■第二章:ガウディ計画

 福井から帰京した佃(つくだ)がまず着手したのは、社内にこの計画を進めるプロジェクトチームを作ることである。量産にこぎつけるまでには時間がかかるだろうが、その後は収益の柱に育つ可能性が高い。その意味で、営業部からは江原春樹と川田和茂の若手ふたりを選んだ。将来、佃製作所を背負って立つこのふたりが立ち上げ当初から関わることで、佃の「本気」を示す意味もある。


 問題は、技術開発部の担当エンジニアを誰にするかだ。

 経験豊富な技術者は皆、ロケットエンジンのバルブ担当に回して余力がない。

 悩んだ末、佃が白羽の矢を立てたのは、入社五年目の若手――立花洋介であった。

「立花、ですか……」

 相談していた山崎は右手の指を顎に押し付けて考えている。「ちょっと経験が足りない気がするんですが。入社年次からいって、江原や川田より下になりますが、やりにくくないですかね」

「かといって、技術開発部内もいま手一杯だろう。――例の件もあるしな」

 ――例の件。

 ロケットエンジンのバルブ開発の途上で出たアイデアを、佃は、次々と実現させようとしていた。“例の件”は、そのうちのひとつだが、山崎との間でならそれで通る。

「洋介にやらせてやろうや、ヤマ」

 もう一度佃がいった。「こういうのが実績になっていくんだからさ。まだ経験は少ないが、粘り強さではウチで一番じゃないか」

 それが立花のいいところだ。もちろん、優秀なことはいうまでもない。

「まあ、一途なところがありますからね。ただ、ちょっと真面目すぎるきらいもあるんで――」

 山崎が新しいアイデアを出した。「加納を下に付けたらどうですかね」

「なるほど、アキちゃんか」

 加納アキは、入社三年目の女性エンジニアだ。大学院の修士課程を修了した後、家庭の事情で研究を断念したのだが、その後指導教授の紹介で佃製作所に入社したいわゆるリケジョである。少々おっちょこちょいなところが玉にキズだが、こちらも粘り強さは負けていない。明るい性格で、真面目一辺倒の立花のパートナーとしてはバッチリである。

「それはいい。頼む」

 佃が、選抜したメンバー全員を会議室に集めたのはその日の夕方のことであった。

     ◆

「北陸医科大学の一村先生の発案で、現地の株式会社サクラダという会社と一緒に、心臓手術に必要な人工弁の開発に乗り出すことにした。そこでお前らで、プロジェクトチームを組んで、この案件を進めてもらいたい」

 四人にしてみれば、突然の話である。まずは全員が驚いたように押し黙り、緊張した空気になったものの、「あのう、なにやればいいんですか」、というひょうきん者の川田の軽い質問で、ふっと現実が舞い戻ってきた。

「まあ、これを見てくれ」

 そういって佃は、サクラダから借りてきた人工弁の試作品を全員に見せた。「要はこれを作るわけだ」

「もうできてるじゃないですか」

 呆れたようにいった川田に、「いや、まだ完成品じゃない」、と佃はいった。「この人工弁は試作品だが、いわば失敗作だ」

「どこが失敗なんですか」

 そう聞いたのは立花であった。

「それがわからない」

 佃がいうと立花は驚いたように黙し、佃に続きを促す。

「実験で血栓ができやすいことだけはわかっている。克服しなければならないのは、技術的な正確性もともかく、血栓を防ぐ構造の解明と生体適合性だ。要するにトライアンドエラーの繰り返しになると思う」

