核融合関連研究流失か 富山大施設 サイバー攻撃
【読売新聞】2016年10月10日 06時00分

 核融合炉の燃料になるトリチウム回の研究で知られる富山大学の「水素同位体科学研究センター」が標的型サイバー攻撃を受け、今年6月に発覚するまでの約半年間に研究関連の大量の情報が流出した恐れがあることが同大などの調査で分かった。

サイバーセキュリティーの専門家は「日本の安全保障にとっても重要な情報が狙われている。情報資産を蓄積
する大学のセキュリティーレペル向上が急務だ」と指摘する。

 特定の人物や機関を狙って情報窃取を狙う標的型攻撃の被害が判明したのは、トリチウム理工学が専門の研究者のパソコン。

昨年11月にウイルス感染し、12月末までに遠隔操作で1000以上の圧縮ファイルが作成された。情報を外部に発信しやすいように攻撃者が作ったとみられ、この頃、大量通信が発生していた。

 さらに今年3月、再び圧縮ファイルが作成され、外部への通信が発生。6月になって、外部機関から「不審な通信が出ている」と通報があり問題が発覚した。

 この研究者が感染した同時期、センターには複数の研究者に類似の標的型メールが送られていたという。

 解析の結果、3月に作成されたファイルには福島第一原発で発生した汚染水の除去方法などの研究成果が
入っていたことが判明。

昨年末までに流出したとみられる大量のファイルは攻撃者によって暗号化され、攻撃者が「IAEA(国際原子力機関)」という言葉を検索し、関連資料を探していた形跡も残っていた。大学は事実関係を認めている。

 この研究者のパソコンからは共同研究を行う複数の大学や研究機関の研究者など1493人分の個人情報も流出した恐れがあることが判明。攻撃者が情報をもとに攻撃を広げる可能性があったが、センターは今月に入るまでこうした機関に被害を伝えていなかった。

 同センターは1980年に核融合炉の実現に向けて設置されたトリチウム研究専門機関の後継。
大量トリチウムの取り扱い技術や計測技術で定評があり、核融合科学研究所などと共同研究を行っている。        
 セキュリティー会社・ラーツクーの西本逸郎最高技術責任者の話゛サイバー攻撃では個人情報の流出が問題になることが多いが、実際には研究成果や企業機密の被害の方がはるか¨に大きい。あまり被害が表面化しないこともあって、社会全体の問題意識が薄いが、安全保障にも重要な知的財産が狙われていると言う危機意識を持つ位べきだ。
中国や北朝鮮による日本の最先端テクノロジーのハッキングであることは間違いない。先日も量子通信で世界最先端と自称する中国の中国科学技術大学の潘建偉教授「われわれは世界中の研究室で技術をすべて吸収し、(中国に)持ち帰った」と語っている。中国は、各国が脈々と進めてきた基礎研究開発成果をハッキングしたり留学生を送りスパイして、巨大な国家資本をバックに、一気に最先端実験の実現に持ち込もうとする側面が垣間見える。

基礎研究を疎かにする中国が世界最先端技術を制することは無いと思うのだが、一気に実現しそうな核融合開発をハッキングしようとするのは当然である。

核融合は、本質的にエネルギーの無限の源であり、クリーンエネルギーです。地球上に何もフットプリントを残しません。フットプリントなし、核廃棄物なし、温室効果ガスなし。基本的に理想のエネルギー源である。巨額の資金が必要な人類初の平和目的核融合実験炉の実現を目指した「ITER計画」は、2025年核融合炉の運転開始を目指し 日本・欧州連合(EU)・ロシア・米国・中国・韓国・インドの7極により推進され、世界の平和と繁栄につながると期待されているというが、中国と韓国を引き込むことに強い違和感を感じる。日本が持つ技術を盗用し国際的に管理されず自国で運用しようと言う中国の意図を感じる。

だが、巨額の資金がかかるITER計画Tokamak型ではなく、コストの安い Dynomak型ロッキードが開発する小型核融合炉の方がより実用化に近い可能性がある。

そんななかで、かつて夢の技術と大騒ぎをしたが、再現されず、疑似科学扱いを受けた常温核融合が俄然注目を浴びている。

仙台市太白区にある三神峯(みかみね)公園は、500本を超えるサクラの名所として知られる。「東北大学電子光理学研究センター」は、同公園に隣接した緑の中にある。2つの加速器を備えるなど、原子核物理の研究センターとして50年の歴史を刻んでいる。



