本日の一般参賀で陛下はマイクを通じ「新しい年をみなさんとともに祝うことを、誠によろこばしく思います。本年が国民ひとりびとりにとり、少しでもよい年となるよう願っています。年頭に当たり、わが国と世界の人々の安寧と幸せを祈ります」とお言葉を述べられた。昨日の NHKスペシャル 戦後70年 ニッポンの肖像「プロローグ」を視て終戦直後の焼け野原で日本人は明日は今日より良くなる・・・と信じて懸命に這い上がってきたというナレーションがあったが、陛下のお言葉に通じるものを感じた。


大東亜戦争を負けた日本は焼け野原になってしまった。絶望的になるくらいまったく何もないところから日本は復興した。明日は今日より良くなる・・・ そう信じ、普通の日本人達は頑張ってきた。

終戦後焼け野原になった日本を復興させたのは日本人一人一人の頑張りもあったが、その青写真を描いたのは、安倍首相の祖父である岸信介を中心とした旧商工省や旧満州国産業部の官僚達が戦後日本の発展を担ったのである。

経済敗戦であるバブル崩壊後25年が過ぎ2012年安倍政権が誕生し、アベノミクスでようやく一筋の希望が見えてきた。
アベノミクスは失敗であると一部経済学者と反安倍勢力=左翼は盛んに宣伝しているが、元々は財務省に操られ失政に次ぐ失政を繰り返す民主党政権を総選挙に踏み切る為に消費税増税の三党合意を約束をした約束を果たし、消費税を5%から8%に増税したのが原因である。デフレ下で消費税増税をすれば、不況から脱出できないのは当たり前である。10%増税を延期できたのはせめてもの救いである。

確かにグローバル資本主義が新興国に広がった結果、先進国内の利潤機会が失われたので、国内だけで経済政策を考えると行き詰まる。黒田総裁の本当のねらいは円安にあったと思われるが、それによって貿易赤字は増えた。池田信夫氏がJBpress記事原油安の「神風」を止めたアベノミクスに書かれているが、原油安で交易条件が改善したのに、追加緩和によるドル高で止めてしまった。各国の中央銀行が物価を自由にコントロールできる時代は終わった。ゼロ金利(長期停滞)は日本に固有の現象ではなく、リーマン・ショック後の一時的な現象でもないと結論づけている。

だが、池田信夫氏はまだしもアベノミクスに反対する勢力はアベノミクスに代わる対案を出していない。

アベノミクスでは完全雇用を達成してデフレから脱却するも、公的債務を圧縮できるまでゼロ金利、量的・質的緩和を継続し、大幅な円安リスクが生じることだろう。アベノミクスによる資産浮揚策が経済を活性化させ、デフレ脱却と潜在成長率の押上げにも成功する確率は私も高くはないと思う。だが、希望という字はまれなのぞみであって、そう簡単に成功できるものではなく、失敗する確率の方が高いものだ。だが、希望が無ければ日本は生き残ることができないのである。
1日放送の「NHKスペシャル 戦後70年 ニッポンの肖像」(NHK総合)で、タモリが資本主義の行き詰まりを指摘し、新たな社会を日本が生み出すのではないかと展望を語った。

番組では各界のゲストを交えて、日本人の生き様やこれからの日本について、NHKの膨大なアーカイブ映像を紐解きながら、戦後70年を振り返った。

番組の終盤、司会の三宅民夫アナウンサーが、作家の半藤一利氏に、今の我々に1番問われていることとは?と質問すると半藤氏は、今の日本人の大多数が「合意」すべき何かがあるはずで、不用意な拡張や破壊を止めて「自然を美しいものとする優しい日本に戻れば、この国に明日はある」という故人・司馬遼太郎さんの言葉を紹介した。

すると、タモリが「(自分は)経済学者でもなんでもないですから、ドでかいことをぶちかましてよろしいですか?」と前置きすると、日本だけでなく各国とも現在の資本主義の行き詰まりを指摘したうえで「資本主義に何か手を加えて、より良いものにしなきゃいかんと思うんですよね」と、持論を展開した。

