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拡大抑止カは「信用と能カ」

 
春原:さて、一般に「核の傘(Nuc1earUmbrella)」と一言われているものは、正式には英語で「ExtendedDeterrence=拡大抑止力」と言いますよね。現在もオバマ大統領に「核なき世界」の実現に向けてアドバイスを送っているウイリアム・ペリー元国防長官とこの問題について議論した際、ペリー氏は「よく誤解されているが、拡大抑止力とはただ単に核兵器だけを意味するものではない」と言っています。

アーミテージ:拡大抑止力には(在日米軍も含む)米軍の前方展開戦力も含まれます。

ナイ:その通りです。そして、拡大抑止力とは「信用と能力」から成り立っています。つまり、いくら能力だけがあっても、それに見合う信用性がなけれぱ抑止力は拡大しません。たとえぱ、一九八○年、あるいは七九年のソ連によるアフガニスタン侵攻の前、当時のアフガン政府に米国が「もしもソ連が侵攻してきたら、あなた方を守るために核兵器も使用します」と一言ったところで、あまり意味はなかったでしょう。
 
我々にはそうする能力はありましたが、まったく当てにならない(口約束だ)からです。「信用」というものは、あなたがそこにどれぐらいの思い入れや利害を感じているのか、ということと密接に結びついています。
 
そして、経済的な関係や文化・社会的な交流などから、そうした「思い入れ」はどんどん大きくなっていくのです。だから、拡大抑止力を(核兵器などの)能力だけで語るのは間違っています。我々が日本に対して持っている「思い入れ」と組み合わさることによって、その信頼度は増し、拡大抑止力の効果を最大限に発揮するのです。

春原:核戦力だけではなく、経済力やその他、多くの要因が絡み合って形成されているのが「拡大抑止力」というものですね。

アーミテージ:私とジョー・ナイはそれを「スマート・パワー」と呼んでいます。

春原:「スマート・パワー」も拡大抑止力を構成する要素の一つという意味ですね。

アーミテージ:もちろん、そうです。ハード・パワーの概念はご存じでしょうが、人々に自分が望むものを押し付ける方法(軍事力など)のことを指します。それに対して、ソフト・パワーは人々を(自分の望む方向に)説得する方法です。スマート・パワーとはその二つの要素を組み合わせたものです。つまり、部分的には軍事力であり、核兵器であり、通常兵器であり、経済力であり……。

春原:文化的なものも合めてですね。
 
アーミテージ:ええ、文化は大きいですよ!こう言うと、日本の人はいつも「一体全体、どうしてそんなことが言えるんですか」と言いますが、たとえぱソウルから東京への文化発信を見て下さい。韓流ドラマ(SopeOperas)があるではないですか。日本のポップ・グループは韓国でもとても有名ですよ。ポップ・カルチャー、現代文化が人々の概念、受け止め方を変える力はとても大きいのです。それも立派な抑止力なんですよ!
 
春原:一方で、米国内では「いつか、日本も核武装するのではないか」という嫌疑の声が消えません。実際、オバマ大統領に「核なき世界」の実現に向けたシナリオをアドバイスしている四賢人、つまりウイリアム・ペリー元国防長官、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官、サム・ナン元上院議員、そしてジョージ・シュルツ元国務長官のうち、シュルツ氏を除く全員が一度は「日本核武装論」を口にし、警戒心を露わにしています。
 
ナイ:私自身は日本が核武装を望んでいるとは思っていません。もちろん、何人かの特定できる人たちはそう願っているのでしょうが、それが主たる動機になるとも思いません。もちろん、日本には科学技術力もあり、望めぱすぐにでも核武装できるでしょう。だから、日本についてはビルマ(ミャンマー)のように能力がないからしないのではなく、望んでいないから(核武装を)していないのです。
 
ここで浮かんでくるのは「なぜ、日本はそう考えているのか」ということです。恐らく、その理由の背景には(広島.長騎での被爆など)多くの歴史があり、かつ米国の核戦力による保証があるのだと思います。もし、米国が再び、孤立主義に陥り、アジア太平洋地域からハワイぐらいにまで撤収するようなことになれぱ、日本の意見も変わるかもしれません。なぜなら、(米国の核の傘がなくなり)何の防御もないまま、日本は中国や北朝鮮による核の威嚇にさらされなければならないからです。まあ、そのようなことは起こらないとは思いますが・…:。
 
春原:実際には北朝鮮が「核保有」を宣言し、中国人民解放軍は核戦力の近代化を進め、ロシアもプーチン首相の下、かつての中央集権体制へと逆戻りしつつある。我々はあらゆる事態を想定して、抑止力を高めておく必要がありますね。
 
ナイ:全く同感です。だからこそ、米国の「核の傘」の信用力を維持することがとても重要なのです。ここで繰り返したいのですが、米国の「拡大抑止力」について信用を高めているのは、核兵器の数ではなく、日本に駐留する米軍の存在なのです。それこそが最も大きな日本への信用材料となっているのです。
 
沖縄海兵隊は核抑止カの「人質」
 
春原:話がだんだん佳境に入ってきました。そこでお聞きしたいのは今、ナイ教授が言われた「核の傘」、あるいは「拡大抑止力」と呼ぱれる政策の信用力・信頼性の問題です。歴代米政権は一貫して「日本への『核の傘』に問題はない」と公言していますが、一方で中国の核戦力近代化や北朝鮮の核開発問題など新しい現実に十分、対応しているのかという不安が残るのも偽らざる本音なのですが……。
 
