政府の「国際金融経済分析会合」でジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大教授が消費増税の延期や積極的な財政政策を主張した。2014年11月に消費増税延期を安倍晋三首相に提言したポール・クルーグマン米プリンストン大名誉教授も22日の第3回会合に招かれた。

 一方で、以前の消費増税の際に開かれた点検会合では、国内の大半の経済学者やエコノミストは消費増税を進言してきた。同じ経済学者なのに主張が正反対というわけだ。

 率直にいえば、海外の学者にも増税派というべき人はいる。ただし、日本経済を比較的よくわかっている学者の中で、今の日本経済には消費増税が必要という人は少ない。スティグリッツ氏やクルーグマン氏も日本経済をよく知っているので、消費増税が必要と言うはずがない。もし、彼らが消費増税が必要という場合、それは景気が過熱して冷や水が必要な状況だろう。

 これに対し、過去の点検会合で消費増税を主張していた日本の経済学者やエコノミストは、「消費増税しても景気は悪くならない」と言ってきた。

 両者の違いは、はっきり言えば、マクロ経済をどう考えるかである。スティグリッツ氏やクルーグマン氏にはしっかりとしたマクロ経済の理解があるが、それが決定的に欠けている日本の学者も少なくない。

 筆者はプリンストン大で講義を行ったことがあるが、単なる理論ではなく、いかに現実の経済を説明できるかが求められる。授業の3分の1は今起こっている経済問題の説明、3分の1はそれへの対処方法と、その背景になる経済理論の説明、残り3分の1は学生からの質問とそれへの答え-という具合だ。

 ただ、日本では、現実問題とは無関係な理論の説明だけで講義を行うことも可能だ。

 両者の違いは経済学の教科書にも表れている。米国の場合、教科書は分厚く、随所に実例が取り込まれており、実践的な内容になっているが、日本のものは薄く、理論ばかりを書いており、実例が乏しいものが多い。

 こうした事情もあって、日本の多くの学者は、何らかの政策が実行された際、マクロ経済にどう影響するかを見通すことができない。

 政治家が、見解が異なる経済政策議論のどちらが正しいかを見極めるのは難しいが、まともな政治家は、将来を予測させれば当てられる経済学者と、外れる経済学者を見分けることができる。政治家にとっては、当然ながら予測が当たる経済学者の方が信頼するに値する。

 今の安倍政権では、安倍首相を含め主要な政治家にとって、日本の経済学者やエコノミストに対する信頼はあまりない。スティグリッツ氏やクルーグマン氏の方がはるかに信用できるのだろう。

 日本の多くの経済学者やエコノミストにとっては自業自得だが、不思議なのは、予測を外し信頼を失った人たちをマスコミが使い続けていることだ。分析会合について「ノーベル賞ブランドに弱い」と批判的なニュース番組もあったが、その番組が“ハーバードMBA”のブランドを詐称する人物を出演させていたのは皮肉なものだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

世界経済は弱さ蔓延、収支気にせず財政出動を=クルーグマン教授
【ロイター】2016年 03月 22日 23:39  

[東京 22日 ロイター] - 政府は22日夕刻、第三回国際金融経済分析会合を開催しポール・クルーグマン米ニューヨーク市立大学教授(プリンストン大名誉教授)から意見を聴取した。クルーグマン教授は「世界経済は弱さが蔓延している」と指摘し、各国が財政出動で協調すべきと強調した。

日本に対しては「長期的には財政状況が心配」としつつ「2─3年は収支を気にせず財政出動すべき」と指摘。事実上日本に対して消費税引き上げの延期を進言した格好だ。

クルーグマン教授の発言内容は、会合後にクルーグマン教授および内閣府幹部が記者団に明らかにした。

<消費税引き上げは「問題」>

クルーグマン教授は、先進国の経済がいずれも弱い内需などの問題に直面しており「日本化している」うえ、世界経済の相互依存が高まっていると指摘。伝統的な政策手段が効かなくなっており、物価目標など各種政策目標の達成が難しくなっていると説明した。

