日本近海で活発な中国潜水艦、不測の事態に備えよ 
潜航する中国潜水艦と追跡する海自艦艇の平時の攻防 
【JBpress】2020.8.3(月)軍事情報戦略研究所朝鮮半島分析チーム

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海上自衛隊の対潜哨戒機「P-1」(海上自衛隊のサイトより)

 2010年4月にキロ級潜水艦2隻を含む10隻の中国軍艦艇が沖縄・宮古島間を通過し西太平洋で訓練を行った。

 中国の解放軍報はこの時、この活動により「三戦」を行うと報じた。

「三戦」とは、「世論戦」、「心理戦」および「法律戦」の3つからなり、「中国人民解放軍政治工作条例」に規定されている。

 条例には、「中国が三戦を実施し、敵軍の瓦解工作を展開する」と記述されている。

 中国があらゆる活動について「三戦」を意識して、独善的な国益獲得を目論んでいるのは周知のことだ。

 そして、昨今注目されている武力攻撃に至らない「グレーゾーン」事態は、まさにこの「三戦」が活発に行われている状況である。

 日本も積極的に「三戦」を仕かける必要があり、後れをとってはならない。

 我が国周辺海域における中国潜水艦との攻防を、「三戦」の観点から分析する。

中国潜水艦が悪意ある動き
 日本も「世論戦」に対応せよ

 6月18日、奄美大島沖の接続海域内を潜没して通過した潜水艦について、防衛大臣が「中国の潜水艦と思われる」と述べた際、記者が、「今後とも公表していくのか、中国の反応を確かめるために今回特別に公表したのか」と質問した。

 これに対し、大臣は、「様々な情勢に鑑み判断する」と回答している。

 防衛省が警戒監視活動によって探知した目標を公開することは、自らの能力を暴露するといった考えもある。

 しかしながら、「世論戦」の観点から、中国の傍若無人な活動を世論に訴える効果がある。

最近、尖閣諸島周辺のみならず、南シナ海などにおいて中国の強圧的な行動が目に余る。今回の公表は、中国政府に対し、「逃さず見ているぞ」という圧力を加える意図もあったと考える。

 中国は、自らに都合の悪い情報を隠蔽または無視する。

 今回、潜水艦が浮上していないことから、「事実無根」と切り捨てることも可能であるにもかかわらず、大臣の発言に対し否定も肯定もしていない。

 確実な証拠を握られていると中国が認識しているためであろう。今後、潜水艦の活動に慎重になる可能性があり、中国に対する圧力の観点からは効果的であったと思われる。 

 2018年1月に「商」(シャン)級原子力潜水艦が浮上し中国国旗を掲げた事件では、中国のネット上で「みっともない」、「白旗を上げて降伏したのに等しい」という言葉が氾濫した。

 精強さや高い能力といったプロパガンダばかり聞かされている中国国民にとって予想外だったのだろう。

 潜没航行中の潜水艦を探知され、攻撃を恐れ浮上し、国旗を掲げたということは、近代化の著しい中国軍が実は「張り子の虎」なのではないかという疑問を抱かせるには十分な出来事であった。

