12月25日
ATLA・防衛装備庁のHPにおいて安全保障技術研究推進制度実施中の研究課題プレス発表を行った研究成果一覧が更新されました。

XF-9エンジン後継次世代エンジン開発のキー素材の開発に成功について載っていましたのでご紹介します。

これは次期戦闘機F-3(第6世代戦闘機)以降のエンジン開発のキー素材となる。
極超音速エンジンの開発は21世紀中盤から後半にかけて戦闘機開発の雌雄を決する。
ロシアは既に第6世代戦闘機として極超音速機の開発を手掛けている。

画期的と思われていたステルス技術がほぼ賞味期限が過ぎ、ステルス技術は、ほぼ破られている。21世紀
盤から後半にかけて優越性が高い戦闘機は極超音速性能と、大気圏離脱と突入性能にらりそうだ。そのキー素材は高性能の耐熱材であると思う。

世界初!遮熱コーティング材料にナノドメインを導入し、遮熱性の大幅改善を実現!
~ 次世代航空機エンジンの燃焼効率向上に向けて大きく前進 ~
【JFCC】2019年7月1日


1.現状と課題

 航空機エンジンの燃焼効率向上(CO2排出量削減)を図るためには、タービン入口温度の高温化が有効です。しかし、タービンを構成するノズルやブレード等に使用されている耐熱合金は、その耐用温度を遙かに超える高温の燃焼ガスに曝されるため、大量の圧縮空気による冷却が不可欠となります。そのため、従来より、耐熱性に優れる部材を用いて部材冷却効率の向上と燃焼制御技術の高度化を図ることにより、エンジン燃費とNOx排出量の両方を削減する取り組みが精力的に行われてきました。その取り組みの一つに、低熱伝導性に優れる耐熱性酸化物を合金表面にコーティングし、部材内部への熱の流入を抑える方法(遮熱コーティング注1)があります。

 一般に、酸化物を低熱伝導にするためには、内部に熱伝導を担うフォノン(注2)を効果的に散乱させる箇所を導入する方法がとられます。そのため従来の遮熱コーティング候補素材の低熱伝導化については、結晶学的に隙間の多い構造を有する耐熱性酸化物を対象に原子レベルのフォノン散乱による効果が検討されてきました。しかしながら、この手法には限界があり、新しいアプローチが切望されていました。


2.研究成果

 この度、JFCCは、トーカロ株式会社と共同で、原子よりもすこし大きな「ナノレベルのフォノン散乱」の効果に着目しました。つまり、結晶学的に隙間の多い耐熱性酸化物に対して、「結晶内にナノサイズのドメイン」(注3)を自発的に形成することで、ドメイン界面におけるフォノン散乱による低熱伝導化の可能性を検討しました。

(1)まず、結晶学的に隙間の多い構造を有する耐熱性酸化物として、カチオン欠損ペロブスカイト型酸化物(注4、RTa3O9、R:希土類元素)を選択しました。Li電池分野のカチオン欠損ペロブスカイト型酸化物(AB3O9)では、結晶格子の構成要素であるBO6八面体が交互に傾斜してドメインが形成されることが知られています。ここで、BO6八面体の傾斜角が大きくなるとA-O結合距離の偏りが大となります。

(2)そこで、この関係を利用し、第一原理分子動力学計算(注7)により、RTa3O9におけるR-O結合距離分布に及ぼすR元素の影響を解析しました(図1)。その結果、Laのようにイオン半径が大きい場合はR-O結合距離分布は1本のピークでR-O結合距離偏りが小さいのに対して、YやYbのようにイオン半径が小さい場合はピークが2本に分かれてR-O結合距離の偏りが大きく、TaO6八面体の傾斜が大となることが予測されました。また、電子顕微鏡によって得られる電子回折図形(注6)を解析した結果、TaO6八面体が交互に傾斜し、かつ正方晶系であることがナノドメイン形成の支配因子であることが示唆されました。

