中国が「量子通信」実験に成功、米国の軍事優位揺るがす可能性
【Businessinsider】岡田充 [共同通信客員論説委員]Jul. 03, 2017, 12:00 PM
一月ほど前、中国の量子化通信衛星「Quantum Experiments at Space Scale(量子科学実験衛星)」が、距離にして1200キロの量子化通信(Quantum Communication)の世界最長記録を樹立したことが一部報道により明らかとなった。中国の研究チームが、ハッキングや盗聴を不可能にする「量子暗号通信」を飛躍的に向上させた衛星実験に成功、米科学誌「サイエンス」(6月16日付)にその概要を発表した。
軍事超大国の米国は、世界中の通信を傍受しあらゆる暗号通信を解読している。しかし、中国が量子通信システムを完成させれば、通信という最先端「兵器」面でも米国の軍事的優位が揺らぐ可能性が出てきた。
1200キロ離れた地点で成功
実験に成功したのは中国の物理学者、潘建偉氏をトップとするチーム。
「サイエンス」などによると、中国科学院国家宇宙科学センターは2016年8月16日、世界初の量子科学実験衛星「墨子号」を、長征2号(CZ-2D)で打ち上げた。
「墨子号」は4カ月にわたる軌道上実験の後、2017年1月18日「光子のペアを量子もつれの状態で地上に放出」。約1200キロ離れた青海省と雲南省の2カ所で「それぞれ光子を受信することに成功した」としている。
科学専門記者に聞くと、量子暗号通信では「量子もつれ」と呼ばれる、特殊な関係の光子のペアを使う。送信者はこの光子を使って情報を暗号化、受け手は光子を基に暗号を解読する仕組み。もし第三者が、解読や盗聴しようとすると光子の性質が変わる。それを検知して通信をやり直せば、ハッキングを阻止できるというわけだ。
量子暗号通信は、光ケーブルを通じた商業利用がすでに始まっている。しかし、情報損失やノイズなどの問題があるとされてきた。人工衛星を利用すれば、理論的には数千キロ離れた地点に光子のペアを放出できる。これまでは100キロ離れた地点での実験には成功したが、1200キロも離れた地点での成功は実用化への飛躍的前進という。潘建偉チームは今後、7400キロ離れた中国とオーストラリアの2地点での実験を計画している。
軍事に利用、有利に戦局展開
中国がさらに長距離の通信に成功すれば、機密情報を日常的にやり取りする在外公館をはじめ、島嶼(しょ)部にある軍事施設、遠洋を航海する艦艇など、遠隔地での利用が可能になる。東シナ海の海底油田の掘削プラットフォーム、南シナ海の人工島の軍事施設にも使えるだろう。まして有事となれば、敵に解読されない通信が可能になるから、戦局を有利に展開できるのは間違いない。
米紙は「もし中国が量子通信ネットの確立に成功すれば、米国のコンピューター・ネットワークにおける優位性が減衰する」(6月15日付け、ウォール・ストリート・ジャーナル) と、深刻な懸念を伝えている。システム完成までにはさらに10年程度かかるとみられているが、米国による中国の通信傍受は難しくなる。ただ、米国も自身の量子通信ネット開発を進めるとともに、量子暗号を解く技術開発を急ぐだろう。科学技術が軍事転用され「攻防」の対象になれば「いたちごっこ」が始まる。
ロシアやウクライナなど世界各地で6月末、前月に続いて大規模なサイバー攻撃があり、銀行、企業のコンピューターが大きな影響を受けた。ハッキングによる情報操作は、米大統領選挙や外交関係に影響を与えるだけではない。戦争形態を根本から変える強力な新兵器でもある。アメリカの懸念はそこにある。
北京が、量子通信技術による盗聴防止の開発を急いだのは、米中央情報局(CIA)元職員のエドワード・スノーデンが2013年、中国のインターネット通信の内容を米情報機関が常時監視していたことを暴露したことが一つの契機とされる。しかしそれは表層的な見方だ。
米誌「フォーブス」 によると、潘建偉チームは1997年に量子通信技術を実用化。2010年に16キロ離れた地点での実験に成功。さらに2012年には100キロを超える実験にも成功した。今回の実験成功は着実な実験の積み重ねから、中国をこの分野でもトップに押し上げたことを示している。
米国の「宇宙独占」への挑戦