 今回、中国が報道しない理由に、このことを国民に思い出されることを嫌っている可能性もある。

潜没航行する中国潜水艦
 追尾する海自護衛艦との心理戦
 
対潜水艦作戦で注目されるのは、潜水艦の運用に関する中国軍首脳および深い海の中を航行する潜水艦乗員の心理への影響である。

 艦艇や航空機はその姿を見せるという「示威行為」により相手に心理的圧力を加える。

 米国が南シナ海で行っている「航行の自由作戦」(Freedom of Navigation Operation:FONOPS)はその典型である。

 一方、潜水艦は姿を見せずに、「いるかもしれない」という可能性で相手に圧力を加える。

 接続水域とはいえ、長時間にわたり潜没潜水艦を追尾したことは、海自の対潜能力の高さを示したものと言える。

このため、中国海軍首脳は、活動中の潜水艦すべてが海自に把握されている可能性を認識し留意しなければならない状況となった。

 このことは、潜水艦の運用に大きな心理的圧力を加えたと言える。

 次に、実際に追尾される潜水艦乗員の心理はどうなのか。

 潜没潜水艦を探知する方法は、潜水艦が発する音を探知するパッシブと、自ら音を発信し反響音を探知するアクティブの2種類がある。

 静粛化が進んだ潜水艦をパッシブで追尾するには高い技術と卓越した能力が必要である。

 アクティブは、パッシブに比較すると確実性が高いが、追跡者の位置や意図を潜没する潜水艦に暴露する。

 潜水艦にとって、アクティブソーナーの発信音は精神的に大きなプレッシャーとなる。

 今回どのような方法で追尾したのか明らかにされていないが、筆者の経験から判断すると、少なくとも接続水域航行中はアクティブであったのではないかと考える。

 2018年12月、日本海警戒監視区域内で監視中の海自「P-1」哨戒機に対し、韓国海軍駆逐艦が射撃管制用レーダーを照射した。

 射撃管制レーダーの照射は、軍艦などが遭遇した場合にやってはならないこととして国際的なコンセンサスがある。

 なぜなら、射撃管制レーダーと対艦ミサイルの発射とは連動しているからだ。

 韓国軍は照射を認めず、逆に海自哨戒機の接近飛行を批判した。

射撃管制レーダーは航空機にとって極めて脅威が高いものであり、これを他と間違える可能性はない。

 さらに、海自哨戒機の映像を見る限り、危険な飛行には見えない。韓国が照射という誤った行為を押し隠すために「逆切れ」したというのが正しい見方である。

 アクティブソーナーの発信は、射撃管制レーダーの照射と異なり、「やってはならないこと」という国際的なコンセンサスはない。

 しかしながら、アクティブソーナーで位置を確実に把握されていれば、対潜攻撃兵器によって何時でも攻撃されるという状況である。


 その観点から、潜水艦にとってアクティブソーナーの音を受けるということは、航空機が射撃管制レーダーの照射を受けたことに匹敵する。

 接続水域は、公海とはいえ領海に接する海域である、領海への侵入を警戒しなければならない海域であり、アクティブソーナーの使用は、潜水艦に対する警告となる。

 潜没航行中の潜水艦にとっても想定内であろう。とはいえ、継続的にアクティブソーナーで追尾されることは、潜水艦にとって大きなプレッシャーとなる。

 また、アクティブソーナーの探知距離は、季節や場所によって大きく異なり、夏場は一般的に探知距離が短くなる。

 このため、水上艦艇が比較的近距離を航行することとなり、これも潜水艦にプレッシャーとなる。

 潜水艦には比較的精神的に強い人間が配置されるが、長期間、近距離でアクティブソーナーの発信音を聞かされることは、乗員を精神的に追い込み、思いもかけない行動を引き起こす可能性も否定できない。

 このように、日本近海での対潜戦において、平時においても、高度で、緊迫した心理戦が行われているのが実態である。

 接続水域を潜没航行する潜水艦と対戦作戦

西村金一作成


潜水艦の侵入には法律戦で対抗せよ

 2018年1月、「商」級原子力潜水艦が尖閣諸島の大正島の接続水域を通過した。

 最近では、中国公船が領海内に侵入し、日本の漁船を追跡する事案が確認されている。

 中国軍艦艇や公船は、これらの日本が行使している尖閣諸島における施政権に対抗し、中国が施政権を行使しているという実績を作ることを意図しているものと考えられる。

 徐々に勢力範囲を広げる「サラミ戦術」は中国が得意とするところである。

 施政権行使の一環として、中国潜水艦が尖閣諸島領海内を潜没航行する事態が生起する可能性は否定できない。

 日本にとって明らかな領海侵犯であるが、中国が主権の行使と主張するのは必至である。単に抗議や再発防止の申し入れでは門前払いされるのがおちであろう。

 領海内潜没航行中の潜水艦に対しては、海上における警備行動を発令、自衛隊が主体的に対応する枠組みが構築されている。

 しかしながら、現在の法的枠組みでは絶対に領海内には入れない。

 また、侵入した場合は実力で排除するという毅然とした法体系とはなっていない。

 尖閣諸島周辺における中国の施政権行使を阻止するためには、法律戦の観点からは、実行力を伴う法の整備など、一歩進んだ検討が必要である。

グレーゾーン事態における三戦

 共産党独裁政権下の中国では情報統制が容易であり、それだけ「三戦」を優位に進めている。

 しかしながら、現在のようにソーシャルメディアが発達すると、完全な情報統制は困難であり、状況によっては逆効果になる。

 政府の説明に反する正当な証言などが出てくれば、すべての説明に対する信頼性が低下する。

 新型コロナウイルス感染拡大に関する中国政府の説明が良い例である。


 当初、感染の封じ込めに成功、この成功経験を世界に広げるという戦略をとっていたが、情報隠しや情報操作の疑いが広がり、中国政府がもくろんだ中国影響力拡大は果たせていない。

 島国である日本は、文化的に「三戦」を控えてきた。

「不言実行」では相手の「三戦」に立ち向かえない。言うべきことは言い、やるべきことはきちんとやっていかなければならない。

 その観点から、6月に潜没して接続水域を航行中であった潜水艦を探知し、これを中国潜水艦と推定されると言い切ったことは「三戦」の観点から有効であったと考えられる。

 しかしながら、日中間には信頼関係が欠如しており、戦闘を伴わない「三戦」がいつ武力衝突に結びつくか分からないということには留意が必要である。

 最近、米国研究機関であるCSBAが「Dragon against the sun」というリポートを公表した。

主として、中国の文献から中国が日本を、特に海自をどのように見ているかを分析した興味深いリポートである。

 日中海軍力の差もさることながら、中国がその差に自信を持ち、武力行使へのハードルが下がっているとの指摘に注目が必要である。

 中国が、監視活動を行っている海自艦艇、航空機の行動に苛立ち、強硬手段をとる危険性は常に存在する。

 日中防衛当局間の信頼醸成措置として、海空連絡メカニズムが合意されている。

 しかしながら、洋上での遭遇に関しては、CUES(Code for Unplanned Encounter at Sea)で規定された通信方式を使用するとされているのみである。

 潜没航行中の潜水艦を継続追尾に関し、不測の事態が生起することを防ぐためには、何らかの基準と迅速な意思交換が必要である。

 海面下では、今後、中国の潜水艦に加え、無人潜水艇などの活動が活発化すると考えられる。目に見えない水面下の敵に対する対応要領について、早急に、法的枠組みも含め考えておかなければならない。