「それって、時間とカネがかかりますよ」

 川田がすかさず指摘する。

「医療機器開発だから、ある程度のことは覚悟している」

 佃は、人工弁の医学的な意義を説明し、さらに開発に踏み切るまでの経緯について詳(つまび)らかに語った。

「いまのウチは小型エンジンが主力だが、将来的にこうした医療機器をもうひとつの収益の柱にできたらと思っている」

「そうなると、社長は本当に信じてるんですか」

 皮肉な口調でそう聞いたのは、江原である。この男には遠慮がない。そして噓もない。裏表なく、誰に対しても同じ態度で接する。

「ああ、信じてる。だから、お前らに頼んでるんだ」

 佃の言葉を咀嚼(そしゃく)するかのように四人が押し黙った。

「オレたちはともかく――」

 やがて、技術開発部の立花と加納のふたりを見て、川田がニヤリと笑った。「洋介にアキちゃんか。なんか、技術開発部の凸凹コンビって感じだなあ」

「あ、それは失言ですよ、川田さん。私たち、すごいの開発しますからね!」

 すかさず、加納が突っ込む。

「で、リーダーだが、やはり開発あってのことなんで、立花――お前に頼みたい」

 指名されると、立花は、「えっ」、というなり顔を振り向けてきた。

「ぼくが、ですか」

「ああ。何か問題あるか」

「いえ、問題というか、そういうんじゃないんですが。いいんですか、ぼくで」

 戸惑う立花に、

「オレがいいっていってんだから、いいんだ」

 佃は、きっぱりという。

「期待してるよ、洋介ちゃん!」

 すかさず川田が茶々を入れるのを聞き流して、佃は続ける。

「まずは試作品を完成させる。そこまでは、立花と加納の仕事だ。そこから先のマーケティング営業は、江原たちの得意とするところだ。将来、収益の柱になる重要なプロジェクトだ。相手に不足はないと思う」

「いいですねえ。おもしろそうだ」

 腕組みをして聞いていた江原が、にんまりとした。「社長の考えはわかりました。そうなったからには、頼むぞ、おふたりさん」

 立花と加納のふたりにいう。「売り物が無いことには、オレたちにはどうすることもできないからさ」

「よ、よろしくお願いします。なんとか――」

 どこか気圧(けお)された様子でいいかけた立花の声を、

「まかせてくださいよ」

 吹き飛ばさんばかりに、明るい加納がいった。「がんばりますからね」

 右手の拳をぐっと握りしめる。いつものことだが、加納はノリがいい。

 思わず苦笑した江原だが、ふいに真顔になると、

「ところで社長、このプロジェクトですけど、なんて名前にしますか」、ときいた。「何か名前が要ると思うんですが」

「それはもう決まってる」

 そのときを待っていたかのように、佃は四人を見据えていった。

「ガウディ計画だ」

 四人がそれぞれ、口の中でもぞもぞと反芻(はんすう)している。咀嚼するような沈黙が過ぎ去ると、江原が笑いを浮かべた。

「ということはオレたちはガウディチームってことか。気に入りましたよ」


ガウディ計画がいよいよ始動したのは、この冬一番の寒波が関東地方を覆った金曜日のことであった。


 身を切るような寒風の朝で、ニュースが伝える日本海側では大雪のところもあるという。

 この日は、福井から、一村と桜田、そして真野の三人が上京することになっていた。そもそも飛行機が飛ぶのかと、前途多難を象徴するような幕開けである。

 コートの前を締め、これは雪でも降り出すんじゃないかと恨みの目で冬空を見上げた佃だったが、天気ばかりはどうにもならない。

「社長、飛行機、無事に飛ぶようです」

 社長室でデスクワークをしていた佃に、真野から連絡が入ったと殿村が伝えてきたのは朝九時過ぎのことであった。

 最寄りの東急池上線の長原駅まで、佃自らが一村たちを迎えに行き、会社に案内したのは午後三時を少し回った頃。そしていま――。

 会議室に社員のほとんどが集まり、何か新しいことを始める前の高揚感と人いきれであふれかえっていた。

 一村たちとの初回の打ち合わせに、手が空いている者はできるだけ参加するよう、佃が呼びかけたからだ。

 ガウディ計画の概要と意義について、一村の講義が始まった。

 プロジェクターを使った実にわかりやすい内容だが、その話が最も胸に迫ったのは、外科手術の生々しい写真ではなく、最後に登場した子供たちの写真だった。

 全快して退院するときの笑顔。術後、数年して何かのついでに訪ねてきたという親子の写真。最後は、サッカー少年に成長した男の子のビデオレターだった。

 ――先生、ありがとう。先生のおかげで、ぼくは大好きなサッカーを続けることができました。

 なぜこの仕事をするのか。なぜこの開発を請け負うのか。

 一村の言葉、写真の一枚一枚、そしてビデオレターの子供のひと言ひと言が、社員全員の胸に染み渡り、やる気とエネルギーの糧になっていく。

 一村の話が終わったとき、自然と拍手が起こった。

 これは、単なるビジネスじゃない。

 綺麗ごとかも知れないけれど、人が人生の一部を削ってやる以上、そこに何かの意味が欲しいと、佃は思う。

 いま、このガウディ計画という新しい挑戦において、佃製作所の全員がその意味を共有したはずだ。

「このチームでの最初のチャレンジは、PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)との事前面談になります」

