【毎日新聞】2020年1月1日 05時00分 

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米航空宇宙局(NASA)のブライデンスタイン長官が2019年9月の来日時、日本政府に対し、20年代後半にも日米両国の宇宙飛行士がともに月面に降り立つ計画を提案した。複数の関係者が明らかにした。実現すれば、日本にとって初の月面着陸になり、米国に続き史上2番目の月面有人到達国になる可能性がある。米側は近い将来、月が経済・安全保障上の要衝となるとみており、日本との協力を強化し宇宙で台頭する中国をけん制する狙いがあるとみられる。

 米政府は19年5月、人類の火星到達を最終目標に、その第一歩として月面に再び人を送る。

「アルテミス計画」を打ち出した米政府が日本政府に「日米の 宇宙 飛行士による月面着陸」を要請した背景には、 宇宙 への進出を加速する中国との「制宙権」を巡る争いがある。各種の人工衛星がひしめく地球周回軌道は経済・安全保障の最前線となりつつあり、軌道の端に位置する月を中国に実効支配されれば、米国の軍事力の優位がが揺らぐ。


【ZAPZAP】 2020年01月02日


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アメリカが2020年代にも実施する予定の再月面有人着陸。これはアルテミス計画などと呼ばれているのですが、一連の月探査に関してNASAの長官は昨年9月に日米の宇宙飛行士が共に月面有人着陸を実施する計画を日本側に提案していたことが明らかになりました。

 韓国メディアによると、日本の一部のメディアが報じた内容としてアメリカ航空宇宙局(NASA)のブライデンスタイン長官が2019年9月24日の来日した時に、日本政府に対して日米の宇宙飛行士が共同で月面着陸を実施する計画を提案していたと報じています。

'시진핑 우주몽' 꺼림칙한 美, 日에 "유인 달탐사하자" 제안 - 중앙일보

記事によると、この計画はアルテミスにおけるアメリカ人宇宙飛行士による月面有人着陸が実施された後になると考えられ、早くても2025年以降になるとしてます。アメリカはアポロ計画で12人の宇宙飛行士を月面に送り込んだ唯一の国となっており、仮にこの計画が推進されれば日本人宇宙飛行士が世界で2番目に月面に立つことになるとしています。

具体的には、この発言はNASA局長が日本政府の宇宙政策委員長である葛西氏とJR東海名誉会長らと非公式面談を行った時の発言だったとしており、「日米両国の宇宙飛行士が一緒に月面に立つことを念頭に(日本は)前向きな検討をしてほしい」と話したと伝えられています。

一方日本側については、2017年11月時点で『米国が2020年代後半に建設を計画している月軌道上の宇宙基地に参加し、日本人飛行士の月面探査を実現したい考えだ。宇宙政策を議論する政府の専門家会合で近く、こうした方針をまとめた報告書案を示す』としており、日本人宇宙飛行士の月面有人着陸は兼ねてより望んでいることが知られています。

その後、長官が訪日した後となる2019年10月中旬には日本の内閣府宇宙政策委員会がアメリカのアルテミス計画に正式参画することを発表しています。

今回の提案についてはアメリカ側は中国を強く意識した判断と見られており、世界初となる月の裏側に探査機を送り込むなど中国は急速に宇宙開発を拡大しており、日米共同で実施することで牽制する狙いがあるとしています。
50年前の1969年7月21日、米国のアポロ11号が人類が月に着陸した。

米国は2024年にも宇宙飛行士を月面に着陸させる「アルテミス計画」を発表。
そして、日本は日米共同で、米国に次いで、月面に立つ可能性がでてきた!


