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政府が、米海軍で開発が進められているレールガン(電磁加速砲)について、研究開発に本格着手する方針を固めたことが21日、分かった。平成29年度予算案の防衛省の概算要求に関連経費を盛り込む。米政府はレールガンを将来世代の中心的な革新的技術と位置づけており、日本としても独自に研究開発を行う必要があると判断した。

 レールガンは電気伝導体による加速で発射する新型兵器。米海軍が開発を進めているレールガンは、1分間に10発を発射することができ、時速約7240キロの速度で射程は約200キロとされる。対地・対艦・対空すべてに活用でき、ミサイル防衛でも中心的役割を担うことが期待されている。

 火砲やミサイルと比べて1発当たりのコストが低く抑えられ、中国やロシアの弾道ミサイルや巡航ミサイルを無力化できる可能性も秘めていることから、米海軍研究局は戦争の様相を決定的に変える「ゲームチェンジャー」と位置づけている。

 防衛省はこれまで、米国を中心とした国内外のレールガン関連技術の開発状況を調査するとともに、基礎技術に関する研究を行ってきた。レールガンが米軍に実戦配備されるのは5~10年後とされているが、自衛隊に導入するためには米国側の技術協力が不可欠。「日本側に技術の蓄積がなければ十分な協力が得られない」(陸上自衛隊関係者)という事情もあり、日本独自の研究開発を進める必要に迫られていた。
当ブログの読者の皆さんであれば、防衛省が既に平成27年度概算要求にて、
「艦載電磁加速砲の基礎技術に関する研究」をすでに記載しているので、今更驚く話ではないと思いますが、産経新聞が新たに概算要求に盛り込んだ理由は二つあると思います。海自の他陸自空自も配備する点と、小型という制約を外すからであると思われます。

今までの概算要求は海上自衛隊の護衛艦に艦載する防空用小型電磁加速砲と言う名目で基礎研究をしていましたが、陸自関係者が「超速射・レールガン(電磁加速砲)」の研究という名目で、BMDミサイル防衛の切り札として、陸自、空自にも配備を検討するということだと思います。

29年度予算では基礎研究ではなく、具体的な兵器として5~10年後に実戦配備を目指す研究としての予算配分になる可能性が高いと思われます。

また、射程距離を鑑みると、海自の艦載砲が小型としたのが、現在開発中の米国のレールガンは初速2.4km/sで射程が(200Km~450Km)の超長距離対地目標を攻撃するのを主目的にした兵器のイメージであるので、小型電磁砲としたのは、平時のカタログスペックを100Km程度(有事は簡単な操作で電圧を上げれば1000Km超の最大射程)に抑えなければ、憲法違反とされてしまうからであろう。

これが対弾道弾迎撃用電磁加速砲(レールガン) Anti Ballistic ElectroMagnetic Launcher として、陸自や空自の防空部隊に配備されたのなら、憲法上の制約も外れるからだと思う。

因みに、日本のレールガン研究において、優劣を左右する初速度についてはは米英のレールガンの水準を既に大幅に凌駕している。

日本のレールガンの基礎研究段階で、発射速度7.5Km/s~10Km/sを記録しており、その気になれば射程1000Kmは優に超える強力な兵器を開発可能かもしれない。

ちなみに英米のレールガンは砲弾速度マッハ7(秒速2382.03メートル)で日本は3倍~4.5倍の初速を記録しているのである。対弾道弾迎撃用にした場合宇宙空間にも到達可能かもしません。

レールガンの詳細については以下当ブログ記事を参照してほしい。



現在レールガン(電磁砲/電磁加速砲)が日英米において開発が進んでいる。


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アメリカ海軍は、2016年会計年度中に Baesystems 社製の
Electromagnetic (EM) Railgunの試作機を最新鋭の高速輸送艦ミリノケット(USNS Millinocket”JHSV-3”)に据え付け、洋上での実証試験に入ると発表している。

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日本では、早くからJAXSAにおいてレールガンの研究がされていた。

日本においては既に1991年初速7.45km/secの加速に成功しており欧米の技術水準を凌駕している。

しかし、2011年に開発は中止され、以後TRDI 現防衛整備庁において研究が引き継がれている。(?)

