4/21原宿の勉強会に出席してきました。4月のお題はトリウム原発についてでした。
配られた資料↓
新しい原子力が人類を救う
溶融塩液体燃料原子炉実現へ向けた提案
株式会社 トリウムテックソリューション(TTS) 代表取締役社長 古川 雅章 2016年4月1日
■新しい原子力の時代の扉が開かれようとしています
2015年国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定は化石燃料消費量の一層の削減により地球温暖化を阻止する低炭素社会実現へ向かう潮流を本格化させました。
我々は原子力が人類の叡智が生んだ優れたエネルギー源であり、低炭素社会実現のカギを握るエネルギーであると考えます。
しかし、原子力が本当に人類に貢献するエネルギーになるためには、安全性、放射廃棄棄物、核兵器拡散の三つの問題を解決しなければなりません。
当社初代社長古川和男博士はトリウム熔融塩原子炉がこれらの問題を解決できることをその著書「原発安全革命」(文唇春秋新書2011/05)で示しました。
今年に入り、米国エネルギー省(DOE)溶融塩炉開発の産学官合同のチームに初年度600万ドルの支援を決めたことを契機に、今年は世界的な溶融塩炉開発の流れが出てくると考えられます。
TTSは、これまで溶融塩炉開発に具体的に正面から取り組んできた日本で唯一の企業ですここれから本格化する世界の熔融塩炉開発の流れと共同歩調を取り、日本の熔融塩原子炉開発をリードします。
■何故いま溶融塩炉が将来の原子炉の本命として浮上したか?
(その1)原理的安全性
原子炉の安全欧確保の為の条件は、(1)緊急時の炉の確実な停止、(2)核物質から放出される崩壊熱の除去、(3)放射性物質の外部流出の防止の三つです。
液体燃料原子炉は炉心直下に冷却機能を備えたドレンタンクを備えます。大規模地震発生や津波襲来等の緊急事に、液体燃料を炉心から地下ドレンタンクへ排出すると、核反応は直ちに停止します。ドレンタンク内の液体燃料は無電源で冷却され、崩壊熱が除去されると共に凝固します。万一原子炉が破損しても放射性物質は外部に流出しません。凝固した燃料は緊急事態解除後溶解して原子炉に戻します。
■何故いま溶融塩炉が将来の原子炉の本命として浮上したか?
(その2)使用済み核燃料処理の容易さ
原子力のもう一つの課題は使用済み燃料の処理です。固体燃料の再処理は使用済み燃料の粉砕処理から始まり、硝酸で溶解し、さらに様々な複雑な化学処理を経て再び固形燃料う成形されます。一方、液体使用済み燃料は元々液状なので溶解処理が不要であり、そのまま再処理が出来るため処理工程を大幅に単純化出来ます。さらに、溶融塩液体燃料を使うことにより最も危険な長寿命高レベル放射性廃棄物であるマイナーアクチニドの消滅が可能になります。
■溶融塩液体燃料炉の歴史
原子力開発の黎明期に米国では固体燃料と並んで液体燃料も対等に検討されました。最も有名な溶融塩液体燃料炉は米国オークリッジ国立研究所所長を務めたアルヴィン・ワインバーグ博士主導により1965年に建設されたトリウム溶融塩実験炉MSREです (図1)。4年間の連続無事故運転に成功し、溶融塩液体燃料炉に必要な基礎技術が確立されました。しかし、固体燃料と液体燃料の技術基盤が異なることに加え、トリウムはプルトニウムを生まないためトリウム溶融塩炉は軍事的に無価値であるという理由で、1976年に研究開発は中止されました。
一方日本では、古川和男博士がトリウム溶融塩炉の研究開発を継続し、日本独自のトリウム溶融塩炉として1:万KWの小型炉のmini FUJI と20万kWの標準型炉のFUJIの設計を完成させ、さらにこれらの実現のために当社TTSを設立しました。古川和男博士は2011年12月14日に世を去りましたがTTSはその遺志を継いで研究開発に取り組んでいます。
■溶融塩炉開発の世界の動向:新たな流れが出来つつある
近年、溶部短夜体燃料炉の原理的安全陛と使用済み核燃料処理の容易さから溶融塩液体燃料炉が世界的に再評イ面されています。2011年中国で溶融塩冷却炉からのスタートにより溶融塩炉の本格的な研究開発が開始されました。米国でもオバマ政権のクリーン・エネルギー戦略における重要な構成要素として、2016年1月に米国エネルギー省(DOE)は電力会社のサザンカンパニー社、ビル・ゲイツ設立のテラパワー社に加え、オークリッジ国立研究所、米国電力研究所(EPRI)、ヴァンダービルト大学匠ネシー州)の産学官連携研究開発プロジェクトに初年度600万ドルの開発費支援を決めました。米国政府が溶融塩炉開発に予算を投じた影響は大きく、今後世界的な溶融塩液体燃料炉開発の大きな流れが出来上がると考えられます。
■TTS独自の取り組み:溶融塩燃料体RinRの開発 世界的な溶融塩炉開発の流れの中でTTSは独自の取り組みを行っています。それは既存原子炉の固体燃料体の一部を溶融塩液体燃料体に置換することによる液体燃料の実用化です。
