15年1月末からWTI原油先物価格は反転、2月3日に1カ月ぶりに1バレル当たり54ドル台まで上昇した。過去7カ月に及ぶ価格急落局面を抜け出し、「強気相場に転じた」との観測が出された。米国で稼働中のリグ(石油掘削装置)の数が、2014年10月時点の1609基から1223基まで24%減り、3年ぶりの水準に落ち込んだからだ。

しかし翌4日、米エネルギー省が発表した米原油在庫統計は4週連続で増加し、過去最高を記録したため、50ドル割れの大幅安となった。

その後、中国人民銀行が金融緩和措置を発表すると再び50ドルを超えるなど、原油市場は2009年4月以来の高いボラテイリテイーであった(原油価格の2週間の上昇率は過去17年で最大であった)。

膨大な原油在庫を抱え輸入量が減少した中国

供給面を見ると、米シェール企業の生産はいまだマイナスに転じておらず、OPEC諸国も増産基調にある。ロシアの生産も2015年を通じて高水準で推移することが予想されている。このため世界の原油在庫は歴史的な高水準が当分続き、原油価格の上値を抑える展開が続くと見込まれている(2月2日の週の米原油在庫が1982年8月以来の最高水準となったため、2月11日の原油価格は48ドル台に下落した)。

しかし、不透明な状況が続く中で筆者が注目しているのは、中国経済の減速など需要面から悪影響が出てくることである。

2014年末、市場関係者の間では、今回の原油安の要因について「65~80%が供給面で、需要面は残る20~35%」として、需要面での影響は「逆オイルショック」の時と比べて少ないとされていた。確かに、現在の原油価格は需要面の要素はあまり織り込んでいない。
中国は、 2013年までの10年間で世界の原油需要の伸びの51%を占めてきた。中国の2014年の原油需要は前年比3%増の日量1006万バレルと堅調であり、IEA(国際エネルギー機関)の予測によれば今後も年率約2.5%増とその伸びは安定的に推移し、2020年には日量約1200万バレルとなる見込みだ。

しかし、足元の原油需要拡大は原油価格上昇の材料となっていない。政府が戦略備蓄を積み増しているとの見方が多いためだ。

2015年に入ると中国の1月の輸入額は前年比19.9%の減と5年8カ月ぶりの落ち幅だった。原油輸入量も前年比0.6%減、前月比では7.9%減少している。

日に日に深刻さを増す中国のキャッシュフロー

改革開放以来、特に21世紀以降「大躍進」を遂げてきた中国経済だが、いよいよ陰りが出始めている。

「日本経済新聞」は2015年2月3日付の紙面で「中国で賃金上昇が止まらない」という記事を掲載した。中国でもっとも賃金水準が高い広東省深セン市は、3月1日付で最低賃金(1カ月)を現行から12.3%引き上げ、2030元(約3万8000円)とすることを決めた。これは中国で初めての2000元の大台超えであり、2009年の同1000元からわずか6年で倍増したことになる。景気減速で続く中国だが、賃金上昇の波は全国に及ぶと見られている。

中国の生産者物価指数はすでに3年近くマイナスであるにもかかわらず、賃金上昇率が毎年2ケタ台で推移している。そのため、企業の多くは実質的には赤字に陥り、キャッシュフロー不足が常態化しているのではないかとの懸念が高まっている。

また、中国の4大銀行の預金残高が統計開始以来初めて減少するとともに、政府の規制強化により、ここ数年爆発的に伸びてきたシャドーバンキング(信託会社やリース会社が資金を投資家から集めて一般の銀行が貸さないリスクのある事業に資金を提供する仕組み)部門の減速も見込まれている。中国経済のキャッシュフロー不足は、日に日に深刻さを増している。                                                                   
人民銀行の懸案が「資金流入」から「資金流出」へ

中国は国内のキャッシュフロー不足に加えて、資金の国内外の流れも変わってきている。

特に注目すべきは、2014年第3四半期に統計開始後初めて対外直接投資額が対内直接投資額を上回ったことだ。2014年全体の対内直接投資額は前年比1.7%増の1196億ドルで、米国を抜いて初めて世界一となったが、対外直接投資額も初めて1000億ドルを突破し、対内直接投資額を上回った。

2014年後半から中国資本による海外企業、特に不動産企業(ニューヨークのウオルドルフ・アストリア・ホテルなど)の買収などが話題を呼んでいる。対外直接投資が急増している要因として、いわゆる「汚職マネー」の対外流出に関する規制が非常に厳しくなっている中で、直接投資に対する規制は相対的に緩いことが指摘されている。

