
アメリカは世界のリーダーでありつづける
これから十年後、国際情勢はどのように変化していくのだろうかひ米欧日など主要先進七力国で構成するG7も、新興国を加えたG20も機能しない「Gゼロ」とはユーラシアーグループ代表であるイアン・ブレマーの言葉だが、十年後にアメリカはまだ、世界のリーダーでありつづけているだろうか。
私の答えはイエスだ。中国はどこまで台頭するのか、ということが議論の対象になっているが、そうなるにしても、まだ先のことである。
米欧日を合わせたGDPと中国のGDPを比べたとき、まだまだ中国は小さなプレーヤーでしかない。
一方、米欧日グループのなかの一位はもちろん、アメリカだ。アメリカとEUの経済規模はおおよそ同じだが、当然ながらEUとは違って、アメリカは単一の政府である。だからこそ、アメリカは十年後にも世界のリーダーでありつづけるのだ。
ビッグデータが激変させる世界経済
十年後の世界経済ははたして、いまよりもよくなっているだろうか。
私は悲観、楽観両方の意見をもっている。おそらく状況はいまより改善するだろう。しかし成長スピードは鈍化する。いずれはいまのような状態からは脱却できるだろうが、そのためには時間が必要だ。
二年後の世界経済についてはまったく楽観的でない。五年後になるとそれより少し楽観的になり、十年後はさらに楽観的になる。十五年後はますますその楽観に拍車がかかり、三十年後にはコンピュータがわれわれよりも賢くなって、代わりに悩んでくれる。
つまり、将来になればなるほど、私は楽観的な気持ちを抱けるようになる。おそらく三十年後、世界経済はITが牽引していくだろう。とくに従来のデータベース管理システムでは記録や保管、解析が難しい巨大なデータ群、すなわちビッグデータがITの可能性を拡大し、経済にも甚大な影響を及ぼす。
すでにその兆しはある。音声認識技術のテクノロジーの進歩は驚くべきものだ。いまから五年前、それは悪い冗談のような水準でしかなかった。いまでもかなり不完全ではあるが、まったく使い物にならなかったころに比べれば、かなりマシだ。
誰かから受け取った電話メッセージが活字になって残される。それはビッグデータがあるからこそ可能だ。われわれがいまできるのは膨大なデータベースを使い、会話を活字に変換するだけである。コンピュータが話せるようになると思われていたが、いまだにそれは実現していない。
機械翻訳も同じことだ。かつてそれはまったく役に立だなかった。そこからずいぶん改善がみられたが、まだまだグーグル翻訳で詩を読もう、と思えるレベルではない。
区別する必要があるのは、購買力平価(貿易障壁のない世界を想定すると、そこでは国が異 なっても同じ製品の価格は一つであるという「一物一価の法則」が成立するが、この法則が成り立つときの自国通貨と外国通貨の購買力の比率)で評価したGDPと、名目為替レートを使用したドル換算のGDPだ。
経済水準の異なる国でGDP比較をするときには、購買力平価で評価しなおしたGDPを用いるが、そもそも中国のGDPは水増しされているので、どのくらい信頼ができるのか、という意見の不一致がある。
その一方で元が世界の基軸通貨とみなされ、中国が世界の覇権を握るには、「名目為替レートを使用したドル換算のGDP」が重要になる。中国の元はまだまともな通貨とはいえない。市場ではなく、政府がコントロールしているからだ。
さらに、中国には価値観の問題がある。アメリカ、EU諸国、そして日本はさまざまな点で喧嘩はするが、共通の価値観をもった民主主義国家だ。そのなかに中国は入っていない。
私には好きなフランスの歌手がいて、実際に彼女の歌の歌詞をグーグル翻訳で訳してみた。そうすると、内容が理解できる個所もあれば、不明の個所もあった。翻訳自体が原因ではなく、もとのフランス語が曖昧であることが問題だったのかもしれないが、まったく役に立たない、というレベルからは格段に進歩していたのだ。
英語はグローバル経済の入り口だ
十年後の日本についても見通しを述べておこう。私は日本がOECDに属する健全な経済国になっていることを、心から望みたい。いわばイギリスの超大型版ともいえる、世界第三位の経済大国の地位を占めているはずだ。
イギリスはもはや、超大国ではない。金融危機が起こる以前、二〇〇七年前後のほうが、イギリスはその存在感を放っていた。いまやイギリスのリーダーシップはさほど強くないが、ユーロに加入しないで成功したと呼べる経済力をもち、世界のなかで重要な役割を果たし、独力で存在しつづけている。
日本がこれから十年のあいだにうまく経済運営を行なえば、そうしたイギリスの二倍のサイズの通貨をもった独立国になれるはずだ。
そこで絶対的に必要になるのは英語教育だろう。ドルがグローバルな通貨であるのと同じように、英語はグローバルな言語である。これからもその趨勢に変化はない。もちろん、これから五十年後には、中国語(北京語)が世界の共通言語になっているかもしれない。しかし現段階で英語を話せることは、グローバル経済へ参加するために不可欠だ。英語をうまく操れる国には、大きなアドバンテージが存在する。
