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表紙裏
 本書は、渋沢栄一が唱えた合本主義の分析を通じて、二一世紀グローバル資本主義の新しい可能性を模索するものである。合本主義とは、「公益を追求するという使命や目的を達成するのに最も適した人材と資本を集め、事業を推進させるという考え方」である。
資本主義は一つではなく多様なアプローチが存在する。一九世紀後半、日本の経済界をリードした渋沢が、いかにして、そしてなぜ〈企業は私益を得ることと公益の増進を同時に成し遂げられるのであり、また成し遂げるべきである〉という考えを抱いたのか。そして、渋沢が示した種々の解決手法の、今日の時代での意味を考える。

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日本の経済や社会の在り方を私(Ddog)が考えるにあたり、思想の基礎となっているのが、山本七平先生の「日本資本主義の精神」、小室直樹先生の「日本資本主義崩壊の論理」等一連の小室直樹著作集と、渋沢栄一翁の「論語と算盤」の影響をうけている。特に「論語と算盤」こそ、行き詰まった資本主義を打開する経済思想ではないかと、常々思っております。

世に「経済道徳合一主義」とされる思想であり、営利の追求も資本の蓄積も道義に合致するもので なければならないというのが渋沢の思想の核心であった。マックス・ウェーバーは欧州の資本主義 の精神の基底にプロテスタンティズムの規範性が横たわっていることを指摘したが、日本資本主義 の基底に儒教的価値が存在していることを体現しているのが渋沢栄一だといえます。このことは、山本七平氏も小室直樹先生も指摘しています。

東洋思想である儒教(論語)においては、経済活動を悪と見なして、経済活動と思想(儒教)を分離して考えていた。

儒教が社会を支配した19世紀末のシナや朝鮮に見られるように、経済活動は停滞し、儒教と経済活動は相容れない関係であった。

渋沢栄一の経済活動に規範性や倫理性を求める思想 は、それに先立つ江戸時代の石田梅岩海保青陵鈴木正三二宮尊徳などの経済思想にみられる「倹約・布施」「経国済民」「報徳」といった価値を継 承し共有していたからに他ならない。

現代日本においては「教養人」とされる人でも多少の洋の教養は身 に付けていても、論語をはじめ四書五経の教養を有している人は稀有である。論語の教養を失って以来、日本人 の規範が曖昧となり、道徳が揺らいでいる。

日本資本主義の精神において経済合理性を超え、人間としての誠実さこそが、資本の蓄積に繋がりが、経済の活性化をもたらす。

「合本主義」という表現で、渋沢は株式会社制度の重要性を訴え、東京株式取引所のような仕組 みを創設した。それは強欲である資本主義をいかに制御するかという現代資本主義の嵌まった隘路を切り抜ける有力な指針となろう。


はじめに ⅴ-ⅶ
本書は、渋沢栄一が唱えた合本主義の分析を通じて、二I世紀グロしバル資本主義の新しい可能性を模索するものである。合本主義とは、「公益を追求するという使命や目的を達成するのに最も適した人材と資本を集め、事業を推進させるという考え方」と定義した。

それでは、読者の理解を助けるために、本書の内容を簡単に紹介したい。

第1章(島田昌和)は、まず会社の役職、資産、株式保有率など実証的なデータに基づき、経済界での渋沢栄一の客観的な位置づけを行う。次に西洋の株式会社制度を合本組織として日本に導入した渋沢のモデルを、三井や三菱などの閉鎖的な財閥型モデルと比較した。渋沢の最大の功績は、多くの資金と人材が出入り可能な市場型経済モデル、つまり参入退出が自由なオープンマーケットモデルを形成したことと結論づけた。

第2章(田中一弘)では、渋沢の思想の基盤である『論語と算盤』、すなわち道徳経済合一説について再考する。アダムースミスの『国富論』の思想的基盤である『道徳情操論』と比較すると、渋沢の考えの特色がより明確になる。スミスは、正義に適ったやり方で商売する限り、自己利益の追求を第一にして行動しても、「神の見えざる手」により需給のバランスが取れるという競争市場のメカニズムを明らかにした。しかし渋沢は、公益を第一と考え、自己利益を第一には図らないことが重要であった。このような道理に基づく事業のやり方が、合本主義にほかならなかった。
フリデンツン教授が前述したように、「公」と「民」の関係はいかにあるべきかは、古今東西で注目を浴びてきた大変興味深いが、なかなか結論を出すことの難しい、手ごわいテーマでもある。

渋沢の事例を世界史的な広い視点からに分析しているのが、第3章(パトリックーフリデンソン)である。
次に渋沢の思想と行動は、一九世紀の日本、つまり近世と近代にまたがる日本経済史の中でどのようにとらえればよいのであろうか。

第4章(宮本又郎)では、渋沢の合本主義を「顔の見える資本主義」として捉え、渋沢が果たした歴史的な役割を、株式会社の急速な普及と財界人として日本の経済界を育成、リードしていったことと評価している。
それでは、渋沢の商業道徳観のユニークさとは何か。同時代の内外の人々は渋沢の考え方をどのように見ていたのか。また渋沢はそれに対してどのように対応したのであろうか。

第5章(ジャネットーハンター)は、海外、特にイギリスの日本の商業活動に対する厳しい批判について、同時代の日英両国メディア(新聞記事)を詳細に分析しながら、渋沢の商業道徳の特徴を描き出した。

第6章(木村昌人)では、こうした海外からの批判に対して、渋沢がどのように対応したかについて分析した。渋沢のユニークさは海外からの批判に対して、経済を超えたグローバル社会の潮流を見据えた積極的な内外での活動により、商業道徳の改善に尽力したことを指摘した。

第7章(ジェフリー・ジョーンズ)は、企業家の責任はどうあるべきかとの視点から、一九世紀以降、今日に至るまでの各国の企業や企業家の例を取りトげ、渋沢栄一の合本主義の特色を浮き彫りにしている。その中で、合本主義が「論語」というキリスト教やイスラム教と比較して宗教色の薄い、世俗的な倫理に基づいていることに注目し、今日の資本主義世界は、合本主義を受け入れやすいのではないかと指摘している。

第8章(橘川武郎)は、リーマンショック以来の資本主義の危機的状況を抜け出し、新しいグローバル資本主義を構築するために、渋沢の合本主義研究がどのような意味を持っているかについて論じ、本書全体のまとめの役割を果たしている。ロナルドードーアの「金融資本主義」を引用し、いわゆるアングロサクソン型の資本主義と日独型のそれとを比較しながら問題点を明らかにし、その解決策としての合本主義の可能性を論じた。
第1章 渋沢栄一による合本主義           島田昌和

第2章 道徳経済合一説               田中一弘

第3章 官民の関係と境界      パトリック・フリデンソン

第4章 「見える手」による資本主義         宮本又郎

第5章 公正な手段で富を得る      ジャネット・ハンター

第6章 グローバル社会における渋沢栄一の商業道徳観 木村昌人

第7章 世界的視野における合本主義  ジェフリー・ジョーンズ

第8章 資本主義観の再構築と渋沢栄一の合本主義   橘川武



 

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