インドの感染爆発は日本にも波及するか 
「ファクターX」はインド型変異株にはきかない?  
【JBpress】2021.4.30(金)池田 信夫 
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インド・ムンバイで新型コロナのワクチン接種を待つ人々(2021年4月29日、写真:AP/アフロ)

(池田 信夫:経済学者、アゴラ研究所代表取締役所長)

 今まで新型コロナウイルスは、日本では大きな脅威ではなかった。2020年3月からの1シーズンで感染者は約47万人で、死者は約9000人。季節性インフルエンザとほとんど変わらない。日本だけではなく、昨年(2020年)までアジアのコロナ感染率はヨーロッパより2桁低かった。

 その原因はアジアに特有の「ファクターX」があるためではないかといわれてきたが、今年3月からインドで感染爆発が起こり、感染者は毎日36万人以上、死者は3000人以上になった。今まで比較的安全だと思われていたアジアで、何が起こっているのだろうか。

アジアでも感染爆発が始まった

 今年2月までインドの感染者は日本より少なかったが、図1のように3月から激増した。感染者は累計で1800万人を超えたが、集計が間に合わないので、実際には1億人を超えるともいわれる。死者は累計で約20万人だが、これも100万人を超えたといわれる。いま世界最大の感染国であるアメリカを超えることは確実だ。

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図1 アジア各国の新型コロナ感染者数(100万人当たり)


 その原因は、インドで変異した新型コロナウイルスの変異株「B.1.617」だといわれる。変異株はウイルスの「スパイク蛋白質」とよばれる部分が変異したものだが、インド型には3種類の変異がみられるという。


 ワクチンはスパイク蛋白質の作用を弱めるようにできているので、スパイクが多いとワクチンがききにくくなる。これが図2のように、インドで一般国民のワクチン接種が始まった今年3月から急速にB.1.617が増えた原因と考えられる。

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図2 インドの変異株の比率(Hindustan Times)

欧米メディアは「モディ政権がコロナに勝利したと宣言して、3月に行われたヒンドゥー教徒の祭りをマスクなしでやらせたことが感染爆発の原因だ」と批判しているが、これがインドだけの現象なら日本人にとっては心配ない。

 しかし図1のようにタイやカンボジアなど、インドと同じく3月からワクチンを接種し始めた国でも感染が増えており、モンゴル(ここには描いてない)でも3月からインド以上に感染が増えた。

 ワクチン接種を世界に先駆けて開始したイスラエルやイギリスでは、感染が劇的に縮小したが、アジアでは逆に感染が増えている。これはアジア人とヨーロッパ人の免疫機能に大きな違いがあることを示唆している。

「ファクターX」は消えたのか

変異株がワクチン接種で増えたのは、ワクチンに強い変異体が淘汰の中で生き延びるためと考えられる。これを「ワクチンが原因で感染が増えた」と解釈するのは早計だが、問題はこの新しい変異株にワクチンがきかない可能性があることだ。

 昨年初めに武漢で感染爆発が起こり、日本のダイヤモンド・プリンセス号や韓国の大邱でも起こったが、いずれも局地的なもので、インドのように大規模な感染は起こらなかった。

 その原因としてアジアに特有のファクターXがあるのではないか、というのが山中伸弥氏(京大教授)の説である。その実態は不明だが、これはマスクや手洗いなどの生活習慣ではありえない。日本よりはるかに不潔なインドで、日本より感染率が低かったからだ。

 考えられるのは免疫力の違いである。遺伝的にはヨーロッパ人とアジア人の免疫特性に大きな違いはないが、アジアでは古くから(中国由来の)コロナ型ウイルスの流行が多かったため、コロナ系ウイルスに対する「交差免疫」があるともいわれる。

 アジアにはBCG接種を義務づけている国が多く、結核菌などの呼吸器系疾患に対する「訓練免疫」があるという説もある。ワクチンのような「獲得免疫」がなくても、広い意味の自然免疫でコロナに対応できるため、感染が少ないといわれている。問題はこれから日本でインドのような感染爆発が起こるのかということだ。