この溶融塩液体燃料体を原子炉内化学反応炉と言う意味のRinR (Chemical Reactor in Nuclear Reactor) と名付けました。 TTSはRinRの開発をフロム・スクラッチ(材料からの手作り)マスタードしますが、これは戦後糸川英夫博士がペンシルロケットからスタートし現在の日本のロケット技術の基礎を築いたのと同じ精神に基づいており、米国のスペースエックス社がロケット開発を国家主導ではなく民間主導で進めたのと同じ考えでもあります。
TTSは2015年3月ノルウェーのエネルギー技術研究所(TFE)と契約し、ハルデンにあるOECDハルデン炉プロジェクトと共同でRinRの開発のための試験用原子炉による照射試験体(リダ)の開発をスタートさせました(図2)。OECDハルデン炉プロジェクトは日本も参加する経済協力開発機構 (OECD)18力国が共同運営するプロジェクトです。
ハルデン試験用原子炉は試験用燃料体のデータをオンラインで取得出来る計測系を備えた原子炉であり、核燃料開発の世界的な中心拠点です。 TTSは、現在RinRの原子炉内試験へ向けた準備作業を進めており、本年2016年3月に照射試験体(リグ)のモックアップの製作に着手しました(図3)。
2016年7月頃までにノルウェー政府の原子炉内照射実験の認可を取得し、2016年後判こはRinRの本格開発に入る予定です。
■TTSが最初に取り組むビジネス:溶融塩燃料材料と炉材料の試験受託
多くの溶融塩炉開発プロジェクトは巨額の資金と長期の研究開発期間により発電炉プラント全体の開発を目指します。一方我々は最初に小規模資金かつ短期間で開発可能な液体燃料体であるRinRの実現に取り組むという独自の取り組みからスタートし、最終的にトリウム溶融炉の実現を目指します。 RinRで取り扱う燃料材料は特定の組成だけに留まらず、多様な組成の溶融塩燃料を取り扱えます。そのためTTSは世界中の溶融塩炉プラント開発を目指す企業や機関から、ハルデン試験用原子炉を使った溶融塩燃料材料の試験と炉材料の放射線照射下での試験を受託出来ます。このハルデン原子炉とTTSのRinRによる試験受託サービスはTTSが世界に先駆けて取り組む溶融塩炉に関係した最初のビジネスになります。
■RinRによる余剰プルトニウムの処理
TTSが取り組むもう一つの課題が余剰プルトニウムの処理です。現在世界にはプルトニウムが約500トン存在し、核兵器への転用が懸念されていますが、その内約47トンを日本が保有しています。ノルウェー政府は核兵器廃絶に向けた活動にノーベル平和賞を授与し、現在も固体燃料によるプルトニウム燃焼処理技術の研究開発を行うノルウェーの企業を資金援助しています。 TTSはRinRによるプルトニウム及びマイナーアクチニドの燃焼および消滅のために技術開発についてノルウェー政府の支援を得ることを目指しています。
■福島のデブリ処理のための超小型溶融塩炉開発政府主導で福島第一原子力発電所の廃炉作業が進められています。廃炉に至る一連の作業のうちデブリ処理が最も困難です。デブリは溶融した炉心部材と核燃料から生じた核廃棄物で様々な化学組成を含みます。溶融塩液体燃料炉の特長の一つは核廃棄物の処理の多様性と柔軟性です。
デブリ処理として最も有望な方法がハロゲン処理法です。デブリをハロゲンで溶解処理し、プルトニウム及び長寿命マイナーアクチニドの塩化物を分離回収します。それらを塩化物溶融塩に溶解し、RinRに入れてナトリウム冷却原子炉で核反応により燃焼処理します。TTSは福島原発事故の跡地にデブリ処理専用の小型溶融塩高速炉の建設を提案します。日本のナトリウム冷却炉の技術は高速炉もんじゅの建設と共に完成しています。この核廃棄物処理用超小型塩化物溶融高速炉の技術開発は発電用トリウム溶融塩炉への技術展開の途上に位置づけられます。
■トリウム溶融塩炉の開発 地球上に存在する核資源はウランとトリウムがあります。トリウムからプルトニウムを生産出来ないため、これまでトリウムは原子炉用燃料としてほとんど使われませんでした。しかし、採掘可能なトリウムはウランの約4倍存在し、平和のための原子力の時代のエネルギー源としてトリウムは有望な核資源です。
TTSは、トリウムを燃料とする溶融塩液体燃料炉であるトリウム溶融塩炉として、最初に1万kWの小型炉(mini FUJI)を開発し、次いで20万kWの標準型炉(FUJI)(図4)の開発を目指します。 トリウム溶融塩炉は安全山こ優れ、核廃棄物処分も容易であり、核武装に繋がるプルトニウムを作りません。プラントの構造も単純であり、発電コストは3円/kWhの低コストを目標にします。
■トリウム溶融塩炉は世界を平和へ導きます
我々はイスラム国問題に象徴される世界規模の危機の原因は豊かさと貧しさの間に生じた大きな経済格差だと考えます。この格差を解消するための手段の一つが低コストエネルギーの供給です。低コストのエネルギーがあれば砂漠化か進む地域で水を作ることが出来ます。また、低コストのエネルギーがあればその地域に産業を起すことも出来、貧困の問題を解決できます。
トリウム溶融塩炉は世界中のあらゆる地域へ低コストエネルギーの供給を可能にします。 トリウム溶融塩炉はトリウムを燃料としているため核武装に繋がるプルトニウムを作りません。 トリウム溶融塩炉は貧困を解消します。そして、トリウム溶融塩炉は世界を平和へ導きます。
現在稼働中の40年以上の原発は大型のトリウム熔融塩炉が2030年代に完成したら順次トリウム原発に置き換えていくべきと思う。