■わずか数百度で核反応が進む



 2015年4月、同センターに「凝縮系核反応共同研究部門」が新設された。「凝縮集系核反応」とは、金属内のように原子や電子が多数、集積した状態で、元素が変換する現象を指す。


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凝縮系核反応研究部門の研究室。左からクリーンプラネット・吉野社長、東北大学・伊藤客員准教授、同大・岩村特任教授、クリーンプラネット・服部真尚取締役(撮影:日経BP)



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 今の物理学の常識では、元素を持続的に変換させるには、1億℃以上のプラズマ状態の反応場が必要とされる。フランスや日本などは、国際協力の下で「ITER(国際熱核融合実験炉)」の建設を進めている。巨大なコイルによって、「1億℃」を磁場で閉じ込めておく手法だが、当初の目標に比べ、実用化は大幅に遅れている。



 凝縮集系核反応であれば、常温から数百℃という低温で元素が融合し、核種が変換する。東北大学電子光理学研究センターに建った、凝縮集系核反応共同研究部門の真新しい建屋に入ると、断熱材で覆われた実験装置がある。

                                    凝縮系核反応研究部門の研究室にある実験装                                     置。この中で核反応が進む(撮影:日経BP)

 核反応が進行するチャンバー(容器)は円筒形。金属製なので中は見えないが、センサーによって温度を計測している。「実験を始めてまだ1年ほどですが、順調に熱が出ています」。同研究部門の岩村康弘特任教授は、温度を記録したノートを見ながらこう話す。



■三菱重工の研究者が東北大に移籍



 かつて、凝縮集系核反応は「常温核融合(コールドフュージョン)」と呼ばれた。1989年3月に米ユタ大学で、二人の研究者がこの現象を発表し、世界的に脚光を浴びた。だが、ユタ大学での報告を受け、各国で一斉に追試が行われた結果、米欧の主要研究機関が1989年末までに否定的な見解を発表、日本でも経済産業省が立ち上げた検証プロジェクトの報告書で、1993年に「過剰熱を実証できない」との見解を示した。



 しかし、その可能性を信じる一部の研究者たちが地道に研究を続け、徐々にこの現象の再現性が高まってきた。2010年頃から、米国やイタリア、イスラエルなどに、エネルギー利用を目的としたベンチャー企業が次々と生まれている。日本では凝縮集系核反応、米国では「低エネルギー核反応」という呼び名で、再評価する動きが出てきた。



 実は、東北大学に新設された凝縮系核反応共同研究部門は、クリーンエネルギー分野のベンチャーや研究室などに投資するクリーンプラネット(東京・港)が研究資金を出し、東北大学が施設や人材を提供するという形で2015年4月に発足した。



 「核融合の際に発生する膨大なエネルギーを安定的に、安全かつ低コストで取り出せる道が見えてきたことで、欧米を中心に開発競争が活発化している。日本の研究者は、これまでこの分野を主導してきた実績がある。実用化に向け、国内に蓄積してきた英知を結集すべき」。クリーンプラネットの吉野英樹社長はこう考え、東北大学に資金を投じた。



 東北大学・凝縮系核反応研究部門の岩村特任教授と伊藤岳彦客員准教授は、ともに三菱重工業で凝縮集系核反応の研究に携わり、今回の部門新設を機に東北大学に移籍した。三菱重工は、放射性廃棄物を無害化する技術として、「新元素変換」という名称で地道に研究に取り組み、選択的な元素変換に成功するなど、世界的な成果を挙げてきた。



■わずか1年で「過剰熱」を観測



 岩村特任教授は、東北大学への移籍を機に、研究のターゲットを放射性廃棄物の無害化から、「熱の発生」に切り替えた。凝縮集系核反応の応用分野には、発生した熱をエネルギー源に活用する方向性と、核変換によって放射性廃棄物の無害化や希少元素の生成を目指す方向性がある。現在、クリーンプラネットなど多くの企業、ベンチャーは、実用化した場合の市場規模が桁違いに大きい、エネルギー源の利用を優先して研究を進めている。