直接投資分野での黒字が急減したことから、2014年の中国の外貨準備高の伸びは2000年以来の低水準だった。2015年の直接投資収支は年間で赤字になる可能性が高く、これにより外貨準備高もマイナスに転じる可能性がある。

人民銀行が2月3日に発表した2014年第4四半期の資本・金融収支は912億ドルの赤字となり、1998年以降でもっとも大きな赤字幅となった。このことは人民銀行の懸案が「資金流入」から「資金流出」へと様変わりしたことを意味する。

中国の場合、外貨準備高が4兆ドルもあるのに国全体の対外純資産が2兆ドルしかない。このことは民間部門が対外負債超過であることを意味する。対外債務の中にはドル建てが多いため、米FRBによる2015年半ばの利上げ観測が高まっている状況下では、ドル債務の借り換えが一層困難になることは間違いない。

電力消費量の伸び率も石炭の生産量も減少

世界銀行は、2014年の中国経済は購買力平価(PPP)で166年ぶりに世界一になると試算したが、2014年の経済成長率は前年比7.4%増と24年ぶりの低水準だった。

しかし政府が発表したこの「7.4%」という成長率を信じる専門家は少ない。

かつては「爆食経済」と称されたように、中国の生産活動には相変わらず大量のエネルギー資源が投入されている。中国経済が本当に伸びているかどうかを見るには、エネルギー消費量の伸びをチェックするのが一番だ。

2013年の経済成長率は7.7%だったが、全国の電力消費量は同じ7%台の7.5%だった。しかし、2014年の電力消費量の伸び率は、2013年の半分程度の3.8%に急減している。エネルギー消費の7割を占める石炭の2014年の生産量も2000年以降初めて減少に転じている。

また、2014年1月から11月までの中国国内の鉄道貨物輸送量は前年比で3.2%減少している。物流の大黒柱である鉄道の貨物輸送量がマイナス成長に転じていることは、エネルギー消費の動向と併せて考えると、中国全体の経済活動がかなり冷え込んでいると考えて間違いはない。

国家統計局が発表した2015年1月の製造業購買担当者指数(PMI)は49.8となり、景況判断の節目となる50を2年4カ月ぶりに割り込んだ。だが、中国政府は成長刺激のために財政支出を拡大する計画はないとの見解を繰り返している。

中国経済はいよいよバブル崩壊のカウントダウンに

IMFは中国の経済成長率を2015年は6.8%、2016年は6.3%になると予測しているが、深刻なのは労働力人口の減少である。

2014年の労働年齢人口(16~59歳)は3年連続の減少となり(2014年は371万人、2013年は244万人、2012年は345万人)、今後10年は労働力が過去20年間ほどは成長に寄与しないことが明らかになっている。高齢化が急速に進行し、「5年後には人口13億人のうち6億人を、働く世代が支えなければならない時代が来る」とする向きもある。

中国の粗鋼生産量は1996年に1億トンを突破して世界一になった。それ以降、21世紀に入っても急拡大を続けてきたが、2014年の伸びは2000年以来の低水準だった。2015年にはついに生産のピークに達するとの見方が一般的になっている。

中国の鉱工業生産額は2001年にドイツ、2006年に日本、2009年に米国を抜き、2013年には3646億ドルに達した。2000年から2013年にかけての伸び率を平均すると33.4%となる。これは世界全体の10倍以上のスピードである。世界経済のデフレ化が懸念される中で、3646億ドルという数字が今後10年間で3分の2になったとしても、世界経済の供給過剰状態は解消できないかもしれない。 

また、2014年12月の新築住宅価格が8カ月連続で下落するなど不動産市場の在庫が依然として高水準であることから、不動産会社のデフォルト懸念が日増しに高まっている。2014年末には国家所属のシンクタンク(国務院発展研究センター)が、「長年蓄積してきた不動産場バブルが、需要の萎縮によって2015年に破裂するかもしれない」とバブル崩壊の可能性を認めるまでになっている。このため国内の社債市場も変調をきたしており、資金の流通速度はますます下がっていくことだろう。 

企業がデフォルトに追い込まれるのは不良資産の大きさではなく資金繰りがつかなくなった時である。かつてないほど資金繰りが困難になっている中国経済はいよいよバブル崩壊のカウントダウンに入ったのではないだろうか。

過去20年以上続けてきた債務バブルが破裂してしまえば、原油価格下落による恩恵など役に立たない。中国経済が2015年以降本格的に減速すれば、中国の原油需要の伸びが大幅なマイナスに転じる可能性があり、世界の原油需要が減少に転じるのは必至だ。原油価格に対してもう一段の下押し圧力になることは間違いない。

