焦点:中国が狙う世界リーダーの座、トランプ政権の米国回帰で
【ロイター】2017年 01月 28日 07:25 JST
[北京 25日 ロイター] - 貿易から気候変動に至るまで、中国は世界の指導的な役割を担いたいとの静かな願望を抱いている。メディアとの確執や抗議活動が目を引く就任直後のトランプ米大統領に対して、卓越した習近平国家主席の指導力を際立たせようとしているのだ。
トランプ氏が米大統領に就任する数日前、習主席はスイスのダボスで開かれた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で基調講演を行い、グローバル化や自由貿易の重要性を強調。中国が世界でより大きな役割を担う意思を示した。
南シナ海の領有権問題においてさえ、中国は米国の挑発的発言に乗らなかった。ホワイトハウスのスパイサー報道官は今週、中国による南シナ海での人工島建設について、トランプ新政権は国際水域を自国の領土とする行為は阻止する考えを表明した。
この発言に対し中国は、同海域における航行の自由を守ることに尽力しており、当事国間で話し合い、平和的解決を望むとの考えを示し、抑制的な態度で米国に言動を慎むよう求めた。
「あなた方は『米国第一』だが、われわれは『人類運命共同体』だ」と、中国人民解放軍の元幹部で強硬派の論客として知られる羅援氏は今週、自身のブログで主張。
「あなた方は『閉ざされた国』だが、われわれは『一帯一路』だ」と記して、同氏は中国が進める新経済圏構想に言及した。
米国が世界で担ってきた従来のリーダーシップを引き継く意思はないと中国は繰り返し強調してきたが、中国外務省幹部は今週、そうならざるを得ない可能性を認めている。
「もし中国が世界の指導国としての役割を演じていると誰かに言われるとすれば、それは中国が前面に出ようとしているのではなく、前面にいた国々が後退して、その立場を中国に明け渡しているからだ」と、同省国際経済局の張軍局長は語る。
<進展>
こうしたメッセージは今週、トランプ大統領が環太平洋連携協定(TPP)離脱を正式表明し、アジア諸国と距離を置く姿勢を示したことでさらに強まった。一部のTPP参加国は、今や中国が参加することを期待している。あるいは、中国が主導する自由貿易協定に目を向けている。
「多くの重要な国際会議の場で、中国の指導者は自国の提案を提示しており、世界発展に対し確実に弾みをつけている」と、外務省系列のシンクタンク中国国際問題研究所(CIIS)の蘇暁暉氏は、米国のTPP離脱について人民日報海外版にこう記している。
同氏はまた、「アジア太平洋地域の経済統合プロセスにおいて、自国の指導的役割を常に考えている国々と比べ、中国は『責任』と『進展』により留意している」と指摘している。
中国が今年5月に開催する「一帯一路」国際協力サミットフォーラムは、同国が世界的なインフラと投資においてリーダーシップを発揮する機会の1つである。
その準備に詳しい外交筋によると、同フォーラムは2014年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が行われたのと同じ豪華なコンベンションセンターで開催される可能性が高く、習主席にとって今年最も注目される外交行事となるべくお膳立てをしているという。
「中国はほぼ世界中に声をかけている」とこの外交筋は語った。
中国がリーダーと見られたいもう1つの分野は気候変動だ。トランプ大統領は過去に気候変動問題は「でっち上げ」だと発言したことがあり、大統領選では米国が批准済みの「パリ協定」から脱退すると宣言していた。
中国外務省国際協力局の李軍華局長は、世界が気候変動を憂慮し、各国がパリ協定を尊重するのか懸念していると述べ、「中国に関する限り、主席は中国がその一端を担うとの立場をはっきりと示している」と語った。
<学習過程>
しかし常にこのようにいくとは限らない。より責任ある大国となるべく、中国は長く厳しい学習過程のさなかにある。
2013年、南シナ海の領有権をめぐる長年の争いでフィリピンに腹を立てていた中国は、フィリピンが超大型台風に見舞われた後、わずかな支援しか行わなかった。このときばかりは、人民日報系の国際情報紙「環球時報」も、中国の国際的なイメージが打撃を受けると異を唱えた。
またその過程も順調ではないだろう。台湾問題など主要な核心的課題においては、中国が引くことはないとみられる。
トランプ大統領就任後、中国外務省はまず、「一つの中国」の原則の重要性をトランプ政権が完全に理解することを求めた。トランプ大統領は同原則に疑問を投げかけているが、米国政府はこれまで台湾の主権をめぐる問題において中国の立場を受け入れてきた。
中国はまた、自国の人権問題をトランプ政権が放っておくことを期待している。
人民日報海外版は21日、中国無料メッセージアプリ「WeChat」アカウント上で、トランプ氏の就任演説は「民主主義」にも「人権」にも触れなかったと好意的に指摘。米政治家によって「こうしたことは大げさに宣伝されていたのかもしれない」とコメントしている。
(Ben Blanchard記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)
内憂外患の中国が本気で次の覇権国になります宣言だ。まるで松竹新喜劇の池乃メダカのギャグ「今日はこのぐらいにしといたろ」だろう。
日本は中国を軽視するな。ダボス会議でわかった習近平の真の狙い
【MAG2NEWS】2017.01.22 48 by 北野幸伯『ロシア政治経済ジャーナル』
先日スイスで開催されたダボス会議で、「グローバリズム絶対支持」を表明する演説を行った中国の習近平国家主席。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、「中国はかつて取った傲慢な態度が原因で世界の支配者層にそっぽをむかれてしまった過去を反省し、今一度信頼を取り戻そうとしたうえの演説内容」と見ています。さらに、グローバリズムが続くことによる中国のメリット、そして日本が決して中国を甘く見てはいけない理由についても記しています。ジョージソロスのトランプ憎しの思いは日に日に高まっていると思う。
習近平、ダボス会議で、世界の支配者層に取り入る
世界中から政界、ビジネス界の超エリートがスイスに集結する「ダボス会議」。ここで習近平が1月17日、演説しました。なんと、「グローバリズム絶対支持」演説。
習近平、「グローバリズム絶対支持」を表明
習主席、保護主義に警鐘 トランプ新政権にらみ、ダボス会議で講演
AFPBB News 1/18(水)9:37配信
【1月18日 AFP】中国の習近平(Xi Jinping)国家主席は17日、スイス・ダボス(Davos)で開幕した世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)で講演し、世界が抱える諸問題の責任をグローバル化に転嫁したり、保護主義の殻に閉じこもったりするべきではないと警鐘を鳴らした。
なぜ、こんな演説をしたのでしょうか? 一つは、中国が「グローバリズムの恩恵を受けやすい国」だからでしょう。どういうことでしょうか?