 一通りの説明を終えた一村がいった。医療機器審査の最初のステップとなる面談の予約が数週間後に入っているという。

「研究開発から実用化までのロードマップを作成していますが、それまでに御社のチームも含めて実現可能性を精査したいと思います」

 立花が生真面目に頷いた。先ほど自己紹介のときにも相当緊張していたようだが、いまもなお表情は強ばっている。

     ◆

「事前面談というのは、どういうものなんですか」

 そんな問いを加納が発したのは、自由が丘の和食の店に場所を移してからのことである。「PMDAに、我々の計画を聞いてもらう機会とでもいえばいいんですかね、先生」と桜田。

「そうですね。ただ、この面談で方向性が決まるといっても過言ではないと思います。最初が肝心といいますか」

 季節の鮟鱇(あんこう)鍋を前にしつつ、一村はいった。佃製作所の役職も含め、テーブルを囲んでいる十人ほどが箸を動かしながら、その話に耳を傾けている。

 事前面談は、医療機器の開発者と、それを審査する側であるPMDAが初めて顔を合わせる場である。

「我々の開発意図や内容が好意的に捉えられれば、その後の審査も上手くいきますし、ここでミソがつくと、後々に尾を引くようなことになりかねません」

「相手はどんな人たちなんですか」立花がきいた。

「PMDAの審査チームは、プロパーの審査役と、医療機器メーカーOBなどで構成された専門員たちです」

「審査役と専門員って、どっちが偉いんですか?」と加納。

「審査役は、いってみれば正社員みたいなもんだから、こっちのほうが地位的には上ですね」

 と一村。「ただし、審査役は若くて実務経験に乏しいこともあって、現場経験のある専門員の意見に引きずられることもあるでしょう。年配の専門員に遠慮する審査役もいるだろうし、実審査の力関係というのは微妙なところかな」

 その話を継いで、「厚労省の承認を目指して開発を続ける以上は付き合っていく相手になりますから、良好な関係を築いたほうがいいようなんです」、と桜田。

「だけど、そもそもその連中が保身の塊で、けんもほろろに難癖をつけて案件を通さないという話を以前、聞きましたけど」

 唐木田の話に、「ひどいじゃないですか、それ」、と加納が頰を膨らませる。

「結局、連中にとって最も大切なのは、患者の命じゃなくて自分自身なんじゃないですかね」

 と唐木田は容赦ない。「誰が死のうと、関係ない。下手に承認して後で問題になり、出世に響くぐらいなら、承認しないほうが遙かにいいというわけです」

「かつてそういわれていたことは否定しません」

 一村はいった。「その挙げ句、どんな状況が生まれたかというと、いわゆるドラッグラグやデバイスラグといった、世界との格差です。欧米で新薬が使われ、新しい医療機器が普及して患者の命が助かっているのに、日本では厚労省の壁が立ちはだかって、欧米なら普通に受けられる治療が受けられない。そんな状況が長く続いてきました」

「で、現状はどうなんですか」

 と殿村。元銀行員の殿村にしてみれば、役所や大企業の論理は馴染みでもあるし、興味のある世界だろう。

「いまは、かなり改善されたと思います」

 一村はいった。「厚労省の認可姿勢に対する相当の批判があり、それが重い扉を開かせた一面は否定できません。審査の実態は昔と比べたら遙かに協力的になっているといえるんじゃないでしょうか」

「ウチにとっては追い風ですね」

 山崎が期待を表情に出した。審査の迅速化は、チーム全体のコストダウンに繫がる。

「その事前面談には、先生も出席していただけるんですか」

 不安そうに聞いたのは加納だ。

「もちろんです」

 一村は力強く頷いた。「アイデアを出した医師が出るのと出ないのとでは、審査担当者の心証がまるで違いますからね。必ず、成功させましょう」

 一村はそういうと、ビールの入ったコップを掲げた。全員がそれに応じ、懇親会は次第に決起集会の様相を呈してくる。

 このまま順調に突っ走ってくれ。

 祈り、佃も、ビールを一気に呑み干した。


 PMDAとの事前面談が開かれたのは十二月半ばのことであった。


 場所は、地下鉄国会議事堂前駅から徒歩数分にある霞が関のビル内だ。一村と桜田、佃製作所側からは、佃と山崎の他、立花と加納の四人が出席している。

 事前面談の約束は午後一時半。いまその五分前だ。

 案内された部屋の窓からは、冬空の下、輝くばかりの霞が関のビル群が見えたが、いまの佃にはその景色を楽しむ余裕はなかった。医師として、いままで何度か面談の経験がある一村ですら緊張した面持ちで持ってきた資料に視線を落としている。