JBpress誌の記事に触発され、少々ASWを掘り下げてみたいと思います。

ただしASW対潜水艦戦は極秘すぎて、ネットや書籍メディアからの断片的な情報情報を私なりにまとめ認識していることを記事にしますが、正しいかどうか検証することができない部分もございますので、あしからず。

海自の中露潜水艦の対応を見ていると、か中国・ロシアの潜水艦の日本近海の活動はすべて手に取るように把握しているだろうと思っている。日本は世界最高水準の対潜水艦戦能力を持っており、高性能のロシア潜水艦を相手に進化したため、最近静かになったとはいえ銅鑼を鳴らしながらやってくると言われた中国製潜水艦に対しては、もしかしたらいささかオーバースペックな対潜能力なのかもしれない。

2018年1月尖閣諸島接続水域に潜没したまま侵入した中国最新鋭の「商」(シャン)級原子力潜水艦ですらその動きを手に取るように把握し、警告のためアクティブソナーを打ちまくり浮上させた件は、自衛隊の対潜能力の高さを如実に示すものであり、PLANは海自の対戦能力に対しとてもかなわないと痛感させられた事件であったと思う。

日本は未確認の潜水艦が領海に入ったと確認すれば、魚雷攻撃を行い撃沈させても国際法上何ら問題はない。

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ASWの構築

日本は第二次世界大戦末期、連合国軍侵攻が迫り、日本の東南アジア方面との南方航路は閉鎖に追い込まれた。1945年の春頃、日本に残されたシーレーンは、大連など華北との航路と、羅津など朝鮮半島に向かう航路のほか、本土内航路のみとなった。

連合国側は、日本のシーレーンに対する通商破壊を主に潜水艦と航空機によって行ってきた。残された沿岸航路は機雷による海上封鎖作戦が立案され、B29などで航空機雷の投下され、日本は敗戦へと向かったのであった。

島国である日本は、シーレーンを破壊され、機雷を敷設された場合、資源食料を輸入できず大変脆弱であることを痛感する戦訓となった。

戦後海上自衛隊は先の大戦の反省を踏まえ、広大な海域のシーレーン防衛、対機雷戦、対潜水艦戦に特化した海軍へと発展していった。

対潜作戦は日本に限らず多くの国の海軍にとって重要な任務であり、対潜作戦の成否は海軍の作戦行動や海上交通、戦略核抑止にも影響する。さらに近年では潜水艦の技術的進化、特に通常動力潜水艦のAIP化が進み、新技術の電池やモーターの出現でその性能や潜航持続性が向上し、しかも潜水艦が搭載する魚雷や水中発射巡航ミサイルも進歩したことにより、潜水艦の脅威は強まっており、対潜作戦は重要性が高まるとともに、一層困難なものともなってきていも。

海上自衛隊では、米軍と連携し、潜水艦が基地に停泊しているか、それとも出港して基地から姿を消しているか、偵察衛星や海洋観測衛星での地道で継続的な情報収集も行われている。 

潜水艦の出港後の行動を知るには、米海軍のSOSUS(Sound Surveillance System音響捜索システム)のような海底設置型のソナーや、洋上を長期に渡って航行しながら長い曳航ソナー、たとえば米海軍のSURMSなどで潜水艦の音を探る音響測定艦などが有効となる。

沿海州のウラジオストクにはロシア海軍の基地があるが、ここに拠点を構える潜水艦が太平洋方面に出ようとすれば、宗谷海峡、間宮海峡、津軽海峡、対馬海峡、朝鮮海峡のいずれかを通航する必要がある。間宮海峡を除く宗谷海峡、津軽海峡、対馬海峡、朝鮮海峡にはSOSUSを設置し、それらのデータを分析し、潜水艦の行動を割り出して、そこから推定される潜水艦の位置や進路などを味方の対潜部隊に伝達している。

また、3.11東日本大震災の際極秘の秘密が暴露されてしまったが、2012年3月に「NHKの「サイエンスゼロ津波地震計」という番組が放映された。

そのテーマは海底津波地震ケーブルセンサーというもので何ということもない科学テーマだったのだが、海底ケーブルにはセンサーが無数に取り付けられており、番組では「太平洋東北ケーブルセンサー網」が照会され、東南海、九州沖縄、東シナ海、尖閣周辺および海峡島嶼周辺もケーブルセンサー網で覆い尽くされていた。

海底ケーブルのセンサーで津波も感知するが潜水艦も感知できるという驚くべきことが暴露されていた。

サイエンスZERO「津波の真の姿をとらえろ 世界最大!海底地震津波観測網」



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海底ケーブルには各種センサーが取り付けられており、このセンサーは微弱な地震や津波でも水流・水圧。傾斜・磁気・音響で津波や地震の振動を即時に感知できる。もちろん、潜水艦のスクリュー音もこのケーブルの上を通過すれば即座に探知できてしまう

センサーは
微弱な電流を感知する水中電場センサー、UEPと呼ばれる微弱電圧またはELFEと呼ばれる脈動の周波数成分を測定する。後者はスクリュー回転に伴う腐蝕/防食電流の電圧変動や漏電電流への交流成分影響により生じる。日本は1970年代から30年かけて網をかぶせたのである。そのほかに、旧海軍時代から使用されているガードループと呼ばれる水中電場センサーも併せて利用されていると考えられている。ソース1.ソース2