「グローバリズム」が進むと、「人、物、金の行き来」が自由になっていきます。中国経済は輸出でもっているので、物の行き来が自由な方がいい。他国の関税が低い方が嬉しい。
人の行き来はどうでしょうか? 中国は、GDP世界2位の大国ですが、一人当たりGDPは、まだまだ低い(2015年、8,140ドルで世界76位。日本は、3万2,478ドルで世界26位。中国は、日本の約4分の1)。それで、中国人は、職、高給を求めて、どんどん外国に出て行ってしまう。
しかし、中国政府は、「それでいい」と考えている。たとえば、中国人が日本に1,000万人引っ越した。それだけで中国は、日本への影響力を確保できるのですから、嬉しい。「外国人参政権」を認めさせれば、かなりの政治的影響力を確保できるようになるでしょう。いずれにしても、中国は「人の行き来が自由になること」で
恩恵を受ける立場にある。
「金の移動が自由になること」については、複雑ですね。現在、中国からどんどん資金が流出しているので、制限を加えています。
何はともあれ、中国は「グローバルリズムの恩恵を受ける立場」にあるので、習近平は、「グローバリズム支持」を語った。
トランプに対抗する
もう一つの理由は、「反中」のトランプに対抗すること。
米新大統領への就任を数日後に控えたドナルド・トランプ(Donald Trump)氏とは異なる世界経済像を打ち出した形だ。米国は数十年にわたり世界の経済秩序をけん引してきたが、トランプ次期大統領はこれまでの慣習を破り捨てることも辞さない構えを示している。これに対し習氏は、初めて出席したダボス会議の場で、グローバル化の流れに逆行はできないと訴えた。
(同上)
トランプは、就任前から台湾の蔡英文総統と電話会談している。そして、「一つの中国」の原則を見直す可能性に言及している。困った習近平は、「俺の方がトランプよりマシだぜ!」とアピールした。
世界の支配者層とは?
ダボス会議に出席する「世界の支配者層」とは誰でしょうか? 簡単にいえば、「政界のトップと超金持」です。「超金持」って、「どのくらい金持ち」なのでしょうか? 先日ご紹介した記事を読めば、「トンデモナイ金持ち」であることがわかります。
世界人口の半分36億人分の総資産と同額の富、8人の富豪に集中
AFP=時事 1/16(月)13:01配信
【AFP=時事】貧困撲滅に取り組む国際NGO「オックスファム(Oxfam)」は16日、世界人口のうち所得の低い半分に相当する36億人の資産額と、世界で最も裕福な富豪8人の資産額が同じだとする報告書を発表し、格差が「社会を分断する脅威」となるレベルにまで拡大していると警鐘を鳴らした。
そして、世界の支配者層は、「グローバリズム」を支持している。なぜ?
