中国のシーパワー論を支える5つのアイディア
【地政学を英国で学んだ】奥山真司2018年 07月 12日

今日の横浜北部も相変わらずの夏日でした。唯一の救いは午後少し曇ったことでしょうか。

さて、昨夜の番組でも少し触れた、米海軍大学の教授による新たな中国のシーパワー分析の記事の要約です。

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中国のシーパワーの可視化

    
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By ジェームズ・ホームズ James Holmes     

海軍War大学の戦略教授であり、ジョージア大学公共政策大学院の教員准教授。元米海軍の士官で、タフツ大学フレッチャースクール・オブ・ロス・アンド・ディプロマシースクールから
博士号を取得



海軍力を増強させるあたって、中国は様々なアイディアを使っており、それは時代の新旧だけでなく、洋の東西をも問わないものだ。


そして中国の海軍面での野望を理解しようとしている米軍のリーダーたちは、たとえば現代の車にもれなく備わっている「クランプル・ゾーン」(crumple zones:クラッシャブルゾーン) という防御システムを思いうかべることによって、この戦略をイメージできるかもしれない。


また、中国がシーパワーを蓄える際に研究している思想の中身や、人民解放軍海軍やその他の兵力が作戦・戦略面での目標を達成するために準備している実際の兵力や方法論を見ることによって、米軍のリーダーたちはその海洋戦略を理解できるはずだ。


過去の偉大な思想家たちの考えは、中国の戦略、作戦、そして戦術面の異なる面を浮き彫りすることによって、この理解の助けとなるだろう。


▼中国のシーパワー:人民解放軍海軍以上のもの


シーパワーはその国のもっている艦隊だけで考えるべきものではない。それは海軍だけの領域の話ではなくなっているからだ。空軍、陸軍、そして戦略ロケット軍などは、次第に外洋へとリーチを伸ばしており、シーパワーの陸上手段のような役割を果たしつつある。


「海軍」(Naval)とは「海洋」(maritime)の一部を構成したものであり、端的にいえば、「海洋」面での力を構成するツールの数は多いのだ。それらはすべて中国のさらに大きな「軍事戦略」の下位に属するものであり、さらには中国軍が仕えている「政治目的」に従ったものだ。


ところが常にこれがそのような状況であったわけではない。過去においては、遠い海を進んでいた艦隊同士が、制海権と、それがもたらす果実をかけて争っていた。艦隊同士は沿岸砲(射程は数マイルだった)が届かない数マイル沖で衝突しており、その指揮官たちは沿岸から離れて外洋での活動に集中していた。


たとえばホレイショ・ネルソン卿のトラファルガー海戦における勝利(1805年)は、陸地から離れた水域で起こったものだ。それは純粋な「海戦」だったのだ。ところが帆船時代においても海軍の指揮官たちは沿岸砲の潜在性について少しは考えていた。英国の海戦の「神」であるネルソンでさえ、船は陸上の砦を倒すには向かないとアドバイスしている。


沿岸の砦を回避するのは、蒸気船の時代に入っても懸命な手段であることに変わりない。ユトランド沖海戦(1916年)ももう一つの艦隊同士に限定された戦いであり、イギリスの「大艦隊」はすべての船を北海に持ち寄り、ドイツの「大洋艦隊」もすべてのアセットをつぎ込み、砲撃戦を行っている。


ところが将来トラファルガーやユトランドのような戦いが起こるかというと、かなり疑わしい。長射程の精密誘導火力の出現によって、むしろ将来の戦いは、七五年前のソロモン諸島の戦いに似たものとなるだろう。この戦いでは、日米両国が半年にわたってガダルカナル島のヘンダーソン飛行場を巡って、陸海空すべての軍事力をつぎ込んで争っている。


この飛行場のコントロールをできた側は、南太平洋全域にわたる敵の海上輸送と島の基地を攻撃するための最初のポイントを獲得できるようになるのだ。陸上ベースのシーパワーは、ソロモン諸島の戦いの最大の目的であると同時に、それを戦うための最大の手段の一つでもあったのだ。