中国のバブル崩壊で1バレル10ドル台の可能性も

今後の原油価格を占う点で注目すべきポイントは、以上のように、シェール企業とサウジとのチキンゲームという供給面から、中国経済の急減速という需要面に変わりつつある。

元日銀審議委員の中原伸之氏も2015年1月6日に、「最近の原油市況は中国経済の成長ペースに連動しており、今後は中国の成長率が5%台などへ減速する中、原油価格が本格反転する材料はない」との見方を示し、その上で原油価格は「20ドル台まで下落しても全く不自然ではない」とコメントしていた。

1月16日付「ウオール・ストリート・ジャーナル」も、「1985年11月から1986年3月にかけて原油価格は67%暴落した。2014年6月から今日までに原油価格は57%急落したが、さらに下げる可能性が高い」と指摘している。中国で不動産バブル崩壊による金融危機が発生すれば、原油価格は1バレル当たり10ドル台になる可能性すらある。

このように今回の原油価格の下落局面はまだ6合目程度であり、さらなる下落前の「踊り場」に過ぎない。足元の原油価格の上げ下げに一喜一憂するのではなく、以前から指摘しているように、原油価格の新しい取引レンジは「1バレル当たり20ドルから50ドル」になったと覚悟し、デフレ化する世界経済に対して毅然として立ち向かうことが肝要である。
まだ入社2.3年生が、原油価格が大幅安になったので原油関連ファンドを底値圏だとクライアントに推奨していた。まあ、経験が浅いので仕方がないが、わたしはやんわり、「下げるナイフは掴むな」と忠告した。

「野も山もみな一面の弱気なら、阿呆になって米を買うべし」という有名な米相場の格言もあるが、まだ、野や山、砂漠も荒海もみな一面の弱気ではない。

野も山もみな一面に弱気、それは相場が下がり続け、先行きも見えずに多くの投資家がうんざりしてしまう状況です。この状況で買いに走れるのは、我慢強く下げ相場でしか仕込まない投資家、安くなった価格をみて打診買いができるベテランの投資家、あとはこの時期に投資を始めた初心者くらい。
本当の買い時とは、人が誰も買えないときであって、マーケットに待機資金がジャブジャブある今ではないと私は思います。
相場は「上昇5波・下降3波」という周期性をもって動く

エリオット波動論は欧米をはじめ世界中に多くの信奉者がいる相場分析法です。チャールズ・ダウより少し遅れて米国で活躍した株式アナリスト、ラルフ・ネルソン・エリオット(1871年~1947年)が編み出し、戦後の60年代になって再評価され、投資家の注目を集めるようになりました。その理論は、単なる相場の値動きだけでなく、1000年単位の歴史の周期まで視野に入れた壮大なものです。

エリオット波動論を一言でいうと、「相場にはサイクルがあり、値動きには一定のリズムがある」ということになります。エリオットは、過去のNYダウ平均を緻密に分析することで、値動きのなかに「上昇→下降」の波が一定の規則性をもって何度も出現することを発見しました。これが「上昇5波・下降3波」というエリオット波動の根幹をなす値動きの周期です。

つまり、上昇相場は「上げ→下げ→上げ→下げ→上げ」という5つの連続した波動から成り立ち、その後には「下げ→上げ→下げ」という3つの波動による下降調整相場が続くというものです。


図1:エリオット波動の基本形

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値動きのイメージとしては、上昇は「W」、下降は「逆さN」の字形で動くと覚えておくといいでしょう。

さらに、値動きの周期には長短さまざまなものがあり、「サイクル」という大波動の波の一つ一つのなかに、「プライマリー」と呼ばれる上昇5波があったり、その細部にもまた「インターミディエート」という小波動があったりと、いわば、"入れ子細工"のような構造になっている点に特徴があります。

