【上海=河崎真澄】上海での主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、議長国の中国が防戦に回っている。中国の成長鈍化が世界経済に影を落としたとの指摘や、証券市場や外貨管理の未熟さが震源となり、株式や為替で国際的な混乱を招いたとの批判から“集中砲火”を浴びている。中国は財政出動などで切り抜けたい考えだ。

 初めてG20議長国となった中国。開幕に先立つ26日午前、楼継偉財政相と中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁はそれぞれ、シンポジウムや記者会見でG20参加国へ反撃を試みた。

 楼氏は構造改革がテーマのシンポジウムで、「中国は財政出動への余地があり債務を拡大させることができる」と、中国経済を懸念する国際社会に“公共事業の再加速”を表明した。

 周氏は「輸出規模のなお大きい中国が通貨安競争に加わることはない」と人民元安を求める動きに反論する一方、「中国からの資本流出は正常の範囲だ」として資本移動では現状維持を示唆。米利上げとドル安を背景に中国から資金が逃げ出し、外貨準備高の大幅減につながったが、人民銀行は資本移動の規制強化と自由化のいずれにも消極的姿勢をみせた。

 そこには、(1)独立した金融経済政策(2)為替相場の安定(3)自由な資本移動-という3つの政策は同時に実行できないという国際金融のジレンマに陥っている中国の苦境がうかがえる。

 成長鈍化への不安感を拭い去ることができれば資本逃避は低減するが、利下げなど金融緩和も伴う景気テコ入れ策で財政出動を拡大すれば、重大な構造問題である過剰生産や不良債権を悪化させる副作用は避けられない。利下げなど金融緩和が人民元安に結びついた苦い経験もある。

 人民元の国際化に向けて資本取引の自由化は欠かせないが、しばらく封印せざるを得ない。反対に資本規制の強化に動けば、国際通貨基金(IMF)から人民元の特別引き出し権(SDR)通貨入りを認めてもらった際の金融市場の自由化という条件にも逆行する。

 G20の攻防戦を通じて中国のこうした構造問題があぶり出されそうだ。
上海で開催されているG20は中国の経済停滞と為替政策に対し注目を浴びた。
2016年10月1日からSDRに人民元は採用されるが、人民元の自由化が条件であった。しかし、人民元を切り下げようものなら為替戦争が勃発して、中国は為替操作国認定されてしまう。

G20会合、5つの注目点
【WSJ】By MARK MAGNIER 2016 年 2 月 26 日 13:43 JST

中国の上海で26日・27日に20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が開催される。経済成長の低迷、大きな相場変動、為替レート、伝統的な経済政策手段の有効性などをめぐり懸念が広がる中、議論の行方が注目される。以下に五つの注目点を挙げる。

1.中国は懸念をぬぐい去るために何をすべきか

経済運営の統率力にかけては屈指とされてきた中国だが、株式市場への強引な介入や為替政策が一貫性を欠く様子が混乱を呼ぶ中、いまやその手腕が疑問視され、国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事から中国には「コミュニケーション(対外説明)に問題」があると警告されるほどのありさまだ。中国共産党指導部はこれからの数日間で、政府として金融改革の推進にコミットしていること(24日に海外機関投資家による債券購入の制限を緩和する方針を発表した)、そして政策や意図に関するコミュニケーションを改善する方針であることをはっきり示す必要があるだろう。中国の世界における地位が上昇する中で、それに見合った体制を整えなければならない。

2.「通貨戦争」回避のために何ができるか

 欧州連合(EU)や日本などでは中央銀行の緩和政策を受けて通貨安が進み、輸出てこ入れを通じた成長浮揚策の一つと受け止められている。エコノミストらはこうした戦略について、通貨安競争の引き金になりかねず、世界経済を不安定にし、最終的に世界全体を苦境に陥れる恐れがあると警告する。G20諸国は今週の会合で、大幅な人民元切り下げは行わないとの確約を中国に求めつつも、通貨の競争的な切り下げを回避すべきとの従来の方針をあらためて強調する見通しだ。

3.世界経済成長てこ入れに向けて何ができるか

 世界金融危機から7年が経過したいま、コモディティー(国際商品)市場は落ち込み、貿易は低迷し、経済成長には引き続き弾みがつかない。IMFは2016年の世界の成長率見通しを何度も下方修正し、直近では1月に予測を3.4%に引き下げた。信用緩和に頼り過ぎた金融政策は限界に達している。こうした中でG20諸国は、構造改革とインフラ支出の拡大で合意を図る見通しだ。ただ、政治的反発や債務問題が懸念され、各国間の調整は難しそうだ。

