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幻の純国産FSXのCG

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現実のF-2

爽快な一撃!

p101~102
FSX紛争が激しさを増した1987年春、米国防総省はジェラルド・サリバン副次官補を団長とする技術調査団を日本に派遣、林ら防衛庁・自衡隊の担当者との意見交換、さらには三菱重工の名古屋航空機製作所の視察にまで乗り出した。

この際、サリバンが最初に持ち出したのが、日米同盟を背景とした「インターオペラビリティー相互運用性)」という概念である。日本有事、あるいは日本周辺での有事の場合、在日米軍とともに共同作戦行動が期待される自衡隊の装備品には米軍と同等、あるいは同様のスペック(機能仕様)を求めておくことが望ましい。「いざ実戦」となった際、双方の戦闘能力に大きな差が生じたり、あるいは相互にコミュニケーションが取れなくなったり、補給部品の融通が効かない場合、作戦遂行能力に大きな障害が発生する場合がある、というのがこの「インターオペラビリティー」の論理だった。

わかりやすく言えば「だから、FSXには米国製戦闘機を導入するのが望ましい」というのがサリバンらの立場だったのである。

「共同作戦を遂行する上で、インターオペラビリティーを確保することが重要との認識は十分理解しているが、その前に米海軍と米空軍のインターオペラビリティーはどうなっているのか教えてほしい」。

当時.東京.六本木の防衛庁内の一室。サリバン一行と向き合った林ら技本のFSXチームは、会談の冒頭でこう切り出した。「それは十分確保されている」と白信たっぷりに返答するサリバンに対して、林は「ここが勝負時」とばかりに畳み掛けた。

会議室の壁のスクリーンには、米空軍に所属するF15,F16と米海軍のF14,FA18に関する装備品などの一覧表が映し出されていた。各戦闘機に搭載するミサイル、弾薬は言うに及ばず、燃料、潤滑油、レーダーから通信機器、そしてタイヤ・…。

あらゆる品目を網羅した一覧表には、空軍と海軍の機体ごとに装備品の仕様が異なっていることが如実に示されていた。

空対空のドッグファイトにおいて有力な兵器とされていた空対空ミサイル「サイドワインダー」にまで互換性がないことを指摘しながら、林はサリバンにこう詰め寄った。

「ここに記載されているものはインターオペラビリティー確保に関連する具体的内容であると理解しているが、米空軍と海軍でこのように仕様が異なっていてもインターオペラビリティーは確保できるものなのか」具体的な物証を背景に自らの矛盾点を突かれたサリバンは、途端に答えに窮したように見えた。そこで林はさらに駄目を押した。

「国産を前提とするFSXはこれから細部仕様を決めるのだが、米空軍と海軍のどちらに合わせるのが良いのか教えてほしい……」

林らの狙い通り、これ以降、米側が「インターオペラビリティーの論理」を振りかざすことはなくなった。にもかかわらず、米側はなおも①要求行動半径をべースとした運用要求②海上艦船攻撃を含むミッション・プロファイルと兵装問題なとの点から、「FSX国産論」の矛盾点を執勘に探ろうとした。

米国の日本航空産業潰し工作において、一矢報いる爽快な逸話である。

p104
FSX計画を通じて林たちが得た米国の本音。林たちの志を受け継いだ大古和雄や安江正宏といった「心神第一世代」以降、戦闘機開発にかかわる人間は皆、それを骨身に感じていた。

だからこそ、彼らは水面下で開発計画を進める際、常に米国の存在を背後に感じながら慎重に策を練っていたのである。

ただ、FSX紛争当時は経済摩擦という特殊な政治環境もあった。戦闘機という一つの兵器システム開発を、日本による核武装や空母建造と同列にして論じることにもやや無理はある。

やがて世紀も変わり、日米経済戦争は過去の歴史となった。二十一世紀の今日・米国は中国の台頭という新たな安全保障上の「現実」を視野に入れ、日本の防衛力強化を推奨している。それなのに、なぜ先進技術実証機「心神」の開発を邪魔立てするような態度を今なお、取り続けるのだろうか。

「やはり、米国は「槍」や「弓」の類(戦闘機)を日本にやらせたくないのだな……」
同盟国ではないフランスに「心神」のモツクアップを持ち込んでの試験。技本の国産・自主開発派はそこに改めてFSX以来、日米間に横たわり続ける「同盟の呪縛」を感じざるを得なかった。

JASDF's New Cargo Aircraft XC-2(C-X) Test Flight 2010-01-26
CX(C-2)

JMSDF's New Patrol Aircraft XP-1(P-X) Test Flight 2007-09-28
PX(P-1)

相次いで開発した純国産次期対潜哨戒機PX(P-1)と次期輸送機CX(C-2)は、日本航空機産業の命脈を保つ意味で、非常に画期的な出来事だ。PXにしてもP3C導入前には、純国産対潜哨戒機を元々開発予定であったものがロッキード社と田中角栄政治的圧力で潰された過去があった。また、C-1についても、社会党など野党の圧力で、航続距離が短い可哀そうな機体となってしまった過去がある。