グローバリズムのおかげで、オフショアを使い、「合法的に」税金を払わなくていい。グローバリズムのおかげで、賃金の安い国に製造拠点をつくり大儲けすることができる。グローバリズムのおかげで、貧しい国から豊かな国に労働移民がどんどん流入し、労働者の賃金が低下していく。安く雇って大儲けできる。
つまり、グローバリズムは、彼らがさらに豊かになるのに、とてもいいことである。
ダボスに集まる人の「宗教」について、ウォール・ストリート・ジャーナルのジェラルド・ベーカー編集局長は、言います。
ダボスは単に場所や人々の集団ではなく1つの理念だ。しかも、冷戦終結後の25年間の世界を実際に支配し、大きな成功を収めてきた理念なのだ。
その本質はこうだ。世界は1つの巨大な市場であり、機会であり、政治形態である。世界的な経済活動への障壁は取り除くべきで、国境や国民感情、国家主権はグローバルな超国家機関に従属する必要がある。
(WSJ 1月18日)
世界の支配者層に見捨てられた中国
実をいうと、中国は長年、世界の支配者層の「お気に入り」でした。1991年末にソ連が崩壊するまで、中国は、ちゃっかり「ソ連に対抗するための強い味方」というポジションを得ていた。その後は、クリントン大統領夫妻を懐柔。「世界でもっとも儲かる国」ということで、世界の支配者に好かれてきた。
2010年11月、ソロスはいったものです。
アメリカから中国への、パワーと影響力の本当に驚くべき、急速な遷移があり、それはちょうど第二次世界大戦後の英国の衰退とアメリカへの覇権の移行に喩えられる。
今日、中国は活発な経済のみならず、実際に、アメリカよりもより機能的な政府を持っているという議論を呼ぶであろう。
ソロスは当時、「イギリスからアメリカに覇権が移ったように、今度は、アメリカから中国に覇権が移りつつある」、「それは悪いことではない」と考えていた。
しかし、中国は、その後傲慢になり、世界の支配者層に嫌われました。習近平が国家主席になり、「中国の夢」とか言い始めたとき、世界の支配者たちは、「こりゃダメだ!」と幻滅した。そして、中国から逃げ始めました。
シティやバンク・オブ・アメリカ、ゴールドマン・サックス・グループなどが2012年の初め以降、中国の銀行株を少なくとも140億ドル(約1兆7,000億円)相当を売却したという。
投資先としての中国の落日ぶりを象徴するのが、ブラジル、ロシア、インドを含む4カ国に投資する「BRICs(ブリックス)ファンド」をゴールドマンが閉鎖したことだ。ゴールドマンはBRICsの「名付け親」として新興国投資ブームを作ったが、中国が人民元を突如切り下げた時期にあたる8月12、13日の会合で閉鎖を決め、10月に別の新興国向けファンドと統合した。「予見できる将来に資産の急増が見込めない」と閉鎖理由を説明している。
(夕刊フジ 2015年11月25日)
そして、「中国万歳」ソロスの論調も、180度変化しました。2016年1月の発言。
ソロス氏:中国のハードランディングは不可避、株投資は時期尚早(2)
Bloomberg 1月22日(金)9時54分配信
(ブルームバーグ):著名投資家ジョージ・ソロス氏は21日、中国経済がハードランディングに直面しており、こうした状況は世界的なデフレ圧力の一因になるだろうと述べた。同氏はまた、中国情勢を考慮して、自分は米株の下落を見込んだ取引をしていると説明した。
ソロス氏はスイス・ダボスでのブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、「ハードランディングは事実上不可避だ」と指摘。「私は予想しているのではなく、実際に目にしている」と語った。
「ハードランディングは事実上不可避」だそうです。
習近平、世界の支配者層に取り入る
さて、「絶対的存在」に思える、「世界の支配者層」。しかし、あらゆる支配者同様、支配が永遠に続くことはないでしょう。実際、2016年に起こった「イギリスのEU離脱」「トランプ勝利」は、支配者たちにとって、「都合の悪い出来事」でした。彼らは現在、厳しい状況に追いこまれている。WSJ1月18日付で、ジェラルド・ベーカー編集局長は、言います。
貴族階級の歴史はたいてい不幸な結末を迎えている。2017年のダボス会議参加者がこうした疑問に答える努力を始めなければ、ブルボン王朝やロマノフ王朝に起きたことの現代版が、せいぜいそれほど激しい暴力を伴わず多くの死者を出さない形で、最終的には同じ重大な結果をもたらすのを待つしかないだろう。
彼は、「世界の支配者層が変わらなければ、革命が起こって、失脚する」と言っているのです。
習近平は、こうした世界の支配者層の危機感を察知し、「支配者たちと和解しよう!」と考え、演説した。習近平は言います。
中国は今後も「門戸を開き」、新興国がグローバル化の恩恵を受けられるよう後押ししていくと言明。同時に、トランプ氏が脱退を示唆している地球温暖化対策の新たな国際的枠組み「パリ協定(Paris Agreement)」を支持する意向を示した。
また、「世界の諸問題を経済のグローバル化のせいにするのは無意味だ」と指摘し、2008年に欧米を襲った金融危機の原因は自由貿易ではなく、圧倒的な規制不足にあったという中国の見方を強調した。
(AFPBB News 1月18日)
彼は、まさに「世界の支配者層が聞きたがっていること」を語りました。反応は当然、良好でした。
習氏はこの講演で、会場に集まった各国や各界の首脳、著名芸能人らの多くから喝采を浴びた。
(同上)
日本は、習近平を甘く見るな!
日本では、中国や習近平をとても軽視する傾向があります。
「中国は、こんなにアホなことをやっている!」
「習近平は、こんなにバカなことをやっている!」
「やっぱり中国は民度が低い」
「中国崩壊は近い!」
こういう話が好まれます。今回の演説について、「習近平の演説に、会場はしらけムード」と書けば、喜ばれることでしょう。しかし、日本は、「そんなハチャメチャな中国に、負けた」という事実を覚えておく必要があります。
反論が出るでしょう。「日本は、中国ではなくアメリカに負けたのだ! 中国では、連戦連勝だった!」と。しかし、「アメリカを日本との戦争に引きずり込んだ」のは、中国とソ連です。ある面、中国(とソ連)は、「アメリカを使って、スマートに(あるいは、ずる賢く)日本に勝った」とも言える。
次の反論は、「日本は負けたが、共産党ではなく国民党に負けたのだ!」でしょう。その通りです。しかし、共産党は、「国民党と日本軍を戦わせることで、力を温存し、結局内戦に勝利した」とも言えます。
習近平の「ダボス演説」は、彼が世界の動きをしっかり把握していることを示しています。そして、「世界の支配者層を味方につけよう」とした。何が言いたいかというと、「中国や習近平を甘く見るな!」ということです。
このタイミングで中国の習近平が苦し紛れのグローバル宣言なのだが、はたしてジョージソロスや世界の支配層に阿(おもね)る宣言はダボス会議の面々は額面通りに受け取るだろうか?