また、タモリはボランティアなど、自身も新しい価値観を模索中だと告げつつ「やっぱり、大多数がそれを合意できるような何かに手を加えて、ちょっと違う、新たな資本主義ができるのは、日本の勤勉さと、従順さ、秩序さ、それを持ってる国民の日本じゃないと、できないんじゃないかと思うんですよねぇ」と、日本が先駆けて新たな社会体制を生み出す可能性を語ってみせた。

このタモリの持論には、他の出演者も非常に関心した面持ちで耳を傾け、半藤氏も「凄いですね」と笑みをこぼし、拍手で称えた。

タモリが言うように、資本主義に手を加え、国民の大多数が新しい社会体制を合意できるような何かに手を加えて、ちょっと違う、新たな資本主義が必用ではないか?と言い、資本主義を超えた新社会制度を実現できるのは、日本の勤勉さと、従順さ、秩序さ、それを持ってる国民の日本じゃないと、できないんじゃないかと思うと、日本が先駆けて新たな社会体制を生み出す可能性について言及した。

バブル崩壊後本気でこの国を改革しようとしている政治家は安倍総理だけである。小泉は単なるナルシストにすぎず結局郵政を中途半端に民営化したにすぎなかった。

安倍内閣は第1次第2次を通じた在任期問が1000日を超え、戦後歴代で7番目の長さとなり、第6位の祖父岸信介(1241日)に迫っている。日本を改革できるのは安定した長期政権でしかなく、考えてみれば祖父岸信介は新聞や左翼学生の猛烈な反対の中1960年の日米安全保障条約締結を断行した。

かった安倍晋三は、安保条約が自然成立する前の日、国会と官邸が33万人のデモ隊による騒音に囲まれると、首相だった祖父に「アンポつて、なあに」と尋ねた。「安保条約は日本をアメリカに守ってもらうための条約だ。なんでみんな反対するのか分からないよ」が答えだった。岸信介は「政治の実体は経済」との認識していた。

安倍晋三は祖父岸信介の後継者であると私は思う。戦後日本の経済発展を導いた岸信介の遺伝子を確実に受け継いでいるのである。経済大国とはいえ、少子高齢化などバブル崩壊以降の日本経済の退潮は先行きに閉塞感を伴っている日本が生き残る為には、改憲による社会体制の変革、外交軍事と経済すべて精力的に取り組む安倍首相に私は期待したい。タモリが言う資本主義にに手を加えることが出来るのは今のところ生物学的も精神的にもその遺伝子を受け継いだ安倍首相に期待すべきではないか?

農商務省の官僚であった祖父岸信介は1925年に1年間の外遊のチャンスを得た
1926年まずアメリカの独立150周年記念の世界陣覧会を視察した。アメリカの産業規模の大きさに度肝を抜かれた。とてもかなわない。無駄の大きさにも圧倒された。
 
岸信介は日本の工業力を仮想敵国と認識されはじめた米国の工業力と比べ悲観的になった。一方ドイツヘ行ってみると、日本と同じように資源がないのに、発達した技術と経営の科学的符理によって経済の発展を図ろうとしていた。岸信介は浜口内閣の目に留まり、1930年に再びドイツ訪問のチャンスを得、その過程でソ連で始まっていた第1次5ヵ年計画が、新しい刺激を受けた。

満州国産業部次長となった岸はそれを満州産業開発5ヵ年計画に応用した。
満州国は、農地と平原と森林の広がる農業国である。そこに関東軍、満鉄、満州国政府は、重化学工業を根付かせようとしていた。36年、商工省工務局長だった岸は渡満し満州国産業部次長となった。肩書は次長でも大臣にあたる部長は満州人なので実権は岸が握っていた。官僚のをてた生産計画にのっとって産業を発展させるやり方である。

介は社会主義的な統制経済すなわち「大きな政府」こそが彼の生涯を貫く思想である。 31年に成立した重要産業統制法は、自由主義経済から統制経済、つまり国家社会圭義経済への転換の第一歩だった。起案の中心には少壮官僚の岸がいた。ひとつの産業で複数企業が競合するよりカルテル化させることで、生産量の拡大あるいは削減、投資計両と事業活動を政府が指導する、そのほうが効率的と考
えた。
 やがて岸はフロンティアの満州でこの考えを徹底させようとした。一業一社を産業開発の原則とし、市場競争を排除させ、官僚の立てた生産計画にのっとり産業を発達させる。岸らは「革新官僚」と呼ばれた。