70年代に米国はアポロ計画は旧ソ連との競争の中で生まれ、月に行って帰って来ることが主なミッション。月の誕生の秘密を探る為、月の石を持って帰った。だが、科学的には、月全体ではなく、局所的にしか探査できていなかった。

 それから50年。中国が月の資源に興味を示し、2019年1月 月探査機「嫦娥(じょうが)4号」を初めて月の裏側に着陸させることに成功させた。月探査に向けた国際競争はますます激化し月面探査が再び活発化している。

米国は24年に運用が終了する国際宇宙ステーション(ISS)に続き、月を周回する月近傍有人拠点「ゲートウェー」の整備を進めている。

米国が構想する月近傍有人拠点(Gateway)について - 文部科学省
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GATEWAYは将来の火星有人探査に向けた、出発地点、もしくは中継地点と位置付けられている。

当初、NASAは2022年から月軌道上の
GATEWAYを建設を始め、2026年頃の完成を目指すとしていた。

アルテミス計画では
GATEWAYから月面に宇宙飛行士を着陸させることを想定し、GATEWAYの完成も24年より前倒しになるのではないかと見られている。

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月面着陸への中継基地となる月近傍有人拠点 

 こうした動きに対し、日本は深宇宙補給技術や有人宇宙滞在技術などの基盤技術をアピールする。政府は19年中に正式参加の可否を表明するもようだ。

JAXAは2021年度に月面の目標地点に誤差100メートル以内のピンポイント着陸を目指す月着陸実証機「SLIM(スリム)」を打ち上げる予定だ。

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JAXAとインド宇宙研究機関2023年度に水資源の可能性を探査する月探査機を打ち上げる予定。

月極域探査ミッション
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欧州宇宙機関(ESA)とカナダ宇宙庁(CSA)と共同で、
「HERACLES(ヘラクレス)」計画も計画しており、月面を移動し大量の試料を地球に持ち帰る計画が2026年度の打ち上げも計画されている。

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月への着陸を目指す超小型月探査技術実証機「OMOTENASHI(おもてなし)」と、

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東京大学とJAXAの研究グループが地球から見て月の裏側への航行を目指す超小型深宇宙探査機「エクレウス」などの計画も進む。

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これらの探査機は、NASAの新型大型ロケット「SLS」の初号機に搭載し打ち上げる計画だ。

【AFP】2019年12月10日 15:40 発信地:ワシントンD.C./米国 

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完成間近の米航空宇宙局(NASA)の大出力ロケット「スペース・ローンチ・システム(SLS)」(2019年11月6日撮影、12月9日入手)。(c) AFP PHOTO /NASA/JUDE GUIDRY/HANDOUT

【12月10日 AFP】米航空宇宙局(NASA)は9日、米宇宙飛行士を再び月へ向かわせるために開発された大出力ロケット「スペース・ローンチ・システム(SLS)」が完成したと発表した。何度も遅れが生じたものの、2024年の有人月面着陸を目指すとしている。

 ロケット史上最大のSLSは、20階建てビルに相当する高さ65メートル。速度も過去最高で、カプセル型有人宇宙船「オリオン(Orion)」と切り離される前の段階でマッハ23に達するように設計されている。一方で、SLSの開発は数々の遅れとコスト超過に悩まされてもきた。

 NASAのジム・ブライデンスタイン(Jim Bridenstine)長官は、「われわれは有人月面着陸計画『アルテミス(Artemis)3』の実現に向かって著しい進展を遂げている。2024年には月の南極にわが国で初となる女性飛行士と、次なる男性飛行士を到達させる」と述べた。

 NASAは月の南極への着陸を計画している。2009年に月の南極で発見された氷を生命維持に利用すると同時に、水素と酸素に分解してロケット燃料として活用するためだ。また月面への再着陸計画は、2030年代にNASAが目指す火星への有人飛行の試験的な位置付けとされている。

 一方で、大出力ロケットSLSと有人宇宙船オリオン、および関連する地上システム(Exploration Ground Systems)を合わせたプロジェクト費用は、今年末の時点で約340億ドル(約3兆7000億円)と膨れ上がっており、2024年には計500億ドル(約5兆4300億円)を超える見通しとなっている。(c)AFP

トヨタ自動車も月に進出する。トヨタは燃料電池車(FCV)の技術を利用したローバーをJAXAと共同開発する。こうした民間の動きは宇宙ビジネス業界を活性化し、宇宙開発全体を大きく押し上げると期待される。