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防衛省の平成27年度概算要求にて、「艦載電磁加速砲の基礎技術に関する研究」を記載している。弾丸の高初速化により、従来火砲に比較し、射程、威力の大幅な向上が期待でき、革新的な装備品となる電磁加速砲に関する研究実施し、実用化を目指している。

我が国の防衛と予算平成27年度概算要求の概要のイメージ図を見る限り 対空、対艦、対対艦ミサイル用に用いるように見える。間違っても策源地攻撃図を載せていない。その点 防衛省/自衛隊は政治的に慎重である。

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イメージ図を見る限り米英のレールガンより一回り小型のサイズにも見える。

現在開発中の米国のレールガンは初速2.4km/sで射程が(200Km~450Km)の超長距離対地目標を攻撃するのを主目的にした兵器のイメージである。

日本においては、実際に使用するか否かは別として海上自衛隊は既に敵基地攻撃能力を持つUGM-84L Harpoon Block IIを保有している。策源地攻撃について防衛大綱や中期防で婉曲だが容認する記載がある。
日米間の適切な役割分担に基づき、日米同盟全体の抑止力の強化のため、我が国自身の抑止・対処能力の強化を図るよう、弾道ミサイル発射手段等に対する対応能力の在り方についても検討の上、必要な措置を講ずる。
しかしながらご存じのように憲法9条のおかげで公に対地攻撃手段を保有しづらい。
米軍におけるレールガンの主攻撃目標が内陸部の対地攻撃用のイメージが強い
レールガンの導入には慎重な導入工程を採ると予想される。

日本のレールガンは護衛艦に搭載する5インチ砲の進化系程度で、既存の対艦攻撃SSMの射程が概ね100Km程度の射程のカタログスペックなので、日本のレールガンもカタログスペック上同程度で最初に導入されると予想されます。

しかし、ここ数年レールガン ElectroMagnetic Launcherが対弾道ミサイル迎撃に有用な兵器として脚光を浴びだした。 日本のレールガンが対弾道弾迎撃用だという名分だとしたら宇宙空間にも届く発射速度7.5Km/s~10Km/s射程距離も500Km超の強力なものを開発可能となるかもしれない。ちなみに英米のレールガンは砲弾速度マッハ7(秒速2382.03メートル)

現在対弾道ミサイル兵器としてはSM-3が運用中であるが、1発20億円と高額で、一隻のイージス艦にはSM-3は8発しか搭載していない。SM-3搭載艦はイージス艦6隻中4隻、現状イージス艦に搭載している弾数は36発、SM-3搭載艦が8隻体制になっても64発しかない方が問題だ。北朝鮮だけで200発以上のノドンミサイルを保有している。

これに中国の弾道ミサイル保有数を考えるとイージス艦だけでミサイル防衛はあまりにも手薄で、中国のミサイル飽和攻撃を防御しきれない。
SM-3の保有弾数を500発程度確保しなければとても安心することができない。
ちなみに1発20億円、500発で1兆円・・・・

それに対してレールガンの砲弾は現状一発2万ドル程度で済む。量産化されればもっとコストは下がると思う。だが、SM-3から比べれば圧倒的にコストを抑えることが出来る。ちなみに短射程の指向性エネルギー兵器(レーザー光線)は一発1ドル程度。

財政負担を考えるとSM-3だけで日本を中国や半島の無法国家から守るには不十分だ。ましてトランプ候補が万が一大統領になれば日米同盟が揺らぎかねない。

北朝鮮がSLBMの発射実験にも成功した今日、対弾道弾迎撃用電磁加速砲 Anti Ballistic ElectroMagnetic Launcherが中国の飽和ミサイル攻撃に対応する防衛兵器の切り札となる。