 時代が日米戦争へと傾くに従い社会主義体制は完成していく。戦時下の海上運送の船員保険が厚生年金へ進み、終身雇用・年功序列の賃金体系にし、株式市場からの資金調達ではなく銀行中心の間接金融へ、重要産業団体令をもとに業界団体がっくられ、営団、金庫(公社、公団)なども生まれた。給与の源泉徴収制度の導入、直接税中心の税制の固定化、税財源を中央集権化させ補助金を地方に配る仕組
みが確立する。

日本が戦争に負けた後も、この体制は続いた。むしろ高度経済成長の準備過程といえた。通産省と日本の奇跡』(チャルマーズ・ジョンソン著) は、「日本の産業政策史についてもっとも驚くべき事実のひとつは、戦後の経済的”奇跡”を担当した責任者たちが、1920年代後半に産業政策を始め、30年代および40年代を通じてそれを実行した人びとと同じであった」と愕然とする。

戦後政治家に転身し首相に上り詰めた岸信介はアメリカとの戦いを続けていた。1951年のサンフランシスコ講和のときの日米安保条約を改定を目指した。独立といっても、アメリカの日本防衛義務は明記されていないだけでなく、勝手に基地を造ることができた。片務的条約を対等に近いものにするための安保条約の改定だったが、「アンポ、ハンタイ」のデモが押し寄せ、成立後退陣したのである。

池田勇人首相は所得倍増論をぶちあげ”黄金の60年代”がスタートした。実は「国民所得倍増を目標とする長期経済計画」を経済審議会に諮問したのは岸内閣である。その8年後に池田は「10年で月給2倍」と表現したが、もとは官僚主導による「生産力倍増10ヵ年計画」たった。 「日本列島改造論」に沸いた70年代は、官僚エリートではない田中角栄政権が誕生し官僚機構に君臨するが、行政は肥大化する一方だった。

バブル崩壊後、90年代の失われた10年を経て、ようやく小泉政権が「小さな政府」へと舵を切った。一方、安倍晋三は小泉純一郎内閣が標榜した「小さな政府」から出発している。1年で終わった短命内閣の反省を踏まえて長期政権へ踏み込もうとしている。

 経済政策として打ち出したアベノミクスの中心は今のところ日銀の金融緩和である。高度経済成長期には。労働カボーナス・と呼ばれ生産年齢人口が急増したのだが、団塊の世代がリタイアし、また少子化で頼るのは女性の労働力市場への参入し
かない。”女性が輝く社会”は人権面でも正しいスローガンではあるが、社会全体の高齢化とその負担は少なくない。アペノミクスは株価の上昇という意味では成功しているが、祖父岸信介が大きな政府を目指したていたからかもしれないが小泉内閣が志向した「小さな政府」の取り組みへの意欲は感じられない。

高度成長期は「利益の分配」だったがこれから先は医療費の削減など痛みを伴う「不利益の分配」をどう調整するかが問われるだろう。国債発行残高1000兆円は大きな課題である。

安倍晋三ほどまめに外遊を続ける首相はかつていなかっな資源外交であり、トップセールスであり、安全保障であり、寸暇を厭わない。必要とあれぱどこの国へも行き、その国の政治リーダーや経済界のリーダーと疲れも見せず笑顔で会談する。
汗を流す首相のイメ-ジをつくってきた。しかし、TPPが米国の頑なな態度で規制緩和など国内の既得権益者との対決にまだ踏み込めていない。TPPを利用し国内改革を断行するのが安倍内閣の成長戦略である。

世界最終戦争を唱えた石原莞爾は極東軍事裁判のアメリカ人検事に「平和に対する罪」を問われ、 「ペリーが来航しなければ、日本は鎖国の中で十分に平和だった。裁くならペリーを裁け!」と言った。だが、現代社会は好きと嫌いにかかわらずグローバル経済のなか絡み合っているので、グローバル経済を拒絶できない。  だが、TPP交渉や沖縄基地問題、集団的自衛権問題を見ていると「属国」の義務のハードルをアメリカから無理矢理に上げられている。

アベノミクスを単なる経済政策ではなく、安倍晋三は「米国の属国」でなく「米国と対等」になることを目指している総合戦略である。いかに左翼が騒ぎ経済政策にノイズが入ろうともアベノミクスは断行してほしい。明日は今日より良くなるにはそれしかないであろう!

