]」を利用してデータを取得しました。

実験の結果、陽子や重陽子に137Csと90Srのビームを照射することで起こる破砕反応の確率は、熱中性子捕獲反応に比べて、137Csで約4倍、90Srで約100倍大きいことが分かりました。また、重陽子は陽子に比べて、破砕反応が起こる確率が約2割大きく、ビーム核種を軽い核にする能力も高いことが明らかになりました。これは、陽子だけでなく重陽子ビームを利用した方法も破砕反応法には有効だということを示しています。さらに、反応後の原子核の半減期の分布から、137Csは89%、90Srは96%の確率で安定核もしくは半減期1年以下の短寿命核に核変換されることが分かりました。今後、RIBFで多種多様な核変換データを取得し、効率の良い核変換法を模索していきます。

本研究は、文部科学省・原子力システム研究開発事業の委託費(平成25~26年度)で推進されました。成果は、欧州の科学雑誌『Physics Letters B』のオンライン版で1月11日より公開され、3月10日号に掲載されます。

背景
原子力発電所などで生じる放射性廃棄物の処理問題は日本のみならず世界的な問題です。この問題を解決するためには、放射性廃棄物に含まれる長寿命放射性核種を安定核種や短寿命核種に核変換し、廃棄物の放射能を効率良く弱める方法を開発する必要があります。

長寿命放射性核種は、ウラン燃料の中性子捕獲によって生成されるマイナーアクチノイド[7]と、ウランの核分裂よって生成される核分裂生成物に大別できます。マイナーアクチノイドについては、高速増殖炉や加速器駆動型原子炉などで得られる高速中性子を利用した核変換が長年にわたって研究されており、基礎的・系統的な反応データの蓄積があります。一方、核分裂生成物については核変換に関連する反応データはほとんど取得されておらず、放射能を効率良く弱めるための基盤開発・技術開発が進んでいません。

研究チームは、核分裂生成物の中でも大きな比重を占めるセシウム-137(137Cs、原子番号55、質量数137)とストロンチウム-90(90Sr、原子番号38、質量数90)に着目しました。これらの核種は、熱中性子の捕獲確率が小さいため、原子炉内で核変換されず放射性廃棄物として残ります。すなわち、熱中性子捕獲反応(熱中性子を利用した核変換)では効率が上がりません。そこで研究チームは137Csと90Srを核変換するための反応として、陽子や重陽子ビームをこれら核種に照射し壊す反応(破砕反応)を考えました。破砕反応は、高エネルギー陽子や重陽子ビームを壊したい核種(標的核)に衝突させ、標的核を壊し、他の軽い核種に変える反応です。137Csと90Srの場合、破砕反応の確率はほぼ原子核の大きさで決まるため、熱中性子捕獲反応による核変換の確率よりも大きいことが予想されました。しかし、これら核種の破砕反応の確率やどうような核種にどれだけ変わるのか、その基礎データはありませんでした。

研究手法と成果
研究チームは、137Csと90Srを理研の重イオン加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)」を用いてビームにし、陽子と重陽子を標的にして照射する「逆反応法」を使って137Csと90Srがどのような核種にどれだけ壊れるかを調べました。

まず、RIBFの超伝導リングサイクロトロン(SRC)[8]で光速の約70%(エネルギーで核子当たり345 MeV)まで加速したウラン-238(238U、原子番号92、質量数238)ビームをベリリウム標的に照射しました。その後、照射により核分裂反応で生成した137Csと90Srを超伝導RIビーム生成分離装置(BigRIPS)[9]を用いてビームとして取り出しました。取り出したビームの速さは光速の約60%(エネルギーで核子当たり186~187 MeV)で、この高速の不安定核ビームを陽子と重陽子の標的(二次標的)に照射し、反応生成物を下流のゼロ度スペクトロメータ[10]で捕らえました(図1)。