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2014年4月のニュースで、どういうわけか日本語サイトには訳されず載っていなかった記事で、HII社がサンアントニオ型揚陸艦をイージスシステムを凌駕する対弾道弾迎撃艦BMDshipに改造する提案をしたという記事をを最近検索して読んだが、目から鱗だった。アナーセルシップ化はどうでもよく、レールガンが対弾道弾用BMD兵器として切り札となる画期的な兵器だと認識したからだ。自動翻訳を元に超訳して記事にしたのが弾道ミサイル迎撃艦 Ballistic Missile Defense Ship (BMDships) 
是非ご一読ください。

対弾道弾迎撃用電磁加速砲 Anti Ballistic ElectroMagnetic Launcher」の元記事はやはり2014年4月に米海軍がEMレールガン(電磁加速砲)契約を英国のBAEシステムズが獲得した記事について書いたとある海軍の電磁砲 も合わせてお読みください。

海上自衛隊もレールガンや指向性エネルギー兵器の搭載を準備している。特に 
あきつき型後継の新型25DDはVLSのセル数があきづき型の32から16セルへ減らされている。(VLSは必要に応じて16セルが追加搭載可能)はじめ、VLSが減らされとても不可解であったが、しかし、主機方式が護衛艦としては初のガスターボエレクトリック・ガスタービン複合推進(COGLAG)になっていることで納得した。

電磁砲、高出力マイクロ波(HPM)、高出力レーザシステムにしてもエネルギー源は電気であって、統合電気推進システムは次世代兵器にエネルギーを供給できる一石二鳥のシステムである。

そう考えると、25DDは海上自衛隊初の指向性エネルギー兵器かレールガンを搭載する護衛艦となる可能性がある。護衛艦はおよそ30年~40年程度使用するが、途中で何回か兵器の追加交換する改装工事が行われる。2018年に竣工する25DD逆算すれば実用化は2030年頃と推定される。

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25DD
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25DD後継艦?

従来の艦船では、原動機により直接プロペラを回して機械エネルギーで推進する。一方、艦内負荷は発電機により供給される電気エネルギーで作動させている。
次世代の艦船では、推進電動機による電気推進を採用して推進負荷と艦内負荷に同じ発電機から給電し、全てのエネルギーを電気に統一する統合電気推進艦が検討されている。その理由の1つは、大電力砲こう武器、レーザ兵器といった高出力武器や将来の高性能センサーの電力負荷に対応するためである。これは、図1に示すように高速航行時に必要な大電力を高出力武器や高性能センサーに融通させることで、必要な電力を確保するものである。           これを実現するためには、発電機から各負荷に至る給電網(電源システム)の開発が必要である。しかし、将来武器は開発途上であり、また海上自衛隊の将来武器要求が必ずしも諸外国と一致するものではなく、電源における要求事項が明確でない。そこで、本検討では、電源システムで重要な要件の一つである「電源品質の維持」に着目し、現状艦船が電源品質を維持できる限界を明確にするとともに、将来武器の電源への要求と比較検討することで技術課題を抽出す
ることを目的とする。

25DDに限らず自衛隊は将来兵器に向け ガスターボエレクトリック・ガスタービン複合推進(COGLAG)方式が主流となっていきそうだ。

つまり、自衛艦には将来的にレールガンや指向性エネルギー兵器(レーザー砲)が主武装となる可能性がある。日本においても「対弾道弾迎撃用電磁加速砲 :Anti Ballistic ElectroMagnetic Launcher」の開発を待たれるところだが、対弾道弾迎撃用としては米軍は一歩進んでいるようだ。

さて、下の動画を見てください。


まずはレールガンによる極超音速巡行ミサイル撃墜シーンである

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第二次世界大戦で発明されたVT(近接)信管の原理で目標が近づくと弾頭中央に仕込まれた弾帯が散開する。先端部分は地上目標を撃破するのに使われ、この砲弾は対地対空兼用砲弾のようだ。
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散開された断片の数枚が超高速同士で直撃。

