
p158-161
二〇〇八年のリーマンショック以降の世界金融危機でも、格付け機関の意見はまったくあてにならないことがわかったっアメリカで格付け機関の幹部たちが「自分たちに責任はない」と逃げ回るシーンをテレビで見たのは、一般の国民の記憶にも残っているだろう。
サブプライムローンのような非常にリスキーなデリバティブ商品が売れたのは、大手格付け会社が高い評価を与えていたからである。投資家は人手格付け会社の「トリプルA」を信頼してサブプライムローンなどの不動産証券化商品と関連デリバティブ商品を買い続けた。
こうした金融商品が実態以上に高い評価になった裏には、格付け会社の性格かおる。格付け会社は一般の民同企業でヽ収益源は金融機関などからの手数料である。格付け会社は、証券の発行体や証券化商品を組成するインペストメントーバンクに格付け付与者として指定され、報酬を得ている。 つまり、客は金融商品の売り手だ。
商売を優先すれば、当然ながら客の要望に応えることになる。 たとえ危ない商品でも、手心を加えるだろう。こういう構造的な問題を抱えている格付け会社がヽ厳密な分析に基づいて格付けをしているとは、とても思えない。
存在しない国情を格付けした格付け会社
私の国債課時代の経験でも、いい加減な事件があったっ国債格付けは債券発行ごとに行われるのだが、資金調達不要になって休債した国債が格付けされ、世界に配信された。要するに、格付け会社は何も見ないで格付けしているのだ。
私か指摘して初めてその醜態が明らかになり、さすがに、そのときはアメリカの本社からお偉方がわざわざ日本まで謝罪に来た。 ついでなので、国債の格付けをするときには予算書を読んでいるのかと質問すると、「読んでいない」。これできちんとした財務分析が行えるわけがない。
二〇一一年の格下げのリリースを読んでも、綿密な調査・分析に基づいているとは思えなかった。たとえばS&Pのリリースには、『日本の政府債務比率は……』取も高いレンジにある」という記述があった。これは政府資産を考慮しないグロス債務比率であり、バランスシートの片側しか見ないという意味で不十分だ。
先述した通り、バランスシートで見れば、政府負債は1000兆円でも、政府資産が六〇〇兆~七〇〇兆円もある。日本の政府資産比率は先進国で最も高く、その大半は民営化などで売却可能なものが多い。しかも、その多くのものは役人の天下りのために存在している。
とくに日本政府が抱える約五〇〇兆円の金融資産のうち約三〇〇兆円を占める「現金・預金」「有価証券」、特殊法人への「貸付金」「出資金」などは、すぐに国民の手に戻すことができる(図表5「日本政府の貸借対照表」の太字で示した部分)。
また、一般政府財政赤字の対GDP比率が高止まりしているという記述もある。日本の場合この比率は、一般政府で見ると多くの国・地方の特別会計が除かれてしまうので、国・地方の財政状況を見るためには不十分な指標だ。このような指標で政府の財政状況を論じるのでは特別会計のいわゆる「霞が関埋蔵金」などは当然、考慮外だろう。
p212-217
「役人天国」の資金となる五〇〇兆円
経営難に陥っている会社は、従業員の賃金カットやリストラを考える前に、保有している資産を切り売りする。民間なら、当たり前の話である。ならば政府は増税の前に政府資産の売却をする これまた当然の道筋だろう。
事実、日本と同じく財政難に陥っているイギリスでは、空母をネットオークションにかけるという案まで浮上している。
日本政府は六〇〇兆~七〇〇兆円にもLる膨大な資産を保有しているのだから、処分できるものは処分すべきだろう。とくに六〇〇兆~七〇〇兆円のうち五〇〇兆円を占める金融資産(現金・預金や有価証券のほか、特殊法人などへの貸付金や出資金、および年金積立金管理運用独立行政法人への預託金など)は、年金見合い資産一二一兆円を除けば、原則として売却できる。
しかも、この五〇〇兆円は、官僚の天下り先への資金提供なので、売却によって天下り法人も原則廃止できる。
ところが、日本では政府資産の切り売りの話はなかなか出てこない。
日本の中央官庁の一つの特色は、業界の規制に関わるセクションが多い代わりに、消費者の利益を守る仕事は少なく、携わっている人間も非常に少ないという点てある。規制と許認可権によって、業界に権限を行使しているため、民間も天下りを受け入れる。
しかし、役人天国の源になっているのは、規制だけではない。六〇〇兆~七〇〇兆円という膨大な保有資産の威力がある。