原油価格の下落は、家計におけるガソリン等の下落による消費刺激、暖房費負担の減少を通じて、冬場の消費を刺激しやすい。年間を通じた産油国からの所得移転は、日本では過去主に下半期に効果が出ている。今回の原油価格の下落は、米国のクリスマス消費に好影響を与えるには波及時間が足りなかったようだが、1月以降の米消費や中華圏の2月の旧正月消費を刺激すると期待される。
原油価格の下落によって、世界の消費が冬に刺激されるならば、景況感の改善を受けて原油価格の底値は冬に多い。原油価格が大きく下落した後の底値の月は、1993年が12月、98年が12月、2001年が11月、08年が12月と冬場が多い。今回のように短い期間での原油価格の下落では1月安値も散見される。
また、世界の景気次第である日本の景気が底入れするとなれば、世界景気の持ち直しで原油の価格が底入れしやすい。実際、日本の景気の底は1993年10月、99年1月、2002年1月、09年3月だ。上記の原油価格の底入れ時期とほぼ同じではあったが、今回は関係ないかもしれない。
単純な景気循環で説明できる原油相場とは違い、シェールガス、シェールオイルやサンドオイルという採掘可能化した新手の供給源が加わったことに加え、メタンハイドレード、ミドリムシによるバイオオイルなどバイオエネルギーがほぼ実用化、ロッキード社によるレーザー核融合が10年で実用化する。CO2削減で、クリーンエネルギー革命で、太陽光、地熱、風力、波動、温度差発電所が続々誕生している。
更にガソリンに代わり電気自動車、FCV水素自動車が将来的にはガソリン車を駆逐するかもわからない。
単純な景気循環論からいえば目先底は打ったかもしれないが、再び下落する可能性は高い。

代替資源(非在来型資源)のインパクト
【経済コラムマガジン】15/2/9(831号)

説得力がない原油安の解説

ここ4年間ほど100ドルという高値を維持し、また昨年6月には110ドル近辺まで高騰していた原油価格が、先日には44ドルと大暴落を演じている。さすがに週刊東洋経済や週刊ダイヤモンドといった経済専門誌も、先週号でこのショッキングな「原油安」を特集している。筆者も両方を本屋でザッと立ち読みしたが、週刊ダイヤモンドの方が多少核心に迫っていると感じられた。色々な所で原油安の原因が語られている。ところが筆者に言わせれば、説得力のある説がほとんどない。

それどころか中にはドンデモない珍説が横行している。先々週もテレビ東京系のモーニングサテライトにバークレイズ証券のチーフ・ストラジスト北野一氏が登場し、原油安に対する奇妙な解説を行っていた。北野氏によれば、原油安の原因は米国金利の先高感がスタートという。これによってドル高となり、このドル高に対して新興国や発展途上国が高金利政策で対抗している。そしてこの高金利政策によって石油の需要減退招き原油安となったと北野氏は説明していた。朝っぱらからこの解説を聞き筆者も驚いた。


北野氏の説で唯一正しいのはドル高であろう。ドル高が続いているので、たしかに中東の産油国もこの原油安をギリギリ我慢しているところがある。そもそもドル高に対しては、自国通貨の下落を防ぐため金利を高くした国と、反対に通貨安を目論んで金融緩和を行っている国(EUなど)がある。つまり原油安をドル高だけで説明することは所詮無茶である。

筆者にとって説得力がないと感じる説の共通点は、原油価格が需給関係(実際の需給)だけで決定されるという思い込みである。日経新聞も2月2日夕刊の2面で「原油価格、なぜ下がった」という特集を組んでいた。これによれば以前は石油メジャーやOPECが原油価格を決めていた。しかし今日、代表油種(WTI、ブレトン、ドバイ)の先物が市場で取引され、需給を反映しこれらの価格が市場で決まる(先物価格が決まれば現物価格が決まる)と解説している(ここまではオーソドックスな解説)。

中国や欧州を中心に世界の景気は良くないため石油需要が伸びない。一方、シェールオイルなどの原油の代替資源(非在来型資源)の開発が進み、供給が増えた。つまり今日、原油の需給のバランスが崩れ価格が下落していると日経はこの特集で結論付けでいる。

しかし実際のところ、世界の総需要は9,000万b/d(b/dは一日当たりの量(バレル))程度であり、毎年、原油の需要は100万b/dくらい増え、一方、供給もほぼ100万b/dくらいずつ増えてきた。このように需給の変動と言っても全体から見ればほんの僅かであり、需要や供給が一年で何十パーセントも増えたり減ったりすることはない。


だいたいシェールオイルが本格的に生産され始めたのは4年も前の2011年からである。それ以降、シェールオイルはどんどん増産され、今日では400万b/dを超えるほどである。もし需給のバランスが崩れたからと言うのなら、それは前からの話ではと筆者は感じる。

むしろ4年間も需給を反映しない異常な高値が続いたため、シェールオイルの開発に拍車がかかったと筆者は認識している。だいたい本当に需給を反映して常に市場価格(原油価格)が決まっているのなら、わずか半年余りで110ドル近辺から44ドルに大暴落するはずがない。おそらく市場が常に正しいと思い込んでいる観念論者達には、このような現象はとうてい理解できないのであろう。