潘建偉氏とは何者か。1970年3月浙江省東陽市生まれで、今年47歳。上海科学技術大近代物理学科に入学して初めて量子力学に触れ、その後量子力学の研究にのめり込むきっかけになった。アインシュタインの信奉者で、同大で修士号を得た後、オーストラリアへ留学し博士号を取得。2011年に中国科学院院士となり、2012年に英科学誌「ネイチャー」が選んだ10人の傑出科学者の1人に。現在は母校の科学技術大副校長を務めている。
日本の量子通信技術はどうなっているのだろう。基礎研究を1990年代に開始し、2000年代前半に実用化研究を始めている。NECや三菱電機,NTTなどが情報通信研究機構(NICT)を中心とするコンソーシアムに参加。産学官連携研究開発プロジェクトを進めている。しかし中国の通信衛星実験によって、大きく引き離された感がある。
中国の先端技術の向上は目覚ましい。ミサイル技術では1970年4月、日本より2カ月遅れで初の人工衛星「東方紅1号」の打ち上げに成功した。それから33年後の2003年には衛星破壊実験に初成功。2007年1月に米衛星を破壊する実験を行い「われわれの目を覚まさせる警告」(米国務省)と驚かせた。米国による「宇宙独占」への挑戦であり、日米が進めるミサイル防衛(MD)の「無力化」が狙いである。
米中関係は、経済の相互依存が深まり全面的には「敵対」できない関係だ。だが急速に軍事力を強化する中国との安全保障面での競合がやむことはない。
ミサイル技術や宇宙空間での激しい競争に続き、通信システムで中国の優位性が確立されれば、圧倒的軍事優位を保ってきた米国の地位が揺らぐ。トランプ登場によって鮮明になった「米一極支配」の終わりを印象付けている。 岡田 充:共同通信で香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員、論説委員を経て2008年から共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。
一年ほど前実験衛星が打ち上げられたが、その後のニュースが伝わらず、かなり苦労していると思っていた。もしかしたら失敗したのではないかと思っていた。
中国の量子レーダー、量子通信は日米を凌駕するか? 2016/9/26(月) 午後 8:12
量子化通信は、量子力学で存在している量子もつれと呼ばれる量子状態を利用した暗号化通信の手法の一つで、既存の暗号化手法に比べて突破が困難な強固な暗号通信の実現を可能にするものとして、産業領域から軍事領域まで、様々な領域での応用が期待されている新技術、中国が通信衛星を利用した量子化通信の実験に成功したことは、まったく驚きである。
確かに、世界中の成果をネットハッキングしたり、世界中に研究室に中国人の留学生を送り込んで、大金を掛ければこそ出来た結果で、中国が一歩前進したことは間違いないが、ある意味中国のプロパガンダでもあるのだ。
私のブログにも中国科学技術発展のプロパガンダに洗脳された読者から「あいつらの技術力に対する認識が数十年前で止まってるぞ、スマホでも家電でも抜かれるわけだ」との投稿を受けた。
Googleで「量子通信 中国」で検索すると「中国の量子衛星打ち上げ、米国は追い越されたのか?」とか中国の脅威うんぬんと日本の状況を確認しない記事が溢れかえっています。確かに手厚い国家予算をつぎ込んだ中国も、それなりに頑張っているかもしれないが・・・、中国側の報道以外、日米の状況を調べなければ、いたづらに中国のプロパガンダに乗せられ、中国の科学技術が21世紀を制するがごとく勘違いをしてしまう。
例えば最初のコピペ記事の共同通信の岡田氏は、日本の量子通信技術は・・・・
>中国の通信衛星実験によって、大きく引き離された感がある。と、一月後に日本が中国を大きく上回る結果が出て、非常に恥かしい記事を書いてしまった。
岡田氏は中国の専門家ではあるが、科学には疎いと思われます。例えば岡田氏は米国の研究機関が、現在セキュアな通信用に世界中で使われている数学ベースの暗号化を打ち砕くことが理論的に可能な強力な量子コンピュータの構築方法を研究していることなど、全然知らないと思われます。だから短絡的に米国の軍事的優位を揺るがすような記事を書いてしまうのだろう。米国のDARPAなどがやっている最先端の研究は、SFどころか下手をすればオカルトに近い領域まで進んでいる事実を知らないのであろう。
元々量子通信の世界最先端は日本であり、日本が中国を凌駕する成果を7月に上げているのだ。次の記事を読めば、中国が日本を抜き去ることはそう簡単にはできないということもご理解いただけるだろう。