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さすがにお互いに極超音速の弾頭の直撃は難しいので、ショットガン方式だが、超高速で飛翔する散弾は、僅かでも命中すればお互いに超高速で飛行しているので、直撃した瞬間に運動エネルギーが巨大なエネルギーとなって爆発して撃墜可能となるようだ。

7.9Km/sで再突入してくる弾道ミサイルから分離したMIRV弾頭も撃墜可能だ。
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秒速7.9Km/sの弾頭を撃墜する場合はさすがに極超音速ミサイルより散開は早くなり散開範囲を広くするようだ。
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BMD兵器としてレールガンは有効な兵器となりそうである。

日本においてレールガン導入の最大の障害は技術的問題ではなく、対地攻撃も可能なレールガンは腐った護憲左翼達の格好の政府攻撃の材料となり、恰好なターゲットである。そこでその追及をかわすには、最先端部分も散開する対空専用弾にすれば、問題は解決するかもしれない。

防衛省は新兵器導入はかなり慎重な工程をとってきた。DDHいずも型を導入するにまず空母船型のおおすみ型輸送艦を建造し、世論状況を確認し、次にひゅうが級DDHを建造、そしてそのままF-35Bも搭載可能ないずも型を建造したように、攻撃型航空母艦になりえるのだが、防衛用対潜護衛艦であると、かなり慎重である。

かつて純国産戦闘機をFSXを開発を試みたが米国に横槍をいれられ開発が中止になり、F-2となったが、F-2もあやうくF-16Cそのものにされかかった。その為戦闘機も
、密かに高機動研究機ATD-X(心神)計画を水面下で進め、私のような軍事ヲタクにも2008年まで詳しい情報が耳に入ってこない情報統制で、ようやくX-2初飛行に辿りついた。次はいよいよF-3計画になるだろう。(たまたま知り合った航空自衛隊航空機調達の関係だった退役直後の方も2003~4年の段階で、高機動研究機を水面下でおこなっていることを私が知っていること自体驚かれていた。)
その慎重な導入過程を考えればレールガンも短距離対空目標用と称し、小型レールガンを導入し、導入した後大型の対地目標に使わない建前で大型BMD用レールガンを導入する工程をたどると思います。

最終的にBMD兵器としてのレールガンはやがてかつての戦艦のような重武装のシルエットの艦船が出現するかもしれない。主砲がレールガンで、高角砲がレーザー砲に置き換わる船の出現を一軍事ヲタクとしては期待してしまいます。





技本の研究開発の現状と軍事技術の方向性 - 防衛省・自衛隊

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WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)は、5月31日、米海軍が開発中の電磁レールガン(以下、レールガンと表現する)について、「米国のスーパーガン」という表現でその能力と安全保障に及ぼす影響についてかなりセンセーショナルに報道*1した。

 私は、以前からレールガンや指向性エネルギー兵器(DEW: Directed Energy Weapon、 後述のレーザー兵器や高出力マイクロ波兵器のこと)に注目してきた。

 なぜならば、これらの兵器が完成し実戦配備されれば、中国やロシアのA2/AD(Anti-Access/Area Denial:接近阻止/領域拒否)の脅威、特に対艦弾道ミサイルや対地弾道ミサイルの脅威を大幅に削減することができるからである。

 米軍にとっては、レールガンを装備することにより、アジアの作戦地域への接近が再び可能となる。

 A2/ADに対抗する米軍の作戦構想であるASB(Air Sea Battle、現在ではJAM-GCに名称が変更された)で想定していた「空母などの大型艦艇の損害を避けるために、紛争直後に一時期、中国の対艦弾道ミサイルの射程外に後退させる」などの作戦が不必要になり、日米同盟の信頼性の向上にも寄与することが期待できる。