膨大な資産を保有するとは、裏返せば政府の外郭団体が非常に大きいということを意味している。多くの外郭団体や特殊法人に資金を融資しているから、結果的に資産が巨額になる。そして、融資の見返りとして天下りポストを拡大しているのだ。
この意図で霞が関がつくった特殊法人や独立行政法人は、実に約四五〇〇。そこに二万五〇〇〇人が天下りし、国費が一二兆円も注ぎ込まれている。この数字を見れば、日本の公務員の数が少ないというのもまやかしだということがわかる。
これら法人が何らかの役割を果たしているのなら、まだ救われるが、先述のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のように業務は民間に丸投げのところが多く、中間搾取するだけの存在になっている。要は、官僚OBを養うための組織でしかない。
霞が関が大きな権限を握り行使できる仕組みかおるからこそ、官僚たちが「役人天国」を謳歌できるという構造になっているというわけだ。
したがって、役人大国を解消するためにも、資産のスリム化か必要で、小泉改革ではその一環として郵政の民営化を行い、あまたある独立行政法人なども民営化する方針を決めた。
民営化すれば、無駄なカネを注ぎ込む必要もなくなるし、政府の保有する株を売って、そのカネを国民のために使える。
だが、当然ながら、霞が関はパワーの源泉である資産の売却を何とか阻止しようとする。
たとえば財務省は、財政関係のパンフレットに、「我が国政府の金融資産の多くは将来の社会保障給付を賄う積立金であり、すぐに取り崩して債務の償還や利払いの財源とすることができない」と予防線を張っている。
バランスシートが苦手な学者やマスコミは、この財務省の言い分を鵜呑みにし、そのまま発言する人が多いが、これが真っ赤な嘘であるのは、バランスシートをチェックすればわかる。
金融資産五〇〇兆円の内訳を見ると、貸付全一五五兆円、有価証券九二兆円、出資金五八兆円、運用寄託金一二一兆円など。財務省の取り崩せないとする年金の積立金は一二一兆円で、資産の二割程度に過ぎない。財務省の「多くが積立金」という表現は詐欺的であることがわかるだろう一六〇ページの図表5参照)。
固定資産を除く三〇〇兆円くらいは容易に売れるはずだ。
官による小泉改革へのネガティブキャンベーン
小泉改革の「民でできることは民で」は、裏返せば政府資産のスリム化を目的としていたわけだが、小泉政権が退陣後、霞が関の凄まじい巻き返しが始まった。それに先立ち、霞が関かマスコミを使って展開したのが、小泉改革に対するネガティブキャンペーンである。
財務省と経産省が互いにバーターで斡旋するケースも考えられるので、所管が違っても役人同士の斡旋は禁じた。しかし、国会議員である大臣の斡旋には触れていない……。
国会議員は公務員ではあるが、特別職だ。法技術的な観点もあって、あえて公務員法の対象にしなかった。それ以前に、まさか省庁のトップである人臣が率先して斡旋するなどというケースは考えられなかったのである。
部下がやれば罪になることは、上司がやっても当然、罪になる。役人に範を垂れるべき立場にある大臣が、よもや官僚OBの斡旋という違法行為に手を染めるなどとは、想定しなかった。
しかしそれを、亀井氏は、処罰の対象でないからとやった。役人は役人で、人事に関する事務はやったが、大臣の指示に従ったのだから公務員法には抵触しないといい、結局、前代未聞の大臣の斡旋は誰も処罰されることなく終わった。
言い換えれば、財務省は亀井大臣を主役にして、改正国家公務員法の穴を突いたのだ。
自民党から自分を追放した小泉憎しで、郵政国有化に執念を燃やす亀井大臣の下、郵政事業の四分割も見直され、郵政株の売却も見送られ、実質、国有化に逆戻りした。まさに財務省のシナリオ通りである。
郵政ファミリーは巨人な利権集団である。郵政関連企業は約二〇〇社もあり、霞が関の役人が多数、天下つている。一社当たり二、三人だから、五〇〇~六〇〇人が天下っている計算になる。
大口利権の剥奪を阻止した霞が関の官僚たちは、快哉を叫んだに違いない。
小泉改革の理念は間違ってはいなかったが、だが問題なのは小泉純一郎の個人的資質に問題があったと思う。小泉改革の失敗は派遣雇用法の失敗もさることながら、理念なき小泉純一郎のポピュリスト的性格が小泉改革を不完全な改革として災いした。不完全な制度改革は制度を壊しただけで世の中を壊すだけの騒動になってしまったのだと私は思う。


コメント