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北朝鮮の平壌で行われた軍事パレードに登場したロケット(2017年4月15日撮影、資料写真)〔AFPBB News

北朝鮮は5月21日、またもや弾道ミサイルを発射した。細部はいまだ不明であるが、先週の14日に新型の中距離弾道ミサイルを発射したばかりだ。

 14日のミサイルは、北西部の亀城付近から発射し、高度2111.5キロに達し、787キロ飛行した後、日本海に落下したという。朝鮮中央通信はこのミサイルが新型ミサイル「火星12型」であり、公海上の目標水域を「正確に打撃」し、発射実験は「成功裏」に行われたと報じた。

 この日は中国の習近平国家主席が自ら提唱した「一帯一路」(現代版シルクロード経済圏構想)に関する初の国際会議の開幕日だった。中国が今年最大の外交イベントとして準備してきた会議であり、習近平主席の “晴れ舞台”にケチをつける格好となった。

 核・ミサイル開発を強行する北朝鮮に対し、これまで国際社会は制裁を課してきた。だが中国は、のらりくらりとかわして裏口を用意し、制裁の実効性は上がらなかった。

潮目を変えた4月の米中首脳会議

 この状況は4月の米中首脳会談において大きく変わった。何らかの取引がなされたようで、習近平主席は実質的な制裁を強く求められた。

 中国による本格的な制裁が始まり、北朝鮮は強く反発していた。朝鮮中央通信はこれまでは名指しで中国を批判することは避けてきた。だが5月3日からは、次のように名指しで非難するようになった。

 「中国は無謀な妄動が招く重大な結果について熟考すべきだ」「中国はこれ以上、無謀にわれわれの忍耐心を試そうとするのをやめ、現実を冷静に見て正しい戦略的選択をしなければならない」

 今回の発射には金正恩朝鮮労働党委員長自らが立ち会ったという。習金平主席の“晴れ舞台”にミサイル発射を強行した意味は大きい。

 どんな制裁があっても、どんなに人民が餓えに苦しもうが、米国が北朝鮮を核保有国と認めて交渉に応じるまで、核・ミサイル開発を続けるという金正恩の強いメッセージに違いない。

 韓国に亡命した元駐英北朝鮮公使太永浩は昨年12月に次のように述べている。「1兆ドル、10兆ドルを与えると言っても北朝鮮は核兵器を放棄しない」

 今回のミサイル発射は、飛距離を抑える「ロフテッド軌道」で打ち上げられた。

 北朝鮮は、核弾頭搭載が可能で、新たに開発したエンジンの信頼性も再確認し、大気圏再突入の環境下で弾頭部の保護や起爆の正常性が実証されたと報じた。19日、米国メディアも米国防当局者の話として、弾頭の大気圏再突入に成功したと報じている。

 準備されていた6回目の核実験は、今のところ中国の圧力が奏功したのか、いまだ実施されていない。だが、これを強行して核弾頭の小型化が実現すれば、我々の頭上に核の脅威が現実に覆いかぶさることになる。

 相手は専制独裁国家である。ある歴史家が述べた言葉が重くのしかかる。「独裁国家が強力な破壊力を持つ軍事技術を有した場合、それを使わなかった歴史的事実を見つけることができない」

 ドナルド・トランプ米国大統領は米国本土に届く核弾頭ICBM(大陸間弾道ミサイル)の完成をレッドラインとしているようだ。

 だが現実には、北朝鮮への先制攻撃は軍事的ハードルが極めて高い。彼自身、「大規模紛争になる」と及び腰だ。ジェームズ・マティス米国防長官も、19日の会見で北朝鮮への軍事行動について「信じられない規模での悲劇が起きる」と指摘した。

日本にとって悪魔のシナリオが現実味

 このまま膠着状態が続けば、「アメリカ第一主義」を掲げるトランプ大統領は、北朝鮮を核保有国と認める代わりに、米国に届く長距離弾道ミサイルは持たせないということでディールする可能性がある。