4.協調的な通貨政策で合意する可能性はあるか

 あまり期待できない。G20の国内総生産(GDP)を合計すると世界のGDPの80%超を占め、G20の財務相や中銀総裁はもっとうまくコミュニケーションを取って政策協調を図るべきとの声が高まっている。エコノミストからは、先進5カ国による協調的なドル高是正宣言となった1985年の「プラザ合意」と同様の合意を求める意見もある。ただ、G20は2013年に通貨介入は為替操作だと事実上宣言しているため、人民元版「プラザ合意」を取りまとめる公算は小さいとの見方が大勢だ。とはいえ、山積する経済問題に対処するためのロードマップ(行程表)で合意する兆しを市場は探り求めるだろう。

5.中国は議長国として何を達成しようとするか

G20議長国は持ち回りだが、議長国にとって会合は世界の経済システムに自国の影響力を反映させる機会となる。中国は今年の議長国として、中国の時代が到来したこと、中国は世界経済をけん引する信用のおけるリーダーであること、中国のファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)は健全であることなどを強調しようとするだろう。同時に、自国も含め世界銀行やIMFにおける新興国の発言権の拡大を求めるほか、「シルクロード経済圏(一帯一路)」構想と呼ばれるアジアインフラ計画を宣伝し、改革や持続可能性を推進する見通しだ。
人民元を早期切り下げを行えばSDR採用もドタキャンになる可能性は否定できない。少なくとも今年の10月1日までは猫を被り人民元切り下げは行わないだろう。

中国当局、早期の人民元切り下げを否定
【ロイター】2016年 02月 25日 20:14 JST 

 2月25日、複数の中国当局者は、人民元の早期切り下げはないとの認識を示した。今週開幕するG20財務相・中央銀行総裁会議を控え、各国の懸念を払しょくする狙いがあるとみられる。

 2月25日、複数の中国当局者は、人民元の早期切り下げはないとの認識を示した。今週開幕するG20財務相・中央銀行総裁会議を控え、各国の懸念を払しょくする狙いがあるとみられる。写真は中国国旗、北京で2015年10月撮影(2016年 ロイター/Jason Lee)
[上海 25日 ロイター] - 複数の中国当局者は25日、人民元の早期切り下げはないとの認識を示した。今週開幕する20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議を控え、各国の懸念を払しょくする狙いがあるとみられる。

チャイナ・デーリーによると、楼継偉財政相は人民元切り下げの提案がG20の議題になることはないと発言。

朱光耀財政次官も「管理フロート制」を維持して為替レートの安定を図る方針を示した。

同次官は国際金融協会(IIF)の会合で「われわれは世界経済が直面するリスクを認識している」と発言。「市場と正しく対話することがいかに重要かも認識している」と述べた。

ルー米財務長官はウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙とのインタビューで「明確なコミュニケーションが必要だ」と指摘。「(中国)政府は大幅な通貨切り下げのようなことをするつもりはないと言明しなければならない」と述べた。

中国工商銀行(ICBC)の姜建清会長も、人民元の下落が続く根拠は存在しないとの認識を示した。

中国人民銀行(中央銀行)の易綱・副総裁はIIFの会合で「安定した状況は誰にとっても良いものだと思う」と発言。人民銀行は依然として独立した金融政策を運営できるため、国内の金利をまだ管理することができると述べた。

朱財政次官は、今年、財政赤字を拡大する余地があるとの認識も示した。

G20で人民元切り下げを否定したのでなにがなんでもSDR採用は果たすつもりなのだろう。
いまやすっかり有名となった国際金融のトリレンマからSDRに採用されるには金融自由化で中国から資金のキャピタルフライトを阻止することが出来ない。そして人民元下落は避けられない。

仮に人民元がSDR採用を諦め、資本取引を規制し、自由な資本移動をあきらめれば、キャピタルフライは阻止できる。従来通り独立した金融政策と固定為替相場制にもどせばよい。そうすれば、国内物価の安定のために金融政策を使うことが可能となり、為替相場も安定可能なのだが、すでに賽は投げられてしまったのである。

国際金融のトリレンマ(国際金融の三すくみ)
マンデルフレミングの法則から、自由な資本移動*為替相場の安定(固定相場制)*独立した金融政策3つの政策は同時に実現することができず、同時に2つしか実現できない。

