中国共産党第19回全国代表大会(19大)が開幕した。中国全土が党大会一色の「官製祝賀ムード」中だが、実はほぼ1カ月前から「喜迎19大=ウエルカム党大会」の興奮状態はすでに始まっていた。

9月中旬、人民日報や中央テレビ局などの宣伝機関は一斉に「喜迎19大」の宣伝キャンペーンを起動させた。官製メディアは毎日のように党の「偉大なる業績」をたたえる記事を掲載したり、党大会の「歴史的重大意味」を強調する特集番組を流したりして祝賀ムードを盛り上げ「全国人民が心を一つに党大会の開催を迎えよう」と呼びかけた。

それが号砲となって、あちこちの政府機関がまず動き出した。党大会開催地の北京市の場合、9月12日、軍・武装警察・公安参加の「党大会安全確保動員大会」が開かれ、蔡奇北京市党委書記が「党大会のための最高レベルの安全確保」を誓った。

22日、蔡書記は北京日報などのメディアを訪問し、「党大会のための宣伝工作の強化」を指示した。そして今月10日、蔡書記は今度は、党大会代表への食・住を提供するサービス部門を視察し、「党大会成功のための万全なサービス体制の構築」について責任者と協議した。

北京市の消防当局も9月19日に重要会議を開き、「党大会期間中にいかなる火災事故も起こらせないため」の対策を検討した。今月11日、北京市は今度は、副市長出席の下で「森林防災」に関する電話会議を開き、「党大会の開催を迎えて、森林火災の発生を未然に防いでおこう」との方針を確認した。

このようにして、9月中旬からの1カ月、北京市の市政はまさに党大会の開催を中心に回ってきている様子だ。その中では、市内の火災防止も森林の災害防止もすべて、党大会のためであった。

「すべては党大会のために」という合言葉の下で、北京市と全国各地の多くの人々も「ウエルカム党大会」の雰囲気作りに駆り出された。

9月19日、北京市婦女連合会が「ウエルカム党大会」と題する弁論大会を開いたと思えば、同21日、北京市美術協会は「党大会を迎える」ための「新人新作展」を開いた。そして今月11日、今度は全国から300人余の「自由芸術家」が700点以上の芸術作品を携えて北京に集まり、「党大会の開催を迎え、党の業績をたたえよう」と題する芸術大会を催した。

同じ日に北京市順義区では、若い女性たちが「党大会の開催を迎え、心を党にささげよう」をテーマとする手芸作品展覧会を開いた。

その一方で、全国各地では工場の従業員や鉱山の労働者が「党大会を迎えての増産運動」に励んでいることが今月12日掲載の中国新聞網記事によって披露され、多くの科学技術者が「党大会の開催に向けて」研究と技術開発を迅速に進めていることも、各メディアによって報じられた。

かくのように、われわれの感覚では「たかが一政党の党大会」のために、隣の中国では、北京市の公安から消防局や婦女連合会まで、全国の「自由芸術家」から工場や鉱山の労働者までが総動員され、政権が音頭をとった「ウエルカム党大会狂騒曲」の中で一斉に踊り出した。

その中では、市内の防火も森林の防災も、工場の増産も技術開発の推進も、芸術家の芸術作品も何もかもすべて、党大会のためにあるものであり、党大会のためにささげられているのである。

普通の近代文明国家の視線から見れば、このような光景は滑稽にして哀れにも見えてくるが、かの国ではそれが普通のように思われていて、13億の人々が喜劇を大まじめに演じているのである。

中国という国が、どれほど異常で異質な国であることがこれでよく分かってくるだろう。


【プロフィル】石平

せき・へい 1962年、中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。
習近平は、いよいよラストエンペラーとして、歴史に名を残すことになりそうだ。 

第19回中国共産党大会が昨日から開催されたが、崩壊する経済を規制緩和で活性化するのではなく、「新時代の中国の特色ある社会主義思想」の建設という目標も掲げた。新時代の社会主義とは、海外企業も含め、民間企業内に党組織を監視役として置き、ネットを徹底的に規制しつつ、ITによって共産党が徹底的に支配する、まるでジョージオーウェルの1984の世界を再現した世界を作るという。大躍進政策や文化大革命時代の毛沢東主義、いや、マルクス・レーニン・スターリンの時代にまで先祖返りした政策を推し進めるようだ。中国人評論家曰く「デジタル社会主義」