 また、我が国の重要施設(空港や港湾など)の防衛や南西諸島の防衛において、諸外国による各種ミサイルの攻撃や航空攻撃に対して有効に対処できる可能性が増大する。

1 レールガンの開発状況

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●WSJの報道内容

 図1を見てもらいたい。

(*配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで本記事の図をご覧いただけます。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47056

 レールガンは、発射薬(大量の高温ガスを発生させ、その圧力により弾丸、ロケットなどを発射させるのに用いる火薬)や炸薬(砲弾などに充填し、信管等の作動で爆発させる火薬)を必要としない。

 固い発射体を電気伝導体のレールで加速し、目標を破壊する。米海軍が開発中のレールガンでは、時速7240キロ(マッハ6)まで加速でき、有効射程は200キロで、1分間に10発の射撃が可能である。レールガンは、航空機、ミサイル、戦車などほぼすべての目標に対して有効である。

 レールガンの発射体を誘導する技術の開発はほぼ完了していると記事は伝えている。スーパーコンピューターを使って狙いを定め、スマートフォンの技術(GPSも使用)を使い軌道を修正する。

*1=“A First Look at America’s Supergun”, WSJ, May 31 2016

 発射体の開発は、レールガン全体の開発よりも早く完成する予定である。

 この発射体は、レールガンでのみ使われるのではなくて、既存の海軍艦艇の砲(5インチ砲、6インチ砲)や陸軍の榴弾砲からの発射も可能で、射程延伸(例えば、6インチ砲で24キロから60キロへの射程延伸)や威力の増大の効果があるという。

 またWSJは、米国防省で先進技術の開発を担当し、レールガンの推進者の1人でもあるロバート・ワーク国防副長官の次の発言を伝えている。

 「冷戦時代に欧州に配備した大規模な戦力を再現することは考えられないが、高価ではなく非常に大きな抑止力としての価値を有するレールガンを想像することはできる」

 ワーク国防副長官は、第3次相殺戦略を担当していて、その中にレールガン関連事業も入っている*2。ワーク国防副長官の肝煎りであるということは、将来的に非常に有望な兵器であることを証明している。

 一方、レールガンを運用するためには、25メガワット(1万8750世帯の電力を賄うことができる電力)の発電装置と大規模な蓄電設備が必要になる。

 そのため、レールガンを搭載可能な艦艇は限定されるが、現在、レールガンを搭載する最有力な艦艇は、ズムウォルト級(Zumwalt-class )駆逐艦(図2参照)で、78メガワットの電力能力を持っている。



 また、艦艇搭載が唯一の選択肢ではなくて、地上設置型のレールガンも有力である。なお、レールガン全体の開発は、今後10年以内には完成し、実戦配備されることになると予想されている。

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図2 ズムウォルト級(Zumwalt-class )駆逐艦(ウィキペディアより
                                                ●ONR(海軍研究オフィス)のホーム・ページの内容

 ONR(海軍研究オフィス)によると、レールガンのプロジェクト(INP)は、2005年に開始され、第1段階の目標である32メガ・ジュールの砲口エネルギーを達成した。このエネルギーだと発射体の射程は160キロとなる。

 第2段階は、2012年に開始され、取得計画への移行を可能とする技術の開発を目指す。その技術は1分間に10発の発射速度を達成することであり、発生する熱の管理技術の確立である。

 レールガンの反応の迅速性、カバーする範囲の広さ、長射程、破壊力の大きさなどを理由として、ゲームチェンジャーであると宣伝されている*3。軍事におけるゲームチェンジャーとは、戦いにおける優劣を根底から覆すような、新しい技術、兵器、戦法、戦略などである。

*2=筆者がJBpressに投稿した「新時代に突入した米国・ロシア・中国の軍事競争 米国防予算と第3次相殺戦略(オフセット戦略)」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46146)を参照

*3=Office of Naval Research, Science and Technologyのホーム・ページ

2 レールガンと指向性エネルギー兵器(DEW: Directed Energy Weapon)