 日本にとって悪夢のシナリオである。だが、その現実を突きつけられてから右往左往するようでは独立国家とは言えない。我々は最悪を想定し、日本独自の核・ミサイル抑止戦略を構築しておかねばならない。

 抑止政策には3種類ある。「懲罰的抑止」「拒否的抑止」、そして「報償的抑止」である。懲罰的抑止とは「もし一発でも撃ったら、百発打ち返して壊滅させるぞ」というものである。

 日本はこの抑止政策は憲法上、また能力上も採れない。米国との同盟つまり「核の傘」に期待するしかない。

 拒否的抑止とは「もしミサイルを撃とうとしても、目的は達成できないよ。そちらの意思は拒否する」というものである。具体的にはミサイル防衛、策源地攻撃、シェルターによる被害局限措置などがある。日本は主権国家として主体的に拒否的抑止能力は整備しなければならない。

 報償的抑止とは「もしミサイルを撃たなければ、もっと良いことがあるよ」というものである。「飴と鞭」の「飴」に焦点を当てた外交交渉であり、国際的な枠組みで実行しなければ効果は期待できない。

 北朝鮮とは1994年以降、KEDO(Korean Peninsula Energy Development Organization, KEDO)という米朝枠組み合意に基づいて、核開発をやめる代わりに軽水炉、重油燃料を提供するとしてきた。

 だが、結果的には裏切られ、報償的抑止は失敗に終わった。トランプ政権では「もはや戦略的忍耐は破綻した」との認識に至っている。

 これらの抑止政策はそれぞれ単独で実施しても効果が上がらない。また、どれが欠けても機能せず、三位一体となって実行していかねばならない。

 北朝鮮の核に対して日本がやるべきことは懲罰的抑止である「核の傘」の信頼性を上げるとともに、拒否的抑止を実効性あるものに整備することである。報償的抑止については6か国協議をまず再開させることだ。

 拒否的抑止のために、我が国はイージス艦から発射する「SM3」と陸上配備の「PAC3」の2層でもってミサイル防衛体制を構築している。

 今回の「ロフテッド発射」を見ても分かるように、北朝鮮のミサイル技術は日増しに進歩しており、現体制では不十分である。報道によると、政府はSM3とPAC3の能力向上に加えて、イージス・アショアシステムを新規に導入することでさらに重層化を図ろうとしているようだ。

「敵基地反撃能力」の保有

 だが、いくら能力向上を図り、重層化しても飛んでくるミサイルを100%撃ち落とすことはできない。そのため、発射前のミサイルを地上で叩くという「策源地攻撃能力」も併せて整備する必要がある。

 3月29日、自民党の安全保障調査会は、北朝鮮の核・ミサイルの脅威を踏まえ、敵基地を攻撃する「敵基地反撃能力」の保有を政府に求める提言をまとめ、翌30日、安倍晋三首相に提出した。

 従来使っていた「策源地攻撃」という言葉は分かりにくいということで「敵基地」とし、また先制攻撃ではないと明確にするため、「反撃」の語句を入れたという。

 調査会の座長を務めた小野寺五典元防衛大臣はこれについて次のように説明している。

 「何発もミサイルを発射されると、弾道ミサイル防衛(BMD)では限りがある。2発目、3発目を撃たせないための無力化のためであり自衛の範囲である」

 「敵基地反撃能力」の保有については、1956年に鳩山一郎内閣が次のように政府見解を示しており、憲法上の問題はない。

 「誘導弾等の攻撃を受けて、これを防御するのに他に手段がないとき、独立国として自衛権を持つ以上、座して死を待つべしというのが憲法の趣旨ではない」

 反対する人の中には、日米同盟の「矛と楯」の役割分担を持ち出す人がいる。米国が矛の役割分担だから、攻撃は米国に任すべきとの主張である。与党内の有力議員でも同様に主張する人がいる。