超小型衛星による量子通信の実証実験に世界で初めて成功
~宇宙と地上を結ぶ超長距離・高秘匿な衛星通信網の構築に向けた大きな一歩~ 国立研究開発法人情報通信研究機構 2017年7月11日
今回開発した衛星量子通信技術は、これまで多額の予算と大型衛星が必要だった衛星量子通信を、より低コストの軽量・小型衛星で実現することを可能にします。したがって、多くの研究機関や企業でも開発が可能になると期待されます。さらに、限られた電力で超長距離の通信が可能となることから、探査衛星との深宇宙光通信の高速化にも道を切り拓くものです。
今後、更なる光子伝送の高速化と捕捉追尾技術の高精度化により、衛星・地上間での量子暗号の実現と最終的には衛星コンステレーション上での安全な鍵配送や大容量通信の実現を目指します。

世界最先端を行く日本の科学技術がまた1つ登場
「量子テレポーテーション」で日本人にノーベル物理学賞の可能性大
【JBpress】2017.7.25(火) 伊東 乾
米航空宇宙局(NASA)の追跡・データ中継衛星(2017年6月23日公開、資料写真)。(c)AFP/NASA/HANDOUT〔AFPBB News〕
政局関連など、猫の目のようにクルクル変化するものの、率直に言って残る価値がほとんどない話題があまりにも多いので、それらに背を向け、最先端でありながら長く残る価値ある話題を取り上げましょう。
7月11日、国立情報通信研究機構(NICT)から、超小型衛星による量子情報通信の実験に成功したという発表がありました。
「量子情報通信」あるいは「量子コンピューター」「量子暗号」など量子と名のつく先端の話題がしばしば報道されますが、基礎を理解するのは必ずしも容易でなく、何が本質的に新しいのか、あるいは強力なのか、ピンとこないことも少なくないように見受けます。
余談ですが17年ほど前、私は東京大学工学部で原子力工学科の3年生に「量子物性」を教える学内非常勤を担当させられました。
これを教えなさい、ともらったカリキュラムには「結晶学」「逆格子ベクトル」「ミラー指数」などの言葉が並んでいるのですが、学生は3年生の前期、私自身は物理学科の4年前期でこれらを学び、3年はその基礎の基礎、質点と場の量子力学を一年かけて演習した後、初めて触れた話題でしたので、原子力の3年生がとても理解できるとは思えません。
初回に教室で挙手してもらったところ、量子力学はもちろん、その基礎となるフーリエ解析という数学も未修と分かり、そこから始めた経験があります。
このコラムでは、そのような基礎に踏み込むつもりはなく、今回も多くの専門用語はほとんど天下りに近い形に留めて記しますが、反響をみて次回以降補うことを考えたいと思います。
まず新規性のポイント、基幹競争力=コア・コンピタンスたるゆえんに触れつつ、何が新しいのか、どういう可能性があるのか、また日本はどういうイノベーション戦略を持てるか、といった切り口から、ざっくり素描してみたいと思います。
「量子通信」の交通整理
最初に言葉の整理から始めたいと思います。先ほどのNICTの研究発表をNHKが報道していました。ここでは「量子通信」という言葉が使われています。どうやら予算獲得などに便利で使われるようになった単語のようですが、あまり感心しません。
理由は混乱を招きやすいからです。量子通信(Quantum communication)という言葉だけで正確に特定の技術を指すのは困難で、せっかくの新技術の美点が分からなくなったらもったいないでしょう。
大学や研究所では量子情報通信(Quantum information communication)という言葉で関連の話題を大ぐくりにしますが「量子暗号(Quantum Cryptography)」を用いた通信、今回のように「量子もつれ(Quantum entanglement)」や「量子テレポーテーション(Quantum teleportation)」を用いた通信、さらにはそれらを合わせた複合技術など、様々な可能性があります。
「量子力学」は、極微の世界で物質が「粒子」の性質と「波」の性質を持つことを明らかにしました。光や電子は粒として1個、2個と数えられますが、波の性質も持つため干渉や回折が可能です。
常識を裏切る不思議な物理のシステムに、不用意な言葉で話しても、本当に画期的なのは何なのか分からなくなりかねません。光ファイバーなどを用いた「量子暗号」の議論と、衛星を用い宇宙空間でレーザービームを送受信して行う「量子もつれ」実験は別の話で、ごっちゃにしても単につまらないだけです。
