独墜落機の副操縦士は故意に降下か、過去に「うつ病」の報道も
【ロイター】2015年 03月 27日 18:12 JST
[ベルリン/パリ/セーヌレザルプ 27日 ロイター] - 乗客乗員150人全員が犠牲となった格安航空会社ジャーマンウィングスの旅客機事故で、故意に機体を墜落させたとみられている副操縦士が、6年前に「深刻なうつ病」を患い、精神療法を受けていたと独ビルト紙が27日報じた。
フランスの検察当局は、墜落機から回収されたボイスレコーダーを解析した結果、アンドレアス・ルビッツ副操縦士(27)が機長をコックピットから閉め出し、同機を故意に降下させ墜落させた可能性があると26日発表したが、その動機は明らかにされていない。ドイツの捜査当局は同日、モンタバウアにある副操縦士の実家を家宅捜索。証拠として、コンピューターなどを押収し、動機の解明に向けた捜査を開始した。
ビルト紙は内部資料やジャーマンウィングスの親会社であるルフトハンザ(LHAG.DE)の関係筋から、副操縦士が計1年半、精神療法を受けた経験があると報道。これら関係資料は、ドイツ当局が調べた後でフランスの捜査当局に渡されるという。
仏マルセイユ検察当局者は会見で、副操縦士の行動の動機を推測することはできないとした上で、「故意に航空機を破壊しようとしたようだ」と語った。また、「機長がコックピットのドアを壊そうとした音が聞こえる」とし、機長は恐らくトイレに行くためにコックピットを離れたとの見方を示した。
この会見に先立ち、ドイツの州検察当局は、墜落時にコックピットにいたのは操縦士1人だけだったと発表。独仏の検察当局は、副操縦士はテロリストのリストには載っておらず、「テロ行為」だったと考える根拠はないとしている。
<副操縦士の地元に衝撃>
ルビッツ副操縦士の地元モンタバウアには、今回知らせを受けて衝撃が走った。副操縦士が免許を取得した飛行クラブのメンバーは「言葉が出ない。彼を知っているだけに想像すらできない」と動揺を隠せない様子だった。
副操縦士の性格についてこの知人は、「楽しい男だった。時に物静かな一面を見せていたかもしれないが、他の青年と変わらなかった」と話した。親しみやすく、悪意を持っていたようには見受けられなかったとの声も聞かれた。
副操縦士のフェイスブックのページからは、ハーフマラソンに参加したり、ポップ音楽やクラブに興味があったり、米サンフランシスコのゴールデンゲート・ブリッジを訪れたりと、活動的なライフスタイルを送っていたことが伺える。
ルフトハンザによると副操縦士は2013年9月、ジャーマンウィングスに入社、操縦時間は630時間だった。一方、機長の操縦時間は6000時間超で、親会社のルフトハンザに10年間勤務していた。
また、副操縦士は6年前、数カ月間訓練を休んだが、飛行に必要なすべての検査に合格したと明らかにした。
カールステン・シュポア最高経営責任者(CEO)は、訓練を休むことは特異でないと説明し、乗員の採用は非常に慎重に進めており、心理面の審査を受けさせていると強調。「どのような安全規制であれ、条件をいくら高く設定しても、実際にわれわれの基準は信じられないほど高水準だが、こうした事故が発生する可能性を排除する方法はない」と語った。
ルフトハンザなどによると、コックピットのドアは暗証コードを使って開けることができるが、コックピット内からブロックすることも可能という。
同検察当局は音声記録では「最後の瞬間になって叫び声が聞こえた」と説明し、乗客の大半は機体が地面に衝突する直前まで墜落の危険性に気付かなかった可能性も指摘した。
飛行経路を捕捉するウェブサービス「フライトレーダー24」は、墜落機の自動操縦装置を、設定可能な最低高度である100フィートに何者かが突然変更したことを明らかにした。衛星データの解析によると、高度が設定された9秒後、機体の降下が始まったという。同機は約6000フィートの高度で墜落している。
<対応急ぐ航空各社>
今回機長がコックピットを離れた際に事故が起きた可能性が強まっていることを受け、航空各社では、乗員2人が常に操縦室内にいることを義務付ける動きが相次いでいる。米国以外の多くの国では、トイレに行く際など片方の離席は認められているのが現状だ。
