【産経ニュース】2019.12.28 19:00 
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防衛省は、北朝鮮などの弾道ミサイルの脅威が高まっていることを受け、新たな迎撃ミサイルシステムを開発する検討に入った。陸上自衛隊の03式中距離地対空誘導弾(中SAM)を改修し、弾道ミサイル迎撃能力を付与する研究を来年から始める。北朝鮮が開発している変則軌道で飛来する新型ミサイルなどに対応する性能を目指す。

複数の政府関係者が28日、明らかにした。完成すれば、海上自衛隊のイージス艦が発射する迎撃ミサイルSM3、航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)に続く“第3”の迎撃システムとなり、防空体制が強化される。

中SAMは国産のミサイルシステムで、100キロメートル未満とされる射程を大幅に延伸した改良版が来年末から順次、陸自部隊に配備される。敵の戦闘機や巡航ミサイルを撃ち落とせるが、弾道ミサイルには対応しておらず、防衛省は弾道ミサイルを着弾間際に迎撃できるよう中SAM改良版の改修を進める。

具体的には、誘導弾(ミサイル本体)や射撃管制装置を改修し、敵の弾道ミサイルの軌道予測能力を高度化させることで、新型を含む弾道ミサイルへの対応を可能とする技術検証に着手する。迎撃範囲が数十キロメートルにとどまるPAC3に生じる隙間をカバーする役目も担わせる。開発期間は3年程度と見込まれる。

迎撃対象に想定するのは、北朝鮮がロシア製「イスカンデル」を基に今年開発した変則軌道の短距離弾道ミサイルだ。低空で飛来し、着弾前に再上昇するなど従来型と異なる複雑な軌道を描く。既存のSM3は高高度を標的とするため迎撃できず、PAC3も変則軌道への対応が難しいため、国防上の大きな懸念になっていた。

中国やロシアは「極超音速滑空ミサイル」を開発している。極超音速(マッハ5以上)で飛来し、軌道も複雑で、現在のミサイル防衛網の突破も可能とされる。このため中SAM改良版をベースに、敵ミサイルを捕捉するレーダーの高出力化など、さらなる高度な開発を7年程度かけて行う構想もある。


政府は北朝鮮による弾道ミサイル技術の急速高度化を「新たな脅威」と位置づけ、「総合ミサイル防空能力を高めていく」(河野太郎防衛相)と強調している。だが隙も多いだけに、03式中距離地対空誘導弾(中SAM)改良版を基にした新たな迎撃システムを開発し、多層的な防空体制の構築を目指す意義は大きい。

北朝鮮は今年5月以降、13回にわたり弾道ミサイルを日本海に向けて発射した。日本政府は、このうち4回がロシアの「イスカンデル」に類似した変則軌道型だと分析している。

一般的な弾道ミサイルはボールを投げたときのような放物線を描き、短距離の場合の高度は100キロメートル程度になる。変則軌道型はその半分程度の低空で飛来し、最終段階で再上昇するなど複雑な軌道を描く。自衛隊幹部は「今の体制では撃ち落とすのは難しい。早急な体制強化が必要だ」と危機感を強める。


現在の日本の弾道ミサイル防衛は「2段構え」だ。まず海上のイージス艦が迎撃ミサイルSM3を発射し、敵の弾道ミサイルが高高度に達している大気圏外で撃ち落とす。打ち漏らした場合は、高度20キロメートル程度の着弾間際に地対空誘導弾パトリオット(PAC3)が迎撃する。

防衛省は、その中間地点での迎撃を担う地上配備型の「イージス・アショア」を国内2カ所に配備し、迎撃ミサイルSM3ブロック2Aを搭載して「3段構え」にする方針もすでに決めている。ただ、配備候補地の選定作業でミスが発覚し、早ければ令和7年度としていた運用開始は不透明になってきている。

北朝鮮が発射した弾道ミサイルの大半は短距離で、対韓国を想定したとみられる。だが、飛行途中で誤作動を起こし、日本領土に飛来する可能性があるうえ、国際情勢の変化によって日本に矛先が向かないともかぎらない。

