
〈目次〉
プロローグ 太陽活動と火山噴火がもたらす気候変動…13
数百年単位で変動する太陽活動/巨大火山噴火による「火山の冬」の到来/地球規模の気候変動は日本列島にも影響を及ぼしてきた
第Ⅰ章 平城京の光と影
(1)万葉の花咲く陰で… 21
律令国家の建設/太陽活動の活発化/歴史人口学が示すもの
(2)「祈祷」「税の軽減」「救済米」… 30
『続日本紀』に記録された高温乾燥土手ばつをもたらす気圧配置/8世紀の干ばつと飢饉/律令国家の干ばつ対策/荒廃する口分田/脆弱だった灌漑設備
(3)日本最初の天然痘の流行… 45
聖武天皇と藤原四兄弟/大陸からもたらされた天然痘/干ばつ、飢饉疫病の関係/猛威を振るう天然痘と藤原四兄弟の急死/平城京からの遁走/さまよえる聖武天皇
(4)巨入木造建築ブームによる森林破壊… 57
森林伐採の開始/巨大木造建築の隆盛ノ天皇の宮廷、貴族の邸宅/畿内での森林資源の払底/古代日本での自然破壊/アカマツ林というはげ山
第Ⅱ章 異常気象に立ち向かった鎌倉幕府
(1)干ばつは平安時代初期も続いた… 71
太陽活動の活発期と低下期土中国東北部についての2つの古気候研究/国史にみる平安時代初期の気候/祈祷中心の干ばつ対策/国家財政の疲弊/ 律令制の崩壊/内向きの時代の到来
(2)『明月記』が描いた寛喜の飢饉… 85
桜の満開日による気温推定/源平争乱の中での養和の飢饉/歌道に倦んだ晩年の定家/寛喜二年の異常低温/寛喜の飢饉は日本の歴史で最悪のものか?/冷夏と暖冬の原因は何か
(3)非常時の人身売買を容認した北条泰時… 102
北条泰時の執権就任/寛喜の飢饉への具体的な救済策/御成敗式目の制定/人身売買を明記した追加法/鎌倉幕府による全国統治の完成
第Ⅲ章 「1300年イベント」という転換期
(1)日蓮が記録した天変地異と飢饉… 116
氷床コアに残る巨人火山噴火の痕跡/ベネディクト会修道士が記したイングランドの異常気象……/日蓮の『立正安国論』と正嘉の飢饉/天候異変で得たモンゴル帝国皇帝の座
(2)寒冷化か可能にした新田義貞の鎌倉攻め… 128
「1300年イベント」とは何か/世界各地に残る寒冷化の痕跡/古気候学が明らかにした海面水位の低ドノ日本列島での海退/稲村ヶ崎からの海岸線突破の背景
(3)農業技術の発展で気候変動に立ち向かう… 139
鉄製農具の普及と鋳物師/農耕家畜の利用と肥料の多様化/灌漑設備と水利管理の向上/新しい稲の品種の採用し/水田二毛作の原型は干ばつ対策だった/水田二毛作の導入を促進した田麦課税禁止令/農業生産性向上への長い道のり
第Ⅳ章 戦場で「出稼ぎ」した足軽たち
(1)経済発展と人口増加の時代… 152
文献に記された鎌倉時代末期から室町時代前期の気候/古気候研究からみた気候の変化/室町時代前期に発展はあったのか/1280年から1450年頃にかけての日本の総人口
(2)太陽活動の低下が招いた「小氷期」 … 162
シュペーラー極小期という太陽活動の低下期士冷夏と長雨が続く時代への転換/1430年代から1440年代の天候不順と嘉吉の徳政一揆
(3)火山噴火が多発した40年間 …168
南太平洋シェパード諸島のクワエ火山/火山の冬が導いた中世欧州の終焉/応仁の乱に至る飢饉と足軽の登場 (4)北条、上杉、武田――気候が戦国大名を動かした…177
シュペーラー極小期からの回復と各国の状況/戦国大名の不安定な立場 /飢饉の年に起きた後北条氏の家督相続/戦争における「分捕り」の容認 /16世紀末に活発化した火山噴火/九州諸国での奴隷売買
第V章 江戸幕府の窮民政策とその限界
(1)戦争は終わった一江戸幕府の天下泰平…194
徳川家による統治の確立/江戸時代前期の人口増加
(2)三代将軍家光、飢饉対策に乗り出す…198
マウンダー極小期と火山噴火の頻発/17世紀半ばの世界各地での異常気象/寛永の飢饉をもたらした天候/黒書院で指示する徳川家光/寛永十九年に始まる政策転換
(3)シャクシャインが導いた先住民の一斉蜂起…211
撫民政策の外側にいた民族/アイヌ民族の怒りを買った松前藩の交換条件/鎮圧された先住民の戦い
(4)元禄の飢饉と綱吉の失政…216
東北地方の脆弱な新田開発/17世紀末の極寒の時代/東北北部を襲った元禄の飢饉/大名による仕置の限界
(5)幕藩体制を揺るがした天明の飢饉 …226
明暗を分けた享保の飢饉と宝暦の飢饉/天明三年春に始まる天候不順/天明の飢饉のきっかけは火山噴火か/日本中を揺るがした大飢饉/飢饉対策と幕府の衝撃/寛政の改革:市場主義から統制経済へ
(6)江戸幕府を追い詰めた2度の天候不順 …245
1815年のタンボラ火山噴火の影響は軽微/7年続いた天保の飢饉/飢饉対策は機能したか/慶応二年の飢饉と明治維新
エピローグ
(1)気候変動に立ち向かう鍵は何か…255
技術の発達による克服/統治の安定と的確な対策/市場経済:気候変 動の影響を増幅する新たな要因
