アベノミクス、始まりの終わり

景気回復の実現には時間がかかる金融引き締めや消費税引き上げで回復を邪魔しないことが成功の鍵だ

いま世界で最高に強い政治家は誰か半年前なら、たぶんアンケラ・メルケル(ドイツ首相)やウラジーミループーチン、ロシア大統領の名か挙がったことだろう。順繰りで誰にも歌う順番か回ってくるカラオケーバーみたいな日本の政界から強い指導者が出現するとは、誰も予想だにしていなかった。

それがどうだ。先進国でも途上国でも政治家が景気に振り回されている今、なぜか強い指導力を発揮しているのは日本の安倍晋三首相だ。市場が政策転換を促すのはよくあることだが、日本では今、政策転換が金融市場を動かすという好ましい現象が起きている。

アベノミクスが目指すのは「管理されたインフレ」の実現だ。物価上昇率の目標を定め、達成するまでは大胆な金融緩和続ける。そうすることで15年来のデフレから脱却し、経済を再生して強い日本を取り戻す。順調にいけは 誰もが長きにわたりその恩恵に浴するたろう。

だか、ここまで長く続いたゼ口成長を反転さヤるのは容易なことではない。その実現にはすべての人の気持ちを・前向きに変える必要がある。投資家も貯蓄家も、経営者も労働者も、銀行も起業家も、もちろん毎食がラーメンの庶民も、みんなが前を向く必要がある。

それには、いつもの日本のおとなしいやり方ては駄目だ ガツンと一発かますくらいの勢いで臨まなければ成功はおばつかない、誰からも不満が出ず、誰もが今までどおり「管理されたデフレ」のぬるま湯に漬かっているようだと、アベノミクスの失速は時間の問題だ。


政策の大転換が起きれば、必ず勝者と敗者が生まれる。敗者の声が勝者の声より大きいのは世の常だ。しかし勝者は耳を貸さず、黙々と勝利を重ねる。

荒れ相場さえも良い兆候

株式市場のこのところの乱高下に慌てた人たちからは、この世の終わりだという悲観論や、デフレの日々を懐かしむ声が上がっている。

「株価は5月末に急落し、住宅ローン金利は上昇している。アベノミクスは大失敗だ!」 「日本はギリシヤと同じ道をたどっている。国債も通貨も落ちるところまで落ちるぞ」                                                             (略)
アベノミクスの第1段階で、こうした不満の声が上がるのは無理もないことだ。この時期に起こる最大の変化は金融市場の激しい動きなのだから。

一般の国民が景気の回復を実感できる第2段階に入るまでには時間がかかる。一般論として、金融政策の効果が実感できるようになるには9ヵ月から1年ぐらいかかるものだ。

通常、景気回復の兆候は市場金利のヒ昇として表れる。日本銀行の黒田東彦総裁は早過ぎる金利上昇を警戒しているようだが、アベノミクスが成功して賃金や物価、不動産価格が上がるためには金利の上昇が避けられないことくらい、誰でも分かっている。すっかり慣れ親しんだ超低金利を永遠に続ければ、景気後退が永続するだけだ。

実際、金利に上昇圧力がかかっているのは、2%の物価上昇に懸ける日銀の本気度を市場が確信している証拠だ。

一方、アベノミクスがいくらすごくても株価が毎月10%ずつ上がり続けることはなく、どこかで必ず調整が入る。上げ相場になれば懐疑心や不安が頭をもたげる。誰もが強気で安心しきっているときが一番危ない。

このところの株価急落も、市場がアベノミクスの第2段階に身構えている証拠にすぎない。

それに、株安の動きは、FRB(連邦準備理事会)のベン・バーナンキ議長による「量的緩和の縮小」発言が原因の一つとも言われているくらいだ。

アペノミクスの第1段階を主導した不動産と金融株は(日本が円高不況から抜け出した87年前半と同じように)既に失速しかけている。今後は真に利益率を改善させた企業が牽引役となるしかない。