ジョージソロスは「グローバリスト」で「ナショナリズム」を嫌悪しているので、トランプ大統領を容認するわけがない。
「養光韜晦」政策(爪を隠し、才能を覆い隠し、時期を待つ戦術)をしていた頃の中国はソロスや国際金融資本から見れば、言うことを聞くポチとしてお互いに利用しともに甘い汁を吸ってきた。まあ中国といっても共産党幹部がおいしい汁を吸って大多数の国民はそのわずかな恩恵を受けているに過ぎない。
しかしながら、リーマンショック後米国の覇権に限りを感じた途端、中国共産党は、「有所作為」(つねに実力を見せず蓄積し、やるときは一気に)「中国の夢」政策と強いナショナリズム政策に切り替えた。もちろん本性をあらわにした中国を、ジョージソロスらは「こりゃ駄目だ!」とあっさり見捨てたのである。
ソロスら国際金融資本が見限った中国経済は経済の崩壊が始まり、中国経済はいまや風前の灯火である。
トランプ政権が誕生し、習金平は次の10年を決める大事な2017年の共産党大会を目前に、自身の失脚、共産党支配の終焉の危機に陥っている。もっとも習近平が独裁者というのではなく、彼は共産党の派閥各派のシャッポにすぎず、習近平にすべての責任を被せ切られるシナリオも残されているだろう。
習近平政権を襲うトランプ政権という「黒船」 3つの戦い…負ければ政権崩壊も 【産経ニュース】2017.1.12 09:07
中国の習近平政権にとって2017年は文字通り、内憂外患の年となりそうだ。
まず、その「外患」について論じたい。中国政府に降りかかってくる最大の外患はやはり、今月誕生する米トランプ政権の対中攻勢であろう。
大統領選で中国のことを「敵」だと明言してはばからないトランプ氏だが、昨年11月の当選以来の一連の外交行動と人事布陣は、中国という敵との全面対決に備えるものであろうと解釈できる。
トランプ氏は日本の安倍晋三首相と親しく会談して同盟関係を固めた一方、ロシアのプーチン大統領やフィリピンのドゥテルテ大統領とも電話会談し、オバマ政権下で悪化した両国との関係の改善に乗り出した。見方によっては、それらの挙動はすべて、来るべき「中国との対決」のための布石と理解できよう。
そして昨年12月初旬、トランプ氏は米国外交の長年のタブーを破って台湾の蔡英文総統との電話会談を敢行し、中国の「一つの中国の原則」へ挑戦状をたたき付けた。対中外交戦の外堀を周到に埋めたトランプ氏はいきなり、北京の急所をついて本丸へと攻め込もうとする構えを見せたのである。
人事面では、トランプ氏は新設の国家通商会議委員長と米通商代表部代表のそれぞれに、対中強硬派の面々を任命して対中国貿易戦の準備を整えた一方、国防長官のポストには強硬派軍人のマティス元中央軍司令官を起用した。南シナ海での中国の軍事拡大を断固として封じ込める姿勢を示したのである。
おそらく政権発足直後から、トランプ政権は日米同盟を基軸とする対中包囲網を固めた上で、中国の急所となる台湾問題を外交カードに使い、習政権に強烈な揺さぶりをかけながら、南シナ海問題と米中貿易の両戦線において未曽有の大攻勢をかけていくのであろう。
一方の習近平政権は、情勢の激変に心の準備も戦略上の布陣もできていないまま、退路のない「背水の陣」を強いられる羽目になっている。
貿易戦争の展開によって中国の対米貿易が大きく後退すれば、輸出こそが命綱の中国経済は深刻な打撃を受け、既に危険水域にある経済の衰退にさらなる拍車をかけることとなろう。
そして南シナ海では、今まで「有言不実行」のオバマ政権の生ぬるさを幸いに中国の軍事拡大がやすやすと進んできたが、トランプ政権と米海軍が中国の封じ込めに本気になって当たれば、習政権の拡大戦略は頓挫し立ち往生してしまう可能性も十分にあろう。
習政権にとって政治的リスクが最も高いのは台湾問題への対処だ。ニクソン訪中以来、対米外交を含めた中国外交の土台は台湾というれっきとした国を国として認めない虚構の上に成り立っている。トランプ政権が台湾問題を米中間の争点として持ち出し攻勢をかけてくると、中国からすればそれこそ「外交崩壊」につながる深刻な事態である。台湾問題への対処を間違えば、国内政治的にも習政権にとっても命取りとなりかねない。
結局、トランプ政権が仕掛けてくる「貿易戦争」「南シナ海の対決」、そして「台湾問題の争点化」という3つの戦いに、習政権は今後、いや応なく応戦していくしかない。今の中国にとっては3つの戦いのすべてを制し、トランプ政権の攻勢を食い止めることはまず無理であろう。北京ができることはせいぜい、どこかで折り合いを見つけて「1勝2敗」か「2勝1敗」に持ち込むことであろう。