誘導ミサイル時代の到来は、陸上ベースのシーパワーの時代の到来や、そのリーチの拡大、精密誘導性、そしてその破壊力を早めただけだ。中国の戦略では、この火力革命を自らの優位としつつある。人民解放軍は、海洋面での使用可能なすべての力を中国の前進的な沿岸防衛に注ぐことになるだろう。


中国の海軍力には、空母や誘導ミサイル駆逐艦のような、戦闘艦隊を構成する目立った艦船が組み込まれている。その他にも、短距離用だが高速の警備船や、対艦巡航ミサイルを搭載したディーゼル電池式の潜水艦などがある。陸にある飛行場から飛び立つ、ミサイルを運搬する航空機も一定の役割を担うことができるし、トラックから発射する対艦ミサイルも、それと同様に「シーパワー」のツールの一つとして数えることができる。


人民解放軍は毛沢東式の「積極防衛」戦略を編み出しており、それを近年に「沖合水域防衛」と名前を換えているが、これらの海と陸をベースとしたシーパワーのツールを、「砦としての中国」やその沖合を、アメリカとその同盟国たちから守るための、一つの鋭い兵器として融合させている。


では彼らはこのような兵器をどのように準備するのだろうか?中国共産党の指導層がまず最初に考えるのが、東アジアと太平洋西部である


戦略とは、そもそも優先順位を設定すると同時に、それらを勇気を持って実行するためのアートである。そこから考えると、主要戦域――この場合は国土と接続水域のことだが――を、はるか遠い海での副次的な取り組みのために犠牲にするという考えは、合理的とはいえない。つまり、中国にとっての「アクセス」とは、本土から始まるのだ。


ところがもし人民解放軍の指揮官たちが本土を守ることができて、しかも中国が太平洋において陸上配備型の兵器やディーゼル潜水艦、そして高速攻撃船に興味を持っているとすれば、人民解放軍のリーダーたちは、海軍の水上艦隊のかなりの部分を犠牲にして、中国の地理的近郊の外へと繰り出すこともできるのだ。


時の経過とともに、これは遠洋において北京の対外政策の実現に貢献する、「遠征艦隊」へと発展する可能性もある。政治のリーダーたちが沖合の海での防衛に自信を深めつつある今、彼らは遠征的な目的に注目し、そこにエネルギーを注ぎ込みつつある。彼らは海軍力を分割して「外洋防護」に回すこともできるし、本土で不要なリスクを背負わずに同様の任務を行うことができるのだ。


そして実際のところ、中国のリーダーたちは、域外への展開のために知的な面と物理的な面の両方において準備を進めている。これは注目に値する。なぜなら、外洋防護やその他の遠征的な展開というのは、戦略家や政治指導層が最も懸念する海域を支配下においてから、ようやく海軍がとりかかる任務だからだ。


北京は、インド洋をはじめとする海路への取り組みを気楽な気持ちで開始できたのであり、これは本土近くの海域における積極防衛を実行する上での海、空、そしてミサイル部隊を統合した能力について、指導層が自信を持ったことを示している。


これらはアメリカの国防計画担当者や、その地域にある同盟国・友好国たちにとってどのような意味を持つのだろうか?


これは、中国が地域の水域や空域における支配について段々と自信を深めているということだ。さらにこれは、アメリカと東アジアにおける同盟国・友好国が、中国の沖合の水域における防衛戦略に対抗するために不可欠なハードウェアを土台とした戦略を作成しなければならないことも示している。


もしこれができれば、アメリカは同盟国へのアクセスを確保して、アジアにこれらの国々を「戦略的ポジションを持たない状態」から救い出すことができる。太平洋西部でうまく競合できれば、人民解放軍海軍に対して中国本土だけを守るようシグナルを出すことができるのであり、間接的にはインド洋やその他の係争海域における中国からの圧力を緩和できる。


同盟関係を強化し、中国の拡大主義的な地域外における海軍のプレゼンスを抑制するためには、アメリカは戦略的な焦点を東アジアに移さなければならないのであり、海洋面でのエネルギーとリソースをこの地域に注がなければならないのだ。


▼目標:沖合の「クランプル・ゾーン」


中国には「接近阻止・領域拒否」(A2AD)戦略があることはよく言われていることだが、これをわかりやすくいえば、海と陸をベースにした兵器を使うことによって沖合に「クランプル・ゾーン」をつくろうとする試み、ということになる。