池田信夫氏の言い分にも理はあるのだが、クルーグマン氏のアベノミクス評価をぶつけておく。

クルーグマン教授・独白「日本経済は、世界の良きモデルになる」【1】 - ノーベル賞経済学者が安倍総理に直訴                  【PRESIDENT Online】2015年01月02日 12:00

ジャーナリスト 大野和基=構成 

その発言に各国の政府関係者から市場関係者までが注目する「世界のオピニオンリーダー」。アベノミクス、金融緩和、消費税再増税……プレジデントの独占取材にクルーグマン氏は自宅で答えた。  
2014年10月31日付の『ニューヨーク・タイムズ』にクルーグマン氏が寄せたコラム「日本への謝罪」

私は昨年10月31日付のニューヨーク・タイムズに“Apologizing To Japan”(日本への謝罪)というコラムを書いた。主旨はこうだ。

日本はバブル崩壊後、1990年代の初頭から20年間スランプを経験した。いわゆる「失われた20年」と呼ばれる時期だ。バブルが崩壊して10年近く経った98年、私は「復活だあっ!」という論文で日本経済の問題を分析した。そこで「流動性の罠」の説明をした。それは中央銀行が金利をゼロまで下げても金融政策としては十分ではないという状態だが、FRB(米連邦準備制度理事会)前議長のベン・バーナンキも日本政府に果敢な決断をするように2000年に論文を発表した。私もバーナンキも日本政府の政策が不十分であると痛烈に批判したが、実は西洋と比較するとまだましであると言いたかった。ある意味では我々には日本を痛烈に批判する資格はなかったかもしれない。ということで、私は「日本に謝罪する」というコラムを書いた。要するに自分の国や欧州のことを棚に上げて日本を批判したことに対する謝罪ということだ。

日本で話題になっているこのコラムは、欧米が日本の失策から学ぶべきことを学ばずに日本よりもひどい失策をしたことに対する反省と皮肉を込めて書いた。日本はかつて「反面教師」であったが、西洋が大失態をしたので、それどころかロール・モデルに見える。アベノミクスが奏功すれば、世界中の国は日本こそがまさにロール・モデルになることを認めざるをえないだろう。

私はアベノミクスを支持してきた。それだけに、安倍晋三首相が2015年10月に予定していた消費税率10%への引き上げを先送りする方針を固めたというニュースを耳にして、ほっと胸をなでおろした。日本は消費税増税の第二弾を実行するかどうか、与党内でも真っ二つに分かれている。私は昨年11月6日、首相官邸で安倍首相に直接進言する機会を与えられ、今はその時期ではないと、延期するように伝えていたからだ。

私は日本経済に期待してやまない。日本の行方を「金融緩和」「円安」「女性活用」の3点から展望しよう。


黒田東彦日銀総裁が、サプライズ追加緩和を発表したが、それにはもろ手を挙げて大歓迎である。称賛すべきことだ。今まで日銀や日本政府が実行してきたことは、消費税増税を除いてはすべて歓迎である。実際日銀が実行してきたことは別に斬新なことではなく、何年も前から私を含め、欧米の専門家たちが実行するように促してきたことである。

まず、なぜ黒田氏の追加緩和の決断が正しいか説明しよう。日本がデフレ状態から完全に脱していないことは明らかだが、その状態から脱するには「脱出速度」に達さないといけない。脱出速度というのは元々重力圏からの脱出速度という意味だが、私は比喩的に使っている。今優先すべきことは、脱デフレのためになんでもやることであるが、消費税増税以外の政策はその点で正しい。