エア・カナダ(AC.TO)、格安航空会社(LCC)のノルウェー・エアシャトル(NWC.OL)、英イージージェット(EZJ.L)、独エア・ベルリン(AB1.DE)は直ちに、2人の操縦士が常にコックピット内にいるよう定めたと明らかにした。エア・ベルリンによると「顧客から懸念の声が多く寄せられた」という。アイルランドのLCC、ライアンエア(RYA.I)は既に義務化していた。
一方、ルフトハンザは義務付けの必要はないと表明。カールステン・シュポア最高経営責任者(CEO)は記者らに対し「今回は特殊な事例であり、規定変更の必要があるとは考えていない。ただ、専門家らと検討はする」と述べた。ツイッターではこれを批判し、義務化を求める意見が挙がっている。
衝撃的なニュースだ。実はちょうど墜落した日、我が家では娘と義母そして妻がフランスに向かって飛行している最中でした。彼女たちの旅行にあまり興味もなかった私は「留守宅控」すら読んでなく、第一報「ドイツ機がアルプス山麓に墜落」に一瞬ひょっとして?と・・・思ってしまった。
故意に墜落させたとの報道で、真っ先に思いだしたのが、「機長やめてください!」
「逆噴射」が流行語となった1982年に起きた日航羽田沖墜落事故である。
旅客機の操縦士の異常な行動が引き起こしたとみられる墜落は、過去にも国内外で発生している。
1982年2月、日本航空の福岡発羽田行きDC8が着陸寸前、滑走路手前の東京湾に墜落、乗客乗員174人のうち24人が死亡した。機長のエンジン逆噴射、異常な機首下げが原因で、不安定な精神状態を放置した会社側の対応が問題になった。
94年8月にモロッコで44人が死亡したモロッコ航空機墜落では、機長が自殺のため故意に墜落させたと同国運輸当局が結論づけた。離陸約10分後の墜落だった。
97年12月にシンガポール・シルクエア航空機がスマトラ島で墜落、104人が死亡したケースについても、操縦士の「自殺説」が指摘された。
99年11月、米東部海岸沖に墜落し、乗客乗員217人が死亡したエジプト航空機墜落で米運輸安全委員会は、副操縦士が故意に墜落させたと結論付けた最終報告書を公表した。ボイスレコーダーに「何をしたんだ。エンジンを止めたのか」と大声で尋ねる機長の声が記録されていた。
[ 2015年3月27日 00:40 ]
ちょうど1年前2014年3月8日にタイランド湾上空で消息を絶ったマレーシア航空機行方不明事件も機長の自殺説が濃厚だとされている。
確かに操縦士による乗客を道連れにした自殺が過去多数発生した。だが、墜落二日目で「副操縦士による故意の墜落」とほぼ断定した発表があった。ろくに調べずあまりにも早すぎる事故原因の発表に違和感を感じたのは私だけではないようだ。
ドイツ機墜落事故は「意図的な行為」なのか
【WIRED】2015.3.27 FRI
ドイツ航空機がアルプス山中に墜落した事故。フランス捜査当局が事故の2日後に副操縦士の意図的な行為だとの見解を発表したことについては疑問も提示されている。
TEXT BY CHRISTINE NEGRON
TRANSLATION BY TAKU SATO, HIROKO GOHARA/GALILEO
WIRED NEWS(US)
2014年に撮影された事故機。画像はWikipediaより
ドイツの格安航空会社ジャーマンウイングス9525便がフランスのアルプス山中に墜落した3月24日(現地時間)の事故に関して、フランスのブライス・ロビン検察官が26日に発表した内容は衝撃的なものだった。[訳註:『ニューヨーク・タイムズ』誌が明らかにしたもので、離陸後、パイロットのひとりがコクピットから出たきり閉めだされ、中に戻れなくなっていた。]
だが、これは何を根拠にした話なのだろうか。もちろん、ロビン検察官はわれわれに明かしていない情報をもっているのだろうが、彼はどうやって「副操縦士が意図的に飛行機を墜落させようとした」という結論に辿り着けたのだろうか。
まず、われわれにわかっているのは、機長(ネット上の各種報道によれば、名前はパトリック・ソンダーハイマー)がコクピットを出た後、再び入ることができなかったということだ。