中国側の資料では海自が磁気センサーを80年代津軽海峡と対馬海峡に磁気センサーを設置したとの情報もある。静粛化が進む中国原潜は、音だけではなく、磁気や微弱電流で、日本近海ではずっと追跡されていいるかと思う。米軍も海自の能力に気づいてはいても、知らされていないという。

日本近海から太平洋まで、
日本は海においての戦闘は決して負けない形を作り上げたのだ。この中国沿岸まで延びているセンサー網をみたら誰でも戦争はあきらめるだろう。
 
潜水艦の動向を探るには衛星による偵察や継続的な監視が重要となるが、それはなにも高性能の軍用偵察衛星でしか行なえないものでもなさそうだ。近年は民間の衛星画像サービスが普及し、その進歩に伴って画像の解像度も向上し、撮影頻度も増している。そういった画像サービスはもちろんグーグルアースのように無料で利用できるものではないが、アメリカなどの民間の軍事研究団体や機関は、こういった衛星画像サービスの画像を使って、特に中国海軍の潜水艦の動向や変化基地の施設の情報を集め、独自の分析を行なうようになっているという。

その最新の技術が、熱尾流監視 技術だ。熱尾流の探知とは、これは衛星から潜水艦航跡を温度センサーで探すやり方だ。 潜水艦が通過した海面には熱の形跡が残る。原潜であれば航跡は高温となる。原子炉冷却水が海面まで到達するからだ。電池駆動の在来型潜水艦では逆に冷温となる。水中にある低水温海水がスクリューで撹拌され海面まで押し出された結果だ。 その温度変化を哨戒機等で発見する。以前は原潜の熱排水だけが探知できるとされていた。

だが最近の監視用温度センサーの分解能は0.001度まで向上した。通常潜水艦が巻き上げる冷水も発見できる可能性も生まれている。  原潜なら哨戒機または衛星、在来潜なら哨戒機で海面水温異常を発見した。それを「潜水艦らしい」と判断し確認追尾したのかもしれない。

衛星から海中の潜水艦の位置を直接突き止めようという試みは他にもあるという。2018年秋に報じられたところでは、中国はレーザーで深度500メートルまでの潜水艦を探知しうる衛星を開発しているとされる。アメリカでも1980年代頃には、海水への透過性に優れた青緑色の光線を用いるブルーグリーン・レーザーで、海中の潜水艦との通信や、浅海域での航空横からの機雷探知が研究されたことがあるが、この中国の衛星は目標からのレーザー反射光で距離を測定する、いわゆる「ライダー」方式のものとみられる。

ソース

もし、実用化されたら大々的に発表するはずなので、まだ開発には時間がかかりそうである。

しかしながら、もっとも確度が高いのは、音響測定であり、日米は高性能な音響測定艦を建造し、日夜海底の音の伝播状況を収集しつづけている。音響測定艦は、全長1・8キロに及ぶという長大な低周波曳航パッシブ・ソナー、SURTASSに加えて、近年では極めて強力な低周波アクティブ・ソナーが装備されており、静粛化する潜水艦に対して捜索側もさまざまな方法で対応しようとしている。

無人水上艇USVや無人水中艇UUV

最新のASWトレンドが、無人水上艇USVや無人水中艇UUVである。USVはすでに機雷戦用としては実用化されているが、米海軍では現在対潜作戦を目的としたUSVシー・ハンターSeaHunterのテストを進めている。


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 このシー・ハンターは、米国防総省のDARPA(国防先進研究計画局)が、ACTUV(Anti-SubmarinewarfareContinuousTrailUnmannedVessel:対潜戦継続追尾無人艇)計画に基づき開発、建造したもので、2010年に計画が開始され、2014年からは海軍研究局(ONR)との共同計画となった。シー・ハンターは2016年4月に完成し、テストに入り、2018年1月にDARPAからONRに移管され、現在は海軍によってテストが進められている。

 シー・ハンターは左右にアウトリガーを持つ一種のトリマランで、全長は40メートル、満載排水量140~145トンである。機関はディーゼルで、最大速力27ノット、航続距離10、000浬、航行持続期間は90日、145トンの最大積載状態で海況5(最大波高6.5 ft (2.0 m))、最大風速21knot (39 km/h)で運用が可能であり、海況7(最大波濤20 ft (6.1 m))にも耐えられる。。シー・ハンターはテスト用に取外し式の有人操縦室を装備している。

シー・ハンターのような対潜追尾用USVの利点の一つは経済性で、従来の駆逐艦では1日あたりの運用経費が人件費や食料なども含めて約70万ドルであるのに対し、シー・ハンターでは15000~20000ドル程度になるという。加えてUSVであれば、長期にわたる洋上での潜水艦捜索と追尾で乗員がストレスを受けることもなく、敵側の攻撃を受けても人命が失われる危険もないことになる。

 米海軍ではシー・ハンターを対潜作戦だけでなく、より広範囲な任務に対応するUSVのプロトタイプと考えているようで、対水上戦や機雷戦、あるいは揚陸作戦での兵端支援といった任務でのこの種のUSVの有効性を探ることとしており、搭載するセンサーもソナーだけでなく、電子光学センサーなども任務に応じてモジュラー式に装備され、2017年8月には機雷戦モジュールを搭載したテストが行なわれている。またそれより前の2016年10月には、USVからの低コストの空中センサー展開のためのテストとして、シー・ハンターからパラセイルを空中に浮かべて航行するというテストも実施されている。