トヨタとJAXAが燃料電池動力の有人月面探査車開発で3年計画に調印 
【techcrunch】2019年7月18日 by Darrell Etherington
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トヨタ自動車とJAXA (宇宙航空研究開発機構)は「有人与圧ローバ」と呼ばれる燃料電池動力の有人月面探査車の開発で正式に提携した。当面、2029年に予定されている月面探査で利用できることを目標とする。両社が月面探査車両の開発で協力することは以前から知られていたが、今回、3年間にわたって「有人与圧ローバー」のプロトタイプを共同開発することで正式に合意し、契約に調印した。
プロトタイプ開発にあたって3年間のそれぞれの年には異なる目標が設定されている。初年度は必要とされるテクノロジーや解決すべき技術的問題の洗い出しに当てられ、仕様が決定される。2年目には各パーツの開発と全体の組み立てが行われ、2021年度にはプロトタイプの全体および各パーツがローバの本格的生産に向けてテストされる。



3月に発表されたプレスリリースによれば、ローバ探査車は有人、予圧式で、燃料電池と充電可能な太陽電池を用いて1万kmを走行させることを目標としている。通常の定員は2名だが、緊急時には4名が乗車できるスペースがあるという。

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トヨタによれば、ローバは全長×全幅×全高がそれぞれ6.0×5.2×3.8mになる。これはマイクロバス2台を横に並べた程度のサイズだ。フロント部分は走行不能になることを防ぐデザインで、コミュニケーション機器はもちろん各種の機器が搭載される。

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JAXAでは2007年に打ち上げた月周回衛星「かぐや」(Selene)に引き続き月探査を進めている。「かぐや」は強力なレーダー・サウンダーを搭載し月の地下に大きな空洞を確認するなど重要な成果を挙げた。

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JAXAでは無人探査機による月面探査に加え、最終的にはローバによる有人月面探査を目指している。

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H-3ロケット

2020年度に種子島宇宙センターから試験機1号機の打ち上げを予定している次世代の大型ロケットです。日本が宇宙への輸送手段を持ち続けれるように、現在運用中のH-IIAロケットの後継機として開発されています。

H3ロケットは、2020年度以降20年間を見据え、毎年6機程度を安定して打ち上げることで産業基盤を維持するという運用の世界を目指しています。そのためには、政府の衛星だけでなく打ち上げサービス市場から民間の商業衛星の受注が不可欠です。世界中で新しいロケットが開発される中、商業衛星に利用してもらうためには、日本国内だけでなく世界中の利用者から使いやすいロケットとして注目されるような新しいロケットを作る必要があります。

使いやすいロケットを目指して

H3ロケットは2020年度以降の世界でどのようなロケットが必要になるかを調査・予測し、それに応えるロケットとして、柔軟性・高信頼性・低価格の3つの要素を実現します。

柔軟性(High flexibility)

複数の機体形態を準備し、利用用途にあった価格・能力のロケットを提供します。また、受注から打ち上げまでの期間短縮によるサービスの迅速化や、年間の打ち上げ可能機数を増やすことで、「迅速に打ち上げたい」という利用者の声に応えます。そのために、ロケット組み立て工程や、衛星のロケット搭載などの射場整備期間をH-IIAロケットから半分以下に短縮します。

高信頼性(High reliability)

H-IIAロケットの高い打ち上げ成功率とオンタイム打ち上げ率(予定した日時に打ち上げられる率)を継承し、確実に打ち上がるロケットにします。

低価格(High cost performance)

宇宙専用の部品ではなく自動車など国内の他産業の優れた民生品を活用するとともに、生産の仕方についても受注生産から一般工業製品のようなライン生産に近づけることで、打ち上げ価格を低減させます。 固体ロケットブースタを装着しない軽量形態(主に低軌道の打ち上げに用いる想定)で約50億円の打ち上げ価格を目指しています。

