茨の道に挑む 続投バーナンキ【NEWSWEEK:2010.2.10】

ロパート・サミュエルソン[NEWSWEEKコラムニス]

米経済2期目のFRB議長信頼回復への課題は
議会の包囲綱突破とゼ□金利政策の解除だ

1月28日、米上院はペン・パーナンキFRB(連邦準備理事会)議長の再任を承認した。
2期目の課題は単純明快、信頑の回復だ。もちろん彼1人の仕事ではない。
パラク・オパマ大統領とティモシー・ガイトナー財務長官の力も必要だ。
それでもFRB叢長の言動は非常に重要であり、バーナンキは厳しい試繍に直面している。

経済学の教授(パーナンキもその1人だ)の間では、「経済政策」は企乗や消費者の行動(雇用か解雇か、消費か貯蓄か、投資か買いだめか)を左右する金利、税率、財政支出、規制をめぐる意思決定とされている。この理解はせいぜい半分しか正しくないと、パーナンキはもう気付いているはずだ。

イギリスの経済学者ケインズ「アニマルスピリッツ(非合理的なまでのビジネス的情熱)」と呼んだものを、われわれは「感情」と呼ぷ。過信は好況に拍軍を掛け、不況は不安をかき立てる。景気回復のためには楽観主義が必要だ。さもないと消費者は財布のひもを締め、企業は雇用と事業拡大を先送りする。

信頼が既に回復していることを示すデータは多い。ギャラップ社の世論調査によると、経済危機が最も深刻だった08年10月、アメリカの景気が「悪い」と考える人はアメリカ人の73%、「悪化している」と考える人は83%に上った。それが今年1月半ぱには、それぞれ47%と58%に減少している。

債券金利の多くは大幅に下がった。優良社債の金利は08年10月の9・5%から現在は6・2%に、金融機関のリスク回避傾向は薄れ、信用市場は回復基調にある。

しかしまだ危うい。失業率は10%で、今後数年は高止まりする可能性がある。米議会予算局の最新の見通しによると、今年は平均10.1%、11年は9・5%、12年は8%そうした状況で、信頼回復を目指すパーナンキは2つの難題に直面する。

”監督機関FRBを監督”

ーつは、ワシントンには自信回復の邪魔をする連中がかなりいること。その理由は単純だ。

危機は一般に「私たち全員の問題だ」という政治的団結か、「悪いのは私ではなくあいつらだ」という政治的駆け引きのどちらかにつながる。今回の危機では後者が多い。もちろん事実を解明して是正することは必要だが、いま行われているのは時代遅れのスタンドプレーだ。

バーナンキが危機を予測できなかったのは事実だが、彼の果敢な対応はダメージを最小限に抑えた。
パーナンキとFRBをウォール街の手先と非難すれぱ、大衆の受けはいいだろうが、それでは不況の真相は分からない。にもかかわらず、大手金融機関に対するFRBの監督権限を制限し、金融政策決定を政府が「監査」する法案が議会で検討されている。

危険だ。危機に際するFRBの迅速かつ断固たる行動力は信頼の柱のーつ。それが景気悪化を食い止めていると言っていい。しかし今のままだと、設会によってFRBの権限が縮小されかねない。もしそうでなくても、過剰な非難でFRBが萎縮してしまう。

医療保険制度および金融制度の「改革」をはじめとする未解決の政策課題が、それに追い打ちを掛ける。オバマ政権が医療保険改革法案を強行しようとしたのはまずかった。摩擦の種をまくと同時に、時聞を取られ過ぎて、ほかの問題で身動きが取れなくなった。おかげで企業が今後の収益を予測できず、そのピジネスプランや事業拡大意欲にも悪影響が出た。

2つ目は技術的な問題だが、やはり重要だ。危機の間、FRBは米経済の大半に対する「最後の貸し手」になった。特別融資制度を新設し、銀行やマネー・マーケット・ファンド(MMF)、コマーシャル・ぺーパー(CP)市場を支えた。FRBによる融資はー兆ドルノ以上増えた。こうした融資制度が恐慌を食い止め、金融機関は融資を再開した。