日本でも感染爆発は起こるか
 
日本でもワクチン接種率の高い大阪で感染が拡大しているが、変異株の大部分はイギリス型変異株「N501Y」で、感染はそれほど深刻ではない。図1のように日本の感染率は、アジアの平均程度である。

 しかし図1に描いた国では3月ごろからワクチン接種が始まっており、それによって(バングラデシュ以外は)感染が増えている。インド国内でも、接種率の高い州ほど感染率が高いという相関は強いが、これが因果関係を意味するわけではない。

 今のところワクチン接種で感染が起こった証拠はないが、ワクチンを接種した人は免疫ができたと安心して活動するとウイルスを拡散しやすい。インドのケースは、ワクチンが決定的な解決策ではないことを示唆している。

 新型コロナウイルスは変異が速いといわれており、全世界でワクチン接種の始まった今年初めから、それに耐性をもつ変異株が増えたと思われる。今まで日本に入ってきた変異株には日本人は強かったが、これからもそうだという保証はない。

 ファクターXは、医学的メカニズムの不明な経験則にすぎない。衛生環境が悪いのにコロナ感染率が低く、ファクターXの状況証拠だったインドで感染爆発が起こったことは、今回の変異株が従来とは違う特性をもつ可能性を示している。

 自然免疫は非特異的に多くの感染症にきくが、免疫作用が弱いので、ウイルス量が多い場合には有効ではない。アジアでも武漢や大邱のようにウイルス量が多い場合には、感染爆発が起こった。まず空港や港で変異株の侵入を防ぐ水際対策が重要である。

 インド型変異株B.1.617も、日本で21例みつかっている。これはその何倍も国内に入っているということだから、これから日本でもインド型が増えるかもしれない。

 日本政府は公式にはファクターX仮説を認めていないが、暗黙のうちに日本の感染は欧米よりゆるやかだという前提で感染対策が進められてきた。しかしインド型変異株が拡大すると、今までとはまったく異なる対策が必要になるかもしれない。特に脆弱な医療体制の強化を急ぐべきだ。


GW後日本は感染爆発が起きるかもしれない。緊急事態宣言で飲食店の自粛など意味がない、高速が大渋滞するほどの人の移動があったので間違いなく感染者は増えるだろう。

だがもう自粛するべきではない、効果はなくはないだろうが、あまり効果はない、それ以上に自粛をすることによる経済的損失の方がむしろ大きいと思う。

仮に日本で感染爆発があったっとしても
甘んじて受けるべきだろう。

人類とウィルスはそうやって共存してきたのだ、中共ウィルスが蔓延したおかげで、人類をあれほど殺してきたインフルエンザは遂に昨年は日本において流行しなかった。

【日経新聞】2021年2月22日 20:12

2020年の国内の死亡数は前年より約9千人減少したことが22日分かった。死亡数は高齢化で年平均2万人程度増えており、減少は11年ぶり。新型コロナウイルス対策で他の感染症が流行せず、コロナ以外の肺炎やインフルエンザの死亡数が大きく減少したためとみられる。

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厚生労働省が22日に発表した人口動態統計(速報)によると、20年に死亡したのは138万4544人で、前年より9373人(0.7%)減った。速報に死因別のデータはない。

同省が9月分まで発表している死因別の死亡数(概数)によると、前年同期より最も減少したのは呼吸器系疾患で約1万6千人減っていた。内訳は肺炎(新型コロナなどを除く)が約1万2千人、インフルエンザが約2千人減っていた。

新型コロナの感染対策としてマスク着用や手洗い、手指消毒などが広がり、他の細菌やウイルスが流行しなかった影響とみられる。

一方、各自治体に報告された新型コロナ感染者の死亡数は1年間で約3500人。コロナ対策による死亡数の減少幅の方が大きかったことになる。

このほか心筋梗塞や脳梗塞など循環器系の疾患も約8千人減少した。救急患者のたらい回しは生じたが、救命できずに死亡数が急増する事態には陥っていなかった。

9月分までの死亡数で前年同期より最も増えていたのは老衰で、約7千人増加していた。老衰は高齢化の影響で2000年代に増加傾向が続いている。

警察庁によると、20年は自殺者が11年ぶりに増加したが、前年比で750人増だっため国内の死亡数は減少した。

9月までに新型コロナと診断された人は約1500人。同月までに自治体が発表した新型コロナの死亡数と比べ100人ほど少ない。同省は「末期がんで感染が確認されて死亡したケースは、がんが死因となる。こうしたケースが差になっている」としている。