筆者は、4年間も高値が続いたことの方が異常だったのであり、今日の下落はむしろ正常化への過程と思っている。筆者は、もし本当に実際の原油の需要や供給だけで市場価格が決定されてきたのなら、昨年までの高値と今日の大暴落という事態はなかったと思っている。ところが現実は原油市場に実際の需給とは関係のない資金が大量に流入していて、この動きによって市場価格が概ね決まってきたと筆者は見ている。今回はこの資金が動いたので暴落が起ったと筆者は理解している。週刊東洋経済と週刊ダイヤモンドでは、後者がこの点にある程度踏込んだ解説を行っている。


主要地域の原油生産の損益分岐点

先週号で今回の原油価格暴落の理由を、「ある事情」で原油市場が大きく変質したからと述べた。「ある事情」を理解してもらう上でも、前段の説明が必要である。そのためにまず供給サイドの話として、主要地域の原油生産(代替資源(非在来型資源)を含む)の損益分岐点(ドル・1バレル当り)を次の表で示す(出所は米IHS)。これは2020年までに生産開始予定の新規プロジェクトに関する数字である。ただこれらの数字は、ちょうど1年前(14年2月7日)の日経新聞の記事から採ったので多少古くなっていることをご承知願いたい。
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まずこの表の見方として注意が必要な点は、上表の数字はあくまでも2020年までに生産開始予定の新規プロジェクトに関するものである。おそらく既存の設備のコストはこれらより低いものが多いと見られる(例えば北海油田などもこの数字よりずっと低いと考えられる)。また数字はその地域の平均値であり、この表より高い開発案件と低い案件が混在していると見る。さらに損益分岐点の考え方としては、変動費に固定費を加味したものと理解する。開発費用や設備費用といった固定費は一定の年限(例えば10年とか・・ただしシェールオイルはもっと短い)で償却することを前提にしていると考える。


筆者が注目しているのは、シェールオイルとオイルサンドといった原油の代替資源(非在来型資源)である。特に数年前までは、本誌で何回か取上げたように筆者はオイルサンドの方に関心があった。しかし現実には、シェールオイルの方が開発が進んだ。ただ米IHSによればオイルサンドの損益分岐点を104ドルとしているが、既存の設備のコストは75ドル程度という情報も有り、米IHSの数字はちょっと高過ぎると感じる。これについては真偽を確かめる必要があるが、とりあえず今週号の話を進めるには大きな障害とはならない。

シェールオイルとオイルサンドに注目する理由は、両者の埋蔵量がほぼ無尽蔵という事実である。このことは昔からよく知られていたことである。原油の可採埋蔵量が1.7兆バレル(既に採掘済みの量を差引くと約1兆バレル)に対して、シェールオイルが3.13兆バレル、オイルサンドも2.12兆バレルある。しかし昔は原油価格が安く推移していたので、高コスト(双方ともバレル当り70~80ドルと言われていた)である両者の開発に手が付かなかっただけである。筆者が08/6/23(第532号)「原油価格の暴落予想」」で高騰していた原油価格の暴落を予想した根拠はこれである。当時、「そのうち原油価格は150~200ドルになる」といった明らかなデマが広がっており、いい加減なエコノミスト達もこれを吹聴していた。

ところが不可解にも原油価格が高値の100ドルという時代が7年近くも続いたのである(途中リーマンショックで一時的に40ドルまで下落したが)。しかし掘削技術に飛躍的な進歩が有り、特にシェールオイルについてはコストが40ドルの油井まである。シェールオイルとオイルサンドについては、今後も採掘技術の進歩の可能性が十分考えられる。今後の原油価格の推移を予想するに当り、このほぼ無尽蔵の原油の代替資源(非在来型資源)は絶対に考慮すべきことである。


ちなみにオイルサンドも捨てたものではない。シェールオイルに及ばないが、2013年で195万b/dの生産量がある。

今日、米国では「キーストンXL」というパイプラインの建設を巡って、オバマ大統領と議会が対立している。このパイプラインはカナダのオイルサンドから抽出された重質油分を軽質石油製品にするため、メキシコ湾岸の石油分解装置のある石油精製設備に送るためのものである。オバマ大統領は環境問題を盾に反対しているが、共和党を中心とした議会は建設を推進している。とうとう先月の1月29日に建設承認の法案は圧倒的多数で上院が可決した(つまり民主党の中にも賛成に回る議員がかなりいた)。はたしてオバマ大統領がこの法案に拒否権を発動するか注目されるところである
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