”出口をめぐるジレンマ”

そのほとんどは2月1日で終了したが、FRBは別のところで融資を拡大した。長期金利を下げるぺく、1兆7500億ドル分の米国債と住宅ローン担保証券を購入すると約束したのだ。一部の住宅ローン関連証券では1ポイント、10年債では0.5ポイント金利が下がったとの調査結果もある。

問題は実質ゼロ金利政策も含めた金融緩和策を、いつどのように終えるか。米国債の購入は既に終了し、住宅ローン関運証券の購入も3月で終わる予定だ。

FRBは昔ながらのジレンマに直面している。金融緩和をあまりに急いで終了すれぱ、金利が上昇して景気回復を妨げかねない。といって長引かせれぱ、インフレ期待が高まってドルヘの信頼喪失につながる恐れがある。

バーナンキは再任の喜ぴをかみ締めているはずだ。ただし、信頼を回復できるかどうかは、膨大な政治的・経済的課題に彼がどう対応するかに懸かっている。

バーナンキ議長は、もともと世界恐慌を研究する経済学者であったが、共和党のブッシュ前政権のときにFRB理事⇒大統領経済諮問委員会(CEA)の委員長を経て、グリーンスパン前議長の後任として、第14 代FRB議長に就任した。

FRB議長の任期期間は4 年間(2006年2月1日~2010年1月末まで)だったが、オバマ大統領は昨年夏 に2期目を再指名していたのであったが、上院の公聴会、委員会での採決の結果、賛成16人、反対77人で承認された。反対者の多くは共和党の上院議員(民主党1名反対)だった。反対の背景に、バブル崩壊と金融危機を防げなかった金融当局、そのトップだったバーナンキ議長に対する批判があった。

オバマが1月19日の上院議員補欠選挙敗退後、唐突に金融規制改革法案を提出し、米国市場は株高トレンドから株安トレンドに転換した。

一般教書演説では、金融規制改革への言及が少なかったが、私は一般教書演説のライターも金融規制改革法案が唐突すぎて、既に書きあがった原稿に入れづらかっただけではないかと読んでいます。

先日のオバマ案がそのまま採決されると、銀行傘下のヘッジファンドはかなりの金額の特別損失が発生する可能性が出るとの予想です。

自己勘定の取引制限については、純粋な自己勘定と顧客取引との線引きは非常に曖昧であり、厳密に制限されたら、銀行にとっては大幅な減収減益要因となる。特に投資銀行業務に強い金融機関にとっては、死活問題となり、市場が大混乱に陥るリスクもあります。

規模の制限(Limit the Size)については、銀行間のM&A 減少が予想は、大手銀行の会社分割につながる可能性もある。もし、このルールが以前からあったら、メリルリンチ、ベアースターンズ、ワコビア、ワシントン・ミューチャル、カントリーワイドなどは救済合併されず、金融危機がもっと深刻なものになっていた可能性がある。 それゆえ、今後再度危機が発生した場合迅速で適切な対応ができなくなる可能性があります。

ポピュリストのオバマ大統領の無能ぶりは、予想をしていたこととはいえ、中身のない政権支持率維持のためのパフォーマンスや余計な政策は、FRBバーナンキ議長の奮闘を台無しにしそうである。2009 年3 月に始まった米国株の上昇局面が2010 年1 月でいったん終了したと思います。

米国は悲観論者が皆念仏のように唱える米ドル紙屑論で、恐慌になるようなことはいまのところはないとは思うが、ポピュリストオバマ大統領では楽観的な見通しも出来なくなってきた。

「大手金融機関に対するFRBの監督権限を制限し、金融政策決定を政府が「監査」する法案」が可決されるような事があれば、私は悲観論者に宗旨替えするかもしれません。

恐慌突入を回避したバーナンキFRB議長といえども、体を雁字搦めに縛られ、水槽に浸けられれば魔術師でもない限り溺死してしまう。それでもバーナンキFRB議長は魔術師フーディーニの如く脱出するマジックが出来るのではないかと密かに私を含めた金融関係者は期待している。

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                         世紀の魔術師ハリー・フーディニ