車の先端のエンジンがある区画や、後ろのトランクの部分というのは、いわゆる「クランプル・ゾーン」を構成している。これらは「堅い盾」としてつくられたわけではなく、衝撃があるとうまく壊れるように設計された、犠牲的な構成部品なのだ。車の設計の最大の狙いは、車会社が最も価値をおいているものを守ること、つまり車内にいる「乗客の身の安全」である。


もし「クランプル・ゾーン」が完全に堅いものであれば、衝突した時の力は車内、そしてその中にいる人間に直接伝わることになり、彼らを死に至らしめる可能性が出てくる。「クランプル・ゾーン」はそのかわりに、衝突のエネルギーを吸収してやわらげる働きをするのだ。


近接阻止のメカニズムもこれと似ている。本土とその近海の安全は、北京が最も懸念するものである。ところが人民解放軍の指揮官たちは、自分たちが太平洋西部を「進入禁止地帯」にできるとはもちろん考えていない。彼らはアメリカの太平洋艦隊を域内の水域から完全に排除するための防衛線を設けることは無理であると知っているのだ。


軍事史では、長距離に広がった前線を守ることは極めて難しいことが示されている。「万里の長城」でさえ難攻不落の構造物ではなかったし、そもそもそれを建設した人々もそういうつもりで作ったわけではない。


どの軍隊も、このような防衛線のすべての線上において潜在的な敵に対して強い状態をつくることはできない。防御側は配備を分散させ、各個の戦闘力を薄くしなければならないのであり、この分散状態は、表面上は弱い敵部隊の集団でも、その線の一部では優位な状態になり、そこからの通過を許してしまうことになる。


▼海に向かうクラウゼヴィッツ


守る側にある人民解放軍がやろうとしているのは、日本やその他の同盟国や、すでにこの地域に前進配備している米軍への救援のために西進している米太平洋艦隊の増援に対して、なるべく高い(といっても完全にムリなものではないだろうが)コストを与えることだ。


そういう意味で、中国の沖合の水域の防衛について参考となる最初の思想家は、戦略思想の賢人の一人であるクラウゼヴィッツのものとなる。


クラウゼヴィッツは戦時に勝利する方法として三つ挙げている。これを簡潔にいえば、相手を粉砕すること、威圧すること、もしくは破産させることである。クラウゼヴィッツによれば、戦争においては「非常に勢力に開きのある国家間」に戦争があるのは一般的であり、力の弱かった方が勝者になることも往々にしてあることだ。


彼はつづけて「現実の戦争に講和の動機をもたらすものが二つある。第一は、以後の勝算が全然立たない場合、第二は、戦勝を得るための犠牲があまりにも大きい場合である」と述べている。


いいかえれば、もし中国が敵に自信をなくさせることができたり、もしくはワシントンが太平洋西部に侵入する「価格」を支払えないほど引き上げてしまえば、中国は大規模な艦隊同士の戦いで相手を倒すことなく勝利することができることになる。


このような海戦は、そもそも遠く離れた外洋での保護任務を必要とし、ここ二十年間で北京が大胆に投資してきた人民解放軍海軍の水上艦隊を、わざわざリスクにさらすことになる。


よって、人民解放軍の上層部は、アメリカの政治リーダーたちに対して、「活動中の太平洋艦隊を危険にさらし、アジアだけでなくユーラシア大陸周辺におけるアメリカの国益を守る米海軍の能力を危機にさらすような大きな損害を被るリスクを本気で背負えるのか?」と宣告できるようになる。


これに対してホワイトハウスは、高い代償の支払いや、海での敗北のリスクにうろたえるかもしれない。もしうろたえることになれば、北京は危機の際にきわめて貴重となる「時間」をかせぐことができるだろう。