(2)明治凶作群と昭和凶作群 …261
明治時代以降の2度の大凶作/農業生産性の向上をもたらした品種改良/ 戦後の凶作と食生活の変化/長期予報の技術的発展
(3)おわりに…272
気候変動の行方/「日の下に新しきものなし」
参考文献 294
人名・事項索引 305
これは太陽を回る地球のわずかなズレ地球の公転軌道の離心率の周期的変化であるミランコビッチ・サイクル(Milankovitch cycle)に関係しているらしいとのことです。最後の氷河期は約7万年前に始まり約1万年前に終わり、日本は最終氷期末16500年前旧石器時代に別れを告げ、土器を作る文明縄文時代が世界に先駆け始まった。
近年の古気候学の研究から、太陽活動は数百年単位で活発化し、あるいは低下して地球の気候は数百年単位で変動することがわかってきました。また、巨大火山噴火による「火山の冬」の到来で、火山噴火も地球規模で気候に影響を及ぼしてきたこともわかってきました。そしてその度に人類が築き上げた文明は興亡を繰り返してきたのです。


p14-16
過去1000年間での太陽活動が低下した時期について、それぞれ天文学者の名前がつけられています。北朝鮮の白頭山、20年以内に噴火する確率99%と日本の研究者
○オールト極小期:8世紀に始まる太陽活動が活発化した時代の後、1040年頃から1080年頃までの40年間にかけての太陽活動の小康期にあたる。この後、中世温暖期とよばれる温暖な時代の最盛期を迎える。
○ウォルフ極小期:1280年頃~1350年頃までの70年間の太陽活動の低下期。中世温暖期から小氷期という相対的に氷冷な時代への移行期に起きた。
○シュペーラー極小期:1420年頃から1530年頃にかけての110年間の太陽活動低下期で、小氷期に入ってからの最初のもの。
○マウンダー極小期:1645年から1715年までの70年間で、太陽表面から黒点がほとんど消えた。小氷期の中でもっとも太陽活動が低下しか期間とされる。
○ダルトン極小期:1790年から1820年の30年間。小氷期で最後の太陽活動低下期とされる。ただし、その低下幅は小さい。
・巨大火山噴火による「火山の冬」の到来
火山噴火も地球規模で気候に影響を及ぼしてきた。火山噴火で排出された硫酸は大気中の水と化合し、硫酸エアロゾルとして成層圏まで拡散する。この火山性の硫酸エアロゾルは、太陽放射を人気圏外に反射することで地表に届くのを抑える。火山噴火による日傘効果とよばれ、地球全体に低温傾向を起こす要因となる。1991年のフィリピンールソン島のピナトゥボ火山の噴火は翌年の全球平均気温を約0.5℃下げたと観測されている。
巨人火山の噴火とその規模について、南極やグリーンランドの氷床コアに残された硫酸化合物の含有量等から推定が可能だ。過去1000年間において、地球規模で気候に影響を与えたとみられる巨大火山の噴火として以下のものがある。
○1000年頃(±40年)、中国・北朝鮮国境の白頭山
○1258年頃の謎の噴火
○1452年頃、南水平洋シェパード諸島のクワエ火山
○1600年、ペルーのワイナプチナ火山
○17世紀後半、世界各地での火山噴火の頻発
○1783年、アイスランドのラキ火山
○1815年、インドネシア・スンバワ島のタンボラ火山
○1836年、中米ニカラグアのコセグイナ火山
○1883年、インドネシアのクラカタウ火山
○1991年、フィリピンールソン島のピナトゥボ火山
富士山も怖いが、 白頭山の噴火の方が地球規模での火山の冬をもたらす可能性がある。
p18-19
地球規模の気候変動は日本列島にも影響を及ぼしてきた
このように太陽活動の強弱と火山噴火は地球規模で気候の温暖化・寒冷化をもたらす大きな要因であった。この2つの要因による気候変動と日本の気候は無縁ではない。地球規模の気候変動は日本付近の気圧配置を変え、夏季の水牛洋高気圧の外縁を時計周りに流れる南西モンスーンの勢力に変化を与え、冬季の寒冷なシベリア気団の動向に影響を及ぼしてきた。また、北半球を一周する偏西風が大きく蛇行すると寒冷低気圧が日本列島を覆って異常低温をもたらし、あるいはオホーツク海からの北東風による冷たい寒気が東日本の太平洋沿岸を襲うこともある。
そして、気候変動は天候不順や異常気象をもたらす。日本列島においても、温暖な時代に干ばつの到来で凶作となる一方、寒冷化すると冷夏・長雨によって飢饉に見舞われることになる。天候不順は疫病を大流行させ、社会不安や戦乱の要因ともなった。
①『気候で読み解く日本の歴史 副題:異常気象との攻防1400年 田家康/著(日本経済新聞出版社]』を読む その1 2013/9/28(土) 午後 10:27
②『気候で読み解く日本の歴史 副題:異常気象との攻防1400年 田家康/著(日本経済新聞出版社]』を読む その2 2013/9/29(日) 午前 11:02