 だが、これは実は大きな間違いである。2年前に改定された「日米防衛協力のための指針」、いわゆる新ガイドラインでは、既に日米の役割分担は変わっているのだ。

 2015.4.27に改定された新ガイドラインを見てみよう。

 「日本に対する武力攻撃への対処行動」の「作戦構想」で「弾道ミサイル攻撃に対処するための作戦」については、「自衛隊及び米軍は、日本に対する弾道ミサイル攻撃に対処するため、共同作戦を実施する」とある。

 役割分担については「自衛隊は、日本を防衛するため、弾道ミサイル防衛作戦を主体的に実施する。米軍は自衛隊の作戦を支援し及び補完するための作戦を実施すると記されている。

 1997.9.23に策定された旧ガイドラインではどうなっているか。「作戦構想」で「自衛隊及び米軍は、弾道ミサイル攻撃に対処するために密接に協力し調整する。米軍は、日本に対し必要な情報を提供するとともに、必要に応じ、打撃力を有する部隊の使用を考慮するとなっていた。

新ガイドラインで消滅した一文

 旧ガイドラインにあった「策源地攻撃」に関する記述、つまり「(米軍は)必要に応じ、打撃力を有する部隊の使用を考慮する」という一文は、もはや新ガイドラインでは消滅している。

 また旧ガイドラインでは「米軍は、日本に対し必要な情報を提供する」とあったのが新ガイドラインでは、「自衛隊及び米軍は、弾道ミサイル発射を早期に探知するため、リアルタイムの情報交換を行う」と対等になっている。

つまり「弾道ミサイル防衛」に関しては、従来の「矛と楯」の役割分担は既に改定され、自衛隊が主体的に実施し、米軍はそれを「支援し、補完」するという役割分担に代わっているのだ。

 本来なら2年前のガイドライン改定後、直ちに「敵基地反撃能力」を議論をすべきところ、北朝鮮の核・ミサイル脅威が顕在化してやっと自民党が重い腰を上げたということだ。

ちなみに新ガイドラインはバラク・オバマ政権下で策定されたものである。オバマ大統領は2013年9月、「もはや米国は世界の警察官ではない」と宣言した。

 既に日米同盟も変質している。米国の同盟国に対する姿勢は1969年7月のニクソン・ドクトリンに立ち戻ったと見なければならない。ニクソン・ドクトリンでは、「(米国はコミットメントを維持するが)国家の防衛は当事国が第一義的責任を負う」と主張しているのだ。

 日米で「矛と楯」の関係が完全に消滅したかというとそうではない。新ガイドラインに1か所だけ出てくるところがある。作戦構想の「領域横断的な作戦」には、「米軍は、自衛隊を支援し及び補完するため、打撃力の使用を伴う作戦を実施することができる」とある。

 「領域横断的な作戦」とは言わば全面戦争である。つまり全面戦争になれば、核を含む打撃力による報復は米軍が実施する(正式には「実施できる」"may conduct"だが)としており、「懲罰的抑止」については、従来の「矛と楯」の関係が辛くも維持されている。

 「敵基地反撃能力」に関する国内議論も盛り上がらないが、同床異夢で概念が整理されていないことにも原因がある。

 我が国に飛来するミサイルを無力化するのが拒否的抑止としてのミサイル防衛であるが、飛来するミサイルをどこの時点で無力化するかによって、一般的には次のように分類されている。

 ブースターが燃焼している間に迎撃する「ブースト・フェーズ」、ブースターが燃え尽きた後、大気圏を飛行する間に迎撃する「ミッドコース・フェーズ」、そして大気圏内に突入してから迎撃する「ターミナル・フェーズ」の3段階である。

 今回の「敵基地反撃」というのは「ブースト・フェーズ」直前の段階で、ミサイルを無力化するものである。いわば「ゼロ・フェーズ」(筆者の造語)段階でのミサイルを地上で「迎撃」することを意味するものであり、ミサイル防衛の一環として位置づけられる。