 実は「熱の発生」に関しても、日本の研究者が世界的な研究成果を挙げてきた。先駆者は北海道大学の研究者だった水野忠彦博士と大阪大学の荒田吉明名誉教授。現在、国内では、この二人の研究者が見いだした熱発生の手法を軸に実用化研究が活発化している。



 クリーンプラネットは、水野博士が設立した水素技術応用開発(札幌市)にも出資し、グループ企業にしている。東北大学の岩村特任教授らは、まず、水野博士の考案した手法の再現実験に取り組み、順調に「過剰熱」を観測している。



 その手法とは、以下のような仕組みだ。円筒形のチャンバー内にワイヤー状のパラジウム電極を2つ配置し、その周囲をニッケル製メッシュで囲む。この状態で、電極に高電圧をかけて放電処理した後、100~200℃で加熱(ベーキング)処理する。この結果、パラジウムワイヤーの表面は、パラジウムとニッケルによるナノスケールの構造を持った膜で覆われることになる。



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実験装置のチャンバー内にはワイヤー状のパラジウム電極を2つ配置し、その周囲をニッケル製メッシュで囲んだ(出所:東北大学・岩村特任教授)

 こうしてパラジウム表面を活性化処理した後、チャンバー内を真空にし、ヒーターで数百度まで加熱した状態で、重水素ガスを高圧(300~170パスカル)で圧入し、パラジウムと重水素を十分に接触させる。すると、ヒーターで入力した以上の「過剰熱」が観測された。活性化処理せずに同じ装置と条件で重水素ガスを圧入した場合、過剰熱は観測されず、その差は70~100℃程度になるという。



 「実験開始から1年足らずで、ここまで安定的に熱が出るとは、予想以上の成果。これまで三菱重工で蓄積してきた、再現性の高い元素変換の知見を熱発生にも応用できる」。岩村特任教授の表情は明るい。



■ナノ構造が核反応を促進



 一方、大阪大学の荒田名誉教授の手法をベースに熱発生の研究を続けているのが、技術系シンクタンクのテクノバ(東京・千代田)だ。同社には、アイシン精機やトヨタ自動車が出資している。テクノバは、大阪大学の高橋亮人名誉教授と神戸大学の北村晃名誉教授をアドバイザーとして迎え、神戸大学と共同で研究を続けている。



 荒田名誉教授は2008年5月、報道機関を前に大阪大学で公開実験を行った。その際の手法は、酸化ジルコニウム・パラジウム合金を格子状のナノ構造にし、その構造内に重水素ガスを吹き込むと、常温で過剰熱とヘリウムが発生する、というものだった。テクノバチームは、荒田方式をベースにニッケルと銅ベースのナノ粒子に軽水素を吹き込み、300℃程度に加熱することで1カ月以上の長期間、過剰熱を発生させることに成功している。



 1989年に米ユタ大学で、常温核融合が耳目を集めた際、その手法は、パラジウムの電極を重水素の溶液中で電解するというものだった。その後の研究で、電解方式のほかに、重水素ガスを圧入する方法が見いだされ、再現性が高まっている。現在では、電解系よりもガス系の方が主流になっている。東北大とクリーンプラネットによる水野方式、テクノバと神戸大の荒田方式も、いずれもガス系の手法を発展させたものだ。



 また、「パラジウムやニッケル、銅などの試料表面のナノ構造が、核反応を促し、熱発生の大きなカギを握ることが分かってきた」(東北大学の岩村教授)。



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放電処理などでパラジウムとニッケルによるナノスケールの構図を持った膜で覆われる(出所:東北大学・岩村特任教授)

 定性的には100%の再現性を確立したなか、今後の研究ターゲットは、「発生する熱をいかに増やすか、そして重水素とパラジウムという高価な材料でなく、軽水素とニッケルなどよりコストの安い材料による反応系でいかに熱を発生させるかがポイント」と、クリーンプラネットの吉野英樹社長は話す。