第二次大戦中に英国の首相ウィンストン・チャーチルが戦争について語った言葉を借用するなら、最近の荒れ相場はアベノミクスの「終わりではなく、終わりの始まりでもなく、始まりの終わり」なのだ。

(略)

長く続いた悪いサイクル

今から考えると信しられない話だが、当時の日本では資産価格が崩壊しても実体経済の活動に影響はないと広く信じられていた。大蔵省(現在の財務省)、日銀、大半の経済界の指導者は、不動産や株のような「象徴経済」における投機の行き過ぎを是正しつつ企業の競争力を維持できると信じていた。

しかしこれほど的外れな考えはなかった。彼らが見逃したのは資産市場と実体経済の活動には複雑で相互的な関係があるということだ。株と不動産が暴落しても負債はそのまま残っていたから、企業や世帯のバランスシートには大きな穴が開いた。

企業は現金を捻出して借金を返すために設備投資を減らし、国民は消費を控えた。おかげで経済成長は弱まり、企業利益も家賃収入も減って、株価と不動産価格はさらに下がる。これが長期にわたるデフレースパイラルの始まりである。

日本の関係官庁が座視してきた円高も拍車を掛けた。90年のバブル崩壊時、円相場は1ドル=150円。それがゼロ成長の果ての野田政権下では77円にまでなった。結果として日本の競争力はさらに低下し、日本のバランスシートも一段と悪化することになった。

円高のおかげで日本の膨大な海外資産の価値は下がり続けた。膨れ上がった不良債権は帳簿から除かれ、特別損失として計上された。

もしアベノミクスが効果を発揮したら、こうした悪循環は解消されるだろう。資産価値は今よりも上がって経済成長を後押しし、それが資産価値をさらに高めるという好循環に転じる。バランスシート不況から「バランスシート景気」への転換だ。

現在までのところは驚くほど順調だ、日経平均株価は6ヵ月で約70%上昇し、市場全体の価値は約150兆円も増えた。それに比べれば、最近の調整は大したものではない。                                      


日本の海外純資産残高(企業や政府、個人が国外に所有している資産から負債を引いた額)は世界で断トツの1位。日本がギリシャの二の舞いになるなどという予測は見当違いも甚だしい。円安だと海外純資産の円換算価値は上昇する。今のように対ドル為替レートで30%の円安になると海外純資産は約70兆円増えることになる。
                                                最初は疑惑の目で 見ていた世界も今では賛意を示すいずれ自分たちも利益を受けるからだ                           
キーワードは「持続可能」

それだけではない。現在の日本の資産が最も集まっているのは不動産市場(最大で株式市場の約3倍)で、大半が都市部に集中している。15%いう不動産価格の上昇は約180兆円の増加につながるだろう。

いずれも大まかな数字だが、全部合わせると日本のGDPが約90%も増える計算になる。

アベノミクスが国の「自己資本」をこの規模で持続的に増やせるなら、日本の経済・社会には劇的な変化が起きるだろう。
潤沢な資金を持つ企業は攻めに転じるだろう。設備投資を増やし、大胆な企業買収に乗り出し、従業員の賃金を上げ、株主への配当も上げるかもしれない。

銀行は融資を増やし、リスクを取るようになる。消費者は財布のひもを緩め、価格よりも品質を求めるようになる。労働市場も売り手市場になるから、特に若い労働者には朗報だろう。

楽観的で積極的になった日本は、デフレによる停滞の長いトンネルを抜ける。時がたてば景気回復によって日本の国際的な地位も高まり、大きな戦略的利益がもたらされる。

だが本当に「持続可能」だろうか。資産価値の上昇が持続可能なものかどうかは、時がたってみないと分からない。日本の持つ資産価値が既に過大評価されているとすれば、これは危険な戦略といえる。だが日本の株価は今でも28年前の水準を回復していない。そしてOECD(経済協力開発機構)による最近の調査では、日本の住宅価格は調査対象の27力国の中で最低だった。この状況で資産バブルを心配するのは見当違いだ。