副操縦士のアンドレアス・ルビッツは、ドアがノックされていることに気付かなかったという。これが意図的なのかどうかは、われわれにはわからない。わかっているのは、ルビッツ副操縦士が正常な呼吸をしていたということだ。彼が呼吸をしていたのに、ドアがノックされているのを無視するという不適切な行動を取ったのは、意図的なのかもしれないし、適切な行動が取れない状態にあったのかもれない。
飛行機が降下したことはわかっている。だが、その降下が飛行機のプログラミングによって行われたのか、副操縦士の手動操作によって行われたのかはわからない。パイロットが混乱状態になったり意識を失ったりすると、山が近づいているという危険な状況を確認、認識し、行動を取ることはできない。どちらの可能性もあるが、現時点で示されてる証拠だけでは結論は出せない。
米国などほかの国とは異なり、フランスでは、司法当局がコクピットのヴォイスレコーダーとフライトレコーダーを管理してから、フランス航空事故調査局(BEA)に提供する。
ほかの国では、航空機の安全に関するベテランの調査官らが、事故につながる複数の要因を把握し、すべての証拠が整ってから結論を導き出すのが普通だ。
結果としてフランスでは、飛行機事故が犯罪という観点で捉えられやすい。1988年に起こったエールフランス296便事故では、フライトレコーダーのデータに関するBEAの調査結果が疑われた(リンク先によると、イギリスの主席事故調査官が、フランス当局の事故調査結論には矛盾があるとして異を唱えた。事故原因はパイロットエラーとされたが、事故機の機長はのちに、エアバス機の欠陥、つまり、フライトコントロールシステムがパイロットよりもコンピューター優先であるために起こったと主張。同種の事故はその後も起こっている)。
マルセイユのフランス捜査当局が、論理を大きく飛躍させ、副操縦士が「意図的に」飛行機を墜落させて150人の搭乗者全員の命を奪ったと結論付ける理由は、筆者にはこれしか見当たらない。
筆者が見たり聞いたりした範囲では、副操縦士が故意に事故を引き起こしたのかどうかについての答えは得られていない。ジャーマンウイングス9295便で実際に何が起こったのかを知る上で、このことは実に大きな違いを生む。
※2014年4月には、セキュリティ企業IOActive社が、衛星端末に関して、ハッカーがリモートアクセスに悪用できる脆弱性があると発表。船舶や航空機、地上部隊の間違った位置への誘導等が可能だという警告を行っている(日本語版記事)。2013年10月には、GPSネットワークシステムに侵入することで、何千kmも離れたコンピューターから、貨物船の航路を自由に操作できることが実証されている。また、2014年3月のマレーシア航空370便の事故に関しては、悪意ある乗客がスマートフォンを利用して、飛行管理システムに虚偽データを送り込むことができるという「スマホでハイジャック」説も浮上した。
一方、1997年のシルクエアー事故や1999年のエジプト航空事故など、パイロットが故意に墜落させたとされる航空事故は、これまでに5件は起こっている。
確かに、パイロットによる道連れ心中行為は過去5~6件発生した。
だからといって、事故発生二日目に軽々しく「鬱病による故意の墜落」と発表されたのはいくらなんでも早すぎる。
エアバスの自動操縦システムは果たして万全なのであろうか?開発時にバグが生まれることや、それによって予期せぬ動作が事故につながることもありうる。エアバスA320機は事故を起こしにくい機体だとのことだが、副操縦士が何らかの理由で失神し、偶然機長がコックピットに戻れなかった可能性もゼロではないだろう。
>フランスでは、司法当局がコクピットのヴォイスレコーダーとフライトレコーダーを管理してから、フランス航空事故調査局(BEA)に提供する。ほかの国では、航空機の安全に関するベテランの調査官らが、事故につながる複数の要因を把握し、すべての証拠が整ってから結論を導き出すのが普通だ。結果としてフランスでは、飛行機事故が犯罪という観点で捉えられやすい。
なるほど、フランスでは証拠がそろう前に結論が出やすい土壌があるようだ。
副操縦士が意図的に起こしたと結論づけるのはやはり早すぎる。エアバス機に何か重大な欠陥があることを、フランス航空事故調査局は事前に気がついており、エアバス機が飛行停止措置となった場合の影響が大きすぎる為、副操縦士犯罪説を流布することでエアバス機の重大な欠陥を隠蔽した可能性もあるのではないか?