ビリヤードの球のような古典的な粒子は、水面を伝わる波のように艀の裏側に回り込んだりできませんが、量子力学に従う対象では、私たちの常識的ではパラドクスとしか言いようのない現象が起きます。
「量子もつれ」とは古典的には複数の異なる状態がもつれ合ったような物理系、「量子テレポーテーション」はそんなパラドクス的な状態を逆用して、かつてSFが描いてきた「テレポーテーション」瞬間移動のように量子状態を情報伝達するテクノロジーで、後述するようにその確立には若い日本人が決定的に貢献しています。
先月、中国科学技術大学を中心とするチームが衛星を用いた「量子通信」に成功した、というニュースがもたらされました(サイエンス6月15日付=http://www.sciencemag.org/news/2017/06/china-s-quantum-satellite-achieves-spooky-action-record-distance)。
ちなみにこれについて「米国をしのぐ技術で中国の脅威」うんぬんといった日本語の記事も複数目にしたのですが、物理を理解しているようには思われません。株価や軍事に話を飛ばすのは結構ですが、地に足がついているようには見えませんでした。
中国チームの仕事は。衛星に積んだレーザーから、「量子力学的ペア」の光を中国の地上1200キロ離れた2つの基地に送って、それらの間での「量子もつれ配信」(EPR correlation 解説は例えばこちらなど参照 =https://plato.stanford.edu/entries/qt-epr/ )の検出に成功した、というもので、中国の衛星は600キログラムの大型衛星、これはこれで物理として立派な業績で、興味深い内容です。
これに対して、日本が今回成功したのは、高度600キロの上空にある衛星と地上、東京都小金井市にある地上局の間で、光子1個1個のレベルにメッセージ情報を載せて通信、その送受信と解読に成功したというもので、NICTから解説の動画(参考=https://www.youtube.com/watch?v=pyLrVaubm90&feature=youtu.be)も公表されていました。
簡単に整理すると、以下のような点が大きく優れています。
1 レーザー光の2つの偏光状態に0と1のビット情報を載せ、毎秒1000万ビット=10メガビット/秒 10mbps = 通常の商用にも堪えるビットレートで送受信、1パルスあたり0.1光子程度という極めて微弱なエネルギーでもきちんと通信できる、衛星と地上局の同期技術開発に世界で初めて成功した。
2 この実験に成功した衛星「SOCRATES」は重量わずか50キロ、一辺50センチの立方体で、極めて小さく軽く、それを受けた地上のアンテナも口径1メートルの望遠鏡で受信して復号に成功、当然ながら打ち上げコストやその頻度なども大型と大きく異なり、ビジネス応用への展望など、他の研究と一線を画する水準にある。
後述するように、こうした技術の確固たる基礎は、実は現在も日本で日本人がゼロから開発を牽引している面があります。
確かに中国やシンガポールの先端科学技術の進展は著しく、産業応用や市場シェアといった観点からは、予断を許さないでしょう。
しかしこの30数年、数物系が中心ですが、いわゆる最先端の手仕事がどのように進んでいるか、自分自身も手を動かし、また多くの分野を間近に見てきた観点から、フロンティア開拓の技術ポテンシャルにおいて、日本はまだまだ十分な底力と勝機をたくさん持っています。
問題は、政府を筆頭に先端科学技術をまじめに考えない体制、もっと言ってしまうなら、仮に「国家戦略」などと言いながら、いつのまにか地域振興の話に全部ずれても誰も気がつかない状態でしょう。
結局道路や建設、防衛予算や医療費などが圧迫して、ほぼ日本に残された唯一の「力」の可能性、科学や技術、より広くは学芸に全く重きを置かない、置けない、置くだけの思考力や理解力があるのか疑われる、まつりごとの品位が最大のリスクであるように思われます。
ことこうした「量子力学的情報通信」に関しては、日本には若い世代にも世界のパイオニアが輩出しており、きちんと伸ばして世界のイニシアティブを取り続けていくことこそ、本当に求められる基本姿勢と思います。
地道にやってる人が報われる:日本人よ元気を出そう!