中国からの資金流出が止まらない。

 中国の公式統計によれば昨年の資金流出額は5170億ドルである。だが、1月25日付ブルームバーグは、「昨年全体の資金流出額は前年(1343億ドル)の約7倍の1兆ドルに達した」と報じている。

 2月11日付フィナンシャル・タイムズによれば、2016年1月だけで1100億ドル以上の資金が国外に流出したという。資金流出は非公式なチャンネルでも起きており(海外との貿易額の数字を粉飾するなど)、実際の流出額はさらに大きいようだ。

「中国経済のハードランディングは不可避」とソロス氏

 その主な要因は中国経済の低迷である。

 中国の富裕層は、国内の不動産価格の低迷や株安の状況の中、利回りの高い投資商品(米ドル資産など)を求めて資産を海外に移し始めている(2月18日付ロイター)。

 中国企業が昨年(2015年)1年間に海外企業の買収に投じた金額も、約680億ドルと史上空前の規模に達した。今年1月の新規融資額は過去最大の約2.5兆元(約43.5兆円)となったが、増加分の大半は外貨建て債務返済のためである。

 昨年8月の中国政府の人民元切り下げによる通貨の先安感も資金流出に拍車をかけており、「人民元が紙くずになる前の駆け込み的な資金流出」との観測が高まっている。

 その矢先の今年1月に「世界経済フォーラム」年次総会(ダボス会議)で著名な投資家であるジョージ・ソロス氏から「中国売り」発言が飛び出した。ソロス氏と言えば、1992年の「ポンド危機」、1997年の「アジア通貨危機」の仕掛け人と言われている人物である。ソロス氏は「私は予測を口にしているのではない。今それを目撃しているのだ」と発言し、「中国経済のハードランディングは不可避だ」と述べた。

 昨年秋から投機筋が人民元売りを仕掛けている最中の発言だけに、中国側は悪意ある挑戦と受けとめ、国営メデイアを総動員して反論に出た。メディアは「人民元の空売りは袋小路に陥る」(新華社)、「単純な経済的衝撃をもって中国を覆すことは不可能だ」(人民日報)と必死の主張を繰り返した。しかし「資本流出は始まったばかり」と鼻息が荒い投機筋の勢いが衰える気配はない。

人民元のSDR入りが重い十字架に

 中国政府にとって最後の砦は、世界の約3分の1を誇る外貨準備(昨年末時点で3.3兆ドル)である。だが、その外貨準備は昨年1年間で約5130億ドルも減少した。

 3.3兆ドルあるといっても、「使える外貨準備はせいぜい1兆ドルにすぎない」という見立てがある。「中国政府高官の持ち出しで約1兆ドルの資金が消え、アフリカや中米諸国への融資で約1兆ドルが焦げ付いている」(中前忠中前国際経済研究所代表)からだ。仮に今年1月のように毎月1000億ドルのペースで減少すると、年内にも外貨準備が底をつき中国政府は人民元を支えられなくなってしまう。

 中国政府としては資本規制を強化したいところだが、「人民元のSDR入り」という決定が重い十字架としてのしかかっている。

 昨年11月、国際通貨基金(IMF)理事会は、特別引き出し権(SDR)の算定基準となる通貨に中国・人民元を今年10月から組み入れることを決定した。

 中国政府は人民元をSDR入りさせるために、昨年夏から人民元相場を従来よりも市場実勢に従って変動させるなど一連の改革を行った。これによりIMFから「人民元はSDRの基準を満たした」というお墨付きをもらうことができた。しかし、一連の改革によって、8月に人民元が急落した。合法的に海外に資金を移せるようになったため、国内企業や個人投資家がかつてない規模で海外へ資金を流出させたからである。

 そこで、人民元の下支えのために中国政府は、約4000億ドルもの外貨準備を費やすことを余儀なくされた(昨年の外貨準備減少分の約8割)。

「人民元のSDR入り」に尽力し、「中国の最も偉大な改革者の1人」とまで評価されていた周小川人民銀行総裁は、いまや窮地に追い込まれている。

 周氏は、中国誌「財新」のインタビュー記事の中で、海外のヘッジファンドをはじめとする投資家が人民元の売り持ちに殺到している現状を批判すると同時に、人民元の底堅さをアピールして「元安が続く根拠はない」と主張した。