政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会メンバーの岡部信彦・川崎市健康安全研究所長は「欧米では平年より死亡数が大きく上回る『超過死亡』が生じたが、日本は逆に抑えられた」と指摘。一方で「感染症関連の死亡が減少する厳しい感染症対策でも新型コロナの流行を止められていない」とみている。

国内ではワクチンの実際の効果はまだ分かっていない。岡部所長は「自殺者の増加など社会全体への影響も考慮しつつ、引き続き警戒していく必要がある」としている。

(社会保障エディター 前村聡)

今後火急に政府がやるとしたら、意味のない緊急時代宣言の乱発ではなく、消費税を減税し新薬の治験検査を海外でも認めるなど、緊急的規制緩和をすべきだ。

日本はワクチンを装った海外の製薬会社が作った予防新薬ではなく、既存の
イベルメクチンやアビガンで迎え撃つ態勢を整えればいいと私は思う。

イベルメクチンはコロナ治療に有効か無効か 世界的論争の決着に日本は率先して取り組め
【読売新聞】2021/04/28 10:36

POINT
■北里大学の大村智博士が発見した抗寄生虫病の特効薬イベルメクチンが、コロナウイルス感染症(COVID-19)に効果あり、との臨床試験が途上国を中心に約80件報告されている。

■米英の多くの医師も「効果あり」として予防・治療に使うよう主張しているが、製薬会社や政府当局には「臨床試験が不十分だ」として、使用を阻止する動きもある。

■治療薬開発とワクチン接種にはまだ時間がかかる。医療経済学の観点からも薬価が安く副作用がほとんどないイベルメクチンを使用するべきとの声は強く、その採否は世界的な議論になっている。

■日本は、イベルメクチンのCOVID-19治療への使用を医師・患者の合意を条件に認めているが、積極的に承認する意向は見えない。率先して薬の効果を確認する取り組みを進めるべきだ。

認定NPO法人・21世紀構想研究会理事長 科学ジャーナリスト 馬場錬成  

イベルメクチンとは何か

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イベルメクチン(メクチザン)

 イベルメクチンとは、北里大学特別栄誉教授の大村智博士が1974年、静岡県・川奈のゴルフ場近くで発見した微生物が生み出す「アベルメクチン」をもとにした化合物(誘導体)である。アメリカの製薬会社のメルク社との共同研究で、もともとは家畜やペットの寄生虫、回虫などの治療薬として1981年に開発された。家畜の寄生虫や皮膚病、イヌのフィラリア症などの特効薬となり、動物抗生物質として、20年以上にわたって売上高世界トップを維持する記録的なヒット薬剤となった。

 大型動物に効くのだから人間にも効くだろう、との予測から、イベルメクチンはアフリカ・中南米・中東などの河川流域で蔓延まんえんしていたオンコセルカ症(河川盲目症)の治療・予防に使えないか、研究開発も進んだ。

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ゴルフ場周辺の土壌を採取する大村智博士
 
河川に生息するブユ(ブヨ、ブト)がヒトを刺した際に、ミクロフィラリア(回旋糸状虫)という線虫をうつし、それが体内で繁殖して失明する人が多数出ていた。この治療に役立てようと、1975年に大村博士がメルク社のウィリアム・キャンベル博士と共同研究を進め、オンコセルカ症や脚のリンパ腺に線虫がはびこって、太いむくみが出るリンパ系フィラリア症(象皮症)の特効薬としてイベルメクチン(薬剤名はメクチザン)を開発した。

 世界保健機関(WHO)の研究者は「これまで出てきたどの熱帯病薬剤と比較しても、けた外れに優れた効果を持つ」とイベルメクチンを高く評価し、メルク社と北里大学に協力を求め、1987年から熱帯地方の住民に無償で配布することにした。何よりも年に1回、錠剤を水で飲むだけという簡単な服用法がWHOの評価を高めたポイントだった。