■米国で初めて特許が成立



 2016年10月2~7日、「第20回凝縮集系核科学国際会議(ICCF20)」が仙台市で開かれる。ホストは、新設した東北大学の凝縮系核反応研究部門が担う。同会議は、1~2年おきに開かれ、世界から凝縮集系核反応の研究者が200人以上集まり、最新の成果を発表する。ここでも日本の2つのグループによる研究成果が大きな目玉になりそうだ。



 ICCF20の準備は着々と進んでおり、「欧米のほか、中国、ロシアなど、約30か国から研究者が参加する予定で、企業からの参加者も増えそう」(東北大学の岩村特任教授)。ICCFは、2012年に開かれた第17回会議の頃から企業に所属する研究者の参加が増え始め、2013年7月の第18回会議では、4割以上が凝縮集系核反応を利用した「熱出力装置」の開発を進める企業などからの参加者だった。



 クリーンプラネットの吉野社長は、「凝縮集系核反応に取り組む企業は、表に出ているだけでも75社に達し、その中には、電機や自動車の大手が含まれる。こうした企業の動きに押される形で、米国の政策当局は、凝縮集系核反応を産業政策上の重要な技術として、明確に位置づけ始めた」と見ている。



 米国特許庁は2015年11月、凝縮集系核反応に関する米研究者からの特許申請を初めて受理し、特許として成立させた。これまでは、現在の物理学では理論的に説明できない現象に関して、特許は認めていなかった。特許が成立した技術名は、「重水素とナノサイズの金属の加圧による過剰エンタルピー」で、ここでもナノ構造の金属加工が技術上のポイントになっている。



■日本とイタリアがリード



 米国議会は2016年5月、凝縮集系核反応の現状を国家安全保障の観点から評価するよう、国防省に対して要請しており、9月には報告書が出る予定だ。この要請に際し、米議会の委員会は、「仮に凝縮集系核反応が実用に移行した場合、革命的なエネルギー生産と蓄エネルギーの技術になる」とし、「現在、日本とイタリアが主導しており、ロシア、中国、イスラエル、インドが開発資源を投入しつつある」との認識を示している。



 「常温核融合」から「凝縮集系核反応」に名前を変えても、依然としてこれらの研究分野を“似非科学”と見る研究者は多い。そうした見方の根底には、現在の物理学で説明できないという弱みがある。特に低温での核融合反応に際し、陽子間に働く反発力(クーロン斥力)をいかに克服しているのか、粒子や放射線を出さない核反応が可能なのか、という問いに応えられる新理論が構築できていないのが実態だ。



 とはいえ、説明できる理論がまったく見えないわけではない。2つの元素間の反応ではなく、複数の元素が同時に関与して起こる「多体反応」による現象であることは、多くの理論研究者の共通認識になっている。金属内で電子や陽子が密集している中で、何らかの原理でクーロン斥力が遮蔽され、触媒的な効果を生んでいることなどが想像されている。



 東北大学では、熱発生の再現実験と並行して、こうした理論解明も進める方針だ。こうして、理論検討が進み、新しい物理理論が構築されれば、「革命的なエネルギー生産」の実用化はさらに早まりそうだ。

(日経BPクリーンテック研究所 金子憲治)
常温核融合も核融合との同時進行で、間もなく石油の時代は終わる可能性が高い。
そのなかで、注目なのが、

ICCF20-A91 Vladimir Vysotskii博士の微生物による核変換発表

メタンを生成する海泥に棲む好気性微生物によるセシウム133とセシウム137の核変換について述べたものです。
実験結果を示すページは以下の通りです。セシウム133やセシウム137の量(あるいは放射線)が減少しているのが見て取れます。
セシウム137を特別な微生物培養地に添加したところ、14日間で23%の低減が見られたようです。同様に安定元素であるセシウム133について試したところ、セシウムが減ってバリウムが増えたようです。
Komilov教授によると、30年の半減期を持つ放射線セシウム(たぶんセシウム137でしょう)の半減期を250~300日間に短縮できたとのこと。

