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防衛装備庁が「艦上運用可能な早期警戒機の検討」を行う事業者の一般競争入札を行うことが明らかになりました。いよいよ艦載型の早期警戒機を入手する可能性が出てきました。

「かが」などで運用される早期警戒機の候補とは?
 防衛装備庁は2025年1月15日、「艦上運用可能な早期警戒機の検討」を行う事業者の一般競争入札を実施しました。

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航空自衛隊の運用するE-2C早期警戒管制機では、「かが」の艦上で運用することは難しい(画像:航空自衛隊)

 この一般競争入札が成立したのかは現時点では不明ですし、防衛装備庁は落札者が検討を行う艦上運用可能な早期警戒機の詳細を発表していませんが、筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は、いずも型ヘリコプター搭載護衛艦で運用可能な早期警戒機を指すものではないかと考えています。

 いずも型には必要に応じて航空自衛隊が導入するF-35Bを搭載して、事実上の軽空母として運用されることが決まっており、そのための改修を完了したいずも型2番艦の「かが」が、2024年秋にアメリカでF-35Bを運用するための試験を行っていました。

 航空自衛隊の運用しているE-2C/D早期警戒機は、もともと空母艦載機なので、必要に応じてF-35Bと共に展開してもらうのが望ましいのですが、重量の大きなE-2C/Dは機体を射出するためのカタパルトを使用して発艦し、着艦時には機体の行き足を止めるワイヤーであるアレスティング・ワイヤーに機体のアレスティング・フックを引っかけるタイプの艦載機です。

 これらの装備はいわゆる西側陣営では、アメリカやフランスの原子力空母しか装備しておらず、いずも型での運用は不可能なのです。

 2018年12月15日付の日刊工業新聞は、政府関係者の話として、いずも型が軽空母として運用される時は、航空自衛隊のE-767早期警戒管制機を陸上基地から発進させ、いずも型の支援にあたらせる案が防衛省で検討されていると報じています。

 おそらくこの検討がなされたのは事実だと筆者は思いますが、検討を重ねた結果、それでは不十分だという結論に達したため、艦上運用可能な早期警戒機の導入を検討することになった可能性はあります。

 いずも型で運用できる早期警戒機を入手する場合、最も簡単なのは、海上自衛隊が保有しているAW101ヘリコプターに、早期警戒システム「クロウズネスト」を搭載することでしょう。

 クロウズネストはAW101から吊り下げる、着脱可能な大型レーダーアンテナと、AW101のキャビンに搭載する、やはり着脱可能な制御員用のコンソール(卓)から構成されています。

 レーダーは対空(ルックアップ・ルックダウン)のほか、地上の移動目標探知モード、地上監視モード、沿岸監視モードなど多様なモードを備えており、同時に3つの異なるモードの運用が可能とされています。またIFF(敵味方識別装置)などの他のセンサーが得た情報と、レーダーが得た情報を統合して整理する能力も備えています。


防衛装備庁が「艦上運用可能な早期警戒機の検討」を行う事業者の一般競争入札を行うことが明らかになりました。いよいよ艦載型の早期警戒機を入手する可能性が出てきました。

将来的には無人機を使うプランも
 イギリス海軍も「かが」と同様に、カタパルトとアレスティング・フックを装備していないクイーン・エリザベス級空母を2隻運用しています。同海軍はクイーン・エリザベス級の早期警戒能力を高めるため、マーリンHk.2(AW101)ヘリコプターにクロウズネストを搭載して運用しています。


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イギリス海軍の空母「プリンス・オブ・ウェールズ」で実験を行う無人航空機「モハべ」(画像:GA-ASI)

 ただ、イギリス国防省は2029年でクロウズネストの運用を終了し、その後はクイーン・エリザベス級にカタパルトとアレスティング・フックを追加し、その状態で運用できる大型UAS(無人航空機システム)を早期警戒機とすることも検討していますので、将来の発展性の面では、やや不安があることも否めません。