「お待たせしました」

 ドアがノックされ、約束の時間に入室してきたのは全部で八人。

 名刺交換が始まった。

 リーダーとなる審査役は山野辺敏という四十代前半の男だ。専門員という肩書きを持つ担当者は全員が年配の男性で、医療機器メーカーOBという一村の話を裏付けている。

「それじゃあ、早速、説明してもらいましょうか」

 司会進行役を務めているのは、おそらく年齢的に最古参と思われる滝川信二という男であった。協力的になったとは聞いているものの、気のせいか、滝川が佃たちに向けている目はそれとはほど遠い印象である。

 一村が、この人工弁開発の意義と現状について搔い摘まんだ説明を始めた。

 淀みのない、理路整然とした説明だ。臨床経験から開発計画を発案し、実験に至るまでの過程を話した一村の後に、桜田から、新しい素材開発についての簡単な補足をしたところで、「まあ、だいたいのことはわかりました」、というひと言が山野辺から発せられ、質疑応答が始まった。

 身構えた佃だが、出てきた質問はどれも基本的なものばかりで、危なっかしいと思えるようなものはない。

 これなら乗り切れるか――。

 そう思いかけたとき、

「まあ、基本的なことは別にいいですよ」

 それまで黙っていた滝川が、一段と大きな声で割って入った。かけていた老眼鏡を外した滝川は、配布された資料の上にペンを置くと、つまらなさそうに佃たちを眺めやる。「つかぬことをお伺いするんですけどね、この開発に携わるのは、本当に皆さんだけなんですか」

「とおっしゃいますと」

 発言の意図が読めずにきいた一村に、「大丈夫かなと思いましてねえ」、と滝川は疑問を口にする。

「ご存じだと思いますが、こうした医療機器にはリスクがつきものでしょう。万が一、何かあった場合、あなた方にその責任が取れるかどうか心配しているわけですよ、私は。北陸医科大学はともかく、サクラダさんはベンチャーでしょ。それに佃製作所は、大田区の中小企業だ。こういっちゃなんですが、吹けば飛ぶようなものじゃないですか。これで医療機器開発っていうのは、いくらなんでも荷が重いんじゃないの」

 口調も馴れ馴れしくなった滝川は、「どうなんですか」、と顎を突き出すようにしてテーブルの反対側にかけている佃たちに問うた。

「現時点で補償云々(うんぬん)の話は置いて考えるわけにはいきませんか」

 一村がいっても、「先生、それはないんじゃないですか」、と呆れたといわんばかりの態度だ。

「医療機器の開発者は、しかるべき社会的基盤がなければいけないと思います。特にクラスⅣとなればなおさらだ。そこらへんの中小企業が簡単に手出しできるような話じゃないんだから」

 PMDAの分類で、医療機器は、患者の命に関わる度合いによってⅠからⅣまで四つのカテゴリーに分けられている。人工弁は、もっとも審査が厳しいクラスⅣだ。

 小馬鹿にした発言に思わず口が出そうになって、佃は思い止まった。腹が立ったが、余計なことをいって場をぶち壊してもまずい。

「サクラダさんで開発する新しい素材はいま特許申請している最先端の技術です」

 失礼な滝川の物言いにも怒りを表すことなく、一村は誠意のある態度を貫いていた。「佃製作所さんも、帝国重工のロケットエンジンのバルブを製造している、技術力のある会社なんです。企業規模は小さくても、大企業にもない技術を持っています。こういう会社こそ、臨床で求められている新しく高度な医療機器を開発するに相応(ふさわ)しいと思います。どうぞ、ご理解いただけませんか」