金融政策に限界があるなかで、財政政策は有効と強調。金融政策を助けるためにも財政出動が重要として、5月の伊勢志摩サミットに向けて「各国は財政出動を調整すべき」との意見を強調した。内閣官房参与の浜田宏一・米イエール大学名誉教授によると、「各国が財政で協力すべきときに消費増税は問題がある」と指摘したという。

出席した日銀の黒田東彦総裁が「財政に余力がある国が本当に財政刺激に舵を切るだろうか」と質問したところ、クルーグマン教授は「ドイツは住んでいる宇宙が違う」としつつ、「財政再建を遅らせることを協調する余地はある」と説明した。

<人民元安「大問題」、マイナス金利「効果限定」>

原油価格の下落について、米国では消費にはプラスだがシェール関連企業の設備投資にマイナスだったと指摘。商品価格一般の急落は、地政学リスク要因にはなるが先進国経済に大きな問題ではないとの見解を示した。

中国の資本流出について触れ「人民元安は大問題」との懸念を示したという。マイナス金利政策については「さらに進めるとしても問題があり、効果も限定されている」と論評した。

 *写真を差しかえて再送します。

(竹本能文)

増税延期を首相に進言 ノーベル賞学者スティグリッツ氏

政府は16日、世界経済について有識者と意見交換する「国際金融経済分析会合」の初会合を首相官邸で開いた。講師役のノーベル経済学賞受賞者、ジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大教授は会合で、「消費税は総需要を増加させるものではないので、引き上げるのは今のタイミングは適切ではない」と述べ、2017年4月の消費税率10%への引き上げを延期すべきだという考えを示した。

会合には、安倍晋三首相のほか、石原伸晃経済再生相、黒田東彦日本銀行総裁らが出席。5月の主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)の準備にいかすもので、首相は冒頭、「(サミットで)世界経済の持続的な力強い成長に向けて明確なメッセージを発したい」と意欲を示した。首相の消費増税判断にも影響するとみられている。

会合後のスティグリッツ氏の説明によると、同氏は会合で世界経済の見通しについて「15年は世界金融危機以降、最悪の年になった。16年は15年よりもさらに弱くなるだろう」と指摘。そのうえで「金融政策は限界に来ている。G7では、需要を刺激するような各国間の調整策について議論して欲しい」として、各国で協調して財政出動をするべきだという考えを示した。

会合は5回程度の予定で、17日には、デール・ジョルゲンソン米ハーバード大教授と元日銀副総裁で日本経済研究センター理事長の岩田一政氏を、22日には、ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン米ニューヨーク市立大教授をそれぞれ招く。(鯨岡仁)

(朝日新聞デジタル 2016/3/16 13:22)
アベノミクス1.0は円安による株価の上昇が消費にプラスに働く「資産効果」がみられた。だが、その「息切れ」も鮮明になってきた。消費税増税を財務省に唆され8%にしたことがすべての間違いだった。

 政府は23日発表した3月の月例経済報告で、景気判断を「このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている」とし、前月から引き下げた。個人消費が鈍いほか、海外経済の減速や金融市場の混乱を背景に企業関連でも弱さが出てきたことを反映した。景気の停滞感が強まっており、来年4月の消費税率10%への引き上げに対する安倍晋三首相の判断に影響する可能性もある。下方修正は平成27年10月以来5カ月ぶり。以下略

昨年後半以降の大幅な株価下落、「逆資産効果」が起きている可能性もある。アベノミクスの効果は急速に色あせているのも事実だ。

アベノミクス1.0はけっして失敗だと思わないが、失敗したのは2014年消費増税なのだ。
財政再建と景気回復の二兎追ったのがアベノミクス1.0であったのだが、実は知らないうちに財政再建の緊縮型アベノミクス2.0へ変化していたのだ。

日本は財政を緊縮型にしておきながら、金融政策だけに頼る異常な状態が続いている。金融政策が、マイナス金利導入に見られるように超金融緩和であることは周知のことである。