 この特効薬が出てきたため、盲目になる人が続出していたオンコセルカ症は急速に減少し、コロンビア、メキシコなどでは、オンコセルカ症を撲滅したと宣言している。その後、ダニによる疥癬かいせん症や糞線虫症など重篤な風土病の予防・治療薬になることもわかり、イベルメクチンは世界中に広がった。臨床現場では、副作用がほとんど報告されないことも評価を一層高めた。大村・キャンベル両博士は、この業績を評価され、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。

COVID-19の大流行で浮上したイベルメクチン

 イベルメクチンは今、新型コロナ(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)で再び世界中の注目を集めている。試験管レベルの研究で、新型コロナウイルスがヒトの細胞内で増殖する際に、ウイルスのたんぱく質の核内移行を妨害し、増殖を抑制することがわかったからだ。

 エイズウイルスやデング熱ウイルスの増殖を抑制する実験データも報告され、サルの腎臓由来のVero培養細胞に新型コロナウイルス(CoV-2)を感染させてイベルメクチンを添加したところ、ウイルスの増殖が低下したとの実験結果もある。

 WHOは2020年3月11日、COVID-19のパンデミックを宣言し、世界中に厳戒態勢を求めた。しかし、感染が拡大しても有効な治療薬がないことから、中南米・中東諸国を中心に、イベルメクチンをCOVID-19治療に投与する事例が広がった。

 最初に臨床試験の結果が発表されたのは、アメリカ・南フロリダの4病院での臨床試験だった。20年6月に発表された試験結果によると、イベルメクチン投与患者173人の死亡率は15.0%で、非投与群107例の25.2%と比べて有意(p=0.03)に優れているというものだった。この論文は査読前だったが、その後審査を受けて20年10月、権威ある学術専門誌「Chest」に掲載されている(注1)。

 20年3月、アメリカバージニア州のイースタンバージニア医科大学の呼吸器・重症患者治療主任のポール・E・マリク教授がリーダーとなって、新型コロナに関する医師連盟であるFLCCC(Front Line COVID-19 Critical Care Alliance)が設立された。FLCCCは、世界で広がっているイベルメクチンの臨床試験の報告をいち早く評価して、自分たちのプロトコルにイベルメクチンを取り入れ、他のグループの臨床試験を集約して評価をはじめた。

 その結果は20年10月31日、「イベルメクチンはCovid-19パンデミックに対する世界的な解決策となる可能性を秘めている」とのタイトルで、約30報の論文を精査した結果として世界に向けて発信された。

 その評価内容は、以下のような衝撃的なものだった。

 1、新型コロナウイルスの複製を阻害し、感染した細胞培養において48時間でほぼすべてのウイルス物質を消失させる。

 2、感染した患者の家族間のCOVID-19の感染と発症を防ぐ。

 3、軽度から中等度の疾患でも、発症後早期に治療することで回復を早め、悪化を防ぐ。

 4、入院患者の回復を早め、集中治療室(ICU)への入室や死亡を回避する。

 5、国民全体に配布・使用されている地域では、症例死亡率の顕著な低下をもたらす。

「効果あり」の臨床試験データ相次ぐ

 この発表を受けて、多くの国で臨床試験の取り組みを広げた。その後もFLCCCは、イベルメクチンの臨床試験の結果を集約して精査する活動を広げ、リアルタイムでその結果をインターネットを通じて発信している。精査の結果はどれも、イベルメクチンがCOVID-19治療と予防に効果があることを示している。

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FLCCCのコリー会長。アメリカ議会上院委員会でイベルメクチンの効果を証言した

 20年12月8日、アメリカ上院国土安全保障委員会に呼ばれたFLCCCのピエール・コリー会長(前ウィスコンシン大学医学部准教授)は、精査した臨床試験結果を根拠に、イベルメクチンはCOVID-19の初期症状から重症に移行する進行を防ぎ、重症患者の回復を助け死亡率を低下させるデータを示していると主張し、米政府に対しイベルメクチンに関する医学的証拠を迅速に検討するように求めた(注2)。