「ゼロ・フェーズ」の迎撃態勢整備を

 我が国に向かってくるミサイルを空中において無力化するか、発射直前の地上で無力化するかの違いに過ぎず、いずれもミサイル防衛なのである。

 日本のミサイル防衛体制は、最終フェーズである「ターミナル・フェーズ」で迎撃する兵器としてPAC3を導入し、「ミッドコース・フェーズ」で迎撃するためにイージス艦にSM3を装備してきた。

 今後はこれに加え、「ゼロ・フェーズ」で迎撃する兵器、巡航ミサイルなどの精密誘導兵器を導入し、ミサイル防衛体制をさらに実効性ある体制に充実させていかねばならない。

 ちなみに「ブースト・フェーズ」で迎撃する兵器として、レーザー兵器などの研究がなされているがいまだ完成されたものはない。

 「敵基地反撃能力」については、民進党や共産党は「専守防衛の建前を崩す」などとして反対している。「反対のための反対」ではないと思いたいが、だとすれば、「懲罰的抑止」と「拒否的抑止」を混同しているのだろう。

 またすでに虚構となった「矛と楯」という日米役割分担に対し、手前勝手な思い込みにしがみついているだけかもしれない。

 いずれにしろ、もし反対であれば、我が国の頭上を覆いつつある北朝鮮の核・ミサイルに対しどう対応するか対案を示すべきだろう。でなければ政治家として、あまりにも無責任すぎる。

 ただ実際の運用になると、「敵基地反撃」は非常に難しい作戦であることは確かだ。

 リアルタイムのミサイルの位置情報入手が鍵となるが、ミサイル発射台が移動式になり、固定燃料化すると発射までの時間が大幅に短縮される。従って発射前のミサイルを発見しても、これを攻撃する時間的余裕は極めて制限される。

 加えて、もし仮に巡航ミサイルで攻撃するにせよ、韓国上空を飛行させるわけにはいかないだろう。目標発見、攻撃要領、攻撃経路の選定など運用面での課題は多い。

 だからといって「敵基地反撃能力」は持つ必要はない、持っても抑止力としては役に立たないとは言えない。

 冷戦時、極東ソ連軍が侵攻してきたら自衛隊はひとたまりもないと言われてきた。だから自衛隊はいらないとは言えなかったのと同じである。

手前勝手な思い込みは国を亡ぼす

 少しでも拒否力があれば抑止力として機能することはあり得る。拒否力と懲罰力が相まって、大きな抑止力になり得るのだ。

 また物理的「能力」を保有するにも、最低5年単位の長い年月がかかるし、一朝一夕にはいかない。まず物理的「能力」を整備しながら、並行して運用上の課題を解決していくという姿勢が求められる。

 先述したように北朝鮮の核・ミサイルに対する抑止は、懲罰的抑止、拒否的抑止、そして報償的抑止がバランスよく三位一体となってようやく機能する。その中でも拒否的抑止は独立国として主体的に実施しなければならない。

 拒否的抑止であるミサイル防衛に関し、日米の役割分担が既に変わっているにもかかわらず、手前勝手な思い込みにしがみついていても米国は相手にしないだろう。日本が主体的に努力しなければ、米国による懲罰的抑止にまで悪影響を及ぼしかねない。

 その他の拒否的抑止施策として、地下鉄などをシェルターとして利用する被害局限措置についても、真剣に現実化していかねばならない。

 また懲罰的抑止についても、完全に米国任せでいいのか、タブーなき議論も今後必要である。金正恩を思いとどまらせるために、日本は何をなすべきか、日本人自らが当事者意識をもって主体的に考えなければならないのだ。

 安倍総理大臣は参議院本会議で、「敵基地反撃能力」について「法理的には自衛の範囲に含まれ可能だ」とし、「常にさまざまな検討を行い、あるべき防衛力の姿について不断の検討を行うことは当然のことだ」と述べた。