レーザ光および表面プラズモン共鳴の利用による凝縮系核融合反応促進の検討という題名で、SPPによるエネルギー集中のレベルについて報告。

常温核融合の再現性はもはや間違いないものであるらしい。ただ、常温核融合をより効率よくエネルギー源にするには課題が多いように思う。
素人が知りたい常温核融合さんのリンクを開いて読むと興奮します。この20年疑似科学であったと思っていた常温核融合が、日本において真面目に研究され、擬似科学の汚名を晴らしていることだ。
日本政府は福島原発や核廃棄物処理を核変換技術を確立に動いており、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)において、核変換による高レベル放射性廃棄物の大幅な低減・資源化プログラムが2014年より進んでいます。
これを読むと、反原発派がその根拠とする核廃棄物処理問題が科学によってパラダイムシフトが進んでいますが、常温核融合技術が進むと、核廃棄物処理が一気に進む可能性があります。
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 原発の最大の問題は放射性廃棄物だ。福島第一原発の汚染水が海洋に流れ出していたことで東京電力が再び責められているが、原発には放射性物質の問題が必ずついてまわる。発電に使用した核燃料から燃え残ったウランとプルトニウムを取り除き、再び燃料として利用するが、その際に高レベル放射性廃棄物が出る。また、原発の建物自体や廃液や廃材、作業服や部材などで放射性物質を含むものは低レベル放射性廃棄物と呼ばれる。

 原発が稼働する以上、こうした核廃棄物は必ず出るが、問題はこれら放射性廃棄物の処分方法が事実上ないということだ。

 放射性廃棄物を無害化する技術を、今のところ人類は持っていない。ではどうするかというと地下に穴を掘って、そこで保管する。家の中で出たゴミを庭に積み上げておくようなものだ。原発が「トイレのないマンション」と揶揄されるゆえんである。庭にどんどんゴミ袋は積み上がっていく。安全とか安全じゃないとかそういう問題ではなく、これはどう考えてもシステムとして破たんしている。

 日本原子力研究開発機構によると、日本にある高レベル放射性廃棄物は現在1万7000トン。さらに100万キロワット級の原発からは毎年20トンずつ排出される(今は稼働していないが)。積み上がっていく致死性のゴミの山を前に、実情を知る人間たちは茫然としていたのが本音だろう。地下に埋めるといっても、今の福島を前に承諾する自治体があるとは思えない。いくら金目のものを積んでも、だ。

 完全に手詰まりに見える放射性廃棄物問題。これをなんとかできるかもしれない技術があるとしたら? それが核変換(原子核変換ともいう)だ。


核変換技術

 1988年、核変換によって放射性廃棄物を無害化する「群分離・消滅処理技術研究開発長期計画」、通称「オメガ計画」がスタートした。放射性物質だろうが何だろうが、原子核の周りを電子がまわるという原子の基本構造は変わらない。この原子核に強力な電子ビームや高エネルギーガンマ線を叩き込み、原子構造を変えて、毒性の低い別の物質にしてしまうのだ(ターゲットとなる核物質の種類により、使うビームの種類や反応経路は変わる)。核物質をすべて無害化できるわけではないし、基本的には半減期が何十万年という放射性物質を半減期が数百年程度の短い核物質に変えることが目的だが、白金などの安定化物質に変換できるものもある。これらは燃料電池車の触媒などに利用可能だ。核変換が実用化すれば、放射性廃棄物の量も保管期間も大幅に減ることになる。
 
 しかし電子ビームで核変換を行うには、非常に大規模な設備が必要であることや放射性廃棄物を核物質ごとに正確に分別すること、反応の制御など課題は多い。本格的な核変換実験施設の建築もこれからだ。新聞報道によれば、総工費220億円で2015年度に着工、およそ30年後の実用化を目指すという。

30年後? 30年後、海賊王に俺はなる! ……そんなことを言われても、困る。


■常温核融合はあります! 科学のパラダイムシフトか?

 ここからが本題だ。核変換が放射性廃棄物問題の切り札であることはわかった。しかし電子ビーム方式ではあまりに気が長い。もっと手早く実用化する手段はないのか?

