私は水戸の出身で、時々両親の様子を見に水戸に帰ります。
水戸は那珂川や涸沼などでうなぎがとれたので、100年前から続くおいしい鰻の名店がいくつかある。
ぬりや、東條、中川楼、鰻亭・・・
特にぬりや泉町店うな重はお気に入りである。気軽に食べられなくなったが、うな重3500円は値段なりの価値がある。
日本で食べられるウナギのほとんどは、冬から春に川で獲ったシラスウナギを養殖池で大きくする「養殖もの」。だが水産庁によると、シラスウナギの年間漁獲量(推定)は昭和38年の230トン余りをピークに減り続けている。平成15年はまだ24.4トンあったが、昨年は5.2トンにまで激減。価格も1キロ当たり16万円から248万円にまで跳ね上がった。牛丼の吉野家で、うな丼は730円「二枚盛」は1080円、数年前は500円台であったような気がする。
今や日本人は世界のウナギの7割を消費しているという。ニホンウナギがIUCN(国際自然保護連合)の「絶滅危惧種」に指定され、困ったことになった。IUCNのレッドリストには法的拘束力はなく、うなぎが禁漁になるなどただちに業界に大きな影響が及ぶものではない。だが、ワシントン条約はこのレッドリストを保護対象の野生動物を決める際に参考としており、今後、ニホンウナギが規制の対象になる可能性がある。
うなぎの美味しさは、外国人になるべく教えない方がいいような気がしてきた。捕獲をとがめられたクジラといい枯渇が危ぶまれるクロマグロといい、食文化の灯が揺れるかもしれない。
すしや鮪のように、世界中にわざわざ宣伝する必用はない。世界中の人が鰻の美味しい食べ方を知るのは時間の問題であろう。世界的なごちそうにやがてなるであろう、世界中からうなぎがいなくなってしまうかもしれない。
今夏の土用の丑の日は7月29日。今年、久々にシラスウナギの漁獲高が回復しているらしいのだが、養殖ウナギの飼育には約半年の期間が必要で、「土用の丑」にウナギが安く出回るかは微妙な状況だそうだ。
また、ウナギの生態については今も謎が多く、今回漁獲量が回復した理由も不明という。
ウナギを安価に安定供給するには、卵から育てる完全養殖が不可欠。国内では試験段階は成功したが、大量養殖の実現に向けては、まだ低い稚魚の生存率に加え、人件費・電気代などの高コスト問題…と、難問がいくつも立ちはだかる。
農林水産省は26年度予算で、シラスウナギの養殖技術の実証試験に2億5千万円を計上、26年度初めにも試験を委託する企業などの公募を始める。
シラスウナギの取引規制に対して有効なのは完全養殖だが、その量産化はまだ道半ば。また、シラスウナギに育てるまでの飼育代など、これまでの天然のシラスウナギから養殖するのと比べてコスト高になるのが課題だ。
「安いうな丼」の時代は、まだ遠い未来のようだ。
減りゆくウナギ 夢の大量生産へ稚魚増産の新技術 ただし秘中の秘 【msn産経】2014.6.25 11:30
ウナギはとらえどころのない生き物だ。古代から現代に至るまで人類に謎をかけ続けているのかもしれない。
近年、ヨーロッパウナギもアメリカウナギも激減し、ニホンウナギも国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅危惧種に指定された。
どうしてウナギたちは減ったのか。理由はいくつも推定されている。地球温暖化とそれに伴う海流の変化、河川環境の劣化などのほかに、乱獲・過食も有力な原因だ。
ウナギの資源回復への近道は彼らを食べないことだろう。南方のマリアナ海嶺まで行って産卵する親ウナギが増えれば黒潮に乗って戻ってくるシラスウナギ(稚魚)も増加する。
今シーズン、シラスウナギの採捕量は上向いたが、福島事故による影響で捕獲を免れ、海に下った親ウナギが多くなった結果ということも可能性として浮かぶ。
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もうひとつの資源回復の有力な手立ては養殖だ。
今でも鹿児島県や愛知県などで養殖されているではないかと思うかもしれないが、そのスタートに使われる全長5センチほどのシラスウナギは天然物だ。
資源回復につながる養殖は、卵の人工孵化(ふか)から始めるものでなくては効果が乏しい。
川で生まれ海で育つサケの場合は種苗生産に成功しているが、海で生まれ川で育つウナギの場合はこれが極めて難しい。
人工孵化の研究は1960年ごろから始まり、成功したのは73年。次には餌の壁に阻まれ、解決までに約30年を要する大仕事となった。
孵化したウナギの子は、柳の葉に似た姿の幼生だ。この幼生にアブラツノザメの卵黄を与えることで、シラスウナギにまで育てられるようになったのは2002年のことだった。
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そして今年、ウナギ養殖の総本山ともいえる水産総合研究センター増養殖研究所で、シラスウナギの大量生産につながる飼育技術の革新があった。
孵化した柳葉幼生を経てシラスウナギに至るまでの半年以上を大型水槽で飼育できるようになったのだ。
同研究所の南伊豆庁舎(静岡県)の千リットル水槽で飼育にあたる増田賢嗣主任研究員によると、これまでウナギの幼生は、洗面器の形をした10リットルの透明水槽を多数設置することで育てられていた。
不透明な水槽や大型水槽で飼うことには技術の壁があり、不可能とされていたのだが、形状などを工夫することで千リットル水槽が使えるようになったのだ。
10リットル水槽のシステムでは人手を要し、約600匹が飼育可能な量の上限だったが、新装置では省力化もできてもう1桁多く飼える。増田さんは、さらに1桁上げることを目指しているという。百匹単位の生産から万匹単位への増産だ。
気になる大型水槽の形や仕組みだが、「その件は一切お答えできません」と丁寧に、しかし、しっかり断られた。
外国にまねられて不利益をこうむることがないよう、来年6月の特許公開までは、秘中の秘の扱いだ。洋の東西を問わず人気の高いウナギは、高度な食の戦略資源の顔を持つ。
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ニホンウナギの産卵場を探す研究も近年、一大成果を挙げたところだが、1930年代からの調査が積み上げられた結果の発見だった。ウナギの産卵生態はアリストテレス以来、2千年を超える謎だった。
産卵生態も種苗生産も、短期成果主義が幅を利かしていたら育たなかった研究だ。
事業化レベルでの種苗の大量生産には、特殊なアブラツノザメの卵黄より、もっと一般的な餌料が必要だが、魚粉を使った餌で育てる研究も着実に進んでいるという
IUCNのレッドリストの次には、ワシントン条約による種苗の国際取引制限が待っている。人工種苗による養殖業の確立を急がないと、ウナギは高根の花になる宿命だ。
養殖物より天然物を礼賛する人が多い。だが、その当否はどうだろう。湖沼などで10年ほども過ごした天然ウナギは生物濃縮で、好ましからざる物質も体内に蓄えているはずだ。
価値観の転換も天然種苗の回復を通じて、ウナギの保護に貢献する。「サンマは目黒に、ウナギは養殖に限る」という新作落語が待ち遠しい。(長辻象平)
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