 核・ミサイルの脅威が現実味を帯びてきた今こそ、原点に立ち返り「様々な検討を行い、あるべき防衛力の姿」を真剣に模索すべき時なのである。もはや甘えは許されないし、一刻の猶予も許されない。

 できることから現実化していかねばならない。厳しい国際情勢は待ってはくれないのだ。
織田氏は元航空自衛隊の空将である。昨年自衛隊機が中国空軍機とドッグファイトとなり、離脱したことを暴露して世間の耳目を集めたか方だ。2年前から公開されている文章であり、私が反論する余地はないが・・・・今回の記事は、将来撤退するかもしれない在日米軍の方向性から考え、新ガイドラインをよく読めば改めてかなりショッキングだ。確かに日米新ガイドラインを改めて読むと、本当に策源地攻撃は日本単独でやれと言うこのなのか?現憲法下では日本はただ座して死を待つことになるだろう。

これでは、共謀罪だのテロ等準備罪の審議をしている暇もないではないか!
憲法に、先制攻撃が可能な条文を加憲するしかないであろう!

政府がトマホーク導入を決めたとはいえ、現状自衛隊が持つ策源地攻撃能力は皆無である。トランプ大統領とマティス国防長官が北朝鮮を攻撃することは無いということなのか?

弾道ミサイルを発射前に叩く事では防ぎきれない。前例として、湾岸戦争での「スカッド狩り」があった。湾岸戦争では、アメリカを中心とする多国籍軍が数千機の作戦機を投入してイラク上空の航空優勢を確保、上空には戦闘爆撃機を常に待機させ、対地用早期警戒管制機「E-8ジョイントスターズ」で地上を見張り、スカッドを搭載した移動式弾道ミサイルランチャー(TEL;Transporter-Erector Launcher 輸送-起立-発射機)を発見次第に空爆、撃破を行いました。

更には潜入した地上特殊部隊による大口径対物ライフルの狙撃でスカッドを破壊するなど、あらゆる手段を用いて破壊を試みたものの、イラク軍は日中はTELを隠し、バルーンデコイやTELに擬装したタンクローリーなど囮を配置し、夜間になると行動しゲリラ的な発射で弾道ミサイル攻撃を行っています。

結果、湾岸戦争でイラク軍による弾道ミサイル攻撃はイスラエルに向けて約40発、サウジアラビアやバーレーンなどに向けて撃たれたものを含めると約90発が発射された。

砂漠で監視しやすいイラクですら、この有様です。山間部の森林地帯でいたるところにトンネルがある北朝鮮の国土では、TELの発見はより困難というより不可能に近い。アメリカ軍の圧倒的な戦闘爆撃機の数とE-8ジョイントスターズの存在、近隣に航空基地を確保した優位性を持っても、イラクでのスカッド狩りは成功率が非常に低かった。

第一亜音速の巡航ミサイルではグローバルホークで北朝鮮上空を監視していても移動するTELを攻撃することは不可能であるし、空自は対地攻撃能力をほとんど持っていない。

もし、米国が北朝鮮と取引して体制維持を約束したら、北朝鮮は核を使って日本から金を脅し取ることを考えるだろう。・・・

戦争を起されても迷惑だが、米軍が手出ししないと言うのも、どちらにしても迷惑な話だ。であるならば、日本に米軍基地を置く必要が日本になくなる。

日本はハリネズミのようにBMDを張り巡らせた上で、北朝鮮攻撃用に北朝鮮全土をカバーするだけのESM(電磁パルス爆弾)をCSM非核弾道弾に搭載し、北朝鮮に打ち込み続ける作戦が最も有効だ。憲法を改正して、多額の国家予算を投入する必要があるのだが、現状では、トムクライシーかSF小説に近いシナリオに見えてしまい、現実性に欠けてしまう。どうするべきか・・・・気が重くなる。