 三菱重工の岩村康弘博士らはパラジウムと酸化カルシウムでできた薄膜に、セシウムを添加、そこに重水素ガスを透過させるとセシウムがプラセオジウムという別の金属に変わることを突き止めた。同じくストロンチウムはモリブデンに、タングステンは白金に変わったという。薄膜に重水素のガスを透過させるだけで核変換が起きたのだ。電子ビーム施設のような大規模な装置やエネルギーを使わず、ごく単純な(あくまで電子ビームに比較して、である)装置で核変換が起きたのである。

・一度は詐欺扱いされた常温核融合
 
 この三菱重工の研究の基礎となったのが常温核融合だ。1989年3月、英国サウザンプトン大学のマーチン・フライシュマン博士と米国ユタ大学のスタンレー・ポンズ博士が室温での核融合反応=常温核融合を確認したと発表、大ニュースとなった。そのやり方はなんと水の電気分解。重水を白金とパラジウムを電極にして電気分解すると、パラジウムが水素原子を吸着(パラジウムには水素を吸蔵する性質がある)、高密度で集まった重水素原子が核融合反応を起こすという。本当であれば、過去数十年の核融合研究が吹っ飛ぶが、米国エネルギー省の主導で行われた追実験ではそうした反応は見られず、同年11月に説得力のある証拠は見つからなかったとのレポートを発表する。新発見に興奮した社会は一変、フライシュマンとポンズを詐欺師扱いし始めた。

 日本でも物理学会は常温核融合を完全に否定した。だが、化学畑にいる者からしてみれば、たかが電気分解の変型である。それなりに基本的な設備があれば、検証できる。だから日本でも検証研究を始めた学者は何人も出たが、当時の世間の扱いは"胡散くさい"。「日本の敗戦はエネルギー問題と考え、日本が自前のエネルギーを用意することが国として絶対不可欠と考える、戦前の大陸派右翼的な人々が関わっている」という話であり(だから三菱重工が研究していたりする)、まったくの鬼子扱いだったのだ。


・常温核融合プロセス内で起きる核変換

 常温核融合の際に、電極で核変換が起きる。常温核融合は、金属内部で起きる極微の核融合反応と考えられている(現在のところ、メカニズムは不明)。その結果、金属の原子構造が組み替えられ、別の金属が生まれる。パラジウムの電極の表面には、微量ではあるがケイ素・カルシウム・チタン・クロム・銅・コバルト・白金などが確認された。電極に金を使ったところ、なんと金が鉄に変化し、溶液中に鉄が澱となって沈殿するということもあったという。

 さらに100円玉や電池に使うニッケルにドリルの刃や戦車の鋼板に使うタングステンを混ぜると、金やプラチナができたというから、錬金術の世界だ。

 常温核融合やそこから派生した技術を使えば、理屈上、放射性廃棄物を無害化することは可能になる。もちろんマイクログラムの世界からトンの世界へ処理能力を上げるには、非常に高いハードルはあるが、不可能ではない。三菱重工では10年後の実用化を目指すとしており、こちらの方が電子ビーム方式よりも安くて早い。


・アンドレア・ロッシ/ニッケル原子と水素原子の核融合


イメージ 5 しかし完全に否定された常温核融合が今さら? こうなるとSTAP細胞だって本当になかったのか言い切っていいものか悩ましいが、常温核融合が再評価されているのは事実。それも世界的にそうした動きがある。その最先端がアンドレア・ロッシのE-Cat(Energy Catalyzer=エネルギー触媒の略)。ニッケル粉末にリチウムを加えたものと水素を反応させ、2014年3月時点で32日間の連続反応を観測、毎時1.5 メガワットの発電に成功したという。ロッシは、この反応を自ら「ロッシ効果」と名付けるなど売名行為が先行している気配があり、いつまでも基礎研究の域を出ない進行状況にスポンサーが降りるなど、なかなか香ばしいことになっているのだが……。

 常温核融合が発電技術に使えるかどうかは不明(発生する熱量が不安定過ぎて、発電には使えないという研究者も)だが、核変換が起きていることは確定したと言っていい。果たして原発が恒久的な発電システムになるのか、社会の厄介者としてこれから何百年何千年も付き合う危険な粗大ゴミとなるかは、核変換という現代の錬金術にかかっている。
(文=川口友万/サイエンスライター/著書『大人の怪しい実験室』)

・川口友万のこれまでの記事はコチラ

STAP細胞も・・・「STAP細胞あります!」の可能性もあるなぁ