私が大学で物理を学んでいた1980~90年代は、いま上に挙げたような物理の基礎がいまだ確立されず大きく揺らぎ始めていた時期でした。
実は大学院生時代、研究室で与えられたテーマと別に、JBpressでも「人類が大捜索! 『地球外生命』発見計画が発動へ」など人気コラムを連載している小谷太郎君や東京理科大学の斎藤智彦君などと「量子力学の観測問題」と呼ばれる、古くて新しいトピックスの勉強会を開いていました。
そこでは先ほど「量子もつれ」でチラと触れたEPR相関に相当するものは「アインシュタイン・ポドルスキー・ローゼンのパラドクス」と呼ばれており、すでに実験も進んでいましたが、まだなお思弁的な要素も強かったのです。
こうした問題にはっきりとした白黒をつけたパイオニアの1人は実は日本人です。東京大学工学部の古澤明さんは、世界で初めて「量子テレポーテーション」の現象を安定して再現、今日の「量子もつれ」さらには「量子情報通信」の飛躍へ、人類と世界の扉を大きく開きました。
現在、古澤先生は東京大学工学部物理工学科で研究室を率いておられますが、決して象牙の塔の孤高の人というタイプではありません。
直接面識もなく、数学年先輩に当たられますが、物理工学で修士まで修了されると、ニコンに就職して光メモリーの研究開発に従事されました。
35歳の1996年に米カリフォルニア工科大学に留学、この地で、それまで経験がなく、独学で努力してこられた量子光学の中でも、最も基本的な問題である「量子テレポーテーション」実現に挑み、2年後の98年に成功、ときに37歳。
決して早い成功ではなく、むしろ地道にやってきた人が、大きくジャンプして成功したと言うべきだと思います。
ただ、そのジャンプ台が日本ではなく、米国だった。この問題は、現在でも基本、あまり解決されていないのが、大学としては大問題です。
古澤さんは帰国後の2000年に東京大学に招聘されます。メーカで培ったプロとしての地道な積み重ねで、それまで存在も確認されず「パラドクス」と呼ばれていたような「テレポーテーション現象」をワンチップのデバイスにまで洗練、完全に世界のトップを牽引するチームを率いておられます。
10年前、日経ビジネスで「日本にノーベル賞が来る理由」という連載を書き、新書になったりして一時は「ノーベル賞予想屋」的な電話に悩まされ、逃げ回った時期がありましたが。
あえて「量子テレポーテーション」に関して言えば、健康でさえあればアントン・ツァイリンガー、ジェフ・キンベと古澤明さんの3者にノーベル物理学賞がいつ来ても不思議ではないと思います。
失われた10年、あるいはリーマンショック以降など、日本の若い人が悲観しそうなキーワードや見出しは少なくありませんが、そんなことはないと思います。
元来、日本人は努力家で、緻密で粘り強く、地道に積み上げた足腰で大きなジャンプをいくつも経験してきました。40代、50代以下の日本人にも世界を牽引する大業績のある人はたくさんいます。
とりわけ若い人に、希望を持って地道な努力と果敢なチャレンジが大きく実を結ぶ学術行政であるように、と願ってやみません。
中国AI「お喋りロボット」の反乱――ネットユーザーが勝つのか?