逆反応法の利点は3つあります。1つ目は、137Csと90Srの厚い標的を用意する必要がない点です。これらの核種で厚い標的を作ると放射能が高くなる問題が生じます。2つ目は、ビーム種と反応生成物を一つひとつ粒子として識別することができる点です。これにより、137Csと90Srがどのような核種にどれだけ壊れるのかを正確に調べることができます。3つ目は、陽子標的と重陽子標的の違いを調べる際に、ビームのエネルギーを揃えてデータを取得することが容易な点です。ビームのエネルギーはBigRIPSの設定で決まり、いったん設定を固定した後は、標的を変えるだけで系統的なデータを取得できます。

実験の結果、陽子や重陽子に137Csと90Srのビームを照射することで起こる破砕反応の確率は、熱中性子捕獲反応に比べて、137Csで約4倍、90Srで約100倍大きいことが分かりました(図2)。また、標的の陽子と重陽子を比較すると、破砕反応の確率は重陽子の方が約2割高く、ビーム核種を軽い核にする能力が高いことが分かりました。これは、陽子と中性子で構成される重陽子が、137Csや90Srと反応する際に陽子と中性子がバラバラに反応に関与せず同時に反応するからだと考えられます。

過去に137Csや90Srを核変換する反応として、高エネルギー陽子を利用した破砕法が考慮されたことがありましたが今回の結果で、陽子だけでなく重陽子ビームを利用した方法も有効であることが示されました。

137Csと90Srのビームを重陽子に照射した後に生成された原子核の半減期の分布を図3にまとめました。陽子に照射した後に生成された原子核の半減期の分布も、ほぼ同じようになりました。137Csでは生成された原子核の89%、90Srでは96%が安定核もしくは半減期1年以下の短寿命核です。生成された原子核の中には長寿命のセシウム-135(135Cs、質量数137、半減期200万年)とセレン-79(79Se、原子番号34、質量数79、半減期30万年)も含まれました。137Csから135Csが、90Srから79Seが生成する確率は、研究チームのデータからそれぞれ約6%、約0.1%と小さいものでした。これらの核種の半減期は、137Cs(半減期30.1年)や90Srの半減期(半減期28.8年)に比べて非常に長いため、崩壊の頻度が低く、137Csと90Srと比べると放射能にはほとんど寄与しないことが分かりました。

今後の期待
今回の実験により逆反応法を利用することでこれまで測定できなかった、長寿命放射性核種の核反応データが取得可能なことを世界に先駆けて示すことができました。この実験手法の開発が契機となり、仁科加速器研究センターは、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「核変換による高レベル放射性廃棄物の大幅な低減・資源化」事業に参画することになりました。今後、RIBFで多種多様な長寿命核種の核変換データを取得し、効率の良い核変換法を模索していきます。


反原発派が常にその根拠としたトイレがない家論を打ち砕く画期的な放射性廃棄物処理実験が始まった。
原発の使用済み核燃料に含まれる放射性物質に中性子をぶつけて、毒性が低い物質に変える「核変換」の研究が来年度から本格的に始まる。実用化までの道のりは30年以上と長いが、高レベル放射性廃棄物を減らす切り札として期待は大きい。(伊藤壽一郎)

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「現代の錬金術」

 安倍政権は原発を「重要なベース電源」と位置付け、今後も活用していく方針を打ち出している。その最大の課題は昨年3月末時点で1万7千トンに達した使用済み核燃料の処分だ。

 使用済み燃料を再処理してウランやプルトニウムを回収した後に残る高レベル放射性廃棄物は、ネプツニウム237(半減期214万年)やアメリシウム243(同7370年)など、半減期が長く毒性が高い複数の元素が含まれている。これらはガラス固化体に加工して冷却後、人体への影響が低くなるまで数万年間、地下深くに貯蔵する地層処分となるが、最終処分場はまだ決まっていない。このため量を減らす方法の開発が急務になっている。

 放射能を持つ元素の原子核は、放射線を出しながら時間とともに崩壊し、自然に別の元素に変わる。核変換はこれを人工的に加速させる技術で、原子核に中性子をぶつけて核分裂を起こさせ、半減期が短く毒性が低い物質に変えていく。いわば「現代の錬金術」だ。