 2015年3月にワシントンDC所在のシンクタンクCSBA*4(戦略・予算評価センター)を訪問し、将来の作戦構想について議論した時に、CSBAが提示したのが図3である。非常に示唆に富む内容であるので紹介する。

 なお、指向性エネルギー兵器は、指向性のエネルギーを目標であるミサイル、ロケット、砲弾などに直接照射し、これを破壊したり、機能低下させる兵器である。

 CSBAの説明によると、敵の航空攻撃やミサイル攻撃に対処する有望な兵器で、今後5~10年以内に実戦配備される可能性のある兵器は、レールガンと指向性エネルギー兵器である固体レーザー(SSL:Solid State Laser)と高出力マイクロ波(HPM:High Power Microwave)兵器である。

 実戦配備の時期はSSLとHPMが5年以内、レールガンが5年から10年と見積もっている。

 1発あたりのコストの比較では、レールガンが3万5000ドル(これはミサイルのコストの20~60分の1)、ケミカル・レーザーが 1000ドル、SSLとHPMが10ドルであり、SSLとHPMが特に優れている。しかし、レールガンの長所は、100マイル以上の長射程を有する点である。

 図3は、固体レーザー(SSL)、高出力マイクロ波兵器(HPM)、レールガンが水上艦艇に搭載されイージスBMDの一部として運用された場合と航空基地に配置して使用された場合の用途について記述している。

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水上艦艇に搭載された場合

 対艦巡航ミサイル(ASCM)に対しては主としてSSLが対処し、対艦弾道ミサイル(ASBM)に対してはレールガンとHPMで対処する。


●地上(例えば航空基地)に配備された場合


 レールガンやHPMがカバーする範囲が大きく、中距離弾道ミサイル(IRBM)、準中距離弾道ミサイル(MRBM)、短距離弾道ミサイル(SRBM)、対地巡航ミサイル(LACM)のすべてに対処が可能となる。つまり、レールガンの地上配備により、基地防護や重要施設の防護が可能になる。

 SSLは、対地巡航ミサイル(LACM)に対処可能である。

*4= CSBA: Center for Strategic and Budgetary Assessments

3 レールガンやDEWが米軍に及ぼす影響


●中国やロシアのA2/AD能力を制約できる


 レールガンが実際に配備されれば、中国、ロシアなどの各種ミサイルによる攻撃や航空攻撃を制約することが可能になる。

 そもそもA2/ADのA2(Anti-Access)は接近阻止という意味であるが、相手の各種ミサイルによって作戦地域に接近できないことを意味していた。図4を見てもらいたい。

 中国の人民解放軍(PLA)は、空母キラーと言われている対艦弾道ミサイルDF-21Dを筆頭としていくつかの対艦ミサイルを幾重にも配備して、米海軍の接近を拒否している。

 しかし、レールガンなどを導入することによって対艦ミサイルの攻撃を排除し、作戦地域への接近が可能となる。

 また、A2/ADのADはArea Denial(領域拒否)で作戦地域における作戦を拒否するという意味であるが、レールガンなどの導入により、作戦地域におけるミサイルや航空攻撃の脅威が軽減され、日本周辺での作戦が継続できることになる。

 これを別の表現で説明すると、「中国のミサイルによる飽和攻撃(同時に多数のミサイルを使用する攻撃)に対処が可能になる」ということである。

 現在、米軍特に海軍の空母をはじめとする大型艦艇にとって中国のA2/AD能力は大きな脅威である。特に、DF-21Dなどの対艦弾道ミサイルによる飽和攻撃に対して、現在の防衛システムでは対処困難であるが、1分間に10発の射撃が可能であるレールガンを主体としたミサイル防衛システムを構築すると、飽和攻撃への対応が可能になることが期待される。