今回セミナーに参加して勉強になったのだが、小型トリウム熔融塩原発炉は福島第一原発事故で原子炉容器内からデブリを取りだせたら熔融炉心デブリを処理することが可能であることだ。政府東電へ打診しているが、他に有効な処理方法が見当たらないので、デブリ処理の為に小型トリウム原発の実用化が進む可能性がある。
今日本でいきなり安全なトリウム原発を研究開発をするとなると、SEALDsのような日本の頭が悪い左翼プロ市民朝日新聞など日本のゴミ層が一斉に反発して面倒くさいことになるが、福島原発処理用であれば日本のゴミ層も容認するだろう。
4.原子力の新しい時代は「乾式技術」によって開かれる 過去の負の遺産=「福島第一原子力発電所汚染水」の処理、使用済み核燃料の処理この問題を放置して、原子力は先に進め無い。
①福島第一原子力発電所汚染水問題
汚染水発生の原因=破壊された原子炉容器内熔融炉心デブリからの発熱の冷却 熔融炉心が容器を破壊、状況すら把握できず、それを冷やしているから汚染水が流れ出る。
根本解決には、熔融炉心デブリの取り出しと始末が必要である。
熔融炉心デブリの処理は、何にでも反応し、何でも溶かす、フッ素による「乾式処理」しか無い。
②使用済み核燃料の処理
現状の六ヶ所村再処理は、純粋のプルトニウム取り出しの「湿式処理」によっている。 高速増殖炉の稼動が見込めない以上、プルトニウム取り出しは無意味。むしろプルトニウム蓄積は国際社会から、核武装の疑惑をもたれる。
使用済み核燃料のフッ素による「乾式処理」による減量と、プルトニウムと高レベル放射性廃棄物の混合物としてのフッ物としての取り出しと、熔融塩炉による「乾式処理」が有効。
③湿式炉「軽水炉」に代わる、乾式炉「トリウム熔融塩炉」の開発
水冷却「軽水炉」には、原理的安全性に問題があり、安全対策による高コスト化が避けられない。
原理的安全性を持ち原理的低コスト体質を持つ乾式炉「トリウム熔融塩炉」の開発に着手すべき今後の原子力を支える基本技術は「乾式技術」であるべきである。
「乾式技術」と「湿式技術」は、根本的に異なる。
日本は「乾式技術」によって、世界をリードすべきである。
5.福島第一原子力発電所の熔融炉心デブリの「乾式処理」
福島第一原子力発電所の汚染水問題
熔融して固まった炉心は、そのままにしておけば、放射能汚染の問題は終わらず、いつの日か問題が再発します。
熔融固化した炉心に対し、隔離、分別、減容、そして福島からの撤去に至る、始末をすることが肝要です。これ等を解決可能な技術として、フッ素による新しい技術、即ち「乾式技術」の開発を推進すべきで あります。
熔融炉心デブリの前処理
①熔融炉心デブリの取り出し=強い放射能を持ち人間が近ずくことが出来ないためロボットが必要
②乾燥:フッ素処理のためには、水分除去が必要。
フッ素による「乾式処理」
フッ素ガスは強力な反応性を持ち、あらゆるものと反応してガス化、又は液体化出来る。フッ素と反応して生成したフッ素化合物を分離して始末する。
トリウム熔融炉の現状については下記リンクが詳しい
トリウム熔融塩炉の開発の現状について - 原子力委員会 2013-5-9
2016年1月>米国エネルギー省が、高温ガス炉と熔融塩炉に各々$40million(約50億円)の政府資金を出すことを決めた
そして中国もトリウム原発の開発に力を入れている。
米国エネルギー省が熔融塩炉開発に資金投入を決定
2016年1月に「米国エネルギー省が、高温ガス炉と熔融塩炉に各々$40million(約50億円)の政府資金を出すことを決めた」というビッグニュースがありました。(本年度は各々約7億円)
http://energyfromthorium.com/2016/01/16/doe-terrapower/
ご存知のように、世界の多くの国で熔融塩炉の開発研究が進められていますが、米国は永年、いかなる新型原子炉の開発にも、政府資金を投じて来ませんでした。
それが大きく舵を切った訳で、世界や日本に大きな影響を与えることになるでしょう。
また、資金の受け皿が全米4位の電力会社で、ほかに米国電力中央研究所やORNL(オークリッジ国立研究所)、ビルゲーツ子会社も参加していることから、オール米国とでもいう大きな動きとなりそうです。
但し、今回採用されたMCFR(Molten Chloride Fast Reactor)は、塩化物を用いた高速炉型の熔融塩炉です。従来、ORNL(MSBR)やFUJIが採用している弗化物を用いた熱中性子型の原子炉とも、仏やロシアが研究している弗化物使用の高速炉とも異なります。
中国、次世代原子炉の開発急ぐ 「トリウム」に脚光
【日本経済新聞】2013/6/19 7:00 編集委員 安藤淳
エネルギー需要が増大する中国で、次世代原子炉を開発する動きが加速している。ウランの代わりに、大量に余剰があり廃棄されてきたトリウムを燃料に使う「トリウム溶融塩炉」の研究が進む。炉心溶融(メルトダウン)の危険がなく放射性廃棄物が少ないという。日本も米国と協力して過去に同様の炉を研究しており、将来の選択肢に加えるべきとの指摘もある。トリウム原発は世界の潮流となる可能性が高い。
■メルトダウンは原理的に起きず
