Vilhelm Hammershøi 国立西洋美術館で開催中の「ヴィルヘルム・ハンマースホイ―静かなる詩情―」展を11月16日に行きました。
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                             パンフレット

もし、絵画に旬というものがあるとしたら、晩秋から初冬へ向かうこの季節、ヴィルヘルム・ハンマースホイの絵画を鑑賞するには最高の季節かもしれません。
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            「聖ペテロ教会」 1906年頃

ヴィルヘルム・ハンマースホイはデンマーク、コペンハーゲンの街と、妻イイダと自宅室内、若しくは無人の室内を描いた17世紀オランダ絵画の巨匠フェルメールの作品にたとえられ「北欧のフェルメール」と言う称号を頂いております。

9月に行きました、奇跡のフェルメール展もさることながら、このハンマースホイ展も素晴らしかった。観る者の感性を静かに揺さぶる作品には、100年の歳月をまるで感じさせませんでした。彼独得の静謐感は、フェルメールの作品とも異なると思います。
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           「ゲントフテ湖、天気雨(Gentoft Lake) 」1903年

ハンマースホイが学んだコペンハーゲンの美術アカデミーは、フェルメールなどの17世紀オランダ絵画の影響を受け継いでいました。そのため、フェルメール風の作品は、ハンマースホイを含めた同時代のデンマーク絵画の特徴なのかもしれません。
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            「縫い物をする少女」(Young Girl Sewing) 1887年 (ロンドン展のみ)

ハンマースホイの絵画の特徴として、ガランと生活感のないシンプルな室内。描かれた女性は妻イーダである場合が多いのだが、後ろ向きで、なお且つ黒いドレスで描かれている。
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                   「休息」 1905年 

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               「室内、ピアノと黒いドレスの女性、ストランゲーゼ30番地」1901年(ロンドン展のみ)

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              「室内、ストランゲーゼ30番地」 1901年

80年代日本のサブカルチャーの隆盛時DCブランドと呼ばれは、川久保玲(コム・デ・ギャルソン:COMME DES GARCONS)、山本耀司(ワイズ:Y's)、ヨージヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)など、黒一色の服が流行した時代を思い出させます。黒一色のファッションのイーダはさしずめハウスマヌカン(ブティック店員をそう称しおりましたな・・死語)。
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                「若い女性の肖像、画家の妹アナ・ハンマースホイ」1885年

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                「ピアノを弾く女性ののいる室内、ストランゲーゼ30番地」1901年

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                      「背を向けた女性のいる室内」1904年

ハンマースホイの住居ストランゲーゼ30番地のアパートは、生活する室内空間でありながら、はっきりとした生活の物語を感じない室内画は、どこか美術館、モデルルーム、かつてDCブランドが入居したような近代的なビル空間に感じる空虚な空間に通じるものがあります。僅かに配された家具、陶器、椅子で、かすかに人の体温を感じさせ、空虚ではなく静謐な空間が表現されています。ハンマースホイが描いたその「空間」には、時代を超えた人のかすかな体温と呼吸を感じさせます。

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                「クレスチャンスボー宮殿、晩秋」1890-92年

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                   「クレスチャンスボー宮殿の眺め 」1907年

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                   「フレデリクスホルムの運河」1892年

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                   「クレスチャンスボー宮殿の礼拝堂」

私は仕事の関係で、冬は鉛色の雲が垂れ込め、雪に閉ざされた日本海側に近い小都市に3年ほど住んだことがあります。ハンマースホイが描かれた、北欧の都市空間の静けさは、雪に閉ざされたに地方の小都市で感じた感覚そのものです。アア!コペンハーゲンは日本海側にある街なんだ・・・と、バルト海と日本海が重なり、ハンマースホイの絵に軽いデジャヴューを感じてしまいました。
特に「クレスチャンスボー宮殿」を描いた3作には、建物の中に確実に中に人の気配が有るにもかかわらず、静寂が支配する冬の日本海側の雰囲気が伝わるような、物凄い作品だと思う。

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                  「白い部屋あるいは開いた扉」1905年

冬は昼過ぎまで霧に包まれ、陽光には敏感であったような気がします。100年前には降り積もる雪の日に、自宅室内で、クラシック音楽を聴くことは出来なかったかであろうが、なぜか、静寂な室内からは、ウィンダムヒルレーベルの環境音楽が聞こえてくるようです。

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          「居間に射す陽光Ⅲ」1903年

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                              「陽光習作」1906年

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          「陽光」1906年(ロンドン展のみ)

ハンマースホイの絵には、静かに絞った音楽のほかに聞こえるのはストーブの音。その静けさには語りつくせない幸せが詰まっているかのような説得力を感じさえしました。

時として、永遠にその静けさは続くのかと不安に感じ、都会の喧騒の中に身を置けたどれほど幸せであろうかと感じたことなど、経験したことがなければ、けして感じることもなかったかもしれません。


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                              「妻イーダの肖像」

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                              「妻イーダの肖像」

38歳にしては少し老けているかな、現代の日本の感覚であると60近くの女性にも見える。この絵を巡り妻イーダと一悶着あったであろうことは容易に想像できる。なるほど、これが最後の妻を正面から描いた作品というのがわかるような気がする。

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ハンマースホイと妻イーダとの距離がなんとなくわかる作品だと思います。