クラウゼヴィッツは、心理学的な効果のために軍のハードウェアを展開するこの中国のやり方に、賛意を表明するはずだ。


▼毛沢東の積極防衛


強靭な能力があれば、中国は抑止や強要ができるようになる。中国のシーパワーの次の顔は、毛沢東の睨んだ表情として言い表すことができる。



2015年に発表した最初の公式な軍事戦略として、中国の指導者層がわれわれに教えたのは、毛沢東式の「積極防衛」が、いまでも中国の戦略の作成に重要であるばかりでなく、「積極防衛という戦略概念こそが(中国共産党の)最大のエッセンスである」ということだ。



これが意味するのは、人民解放軍は固定化された防衛線を守ろうとしていないし、太平洋の外洋で決戦をしようとしているわけでもない、ということだ。


彼らは撤退戦をやろうとしているのであり、これはつまり、海域を譲りつつ、その合間に「クランプル・ゾーン」の内部のどこかで海軍による作戦行動を準備するために、米艦隊に断続的な攻撃を加えて分断化しようというのだ。


この「曲がるが折れない」というアプローチは、陸戦にルーツを持つ中国共産党の伝統に則したものだ。


毛沢東は自身の考えを説明する際に比喩表現を喜んで使っており、たとえば中国の内戦時には紅軍の指揮官たちに対して「(強い敵軍を)深みに誘い込み」、敵の戦力を少しずつ削り取って分離し、小さくなった部隊からつぶすべきだと進言している。


「十本の指を傷つけるよりは一本の指を切り落とした方がよく、敵に対しても、一〇個師団を撃破するよりはその一個師団を殲滅した方がよい」と言っている。つまり指は一本ずつ切り落とせということだ。


毛沢東によれば、紅軍は手慣れたボクサーのように振る舞うべきだという。これについては1974年の「キンシャサの奇跡」においてモハメド・アリが対戦相手で筋骨隆々のジョージ・フォアマンに初期のラウンドで打たせて疲れさせ、最後のラウンドで自分はカウンターパンチをしかけて倒した例を考えてみればよい。


一時的な戦略的後退は、モハメド・アリや毛沢東の紅軍に役立ったのだ。今日の人民解放軍にも使えないわけがない。


実践的な面からいえば、人民解放軍は米海軍を数百マイル沖合で攻撃できるような兵器を集めており、太平洋におけるトラファルガーに先駆けて疲弊させておこうというのだ。これができれば、弱者である中国は、アメリカと対等に立てることになる。


人民解放軍が持つ実に多くの対艦ミサイルは、潜水艦や警備艇、そして「クランプル・ゾーン」を動き回る戦術航空機と相まって、そこに大胆に攻撃をしかけようとしてくる米軍に対して処罰を与えようとするものだ。


もし中国の「接近阻止」防御が強力になり、米太平洋艦隊に対して許容できないコストを与えることができるようになれば、北京は海軍戦闘部隊を温存できるようになるかもしれない。港を出ずに目的を達成できるのであれば、わざわざ大事な艦隊を近海に展開させてリスクにさらす必要もなくなるのだ。


クラウゼヴィッツや毛沢東は、このような戦略に賛同するはずだ。


▼マハンと砦


中国のシーパワーの次の二つの顔は、アルフレッド・セイヤー・マハンとテオフィル・オーブである。この二人の海軍士官は、自分たちがそれぞれ生きていた時代に長射程の精密度が上がっていた時に海洋における戦術を見通していた。


マハンは日露戦争時に、ロシアの司令官たちが太平洋艦隊を旅順港の沿岸砲の射程内で守ろうとしていたことを非難している。「要塞艦隊」は、海戦においては「急激に時代遅れ」になっており、この考え方のおかげで戦艦の作戦行動範囲が限定されつつ、指揮官たちに小心さを生じさせているというのだ。


しかし、旅順港の沿岸砲の射程が伸ばされて、黄海や日本海決戦が行われた対馬海峡まで攻撃できるようになっていたとすればどうだっただろうか?おそらく東郷平八郎の連合艦隊は、ロシアの大砲のおかげで自由な行動ができなかっただろうし、そうなれば結果はわからなかったはずだ。


もし沖合へ数百マイル射程が伸びていれば、おそらく戦争の結果は違っていただろうし、「要塞艦隊」の戦略は誤りでもなかったはずだ。そしてこれは中国にとっても、明らかに取るべき選択肢となる。