「平均年齢30歳の若手を中心に約500人が次世代炉のプロジェクトを進めている」――。中国科学院上海応用物理研究所の徐洪杰TMSRセンター長は今年4月、都内で開いたシンポジウムで開発陣容の拡大を明らかにした。
TMSRはトリウム溶融塩炉の略。天然には原子番号90のトリウム232が存在する。モナザイトと呼ばれる地球上に広く分布する鉱物から得られる。レアアース(希土類)を採取した後の廃棄物に多く含まれる。中国のトリウム保有量は豊富で、国内の電力消費を数百年賄えるという。
トリウム232に中性子が当たるとウラン233に変わり、これが核分裂を起こしてエネルギーを発生する。トリウム溶融塩炉はフッ化物の液体状の塩(溶融塩)にトリウムを混ぜ、さらに少量の核分裂性物質を加えた液体を燃料に使用。熱を取り出す冷却材としても溶融塩を使う。
日本などの軽水炉のように、固体の燃料が高温で溶け落ちるメルトダウンは原理的に起きない。ウランの核分裂反応に比べ、プルトニウムの発生量が少ないので核不拡散に有利とされる。燃料は比較的容易に再利用でき、その過程でプルトニウムを含む放射性廃棄物は消滅していく。
中国政府は2011年に打ち出した「イノベーション2020」で、20年までに2メガ(メガは100万)ワットのトリウム溶融塩炉の試験炉を動かすとしている。冷却材にのみ溶融塩を使い、燃料は固体のままにするフッ化物塩冷却高温炉(FHR)も並行して開発する。
トリウム溶融塩炉は米国が1960年代に実験炉を稼働、米エネルギー省(DOE)のオークリッジ国立研究所(ORNL)などにノウハウの蓄積がある。中国科学院はDOEと結んだ覚書に基づき、ORNLの研究者らと協力している。
■日本も要素技術は持つ
溶融塩を循環させるポンプ、燃料棒の試験装置などがそろいつつあり、セ氏700度程度の高温に耐える材料の開発・生産も進んでいる。「炭化ケイ素材料が重要。日本の技術に期待しているほか、米国の研究者とも改良法などを議論している」(徐センター長)
中国科学院と交流があるNPO法人「トリウム熔融塩国際フォーラム」の吉岡律夫理事長は「中国では休日なしで開発を急いでいる」とスピードに驚く。優秀な人材を世界から素早く確保しようと「ネットでも募集している」という。
なぜ、そこまで熱心なのか。中国の環境・エネルギー問題に詳しい帝京大学の郭四志教授は「電力を賄うために原発の増設計画を進めているが、ウラン燃料の不足が問題になっている」と指摘する。国内で採掘を増やすと、地下水汚染の悪化を招くとの懸念もある。
最近の異常気象で水不足が深刻化し、水力発電所も打撃を受けている。冷却用に大量の水が必要な軽水炉も、河川の水位低下が進めば使いにくくなる。トリウム溶融塩炉を含め「炉のタイプの選択肢をできるだけ広げておきたい」(郭教授)。
日本でも80~90年代にトリウム溶融塩炉の研究が進んだ時期がある。その後は下火になったが要素技術は持っている。今後も原発に頼るとしたら、安全で使いやすいのはどのような炉なのか。トリウム溶融塩炉だけが解ではないが、科学データをもとに改めて考える意味はある。
[日経産業新聞2013年6月14日付]
トリウム熔融塩炉は未来の原発か?
【WIRED】2012.05.03 THU 12:00
かつてアメリカのオークリッジ国立研究所で開発されたものの、歴史の闇のなかへと消え去ったまぼろしの原発「熔融塩炉」。2011年に中国が本格的開発に乗り出すことを発表した失われたテクノロジーは、本当にクリーンでグリーンで安全なのか? かつて福島第一原発3・5号機の設計を担当し、現在は世界を舞台に「トリウム熔融塩炉」の可能性を推進する原子力工学の専門家・吉岡律夫先生に訊いた。古川和男博士〔文春新書「原発革命」の著者。東北大学助教授、日本原子力研究所ナトリウム研究室長、東海大学教授を歴任)は残念ながらこの記事が載る直前2011年12月14日逝去されております。
PHOTOGRAPH BY JUNPEI KATO
INTERVIEW BY WIRED.jp_W
液体の熔融塩は放熱を終えると固体になる。PHOTOGRAPH BY JUNPEI KATO
──オークリッジ国立研究所で1960年代に実際に稼働していた「熔融塩炉(MSR:Molten Salt Reactor)」が、ここ10年ほど大きな注目を集めるようになってきました。また、トリウム燃料の可能性も近年盛んに語られていますが、いわゆる「トリウム熔融塩炉」がいまこうして注目される理由は何なのでしょう?
世界における原子力発電の問題は何よりもまず、燃料として用いたプルトニウムの処理処分です。アメリカを中心に日本も、高速増殖炉によってその燃料を再利用できるようにすることをもくろんできたわけですが、これが開発開始から50年近く経ってもめどが見えない。そこでトリウム熔融塩炉が注目されるわけです。というのもトリウムは放射性物質なのですが、自ら核分裂は起こしません。そこでトリウム(Th232)からウラン233を生み出す必要があるのですが、その火種としてプルトニウムを使用することで、プルトニウムを消滅させることができるのです。
──トリウム熔融塩炉を使用すれば、プルトニウムを燃やしながら新たなエネルギーを生み出すことができる、ということですか?