もんじゅ停止契機

 この研究は当初、日本原子力研究開発機構の高速増殖炉原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)が担うはずだった。核変換に必要な高速の中性子が運転時に発生するからで、長寿命の放射性元素を燃料に混ぜ、短寿命化する研究が検討されてきた。

 しかし、トラブル続きのもんじゅは運転実績がほとんどない上、機器の点検漏れなどで原子力規制委員会から無期限の運転停止を命じられている。再稼働すれば研究も進められるが、先行きは全く見えない。

 このため文部科学省の作業部会は昨年11月、原子力機構などの加速器施設「J-PARC」(茨城県東海村)に、加速器を使った核変換の実験施設を建設すべきだとする報告書をまとめた。

 総工費220億円で2015年度に着工、20年にも実験を開始する。基礎データを蓄積した後、30年ごろから実用化に向けた新施設を建設し、50年ごろから核変換を行う見通しという。

 核変換の仕組みはこうだ。長寿命の放射性元素を容器に入れて、中心部に鉛とビスマスからなる重金属の核破砕ターゲットを配置。ここに超電導加速器で光速の約90%に加速した陽子をぶつける。

 重金属から高速の中性子が飛び散るように発生し、放射性元素の原子核に衝突。核分裂が始まり、電子を放出しながら核種が変わるベータ崩壊を繰り返し、短寿命で毒性が低い物質に変わっていく。

 陽子は2年間当て続ける計画で、放射性元素は大半が短寿命化。理想的な反応が起きた部分は、放射能がない物質に変わる。

 研究を担当する同機構の大井川宏之核変換セクションリーダーは「ネプツニウム237の場合、10%未満は長寿命のまま残る可能性はあるが、多くは放射能のないルテニウム102とセシウム133に変換される」と話す。

鍵握る分別技術

 高レベル放射性廃棄物はこれまで、ひとまとめに加工してガラス固化体にされてきた。核変換を行う場合は目的の元素を取り出す分別が必要で、これが処理の効率化にもつながる。

 ルテニウムやロジウムなどの白金属は、分別により資源として再利用が可能に。ストロンチウムなどの発熱性元素を分別すれば、冷却時間や地上の保管面積、地層処分量を削減できる。この結果、高レベル廃棄物は貯蔵面積が従来の100分の1、容積が3分の1になり、貯蔵期間も約300年に短縮する。

 一方、分別は今後の技術的な課題でもある。高レベル廃棄物から目的の元素だけを抽出する実証実験はこれからで、実用化時は大規模な処理施設も求められる。また、重金属から高速の中性子を効率よく発生させるための陽子照射方法の研究も必要だ。

 大井川氏は「加速器は日本の得意分野であり、その技術を応用して課題を克服し、原子力の安全利用と廃棄物処分の効率化を目指したい」と話している。

[日本経済新聞電子版2015年6月15日配信]
有害な放射線を何十万年も出し続ける「核のごみ」などを、無害な別の物質に変えてしまう「核変換」。東京電力福島第1原子力発電所の廃炉処理にも 役立つと期待されるが、実現には大がかりな装置が欠かせないと考えられている。だが東北大学と三菱重工業が組み、核変換を簡単な装置で実現できるかもしれない研究が始まった。そのきっかけとなったのは、かつて誤りとされた「常温核融合」の研究だ。

■東北大学に研究部門を開設 三菱重工からも研究者
今年4月、全国共同利用・共同研究拠点の1つで原子核理学の研究を進める東北大電子光理学研究センターに「凝縮系核反応共同研究部門」が誕生した。セン ターと研究開発型ベンチャーのクリーンプラネット(東京・港、吉野英樹社長)が共同で設立した。原子核物理学が専門の笠木治郎太・研究教授が中心となり、 小型装置を使う低温条件での核変換技術の開発を進める。放射線が出ない水素をヘリウムに核変換したり、数十万年以上も放射線を出し続ける物質を放射線が出ない安定な物質に変えたりして熱エネルギーを取り出し、活用するのが目標だ。
常温核融合研究の成果か!

核変換の実用化までには時間がかかるが、これで反原発を叫ぶクズな左翼達の論拠が一つ消える。