問題は3つの戦いの1つにでも敗退してしまえば、中国国内の経済危機・政治危機の発生を誘発し、習政権を窮地に追い込むことになりかねないことだ。「習近平幕府」にとっての「黒船」はやはり太平洋から襲ってくる。
2017年、中国の「内憂」はとどまるところを知らない経済の衰退だ
【産経ニュース】2017.1.26 11:00
前回の本欄は2017年に習近平政権が直面する「外患」について解説したが、今回は中国政府が抱える「内憂」について考えてみよう。
最大の内憂はやはり、とどまるところを知らない経済の衰退である。今月13日、中国税関当局は2016年の貿易統計を発表した。輸出額前年比7・7%減、輸入額5・5%減という衝撃的な数字である。
中国の経済統計の信憑(しんぴょう)性が疑われている中で、貿易統計は信ずるに値する数少ないデータの一つである。貿易というのは相手があるから、中国が一方的に捏造(ねつぞう)するには限界があるからだ。従って自国の統計数字をあまり信用しない李克強首相も、この貿易統計に接したときは、頭の中が真っ白になって茫然(ぼうぜん)自失に陥ったのではないだろうか。
一国の輸入には消費財輸入と生産財輸入の2つの部門がある。昨年の輸入額がそれほど減ったのは、要するにこの1年間、中国国内の消費と生産の両方がかなり落ち込んでいるということである。そして、輸出額7・7%減という数字はより一層、中国経済の絶望的な状況を鮮明に示してくれているのである。
今まで、中国の経済成長の最大のネックは、国内消費の決定的な不足であった。個人消費率を見てみると、日本が60%程度、米国が70%程度であるのに対し、中国の場合はわずか37%前後で異常に低い。中国経済の中で、13億の国民が消費する分は経済全体の4割未満なのである。
後の6割の中国経済はどこで創出されているのか。一つは投資分野の継続的投資拡大、もう一つはやはり、貿易部門の対外輸出の継続的拡大である。つまり、中国国民があまり消費してくれないから、輸出の拡大で中国製の安いモノを海外で売りまくり、国内の雇用を確保し、経済の成長を支えてきたのである。これが中国の成長戦略の柱であった。
その一方、国内の投資拡大を支えるために、中国政府が十数年間にわたって人民元を無制限に刷って乱発した結果、2010年あたりから国内で深刻なインフレが発生し、人件費の急騰が深刻になってきている。このため、「安さ」が唯一の取りえである「Made in China」が国際的な競争力を徐々に失っていった。
その結果、2010年までに毎年25%前後の伸び率を誇った中国の対外輸出の急成長は完全に止まってしまい、2016年のそれは7・7%減のマイナス成長となったことは前述の通りである。つまり、今まで、中国の高度成長を支えてきた「輸出」という柱が既に崩れてしまっているのである。
輸出がマイナス成長となると、中国政府の虎の子である外貨準備高は見る見るうちに減っていく。そして、沿岸地域の労働密集型の輸出向け産業が破滅的な打撃を受けて倒産が広がり、失業者があふれるような事態が起きてくるのである。それはまた国内の消費不足をさらに深刻化させ、社会的不安の拡大を誘発する要因にもなっている。
こうした中で、最大の輸出相手国であるアメリカのトランプ政権が本格的な「貿易戦争」を中国に仕掛けていけば、それが中国の輸出減に追い打ちをかけ、中国経済にとどめの一撃を与えるのかもしれない。外患と内憂はここで「両軍合流」となって、中国経済と習近平政権の両方を未曽有の危機に追い込んでいくのである。
このような危機感があったからこそ、習近平国家主席は先日のダボス会議演説で「保護主義に断固反対」と強調してトランプ政権を牽制(けんせい)してみせた。しかしどう考えても今年から、中国はアメリカとの「貿易戦争」で無傷でいられることはない。2017年における中国経済のさらなる衰退は必至であろう。
◇
【プロフィル】石平
せき・へい 1962年中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。
トランプ大統領の誕生で、習近平が危機的な立場にあるのは間違いない。習近平は起死回生の奇策としてナショナリストをやめて、グローバリストの「偽装」をはじめた。溺れる習近平はジョージソロスや国際金融資本にすがり、トランプのアメリカに対抗し経済の立て直しを図ろうとしているのである。
問題はジョージソロスや国際金融資本が中国の身勝手なラブコールに再び乗るかどうかなのである。当初トランプとウォール街の国際金融資本は敵対関係で、トランプが大統領選当選後大暴落するのではないかと思われていたが、いまやNYダウは2万ドルを超えた。ジョージソロスは大損しているかもしれないが、ウォール街全体はトランプ大統領歓迎ムードだ。