別の危険もある。経済が成長軌道に乗る前に金融引き締めに転ずるという大きな過ちを、日本政府が再び犯す危険だ。

アベノミクスの基本である金融緩和、財政出動、成長戦略の「3本の矢」のうち、最初の金融緩和は(金融市場の動きが示すように)成功だった。

3本目の矢である成長戦略は結果を出すまでに時間がかかる。
安倍の提案に対する有識者の反応は総じて批判的だったが、彼はすごい数の問題に収り組んでいる。TPP交渉への参加、対外直接投資の倍増、薬のオンライン販売の解禁、育児支援の強化、電力産業と農業の再編、海外留学生数の倍増などなど。1年前の日本とは大違いだ。これらの目標の4分の1でも実現すれば素晴らしい成果といえる。

消費税引き上げの陥穽(かんせい:おとしあな)

最も問題なのは、2本目の矢である財政出動だ、景気悪化を導いた97年のように、消費税の引き上げは景気の失速を招きやすい。ここ数年のイギリス経済は、財政引き締めの悪影響が金融緩和のメリットを上回った恰好の例だ。

GDPの2%分にすぎない増税のために、なぜ資産価値の大幅な増加を犠牲にするのか。1930年代にデフレ脱却を達成し、アベノミクスの手本になったといわれる時の大蔵大臣、高僑是清ならそんなことはしないだろう。当時と同じ低成長期の今、早過ぎる金融引き締めのリスクは遅過ぎるリスクをはるかに上回る。

国際的な意味合いもある。安倍政権は外交で見事な成果を挙げている。日本の主要な貿易相手国や主要先進国、IMF(国際通貨基金)などは、最初の頃こそ疑惑の目で見ていたが、今ではアベノミクスに賛意を示している、日本経済の復活は日本を利するだけではなく内需の増加を通じて諸外国の輸出産業も恩恵を受けると考えるからだ。

しかし日本の内需が低迷したら、このシナリオは通らない。その時点で世界経済がまだ低迷していれば(その可能性は高い)、日本は他の地域から成長を盗み取り通貨戦争の炎をかき立てていると非難されかねない。安倍が日本経済を真の復活に導くには、その「3本の矢」を文字どおり矢継ぎ早に射続ける必要がある。少なくとも3%の名目成長率を何年か続けて維持できるまでは手を緩められない。
そうしてこそ未来は明るくなる。(略)

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6月13日自分の予想を上回る下落に自信を無くしかけていたが、久々にピータータスカ氏の評論に目から鱗が落ちた。

最近週刊誌の悲観論記事をいくつもコピペしているが、アベノミックス金融緩和政策に批判的な評論家達は「バブルは終わった!」と暴落に嬉々としている。特に同志社大学大学院教授浜矩子「アホノミクス」と揶揄する始末。浜矩子「1ドル=50円」説をとなえていたがアベノミクスに粉砕されてしまい逆切れしたのだろう。

メディアは個人投資家は株を高値でつかんだ末、ヘッジファンドの売り抜けに貢献させられたと被害妄想を掻き立てられているのだが、現在、外国人の持ち株比率は
3割近くに達しているのだから、日本の個人投資家だけが被害者というロジックはちょっと違うだろう。

外国人投資家にとっていわゆるライブドア事件によって「日本は株主を大事にしない」とのイメージが強まった。外資の日本株担当アナリストが減らされ、日本株はウオッチされない真空地帯だという。ここにきた外資は世界第三位の経済大国である日本株を再評価しだしたと思う。株価暴落後も、外国人投資家は、株価が割安になる機会を待っている。

1987年のブラックマンデーでは一時的に日米とも1~2割株価を下げて荒れたが、実体経済に影響はなかった、経済政策で問われるべきは株価でなく生産や雇用なのだ。

 株価が時に乱高下するのは、経済に体温が戻ったからこそ。
アホな評論家に右往左往せず扇情的なメディアの見出しに踊らされず、長期的に実体経済の行方を見定めようと思う。