そもそも、コックピットが二人体制で、外からは絶対開けられない設計が構造的な欠陥ではないだろうか?今回のような一人のパイロットによる自殺行為を防ぐ為、暗証番号で開けられるようにすればよかったのではないだろうか?
50年代には機長と副操縦士以外に、航空機関士、航空士がいて、操縦室は4人体制で運航がなされていた。それが70年代、パイロット二人に航空機関士の3名になった。自動操縦システムなどの技術が発達するにつれて、操縦室には2人しかいないのが通常となった。今後、さらに自動化が進めば、将来パイロットが1人になる見通しだ。その1人のパイロットが心臓発作で倒れたり、自殺願望があったら今回のような事故は再び起きてしまうのではないだろうか?
格安航空LCCは機材や人材に余裕を持たず、そのぶん低価格運賃を提供するビジネスモデルだ。余剰人材を抱えれば、コストは跳ね上がる。機材を統一し、整備士による点検・整備をする時間も短縮しコストカットしている。LCCのビジネスモデル自体が今回の事故(事件)の一因ではないか?パイロットの質が落ちたことや、過酷な労働環境が判断能力が落ちて緊急時に対応できない可能性がある。
格安航空LCCによる経済的な効果を否定するつもりはないが、自殺願望を持つパイロットであったとしても、近年LCCはパイロット不足でピーチ航空のように運航停止になってしまうケースもあり、簡単にシフトを外すことができなかったのではないだろうか?LCCビジネスモデルの構造的欠陥、自動操縦システムや航空機のセキュリティについてこのままでいいのか疑問に思うことが多い事故(事件)である。
ニューズウィーク2015.3.17号に欧州では男性の自殺が増えているという記事がちょうど書かれていた。
WHY MEN ARE KILLING THEMSELVES
男たちはなぜ自ら死を選ぶのか
欧州では男性の自殺は女性の約4倍
遺伝子のせいか新時代の男らしさの概念に縛られるからか
フインリー・ヤング(ジャーナリスト)
今日は僕が自殺する日――デービッドーダーストンは言う。穏やかな語り口の55歳の彼はこう続ける。
「朝起きて、思うんだ。そうだ、今日自殺しよう。今日にしよう」 明るい原色の壁の前に座り、彼はこれまでに経験した数々の「最悪の朝」について語った。ここロンドン西部のイーリングにある、精神疾患を抱えた大人のための公共施設サレースーセンターは、心を悩ませ、自殺すら考える人たちにとっての聖域だ。
ダーストン同様にもがき苦しむ男たちは多い。ヨーロッパ全体で見れば、男性の自殺は女性のおよそ4倍に上る。昨年イギリスで自殺した男性の数は、1945年以降に戦死したイギリス人兵士の数を超えた。
英国家統計局の最新データによれば、彼らが婉曲的に言うところの「故意の自傷行為または意図不明の行動による」死は全死因の1%以上を占める。
交通事故による死者の3倍以上で、感染症による死者の合計をも上回る。イギリスで13年に自殺した人のうち、78%が男性だった。
(略)
SKA2が自殺の男女差を解明できるかどうかはまだ明らかでない。それでも「この遺伝子は(ストレスに敏感に反応するホルモン)コルチゾールの働きと関わりがあり、さらにコルチソールはエストロゲン(女性ホルモン)と関係しているから、SKA2が手掛かりになる可能性はあると思う」と、カミンスキーは言う。
複雑に絡み合ったリスク要因
だが、英グラスゴー大学のローリー・オコナー教授(心理学)らは否定的だ。最近、国際自殺研究学会の会長にも選出されたオコナーは、魔法のような「自殺遺伝子」で兆候を見つけられる、との考え方には慎重な姿勢を崩さない。「遺伝子は1つの要因にすぎない」と彼は言う。「社会的、環境的要因を特定するほうが重要だ」