日本の政府高官の英語力は、この十五年のあいだ、まったく向上していない。それが率直な印象だ。興味深い比較について話そう。三十年前、私かアジア経済について研究を始めたころ、英語を話すことのできる韓国人に出会うのは紺たった。たとえ話せたとしても、その英語はほんとうにひどいものだった。
いまはどうだろうか。韓国人の英語は見違えるほど上達した。かつてアメリカに留学している日本人の数はそうとうなものだったが、その留学生の数でもいまや、韓国は完全に日本を上回っている。
米国際教育研究所の調査によれば、アメリカで学ぶ外国人留学生の数は二〇一〇~一一年に七二万入超と過去最高を突破したが、そのなかで韓国人は約七万人と全体の三位。日本人は七位の約二万人だ。
そもそも韓国で、内向きになる、というのは非常に困難である。韓国の人口は日本の四割にすぎず、GDPの半分も輸出業が占めている。そうした状況のなかでは、グローバル志向にならざるをえない。もちろん両国には文化的な違いも存在している。
アメリカも内向きだが、大国であるために、他国がわれわれの国家の言語を学ぶ偶然に恵まれている。ほとんどのアメリカ人は、英語以外の言語を話さない。私も同じだ。
最近パリに行き、イタリアの前閣僚評議会議長であるマリオーモンティと対談した。問題はそれを何語でやるかということだが、彼は「私は英語かフランス語かイタリア語ならできますが」という。「うわ、こっちは一つしかできないのに!」と思ったものだ。そうした状態であっても、私は国際経済学に携わることができている。
同じような条件が日本で成立するだろうか。その外には大きな世界がある。英語で意思疎通することは、日本にとって多大な利益をもたらすだろう。
英語はグローバル経済の入り口である。好むと好まざるとにかかわらず、それが眼前にある現実だ。教育の重要性を語る前に、まずは英語をマスターしなければ始まらない。そこから十年後の未来が切り拓かれるのだ。
さすがクルーグマン!ノーベル賞をとると、矛盾をはらんだ文章も気にしないらしい。ITの発達で音声認識が画期的に進化していると書いた直後に、英語はグローバル化の入口だと書くことはしないだろう。普通に考えればIT の発達で、あと数年で音声コミュニケーションも自動翻訳が画期的になると思うはずだ。普通編集者が気を回してどうにかするはずだが、そのまま活字にするという契約でもしたのだろう。
だいたい、日本人相手の本の中で、韓国人のほうが英語が上達したと書くのも・・・さすがクルーグマン様だ!
しかも、文体は終始相変わらずの上から目線。クルーグマン節が炸裂していますね~。
P176-179
先進国でもっとも興味深い国いったい日本経済のどこが世界経済の希望なのか~・・今一つ分かりにくかった。
第1章で述ベたように、バブル崩壊以降も日本はいまのヨーロッパほど、深い景気低迷を経験しなかった。欧米の経済学者のグループは日本に行き、自国が日本経済よりも悪化して申し訳なかった、日本経済の先行きを悲観したことを謝罪すベきだ、というジョークを私はよく話す。
アベノミクスなる変革は私を驚かせたが、それはとても嬉しい驚きでもあった。「復活だあっ!」を書いてから十五年にわたって、日本はまったく変化していないようにみえた。それがいま、突然の変化によって正しい方向に向かっているように感じる。
いまの日本は先進国でもっとも興味深い国だ。新しいことに挑戦し、現状を変えようとしているからだ。
繰り返しておこう。アペノミクスが成功すれば、日本以外の国にもポジティブな影響を及ぼす。アメリカ、そして当然ヨーロッパに対しても、いまのスランプを国民が受け入れる必要はない、積極的な対策をとれば必ずデフレから脱却できる、という強いメッセージになるからだ。
アペノミクスはたしかに大きな挑戦だ。最大の問題は、安倍首相と黒田日銀総裁がはたしてほんとうにそれを実行し、続行できるかどうかである。日本のニュースを読むたび、ああ、また同じことの繰り返しか、と感じる朝もあれば、思ったよりマシになっているな、と思う朝もある。
ある変化が起ころうとしても、すぐにそれが消えてしまった、というこれまでの事実に対し、新しい政策を行なう、という意欲を彼らは対峙させなくてはならない。
いまこそ世界は日本を必要としている
三十年前から断続的に来日を続けていて感じるのは、一九八〇年代初頭から二〇〇〇年にかけて、日本はかなり開国した、ということだ。しかし第5章で述べたとおり、それ以上、世界に開かれる、という道のりがストップしてしまったように思える。
いまこそ世界は日本を必要としている。アメリカ、ヨーロッパ、日本という民主主義国家
には共通の利害があり、よくコミュニケーションをとって協力し合い、必要なときにはお互いから謙虚に学ばなければならない。いかなる意味においても、われわれはライバルではない。すべての重要な点において、同志である。
その行く末をいま、多くの国が固唾を呑んで見守っている。日本よ、いまこそ立ち上がり、世界経済の新しいモデルとなれ。
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