国際金融資本は、悩んでいるかもしれない。アメリカファーストを掲げるナショナリスト・トランプは、ジョージソロスら国際金融資本家に嫌われている。そのことを知った習近平が「グローバリズムの旗手」のフリを偽装し始めたのだ。
トランプ大統領誕生で落胆したジョージ・ソロスや、国際金融資本のダボス会議出席者達が習近平のダボス会議で「グローバリズム絶対支持!」演説を真に受け、また中国の方になびくだろうか?もしくは中国を利用してトランプを引きずりおろそうとしたならば、中国経済の復活というシナリオもあるかもしれないが、よほどのお人好しでバカでなければ、また騙されることはしないと思う。・・・・のだが・・・
トランプ氏で市場は低迷へ、政策は失敗すると確信=ソロス氏
【ロイター】2017年 01月 20日 10:38 JST
[19日 ロイター] - 著名投資家ジョージ・ソロス氏は19日、ドナルド・トランプ次期米大統領の政策が不透明な点を考えると、世界の金融市場は今後低迷するとの見通しを示した。
ソロス氏はブルームバーグに対して「現段階で不確実性の度合いは最高潮に達しており、こうした不確実性は長期的な投資家の敵だ。だから市場が順風満帆な局面を迎えられるとは思わない」と語った。
トランプ氏の政策についてソロス氏は、規制緩和や減税といった市場の希望がかなった半面、国境税や環太平洋連携協定(TPP)脱退などの提案が米国の経済成長にどういった影響を及ぼすのかが不明だと指摘。「トランプ氏が実際にどう動くかを正確に予測するのは無理だ」と言い切った。
米大統領選では民主党のクリントン候補を応援して多額の選挙資金を提供したソロス氏は「個人的にはトランプ氏は失敗すると確信している。それはわたしのように失敗を望む人がいるからではなく、彼の考えが本質的に自己矛盾をきたし、そうした矛盾が既に周囲のアドバイザーや閣僚候補によって体現されているからだ」と述べた。
英国の情勢については、現政権内の亀裂を考えると、メイ首相が政権の座に留まり続けることはなさそうだと予想。英国の欧州連合(EU)離脱に向けたプロセスは長引き、英国とEUの双方が痛みを被る「つらい別れになる」とみている。
ソロス氏は、中国が重要な輸出市場である欧州の統合に関心を持っていると指摘。習近平国家主席は中国を社会的にもっと開かれた状態にすることも、もっと閉じられた状態にすることも可能だが、中国自体はより持続的な経済成長モデルに向かうだろうと語った。
おいおい!去年の今頃は「ハードランディングは事実上不可避」と言っていたではないか?
ソロス氏:中国のハードランディングは不可避、株投資は時期尚早
【ブルンバーグ】2016年1月22日 05:31 JSTVincent Bielski
著名投資家ジョージ・ソロス氏は21日、中国経済がハードランディングに直面しており、こうした状況は世界的なデフレ圧力の一因になるだろうと述べた。同氏はまた、中国情勢を考慮して、自分は米株の下落を見込んだ取引をしていると説明した。
ソロス氏はスイス・ダボスでのブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、「ハードランディングは事実上不可避だ」と指摘。「私は予想しているのではなく、実際に目にしている」と語った。
同氏は中国が十分な資金を有しているため、こうした状況に対応できるだろうが、同国の成長減速は世界に悪影響を及ぼす見通しだと発言。自分はS&P500種株価指数にショート・ポジションを取っており、株を買うのは時期尚早だと述べた。今週、グッゲンハイム・パートナーズのスコット・ミナード最高投資責任者(CIO)やダブルライン・キャピタルのジェフリー・ガンドラックCIOら著名投資家も米株の底はまだ見えないとの見方を示した。
ソロス氏は昨年末に米国債を買い入れたほか、資源国をショートとし、アジア通貨の対ドルでの下落を見込んだ取引を行ったと語った。
同氏は「重要な問題はデフレだ」と指摘し、中国の景気減速に加えて原油安と通貨切り下げ競争の影響に言及し「なじみのない環境だ」と述べた。
またソロス氏は米追加利上げがあれば自分は驚くだろうと発言。利下げの可能性すらあるが、実際に行われても、金融刺激の効果は減りつつあるため米経済の活性化にはさほど寄与しないだろうと指摘した。
ソロス氏は2016年は市場にとって「困難な年」になるとした上で、さらなる相場下落もあり得ると指摘した。
だが、ジョージ・ソロスはTPPに好意を持っている。ソロスは中国を信用しないだろう。安倍首相はTPPを諦めていないのだ。ここだ!安倍首相がTPPにこだわる理由の一つではないだろうか?