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国際宇宙ステーション引退後の次なる宇宙開発は月そして火星となるのですが、日本も正式に参加することになったNASAの月軌道宇宙ステーションに関して、国産ロケットを開発している三菱重工は月ミッション用の大型ロケットとなるH3の発展型『H3 ヘビー(H3 Heavy)』構想を発表しました。

 
簡単にまとめると
月軌道の輸送にはH3ロケット2基の打ち上げが必要
将来的にH3を3本束ねたH3ヘビーを開発
H3ヘビーは2030年にも準備できる

SpaceNewsによると、ワシントンで開催された第70回国際宇宙会議で三菱重工は現在開発中のH3ロケットをアップグーレドすることでNASAが進めている月ミッション『アルテミス』計画に参加することができると話したと報じています。


記事によると、H3ロケットは2020年のはじめに初打ち上げを予定してるとし、現在運用されているH-2シリーズのロケットよりも安価な機体として開発が進められているとのこと。

その上で、H3は2021年に打ち上げ予定の国際宇宙ステーション補給線であるHTVの発展型『HTV-X』を国際宇宙ステーションに向けて打ち上げる予定があると明らかにしました。そしてH3およびHTV-Xを段階的にアップグレードすることにより、国際宇宙ステーション引退後の月ミッションとなるアルティミス計画にも対応することができるとし、ゲートウェイもしくは月面に対しての輸送が可能になるとのことです。

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具体的にはHTV-Xは1基のH3ロケットにより打ち上げが実施されるものの、HTV-Xを月軌道に送り込むには一回の打ち上げでは行う事ができません。したがって、ファースステップとして国際宇宙ステーションにHTV-Xを打ち上げる要領で1基を打ち上げ、その後もう1基のH3を打ち上げることで地球軌道上でドッキングし月軌道にまでHTV-Xを輸送するという案です。

その後、セカンドステップとしてH3そのものを改造しH3の1段目を3基構成としたH3ヘビーを開発します。これにより1回の打ち上げで月軌道にまでHTV-Xを送り込む事ができます。またサードステップとしてH3ヘビーに上段を追加することで月面にローバーや居住モジュール、その他の物資を直接輸送可能なものにしていくとしています。

三菱重工によるとH3ヘビーの性能としては月軌道のゲートウェイに11,9トンの質量を送り込むことができるとしており、地球ミッションでは地球低軌道に28.3トン、静止軌道には14.8トンとしています。
H3については2030年までに開発可能と説明したとのことです。

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2019年10月18日、内閣府の宇宙政策委員会は、アメリカが行う国際宇宙探査への参画を決定したと発表。2019年9月24日には、NASAが進めている月の有人着陸プロジェクト「アルテミス」に協力するという声明をJAXAが出していましたが、国として正式にプロジェクトに加わることになりました。

「アルテミス」は、アポロ計画以来となるNASAの有人月面着陸プロジェクト。2020年7月に月の無人周回飛行を行う「アルテミス1」、2022年前後に有人で周回飛行を行う「アルテミス2」、2024年に「アルテミス3」で史上初となる女性宇宙飛行士の月面着陸を目指します。

また、小型宇宙ステーションを月の軌道周回上に建設する計画も同時に進められます。アメリカ政府は、かねてよりこの小型宇宙ステーションの建設を含む月探査の協力を日本政府に求めており、これに日本政府が応じる形になりました。

9月24日に行われたNASAとJAXAの会合では、小型宇宙ステーションに用いる生命維持装置や空調機器、バッテリーの提供を検討していると発表。また、H3ロケットを用いた宇宙ステーションへの補給計画や、新型の補給機の提案も行っていますが、建設そのものに関してはコスト面から支援を行わない可能性があるとのこと。

もともとNASAとJAXAは協力関係にありましたが、今回の決定によってより密な技術・情報共有が行われることになるでしょう。アメリカでは月面探査で得たデータを元に火星など深宇宙の探査も計画しており、そこでも引き続き日本が協力・連携できるかもしれません。また、プロジェクトに参画することで、日本人宇宙飛行士が活躍する機会が得られる可能性も考えられます。