 人民銀行は2月15日に、2005年7月以来最大となる人民元切り上げを行った。しかし、市場関係者にとっては「人民銀行は外貨準備の減少を懸念している」というマイナスのメッセージになってしまった。周氏はこれほど緊迫した状況でも「資本規制を引き締めるつもりはない」としているが、その対応には疑問を感じざるを得ない。

 筆者が以前のコラム(「人民元のSDR採用に潜む落とし穴」)で「人民元のSDR入りの代償は極めて大きい」と懸念したとおり、そのリスクが早くも顕在化してしまったようである。

危機対応能力がない中国の指導者

 ソロス氏は中国政府の無策ぶりを指摘していたが、昨年後半以降、「中国政府の指導者たちは危機対応能力がない」との認識が世界中に広まってしまっている。

 中国共産党はもともと市場との対話の重要性をあまり認識してこなかった。中でも習近平体制は有無を言わさず強権で、すべての問題を抑え込む姿勢が強い。2月18日、人民銀行は1月分の月次報告を行ったが、外貨購入の残高など資金流出の目安となるデータの公表を取りやめた。

 2月20日、中国政府は証券監督管理委員会(証監会)の肖鋼主席を解任した。

 中国の株式市場は、昨年、約5兆ドルの時価総額が失われ、証監会は今年1月に株価が一定の値幅を超えた場合に取引を止める「サーキットブレーカー制度」を導入した。だが、市場を安定させることができず、わずか4日で停止した。そうした状況に対して、個人投資家が「投資家らの財産権を保護する職責を怠った」として肖氏を提訴するなど、証監会に対する国民の不満が高まっていた。政府は肖氏の首を生け贄に差し出した格好である。

 習近平政権は金融業界に対して、全面的な反腐敗キャンペーンを加速させている。同時に、金融業界を監督管理する3つの委員会である証監会、銀監会、保監会、そして人民銀行、いわゆる1行3会に対しても、整理・合併を加速させようとしている(2月18日付大紀元)。早ければ3月の全人代等で議論されるようだが、事態をますます混乱させてしまうだけではないだろうか。

米中間の緊張はさらに高まっている

 国際金融当局者も中国の現状に憂慮し始めている。2月26~27日、中国上海で開催される20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、中国からの資本流出を段階的に止めるための議論が焦点の1つとなっている。

 2月4日付ロイターによれば、中国からの資金流出を加速させている投機的な動きをおさめるため、「人民元の一度限りの大幅切り下げ(中国版プラザ合意)が必要」との声が高まっているという。

 国際的な協調介入を実施するには米国政府の協力が不可欠である。だが、中国軍の東アジア、特に南シナ海でのプレゼンス拡大によって、米中間の緊張はさらに高まっている。

 2月16日、米FOXニュースは衛星写真の分析をもとに、中国による南シナ海の西沙諸島へのミサイル配備を伝えた。地対空ミサイル配備となれば、滑走路整備などとは次元が違う。これまで習近平国家主席はオバマ大統領に対し「南シナ海の軍事化は行わない」との方針を伝えていた。米太平洋軍のハリス司令官は、「習近平主席が約束を守れないことの表れである」と中国への不信感を露わにしている。

 一方、中国側にも言い分がある。米軍は1月30日、西沙諸島の12海里内でイージス駆逐艦を航行させた。西沙諸島は南シナ海の中で最も中国本土に近く(海南島から約300キロメートル)、中国軍は42年間にわたり実効支配している。このため中国は、米軍が西沙諸島の領海に侵入したことに対して、「紅旗9号」長距離地対空ミサイルを急遽配備したというわけだ。その後も中国が南沙諸島に高周波レーダー施設を建設していることや西沙諸島に戦闘機と戦闘爆撃機を展開していることが明らかになってきている。

 中国と軍事的な緊張が高まっている状況下で、米国が中国の資金流出を防ぐための協調介入に賛同する可能性は極めて低いと言わざるを得ない。

経済成長がなくなると国民の不満は爆発

 協調介入が不可能であれば、IMFとの約束を反故にしてでも資本規制を強化するしかない。前述のダボス会議で、黒田日銀総裁は中国政府に資本規制を強化することを求めた。IMF専務理事のラガルド氏も暗に同意したようだが、一度緩めた資本取引規制を強化することは副作用が大きい。中国企業の海外での債務の借り換えが困難となるとともに新規の資金調達にも支障をきたすため、経済のハードランディングリスクが高まってしまう。