とりあえず米国抜きのTPPを推進することは、口先だけのグローバリズム宣言の中国より安倍首相をもっとも信頼できる世界経済のリーダーと目するようになれば、安倍首相は勝利の方程式になる可能性がある。
トランプは選挙公約を掲げ、選挙に出て、当選したので選挙公約を実行しているにすぎない。ただ、トランプはグローバリスト達に暗殺される可能性がある。グローバリストとは国際ユダヤ資本である。ユダヤ資本に刃向った米国大統領は歴代暗殺もしくは暗殺未遂に遭っています。これは別途記事にしますが、FRBや通貨に手をだしたらヤバいかもしれません。
トランプ政権は日本もナショナリストで良いんだと言っているわけですから、日本はその点は巧く付き合いながら、グローバリズム側にも立ってジャパンファーストで泳ぎわたる決意をしなくてはならないと思う。
【追記】2017.1.30
トランプはかくも賢く、計算高い! メディアが知らない「真の実力」
歪んだイメージに騙されるな 【現代ビジネス】経済学者嘉悦大学教授 髙橋 洋一
公約実行は当然のこと
トランプ政権が20日にスタートし、矢継ぎ早に大統領令を出している。
これに対してほとんどのマスコミは「異例である」と報じ、識者の多くはトランプ政権が早々に行き詰まるだろう、という見方を示している。
筆者がレギュラー出演している朝日放送「正義のミカタ」(毎週土曜日朝9時~)でも、米国人モーリー・ロバートソン氏が大統領令について、「異例の多さで、内容が悪い」と語っていた。彼は民主党支持者で、まるで大統領選挙中の民主党によるトランプ批判そのものを聞いているかのようだった。
米国の大統領令は、連邦政府や軍に対して連邦議会の承認を得ることなく、行政権を直接行使するものだ。これをモーリー氏は「今回は異例に多い」と言っていた。これに対して一緒に出演していた岡田斗司夫氏は、「オバマ大統領も数多くの大統領令を出していた」と返していた。
また、筆者は、実はどこの国でも行政権の行使に関して、議会承認を得ないで行うものはあり、たとえば日本でも政令は国会の承認を得ないで行うものだと説明した。同じ番組内で、新たな元号についての話題もあったが、実は元号の決定は国会の承認ではなく、政令によって政府が決めているものだ。
アメリカの大統領令の範囲が明確でないという批判もあるが、連邦議会の制定する法律に基づき大統領に委任されているものも少なくない。
この点、日本の政令でも、根拠法律が明確な委任政令と、そうでない実施政令が混在しているので、アメリカの大統領令との差異は、少なくとも筆者にとってはそれほど明確でなく、五十歩百歩ではないかと思う。
こうした意味で、「大統領令が乱発されている」という報道は、アメリカでもなされているが、やや大げさであると思う。
新政権が選挙期間中の公約を実行に移すのは当然である。また、見方を変えればトランプ政権は、選挙期間中、当選後の戦略をよく考えて、議会の承認の必要のない大統領令でできることばかりを公約に掲げてきたともいえるのだ。
もっとも、連邦議会が反対法律を制定したり、過去にも大統領令について連邦裁判所が違憲判断を示したことも2回ある。行政権の執行であるので、三権分立の立場から立法と司法からチェックを受けるのもまた当然である。
マスコミが知らないトランプの素顔
マスコミの報道の多くは、いまだに「トランプ大統領はバカではないか」というものが主流であるように感じる。これは(筆者は直接トランプ大統領と面識があるわけではないが)、私の友人・知人を通じて知るトランプ大統領のイメージと異なっている。
実は、昨年11月、安倍首相が当選直後のトランプ氏と電撃的な会談をしたが、それを仲介した人物は、筆者の長年の友人である日系三世アメリカ人、村瀬悟氏である(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50422)。友人の名を明かすのは気が引けるが、もういいだろう。
彼は、日本語の勉強のために日本に中学・高校と留学しているが、留学先は成蹊中学・高校である。年齢は安倍首相と一つ違いであり、安倍首相も成蹊中学・高校であるので、当然よく知っている仲だ。
ハーバード大卒、ニューヨークで評判のいい弁護士をしており、トランプ大統領のかつてのビジネス案件も手がけいたこともあって、トランプファミリーとも密接な関係がある。
当然、トランプ大統領に直接連絡できる人物だ。彼は、トランプはとても賢く数々の発言は計算に基づいているといっていた。
また、トランプ大統領がかつて倒産したとき、彼のために金策で奔走した日本人も知っている。苦境の時に助けに乗り出した人であり、そういうときの恩義は古今東西を問わず忘れないものだ。その人も、トランプ大統領はかなり賢く、先々のことをいろいろと考えて行動していたといっていた。
最も大きな失点は「国境税」
さらに、かつてのトランプ氏は今のようなやさしい英語を使わなかった。しかし、不動産で失敗した後、テレビショーに出演していたときのトランプ氏は別人のように言葉づかいが変わり、難しい表現を使わなかった。
しかも、WWEというプロレス団体のリングにも登場した。日本では、地位のある人がプロレスを好きだといっても自然だが、アメリカではプロレスは完全にプア・ホワイトら向けのもので、リング上で使われる言葉も基本的には低レベルだ。こうした経験を積むこと、トランプ大統領は一皮むけたという。
ただし、トランプ大統領の行動すべてが計算づくでうまくいっているわけではない。
メキシコとの国境に壁をつくる、というところまでは想定内だ。実際、今でもメキシコとの国境には壁がある。そもそも国境に壁があるのは、アメリカとメキシコの間を往復すれば旅行者もわかることだ。それに入国管理を強化するのも大統領選挙期間中の公約である。
しかし、国境税についてまともにブチ上げたことには面食らった。たしかに大統領選挙でも国境税については言及されていたが、これは悪手だろう。早速、「国境税といっても、相手国に課すことができない以上、アメリカ国民が支払うことになる」といったの批判が出た。