そうです。現状における原発の計画は、軽水炉から出るプルトニウムを高速増殖炉で再処理して再び使うという「ウランープルトニウム・サイクル」を前提としたものですが、それがうまくできないことによって、プルトニウムの処理処分の問題が大きくなり続けています。加えて、核拡散の問題もあります。ところが「トリウムーウラン・サイクル」ですと、処理の問題も、核拡散の問題も解決できるのです。
──核兵器に転用できないということですか?
不可能ではありませんが、トリウムからはごく少量のプルトニウムしか生まれません。加えて、トリウムからウラン233とともに生成されるウラン232は強いガンマ線が発生しますから、検知が容易だということも兵器利用の抑止という観点からはメリットです。
──トリウムは世界中で採れるのでしょうか?
世界中のほとんどの国で採掘できます。残念ながら日本では採れませんが、実はトリウムは、電気自動車やハイテク機器に欠かせないレアアースに含まれているもので、現在世界中で発掘されているレアアースの副産物としてすでに年間1万トンほどが採掘されています。けれども放射性物質ですから処分に困ってるわけですね。それを利用できるとなると燃料問題はおよそ片付いてしまいます。というのも、年間1万トンのトリウムで100万kWeの原子力発電所を1万基稼働できてしまうからです。
──安全性はどうでしょう?
トリウム熔融塩炉というのは、LiF-BeF2というフッ化物熔融塩に、親物質としてのトリウムと、核分裂性物質のウランまたはプルトニウムを混合し、それを液体燃料として用いるものです。つまり燃料が液体で、それ自体がすでに溶けているわけですからメルトダウンという状況が起きません。また熔融塩は、沸点が1,500°Cという高温で、かつ化学的には空気と反応したりすることがありません。これはどういうことかというと、水の場合、温度を上げようとすると圧力をかけないといけませんけれど、そういった操作なしに簡単に扱えるんですね。だから炉心の外壁にしたって、軽水炉のように分厚いものである必要がないですし、福島のように水蒸気や水素が容器や格納室にたまって爆発するようなことがないのです。
──とはいえ、福島のようにすべての電力系が失われたら、やはり危険ですよね?
もちろん危険ではあります。液体燃料とはいえそれ自体は放射線を出していますから。ただ、爆発要因はありませんから、セシウムなどの放射性物質が空気中に飛散するといった状況は起こりません。燃料の温度が上がりすぎて、かりに容器を溶かして外に流れ出しても一定期間で放熱をし終えると固体となって固まります。その間、なんらかの方法で冷却する必要はあるでしょうけれど、オークリッジではプールのようなものの中に自動的に燃料が流れ込むようなことを考えていたようです。
──トリウムを固体燃料として現状の軽水炉で使用する、という可能性はありませんか?
トリウムに関する国際会議で、フランスのアレバ社の担当が言ってましたけれど、トリウムを軽水炉で利用するメリットはあまりないんです。というのも、固体のトリウムは再処理をしてウラン233を取り出すのが難しいんですね。つまり増殖することができないんです。ですから、トリウムをただ燃やすだけになってしまいますし、併用するウラン燃料からは新たなプルトニウムも発生しますから問題の解決にはなりません。熔融塩炉で液体として利用すれば増殖が可能で、かつプルトニウムも燃やすことができる。トリウムを利用するなら、熔融塩炉がいちばん理にかなったやり方です。
──なぜ、これほどいいことずくめの技術が、日の目を見なかったのでしょう?
それが核兵器に使えないからですよ(笑)。と、もうひとつあるとすれば、熔融塩っていうのは化学の範疇なんですよ。そもそも軽水炉を含めた原子力発電所っていうのは、一種の「化学プラント」であって、本当は電気屋さんではなく、化学の専門家が扱うべきなんです。それはワインバーグもウィグナーも言っていたことで、日本でいち早くトリウム熔融塩炉の可能性に気づいた古川和男先生も言っていたことです。古川先生は1960年代からナトリウムの世界的な権威だったわけです。その人から見ると、ナトリウムを利用した高速増殖炉はきっと危なくて仕方のないものに見えていたはずで、一方、不活性な熔融塩がよさそうだというのは直観でわかっていたんですね。だから先生は、オークリッジの熔融塩実験炉を見て「自分の直観は正しかった」と思って帰ってこられたわけです。
──古川先生は原子力研究所で高速増殖炉の研究をされていたんですよね?
そうです。ただ、軽水炉と高速増殖炉は国の既定路線ですから、ある時期からはだいぶ煙たがられていたみたいですね。それと違うもののほうが優れていると考える人は、あまりありがたくなかったんじゃないでしょうか。
──吉岡先生はなぜ熔融塩炉に?
わたしは70年代に原子力の世界に入りましたが、当時は高速増殖炉に夢がもたれていた時代で、わたしもそうだったんです。以後、高速増殖炉を少し手がけた後、主に軽水炉の設計をやってきたわけですが、90年代初頭に、高速増殖炉はなんでこんなに長く研究をやってるのに結果が出ないんだ、そもそも無理があるんじゃないのか、と思うようになったんです。そのころ古川先生の研究に出合って、自分でも計算してみたら、これは正しいなと思えたんです。
──ところで、本誌でワインバーグ博士を取り上げることに驚かれてましたね(笑)。
スティーブ・ジョブズならともかく(笑)、ワインバーグ博士の記事をつくると聞いて驚きました。ふたりの共通点を挙げるとするなら、未来を見据えた天才だということでしょうか。ワインバーグは軽水炉の発明者でした。世界の原発の生みの親と言えるでしょう。その彼が、軽水炉の危険性やプルトニウム問題を50年前に指摘し、安全でプルトニウム問題もないトリウム熔融塩炉を推進したわけです。
──日本でトリウム熔融塩炉が、実現する可能性はありますか?