(3)上記解析結果に基づいて、RTa3O9(R=La、Yb、Y)サンプルを作製し、熱伝導率を評価しました。その結果、ドメインが形成されていないLaTa3O9に比べて、高温で上記条件を満足、即ちナノドメインの形成が予測されるYbTa3O9およびYTa3O9の熱伝導率は極端に低く、次世代遮熱素材として検討されているGd2Zr2O7を凌駕する低熱伝導性を示すことが明らかとなりました(図2)。

(4)YbTa3O9の高分解能STEM-ABF像(図3、注5)を見ますと、数nmサイズの規則的なドメインが形成され、この界面が顕著な低熱伝導化に寄与していることを示唆しています。このような結晶内のナノドメイン形成による遮熱コーティング素材の低熱伝導化は “世界初”といえます。


3.今後の展開
 
ドメインサイズ制御によるさらなる低熱伝導化の可能性を検討するとともに、機械的特性や燃焼模擬環境下における耐久性等を評価することで、適用されている高温部材の表面温度を、現状の1200℃から1400℃レベルまで高めるべく、革新的遮熱コーティングとしての適用を目指していきたいと考えております。
 本研究は、防衛装備庁平成30年度安全保障技術研究推進制度委託事業の一環として、トーカロ株式会社と共同で実施したものです。

image065
図1 第一原理分子動力学計算(注7)によるR-O結合距離分布(RO-TaO2面間)

image067
図2 RTa3O9(R=La、Yb、Y)の熱伝導率の温度依存性

image069
図3 YbTa3O9の高分解能STEM-ABF像(注5)(<001>晶帯軸入射に近い条件)

【用語説明】
※1) 遮熱コーティング
  航空機用エンジンや火力発電プラントのガスタービン高温部材の金属基板上に施工されるコーティング層で、耐熱性の高い金属結合層と、低熱伝導性を有するセラミックストップコート層から構成される。現状では、セラミックス層としてイットリア安定化ジルコニアが採用されている。このセラミックス層をガスタービン高温部品の表面に施工して、金属基材温度を100~200℃程度低下させることにより、燃焼ガスの高温化と基材の長寿命化を可能としている。
※2) フォノン
  固体において、熱は波動性を持った格子振動が伝播することにより伝わるが、フォノンはこの格子振動を量子化した粒子、即ち熱伝導を担う基本単位といえる。このフォノンの固体中における伝播を散乱させることができる場所として、粒界や異相界面、原子空孔、置換元素等が挙げられる。
※3) ドメイン
  固体において、原子が規則正しく配列し、結晶の周期性が保たれている領域をドメイン、結晶の周期性が変化する界面をドメイン界面と呼ぶ。
※4) カチオン欠損型ペロブスカイト
  RTa3O9(R:希土類元素)で示される酸化物。BaTiO3(チタン酸バリウム)のように、ABO3 という3元系からなる遷移金属酸化物の結晶構造において、A元素の2/3が欠損した構造の酸化物である。カチオンの欠損率が極めて高く、原子レベルのフォノン散乱場所が多量に導入された遮熱素材といえる。
※5) STEM-ABF像
  Annular Bright-Field Scanning Transmission Electron Microscopyの略称で、環状検出器により透過ビームの周辺部に散乱された電子を用いて明視野STEM像を取得する手法である。高角度散乱環状暗視野(High-Angle Annular dark-field: HAADF)法に比べて、ABF法で得られる像は原子番号の違いによる強度差が小さいので、軽元素と重元素が混在する結晶の原子コラムの観察に効果的である。
※6) 電子回折図形
  透過型電子顕微鏡 (TEM)等を用いて、試料に電子を照射して干渉パターンを観察することにより物質を研究する手法であり、固体の結晶構造の解析に用いられる。
※7) 第一原理分子動力学計算
  実験的なパラメーターを用いることなく、量子力学に基づいて電子の状態を求めることで原子間相互作用(エネルギーと力)を計算し、更に、ニュートンの運動方程式に基づき、任意の温度での各原子の運動を模擬する手法である。
本研究では、超高温遮熱を可能とするセラミックスコーティング膜材料の実現を目指し、理論計算により最適化学組成と層構成に関する設計検討を行うとともに、実プロセスを通じ条件の最適化を図った研究でした。