「じゃあ、詳しい財務諸表でも出してよ」

 一村の説明など滝川は鼻で笑った。「医療機器の審査云々の前に、皆さんの会社の内容、教えてくれませんかね。株式公開してないでしょ、二社とも。良い会社だと言われたところで内容なんてわからないし、社名も聞いたことがないんだから。まずは、その辺りの“身体検査”をしてからだね」

 滝川は、提出した資料を片手で持ち上げた。「こんなペーパー、作ろうと思えば誰だって作れますよ。審査の本質っていうのはね、何を作るかという以前に、誰が作るかなんだ」

 会議室が重苦しく静まりかえった。

 どこでどう口を挟んでいいかわからず、佃をはじめ、佃製作所の四人は沈黙したままだ。

 リーダー格の山野辺は硬い表情でやりとりを聞いているが、特に意見をいうわけでもない。

 専門員という立場だが、どうやらメンバー内での発言権は、この滝川という男の方が強いらしい。

 取り付く島もない。かくして――。

 一旦ひび割れた関係を修復する間もなく、PMDAとの事前面談は、気まずいまま終了したのであった。

     ◆

「協力的なはずじゃないんですか」

 PMDAの入ったフロアから出て、同じビル内にあるカフェに入ってから、山崎がきいた。「なんですかね、あの滝川という専門員の態度は」

 まったく同感である。

「申し訳ない」

 一村が詫びた。

「いや、先生が詫びるスジじゃないですよ」

 佃はいった。「すばらしいプレゼンだったと思います。それがまったく無駄になったことにも、腹が立つ」

「同感です」

 桜田も、悔しそうにうなだれた。緊張して臨んだだけに、いま佃が感じているのはひたすら後味の悪い疲労感だ。佃の隣では山崎が難しい顔で押し黙り、青ざめた立花の表情には、ショックの色がありありと浮かんでいる。さすがの加納も意気消沈して表情も暗い。

「専門員の滝川という人のほうが、リーダーの山野辺審査役より威張っているんですからね。おかしいでしょう」

 呆れたように、山崎がいった。「そんなに滝川氏は経験豊富な専門員なんですか」

「絶対、そんなわけないですよ」

 加納がムキになって決めつけた。「経験豊富なら、私たちのこと、あんなふうにいうわけありません」

 その通りだと思う。

「どうします、先生。これ、うまく行くんでしょうか」

 桜田の顔には、手に取れるような焦燥がこびりついていた。

「まだ一回戦ですから」

 一村はみんなの気持ちを鼓舞したが、具体的な策があるわけではない。

 ニーズやコストといった判断基準ではなく、保身やメンツを優先する相手ほど、理不尽でやりにくいものはない、と佃は思う。

 あの男が、審査担当である以上、この話は進まないのではないか。

「もう一度、出直しましょう」

 桜田の言葉に頷きながらも、佃は、心の中に広がる暗雲を払拭することはできなかった。

 ※PMDA 日本国内で開発される医療機器などの品質や安全性の審査業務をおこなっている公的機関
この先は・・・本屋さんに積んであるうちにさあ買いに行きましょう・・・

池井戸潤さんの作品は常にハッピーエンドで終わるのですが・・・
その途中が予想通りの艱難辛苦の連続。

微かな希望が見えても潰され・・・もがいてもがいて、次に見えた光さえも次々に潰されていく。最後の望みも絶たれる前作と同じお決まりの展開、これで逆転できると思ったミラクルも帝国重機のコンペに勝っても結局商売で負け、おまけに残りのページも少なくなった二回目PMDAのプレゼンも暗雲が垂れこんで・・・もう絶体絶命・・・
これじゃジ・エンドではないか・おいおい本当にハッピーエンドで終わるのか?と不安を思ったところから、あれよあれよの大逆転!

水戸黄門と同じくお決まりの大逆転で痛快な勧善懲悪のストリー展開、でも、そうじゃなきゃ小説は読む価値がない。

次回作があれば是非読みたい!是非世界で戦う佃製作所を描いてみては・・・例えば原子力発電所用バルブで某国製原子炉の原発事故を防ぐ話などはどうでしょうかね?

人工心臓の話でしたが、人工心臓はかなり進歩しているようですが、この小説にも書いてありましたが、体格が70~80kg前後の人への装着を想定しているため、体の小さい人への応用には問題があるようです。

日本における人工心臓については国立循環器病研究センターのここまできた人工心臓の記事に詳しく書いてあります。