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米海軍は大排水量無人水上艦艇Large Displacement Unmanned Surface Vessels,LDUSV最大10隻を今後五年間に約27億ドルで整備したいとする。各艦は全長300メートル、排水量2千トンで海軍が進める無人水上艦部隊整備で大きな一歩となる。海軍はこれまでLDUSVは「重武装艦」としてスタンドオフミサイルを搭載し水上艦部隊火力を増強する存在と言っていた。LDUSVでは垂直発射能力も想定している。米海軍ではシー・ハンターと同程度の大きさのUSVをさらに建造することを計画するとともに、コルベット程度の大きさでVLSに各種ミサイルを搭載する、大型の武装USVも構想している。ただしこのような大型USVが対潜作戦に対応するものかどうかは不明である。

日本も30FFM3900トン型の整備がひと段落した段階でミサイル艇の後継として大型USVの整備を検討してみてはどうかと思う。

次に大型対戦UUVだが、現在日本でもATLA・三菱重工・IHIにて開発中である。

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http://www.navaldrones.com/SHARK.html

アメリカのDARPAはすでに2013年頃から、アクティブ・ソナーを備えて潜水艦を探知、追尾するUUV、SHARKをテストし、6日間の持続航行と深度4、450メートルまでの潜航に成功している。近年ではボーイング社が超大型UUV(ⅩLUUV)エコー・ヴォイジャーEchoVoyagerが2017年にカリフォルニア近海で3カ月問にわたるテストを行なっている。このエコー・ヴォイジャーを基に、2019年7月に米海軍はボーイング社にⅩLUUVオルカOrca5隻の建造を発注している。

Boeing Autonomous Submarine drone
https://ja.topwar.ru/148173-podvodnye-ispoliny-flot-ssha-gotovitsja-k-jepohe-neobitaemyh-podvodnyh-apparatov.html

 オルカの原型となったエコー・ヴォイジャーは重量50トン、船体基本長15.5メートル、ペイロード部分を挿入すると25.9メートルとなり、幅2.6メートルで、UUVとしては極めて大型で、機関はディーゼル発電機と電池を用い、燃料モジュール1基での航続距離は6、500浬、通常航行速度は2.5~3ノット、最大8ノット、最大潜航深度は3、000メートルである。もちろん完全に自律航行し、さまぎまなセンサーの装備が可能で、外部にべイロードを搭載することもできる。慣性航法システムやGPSなどを装備、障害物回避や海底地形追随航行が可能で、着底することもできる。通信装置としては音響通信の他に衛星通信やインターネット接続を備える。

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https://svppbellum.blogspot.com/2020/02/orca-xluuuv-la-balena-della-boeing-e-un.html
 
米海軍はVLUUVオルカの用途について明らかにしていないが、外部ペイロードとして機雷を搭載し、潜航して目的地に侵入、機雷を薮設するといった用途が考えられているとも報じられている。あるいは着底して待機し、潜水艦の接近を探知すると音響信号や無線で情報を送るといった用途もありうるかもしれない。

ソース

米海軍だけでなく、中国海軍も同様の超大型UUVを開発しており、2019年10月の建国70周年軍事パレードで、HSUOOlと呼ばれるUUVを公開している。

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http://ddogs38.livedoor.blog/archives/20170636.html

HSUOOlは全長およそ7メートルで、オルカやエコー・ヴォイジャーの半分程度でしかなく、おそらく航続距離や航続期間もオルカよりは短いと思われる。このHSUOOlも用途は不明で、対潜作戦に用いられることも考えられる。

P-3C後継機としてのP-1とP-8

日米で長年使用されてきた固定翼対潜哨戒機、ロッキードP-3Cオライオンの後継対潜機として、ターボプロップ機から日米ともにターボファン機であるP-1とP-8が採用された。

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P-8A ポセイドン

同じ哨戒機でも設計や運用はだいぶ異なります。最大の相違点は磁気探知機MADの有無である。米海軍や英・豪空軍が採用したP-8Aは、潜水艦が発する磁気による磁場の乱れを探知する「MAD(磁気探知装置)」を備えていませんが、インド海軍が導入したP-8Iは、P-3C哨戒機や海上自衛隊のP-1哨戒機と同様、MADを尾部に装備しています。

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P-8 I

ボーイング担当者は、水中で潜水艦の発する音波を受信して航空機に送信する潜水艦探知装置「ソノブイ」の進化などにより、MADを装備していなくてもP-3Cと同様以上の対潜水艦作戦が遂行できると判断して、米海軍や豪海軍のP-8AにMADの装備をしませんでした。

ボーイングのP-8担当は「MADの価値は依然として低下しておらず、哨戒機を運用する海軍や空軍がどのような対潜水艦作戦を構想しているかで、MADが必要であるか否かが決まります」と述べていますが・・・どう考えても、MADを装備していないP-8Aは潜水艦の探知能力において、P-3CやP-1に比べ劣るのではないかと思います。

しかし、
ボーイングP-8Aポセイドンは、民間旅客機737-800を基本機体としており、従来のターボプロップ機ロッキードP-3Cオライオンよりも、高空を高速で飛行することができる。P-8Aは高度6000メートル以上の高空からもソノブイを正確に投下することが可能な能力を持っている。P-8は高空を常に飛行し哨戒活動を行う為MADを使用しないという運用思想だ。

