中国の李克強首相は今月、中国は2014年に国防予算を12.2%増の8082億元(約13兆4400億円)とすると発表した。
その金額の大きさ同様おおかたの解釈では、この支出はだいたい中国経済の拡大に合わせたものだということになる。例えば、米調査会社IHSの防衛専門アナリスト、ポール・バートン氏は中国の国家予算は「おおまかにいうと、最近の年度ごとの成長率と一致しており、国内総生産(GDP)の年間伸び率をやや上回っている」とみる。ストックホルム国際平和研究所のサミュエル・ペルロ-フリーマン氏も同じ考えだ。中国の今年のインフレ目標の3.5%からの変数をもとに、明らかに彼は2014年のインフレ率調整後の軍事支出の伸びを8.4%とはじき出している。中国政府の掲げる成長率目標の7.5%という数値とあまりかけ離れていない数字だ。
■低下した複数の指標
この解釈は2つの重要な理由で誤っている。第1に、中国では今年インフレの可能性はゼロか、発生するとしてもわずかなものとみられる。このため、名目12.2%という数値を実質値に調整することは適切ではない。実際、消費者物価は1月に2.5%、2月に2.0%上昇したが、同じ時期の生産者物価指数は低下した。1月が1.6%、2月は2.0%の低下だった。経済にとって製造業は消費支出よりずっと影響が大きいため、アナリストたちは中国がデフレにまだ突入していないとしたら、今、デフレ期に入ろうとしているのではないかと懸念している。
生産者価格の低下は少なくとも、消費者物価の上昇と同じくらい人民解放軍の維持にかかるコストと関連がある。ゆえに、12.2%という数値に下向きの調整をかけることは正当化できない。つまり、実質の軍事支出の増加率は、今年の公式な成長率目標の7.5%を超えることになる。この結論から、軍事支出の計画が経済成長にほぼ沿っているとはいえない第2の理由にたどりつく。経済は目標の7.5%辺りまで成長することはなさそうだということだ。中国がもし発表通り2012年と2013年に7.7%の成長を遂げていたとしても(おそらくそうではなかっただろうが)、今年1-2月には顕著な減速があった。
HSBCの製造業購買担当者指数(PMI)でみると、1月と2月に製造業部門(の生産活動)は縮小した。指数は1月に49.5、2月は48.5で、縮小と拡大の分岐点である50を下回った。さらに、旧正月休みによる統計のブレを無くすため、2カ月分をまとめている1-2月期の輸出は、1.6%減少した。
重要な工業生産高と小売り売上高は1-2月期に前年より上昇したが、これらの数値はより信頼度の高いデータとは矛盾しているし、いずれにしても、これらの数値は2013年同時期の数値よりも低くなっている。固定資本投資は17.9%の上昇で見かけは良いデータにみえるが、これは2002年以降で最も低い水準だった。
さらに、1-2月期にはこのほかにも重要な統計の数値が低下した。住居と商業施設の不動産販売は3.7%の低下。床面積でみた不動産販売全体では0.1%の低下だったが、面積でみた建築着工は27.4%の減少だった。このデータは、今年の終わりにかけてサービス部門の減速を示唆している。
ふだんは楽観的なアナリストたちは肝を潰した。「これはひどい」とANZ銀行の劉利剛氏は述べた。
■刺激策には限界
実際、1-2月期の経済統計があまりにも悪かったので、エコノミストたちは、李首相は成長を再び促すための国家支出に頼るだろうと考えており、李首相はインフレを懸念するする必要がないのだから、そうした支出の余地もあると考えている。物価が下落しつつあるため、刺激策の余地があるというのは正しいが、この考え方は政府による刺激策の本当の限界を無視している。政府による刺激策の本当の限界は、制御不能な急激な債務創出だ。