古川先生に初めてお会いしたときに言われたのは、日本は問題じゃないということなんです。つまり日本は人口がこれからどんどん減っていきますが、世界はそうじゃない、ということです。アジア、アフリカといった地域の人たちの生活レヴェルが上がっていったときにどう電力を供給するか、これを考えるのが先進国としての日本人の務めだと、こう言われたんです。世界を考えなさいと。ですから、わたしも原発の未来に関する議論においては日本のことはあまり考えてません。
──日本の原発業界は世界の状況はあまり考えてこなかった、ということになりますか?
ええ。日本の原子力産業っていうのは、結局、日本国内の需要だけで成り立っている極めて内向きなもので、いまになって輸出だなんて言って四苦八苦してますけれども、いままで海外に出たことなんかないわけですから、それも当たり前です。熔融塩炉に関して言うと、日本には熔融塩の研究者は他国と比べるとたくさんいますし、黒鉛の専門メーカーもある。そのほか鉄鋼技術や高温融体の研究なども進んでいます。つまり日本がリードできる要素技術はもっているわけですし、それを新しい産業へと発展できるんです。中国が開発に乗り出すというのなら、日本の技術力を生かすいい機会だと思いますよ。本当は原子力研究所などがやるべきなんですが、高速増殖炉と軽水炉の路線が法律で決められちゃってますからね。
──福島の事故は、世界に脱原発の動きを促した、というようなことはないんですか?
残念ながら、その方向は難しいでしょう。80億とも90億とも言われる膨大な人口増加によるエネルギー需要を賄うための現実的な方策としては、原子力以外にいま有効な手だてはありませんから、その研究・開発を止めるという選択肢はありません。もちろん並行してさまざまな研究も行うべきだと思いますが、福島が与えた教訓を生かしながら、そういう世界全体の動きについていく以外の道はないように思います。
第4世代原発、トリウム溶融塩炉 中国が開発を急ぐわけ
【産経ニュース】2014.4.3 21:40
2月7日。五輪開幕に合わせてロシア・ソチを訪問した中国の国家主席、習近平は、チェコのゼマン大統領と会談し、インフラ建設、新エネルギー、農業などについて2国間協力を進める意向を確認した。
43時間のソチ訪問中、習近平が会談した元首級の要人は露大統領のプーチン、国連事務総長の潘基文、ギリシャ大統領のパプーリアス、アフガニスタン大統領のカルザイ、そしてゼマンだった。
「世界の大国」を自任する中国に対し、チェコは中欧の要とはいえGDP世界52位の小国に過ぎない。しかも中国政府に弾圧されるチベット民族を支援しようと、公の施設にチベット旗を掲げたりする、中国にとって苦々しい相手だったはずだ。
習近平は限られた時間をやりくりしてまで、なぜゼマンとの会談を望んだのか。それは、チェコが、第4世代原発といわれるトリウム溶融塩炉の開発競争の先陣を切っているからだと言われている。
× × ×
原発は、言うまでもなく放射性物質の核分裂反応を利用した発電方法だ。ウランなど放射性物質の原子核は中性子を吸収すると核分裂を起こす。その際、膨大なエネルギーと一緒に中性子を放出する。放出された中性子が再び別の原子核に吸収され、核分裂する。
原子炉では、核分裂反応を安定した状態で連鎖的に起こさなければならない。そのためには原子核に吸収されやすいよう中性子の速度を落とす「減速材」と、核燃料を冷やす「冷却材」が不可欠となる。
軽水炉とは、濃縮ウランをペレット加工した固体燃料を「軽水=普通の水」に浸し、水が減速材と冷却材の役目を併せ持つタイプの原発を指す。水が扱いやすい上、原子炉制御が容易で事故の危険性が小さいことから、世界の原子力発電所のほとんどが軽水炉を採用している。
日本国内の原発も軽水炉がほとんどを占めるが、実は2種類ある。核燃料から直接熱エネルギーを奪った軽水を蒸気とするのが、福島第1原発の沸騰水型軽水炉(BWR)。別系統の水に熱エネルギーを移して蒸気とするのが九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)に代表される加圧水型軽水炉(PWR)だ。
これに対し、トリウム溶融塩炉は、高温(500~700度)で液化した「溶融塩」にトリウムを混ぜて燃料とする。
炉内には、減速材として柱状の黒鉛が並び、その中を溶融塩が流れ、核分裂反応を起こす。冷却材はポンプで対流させる溶融塩そのものだ。沸点が1430度なので気化することも、高圧にする必要もない。
× × ×
実はトリウム溶融塩炉は新しい技術ではない。
第2次世界大戦終結から間もない1950年代半ば、米・テネシー州のオークリッジ国立研究所がトリウム溶融塩炉の研究を本格的に始めた。1965年に実験炉の運転が始まり、最大7500キロワットの出力を達成した。実験炉は1969年まで無事故で運転した。
だが、軽水炉との実用化競争に敗れ、歴史の表舞台から消えてしまった。理由は炉内でプルトニウムを生成しないため、冷戦下の米国に魅力的に映らなかったからだとされる。
トリウム溶融塩炉が再び脚光を浴びたのは、東日本大震災の直前だった。