 イギリスの医学統計を専門とするコンサルタント会社に所属し、WHOのデータ解析のコンサルテーションも務めているテレサ・ローリエ博士らは、FLCCCが公開したイベルメクチンの臨床試験データのうち、分析に耐えうる15件について詳しく分析(メタ分析)した。その結果、死亡率、症状改善、症状悪化、回復に要した期間、PCR陰性化までの期間、入院期間、ICU入室または人工呼吸器装着の必要性、重篤な副作用など、解析したすべての項目で、イベルメクチン群が優れていた、と発表した。ローリエ博士らはWHOに対し、世界に向けて「イベルメクチンはCOVID-19の治療・予防に効果がある」と勧告するよう要請している。

 イベルメクチンは数百人の研究者グループが世界中で臨床試験を続けており、全世界で発表された試験データは20年11月から詳しく分析されている。4月16日現在では52件の臨床試験データが分析され、実にその98%にあたる51件がイベルメクチンを肯定的に評価できる結果だった。その内訳をみると、早期治療では81%の効果があり、予防的使用では84%が改善を示した。死亡率は早期治療では76%も低くなることが推測できたという。

 また、27件の無作為比較試験(RCT)でも、96%がイベルメクチンを肯定的に報告し、65%の症状が改善したとしている(注3)。

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テレサ・ローリエ博士らの分析結果を紹介したサイト。日本をイベルメクチンが使用できる国として紹介している

 さらにイギリスのアンドリュー・ヒル博士らは、ユニセフ(国連児童基金)の一部門であるUNITAID(ユニットエイド=国際医薬品購入ファシリティー)の「イベルメクチンプロジェクトチーム」として、独自に18件のイベルメクチンの臨床試験の分析を行い、次のように発表した。

 ウイルスの除去は投与量および投与期間に依存しており、イベルメクチンは対照群と比較して入院期間を有意に短縮した。

 中等度・重度の感染症を対象とした六つのRCTでは、イベルメクチン投与群では14人(2.1%)の死亡、対照群では57人(9.5%)の死亡が認められ、死亡率が75%減少した(p=0.0002)。また臨床的に良好な回復を示しており、入院期間も短縮された(注4)。

 これまでアメリカ、イギリス、日本の北里大学から発信・報告されたイベルメクチンに関する臨床試験分析結果はその有効性を示しており、これを信じる人々からは、SNSなどで治療や予防に使用するように呼び掛けるメッセージが出るようになってきた。

 日本のテレビ、週刊誌などのメディアでも日本発のイベルメクチンをCOVID-19治療に使うべきとの主張が目立つようになってきた。国民からも期待する声が上がり、ネット通販などでもイベルメクチンを求める動きが広がっている。

イベルメクチン否定論文の登場
 
一方で、効果がないとする試験結果も出ている。3月4日、アメリカの権威ある学術誌JAMA(The Journal of the American Medical Association)に、コロンビアの研究者による「COVID-19治療にイベルメクチンを投与しても効果はない」とする臨床試験結果が掲載された。4月5日には朝日新聞の言論サイト「論座」に「日本のイベルメクチン狂騒曲に見る危険性」という船戸真史医師の論説が掲載された。船戸氏はこのなかで「世界四大医学雑誌の一角をなす米国医学界雑誌(JAMA)にイベルメクチンの効果に対する否定的な論文も投稿され、現状は益々不確かになっている」と主張している(注5)。

 だが、この論文をアメリカの研究者らと学術的に精査した北里大学の八木澤守正客員教授は、詳細に論文を分析した結果、学術的に不完全、不十分な内容があったとする論考を発表した(注6)。

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JAMAに掲載された論文に対する公開質問状を掲載したサイト

 この問題は研究者がJAMAに抗議の手紙を送る騒ぎになっており、米国の医学会に所属する128人(4月18日現在)の医師が、連名で「米国の医師による公開書簡:JAMAイベルメクチン研究は致命的な欠陥がある」とする書簡を公開している。書簡には日々新たな署名が加わっており、「試験結果を歪曲わいきょくして結論付けた論文を掲載した」として、JAMAに対する批判も高まっている(注7)。

