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安全保障環境が厳しさを増す中、個々の隊員から部隊単位に至るまで迅速な展開能力及び高い防護能力が必須となる島嶼部の奪回等の高脅威下での戦闘行動への備えが急務である。

隊員レベルでの展開能力や防護能力を向上させるためには、装着する防弾装備や携行する火器を増やす一方で、迅速機敏な行動をできるようにする必要があるが、体力的な制限があることから現在では限界に来ている。

そこで、従来以上の装備品の装着・携行を可能としつつ、増加した携行総重量に抗して隊員の迅速機敏な行動をも確保可能とする高機動パワードスーツの装備化が必要である。また、高機動パワードスーツは、いつ発生するとも分からない大規模災害対処にも有効である。

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高機動パワードスーツの研究
〇村上卓弥*、小林一穂*、松沢純平*、山田隆基*、南亜樹*

1.背景・目的

パワードスーツ技術は、民生分野においても、主に医療・介護分野での研究開発が進められているが、高齢者の支援、脳卒中、脊髄損傷等のリハビリ等に重点がおかれ、アシストされる動作は平地での歩行等に限られる場合が多い。

一方、防衛用のパワードスーツには、災害派遣等の任務において隊員が装着・携行している装備品の重量を支持することに加え、歩行だけでなく駆け足のような素早い動作を可能とし、砂地や山岳地等の不整地にも対応する必要がある。

このため、民生分野と比較し、高機動化が求められ、各アクチュエータの大出力化、高応答化等が必要となる。

そこで、先進技術推進センターでは、平成 27年度から、隊員の重量負担を軽減しつつ、迅速機敏な行動を確保可能な「高機動パワードスーツ」の研究を行ってきた。平成 29 年度末に完成した試作品を用い、試験評価と改良のスパイラルを短期間で繰り返すことで、早期実用化を目指しているところである。

2.研究内容

重量を支持しながら、素早い動作を行うためには、外骨格構造により重量負担を受け持ちつつ、人間の動作に追従する機構を備える下肢の働きが重要となるため、本研究では、下肢用のパワードスーツの試作を行った。試作の中では、プロトタイプの設計・製造と試験評価を短期間で繰り返し、試験データ、装着者(隊員)の意見等をパワードスーツの設計に随時反映することで、スパイラル的な試作を行った。

また、自衛隊では厳しい環境下での激しい行動が求められる場合もあることから、パワードスーツ自体の安全性に加え及び想定される使用状況における装着者の安全性を確保するため、リスクアセスメントによる危険源分析に基づいた保護対策を行った。

研究の各段階において受容不可能なリスクが存在しないようリスク管理を継続し、安全性を確保した。

上記のような方針で設計を深化させ、試作品を平成 29 年度末に完成させた。

本年度から、この試作品を用いて高機動パワードスーツを着用した隊員に対する性能評価を実施している。現在までに、実験室環境で、三次元動作解析装置、床反力計付トレッドミル等の器材を用いて、図2に示すような動作解析を実施し、高機動パワードスーツの基本性能等について評価を実施した。

3.今後の予定

今後は、野外における検証試験を演習場等で実施し、模擬運用環境における課題の抽出を行い、改良と試験評価の繰り返しにより早期実用化を達成する所存である。
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図1 高機動パワードスーツを装着した際の外観

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図2 動作解析の手法

*先進技術推進センター研究管理官(ヒューマン・ロボット融合技術担当)付 ヒューマン・ロボット融合システム技術推進室
わたしは、単純な質問をいくつか説明員の方にした。

まず、この高機動パワードスーツは、現在隊員が装備している装備を超える装備量および車輌で運ぶような重量物を携行することを考えていますか?と質問したところ、現行の装備量をアシストするもので、現在のところは検討されていないとのことです。

エネルギーはバッテリーのようですが、仮に山間部で長期間単独で作戦行動する際には、例えば太陽電池を使った充電、民間インフラからの充電等は検討されていますか?

そもそも、単独で長期間の作戦行動を想定していないと・・・くだらない質問をしてしまった。
しかしながら、高機動パワースーツの戦場での弱点は、継戦能力であり、急速充電が可能な民生用リチウムイオン電池や、その次世代型電池、全固体電池が開発されたとしても、過酷な戦場で高機動パワードスーツの充電装置インフラについての研究が成されてしかるべきと思う。

民生品であるHALやパナソニックのパワードスーツを民生転用できないものか?と質問をした。

説明員の方は、民生品は基本室内で使用するもので、屋外・戦場で利用できるレベルではないと説明された。

なるほど、高機動パワードスーツはATLAのHPやパンフには、大規模災害に派遣されたり、島嶼部への対応が書かれている。「防水防塩対策はどのようにされていますか?、下半身が水没する状態でも利用できるか?」と質問した。

すると・・・・「これからです・・・」との回答。「はぁ?」おいおい、当初から島嶼上陸作戦に高機動パワードスーツに用いるイラストが書いてあるではないか?民生品と違いアウトドアで利用できることが特徴ではないか?