高高度投下用のソノブイは公表されている情報が少なく、詳細ま不明だが、既存のソノブイの後部に折畳み式の安定板を追如し、投下後に安定板を展張して高速で落下、最終段階でパラシュートを開いて低速で着水するものと思われる。将来的にはGPS誘導装置付きのソノブイが現われることも考えられるが、運用コストが高くなるおそれがあるだろう。

P-3CやP-1は、潜水艦捜索のためにソノブイを投下する際には、ソノブイを正確なパターンで着水させるために高度を150メートル以下に下げなければならなかった。高高度からの投下では、ソノブイが着水するまでに時間が長く、その間に風などの影響を受けて所定のパターンに着水できなくなってしまう。もちろん潜水艦を攻撃する際にも、低高度から魚雷を投下する。当然MADを使用することができる。

ソノブイでの捜索と捕捉こ続いて、従来の対潜哨戒機は低空を飛行して、磁気異常探知装置MADを用いて鋼鉄製の潜水艦の存在によって引き起こされる地磁気の異常を捉えて潜水艦の位置を局限し、攻撃するのだが、高高度を飛行するP-8AはMADでの探知は不可能となる。米海軍では、P-8Aのソノブイ投下装置から発射する、使い捨て式のMAD装備無人機のMQ4-Cトライトンを運用計画している。

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もちろんこの無人機が磁気異常を探知すれば、その情報をP-8Aに送り、P-8Aは攻撃に移ることになる。

P-8Aの潜水艦に対する主な攻撃兵器はMk54魚雷だが、米海軍ではこれに折畳み式の主翼と尾翼キットを取り付け、GPS誘導装置を装備して、遠距離からの投下を可能とするHAAWC(高高度対潜戦兵器能力)を開発しており、2019年にはP-8Aとの統合を達成している。P-8Aは最大で高度9100メートルから魚雷を投下することができ、このHAAWCによりMk54魚雷は最大50浬の遠方に着水させられるようになるという。

このようにP-8Aは高高度対潜戦という画期的な能力を持つ哨戒機で、高高度を飛行することにより他の艦艇や無人機などのプラットフォームとの間での見通し線内でのデータリンクが可能となる。P-8Aは米海軍のほかオーストラリア空軍と英空軍に採用され、インド海軍は派生型のP-8Ⅰを導入しており、現在のP-3C使用国が後継機としてP-8Aを選べば、高高度対潜戦はこれからの固定翼対潜哨戒機の主流となっていくかもしれない。



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P-1

2008年から調達が始まった日本の対潜哨戒機P-1であるが、2020年度から「能力向上型」3機を調達が始まる。P-1の性能向上のためAI研究や哨戒機用新型空対艦誘導弾開発が進行中である。

2020年度予算案に3機分のP-1調達費用(637億円)が計上されている。海上自衛隊によれば2020年度発注分のP-1は潜水艦や水上艦などの探知識別や情報処理能力を引き上げた「能力向上型」になると説明しているが、具体的に何がどのように改良されるのかについては明らかにされていない。

これとは別に防衛省は洋上の警戒監視や情報収集にあたる航空機にAIを搭載するための研究を2020年度から始める予定で、AIを搭載する機種を明確にはしていないが当然、対潜哨戒任務へのAI活用が期待されているだろう。対潜哨戒任務は各種センサーを使用して収集した情報から脅威となる艦艇や潜水艦を識別する部分は人間の経験に頼っており、これをAIによって自動化することは識別能力の均一化や省力化にも繋がる。

また、P-1は陸攻化が進む・・・P-1式陸攻


また、空中防空巡洋艦化構想もある。




P-1の機首と両側面に搭載されている高性能レーダーHPS-100は、100km先の30cm海上に出した潜水艦の潜望鏡が5秒海上に出ているだけで、探知することが可能であるという。

回転翼哨戒機(能力向上型)
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SH-60K能力向上型

近年の潜水艦は、吸音材の進化や動力部の静粛化といった技術的進展により、ソーナーによる探知が困難になってきており、特に深度が浅い浅海域においては、雑音があるとともに、海底からソーナー発信音が反響することから、目標潜水艦からの音波の探知類別が一層困難となっている。

我が国周辺各国等の潜水艦の静粛化及びステルス化が進むとともに、行動海域が浅い海域へと拡大しつつある。静粛化、ステルス化した潜水艦に対する浅海域探知類別能力向上のため、音響システムにマルチスタティック処理能力を付与するとともにディッピング(吊り下げ式)ソーナーの探知類別能力を向上させることが必要である。

また、潜水艦の行動海域拡大により、我が国の南西海域をはじめとする高温環境下において、発着艦時における艦の行動の自由を確保するため、トルク余裕及び操舵余裕を増加させ飛行性能を向上させることが必要である。

 ※マルチスタティック処理能力:別々のソーナーで発信と受信を行うことで、探知類別性能を向上させる処理を行う能力は、ソーナーシステムのマルチスタティック信号処理技術、戦闘指揮システムの自律向上処理技術及び水測予察技術、データリンクによる多機能情報共有技術の各技術をくみ合わせ、総合的にマルチスタティック戦術に関する技術を確立する。

防衛力のさらなる能力発揮の基盤としての警戒監視能力の向上を図るため、複数のソーナーの同時並行的な利用により探知能力を向上させたソーナーの研究や航空機といった既存装備品の能力向上に取り組むこととしており、各国潜水艦の静粛化、ステルス化、行動海域等の傾向を考慮すれば、早期に回転翼哨戒機の能力向上を行う必要がある。