【5/25追記】
8年間米国を統治したオバマは米国最大の強みであった軍事力を弱体化させ、米国の没落を招いた。オバマのしたことは、本人の意図とは真逆だが、結果として世界中にテロと混乱を撒き散らしたことになった。その反動がトランプ政権の登場であり、必然性があったのだ。
トランプは海軍の建て直しが急務と考えているが、オバマが落とした影は余りにも大きい

トランプ大統領は大統領選挙中に「350隻海軍」の建設を選挙公約に掲げた。すなわち100隻近くの主要戦闘艦(航空母艦、駆逐艦、潜水艦など)を「アメリカの鉄で、アメリカの技術で、アメリカの労働者によって」建造することにより、世界中に睨みを効かすことができる大海軍を再興して、「偉大なアメリカ」を取り戻そうというのである。

 トランプ政権同様にアメリカ海軍も、主要艦艇数を2040年頃までに355隻に増加させる方針を打ち出している。

 しかしながら、米国にはもはや一刻の猶予も許されないようだ。先週5月17日に公表された白書『将来の海軍』において、ジョン・リチャードソン米海軍作戦部長(米海軍軍人のトップ)は、355隻海軍を2040年頃までに達成するという現在の目標では遅すぎる、と指摘している。

■「絶対に必要」な大海軍の構築

 リチャードソン提督によると、アメリカ海軍の主たる仮想敵である中国海軍やロシア海軍は猛スピードで海軍力増強に努めている。たとえば中国海軍は2016年だけで18隻もの戦闘艦艇を就役させている。ロシア海軍も新型攻撃原潜をはじめ近代的な艦艇をどんどん生み出している。また北朝鮮やイラン、それにテロリストによる海洋での脅威も高まっている。

 したがって、「355隻海軍の完成は2040年」などと悠長なことは言っておられず、大幅に前倒しする必要があるというのだ(下の図)。

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リチャードソン海軍作戦部長が唱える355隻海軍構築計画の前倒しと予算増加(『将来の海軍』より)(* 配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで本記事の図表をご覧いただけます。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50083

 また海軍作戦部長は、数だけではないと強調する。現在のテクノロジーレベルで355隻海軍を誕生させても威力はなく、多くの技術革新を盛り込んだ最先端技術を投入しなければ、それらの脅威に立ち向かうことはできない。そして、軍艦建造だけではなく、海軍の作戦概念に関しても新機軸が求められている。

 このように、リチャードソン海軍大将は、トランプ政権が選挙公約として掲げてきた大海軍構築は絶対に必要であり、さらには、よりスピードアップして、数だけでなく質的にも優れた大海軍を誕生させなければならないことを指摘している。

■355隻でも足りない

 もちろん海軍力は艦艇の数だけで決定されるわけではない。艦艇の性能、そして海軍戦略や作戦概念の内容、それに人的資源の質などを総合しなければ海軍力の強弱は計れない。とはいうものの、艦艇の数は海軍力の基本中の基本である。

 いずれの国の軍艦も、それぞれの国土の延長である。たとえば、アメリカ海軍軍艦は小さいながらもアメリカ領土であり、海上自衛隊軍艦は日本領土であり、人民解放軍海軍軍艦は中国領土である。そのため、平時において軍艦を海外に展開させているということは、それだけ自国の力を海外に見せつける、すなわちプレゼンスを示すことになる。いずれの海軍にとっても、プレゼンスを示すことこそが、戦闘に勝利することに次いで重要な役割ということができる。そして平時におけるプレゼンスを示すためには軍艦の数が決め手になる。

 そのため、有力なシンクタンクは「462隻は必要」という艦艇数を提示している。また、筆者の周辺の海軍関係者の中には「500隻でも少ないくらいだ」と主張する者もいる。そして、リチャードソン海軍作戦部長と同じく、可及的速やかに海軍力を増強させる必要がある、という点では一致している。