アメリカ当局とWHOは消極的対応
 
肯定的な臨床試験結果が次々と発表され、このまま放置してはまずいと考えたのか、アメリカの国立衛生研究所(NIH)も2021年1月になって、「抗寄生虫薬として適応されているイベルメクチンを医師の判断でCOVID-19の治療に使用できる」との方針を表明した。それまでイベルメクチンに否定的だったNIHが、肯定に一歩近づいたといえるが、NIHはCOVID-19への効果について、科学的証拠はまだ不十分としている。

 一方、WHOは3月31日に、イベルメクチンのこれまでの臨床試験結果からみた致死率や入院、体内からのウイルス除去にもたらす効果については「証拠が非常に不確実」だと指摘し、治験以外では「症状の内容や期間にかかわらず、いかなる患者にも使用すべきではない」との声明を発表した。

早くからイベルメクチンの使用を認めた日本政府

 では、日本政府はイベルメクチンのCOVID-19への効果をどう受けとめているのだろうか。

 厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部が2020年5月18日に各都道府県、保健所設置市、特別区の各衛生主管部(局)に出した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き(第2版)」のなかで、「適切な手続きを行ったうえで、イベルメクチンのCOVID-19への適応外使用を認める」旨を明記している。疥癬や糞線虫症の薬として認めていたイベルメクチンを、適応外であるCOVID-19に使ってもかまわないとする通達はすでに出ているのだ。「診療の手引き」には、「米国の観察研究において、イベルメクチン投与により死亡率が低下する可能性を示唆する結果が報告されている」という記載もある。

 医師がこれに従ってCOVID-19の治療薬としてイベルメクチンを処方するのは、国も認めた正当な医療行為だ。だが、それが前述の論文のように「狂騒曲に見る危険性」などと批判されてしまうと、医師としては使いにくくなる。効果に期待し、治療薬を待つ国民も、冷や水を浴びせられた格好になった。

国会でも首相と大臣が推進する発言

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菅首相も国会でイベルメクチンの利用推進に努力すると答弁した菅首相。後列右から2人目は田村厚生労働相(2月17日、衆院予算委)

 2021年2月17日の衆院予算委員会で、立憲民主党の中島克仁議員はイベルメクチンについて、「国として早期にCOVID-19の治療薬として承認できるように治験に最大限のバックアップをすべきだ」と提案した。これに対して田村厚生労働相は、「適応外使用では今でも使用できる。医療機関で服用して自宅待機するという使用法もある」と答弁した。菅首相も「日本にとって極めて重要な医薬品であると思っているので、最大限努力する」と、積極的に取り組むともとれる発言をした。

 厚労省は20年5月という早い時期にイベルメクチンのCOVID-19治療への適応外使用を認めており、その後も世界でイベルメクチンの効果を認める臨床試験結果が次々に出ている。北里大・八木澤客員教授の調べでは、これまで約80件の臨床試験が世界で発表されているが、そのうちイベルメクチン否定論文は2件にとどまっている。2件のうちの1件が、試験方法がでたらめだったと糾弾されているJAMA掲載の論文である。

医師主導の臨床試験の限界
 
現在、国内のイベルメクチン臨床試験は、北里大学が医師主導で取り組んでいるだけだ。その北里大の臨床試験も、資金不足と被験者の患者不足で、順調に進んでいるとはいえない。多くの資金と被験者を必要とする臨床試験を早急に行うことができるのは、巨額の開発費を投じた新薬を世に出そうとする大手製薬会社だけ、というのが現実で、北里大のように医師主導で臨床試験を行うのは「無謀」と言う製薬関係者もいる。

 イベルメクチンはとうに特許が切れ、ジェネリック薬剤がインド、中国などで大量に製造されている。最初に開発したメルク社は、イベルメクチンをCOVID-19の治療薬として適応するための臨床試験をやる気はなく、イベルメクチンとは別のCOVID-19の新薬開発に取り組んでいる。開発中の薬剤は、4月下旬には最終的な臨床試験に取り組み、9月ごろには承認申請を行う予定と報道されている。

 わざわざ新薬を開発するのは、特許権のなくなったイベルメクチンをいまさらCOVID-19の治療薬として適応を取り付けても、経済的なうまみは何もないという側面もあるのではないか。体重70キロの患者の治療に必要なイベルメクチン(日本では「ストロメクトール」)の薬価は、日本では約3500円だが、世界的な相場は数百円といわれる。メルク社にとって、イベルメクチンは、もはや利益のない薬剤なのだ。