既存の装備品は、同一の器材で送受信を行うモノスタティックソーナーであり、自らの発信音のみを受信して探知類別を行うことから、捜索エリアは限定され探知類別の機会が限られる。マルチスタティック能力を付加した場合、他のソーナーの発信音も処理でき、さらには、発信と受信を別の器材で実施できることから、僚機間における干渉がないため発信周波数の広帯域化等が可能となり探知類別能力が向上し、対潜戦において優位性を確保することができる。

MH-60R(米国)、AW-101(伊、英)、NH90(仏、独、伊、蘭)は、いずれも主要探知機器がマルチスタティック探知能力を持たない。

既存装備品のSH-60Kを能力向上させることで、新規開発に比べ開発のリスクを低減すると共に機体及び搭載装備品の共通部位の設計費、製造費を削減し開発経費抑制に努めるほか、既存の整備用器材等の後方設備及び教育体制を活用可能として、ライフサイクルコストの抑制を図る計画としている。

また、平成19年度から平成23年度にかけて実施した「回転翼哨戒機対潜能力向上の研究」において得られたマルチスタティック戦術を可能とするソーナーの信号処理、水測予察(※2)、情報共有等に関する研究成果を反映させると共に、プログラム確認試験などの長期間を要する試験を試作機製造と並行して実施することで開発期間を圧縮するなど、効率的な開発を実施する予定である。
※2 水測予察:ソーナーを使用する海域の環境条件、対象とする目標の諸元に基づいて、目標の探知距離及び被探知距離を予測すること。

本事業を実施することにより、静粛化、ステルス化した潜水艦に対し、浅海域を含む海域において対潜戦の優位性を確保できる装備品を実現できる。
ソース1.ソース2.

現代ASWの新戦術 
マルチスタティック・オペレーション

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マルチスタティック・オペレーションとは、ステルス機対策用の自衛隊が開発した
MIMOレーダーと同じような考え方である。

ATLAでは将来のステルス機や弾道ミサイルなどへの対応のため、複数の空中線からの信号を合成するMIMO(Multi-Input Multui-Output)レーダ技術を適用し、比較的小型の空中線を分散配置して、個々の装置規模を抑えつつ、大開口レーダと同等以上の探知性能を実現する分散型レーダの研究をしています。

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次世代警戒レーダーMIMO

ステルス機ステルス性は、『反射波を飛んできた方向(レーダーがある場所)とは別の方向に飛ばす』という点に注目して、ステルス機があらぬ方向に飛ばしたレーダー波を、そのレーダー波を飛ばしたレーダーとは違うレーダーがキャッチするという方法です。要するには壁に当たって変な方向に跳ね返ったボールを投げた人とは別の人がキャッチするということです。ソース

レーダーを装備する一つ一つの基地・車両・早期警戒機がネットワークによって連携し、お互いが「いつ・どこで・どこに」向かってレーダー波を飛ばしているかを確認しながら索敵を行う対ステルス機対策戦術である。

対潜戦においても、アクティブソナーの発信一つと複数のパッシブソナー受信することにより、元祖水中ステルスである潜水艦の発見に応用できる考え型である。
※MIMOレーダーがASW戦述であるマルチスタックオペレーションからヒントを得たのかどちらが先なのかは不明です。

従来は、各艦のソナーによる潜水艦探知を基本とする対潜戦術を適用してきたが、マルチスタティック・オペレーションでは、探知用の音波を出すプラットフォーム(艦や航空機など)と、その音波の反射波を受けるプラットフォームが別々になる。

ということは、探知用の音波を出すプラットフォームは、ソナーを作動させて探信するとともに、「いつ、どの地点からどちらに向けて探信音を出しました」という情報を流す必要がある。反射波を受けるプラットフォームでは、その情報を受け取って、さらに自身の位置や受信した音波の入射方向の情報を加味することで、探知目標の正確な位置を割り出す。


今後は部隊内で1艦のみがソナー(ハル・ソーナーまたはVDS)を発振し、その反射音を他のすべての艦(ヘリコプターを含む)のセンサー(ソナー、TASS、ソノブイ等)が受信し、部隊として潜水艦の位置を特定する戦術、すなわち「マルチスタティック対潜戦術」が適用される。部隊内でソナー管制情報の緊密な交換が必要になり、広域展開しても情報交換可能なマルチスタティック・オペレーション用衛星通信回線を設置する必要がある。

マルチスタティック・オペレーションを効率的に行えるよう無人水上艦艇USVと、無人潜水艇UUVを整備し、広範囲で同時にマルチスタティック・オペレーションの実施能力が現代ASW戦の勝利の要である。

 

ちなみに、戦術曳航ソナーTASS可変深度ソナーVDSを装備した艦であれば単艦でも自艦のバウ・ソナーからのアクティブ探信をTASS/VDSを駆使しマルチスタック的な高度対潜水艦探知は可能である。その場合はバイスタティックオペレーションという。

海上自衛隊の“あさひ”型護衛艦2隻と30FFM3900トン型はバイスタティツク/マルチスタティック捜索に対応可能である。海上自衛隊ではさらに“あきつき”型4隻と、ヘリコプター搭載護衛艦”ひゆうが”型2隻も、これに対応するよう改修する構想を持っているという。