▼オーブ提督と「青年学派」


オーブ提督はマハンとは正反対の人物であった。彼は大英帝国の王立海軍のような、外洋型の覇権者に対抗しようという、19世紀の海軍戦略の派閥である「青年学派」の生みの親だ。



彼らによれば、フランスのように海洋面では後塵を拝する勢力は、魚雷、機雷、潜水艦、そして水上警備艇という形の「非対称的なテクノロジー」を使うことによって、沖合の海域から王立海軍を追い払うことができるというのだ。このような艦船や兵器は、軽量で安価なのだが、沿岸近くの戦艦や巡洋艦を相殺することはできた。フランスのような大陸国家にとっては、このような兵力でも十分であった。


オーブの生きていた時代のこのアイディアは、現在の状況にはさらによく当てはまる。テクノロジーは潜水艦や水上艇をかなり強力にしたのであり、これは「青年学派」の戦略に新たな息吹を吹き込んだと言える。


この「青年学派」と「要塞艦隊」のコンセプトを合致させれば、沿岸に火砲をおいて、これに小規模かつ安価でミサイルや魚雷で武装した水上艇などと組み合わせれば、海洋面での覇権者、つまり米海軍に対して対抗できるのだ。かくして、中国は沖合の水域における防御を遂行できるようになる。


▼ルーズベルトと「身軽な」艦隊


そして中国のシーパワーの最後の「顔」は、セオドア・ルーズベルトである。海軍大学が1908年に開催した「戦艦カンファレンス」の前に、ルーズヴェルト大統領はランドパワーとシーパワーの共生について長々と演説している。


彼にとって、この二つは軍事力を互いに補いながら強化してくれる存在であった。沿岸砲の砲手と小艦艇の乗組員たちは、海からの襲撃から港を守る任務を協力して担わなければならないのであり、これを行うことを通じて戦闘艦隊を外洋での敵艦隊との戦闘に集中させることができるのだ。


つまりこのような統合的な任務の分担によって艦隊を「身軽」にすることができるのであり、「敵艦隊の捜索と破壊」に集中してもらおうというのだ。ルーズベルト大統領によれば、この敵艦隊の破壊こそが「艦隊の存在を正当化できる唯一の機能」である。


このような洞察は、それから百年後の毛沢東主義者たちを喜ばせている。セオドア・ルーズベルトと毛沢東というのは、戦略においては実に奇妙な共通項をもっているのだ。ルーズヴェルトの沿岸砲と軽量の戦艦のように、人民解放軍が太平洋西部における沖合の防御で十分に密集的な群れをつくることができれば、人民解放軍海軍の水上艦船は「身軽」になるだろう。


これこそが沖合の水域での防御における最大の目標となる。人民解放軍は主に「要塞艦隊」と「青年学派」的なプラットフォームを使って本土を守るだろうし、これによって外の水域で水上艦隊のほとんどを(常設的ではなくても)定期的なプレゼンスに回すことができるはずだ。


したがって外洋での保護は、太平洋西部での積極防衛がうまくいくかどうかに左右されることになる。もし北京が「クランプル・ゾーン」を手渡しても負けることはないと考えるようになれば、中国の海洋周辺部の外での任務のために大規模なタスクフォースを自由に派遣できる、と感じるようになるはずだ。


▼まとめ:中国の戦略に関するアイディア


一つの戦略を構成するこれらの概念について、アメリカやその同盟国、そして友好国たちは、深刻に受け取るべきだ。中国のシーパワー――これは単なる現在の人民解放軍海軍の存在だけの話ではない――は今後も存在するものだからだ。


では米海軍の指導者たちはどうすべきなのだろうか?