大半の専門家は、自殺はさまざまなリスク要因が絡み合っており、解明するのは極めて難しいと考えている。
13年にブリティッシューメディカルージヤーナルに発表された研究によると、08年の不況下のイギリスでは、失業率が最も上昇した地域は自殺者数の増加も最大だった。ただし、自殺した人の大半が職を持つ人だった。
精神疾患も大きなリスク要因で、自殺する人の90%が抱えている。しかしオコナーは、精神疾患が「自殺をする究極の原因ではない」とみる。
同じように、統計の男女差だけで「男性のほうが自殺をしやすい」とは一概に言えない。自殺で死ぬ人は男性のほうが多いことは事実で、高い国では6倍もの男女差がある。
しかし、自殺を試みる人は女性のほうが3倍近く多い。この矛盾が生じる大きな理由は、自殺の方法だ。男性は女性に比べ、首をつるなど致死性の高い方法を選ぶ傾向がある。
「女性が自殺を図る際は、助けてと叫んでいるのに近く、周囲の反応を求めていることが多い。男性は、自殺しようとしていることを気付かれたくない、成功させたいと考える」と、臨床心理学者のマーティンーシーガーは言う。
シーガーは自殺予防を目的とする慈善団体サマリダンスのセントラルロンドン支部の顧問も務める。
男性の自殺を防ぐことが難しい理由の1つは、彼らが自分の抱える問題をなかなか周囲に話せないからだ。
ロンドンのカムデンの住宅街にある中高年男性向けのコミュニティーセンター「シェッド」には、戦後間もなく生まれた世代が集まる。「ナチスの男らしさが極端で暴力的だったのに対し、イギリスの男性は物静かで、控えめで、自制的であることを求められた」と、ロンドン大学キングズーカレッジの歴史学者ルーシー・デラップは言う。
ジェットは、昔ながらの男たちの作業場を再現している。彼らは面と向かって話をするより、肩を並べて黙々と作業をするほうが心地よい。昼休みには雑談も交わすが、時間が来れば作業に戻る。おがくずや接着剤、汗、機械の音などが重なり合い、いつの間にか癒やしをもたらす。
オーストラリアから始まったNPOのジェットは、引退後の環境の変化になじめないなどで、閉じ籠もりがちな中高年男性に交流の場を提供する。イギリスでは過去10年間で、55歳以上の男性の自殺率は12%上昇している。
サマリダンスの12年の報告書は、この年代に関連するリスク要因として、孤立、失業、コミュニケーション不足を挙げる。高齢の男性は女性より社会から孤立しがちだ。報告書の予測では、パートナーより長生きする男性が増えるにつれて、独り暮らしの男性は今後15年間で65%増える。
「はっきりとした理由でジェットに来る人はいない」と語るクリスは、ジーンズにスエードのスリッポンを履いた72歳。不定期で俳優の仕事をしている。
「孤独と向き合える場所だが、そのために来たと自分で言う人はいない」
45~59歳の自殺率は10年間で約40%上昇しているが、問題はそれだけではない。過去30年間にイングランドとウエールズで自殺をした男性の年齢に注目すると、驚くような傾向が浮かび上がってくる。
相反する男らしさのはざまで
87年に自殺者が最も多かったのは20~24歳。5年後の92年も、25~29歳になった彼らの世代が最も多かった。97年、02年、07年と同じパターンが続き、12年も45~49歳が最も多かった。つまり63~67年生まれの彼ら(後期ベビーブーム世代の最後に当たる)は、10代から中年まで常に、自殺率が最も高い世代だったのだ。
12年のサマリダンスの報告書は、中年男性を、2つの相反する男性らしさに挟まれた「緩衝の世代」と見なす。
ジェットに集まる人々の父親世代は、家族を養う冷静沈着な男性という理想像に今もこだわる。しかし、現代はさまざまな基準が変わり、そのような期待に応えられない場合も多い。