 JAXAの航空エンジン研究 

極超音速推進技術 
Hypersonic Propulsion Technology 

極超音速旅客機に適用する極超音速予冷ターボジェットの設計、製作、実験を進めてきました。このエンジンは、極超音速飛行における
高温流入空気を冷却するために、コアエンジン上流に設置された予冷器を使用します。このエンジンは離陸からマッハ5まで連続して作動させることができます。

極超音速予冷ターボジェットの実験
Experiments of Pre-Cooled Turbojet Engine

 マッハ5における空気温度は 1300K 程度になります。この温度が極低温の液体水素を使用する予冷器によって、600K 程度まで低下します。 
 
  極超音速予冷ターボジェットエンジンはこの予冷器によって保護されています。また、予冷によって圧縮動力が低減するためエンジンの推力が向上します。極超音速予冷ターボジェットの性能は、地上静止燃焼実験と極超音速推進風洞実験によって検証されてきました。

image074
地上静止燃焼実験
Sea Level Static Firing Experiment

image076

極超音速推進風洞実験
Hypersonic Propulsion Wind Tunnel Experiment


極超音速実験機の設計解析
Design Analysis of Hypersonic Experimental Aircraft

極超音速旅客機の実現を目指して、極超音速実験機の設計解析を進めています。国産観測ロケットを用いて、極超音速実験機をマッハ5で 飛行させることを検討しています。この飛行実験で、極超音速予冷ターボジェットマッハ5推進性能を評価することを目指しています。

image081
極超音速旅客機
Hypersonic Transport Aircraft
JXSAでは極超音速予冷ターボジェットの開発が進行中でマッハ5で飛行可能なエンジンである。また、ATLAでは将来の誘導弾への適用を目指し、従来のエンジン技術では実現できなかった高高度極超音速(マッハ5以上)巡航を可能とする「スクラムジェットエンジンの研究」を実施しています。

本研究では、装備品としての実現に留意し、従来までの研究の主流であった水素燃料に比べ、機体規模の小型化、入手性・貯蔵・取扱の容易さに大幅に優れる炭化水素燃料(ジェット燃料)を採用するとともに、超音速から極超音速までの幅広い速度域での作動を実現する、ラムモードとスクラムモードの2つのモードによるデュアルモード・スクラムジェットエンジンの実現を目指しています。

image083
極超音速飛しょう体イメージ図
image085
極超音速飛しょう体の飛しょう経路(例)

炭化水素燃料を用いたスクラムジェットエンジンの成立性の検証のため、JAXAとの研究協力の下、燃焼試験を行い、ジェット燃料によるスクラム燃焼に成功するとともに、冷却系検討に資する基礎データを取得しました。
 これらの研究成果に基づき、実飛しょうを想定したスクラムジェットエンジンシステムの研究に取り組んでいます。

image087

燃焼試験の概要 試験実施場所:JAXA角田宇宙センター

注)スクラムジェット燃焼器は上図赤線部分を模擬
燃焼試験結果の例
image089
image091

この開発中の極超音速用エンジンのキーはこの超高温遮熱コーティングシステムであろう。

【WING】 2019.11.19


image015

※図1=DMSJの課題克服について(提供:防衛装備庁)

必要な推力獲得の見込み、極超音速飛翔可能に

 防衛装備庁が研究を進める「極超音速飛行を可能とするスクラムジェットエンジンの研究」は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)との研究協力によって、燃焼器コア部を試作。燃焼試験では、極超音速時と、超音速時の両モードで良好な燃焼を確認した。さらに、この燃焼試験の解析によって、目指す飛翔に必要な推力を見込めることが分かった。ゲームチェンジャーとなりうる極超音速誘導弾の研究が進んでいる。