今後はコスト面を検討しつつどこまで協力できるのかを探るとしています。どのような形であれ、日本の宇宙開発技術の進歩に大きな影響を及ぼすいい機会となるでしょう。

日米が月面に拠点を建設するとすれば、日本が発見した月の大溶岩トンネルになるだろう。


月の地下に巨大な空洞を確認 【JAXA】2017年10月18日 

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図1:月周回衛星SELENE(かぐや)による観測の様子(想像図)。「かぐや」に搭載された月レーダサウンダーによって、月の地下構造を調べることができる。
(c) JAXA/SELENE/Crescent/Akihiro Ikeshita for Kaguya image

概要

国際共同研究チームは、日本の月周回衛星「かぐや」に搭載された電波レーダ、月レーダサウンダーで取得したデータを解析し、月の火山地域の地下、数10m〜数100mの深さに、複数の空洞の存在を確認しました。確認された地下空洞の一つは、「かぐや」が発見した縦孔を東端として、西に数10km伸びた巨大なものです。地下空洞の存在を確実にした今回の成果は、科学的にも将来の月探査においても重要なものです。溶岩チューブのような地下空洞内部は、月の起源と進化の様々な課題を解決出来る場所であり、また月における基地建設として最適の場所だからです。縦孔は、こうした地下空洞への入り口の可能性がありますが、縦孔の数は非常に少なく、科学的探査や基地を作ることのできる地下空洞は希少かもしれません。

本研究成果は、アメリカの地球惑星科学専門誌Geophysical Research Lettersに掲載されます (Kaku, et al. 2017, "Detection of intact lava tubes at Marius Hills on the Moon by SELENE (Kaguya) Lunar Radar Sounder", GRL)。

本文

月には、かつて溶岩が流れた際、地下に形成される空洞(溶岩チューブ)が存在していると考えられていました。月の地下空洞は、隕石により破壊されている月面とは異なり、かつて月に磁場があった証拠や、月に取り込まれた揮発性物質(たとえば水)などが見つかる可能性があるなど、様々な科学的な課題の解決が期待できる場所として重要です。また、将来の月面基地建設地の候補としても大変重要です。地下にあることで月面の厳しい環境(微隕石の衝突や強い放射線)から機器や人を守れることや、空洞内の温度が比較的安定していることなど多くの利点があるからです。しかし、前世紀のアメリカのルナー・オービター計画やアポロ計画で観測された画像データでは地下空洞の存在を示唆するような証拠は発見されませんでした。


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(c) JAXA/SELENE

2009年、日本の月周回衛星「かぐや」に搭載されていた地形カメラの画像データによって、マリウス丘に、通常のクレータとは異なる直径深さ共に50mの直径の縦孔が発見されました(当初80~90mの深さと計測されたがその後約50mの深さと再評価)。これは、地下空洞が開いたものであろうという仮説が立てられました。(この縦孔付近の動画)さらに、米国によって2009年に打ち上げられたルナー・リコネサンス・オービターのカメラによる斜め観測によって、その縦孔の底には数10m以上の空間が広がっていることが確認され、地下空洞の存在が現実実を帯びてきました。

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月周回衛星「かぐや」には、月の地下構造を調べることができる月レーダサウンダーが搭載されていました。その観測方法は、波長60mの電波をダイポールアンテナから送信し、地下からの反射波を受信するという方法です。本研究では、その月レーダサウンダーが受信した反射波データを詳しく調べました。

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図2:一般的な反射波データ。赤い点は月面からの反射波を示す。なお、縦軸は反射波強度、横軸は反射源の深さ。

本研究で、マリウス丘で発見された縦孔付近の反射波データを調べたところ、一般的な反射波データには見られない2つの特徴が見いだされました (図3)。1つ目は、月面からの反射波ピークよりも深い領域に急激な反射波強度の減少が見られること (緑丸)。2つ目は、反射波強度が比較的大きな反射波ピークがもう1つ見られること (青色の四角印)。