■間もなく米海軍を上回る中国海軍


 アメリカ海軍がスピードアップして大海軍を建設する必要性を力説している最大の理由は、中国海軍の飛躍的な強大化を大きな脅威に感じているからに他ならない。

 もちろん、中国海軍だけでなくロシア海軍も強力化しつつあるし、その他の海洋における様々な脅威や、世界的人口増加に伴う国際海運量の爆発的増大にも海軍は対応しなければならない。とは言っても、当面の問題は、猛烈なスピードで戦力強化を進めつつある中国海軍だ。

 多くの米海軍関係者たちは「2030年までには、アメリカ海軍は中国海軍に対して数的劣勢に陥ってしまう」と考えている。例えば、2020年までに中国海軍はイギリス海軍、ロシア海軍、海上自衛隊、インド海軍を完全に凌駕して世界第2の海軍の地位を得る。それとともに、兵力6000名近くの海兵隊(海軍陸戦隊)を世界中に送り込む、アメリカに次ぐ世界第2の水陸両用戦力をも保有することになる。

 そして2022年には、主力水上戦闘艦数において中国海軍はすでにアメリカ海軍を上回るとも推測されており、さらに2030年までには中国海軍の海軍部隊展開能力がアメリカ海軍のそれを確実に上回るとみられる。

 したがって、一刻も早く355隻あるいはそれ以上の規模の海軍を造り上げなければならない状況になっているのである。

現実的には困難な大海軍の構築

 しかしながら大海軍構築に賛成する立場の人々からも、はたして現実的に350隻あるいは355隻海軍を誕生させることができるのか? という疑問の声が上がっている。というのも、トランプ政権が打ち出している国防予算のレベルでは、速やかに多数の軍艦を建造していくことなど不可能だからだ。

 また、国防総省は、軍艦建造などの長期的な兵器調達計画の見通しを提示する『将来の国防計画』というレポートを提出できない状態に直面している。その大きな原因は、人事が遅れていることにある。つまり、マティス国防長官を直接補佐し、この種の長期計画の責任者たる国防副長官も、海軍の長である海軍長官もいまだに決定していないのだ(それだけでなく、国防総省の数多くの高官人事も決定していない)。

 さらに悪いことに、アメリカの軍艦建造能力が質的に低下しているという問題も大海軍構築に暗い影を投げかけている。今後アメリカ海軍も含めて世界の海軍で必要とされる小型水上戦闘艦の設計能力が、アメリカの軍艦建造メーカーに欠けており、海外のメーカーの助力を仰ぐ必要があるのではないか? と危惧している海軍関係者たちは少なくない。

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艦艇設計能力の低下を露呈させたLCS-1フリーダム(左)とLCS-2インディペンデンス(右)

■米海軍力を補強できる日本

 そもそも「中国海軍に対抗する」いう目的に絞るならば、アメリカ海軍が単独で中国海軍を圧倒する必要はない。海上自衛隊やオーストラリア海軍などとの連合海軍力により圧倒すればよいのだ。

 今後、アメリカ海軍やトランプ政権は、上記のように大海軍の構築に時間がかかる現実を見据え、同盟国の中では強力な海軍力や軍艦建造能力を有する日本の助力を期待してくるはずである。

 日本としても、東シナ海情勢、そして南シナ海情勢に対応して海洋戦力を増強しなければならない状況に直面していることは周知の事実である。

 したがって、日米同盟の強化を常に口にしている以上、日本政府は海上自衛隊の人員数や艦艇数の増強(もちろん国防予算の国際水準化が必要になる)を本腰を入れて推し進め、同時に、アメリカに欠落している最新鋭小型戦闘艦艇開発技術(日本のメーカーには優れた技術力が存在している)の供与などの協力も行い、海上自衛隊とアメリカ海軍がトータルで中国海軍の脅威を跳ね返すだけの戦力の構築を即刻開始する必要がある。



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