 毎年18万件の暴動・抗議集会が起きている中国において、共産党の執政の正統性は「経済成長」しかないと言われている。経済のハードランディングが起きれば、抑圧された国民の不満は爆発し、中国共産党は結党以来の危機に直面するだろう。

 国際政治経済が専門の瀬戸岡紘駒澤大学教授は、「すべての戦争は国内矛盾の対外転嫁として引き起こされる」と指摘している。習近平指導部は、国内の矛盾を南シナ海での軍事紛争に振り向ける可能性がこれまでになく高まっているのではないだろうか。

「人民元のSDR入り」の失敗が東アジアの地政学的リスクを高めないことを祈るばかりである。
昨年中国は人民元のSDR採用決定に、中国の国際的な地位向上、改革成果が評価されたと中国は勝利宣言をしていますが、それほど単純ではなかった。やはり、昨年米国がすんなり人民元のSDR採用を認めたのは裏が有ったのだ。

米国が従来の反対を翻して、条件付き賛成に転じた理由は、中国を巨大な国際金融のゴキブリホイホイに誘い込む目的だったのである。ゴキブリは当然中国人民元である。

中国政府は、ここまで為替管理の都合上、資本の流出入を厳しく管理してきたが、為替の自由化とともに、SDR採用条件として資本の自由化も求められた。

人民元は基本的に米ドルにペッグした通貨ですが、SDR通貨入りは、ドル*ユーロに次ぐ第三の通貨が完全変動相場制をしないわけにはいかず、これまでドルに引っ張られて上昇していた分がはげ落ち、人民元が大幅な下落したのは当然の成り行きである。

そうなると、当座は資本の流入より流出が大きくなると見られます。人民元の先安観が強まれば余計拍車がかかる。これは意図しない金融引き締め効果になる。

しかも、人民元の下落は、民間企業や個人の外貨建て債務を水膨れさせ、返済負担がより大きくなる。ドル建て債務やキャリーでの香港ドル債務が膨らむことになる。

中国が本気で改革しようとすると、共産党幹部の巨大な既得権を奪う必要があり、政情不安にもつながりかねない。人民元の暴落を防ぐための買い支えは金融引き締め効果を生むため、景気にバックギアを入れていることになる。さらにドル売りによって、外貨準備も減ることになる。中国の経済政策は八方塞がりになる。輸出力を強化するために人民元を切り下げると資金流出が起る。逆に資金流出を防ごうと人民元を高く維持しようとすると、設備投資が抑えられ経済は失速し、さらに輸出競争力を失うのである。

中国経済は、IMFのSDR採用でとんでもない負のスパイラルに入ってしまったのである。中国から資本流出が止まらず、ジョージソロスが「中国バブル崩壊はもう起こったこと。(中略)中国経済の問題はデフレと過大な債務だ。中国経済の負債はおそらくGDP比300%か、対外債務を合わせれば350%にも上る深刻なもの。しかも中国は輸出主導から内需主導への経済改革を長く放置し過ぎた。ハードランディングは不可避である」と喝破している。

仮になんとか中国共産党習近平政権が崩壊せず奇跡的にこれらの改革がある程度進めば、世界の中央銀行が人民元を準備通貨として持ち始めるので、人民元安にも歯止めがかかり、人民元需要が高まれば、また上昇する可能性もなきしもあるが・・・・。

仮に中共が存続できたとしても次に日本も息の根をとめられたBIS規制の罠が待っている。中国の4大国有銀行( 中国工商銀行、中國銀行、中国建設銀行、中国農業銀行)は、世界での地位が高く、高い自己資本が求められますが、そう簡単にこれを満たせない。資本不足の銀行には欧米資本が参加しようということになり、経営の実権を最終的に国際金融資本が握ることになるかもしれない。

日本の財務省公表の数字から、中国の政府と民間の対外負債は244兆円らしいのだが、中国の対外負債は、そんな程度ではなく500~600兆円という説が飛出している。中国の対外純資産残高は、214兆円ではなく完全にマイナスということになる。ましてや中国の外貨準備高に闇に消えた2兆ドルが含まれている可能性を考えると、中国の実態は大借金国ということになる。

中国はまだ大量に米国債を保有しているので、後1年は持ちこたえるだろうが、2年後、3年後となると、どうなるかわからない。最悪のケース、中国はIMFのSDR採用国からIMFの管理下に置かれているか、その直前の状態になっているかもしれない。