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●在日米軍基地の脆弱性が改善される

 レールガンを地上に配置すると、地上部隊のみならず、重要な空港、港湾などの重要施設の防護が可能になる。このことは、中国のミサイル攻撃や航空攻撃の脅威に対する在日米軍基地の脆弱性問題の解決が可能になることを意味する。

●米軍の前方展開戦略が可能になる

 ASB(Air Sea Battle)作戦構想の弱点であった、「紛争初期において中国のミサイル攻撃を避けてその射程外に一度下がってから、将来の攻撃を準備する」という行動が不必要になることを意味する。

 この米軍が一時下がるという行動は、日米同盟の信頼性に大きなマイナスであったが、それが改善されるということである。

●ASBで考えられていた長距離作戦が必ずしも必須でなくなる


 前方展開が可能になるということは、米本土の周辺から、遠距離の作戦を強いられるという状況が緩和されるということである。第3次相殺戦略で考えていた長距離爆撃機や無人機システムの活用などに対する再検討が必要になってくる。



4 レールガンやDEWが日本の防衛に及ぼす影響

●自衛隊の南西防衛にとって大きなプラス

 各種報道によると、奄美大島、宮古島、石垣島などの島々に陸上自衛隊が配備される可能性があるが、これらの島々の中でいくつかの島には、対艦ミサイル部隊と対空ミサイル部隊が配備されることになるであろう。

 しかし、これらの部隊の最大の問題は、相手の各種ミサイルによる飽和攻撃と航空攻撃に脆弱だという点である。

 まず制空権の確保は当然であるが、その他に掩体を構築して部隊を防護するという対処策はあるが、これはあくまでも防御オンリーの手段である。相手のミサイルによる飽和攻撃と航空攻撃に対し、より積極的に対応しようと思えば、攻撃と防御の能力を兼ね備えたレールガンは理想的な兵器となり得る。

 また、レールガンの地上配備が可能になれば、理論的にはレールガンの部隊のみで対艦任務と対空任務の2つの任務を遂行可能である点も指摘したい。

 さらに、レールガンを南西諸島周辺のチョークポイントを支配する場所に配置すれば、陸上部隊でチョークポイントの支配が理論的には可能になる。

●MD(ミサイル防衛)能力が改善され首都圏等の防衛にプラスである

 レールガンを中心にしたMD(ミサイル防衛)システムを構築し、我が国のSM-3やPAC3を中心としたBMD(弾道ミサイル防衛)システムと組み合わせると、より効果的なMDシステムになる可能性がある。

結言

 米国をはじめとする主要国の兵器の技術開発競争は激しく、技術の進歩は日進月歩であり、技術の進歩に遅れた国が将来の戦いにおいて敗者となる。

 中国の人民解放軍のA2/AD能力の進歩には目覚ましいものがあり、米軍はこれに対処する方策としてレールガンや指向性エネルギー兵器を開発してきた。

 本稿では、特にレールガンに焦点を当てて記述してきたが、レールガンよりも早く高出力レーザーや高出力マイクロ波兵器が実用化されるであろう。複数の手段を開発できる米軍の底力を改めて認識する。

 我が国の防衛を考えれば、自衛隊の南西諸島の防衛や首都防衛などにおいて、各種ミサイルの飽和攻撃に対する脆弱性は克服すべき喫緊の課題である。レールガンは、わが国の防衛におけるゲームチェンジャーになる可能性がある。

 防衛省でも、レールガンなどの開発を行っているが、是非とも早期に優秀な装備品を開発し装備化してもらいたいものである。

以上当ブログ引用記事
その他関連記事


【防衛最前線(85)】防衛省が独自開発に乗り出すレールガン(超電磁砲)は度肝を抜く未来兵器だった!射程200km超で速射も…
【産経ニュース】2016.9.2 07:00

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火薬を使わずに長射程、高破壊力を誇り、1分間に10発の速射を低コストで実現する-。そんなSFの世界から飛び出したような新兵器の研究・開発に防衛省が本格着手する。同省が平成29年度予算案の概算要求で研究費21億円を盛り込んだレールガン(超電磁砲)だ。