中国やロシアは最新の極超音速兵器滑空ミサイルと呼ばれる最新兵器の開発も進める。露国防省は27日、音速の20倍以上の速度で不規則に飛行するとされる「アバンガルド」を搭載したミサイルが初の実戦配備に就いたと発表した。計画中の「アショア」も含めた日本の防空体制ではこれらのミサイルの迎撃は難しく、能力強化は不可欠だ。

ミサイルの攻撃と迎撃の技術は高度化を競う「いたちごっこ」になりやすい。このため「目」の機能の強化も重要で、米国などは小型無人機で敵の発射地点近くに到達し、発射の兆候を探知する技術を研究している。

多くの人工衛星を協働させ、敵のミサイル発射を高い精度で探知・追尾するシステムの構築を米国などとも協力して急ぐ必要がある。(田中一世)

防衛省は平成26年度より「高高度迎撃用飛しょう体技術の研究」が開始されていました。
現有のシステムでは対処が困難な高度領域において、高々 度から侵攻してくる弾道ミサイルへの迎撃機会を拡大し、より確実な防護を可能とするとともに、低軌道弾道ミサイルや高速巡航ミサイルへの対処を可能とする、将来の地対空誘導弾システムに必要な高々 度迎撃用飛しょう体技術に関する研究であり、平成32年度(令和2年度)に研究が終了する予定だ。

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「高高度迎撃用飛しょう体技術の研究」https://www.mod.go.jp/atla/kousouken.html

弾道ミサイル等を迎撃するためには、迎撃する側のミサイルを高い精度で目標に誘導する必要がありますが、高高度領域では空気が薄く空力操舵による機体制御ができないため、空力操舵に依らないミサイルの機体制御技術が必要です。

「高高度迎撃用飛しょう体技術の研究」においては、ミサイルの機軸と直交方向にガスを放出することにより操舵力を発生させるサイドスラスタに加え、推進装置であるロケットモータの推力の発生方向をジェットタブと言われる小さな弁体を用いて偏向する推力制御を組み合わせた機体制御技術の実現を目指しています。

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高高度迎撃用飛しょう体(イメージ図) 

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「低RCS対処ミサイル誘導制御技術の研究」https://www.mod.go.jp/atla/kousouken.html

近年、戦闘機や攻撃機は敵のレーダに発見されないようステルス性を向上させています。このようなステルス機にミサイルを誘導する際には、ミサイルがステルス機を捕捉し追尾する距離が従来より短くなってしまい、ステルス機がミサイル回避のため旋回してしまうとステルス機を迎撃することが難しくなります。
 「低RCS対処ミサイル誘導制御技術の研究」では、ステルス機の位置や速度等の観測情報を基に未来の運動を予測するとともに、モデル予測制御を応用して、ステルス機へのミサイル会合シミュレーションを行い、最適制御による制御量の導出を反復して効率的な接近経路を計算することにより、ミサイルでステルス機を迎撃することを可能にする技術の獲得に取り組んでいます。

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現時点で、自衛隊を含め、世界各国の迎撃兵器体系では、軌道を変更可能な変則軌道弾道弾(MARV)や、極超音速滑空弾の迎撃は非常に困難とされている。

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朝鮮日報   
北朝鮮は2019年8月10日と8月16日に「新型兵器」と称する短距離弾道ミサイルが2発ずつ発射された。ロシアの9K720「イスカンデル」に似た短距離弾道弾であるとの情報だ。
ロシアの「イスカンデル」は軌道を変更することが可能で、敵の防衛を回避する能力を獲得しているとされている。

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北朝鮮の金正恩国務委員長が見守る中、今月4日に東海上で行われた戦術誘導兵器の発射場面。写真に登場した戦術誘導兵器がロシアのイスカンデル地対地ミサイルと外形が似ているという指摘もある/聯合ニュース
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「イスカンデルM」ミサイルを搭載した輸送・発射台建設車両、MZKT-7930