英国家統計局のデータによれば、現在のイギリスでは離婚する男性の平均年齢は45歳だ。女性の職場進出が進み、それに伴って個人年金に加入する割合も増えて、多くの女性たちが離婚を選択できるようになった。こうした事情を背景に70年代から離婚率は大幅に上昇し、2000年代の半ばになってようやく低下し始めた。
離婚は深刻な精神的ダメージをもたらすことがある。特に男性は、女性よりもはるかに大きな痛手を受けることが多くの調査で分かっている。サマリダンスの報告書によると、中年男性は感情面で妻の支えを必要としているという。離婚した男性は既婚男性に比べ、自殺を考えるか、未遂に至る確率が3倍も高い。妻と別居している男性の場合は、既婚男性の2倍だ。
若い世代はどうか。オンラインのカルチャー雑誌バイスが昨年、「若くて傲慢なイギリス男たち」なる記事を掲載した。今の若い男性は消費意欲が旺盛で、外見を気にし、都会派のセクシー男を気取っているというのだ。
男らしさにこだわった祖父の世代には、許し難い姿だろう。だが記事によれば、今の若者は弱々しいどころか「行く先々で破壊の限りを尽くす」という。「欲しいものを遠慮なく手に入れ、快楽主義的な衝動を満足させる。廊下で泣く彼女を置き去りにして、彼女の友達からの電話に出る。アルコール度数の強い酒をソーダや水で割らずに、ショットグラスであおる。人間として可能な限り、狩猛になることが本物の男になる唯一の道。そう信じて、全力を尽くす……」
この記事に寄せられたコメントが興味深い。今の若いイギリス人男性は父親世代をお手本にできず、祖父世代の男らしさを求めて悪戦苦闘する「去勢された世代」だというのだ。
化粧品を使い、体毛を剃るなど、父親世代よりも繊細なイメージの若い男性たち。実は彼らも感情表現はあまり得意ではない。20~34歳の男性では自殺が死因の第1位で、この年齢層の男性の死の25%以上を占めている。
死が救いになるほどの孤独
精神衛生に関連した調査からも、男らしさの概念が世代を超えて男性を苦しめていることがうかがわれる。男性は心の病で専門家の助けを求めることに抵抗があり、深刻な状態になるまで放置しておく傾向がある。
さらに13年に米国医師会報に掲載された論文によると、男性は鬱病を発症しても男らしい振る舞いをしようとするため、鬱病と診断されないケ-スが多いという。「泥酔したり、暴力的になったりすることがあるが、これも鬱病の症状だ」と、ある心理学者が教えてくれた。
(略)
患者によっては、自殺を決意すると明るくなることがあると、後で人に教わったという。「もうじき死ねると思うことで、やっとハッピーになれるんだ」
民間航空機での死亡事故が近年少ないのは、航空会社と航空機メーカーがこれまで、予期せぬ事態に対し、新たな安全技術とノウハウを反復し努力してきた結果である。1988年のパンナム機爆破事件の後、不搭乗者の荷物は積まないという規則を導入した。2001年9月11日の米同時多発攻撃事件の後、コックピットのドアは強化された。
だが、パイロットによる故意の墜落を防ぐことは非常に難しい。米国ではすでに義務付けられているのだが、飛行中の操縦室に常に2人の乗組員がいるようにしている。今回の事故を受け、欧州の航空会社も、慌てて操縦室常時2人体制ねの動きが相次いでいる。しかし、この規則だけでリスクを排除することはできない。乗員の1人が、もう1人を力でねじ伏せることもあり得るからだ。
今回のドイツ機墜落事故の悲劇を教訓にしなくては、死んだ150人が無駄死にになってしまう。操縦士が心身ともに飛行に適切な状態かどうかを常にモニタリングすべきであろうし、することになるであろう。過去の歴史を振り返るなら、いずれ航空業界は今回の事故から教訓を学び、こうした悲劇が二度と起きないようにする方法を見つけるであろう。