今回輸送機と対潜哨戒機という異機種間でのファミリー化に成功したことは、日本航空機産業の優秀性を表す。共用化による量産効果によるコスト低減と航空機産業の維持には欠かせない。

そして心神開発プログラムATD-Xは、FSXで煮え湯を呑まされた日本航空機技術陣が執念で、ゼロ戦の遺伝子を後生に伝えるべく戦闘機開発のノウハウを維持する為にはなくてはならないプロジェクトだ。日本航空機産業が第四次FXに間に合わないことは承知で、次のF-15後継、第五次FX選定の第六世代戦闘機として、何とか開花させるたいと願っている。いわば、ATD-Xは日本航空機産業のノアの箱舟でもある。

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ATD-X心神

第六世代への道
p218~220
2009年4月13日、米ワシントン・ポスト紙に異例の寄稿記事が掲載され乍筆者は米空軍制服トツプのノートン・シュワルツ参謀総長と、マイケル・ドネリー空軍長。この寄稿の中で二人は焦点となっていた第五世代戦闘機F22の追加生産を断念し、同じ第五世代機であるF35の本格量産に軸足を移すとの決意を表明したのである。

先述しているようにF22の生産打ち止めを主張していたロバート・ゲーツ国防長官に対して、シュワルツは一時、米空軍主流派の意見を背景に反旗を掲げ、F22.20機の追加生産を主張していた。その動機にっいて、一シュワルツは本格的な量産段階に入っていないF35の「信頼性」に100%の確証が持てるまでは、F22の追加生産を「保険」として確保すべきだと考えたと釈明。その上で「F22」からF35の生産へと移る時だ」と述べ、ゲーツに対して「完全敗北」を宣言し、F22の増産を断念する意向を明らかにしている。

これだけでも世界の航空関係者の耳目を引く内容だが、この寄稿にはさらに注目すべき一文が盛り込まれていた。

「この先、数年以内にも将来の制空権確保に必要な第六世代戦闘機の開発作業に着手する」

ドネリーとシュワルツは寄稿の中でこう記している。現在、世界最強と言われる第五世代戦闘機、F22を超える存在と見られる第六世代戦闘機。第二次世界大戦以降、世界の戦闘機開発を常にリードしてきた米空軍が二十年以上も先を見据えて、その開発に本腰を入れることを公式に宣言した瞬間だった。

それから半年以上前の2008年晩夏。防衛省の技術研究本部は財務省に提出した概算要求項目の中に、「先進技術実証機の研究」を初めて盛り込んだ。手始めとなる二〇〇九年度要求分は104億円。研究開発期間は2009(平成21)年度から2015(平成27)年度までとなっており、最終的な要求総額は合計399億円という内容である。

1990年代半ば、技本の航空エンジニアたちが目指した「2008年度には実際の機体として飛ばす」という当初目標から大きく遅れはしたものの、この予算請求には大きな意味があった。

これまで技本が財務省に先進技術実証機「心神」に関する技術開発予算として要求してきた名目は、あくまでも「高運動ステルス機のシステム・インテグレーションの研究」など間接的な表現にとどまっていた。だが、今回はそこから一歩踏み出て、航空自衛隊の要求項目として「高運動ステルス機の作成」と明記していたのである。それはFSX(F2)に続いて「心神」を母体とする「日の丸ステルス戦闘機」が将来、日本の空に羽ばたく可能性をも意味していた。

「何としても今回は『飛ぶ機体』を作る」
1990年代から続いてきた「心神」プロジェクトにかけるエンジニアたちの積年の思い。それは財務省が下した「総経費394億円、うち2009年度は85億円」という査定となって結実した。これを受け、技本のエンジニアたちは「2013(平成25)年末」までに初の「日の丸ステルス戦闘機」を日本の空に羽ばたかせるべく、研究活動を続けている。

とはいえ、その時点では第五世代のF22やF35といった米国製戦闘機、さらには中国、ロシア空軍に所属する第五世代機もすでに実戦配備されていることは確実と見られる。いわば「周回遅れ」にも近い開発日程について、防衛省技術研究本部で実証機開発を担当する鈴内克律第3開発室長ら現在の「心神」担当者たちも重い「現実」として受け止めている。

この「高運動ステルス機の作成」の狙いについて、かつて航空機課長としてFSX技術の移転問題を巡り、対米交渉のテーブルに着いたこともある防衛事務次官の増田好平は、「戦闘機技術の蓄積が狙い」と説明する。つまり、将来を睨み、実際に機体を作成することで未来の戦闘機に必要な最新の要素技術を開発・習得し、第五世代以降、すなわち第六世代戦闘機の技術革新にも備えるという意味である。