第一に、ここで明確にされた中国の海洋戦略を突き動かすアイディアについて、真剣に考え抜くことだ。過去の良いアイディアは、精密誘導兵器やセンサー技術の進化のおかげで、その有用性が認められつつある。


クラウゼヴィッツ、マハン、オーブ、そしてルーズヴェルトという中国のシーパワーをあらわす五人の顔は、人民解放軍の指揮官たちの戦略的企図を瞬間的に理解させてくれるものだ。


第二に、米軍は中国の「クランプル・ゾーン」を突破するための編成と対抗策を考え抜かなければならない。もちろんこういうのは単純であるが、やはりクラウゼヴィッツが指摘したしたように、人間の意志の争いにおいては単純なものこそ難しいのだ。


第三に、中国の作戦行動のパターンを研究すべきだ。もし人民解放軍海軍が地域外に一定数の水上艦隊を長期にわたって展開するようになれば、これは中国が積極防衛に自信をつけてきたことを示すことになる。


インド洋に永続的に船団を展開できるようになれば、北京が沖合の水域での防衛を十分なものだと感じている証拠となる。そしてこれは、アメリカやその同盟国、そして友好国たちにとって、克服し難い圧倒的な障害物となるだろう。


北京が南アジアの港湾へのアクセスをどれほど求めているか、その態度だけでもその兆候はつかめるはずだ。船というのは兵站面での支えがなければ本土から遠い場所で長期にわたって活動できないものだからだ。北京が基地の権利に関する交渉を増やせば増やすほど、人民解放軍海軍の海外における行動の自由は増えていくからだ。


端的にいえば、中国の船乗りと飛行機乗りたちの広い世界における行動の仕方が、共産党のリーダーたちの「クランプル・ゾーン」における信頼度の高さを物語るのだ。そしてこれによって、このゾーンの突破のための方法論や、そのために必要となるハードウェアなどが示される可能性もある。


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いかがでしょうか。

アメリカの典型的な中国脅威論を前提とした「中国のシーパワー分析」の論文でしたが、ここでの特徴は、中国の戦略をあらわすためにここ十年ほどでよく使われている「A2AD」という概念をわかりやすくするために「クランプル・ゾーン」と言い換えたことと、五人の戦略思想家のアイディアを使って、そのシーパワー論の全体像を説明したという点です。

アメリカでこのように中国の脅威を喧伝してくれるのは、日本の立場からするとやはりありがたいと思うわけですが、私がここで少し気になるのは、このホームズの分析がやはり「アメリカ人向け」のものであるという点です。

中国の歴史や文化にそれほど関心のないアメリカ人にとっては仕方のない部分はあるのですが、拙訳『真説孫子』でも指摘されたように、やはりもう少し中国の戦略思想のバックグラウンドの部分はおさえておいて欲しかった、というのが正直なところです。毛沢東だけではなんとも物足りないわけです。

ただし、五人の戦略思想家を使った分析などは意外に斬新であり、個人的に気になったのは、クラウゼヴィッツ系の人はあまり引用しない、『戦争論』の第一編第二章のいわゆる「コストインポージング」的な言葉をあえて引用してきている部分と、オーブの「青年学派」という「弱者がいかに強者に対抗するか」という基本的な戦略的アイディアを持ってきている部分でした。このようなアイディア勝負の論文は、やはりアメリカ人ならではのものかと。

これを訳したあとの私の率直な感想としては、中国はさておき、日本も中国に対しては「弱者」の側に立って「青年学派」的な装備や戦略を追求することを真剣に考える時期に来ているのではないか、というものです。

もちろんアメリカという強力な「矛」があるために、日本は「盾」だけを考えていればよかったのでしょうが、どうもその「盾」も、著者のホームズが指摘するように、近年のテクノロジーの進化(とりわけ長射程化と小型・安価・軽量化)によって、大きく状況が変わってきております。

しかしこれは自戒も込めて言うのですが、もしかしたらこのような「現実はすでに大きく変わっている」ということに気づいて、それに対処するための行動を実際にとることのほうが、国防においては最も重要だといえます。よって、この論文のような新しいアイディアについて、われわれはもっと敏感であるべきなのかもしれません。



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(ダーウィン港入り口)

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Ddogも住む今日の横浜北部も相変わらずの夏日でした。猛暑続きで読書をしていても、集中出来ない。つい軽い読み物として『奥山真司の地政学・リアリズム「アメリカ通信」』2018/07/10 で取り上げられた海軍War大学のジェームズ・ホームズ James Holmes教授の論文が奥山氏のブログに取り上げられていたので読んだ。

良い論文である。元海自三佐でライターの文谷君もこのような論文を読んでいたら、防衛費2倍なら中国に屈したほうがよいなどという自分の記事の読者層の心情を逆なでするよな記事を書かなくて済んだだろう。