2011(平成23)年1月。急速な経済発展に伴い、石炭火力による大気汚染と電力不足に悩む中国政府が、トリウム溶融塩炉の開発に取り組むことを表明した。
先頭に立つのは、中国科学院副院長を務め、元国家主席、江沢民の息子でもある江錦恒だった。「なぜトリウム溶融塩炉なのか」。世界の原子力研究者は驚きの声を上げた。
レアアースの豊富な埋蔵量を誇る中国は、精錬の際に副産物として大量に出てくるトリウムの取り扱いに頭を悩ませてきた。加えてトリウム溶融塩炉ならば、軽水炉に必要な大量の水を確保できない内陸部でも建造することができる。
この辺りが中国政府がトリウム溶融塩炉の開発に本腰を入れ始めた理由だとみられる。中国の動きは世界の原発の潮流を変える可能性を秘めている。
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トリウム溶融塩炉の強みとは何なのか。
まず事故対応が挙げられる。
福島第1原発は、津波に起因する全電源喪失により、冷却材である軽水の循環がストップし、蒸発を続けた。冷却手段を失った核燃料がメルトダウン(炉心溶融)したことで、燃料表面のジルコニウム金属と水蒸気が化学反応を起こし、水素が大量に発生。1、3、4号機で水素爆発が起きた。
オークリッジ国立研究所の実験などによると、トリウム溶融塩炉でも全電源喪失すれば溶融塩の対流が止まり、冷却機能を失う。この場合は、原子炉底部にある凝固弁が、高温となった溶融塩によって溶けて穴が開き、溶融塩は下の耐熱タンクに流れ落ちる。
ところが、減速材である黒鉛から離れたことで核分裂反応は収束に向かい、溶融塩の特性から450度以下に冷えるとガラス固化体へ変化する。ガラス固化体は強い放射線を出すが、少なくとも気化した放射性物質を周囲にばらまくことはない。
水を使っていないことから爆発の要因となる水素が発生することもない。
余剰プルトニウムの問題も解決される。
ウランを燃料とする軽水炉は、プルトニウムを含んだ使用済み核燃料を排出する。テロや核兵器への転用が懸念され、今年3月にオランダ・ハーグで開かれた核安全保障サミットでも余剰プルトニウムの取り扱いが議論された。
これに対し、トリウムは、核分裂反応の“種火”としてプルトニウムを使うため、余剰プルトニウムの削減にも寄与できる。
効率のよさも特筆に値する。軽水炉は沸点の低い水を使用することから熱効率は33%と低いが、トリウム溶融塩炉は45%前後まで向上する。核分裂反応が弱まれば、トリウムを炉内に溶かし入れるだけなので燃料棒の交換も不要だ。
このような特性を考えると、放射性物質を含んだ溶融塩を熱交換器に安全に対流させる方法など課題はいくつもあるが、トリウム溶融塩炉は将来有望な新型原子炉だといえる。
京都大や立命館大などでトリウム溶融塩炉の研究に長年携わってきた亀井敬史はこう語る。
「今後の原発は、小型化・モジュール化が進むことは間違いありません。取り扱いが容易で最大出力1万~10万キロワット程度の小型原発に向いたトリウム溶融塩炉は、従来の大型軽水炉を補完する大きな可能性を秘めています。日本も本格的に研究すべきなのです」
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トリウム溶融塩炉だけではない。世界では「第4世代」と言われる新型原発の熾烈な開発競争が始まっている。
世界にある原発は2013年1月現在で429基。その大半は第2世代(軽水炉)または第3世代(改良型軽水炉)に属する。
その先を行く次世代原子炉の開発に向け、日米英仏など10カ国が「第4世代国際フォーラム」を結成したのは2001年7月だった。
フォーラムは、2030年までの実用化を目指す新たな原子炉として、トリウム溶融塩炉をはじめ、軽水炉の進化版「超臨界圧軽水冷却炉」、冷却材にヘリウムガスを使う「超高温ガス炉」など6タイプを定めた。日本の高速増殖炉「もんじゅ」に代表されるナトリウム冷却高速炉も含まれる。
どのタイプも、燃料の効率的利用、核廃棄物の最小化、核拡散の防止、安全性向上などを見込めるという。フォーラムには、後に中国や韓国、欧州原子力共同体(ユートラム)なども参加し、情報交換や協力を重ねながら各国が開発にしのぎを削っている。
国際的な動きとは別に、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツも2010年3月、劣化ウランを燃料に、冷却材にナトリウムを使った新型原発「進行波炉」(TWR)開発に数十億ドルという私財を投じると発表し、注目を集めた。
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第4世代開発だけではない。世界中に普及した軽水炉の技術革新も止まったわけではない。
これまで以上に安全性を高め、ウラン燃料の燃焼効率を向上した改良型軽水炉が誕生し、国内外で採用されている。
既存原発の技術進歩は日進月歩で続いている。九電は安全性向上と発電能力増強を目的に、平成18年に川内1号機の、22年川内2号機の蒸気タービンを三菱重工業製から独シーメンス製に交換。これにより年間発電量が3%上昇した。