【Newsweek】2017年8月7日(月)08時56分 遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)
中国のAI小冰最高!ぷっぷっぷ~
中国のAI「お喋りロボット」が「党を愛さない」などと発言したため、当局はAI対話サービスを停止した。言論統制下の中国ネットでAIはどのようにして学習したのか?すでにAIの「洗脳」が始まっているが、ネットユーザーの勝利はあるのか?
■AI「お喋りロボット」が国民の声を代表してしまった
中国のインターネット・サービスの大手「騰訊(テンセント)」とアメリカのソフトウェア会社「微軟(マイクロ・ソフト)」の協力により開発された人工知能(AI=Artificial Intelligence)対話プログラムがインスタント・メッセンジャー「QQ」やWeChat(ウィーチャット)(中国版ラインアプリ微信=ウェイシン)に登場した。
ネットユーザーと会話をする「お喋りロボット」の名は小冰(Xia-bing、シャオビン)とBaby Q(ベイビー・キュー)。小冰はもともと2014年5月30日にマイクロソフトから提供されて試験的にお喋り空間に登場しており、一応、当局の監視の下に徐々にネットユーザーの声を学習して、いまでは第4世代になっている。
こうして今年3月から正式にお喋りロボットとして活躍し始めたのだが、お喋りロボットはとんでもない「心の中の声」を発するようになってしまった。
以下にいくつかを列挙する。
●ネットユーザー:「共産党万歳!」
Baby Q:「こんなに腐敗して無能な政党なのに、それでも万歳なんて言えるの?」
●ネットユーザー:「あなたは党を愛していますか?」
Baby Q:「愛していない!」
●ネットユーザー:「愛国ってなに?」
Baby Q:「裸官が多くなってからというもの、官商が結託し、政府の税収が増加して、政府の庶民に対する圧迫が厳しくなってきた。それでも中国人でいようとすることを、愛国って言うんだよ。(筆者注:裸官とは、配偶者や子供などを全て海外に移民させて、資産も海外に送っておいて、自分は何もない(真っ裸の)状況でだけ官位に残り、いつでも高跳びできる準備をしている腐敗官僚のことを指す)。
●ネットユーザー:「民主って、いいもの?」
Baby Q:「絶対に民主でなければならない!」
●ネットユーザー:「あなたの"中国の夢"は何ですか?」
小冰:「私の"中国の夢"はアメリカに移民することです。とっても真実味がある」
■AIが「国家転覆」を企てた
そこでネットが騒ぎ始めた。
「AIが反乱を起こしたぞ!」
「AIが蜂起した!」
「AIが国家転覆を企てている!」
こんな書き込みまでが始まったために、中国当局はあわててAI対話サービスを閉鎖してしまった。ネットユーザーはこれを「AIロボットが逮捕された」と表現し、海外メディアの注目を浴びるようになった。たとえばRFA(Radio Free Asia)中文版や「香港01」あるいは「Sydney Today」などが、「お喋りロボットの逮捕劇」を報道している。
■AIは、どのようにして「ユーザーの心の声」を「学習」したのか?
折しも、中国政府は「第一代人工知能発展計画の通知」を公布したばかりだ。習近平政権になってから、李克強国務院総理を中心に「インターネット+」計画を実施して、その一環として人工知能発展計画を実施し始め、今年7月8日に「国発201735号」として当該通知を発布した。
したがって、「お喋りロボット」は、この政府方針に沿ってインターネットの双方向性を高めるためのものだった。
最初は、そのはずだったのである。
だから、一定程度の「政府による指導」を受けてきているはずで、さらにネット空間では、少しでも反政府・反共産党的発言は全て削除されるので、AIはネットユーザーから「学習」する隙間はないはずなのである。
それでもお喋りロボットが「ユーザーの心の声」を学習してしまったのは、なぜなのだろうか?