経済がおかしくなり、一党支配体制が崩壊しかかっていることを習近平自身が一番よく知っているからこそ、例えばダボス会議では「「自由貿易の推進」と「保護貿易への反対」姿勢を示し、対外的に経済の自由化と宣伝はしているが、自由化と相反する毛沢東時代に戻るような、党による支配強化政策をするのだと思う。

中国当局は長年経済指標をねつ造してきた。GNP然り、中国は外貨準備高もそうだ。そもそも外貨準備とは、政府が自由に使える金ではなく、見せ金的な役割を果たすものであるが、実は外貨準備ですら偽装であることが、知れ渡ってきている。

この偽装された経済データで作り上げられた「偽りの世界第2位の経済体」に、多くの海外企業が引き付けられた。

外資企業が中国本土でビジネス展開を始めると、海外への送金を制限して、人民元を海外の本国通貨に自由に両替させないことで、資金が本国に戻ることを阻止している。中国当局は近年更に個人や企業に対して流出規制を強化して、自分の金すらまったく持ち出せない状態である。

中国の8月末外貨準備高は3兆915億ドル(約337兆円)だが、外貨準備の大半は、そもそも外国政府と外国企業の財産であり、中国人のものではないということである。そのなかには外国ビジネスマンによる対中投資の資金や中国が溜め込む対外債務、中国を頻繁に出入りする国際的な短期的流動資金、いわゆる「ホットマネー」も含まれる。

中国は、今、資金不足に陥っている。しかもその資金不足状態について、トップの習近平主席はもしかしたら、つい最近まで知らない可能性が大きい。大国のような振る舞いをして、新興国相手に大盤振る舞いをして、一帯一路、AIIBを設立するまで、資金が枯渇していると考えが及ばないからである。

習近平に使える部下たちも、そのような事態を隠していたかもしれない。習近平は、最近になって、強引な外貨防衛に転じている。やっと、資金不足に気が付き始めたようである。

資金を中国から持ち出せないと言うことが知れ渡ると、当然、新たに外資を中国に呼び込めるわけがなく、外国資本の投資がなければ、真水の経済成長は無く、債務急増問題、信用バブル、人民元安など様々な経済問題が更に追い打ちをかけ、党幹部や超富裕層が、裏口からどんどん資本流出を加速している。ねつ造された「経済の繁栄」が消えるのは時間の問題だ。
【北京=河崎真澄】中国のGDP成長率が小幅減速した。5年に1度行われる中国共産党大会の開幕2日目に、習近平指導部が経済政策で「安定成長路線」へのシフトをにじませた形といえる。

1~6月は6・9%成長を確保しており、7~9月もそれ以上の成長が見込まれていたが、8月に国際通貨基金(IMF)が公表した「中国経済に関する年次審査報告書」がブレーキをかけたとみられている。

報告書は、中国の債務問題について「中長期的に成長を急減速させる恐れがある」と警告した。前後して海外の格付け機関も、中国の長期格付けを債務問題を理由に相次ぎ引き下げており、国際金融市場では「チャイナリスク」がにわかに意識され始めた。

IMFによると、名目GDPに対する債務総額の比率は既に200%を超えて、今後5年で300%に膨れる。デフォルト(債務不履行)など、危険水域に近づく懸念が増大する。

今年は党大会を控え、年初から公共事業で景気を刺激してきた。通年ではなお前年を上回る可能性もあるが、「成長ありき」が続けられなくなったことは、習氏が18日の演説で、「金融管理体系を完備させて、金融システムリスクを起こさないという最低ラインを守る」と述べ、自覚していることからも読み取れる。

地方政府や国有企業の資金調達で、十分な担保もない状態で外部の審査もないまま、国有銀行から多額の融資を受けることが常態化した中国。ひとたび不動産市況が悪化すれば、担保価値をなくす物件が多発。債務不履行に陥る。いわば借り手も貸し手も「モラルハザード(倫理の欠如)」の負の連鎖を続けている。

水面下で膨張が続く債務問題をいかに処理して、安定成長を維持するか。習指導部2期目の5年間も、綱渡りの経済運営が続く。

今の中国経済は、まるで清朝末の様相に似てきている。清朝が没落した原因は金融不安だけでなく国が財政難に陥っていたことが大きい。当時、銀行は閉鎖され国庫自体も困窮していた。いかに大国であっても、国庫を使い果たしてしまえばたちまち立ち行かなくなるのは自明のこと。ならばその金はどこに?貴族や高官のポケットに入ってしまったことに疑問の余地はない。多くの親王や内親王、大臣といった地位あるものたちは有り余るほどの私財を蓄えていた。ただ清朝の国庫だけが、空っぽだった。