こうした既存原発の改良や新型原発の研究など、各国が原発技術の開発にしのぎを削るのは、逼迫(ひっぱく)するエネルギー需給への対応が急務だからだ。
国際エネルギー機関(IEA)の見通しによれば、2030年の世界のエネルギー需要は石油に換算して159億7700万トン分。2000年の1・6倍に達する。世界規模の資源争奪戦はますます熾烈になるに違いない。各国が原発の技術開発に血眼になる理由もそこにある。
だが、日本では、福島第1原発事故後、「脱原発ムード」という逆風に耐えかね、東京電力などの優秀な原発技術者が相次いで海外に流出している。
現役世代だけではない。文部科学省によると、全国の大学の原子力関連学部への平成25年度志願者数は、計約440人と事故前から2割も減ってしまった。
感情論からの「原発ゼロ」に流され、原子力技術を途絶させると、その影響はあらゆる分野に及ぶ。すでにその兆候は出ている。「技術立国・日本」の地位は大きくぐらついている。(敬称略)
中国がトリウム原発を推進することは間違っていない、彼らも自分達のいい加減さはよく知っていて、いつか原発事故を起こしかねないことを自分自身よく理解しての選択である。トリウム原発を選択した中国当局を褒めてあげたいと思う。
高山正之<変見自在>非道国家が原子力を手に入れると……
【週刊新潮】2012年7月12日号
ニトログリセリンは十九世紀半ばにイタリアの化学者アスカニーオーソブレロが創った。
紙めたらこめかみがずきずきした。それが後に血管拡張作用だと分かって狭心症の薬になった。
ソブレロの友人アルフレッドーノーペルはニトロの爆発力に着目した。
彼の生地ストックホルムは花尚岩の街といえば格好いいけれど、要は十センチも掘れば厚く固い岩盤に行き当たる。
土管一本通すのも汗水たらして岩を穿たねばならなかったのを軽減できないかと彼は考えた。
ただニトロはちょっとしたショックでも温度の上下でも簡単に爆発する。
彼はそれを珪藻土にしみこませて安定化させる方法を思いついと。ダイナマイトの発明だ。
かくてストックホルムの街づくりが進み、今では地下岩盤に穴を開けて地下鉄が走るようにもなった。
ノーベルはそれでも不安定なダイナマイトの欠点を少しでも補おうと、ちょっとやそっと叩いたくらいでは爆発もしない「ゼリダナイト」を後に発明している。
もろ刃の剣、ニトロはイタリア人、スウェーデン人ら善意の学者に育まれ、一方で心臓病に悩む人を救い、トンネルを穿ち、ダムをつくる手助けをして人類に愛される道を歩んだ。
それといい対照になるのが原子力だった。
原子力はもともと地熱などと同じ自然エネルギーの一つだ。朝日新聞が目くじら立てるほどの異様な危険物じゃあない。
現にザボン中部オクロで二十億年前、ウラン鉱床が地下水と反応し天然の原子炉ができ、六千万年間も稼働していたことがフランス原子力庁によって確認されている。
この当時のウラン鉱床中のU235は現在の五倍の三パーセントはあった。つまり軽水炉原発の低濃縮燃料と同じ濃度で、地下水加減連材になって臨界に達していた。
生まれは正統な自然エネルギーだ。そのエネルギーは大きく、派生するX線などの放射線は体内を透視し、がんを治療し、血を出さないレーザーメスにもなる。
ニトロと似るが、ただ最初に原子力を手に入れ、育てた国が悪かった。
この国は十七世紀、清教徒がやってきたのを国の肇としているが、彼らの性根は悪かっか。
着いた早々から先住民を襲って、土地を奪い、抵抗すれば「集落に火を放ち、彼らを生きたまま切り刻むか、その火中に放り込んで焼き殺し、女は強姦し、カリブの英植民地に奴隷として売り払った」(プリマス市長ウィリアムーブラドフォード)。
こんな残虐な建国史ではまずいから、リンカーンは先住民と仲良かったようにあの「感謝祭」を創作して国民の祝日にした。大統領自ら歴史を捏造した。
しかし彼らの根性は改まらない。彼らは先住民を売ったカネで黒人奴隷を買って、労働力の足しにし、次はもっと安い苦力を買った。
彼らは知力も不足していたのでフェルミやユダヤ系のシラード、アインシュタインなど二千人の物理学者を買いこんだ。
そして彼らに原子力を使った極悪兵器を創らせた。出来上がった爆弾は広島と長崎に落として二十万人を一瞬にして殺した。
米国は大喜びし、広島型の一千発分もの威力の水爆をビキニ環礁で爆発させたり、サンディエゴ沖で核爆雷を爆発させたり、ネバダで原子砲をぶっ放したり。一年間に九十六発も太平洋で爆発させたこともあった。
西部劇にやたら拳銃をぶっ放す半分いかれた無頼漢が出てくる。米国の行動はそれとよく似ている。
おかけで原子力は人類のためになる素質を持ちながら世間様にはごく悪い印象しか与えてこなかった。
因みにノーベルが心血を注いだ「安全なゼリダナイト」も米国はいじくり回した挙句、あのプラスチック爆弾C-4を生み出した。救いがたい国民性だ。
日本は米国という悪い環境によって歪められた原子力の本来の良さを引き出そうとしている。原発による子不ルギー自立はその最たるものだろう。
朝日新聞のいい加減な報道に欺されて孫正義を儲けさせるよりはずっと意味深い。
(二〇一二年七月十二日号)
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