防衛省のパワードスーツは民間のアシストスーツ以上の頑強さと汎用性が求められるのではないか?実用化するには、水際でも使用できる防水・防塵性能、銃弾でも故障しない強さ、装着者が倒れたり座り込んでも誤作動しない安全性についての研究が更に必要だろう。

もう一つ。
「仮にスーツを着用中海中に落ちた場合着脱は容易ですか?見たところ容易ではないようですが、水中着脱実験をされていますか?」と質問したところ・・・
まったく想定外といった顔をして、「研究中です」との回答。

「それならば例えば・・水中に落下した際は救命胴衣のように緊急膨張するシステムを研究が必要ではないですかね?」と言ったところ、「貴重なご意見ありがとうございます」だと・・・・まあ、予算も限られているとはいえ、想定していないのかよ!

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50kgを携行して時速13.5kmで走ることができる。
時速13.5kmとはフルマラソンを3時間10分切で走る速度であり、一般人では、何回もフルマラソンを走り、練習でも月300kmほど走りこむような、かなり早い人のペースである。それを装備50kg背負って走るということは一騎当千の兵士、アイアンマンにはなれないが、ランボークラスの兵士になることはできる。

もしこの装備が秀吉の中国大返しで使われたとしたら、10日で200kmを行軍したが、2-3日で200km引き返すことが可能だろう。

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多目的自律走行ロボット技術の研究
○小林星平*1、原崎俊栄*1、松澤 豊樹*1

1.背景・目的

非対称戦闘や国際平和協力活動等における偵察、警戒、物資輸送等の多様な任務において使用することができる自律走行ロボットは、隊員の被害の極小化(ゼロカジュアルティ)の実現に極めて有効な手段であると考えられる。

先進技術推進センターでは、先行研究である「陸上無人機」において、晴天時の静止障害物回避等の自律走行研究に取り組んだ。本研究では、雨、霧等の悪天候環境下や人、車両等の移動障害物の存在する動的環境下における自律走行を技術的課題として、「多目的自律走行ロボット技術」の確立をめざし、実環境において各種自律走行を実施した。

2.研究内容

多目的自律走行ロボットは、民間の自動運転車両に用いられるセンサ類を組み合わせて搭載し、自律走行ソフトウェアにより、環境認識し、走行可能範囲を抽出し、経路計画を行い、車体制御する装輪及び装軌式の車両ロボットである (図1)。

センサ類の配置や車体の運動性能は、装輪及び装軌で異なるものの、自律走行ソフトウェアモジュールは装輪及び装軌とも共通したものであり、以下の特徴を有している。

○環境認識のうち路面認識機能

無舗装路や不整地における自律走行が必要であることから、自動運転用の地図を前提とせず、センサ情報を統合して、路面の状況・形状を認識して、ダイナミックマップを生成し、走行経路を計画する方式を採用している。

○動的環境に応じたレイヤー構造の地図

走行中にダイナミックマップを作成するため、路面と移動障害物(例えば、車両や歩行者)を分離するレイヤー構造の地図アーキテクチャを採用している。更に、移動障害物に関しては、移動方向を予測して制動あるいは回避行動をとれることを確認している。(図2)

○無舗装路における自律走行

将来の偵察・警戒等の任務を模擬した自律走行を実施し、操用性等について確認している。

3.今後の予定

実環境での自律走行試験において、対応可能な環境を明確にすることができた。今後は、機械学習等を適用して、環境認識機能等を向上させ、自律走行可能な範囲を拡大していくことを計画している。

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         図 1 多目的自律走行ロボットの概要

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              図 2 動的障害物の回避(停止/回避機動)

*1先進技術推進センター研究管理官(ヒューマン・ロボット融合技術担当)付 ロボットシステム技術推進室
もはや自律走行車は、民間の方が1歩も2歩も研究が進んでしまっていて、今更感が漂う。この研究に関しては積極的に民間に任せ、共同研究とすべきだろう。

それよりも、防衛装備庁は至急解散が決まったSCHAFT社員を召集すべきだろう。
万が一、中国本土や中国系ロボット会社に移るようなことがあれば、国防上の危機である。先進技術センターで人材を確保すべきではないかと私は思う。

Google、二足歩行ロボットのSchaft事業終了へ。ソフトバンクの買収折合わず、新たな買い手もなし
【engadget】Munenori Taniguchi, @mu_taniguchi2018年11月17日, 午前11:00 in Robots

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Google(Alphabet)が、傘下のロボット開発ベンチャーSchaftの事業を終了することが明らかになりました。同じロボットベンチャーのBoston Dynamicsとともにソフトバンクとの間で買収が合意済みであると伝えられていたものの、買収条件が折り合わず、代わりの買い手も現れなかった模様です。

DARPA Robotics Challengeへの挑戦をきっかけに、東京大学から飛び出す格好で設立されたSchaftは、その優れた技術力が国内ではなかなか評価されず、当時先端技術開発プロジェクトGoogle Xを率いていたアンディ・ルービンの目に止まったのをきっかけにGoogleの傘下に入っていました。

しかし、ロボット分野を推進していたアンディ・ルービン氏がGoogleを離れると、Googleは事業として利益を生み出していなかったBoston DynamicsとSCHAFTを売却する意向を示し、2017年にソフトバンクが2社の買収を発表しました。