また、中国は建国70周年を迎えた10月1日、天安門広場で大規模な軍事パレードが行われ、新型の超音速ミサイルやステルス・ドローン(無人機)など高性能兵器が次々と公開された。
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イスカンデルはまだ、迎撃可能なミサイルとされているが、高々度や低高度を高速で侵攻してくる弾道弾や極超音速CMなどがある。極超音速滑空弾などは、大気圏離脱直後にブースターが分離し再突入するため、SM-3などミッドコースBMDは機能せず、 再突入後も軌道が予測しづらく、既存技術での迎撃は非常に困難である。

極超音速 飛翔体は、高速滑空時の摩擦に耐えるための熱防護が施さ れている可能性が高く、高出力レーザーなどエネルギー兵器は有効な対抗手段とならない可能性が高い。

迎撃には、宇宙・地上からの正確な追尾と、大気圏内の急 激な軌道変化に対応しうるキネティック迎撃体が必要となる。

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2017-05-28 23:57:02

GBI弾道弾迎撃ミサイル、SM-3、THAAD、PAC-3は
誘導弾の弾頭部(迎撃体)にサイドスラスタを搭載し、分離後弾頭部をサイドスラスタにより制御して脅威(目標)に直撃させる方式が採用されているが、極超音速滑空弾など、より高度化した脅威に対しては、自由主義陣営の現有迎撃ミサイルでは迎撃が非常に困難である。

しかしなが
ら、この方式では空気抵抗の大きい領域においてサイドスラスタの推力だけでは制御上十分ではなく、脅威に対処することが困難である。そこで、新迎撃システムでは空力、サイドスラスタ、推力偏向制御を組み合わせた複合制御方式を採用することにより、高高度領域の高速目標に対処可能な誘導弾システムをめざしている。



日本では、米国のTHAADに該当する終末段階ターミナル・フェイズ迎撃ミサイル・システムを保有していない。

米国のTHAADシステム及びSM-3システムは、弾道ミサイルに対して直撃対処を可能としているものの、迎撃高度が大気圏上層又は宇宙空間であり、それより低層の領域を飛行する高速巡航ミサイル等の脅威には対処できない。

PAC-3 MSEミサイルは、要撃高度の増大のためパルスモータが採用されており、モーメント型サイドスラスタと組み合わせ応答性を高めることにより、比較的低速の弾道ミサイルに対して直撃対処を可能としているが、低い要撃高度に限定されている。

陸上自衛隊の中距離地対空誘導弾と航空自衛隊の地対空誘導弾PAC-3の能力を代替することも視野に入れ、大気圏内のターミナル・フェイズ迎撃ミサイル・システムとして必要不可欠である。

PAC-3やSM-3弾頭は直撃方式だが、中SAM弾頭は直撃方式ではなく、炸薬方式である。
新迎撃システム弾頭も
炸薬方式と思われるが、
PAC-3の領域までカバーするのであれば、直撃方式への変更もしくは併用となるのか?現時点では不明である。今後のニュースをウォッチしていきたい。
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高高度迎撃用飛しょう体(イメージ図) 

技術を確立高々度領域における正確な誘導を実現するため新たな推進制御技術である長秒時燃焼圧制御サイドスラスタ技術及び高応答・高機動のジェットタブ式TVC(Thrust Vector Control、推力偏向制御:複数のタブにより推力の方向を偏向させる制御方式)による推力制御技術を適切に組み合わせて所要の応答性及び誘導精度を達成する高高度領域高応答誘導制御技術を確立することにより、現有の地対空誘導弾システムでは対処することが困難な高度領域において、弾道ミサイル等の高高度を高速で侵攻してくる脅威に対処することが可能となる将来地対空誘導弾システムを実現できる。

ロシアや中国の技術開発のスピードは従来日本で想定しているものよりかなり早いが、将来地対空誘導弾システムは、低RCS対処ミサイル誘導制御技術の研究成果も合わせ、その全てに対処可能な迎撃ミサイルであり、個人的には配備地選考で難航しているイージスアショアより優先すべき事業ではないかと思います。

【参考】第31回宇宙安全保障部会資料

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https://www8.cao.go.jp/space/comittee/27-anpo/anpo-dai31/siryou2-3.pdf

【防衛省】弾 道 ミ サ イ ル 防 衛
https://www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/seisaku/results/19/sougou/sankou/02.pdf

https://www.mod.go.jp/j/approach/defense/bmd/