消費税増税第一弾の影響はすでに出ており、予想通り消費に陰りが見えている。どれほど追加緩和を行ったとしても消費税増税はそれに真っ向から反する策で、それは航空母艦から離陸しようとしている戦闘機がブレーキをかけている状態である。戦闘機が空母から落ちないように射出しなければならないときにブレーキをかけたのでは、離陸に失敗するのは目に見えている。今の状態では溝にはまって底から体を押し上げて脱出しようとしているときに、力が足りなくなってまた底にたたきつけられる懸念があるということだ。アクセルを十分に踏んでいない状態である。サプライズ追加緩和でアクセルをまた踏んだが、消費税増税第二弾を実施すれば、その推進力は相殺されてしまう。消費税増税の財政上の理由があったとしても、まず戦闘機が空母から離陸して飛行状態になるまで待つべきである。だから私は安倍首相に増税を延期するようにと自分の意見を述べた。

今の日本は33年、金本位制が崩壊したときのアメリカにもっとも近いだろう。そのときでさえ、4年後に経済はまた景気後退に陥った。日本は30年代に同じようなことをしているが、日中戦争で戦わないといけなかったので、大規模の財政支出で助けられた。だから、今日本がやろうとしていることは誰も試したことがないことである。奏功すれば日本が世界のモデルになると言いたい。

「臆病の罠」に陥っていないか

黒田氏は実現すべきインフレ率を2%にしているが、実際に2%に達するには目標を4%にしなければならない。この4%という数字は以前から私が繰り返し主張してきたが、なかなか受け入れてもらえなくて残念である。ここで「timidity trap」(「臆病の罠」、liquidity trap「流動性の罠」にかけている)について説明したい。

「臆病の罠」というのは原則上正しい考えを持つ政策立案者が実行面で絶えず中途半端な施策に終わり、揚げ句の果ては政治的にも経済的にも期待外れに終わるというものだ。日本の場合過去の政策と断固として決別し、我々のような欧米の経済学者が15年以上にもわたって、強く促してきた政策をやっと採り入れた。とはいえ、実際に実行するときには現状が要求しているよりもインフレ目標を低く設定することが「臆病の罠」である。そうすると離昇達成に失敗するリスクが高くなる。ロケットで言うと発射したものの空中分解してしまう状態になるリスクが高くなるということだ。黒田総裁はインフレが2%になることを予想しているが、その根拠を示していない。私が言いたいのは、2%という目標が好況を生み出すのに十分ではない可能性があることだ。黒田氏の主張する2%という数字は、その基礎となるモデルが何かわからない。

もしそれが正しくなければ何が起こるかと言うと、インフレ率が1%になるとそれ以上上がらずに、日銀が予想しているレベルには達さないということだ。その場合政策の信憑性は崩壊する。今重要なことはインフレ率を上げるということを国民に信用させることで、インフレ率が上がれば、実質金利が下がるのでそれが景気拡大を生み出す。今度はそれがさらにインフレ率を上げるという好循環を生み出す。そうなって初めて期待が正当であることが実証されるのである。しかし、景気拡大が好況を生み出すのに十分でなければならない。インフレを目標レベルまで押し上げるのに十分な潜在産出量(資本や労働が最大限に利用された場合に達成できると考えられる長期間維持可能な実質GDPの最高水準)よりも上のレベルで経済が機能しなければならない。確かに量的・質的金融緩和の効果は出ているが、それでも私は懸念している。需要が弱い状態が続く限り、構造改革をすぐに実行することは難しいからだ。

次に円安について説明しよう。まず大幅に円安になったことは政策の劇的な成功の一つである。日本のメーカーはアベノミクスが実行される直前、過大評価された円について泣きわめいていた。そのあと円安になりかなり競争力がついたように見えた。例えば、建設プロジェクトがあって、ブルドーザーを買うときに円安になる前と比べると今は小松製作所のものを買う可能性が高い。日本のメーカーが特定の商品の製造を日本でやるべきか、あるいは中国でやるべきか考えるときに日本で製造すれば実行計画が立てやすく、プロセスにもアクセスしやすいが、中国では賃金を安く抑えることができる。そういうプラス面とマイナス面を総合的に見ると今は日本がより魅力的な場所である。日本で製造したほうがより利益が得られるだろう。