アーミテージ:だから、そこで重要なのが沖縄に駐留する米海兵隊の存在と核抑止力の関係なのです。

春原:それは普天間基地をはじめ、沖縄に駐留する米海兵隊が日本にとっては実質的な「人質」となっていて、それをもって「核の傘」の信頼性を担保しているという考え方ですね。
 
ナイ:冷戦時代のベルリンを想像してみてください。人々は皆、「ベルリンのために米国はニューヨークを犠牲にはしない」と言っていました。ちょうど、「東京のためにロサンゼルスを犠牲にはしないだろう」と言うように。しかし、過去四十年間、我々が言ってきたのは、「我々はベルリンを守る。そして、ベルリンに駐留している米国の部隊がその防衛を担保して
いる」ということです。
 
春原:しかも当時、ベルリンに駐留していた米軍は小規模なものでしたよね。
 
ナイ:とても小さいものです。せいぜい、一個大隊、数千人程度でしょう。そもそも彼らは元来、ベルリン防衛のためにいたわけではないのです。ですから、ロシア人たちが彼らを追い出そうと思えばいつでもできました。ただ、実際にはロシア人が米兵を殺りくした場合、米国は必ずそれに対して報復したことでしょう。ロシア人もそれをわかっていて、だから我々は効果的にソ連を抑止することができたのです。ドイツにおいても核の抑止力を強めたのは、ベルリンに中距離核弾道ミサイルを配備することではなく、米軍をそこに維持しておくことだったのです。今日、そのロジックは日本にも当てはまります。
 
春原:その「ロジック」とは沖縄に駐留する米海兵隊のことを意味しているのですね。
 
ナイ:ええ、沖縄の海兵隊はその好例です。もちろん、青森県の三沢基地や横須賀基地なども含まれます。これらの基地、米軍兵力はいずれも日本にとって、米国の核の抑止力を最も強く担保してくれるものなのです。
 
アーミテージ:私はそれを「人質」とは言いませんよ。もし、米海兵隊に所属する我が国の青年、婦女子たちが日本防衛のために命を落とすようなことがあったとすれぱ、それは我々の核抑止力の信頼性を増すことになるでしょう。もし、通常兵器の戦闘によって彼らが命を落とすようなことになるのなら、我々は迷うことなく「核の傘」を日本の空の上に広げ、日本全土と彼ら(米海兵隊員)を守ります。私が言わんとしたのは、そういう色々なニュアンスのこもったメッセージであり、単純に「人質」というわけではありません。
 
春原:極めて高度な政治的メッセージですね。
 
アーミテージ:その通りです。
 
春原:にもかかわらず、鳩山・民主党政権は当初、沖縄米軍.普天問基地の移設先として「国外」を主張していました。まあ、後に鳩山由紀夫前首相は「抑止力の意味がわかった」と述べていたので、少し考えを変えたのかもしれませんが…。
 
ナイ:日本の政治家やジャーナリストはその点をもう少し日本の世論に伝えた方が望ましいですね。つまり、沖縄に駐留する米軍は基本的に「人質」の役割も兼ねているのです。
 
春原:その論点を米太平洋軍司令部の将官たちに指摘すると、彼らは嫌な顔をしますが…。
 
ナイ:もちろん、彼らはそうは考えたくはないからです。しかし、「米兵たちをそこに置いておく効果は何か」と問えぱ、それは「核抑止力の保証だ」ということにもなるのです。
 
春原:オバマ政権でアジア政策を担当するカート・キャンベル国務次官補は二〇一〇年春から日本の外務・防衛当局と「核の傘」に関する初の政府問公式協議を始めました。それも信用力をあげるための一環でしょうね。
 
ナイ:そうした対話の場を持つことは良いですね。我々も拡大抑止力がしっかりと機能することを示すため、様々な方法でこの問題についてもっと日本側と意見を交換すべきだと思います。日本は非核三原則を堅持しながら、米国による「核の傘」についても自信を深める必要があります。実際、日本がロシアや中国、北朝鮮によって脅される場合、米国が日本防衛に真剣に取り組むということを確信してもらいたいですね。

3.11後日本人が核を原子力を含めて拒絶する傾向が深まった。
この事実は、日本の核保有議論や、反米保守議論、さらには憲法改正議論が難しくなったことを意味します。
 
村上春樹氏が原子力平和利用を含め全ての核に反対すると宣言したように、原子力発電所も全廃したいと考える日本人が増えたのだから日本の核兵器の保有など、非現実的になってしまったと考えるべきです。
 
もし、日本が核を保有すると決めるなら、それは中国や朝鮮から日本に核が打ち込まれ、米国が反撃しなかった場合になるでしょう。
 
そう考えると、反米かつ非核宣言する人達は、中国や朝鮮から核による脅しや攻撃を受けやすくなることを考慮しなくてはなりません。実際に中国や朝鮮からの核による威嚇をされたなら、将来日本が核を保有すると決意させることになるのです。
 
反米かつ非核宣言する人達は自分達こそ日本の核保有の遠因になるということに気がついていないと私は思います。
 
ただし、国防的視点からすれば、攻撃目標としての日本の原子力発電所は危険極まりないもので、その視点からすれば全廃すべきなのかもしれませんが、現状では必要不可欠です。
 
仮に原発を全廃して今度は中東で戦争が発生して石油や天然ガスが入ってこなかったら日本は3.11直後の状態で済まなくなります。
 
原子力発電所や国防については感情論ではなく、冷徹な国益を考えた政策が必要であると私は考える次第です。

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