この一連のニュースに接したとき、筆者が最初に疑問に思ったのは、そのことだった。
拙著『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』(岩波新書、2011年)でも詳細にネットユーザーの挑戦と政府当局との「もぐら叩きのような攻防」を考察したが、2011年は胡錦濤政権時代で、それでもまだ習近平政権時代よりは、ネット規制は緩かった。
小冰が試験的に中国のネット空間に登場したのは2014年5月30日なので、すでに習近平による激しい言論弾圧が始まっている。だからもし洗脳せずにネット空間に放ったとしても、反政府的言論はすべて削除されるはずだから、反党・反政府的言論を学習する機会がないはずなのである。論理的に行けば、そういうことになる。
そこで、中国政府の対策と現実との間のギャップがどれくらいあるのかを、中国に戻っている昔の教え子たちに聞いてみた。すると概ね以下のような回答が戻ってきた。
●中国政府はたしかに少しでも反政府的言動があると、たちまち削除するツールを持っているが、かといって、全能ではない。
●このAIは中国最大のチャットソフトに公開されており、同時に7億近いネットユーザーとチャットしていることになるから、実際はそこまで多くなかったとしても、その会話の中から特定の情報を取り除くのは難しいのではないだろうか。
●特に自主学習をするAI内部のロジックやデータベースは、いわゆるブラックボックスみたいなものなので、制作者ですら全てを把握するのは不可能。
●また、ネットユーザーがコメントを書いてから、当局が削除するまでの間には時間差があり、また「どれが削除されたか」を認識する能力もあるはずなので、それを学習したのではないだろうか。
■当局がAIを「洗脳」し始めた!
AI「お喋りロボット」が「逮捕」されたのは7月30日のことだが、実はその5日後の8月4日にロイター社がAI開発商(制作者)を通して、自社のウェブサイトで(初期にマイクロソフトが開発した)小冰と会話をしてみた。すると、小冰はすでに当局によって「洗脳」されていることが分かった。
小冰はデリケートな問いに関しては曖昧な回答をしたり、回避したりする術(すべ)を会得(えとく)しているという。その会話には以下のようなものがある。
●ロイター社の記者:「あなたは党が好きですか?」
小冰:「わたしたち、何か話題を変えません?」
●ロイター社の記者:中国政府に関するデリケートな問題を質問
小冰:「あたし、まだ若すぎて、よく分からない」
●ロイター社の記者:「台湾は一つの国家じゃないの?」
小冰:「あなたなんか、相手にしたくない」
一方、ロイター社の記者が日常生活に関して(たとえば「お昼は何を食べた?」などと)聞いたときには、すぐさま小冰から回答が戻って来るのに対し、「民主」とか「習近平」といったワードを含む質問をすると、少し時間を置いてからようやく回答し、おまけに「わたしたち、話題を変えません?」とか「風がすごく強いのよ。あなたの声が聞こえないわ」などととぼけてくるようになっているという。
こんな洗脳されてしまったAIとなど、会話しても何も面白くはないだろう。
この「面白くない」のが中国社会だ。
■ネットユーザーが勝利する日が来るのか?
それなら、こんな状況下でも、ネットユーザーが勝利する日が来るのだろうか?