日清戦争時、清国が保有する装甲戦艦 鎮遠・定遠は東洋一の大戦艦で、この二艦に匹敵する艦を帝国海軍は保有していなかった。
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また、日露戦争当時イギリスに次ぐ大海軍国の一つであったロシア海軍とと帝国海軍の戦力格差はから比べれば現在の日中の戦力格差は屁みたいなものだ。

当時の帝国海軍 軍人は文谷と違い武士(もののふ)だった。勝つことなどまったく諦めていなかった。どうすれば勝てるかを研究し鍛錬したのだ。


まあ、その成功体験から日本は真珠湾をやってしまったのだが、とりあえず真珠湾は大成功だったが、その後が拙かったた・・・

帝国海軍の血を引く海上自衛隊の元三佐が書いた中国に屈した方がいいなどという胸糞悪い記事を読んだせいで、気分が悪い。

現在の海自の実力であれば、中国海軍と隻数や総排水量では中国が勝っていても、よほど戦い方を間違えなければ、中国海軍は港に張り付いたまま外へ出られない。そのことは関係者の公然の秘密だ。


1.日本の潜水艦隊の存在

現在海自の潜水艦を中国海軍が撃沈するには核魚雷を使わない限り不可能だが、その前に海自の潜水艦を発見することができない。

自衛隊“最強”伝説 2013年02月07日 

1.海自の潜水艦隊が、チョークポイント付近の海底で待ち伏せしていた場合、その
攻撃で、中国空母機動艦隊は瞬時に海の藻屑になる。


1.掃海能力が皆無の中共海軍PLANは機雷を撒かれたら港から出られない
日本の国防を考える時、最大の脅威は中国だ。仮に共和党の大統領候補・ドナルド・トランプ氏が主張するように米国の後ろ盾がなくなったら、日本はどうすべきか。軍学者の兵頭二十八氏は、日本は「自衛」の結果、中国を簡単に滅する“奥の手”があると論じる。

 * * *
 在日米軍が2017年に急に引き上げ、日米安保が停止したとしよう。ふつうは他の集団的安全保障(たとえば核武装国である英・仏・印・イスラエルとの2国間の軍事同盟条約)を模索するだろうが、話を極度に単純化し、それもナシということにする。

 すると日本は核武装国の中共に対して単独で自衛せねばならぬ。

 体重百キロのチンピラに密室で襲撃された老人と同じく、弱者の自衛には手加減は不可能だ。日本は主権と独立を防衛するために、中共体制そのものを全力で亡ぼしてしまうしかない。じつはそれは簡単である。

 まず尖閣の領海に機雷を敷設し、それを公表する。これは主権国の権利なのだが、チンピラの中共は必ず、わけのわからないことを叫び、軍艦か公船か漁船を出してきて、触雷するだろう。そのうえもっと軍艦を送り込むので、わが国は「自衛戦争」を始められる。

 こっちは弱い老人だから体力のあるうちに早く決着をつけなくてはならぬ。すぐ、中共本土の軍港前にもわが潜水艦によって機雷を撒き、それを公表する。同時に黄海や上海沖で潜水艦によって敵軍艦も雷撃させ、わざとらしく「機雷が作動したと思われる」とアナウンスする。

 すると中共海軍の防衛ドクトリンがスタートする。彼らは外国軍の潜水艦を北京や上海に寄せつけない手段として、漁船を動員して大量の機雷を撒かせることに決めているのだ。こっちが機雷を撒くと、向こうも機雷を撒く。レバレッジ(梃子作用)が働いて、わが自衛行動が数倍の効果を生むのだ。

 連中には撒いた機雷の位置を精密に記録するという訓練も装備もありはしない。しかもシナ製機雷には時限無効化機構もついてない。

 自分たちで撒いた機雷により、シナ沿岸は半永久に誰も航行ができない海域と化す。中共に投資しようという外国投資家も半永久にいなくなる。なにしろ、商品を船で送り出せなくなるのだ。