 これは防衛装備庁が去る12・13日に行った技術シンポジウムで示した研究の成果。この誘導弾が実現すれば、マッハ5の極超音速で飛翔しながら、高度・軌道の変更して目標まで到達することになる。相手側の地対空ミサイル(SAM)からすれば、高度制限を超える非常に高い高度を高速で飛んでくる。高高度の迎撃システムでは、下限の下を飛んでくる。非常に迎撃が難しい高度を高速で飛び、かつ軌道変更ができて、動きが予測しにくいもの。

 燃焼器の燃焼試験では、燃焼器のコア部分を試作。JAXA角田宇宙センターの基礎燃焼風洞で試験を行った。ジェット燃料であるJetA-1を用いて、極超音速で巡航飛行するスクラムジェットモードと、超音速で加速するラムジェットモードで燃焼試験を実施。両モードとも安定して燃焼すること実証した。また、モード別に燃焼する部分が異なることを確認することができた。さらに、取得した燃焼器壁面静圧分布によってエンジン内部の流れの解析を行った。すると、実機相当のエンジンでは要求する飛翔に必要な推力を得る見込みとなった。

ブースターで超音速まで、弾頭が極超音速へ

 この研究の目的は、極超音速の巡航と超音速の加速を両立させる「デュアルモード・スクラムジェットエンジン(DMSJ)」を成立させること。さらには、即応性を確保するジェット燃料を採用すること。そもそもスクラムジェットエンジンは、自機が一定以上の速度をもって飛行しなければ作動できないエンジン。極超音速の気流を空気取り入れ口で圧縮。その超音速の気流に燃料を噴射して燃焼させることで推力を得る。大きな特徴は、ダクトのような構造となっていて非常にシンプルな形状であること。しかしながらマッハ5以上の飛翔が可能であって、その速度域では最も推力・燃費性能の高いエンジンとなる。世界各国で関心を示していて、研究開発が進められている。特に米国ではX-51プログラムとして先行して研究を進めているところだ。

 スクラムジェットエンジンを搭載した極超音速飛翔の仕組みは、飛翔体に加速するためのスクラムジェットエンジン部分を搭載する。これに、ある速度まで加速するためのブースターが付くことになる。打ち出した直後は、ブースターによってスクラムジェットエンジンが作動する速度まで加速する。一定の速度に達したら、ブースターを切り離し、スクラムジェットエンジンを作動させてさらに加速。極超音速で目標まで飛翔する。

 この研究は装備庁として経験が浅い。強力な研究パートナーとして、JAXAとの間で研究協力を結んでいる。JAXAが目指すのは宇宙輸送機などで、異なるアプリケーションになるが、超音速から極超音速へ加速していく技術、ジェット燃料を使用する技術は両者共通していて、研究協力が成立している。 

即応性確保のためジェット燃料採用 

今後エンジンシステムレベルで地上試験も

image017

※図2=2モードでの燃焼試験結果(提供:防衛装備庁)

image019

※図3=スクラムジェットエンジンの概略(提供:防衛装備庁)

将来このエンジンは、2050年頃に開発されるであろうF-3将来戦闘機の更に後継となる次々世代戦闘機(”仮称”F-5極超音速戦闘機)のメインエンジンとなり、変則軌道弾道弾や極超音速巡航ミサイルの迎撃任務に当たっているかもしれません。

安全保障技術研究推進制度 終了評価結果(平成30年度)より

image015
極超音速無人機 以下目標仕様
image029

image028
極超音速複合サイクルエンジン 以下目標仕様
image029

image031

image030

image032

安全保障技術研究推進制度 終了評価結果(令和2年度)
より
超高温遮熱コーティングシステムの開発