 レールガンは砲身のレールと、弾丸に取り付けられた電気の通り道に当たる電機子に大量の電流を流し込み、磁場を発生させる。これで得られた力が推進力となり、発射方向に弾丸が飛び出していく。火砲で発射時に用いられる火薬は不要だ。

 防衛省は155ミリ榴弾砲などに代わりうる兵器開発を念頭に29年度から5年間かけて試作レールガンを作成。秒速2000メートル(時速7200キロメートル、マッハ約5.8)の高速度を実現し、砲身の耐久性向上も目指す。その後は蓄電システムの小型化や、高速の発射に耐えうる超高速飛翔体(HVP)の開発にも取り組み、15~20年後に実用化を目指す計画だ。

 開発で先行する米国のレールガンは、速度がマッハ6(時速7344キロメートル)で、射程は約200キロ。高速度によって得られた運動エネルギーにより爆薬がなくても着弾時に大きな破壊力が得られる。艦載砲、地上砲双方で対地・対艦・対空すべてに活用でき、ミサイル防衛でも中心的役割を担うことが期待されている。

 1分間に10発の速射が実現すれば、中国などによる大量のミサイル飽和攻撃に対処することが可能となる。火砲の砲弾と比べて重量が格段に軽いため大量の弾丸を艦艇に積み込むことができ、補給頻度が少なくなることで作戦展開する時間が長くなる。

 つまり、遠くの敵に対し、破壊力抜群の弾丸で素早く大量に長時間攻撃することができるというわけだ。

 こうした性能を獲得できれば、アジア太平洋地域で米軍の自由な行動を許さない接近阻止・領域拒否戦略を追求する中国の意図をくじくことにつながる。米海軍研究局がレールガンについて、戦争の様相を決定的に変える「ゲームチェンジャー」と位置づけているのはこのためだ。先端技術の圧倒的な優位を確保することで中国やロシアとのパワーバランスを有利に導く米国の「第3のオフセット戦略」でも有望な分野と目されてきた。

 とはいえ、レールガンはなお開発途上にあり、年内に計画されていた米軍による洋上試射が来年以降に遅れるとの観測もある。

 「われわれはレールガンを追い求めてきたが、(レールガン用に開発した)超高速飛翔体を火砲から発射してもレールガンとほとんど同じ効果を得られることが判明した」

 今年5月2日、第3のオフセット戦略の旗振り役でもあるロバート・ワーク米国防副長官は、ワシントンで行われたシンクタンク・大西洋会議での講演でこう述べた。

 米政府はすでに5億ドルの予算をレールガン開発に投入しているが、課題は山積している。レールガンは日本の家庭約7000世帯の年間使用電力に当たる25メガワットの電力が必要とされ、これに対応できるのは、米軍内でも最新鋭ズムワルト級ステルス駆逐艦などに限定される。レールガンが発する高熱による砲身の損傷を克服しなければ1分間で10発の速射もかなわない。

 ただ、ワーク氏自身は「レールガンと火砲の両方を開発する十分な資金がある」と述べており、米国のレールガン開発は現在も続いている。同じ超高速飛翔体でも火砲よりレールガンで発射したほうが高速度を得られるのも事実だ。

 防衛省が研究・開発に着手したのは、「今から準備してどこまで可能か実際にモノを作って見極める必要がある」(防衛省関係者)ためだ。実際にレールガンが実用化した場合に米国からの協力を引き出すためには、日本の技術がゼロでは米国から相手にされないか、調達価格をふっかけられかねないという事情もある。

 研究開発費は米政府と比べると遠く及ばないが、防衛省内には「素材技術など民間企業の優れた技術を生かせる余地があるかもしれない。砲身の耐久性をいかに上げるかという点で貢献できる可能性はある」との声もある。5年後以降は蓄電システムの小型化などにも期待が集まる。(杉本康士)