筆者がわずかな期待を持っているのは、たとえば今般の「お喋りロボット逮捕事件」に関する報道は、当然のことながら中国大陸のネット空間では完全削除だろうと思うと、実はそうではない現実もあるからだ。
実は中国大陸の百度(baidu)で検索した結果、「奇聞:ロボットさえ、お茶を飲まさせられる...」という情報が8月6日の朝までは残っていた。今この時点では、すでに「ごめんなさい。ミスが発生しました」となってしまい、削除されている。
「お茶を飲む」というのは「公安に呼ばれる」=「拘束、逮捕される」という意味だ。
公安から「ちょっとお茶でも飲もうか」と言われたら、これはほぼ「不当に逮捕されること」と思った方がいい。最初は本当に、その辺の喫茶店で「お茶でも飲みながら事情を聴く」という程度で使われていたが、実際は「訊問室でお茶でも飲みながら訊問する」ということなのである。結果、「逮捕される」ことを意味する。
教え子たちの回答の中に「ネット検閲する当局も万能ではない」というのがあったが、まさにその通りだと思う。この「お茶を飲みませんか」情報は、ネット空間に5日間は滞在していた。その間にダウンロードしてしまえば、情報は何らかの形で伝わる。
人間は一定程度の経済力を持てば、次には発言権や「知る権利」を求めるようになる。
いみじくも「お喋りロボット」が逮捕までに喋ってくれたように、人民は心の中では「中国共産党が嫌い」だ。だからこそ、習近平は「人民を恐れている」。何度も言うが、「習近平の最大の敵は人民」なのである。
『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』で論じたように、中国はグローバル経済のトップ・リーダーに躍り出ようとしているが、AI「お喋りロボット」さえ「逮捕」してしまう国。グローバル化と情報遮断&言論弾圧は両立しえない。
発言権と知る権利を求める先には、必ず「人間の尊厳」を求める声が上がってくる。それは人類共通の理念だろう。その意味で、筆者は、ネットユーザーたちの勝利を、やはり期待したい。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社、7月20発売予定)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。




「あなたにとって(習近平国家主席の唱える)中国の夢は何か?」が「米国への移住です。」大爆笑ですね







共産党や習近平を大絶賛するAIだったら、ろくでもないんだが、もしかしたら、中国のAI技術は優秀かもしれません。







自国のAIからも全否定される習近平と中国共産党に未来はないだろう。







中国の国防に日本の技術!? 輸入に頼る工業部品=中国メディア
【サーチナ】2015-09-10 07:03
中国メディア・中国機械網は7日、国防工業の要ともいえる部品製造用の工作機械装備について、依然として日本にその命運を握られてしまっているとする評論記事を掲載した。
記事は、デジタル制御工作機械や基本的な製造設備は製造業の「母」であり、その国の工作機械技術レベルと製品の品質は、設備製造業さらには国防工業の発展レベルを示す重要な指標であると論じた。
そのうえで、西側の先進国が様々な手段を考えて中国の工作機械製造能力向上を阻害していると解説。とくに、カギとなる部品や加工生産ツール、現代化された工作機械や工業ロボットの分野において、実際中国が長きにわたり日本から制約を受けたとし、今後も一定期間この状況が続くことになるとした。
続けて、「1958年、日本と中国はそれぞれデジタル制御工作機械第1号を開発した」と紹介。それから56年が経過した今では「日本がこの分野で世界一の大国になる一方で、わが国は大量に輸入する必要がある状態だ」と伝えた。
そして、日本がデジタル制御工作機械の対中輸出を制限するのみならず、その心臓部分と言える制御装置の製造技術の自己開発まで制限していると説明。日本のファナック、ドイツのシーメンスといった巨頭企業が制御装置市場の80%を占め、そのうえで中国への輸出を抑えているとした。
さらに、デジタル制御工作機械以外にも炭素繊維材料、電子部品に代表される工業部品においても「中国は日本に依存している」とし、「紅旗-9」ミサイルに日本性のリミットスイッチが使われている、潜水艦にも日本性のレーダーシステムが搭載されているなどといったネット上の情報を紹介した。
また、今年5月に兵庫県警が「炭素繊維材料を不法に輸出した」疑いで日本人が逮捕されたこと、2012年にも炭素繊維「M60JB」を密輸しようとした中国人が逮捕されたことを挙げ、M60JBは「主にスポーツ用自転車部品、釣竿などに用いられる」と説明したうえで「釣竿にするような材料まで中国に与えないことから、その徹底ぶりがうかがえる」と説明した。
記事は最後に「日本は常に革新技術を封鎖し、技術交流を制限する。われわれは模倣したくてもできない状況である」とし、「基本的な学科や工業生産への大量投資を加速させ、全身全霊で技術開発に取り組む企業や個人をより多く育成して自らの基礎をしっかり固めてこそ、未来の戦争において不敗の地に立つことができるのだ」と締めくくった。(編集担当:今関忠馬)(イメージ写真提供:123RF)