南シナ海の埋め立てはただではできない、膨大な国家資金を使い、軍事費も膨大な金を使い、中国の金庫に金があるとは思えない。

膨大な金を使って埋め立てた南シナ海と尖閣諸島周辺への領海侵犯など対外的な強硬は、結果として、国際情勢を悪化させ、中国を国際的に孤立させている。

清朝は洋務運動という西洋文明の取り込みに失敗した。多くの原因があるが、清朝の洋務派官僚自体が国より自分の利益を第一としていたことがおおきい。

清朝の官僚は、国を本当に改革しようという気構えが、無かったように思える。まるで今の中国と重なる。清朝は、鎖国政策をとったように、中国のネットは世界から遮断され、まるで現代の鎖国政策といっても過言ではない。

清王朝は腐敗し国内は四分五裂したが、現代中国はまだ国土的には四分五裂してはいないが、中国は持てる者と持たざる者が、あまりにも大きく分裂し、清朝と同じく国を一枚岩にまとめられていはいない。

世界中が軍縮をしていた21世紀、中国は軍事政策や国防費が不透明だと国際社会から批判を受けながら、四半世紀余りにわたって急激な軍拡を進めてきた。

今世紀半ばに人民解放軍を「世界一流の軍隊」にすると習近平は党大会で言い切った。日米の軍事力を圧倒する意味だろう。清朝とちがって、軍事力を増強ししてはいるが、やがて経済が失速した際に、地方軍閥が中央と対峙することが予想される。

清朝は最後には列強の侵略を許し、半植民地化の憂き目を見た。世界の発展から取り残される「眠れる獅子」と化した。

「皇帝」と呼ばれる習近平は「ラスト・エンペラー」になるかもしれない。習近平で中国共産党支配は終わる可能性が大きい。

私は、人を見る目が無いのだろうか?習近平の写真をはじめて見た時は、小太りで眠そうな顔、精彩を欠くルックスにオーラを感じない。集団指導体制の中で独裁が許されるわけはない、なのに何故か貧相で、オーラを感じさせない習近平が権力闘争に勝ち抜き、権力が集中していることに、私は理解できないでいる。

盟友なのか、最大のライバルなのか今一つ不明だが、王岐山の方が余程カリスマ性があるように見えるのだが、その去就も党大会の人事も興味がわく。

王岐山が推進した「腐敗撲滅運動」の名を借りた政敵の粛清は、多くの敵を内外に作ってしまったのではないか。王岐山は、習近平のライバルと言うよりは、運命共同体ではないかと思う。

習近平や王岐山が言うように「腐敗問題を解決しなければ、党が滅び、国が滅ぶ」確かにその通りだが、仮に腐敗を撲滅出来たとしても、19回の党大会の経済政策を推し進めれば、結果は同じであろう。

中国共産党幹部の腐敗は蔓延し過ぎて、もう手が付けられない。実は、習近平自身が一番腐敗しているということは、中国国民の誰もが知っている。

中国の歴代王朝は腐敗で滅びており、蒋介石率いる国民党軍が共産党軍に負けたのも、「中華民国」の官僚が腐敗しきっていたからだ。腐敗した中国が、国家統計自体がいい加減で、GNPが本当に世界第二位か疑わしいが、ここまで発展出来たのは幸運が重なったからに過ぎない。

腐敗した国家がいつまでも繁栄することはできない。この原則は地球上に存在していた全ての国家に通じる原則だろう。

習近平が、孔子も平伏すほどのカリスマ聖人君主であれば別なのだが・・・それはない。

だが、そうはいっても習近平は権力を一極集中化させて、皇帝になる以外にない。そうしなければ一党支配体制は崩壊するからだ。

ということで、習近平は「ラスト・エンペラー」となる可能性は、極めて高い。おまけに習近平は、必要以上に「皇帝色」を強めすぎている。その意味でも彼は「ラスト・エンペラー」となる可能性を自ら高めているということが言える。彼自身には、それが見えなくなっているとすれば、この可能性は高まるばかりだ。

プライムニュース 2017年10月18日

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