1つ目の特徴は空洞の存在を、2つ目の特徴は地下空洞の床の存在を、示している可能性があります。つまり、この二つのレーダ反射波の特徴こそが、地下空洞(溶岩チューブ)の存在を示すものと考えられます。

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図3:マリウス丘の縦孔付近の反射波データ。赤い点は月面からの反射波、青い点は地下空洞の天井または床からとみられる反射波。image036

図4:マリウス丘周辺の反射波データから2つの特徴を持つ地点を抽出した結果(経度差1°あたり約34km)。地図上を蛇行しながら東西方向へ伸びている川のような模様は、溶岩の流れによって形成された溝。この溝をリルと呼ぶ。このリルに沿って、T1~T4の測点で、地下空洞の存在の特徴を示すレーダ反射特徴があることが発見された。

図4は、マリウス丘周辺の反射波データから2つの特徴を持つ地点を抽出した結果です。背景は月面画像データ、縦線はLRSの測線を示し、また、縦線上の丸印は地下からの反射波強度が特に強いデータが観測された場所を示します。丸印の色は、月面からの反射波と地下からの反射波強度差を表し、紫色に近いほど強い反射を生じる面、つまり天井あるいは床をもつ未崩壊の地下空洞が存在している可能性を示しています。T1は、縦孔の東3kmほどに近接した測点で、地下からの強い反射が見られた測点です。また、T1の西の、溶岩の流れによって形成された溝(リル)に沿って位置するT2〜T4にも、T1とほぼ同じ地下からの強い反射が見られました。つまり、縦孔を東端として、T1〜T4に沿って西に約50km延びる未崩壊の地下空洞(溶岩チューブ)が存在すると示唆されたのです。

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図5:地下空洞の存在の特徴を示すレーダ反射特徴と重力場データの比較。背景は、アメリカの探査機グレイルによる重力場データで、質量密度の分布を表す。薄い赤い領域は質量密度が低く、薄い青い領域は質量密度が高い。質量密度が低い領域にT1〜T4が見られる。つまり、縦孔を東端として、西に約50km延びる未崩壊の地下空洞(溶岩チューブ)が存在することは、重力場のデータとも一致する。

さらに、地下空洞の存在の特徴を示すレーダ反射特徴の位置は、アメリカの探査機グレイルの重力場観測によって見出された、マリウス丘の縦孔を東端として西に数10kmに及ぶ低密度地域に一致していました(図5)。つまり、この地域に、未崩壊の地下空洞(溶岩チューブ)が存在していることが確実になったといえます。縦孔は、こうした地下空洞への入り口の可能性がありますが、縦孔の数は非常に少なく、科学的探査や基地を作ることのできる地下空洞は希少かもしれません。

今回の成果により、縦孔付近に科学的にも、また将来の基地としても有用な「地下空洞(溶岩チューブ)」が存在する可能性が確実になりました。今後、レーダサウンダーによる反射波データと他の観測データの相互関係や、地下空洞の反射波パターンのシミュレーション解析から、月の地下空洞の検出をさらに進めていき、将来の地下空洞探査、月面基地建設に役立つ情報を得ていく予定です。

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(左)月の表(右)月の裏 (c) JAXA/SELENE

論文の概要
著者:郭哲也 (東海大学大学院/JAXA) 、春山純一 (JAXA) 、三宅亙 (東海大学大学院) 、熊本篤志 (東北大学大学院) 、石山謙・西堀俊幸 (JAXA) 、山本圭香 (国立天文台) 、Sara T. Crites (JAXA) 、道上達広 (近畿大学) 、横田康弘 (高知大学) 、R. Sood (アラバマ大学) 、H. J. Melosh (パデュー大学) 、L. Chappaz (アストロラボ) 、K. C. Howell (パデュー大学)
掲載雑誌:Geophysical Research Letters
DOI: 10.1002/2017GL074998