 外国船籍の原油タンカーがシナ沿岸には近寄らなくなる(無保険海域となるのでオーナーが立ち寄りを許可しない)結果、中共沿岸部の都市では、石油在庫はたちどころに闇市場向けに隠匿されて、表の市場には出てこなくなるだろう。他の生活必需物資も同様だ。

 およそ精鋭の掃海部隊があったとしても、大量の機雷の除去には数十年を要する。中共軍にはその準備がないので、中共だけが「石油高」「電力高」「輸出ストップ」に長期的に苦しむ。闇石油を押さえた軍閥が強くなり、石油を支配していない中央政府と大都市・大工場は逼塞する。第二の袁世凱または張作霖があらわれるだろう。弱者の日本の正当防衛は成功したのである。

 機雷戦のメリットは、いったんスタートすると、核をチラつかせた脅しや、シナ人得意の政治的工作をもってしても、事態を元には戻せないことだ。そもそも敵艦がわが領海を侵犯しなければ触雷はしないのだから、平和的だ。艦艇が沈む前に敵に脱出のチャンスを与えるという点では、対人地雷よりも人道的である。

 そして、機雷戦がいったん始まれば、シナ大陸沿岸海域は長期にわたって無保険化することが確定するので、戦争の決着がどうなるかとは関係なしに、中共経済の未来は終わる。スタートした時点で、日本の勝利が決まるのである。

 このように、強者の米国がバックについていない場合、余裕を失った弱者の日本は、却って簡単に中共を亡ぼすことになるのである。

※SAPIO2016年8月号

【チャイナネット】2014-10-11 14:54:15 
機雷戦

海上自衛隊は大量の機雷を保有しており、琉球諸島を通過し太平洋に入ろうとする中国海軍の水上艦と潜水艦を脅かすことができる。巧みに設置された機雷は、列島線を通過し東の海域で活動する中国海軍の部隊の退路を断ち、燃料と弾薬を補給するため母港に帰還するのを妨害できる。防衛白書には、「機雷戦」によって対応すべき、日本の主要海峡を通過する敵国の艦艇が明記されている。これは完全に実行に移せる選択肢だ。機雷は生産が容易で、撃沈のターゲットとなる中型・大型艦よりはるかに安価だ。日本の先進的な機雷は、狭い海域を通過する軍艦と潜水艦をターゲットに設計・製造されている。海上自衛隊は、機雷を設置できるうらが型掃海母艦と潜水艦を保有している。また海上自衛隊のP-3Cや後継機のP-1などの固定翼機は、機雷投下の能力を持つ。

対潜作戦と同じく、中国海軍は機雷戦を苦手としている。日本人は掃海が非常に苦しい任務であり、先進的な設備、高い技術力、忍耐力が必要であることを心得ている。武力衝突が発生した場合に、日本の機雷の脅威を取り除くことは、中国海軍にとって極めて困難だ。中国海軍の掃海艇や護衛艦隊は、戦闘が予想される数百キロの海域と空域を通過しなければ、琉球列島に進入できない。解放軍が東中国海の制海権と制空権を支配できなければ、海軍は東中国海で機雷戦で強い圧力にさらされることになり、リスクを許容しながら作戦を展開するのは不可能だ。だが、日本の領土付近で制空権と制海権を奪取するのは、容易なことではない。

1.ASM-3 19式空対艦誘導弾の存在

中国海軍は極超音速対艦ミサイルを迎撃する能力を今のところ持っていない
の、記事で中華イージスが張り子の虎であると断言しておいたが、中国がパクッタ 原型のロシアの高性能S300/S400迎撃ミサイルが2018年4月の米軍のシリア攻撃にまったく稼働しなかった。迎撃実績ゼロです。

これは、「わざと迎撃しなかった説」と「迎撃できなかった説」が出回っておりますが、現時点では圧倒的に後者説が正しそうです。そのロシアの迎撃ミサイルを劣化コピーした中華イージスがASM-3を迎撃することは絶望的に不可能と思われます。

海自はPLANに対し慢心してはいないが、日本がいちばん警戒しなくてはならないのは、中国のサイバー攻撃だ。


現在日本のサイバー戦能力は中国に劣っている。
次の新大綱では、サイバー戦能力を高めることが、何よりも焦眉の急である。



執筆中