 アメリカでメルク社が、イベルメクチンによるCOVID-19治療に否定的なのも、こうした事情と無関係ではないだろう。新たな特効薬が世に出るまで、イベルメクチンは「効果なし」であってほしいとの思惑があるのでは、と疑う声すらある。

国主導で世界に先駆けて評価を下せ

 これまで述べてきたような話は、多くの研究者や医療関係者の間で語られており、決して筆者の勘ぐりではない。人道とはかけ離れた医療算術でイベルメクチンの効果が過小評価されているとすれば、パンデミックと闘う有効な武器を不当に封じられていることになるのではないか。世界の多くの医師・研究者も同じ思いではないかと推測している。筆者はこれまで、FLCCCなどから発信されたイベルメクチンの臨床試験論文を30報以上目を通しているが、イベルメクチンがCOVID-19治療に全く効かない、ということはあり得ないと確信している。

 残る課題は、イベルメクチンをCOVID-19に適応する薬剤として、薬価を定めて公式に認めるかどうかだけだ。COVID-19の終息はいまだに見えず、日本では変異株による第4波の感染が急拡大している。こうした緊急時に大規模な臨床試験に取り組むのは、時間がかかり過ぎ、もはや現実的ではない。だが、これまで世界各国で行われている臨床試験の成績を適切に評価し、肯定的な姿勢で「特例承認」を行うという方法がある。

 イベルメクチンの効果を否定する論文が出ているわけではない。肯定する論文をなぜ「不十分だ」として否定する方向に誘導するのか。「最大限努力する」というなら、菅首相は世界に先駆けてイベルメクチンの評価を下し、この論争に決着をつける決断と実行をすべきではないか。

 いまインドで、COVID-19感染症が急増してきた。インドの中心的な医療組織であるAIIMS(All India Institute of Medical Science)は、在宅の軽症患者に対して「体重1キロ・グラムあたり1日0.2ミリ・グラムのイベルメクチンを3~5日間投与することを推奨する」との治療指針を発表した。インド政府は、まだイベルメクチンを治療薬として承認していないが、インドで最も人口が多いウッタル・プラデーシュ州(Uttar Pradesh)では、州政府の承認を得てイベルメクチンがCOVID-19の治療に使用されている。

 ワクチン接種が世界で最も遅い国のひとつとされ、流行の第4波が現実となった現状に、国民はいらだっている。イベルメクチンを適応外薬剤として早くから認め、「日本にとって極めて重要な医薬品」(菅首相)なら、その評価で世界を先導すべきだ。米英など先進国が認めるまで手をこまねき、後追いで認めるような愚策を見せてはならない。

(注1)記載論文:74-1_1-43.pdf(wdc-jp.com)
(注2)https://vimeo.com/490351508
(注3)Ivermectin is effective for COVID-19:real-time meta analysis of 51 studies (ivmmeta.com)
(注4)https://assets.researchsquare.com/files/rs-148845/v1_stamped.pdf
(注5)日本のイベルメクチン狂騒曲に見る危険性-船戸真史―論座-朝日新聞社の言論サイト(asahi.com)
(注6)「米国医学会誌に掲載されたコロンビアのCOVID-19に対するイベルメクチンの効果に関する論文に対する一考察」jama_20210408.pdf(kitasato-infection-control.info)
(注7)https://jamaletter.com

プロフィル
馬場 錬成氏( ばば・れんせい )
1940年生まれ。読売新聞社社会部、科学部、解説部を経て論説委員。退社後は東京理科大学知財専門職大学院教授、早稲田大学客員教授、文部科学省科学技術・学術政策研究所客員研究官、内閣府総合科学技術会議委員などを歴任。現在、認定NPO法人・21世紀構想研究会理事長。「大丈夫か 日本のもの作り」(プレジデント社)、「大丈夫か 日本の特許戦略」(同)、「ノーベル賞の100年」(中公新書)、「大村智 2億人を病魔から守った化学者」(中央公論新社)、「知財立国が危ない」(共著:日本経済新聞出版社)ほか著書多数。