一般的に通貨安は輸出を推進するという有力な証拠が歴史的にあるとすると、一方ではそういう影響は数回の四半期までは結果が見えにくいという経済データもある。普通10%円安になると10%輸出が伸びるはずだが、円安の影響がもっと出てほしいと私は思っている。賃金が上がる前に物価が上がるという円安のマイナス面が今出ているが、総合的に見ると円安のマイナス面よりもプラス面のほうが大きい。

85年にプラザ合意でかなりドル安になったが、それから2年間ほどなぜアメリカ経済はよくならないのかと専門家たちは言い続けた。2年後にはアメリカの貿易赤字は激減したが、それは通貨の大きな動きがあったときにその影響が出はじめるのに時間がかかるということだ。もう少し時間が経過すると輸出は伸びると思う。プラザ合意は為替相場の貿易に対する影響において、一種の自然実験と言ってもいい。最終的には理屈通りになったが、タイム・ラグがあった。最初の半年は何も起こらず、1年半経ってもあまり変化が見られなかった。2、3年してはじめてその影響が見え始めたのである。

円安のマイナスの影響で物価はすでに上昇しているが、物価だけが上昇するのは当然好ましくない。賃金は年に3、4%上がり、物価は年に2%かそれ以上上がるのがいい。

日本では今急速な円安のマイナス面が表面化し、物価が上昇しているが、それに対して賃金上昇が追いついていないために、スタグフレーションに陥りつつある。


ポール・クルーグマン氏 

私が昨年11月上旬に来日していたときに黒田日銀総裁は「物価安定の目標を早期に実現するために、できることは何でもやる」とデフレ克服に向けて強い決意を表明した。今日本にとってもっとも必要なことはデフレマインドに戻らないことだが、企業が低価格戦略を打ち出さないことも重要である。国民がインフレマインドにならない限り、消費は伸びない。消費が伸びないかぎりデフレから完全に脱却することはない。私が一番恐れているのは、先述した「臆病の罠」状態だが、少なくとも黒田氏はその罠に陥らないように「サプライズ追加緩和」を発表した。

女性活用については、黒田氏が2014年5月24日付のウォールストリート・ジャーナルのインタビューで述べている。「経済成長を高めるにはさらに3つの変革が必要だ」として、「一つは民間セクターが資本投資(設備投資)をもっとする必要がある。2つ目は労働力はもっと高齢者層と女性を参加させる必要がある。3つ目は生産性を上げるために規制緩和と構造改革が必要である」と言っている。女性の活用については安倍首相も強く奨励しているが、考えてみると日本で女性が労働力に参加するのがこれほど遅れていたという事実は、むしろ近い将来女性がもっと参加することで潜在成長率がかなり伸びるチャンスがあるということである。これはある程度移民を受け入れることにも当てはまる。アメリカでは女性はすでに重要な労働力になっているので、もっと女性を労働力に入れると言っても景気はそれによってよくならない。日本が欧米化するのは文化的に難しいと思うが、日本には最善の結果を期待している。

一方で世界経済はこの先いったいどのような未来を描くのだろうか。

米国経済はかなり雇用を復活させて欧州経済と比べるとはるかに強い。おまけにガソリン価格が急速に下落しているので、その分消費者に余裕が出てきている。昨年10月29日にはFRBはその日開催のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、QE3(量的金融緩和策)の終了を発表したが、これは米国経済の回復がはっきりしているということだ。

現在の焦点はFRBがいつ利上げに踏み切るかに集まっている。今年半ばには踏み切るという観測も出ているが、これは明らかに米国経済が回復している証拠である。昨年9月の失業率が金融危機後初めて5%台にまで改善したことも米国経済の復活の証拠である。とはいえ、米国の労働者の賃金が上昇する前にイエレン議長が利上げに動くと米国経済が再び失速する可能性が出てくる。利上げのタイミングは米国経済にとって決定的に重要である。