当時の発表において、ソフトバンクの孫正義氏はBoston DynamicsとSchaft両方を買収すると述べ、これまでに買収は完了したものと思われていましたが、Nikkei Asian Reviewが報じたところでは「Schaft社員の数人以上が、ソフトバンクの下で働くことを拒否した」とのこと。これがきっかけでソフトバンクとの買収交渉は決裂し、再びSchaftを支えることになったGoogle(Alphabet)は多数の選択肢を検討したものの、最終的にSchaftの事業を終了することになったとTechCrunchは伝えています。

高い可能性を秘めて誕生しながらも国内ではその力を評価されず、頼りになるはずだったGoogleからも(体制変更をきっかけに)お荷物扱いされるようになった挙句、消滅せざるを得ないというのは、なんともやりきれない話です。

ソフトバンクのオファーを拒否した理由はあきらかになっていないものの、いつかSchaftのDNAを継ぐ新たなロボットがどこかで作られ、今度こそは然るべき評価と成果を手にするときが来るのに期待したいものです。
 Googleの親会社Alphabetは、二足歩行ロボットを開発した研究部門SCHAFTを閉鎖することを認めたというニュースは衝撃である。しかも、わたくしはソフトバンクがアルファベット(Google本社)から買収したものだとばかり思っていた。

中国は国際的ハイレベルな人材をヘッドハンティングする計画を2008年により開始した。これは国際的なスパイ・情報窃盗の工作活動プログラムである。2017年までに科学や技術、知的財産の分野などにおける中国人および外国人の研究者や大学教授など8000人を雇い資金提供する千人計画を実行中である。

日本は、SCHAFT人材をATLAもしくはJAXAで一刻も早く確保するのが国策ではないだろうか!

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過酷環境下における身体的、認知的負担の計測・評価技術の研究
○西修二*1、○相羽裕子*1、三井尚之*1

1.緒論

過酷な環境下において、周囲の状況を認識し、最適な行動を判断し、装備品等を操作する必要がある自衛隊員を防護・支援するには、当該状況下での身体的な負担の低減とともに、状況の認識、行動の判断等の認知的負担の低減等が必要となる。図のように、これらの実現には装備品等による負担低減に関する防護・支援技術だけではなく、負担低減の効果を計測・評価するための技術の向上が必要である。

防衛装備庁先進技術推進センターでは、身体負担の計測・評価技術として、特に厳しい加速度環境、低圧環境に曝される戦闘機パイロットの生理情報を取得する技術及び認知的負担の計測・評価技術として、脳活動の情報により客観的・定量的に評価する技術の向上について検討を進めてきた。

2.戦闘機パイロットの生理情報取得技術

戦闘機パイロットは、加速度による脳への血流不足による意識喪失、低圧による酸素分圧低下に伴う低酸素症や減圧症が発生し得る環境において任務を遂行する必要がある。これらの症状への対策として、耐 G 服による脳への血流の維持、高濃度酸素吸入による血中酸素飽和度の維持が実施されているが、対策の効果を検証するためには、脳血流と血中酸素飽和度を実際の状況下で計測評価する必要がある。そこで、従来の心電図等の計測手法及び近赤外光等による血中酸素飽和度の測定に加えて、インピーダンス法による血流量計測を可能なシステムを仮作した。

本システムを使用して、航空自衛隊航空医学実験隊と共同で加速度及び低圧負荷中のデータを取得しており、加速度負荷に伴う頭部への血流の減少や、血中酸素飽和度の低下を測定することができた。現在は、耐 G 服作動による効果を解析中であり、今後は、航空自衛隊飛行開発実験団の協力を得て、飛行中の生理情報取得を予定している。

3.隊員の認知的負担の推定技術

複雑、多量の情報を処理する必要がある環境において、認知的負担を評価する方法として、主観評価、行動指標が一般的に用いられるが、近年、生理指標を用いたリアルタイム評価手法が着目されている。特に、脳機能イメージング技術は、ウェアラブル技術、機械学習技術の適用により、客観的かつリアルタイムに人間の認知活動を定量評価するべく大きな進歩を見せている。

現在、我々は、防衛医科大学校及び航空医学実験隊と協力し、脳活動計測手法として脳波及び近赤外分光法を用いた認知的負担の検討を実施している。負荷の程度を制御可能なタスク遂行中の脳活動データから、認知的負担を推定するための「ものさし」を作成し、複雑なマルチタスクを実施中の認知的負担を評価したところ、主観、行動指標に加え、より詳細な認知的負担の特徴を把握し得ると考えられた。

今後は、仮想現実技術を利用することにより、様々な情報環境における認知的負担を推定する手法を検討する予定である。

4.まとめ

過酷な環境において複雑な情報処理・判断が求められる隊員の能力発揮を支援するための装備品開発評価に必要となる、身体的及び認知的負担計測・評価技術の向上についての検討を進めて行く予定である。
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*1先進技術推進センター研究管理官(ヒューマン・ロボット融合技術担当)付 人間工学技術推進室


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