現在まで、中国のエリートたちは債務の積み上がりをなんとか無視してきたが、積み上がった債務は黙ってはいない。今月7日、中国の太陽光パネル大手、上海超日太陽能科技は社債利払いの不履行に陥り、中華人民共和国史上初の社債のデフォルトとなった。これと同じころ、海金鋼鉄集団は債権銀行への支払いをしなかった。13日には李首相が、今年は金融商品のデフォルトを「避けがたい」と指摘した。
つまり、もし中国の指導部が予想されているように今後数カ月の間に更なる刺激策を選んでも、それは解決策にはならない。現時点で、中国は新たな貸し付け1ドルに対してGDPは10セントしか伸びない。今も予測可能な将来においても、刺激策がしっかりと経済を押し上げることはなさそうだ。輸出依存度が高く、投資がけん引してきた中国の経済モデルは疲弊しており、経済成長は低下の道をたどり債務危機の引き金になる。
■改革開始でも景気後退伴う
実質的な改革だけが長期にわたる成長につながるが、習近平体制の中国共産党が経済を本格的に再構築するために必要な厳しい決断を下せるとは思えない。習国家主席はこれまでずっと改革を口にしてきたが、結局、対極の立場で指揮をとってきた。習氏の一連の経済刺激策により、中国は唯一の持続可能な成長モデルである「消費者支出主体の成長モデル」から遠ざかってしまっている。習氏が初めて国家主席として丸1年を過ごした2013年、経済への家計消費の寄与度はおそらく低下した。
しかし、昨年11月の中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(3中全会)や今月の全国人民代表者会議(全人代、国会に相当)で約束したように、習氏が構造改革を今年に進めるとしても、中国が投資(中心)から消費者支出(中心)に移行するなかでは、大規模な景気後退はほぼ避けられない。最近2年間の中国の消費者支出は、少なくとも中国本土では、ほとんどのアナリストの予測より軟調だ。改革による景気下押し効果は何年間か、おそらく5年以上続くかもしれない。
その5年間、中国政府は国防費を2けたのペースで増やし続けることはできないだろう。特に人民解放軍には国家予算のうち、中国政府の見解よりもはるかに大きな額を使っているからだ。実際の支出額と公表されている支出額の乖離(かいり)は大きそうだ。米国の国防情報局の推計では、中国の昨年の実際の軍事支出は2400億ドルで、公式発表された予算のおよそ2倍となっている。
では、軍事支出を今後まかなえないかもしれない中国をなぜ、懸念する必要があるのか。
共産党への影響力を強めているとみられる軍の大将や司令官が計画を縮小することはないはずだ。そのかわり、近隣諸国から領有権を勝ち取ることと南シナ海の国際海域を中国の「湖」にすることという、長期にわたり掲げてきた目標を達成するには、限られた時間しかないと考えるかもしれない。中国の「上級指揮官は…光り輝く新たなモノで何ができるのか誇示したくてうずうずしている」と英エコノミスト誌は伝えている。
経済活動の重要な指標が悪化するにつれ、中国の攻撃的な行動のテンポが速まっている。ここ数年の間に、中国は南シナ海でフィリピンからスカボロー礁を奪い、現在は南沙諸島のアユンギン礁の周辺を船舶で取り囲んでいる。インド支配下にある領域まで軍の監視を送り込んだり、東シナ海の尖閣諸島周辺で、日本が主権を有する水域や空域を侵害したりしている。中国の船舶は韓国の漁船を威嚇したほか、監視中の米国海軍の船舶に嫌がらせを加えた。
昨年10月、中国政府は主要な国有メディアを活用して、核を積んだ弾道ミサイルを潜水艦から打ち上げれば何千万人の米国人を殺害する能力があることをアピールした。扇情的な宣伝活動の理由は特になかったようだ。
強い中国より怖いものが、一つだけある。弱く、行き詰まる中国だ。
By Gordon G. Chang, Contributor
(2014年3月16日 Forbes.com) (c) 2014 Forbes.com LLC All rights reserved.

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