14年11月4日に行われた米国の中間選挙で、議会のねじれ現象は解消した。しかし、民主党のオバマ大統領に対して、議会の支配権は両院とも共和党が掌握したために、政治的な行き詰まりはさらに悪化するかもしれない。これを切り抜けるにはオバマ大統領が共和党に妥協していくしかない。13年に予算をめぐって連邦政府機能を停止させたことは記憶に新しいが、あのときは名目上の債務不履行に陥りかけた。オバマ大統領は賢明だから、この悲惨な対立から教訓を学ばないことはないだろうが、もしこれからの2年で共和党に妥協しなければ、政治的膠着が見られるかもしれない。それは今調子がよくなっている米国経済にとっては明らかにマイナスになる。

中国経済はグローバル経済において、もっとも重要なワイルドカードのひとつであるが、インフレ率はこの5年でもっとも低く、海外投資も縮小している。中国経済が今までと同じような成長を維持することはできないだろうという予測に反論する人はいないだろう。中国国家統計局の数字はそのまま鵜呑みにできないが、昨年発表された第3四半期のGDPは前年同期比7.3%増であった。

今の中国経済の状況は極端な投資バブル状況にあり、金融危機が生じる可能性が高い。バブル崩壊が始まると日本で起きたときよりももっとひどくなるだろう。日本経済や欧州経済への影響は計り知れない。

この状況をよく把握して、中国はまさに経済構造の転換をしようとしている。このままでいくとバブル崩壊になる可能性が高いので投機的な不動産投資への依存を減らし、内需主導型の経済に転換しようとしている。これを物語っている数字が新規雇用者の数である。14年に入ってからの8カ月で1000万人近く都市部で増えたというのだから、明らかにサービス産業への産業転換が急速に進んでいる。つまり、数字から見るとGDP成長率は目標の7.5%より低いが、それは半ば意図的に生じさせたものである。産業転換をしないで、バブル崩壊の道を行くよりも、雇用を創出して安定した成長を維持したほうが、世界経済の安定にもつながるのだ。

中国経済が悪化すれば、日本経済だけでなく世界経済にも計り知れない打撃を与える。特に不況とデフレ懸念が深刻化する欧州は中国の最大の取引先でもあるので、影響は甚大である。さらにドイツの緊縮政策が悪影響していることもあり、欧州発の危機が醸成されつつある。

メルケル首相は緊縮政策でユーロ安定と唱えているが、ドイツ経済は欧州経済の不況が長引いていることで輸出にブレーキがかかっている。しかも、南欧諸国の不良債権は膨らんでいる。ドイツにそれを救済する気持ちがないことも欧州経済の悪化の一因になっている。

経済の低迷期には何に頼るべきか
【1】の冒頭(http://president.jp/articles/-/14177)で言及した“Apologizing To Japan”にも書いたように、西洋が日本よりもひどい状態になったのは緊縮政策のせいである。日本の不良債権処理が遅れたように南欧の不良債権処理が遅れると、それがユーロ危機第二弾の発端になる可能性がある。第一弾が生じたときに私は声を大にして「緊縮政策は間違っている」と叫んだが、誰も聞く耳を持たなかった。ギリシャは増税と歳出削減を実行し、財政赤字はGDPの15%にも相当する規模まで膨れ上がった。その教訓をドイツが学んでいないのは理解しがたい。緊縮政策がいかに間違っていたかは誰の目にも明らかであるはずなのに、なぜ教訓を得ようとしないのだろうか。

今回来日したときに話した人たちは、「多くのビジネス・リーダーたちは日銀の政策は間違っている」と言っていた。自著『そして日本経済が世界の希望になる』にも書いたように、経済の低迷期には理論と歴史の教訓に頼るべきである。つまり経済学者が言うことに耳を傾けるべきだ。国家は会社とは異なるということを理解しなければならない。FRBもイングランド銀行もベン・バーナンキ、ジャネット・イエレン(現FRB議長)、マーヴィン・キングといった元大学教授の指揮下にあった。ECB(欧州中央銀行)総裁のマリオ・ドラギもほとんどのキャリアを学問の世界と公職で過ごしてきた人だ。ドラギはご存じのようにユーロを崩壊から救った英雄である。