ところが不思議なことに一方の財政政策が、逆に緊縮型に転換している。まず各年度の補正予算額の推移を示すと、2013年度10.5兆円、2014年度5.5兆円、2015年度4.9兆円、そして2016年度(来年度)3.5兆円といった具合である。補正予算額は前年度の暮にほぼ決まる。2016年度(来年度)の3.5兆円も昨年末に決まり、今、国会審議中である。

補正予算は、見事なほどにに毎年減額されている。たしかに財政の経済効果を厳密に計算するには、予算の中味(真水がどれだけ)を見たり、本予算や補正予算の使い残しや繰越しなども考慮する必要がある。しかし少なくとも補正予算額の推移をざっと見る限り、財政がいつのまにか緊縮型に転換していた。

特に2014年度は、補正予算を前年度より5.0兆円も減額しただけでなく、8兆円の消費税増税を実施している。このようにいきなり14年度から財政の大緊縮が始まったのである。財政政策と金融政策を同時に出動させるといったオーソドックスな政策、つまり実質的なアベノミクス1.0は2013年度のわずか一年で終了したのである。しかしこの重要なことをアベノミクスを礼讃する者も批判的な者もあまり口にしない。

消費税導入時には、企業や小売店が増税分を吸収する努力をし、消費税還元セールなどを実施した。少しでも家計へのインパクトを減らそうというムードが社会全般にあったのだが、2014年の増税はまったく違った。むしろ政府主導で最終消費者に増税分の負担をさせることを狙い「還元セール」の禁止などをルール化したのも間違いだ。そもそも、物価を上げることがデフレの脱出策ではなく、賃金上昇がデフレ脱出の鍵なのだ。

大都市圏は安倍政権後経済はプラスになっているが、都会の人たちの経済状態の方が地方よりも良好ということではなく、観光でやってくる外国人の消費好調が都市部に表れているだけかもしれない。中国人の「爆買い」が都市の百貨店の売り上げをかろうじて押し上、景気がプラスになっている感じだ。

外国人観光客が百貨店で「免税手続き」をして買ったモノの合計である「免税売上高」は過去最高を更新し続けている。逆に、この「免税売上高」を除外して考えると、実際の国内消費はさらに悪いことが明らかになる。

厳密な比較は難しいが、それでも「爆買い」の効果のかなりの部分を反映しているとみられる。差し引きを比較して計算すると、免税売上高を除いた実質的な国内売上高は1月は3.1%のマイナスだったことがわかる。

同様にかろうじてプラスだった12月の売上高も、同様に免税売上高を除いて比較すると0.9%のマイナスになる。実質的な国内消費による百貨店売り上げは11月以降、マイナスが続いていることになるわけだ。

では、なぜ国内消費の悪化が鮮明になってきたのか。圧倒的に大きいのは消費増税の影響がいまだに残っているということだろう。

ここへきて、2017年4月に予定されている消費税の再増税を延期がほぼ決まった感がある。

安倍首相は「リーマンショックや大震災のような重大な事態が発生しない限り確実に実施する」と言い続け、安倍首相は「リーマンショック級ではない」と今も先送りを否定している。だが、7月の参議院議員選挙を控えて、景気ムードを好転させることが安倍内閣の必須課題になってくるだけに、数少ない「切り札」として消費増税再延期を打ち出すタイミングを慎重に見極めているという見方もある。

もちろん、財務省は再増税は既定路線として譲らない姿勢で、仮に首相が先送りを決める場合でも相当な政治的な軋轢が生じるだろう。あまり早く消費増税を打ち出し、その後、海外株式相場などが大崩れするなど外的要因で景況感がさらに悪化した場合、打つ手がなくなってしまうからだ。

前回の延期時と違い、再延期には法律を出して国会で通過させる必要があることもハードルを上げている、解散総選挙で、消費税凍結は信任を得られる。まだ2014年の増税の影響が完全に吸収されていないことは明らかで、さらに消費が下り坂になっている中で、ここで再度の消費増税を打ち出せば、一気に消費が腰折れする可能性が大きい。

来年の消費増税をそのまま決行すれば、日本経済にとっては自殺行為になりかねない。


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