各国海軍では新型の可変深度ソナーVDSの装備も進んでいる。VDS自体はすでに古くから用いられているが、近年のものはより小型で操作に要する人員が少なく、曳航速度も速くなっており、海中の温度逆転層の下に潜んで、水上艦艇の船体装備のソナーでの探信から姿をくらます潜水艦の捜索と探知に効果を発揮することが期待されている。

曳航ソナーはパッシブ捜索に用いられ、従来は潜水艦の音を探知しても、その音源が左右のどちらにあるか割り出すことができなかった。しかし近年では音波受信素子が小型化されたことで、曳航ソナーのアレイの4面に受信素子を配置して、左右の識別が可能とするものも現れている。

米海軍のソナーシステムSQQ-89は早くからバイスタティック/マルチスタティック・オペレーション機能を備えている。

米国のソナーシステムSQQ-89は、スプールアンス級DDを皮切りに、OHペリー級フリゲート、タイコンディロ級巡洋艦~アーレイズバーグ級、建造が決まったFFG(X)も採用するなどと、すべての米海軍対潜システムは
SQQ-89といって過言ではない。
なおズムフォルト級のAN/SQ90やLCS(沿海域戦闘艦)の対潜ミッションモジュールも
SQQ-89の発展系である。

世界の艦船7月号現代ASW全貌 
p84-87 最先端の水上艦ソナーシステム 井上孝司氏記事より
 ●SQQ-89のシステム構成

SQQ-89の主な構成要素は、以下のとおり。これら構成要素のバージョンの相違により、SQQ-89も複数のバージョンに分かれている。

・AN/SQS-53B/C/D低周波バウ・ソナー・AN/SQR-19曳航ソナー(TACTASS:TacticalTbwedArray Sonar System)またはAN/SQR-20MFTA(Multi-FunctionTbwedArray、TB-37Uともいう) 
・音響情報処理装置
・Mkl16対潜戦指揮管制システム(ASWCS:ASW ControISystem)
・AN/SQS-25水測予察システム(SIMAS:SonarIn-SituMode Assessment System)
・AN/USQ-132意思決定支援システム(TDSS:TacticalDecisionSupportSystem、目標運動解析を受け持つ)
・AN/SRQ-4LAMPS(LightAirborneMultiPurpose System)データリンク
・AN/USQ-132戦術ディスプレイ支援システム(TDSS:Tactical Display SupportSystem)
・艦載ヘリコプター用の音響情報処理装置(SH-60Bの場合、AN/SQQ-28を使用する)

 現在の最新バージョンはSQQ-89A(Ⅴ)15である。もともと、アーレイ・バーク級駆逐艦のうちフライトⅡAへの搭載を企図して開発された製品だが、その後、同じ名称のまま改良を図るとともに、他の艦にも展開している。

 SQQ-89A(Ⅴ)15は当初、沿岸戦では出番が少ない曳航ソナー(TACTASS)を構成要素から外していたが、後日にMmが加わった。TACTASSは外洋においてパッシブ探知による早期警戒を行なうソナーだが、MFTAはそれに加えて、単艦でのバイスタティツク探知を可能としている。

これはTARS(Towed Active Receiver Subsystem)と称するもので、AN/SQS-53C/DやMH-60RのAN/AQS-22ALFS(AirborneLowFrequencySonar)吊下ソナーを探借側、MFTAを受信側とするかたちで実現している。周波数は低~中周波で、データ処理にはETC(EchoTrackerClassifier)を使用する。

また、MFTAは対魚雷自衛(MSTRAP:Multi-Sensor Torpedo Recognitionand Alertmen tProcessor)や、広帯域可変深度ソナー(BroadbandVariableDepthSonar)の機能も加えており、この辺が「多機能」と称する所以。MFTAの展開・揚収には、カナダ製のOK-410(Ⅴ)4ハンドリング/ストウエージ・グループ(H&SG)を使用する。

 MFTAにつし)てはFY2020以降、信頼性の向上と不具合への対処を図った改良型のTB-37Ⅹを導入する計画で、2019年9月に最初の量塵契約を2、466万ドルで発注した。

 ソナー・アレイと、ビーム・フォーマーやプロセッサーの間は、非同期転送モード(ATM:AsynchronousTransferMode)を用いる光ファイバー通僧でつながっており、伝送能力は19.2Mbpsとなっている。ビーム・フォーマーは、テキサス・インストルメンツ製のTMS320C40デジタル・シグナル・プロセッサー、PowerPCプロセッサー、SPARCstationハードウェア、Solarisオペレーティング・システムで構成する。

 なお、アーレイ・バーク級の一部が以前に搭載装備に加えていた機雷掃討装備・AN/WLD-1(Ⅴ)1 RMS(RemoteMinehuntingSystem)も、SQQ-89A(Ⅴ)15と組んで動作する。

 なお、ペリー級フリゲイトはAN/SQS-53ではなくAN/SQS-56中周波ハル・ソナーを装備するが、このソナーはSQQ-89の枠外で、単独で動作する。そのため、ペリー級のSQQ-89で利用できるソナーは、曳航ソナーと対潜ヘリのソノブイだけとなった。また、射撃指揮にはMkl16の代わりにWAP(WeaponAlternatesupportProcessor)を使用した。これは、コストダウンのためにシステムを簡素化したため。


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