この批判はその通りであるし、相手国もWTOなどの国際機関をうまく使えばかなり防戦できる。こうした意味で、これは「ディール」に向かない戦法であり、トランプ政権としては「しまった!」と思ったはずだ。
ただ、トランプ大統領とメキシコのエンリケ・ペニャニエト大統領との間で、電話会談が行われたので、ディールは一歩前進している。結果オーライ、ともいえるかもしれない。
実はしたたかな「失業・雇用論」
さて、経済政策に関しての言動は想定内である。もっとも、トランプ政権への批判はまだ強く、そうした論者のなかには「トランプ政権が掲げる経済政策は、とてもできっこない」と断言する者が多い。
一方、『現代ビジネス』のサイトには、冷静な記事もある。1月26日付けの安達誠司氏の「トランプの経済政策は本当に『保護主義』なのだろうか?」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50815)は有用だ。この見方には、経済学的な観点から賛同するとことが多いが、筆者の場合、それに政治的な観点を加えてみている。
トランプ政権は、雇用を増やすことを主張しており、これに対して「アメリカはいま、完全雇用に近い状態」という批判がなされている。安達氏は、アメリカ経済は「完全雇用」に近いのか? と自ら問いかけて、実際の「失業率」はもう少し高いとの試算を提供している。
興味深い指摘だが、もしそうであっても、統計で目に見える「失業率」は容易に低下しない。高い失業率を低くするのは困難なので、これでは政治的には無意味な主張になる。
トランプ政権の射程は2年、中間選挙までに政治的に目に見える成果を求めている。それまで、マクロの「失業率」は、理由がどうあれ顕著に低下することはない。
トランプ政権はこのことをよく知っているのだと思う。マクロの「失業率」には目をくれずに、個別企業の雇用を促進させ、「その雇用はオレが作った」と成果を主張することを考えているのだろう。
実際、そういわんばかりのつぶやきをツイッター上で展開している。一連の日本叩き、日本企業叩きも、そうした戦略から行われているのだろう。
となると、日本としては、1980年代に起こったような日本叩きにならないよう、したたかな対応が必要だ。
幸いなことに、対日貿易赤字は80年代ほど大きくはない。ところが、貿易赤字は経済学的にはたいした意味はないが、政治的な意味は大きいので、あまり経済的に考えるのは得策ではないのだ。
80年代、筆者は実際に対米交渉をやった経験があるが、そのとき一応経済学的な観点から各所に説明するのだが、あまり意味がなかった。今や中国が日本のポジションに変わっているので、この点(つまり、政治的な観点)を強調した方が日本のためにもなる。
日本が優位に立つチャンスはある!
さて、これについて「トランプ政権の80年代を彷彿させる行動は、トランプ政権が比較優位の貿易論も知らないから採られるもので、いわば暴挙」という識者もいるが、それは誤りだ。
伝統的な貿易論どころか、その次の「新貿易論」、さらに貿易は格差の源になりうるという「新新貿易論」さえも利用して、対日交渉に臨んでくると思ったほうがいい。
1月28日夜、安倍首相とトランプ大統領は電話会談した。2月10日、安倍首相が訪米し日米首脳会談を行うことを取り付け、その直前の2月3日にマティス国防長官が来日する予定だ。
当面は、トランプ政権が離脱を表明しているTPPの後をどうするかだ。筆者は、昨年米大統領選直後11月14日付けの本コラムで、日米2国間交渉に移行すべきと書いた(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50202)。それは、日本が言わなくともアメリからそう求めてくることが予想できたからだ。
案の定、日米2国間貿易交渉という流れが出てきている。報道によれば、アメリカから提案が持ち出されたら、日本も受けるという。だが、この報道通りの受け身対応だと、ちょっと心配である。
筆者が昨年の本コラムで書いたのは、どうせ2国間になるから、日本から先に持ちかけるべきだ、ということだ。そのほうが、議論の枠組が作れるので有利になるからだ。
これも新聞報道だが、アメリカが2国間交渉を日本に持ちかけるとき、在日米軍の駐留経費負担増を日本に求めない、とのマティス長官の話が出ている。
一見すると、マティス長官は日本に配慮したように見えるが、日本にとってはいい話ではない。じつは、在日米軍の駐留経費増を日本がいわれても、年間2000億円程度なのでたいした話でないのだ。むしろ増額に応じて、2国間貿易交渉を有利に運んだり、日米地位協定の見直しをとる方が、日本としても得策だっただろう。
トランプ政権がそれを察知して在日米軍の駐留経費増を持ち出さないのだとしたなら、2国間交渉はかなりタフなものとなるだろう。
日米2国間交渉は、TPPで決まったことをベースにして行うのは当然として、場合によっては、オーストラリア、ニュージーランドの旧英連邦も加えればいいだろう。少なくとも、TPPベースの交渉ではいいパートナーとなる。
さらに、NAFTAで再交渉のカナダ、EUから離脱するイギリスも加えて、アングロサクソン+日本という先進国型自由貿易経済圏を模索するのもありだ。
トランプ政権は、貿易交渉をしようというだけで、先進国間では保護主義ではなくどちらかといえば自由貿易を指向するだろう。その中で、日本もしたたかな交渉術が求められている。
ディール(契約)は、売りと買いで折り合いがつかないと思っても粘り強く交渉すると着地点があるように、決して破壊的な結末ではなく、両者が納得できるところに落ち着くものだと肝に銘じてほしいものだ。
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