欧州経済について私の懸念が増しているときに、昨年11月6日ドラギ総裁は理事会後の記者会見で「必要な場合にとる追加策の準備を指示した」と述べ、さらなる金融緩和を示唆した。これを知って私はいささかほっとした。金融市場にはECBが国債などの資産を買い、大量のお金を市場に流す量的緩和に踏み切るとの見方が広がった。そのためユーロ安が進み各国の株価が上昇した。

普通会社が経営に行き詰まると賃金を下げ、経費を削減して経営危機を乗り越えようとするが、それを国家に適用すると経済はますます悪化する。需要が減り、悪循環が生じるからだ。経営困難に陥ったときの会社経営者たちの発想と国家の経済が低迷しているときの発想は真逆になる。だから、景気が低迷しているときはビジネス・リーダーたちの言うことに耳を傾けないほうがいい。

こうして世界経済全体を俯瞰すると、正常に機能しているのはアメリカとイギリスの経済だけである。BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国)では中国以外にも景気減速が生じている。

ロシア経済は初期のプーチン政権時代は年平均7%ほどで成長していたが、その勢いはなくなった。プーチン大統領が権力を維持できた背景には、一因としてロシアが急速な経済成長を達成できたことがあるが、ロシア経済が失速すればその権力基盤が揺らぐことになりかねない。クリミアへのロシアの介入は、プーチン大統領が自分の権力基盤を守るためにやったというのが私の見方である。これはロシアに限ったことではなく、国家の指導者が政治的な打算で、戦争という手段に訴えることはよくあることだ。アメリカのブッシュ前大統領が「対テロ戦争」を始めると支持率は急速に上昇し、プーチン大統領の支持率もウクライナ危機以来上昇している。

私が頭に描く理想のシナリオは、アメリカではオバマ大統領が共和党に妥協しながら、政治的膠着を避け、今調子がいい米国経済をさらに成長させることで、それが世界経済を長期停滞から救う助けになる。欧州経済はドラギECB総裁が黒田氏と同じようにさらなる追加緩和を用意しているとほのめかしたので、最悪の状態になることはないだろう。

日本ではまずデフレから完全に脱却することだが、その初期症状である物価は円安の影響もあって上昇している。この現象自体は予想通りのことだが、賃金上昇が伴わないとデフレマインドに逆戻りする可能性がある。こういうときに消費税増税第二弾を実行することは絶対にやってはならないことである。賃金上昇は中小企業を含め、企業全体で起きないと格差がますます広がるので、低迷が続くことになる。空母から戦闘機が離陸して、安定飛行に入るには最初の脱出速度が一定の速度に達していないといけない。やっと脱出できたとしてもそのあと安定飛行に達するには賃金上昇と国民がインフレマインドになることが必要である。そのためには賃金上昇が物価上昇を上回る状態が、できるだけ早くこないといけない。長引くとアベノミクスに対する信用がなくなり、政策そのものが水泡に帰する。世界は日本の状態を見守っているのだ。

私は13年5月24日付のニューヨーク・タイムズに「モデルとしての日本」というコラムを書いた。そこで私は「ある意味では安倍政権によって採用された金融・財政政策刺激策への急転換である『アベノミクス』について本当に重要な点は、他の先進国が同様の政策をまったく試していないということだ。実のところ、西洋世界は経済的な敗北主義に圧倒されてしまったように思われる」と書いた。アベノミクスというどの国も試したことがない政策実験が奏功すれば、それは同じような状況に陥った国に対しても意義ある示唆になるはずだ。私はアベノミクスの成功を日々本当に祈っている学者の一人だが、日本から学ぶものは何もないと思い込んでいた欧米の学者たちもアベノミクスの行方を固唾をのんで見守っている。

ポール・クルーグマン
1974年イェール大学卒業。77年マサチューセッツ工科大学で博士号を取得。2000年よりプリンストン大学教授。大統領経済諮問委員会の上級エコノミスト、世界銀行、EC委員会の経済コンサルタントを歴任。91年にジョン・ベイツ・クラーク賞、08年にノーベル経済学賞を受賞。


ちなみにちょっとオカルトだが、ヨハネの黙示録では救世主は日本から出るかもしれないと予言されている。【参考イエス・キリストの再臨と至福千年王国の実現