 ヘリコプターは固定翼機に比べて航続距離が短く、上昇限度も低いため、E-2のような固定翼機に比べて、早期警戒機として使用する場合は能力が限定されます。

 このためヘリコプターのように垂直発着艦が可能で、固定翼機並みの飛行性能を持つティルトローター機のV-22「オスプレイ」の早期警戒機型の開発も検討されましたが、採用国は現れませんでした。

 複数のアメリカメディアは、アメリカ国防総省が2026年会計年度をもってV-22の生産ラインを閉鎖する計画であると報じています。このためV-22の早期警戒機型を海上自衛隊が採用する可能性は無いと見て良いでしょう。

 前に述べたイギリス海軍のUASはまだ検討段階ですが、海上自衛隊も導入を決めたUAS MQ-9B「シーガーディアン」のメーカーであるアメリカのジェネラル・アトミクス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)は、2023年5月にイギリスで開催された国際会議「Combined Naval Event 2023」で、MQ-9Bに搭載可能な早期警戒ポッドの開発構造を発表しています。

 GA-ASIはシーガーディアンなどを短距離の滑走で離着陸可能にするSTOLキットの研究も行っています。実用化されるのかは未知数ですが、早期警戒ポッドとSTOLキットが開発されるのであれば、これらを装着したシーガーディアンを早期警戒機として艦上運用するという方法も考えられます。

 防衛省は2025年1月10日に、航空自衛隊のF-35Bの配備が遅れると発表しています。F-35Bの配備遅延は残念ですが、先送りされる可能性が高いいずも型での艦上運用の開始時機までの時間的余裕も生じますので、この時間を活用して艦上運用可能な早期警戒機についても、じっくり検討して欲しいと思います。

いずも級護衛艦にベル V-280Valorを早期警戒機として搭載する提案

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ベル V-280 バーローは、ヘリコプターと飛行機の警戒を抑えたティルトルーター機で、ベル・ヘリコプター社が開発しました。2013年に発表され、テストと改良を経て進化し、最高速度は300ノット(時速556km)、飛行距離は3,900kmに達成します。

この機体は、UH-60 ブラックホークに似た外観を持ちますが、引き込み式の着陸装置や複合材を多用した軽量設計が特徴です。 V-22 オスプレイとの大きな違いは、エンジンが固定されており、ローターとドライブシャフトのみが傾く点です。

兵員室には最大14人の兵士を収容でき、乗員は4人。最新の通信技術や暗視装置、3Dマップを搭載し、戦闘時の効率と安全性を向上させています。

2022年12月、米国防総省が13億ドルの契約で採用し、2030年までにUH-60ブラックホークを置き換える予定です。また、戦闘型のAV-280も開発されており、ミサイル発射や無人機展開などが可能となっています。


はじめに


日本の海上自衛隊は、いずも」級の改修を進め、F-35B戦闘機の運用が可能となったが、固定翼機の運用能力を持つ艦艇には、戦闘機だけでなく、艦隊防空の要となる早期警戒機の配備も重要です。そこで2024年12月艦上運用可能な早期警戒機に関す る検討役務の一般入札が行われました。しかし、。現状ではE-2D ホークアイなどの固定翼早期警戒機の運用は難しく、ヘリコプター型の早期警戒機が検討されるべきでしょう。本記事では、ティルトローター機であるベル V-280「バーロー」を、いずも級護衛艦の早期警戒機として活用する提案を行います。

ヘリコプターは固定翼機に比べて航続距離が短く、上昇限度も低いため、E-2のような固定翼機に比べて、早期警戒機として使用する場合は能力が限定されます。ある程度の高度が無いとHGV/HCMを早期発見に不利である。

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また防衛省から「令和6年度 事前の事業評価 評価書一覧」「無人回転翼機搭載レーダによる見通し外探知システムの研究」があるが
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V-280「Valor」の特性

V-280は、米ベル社が開発した次世代ティルトローター機であり、オスプレイ(V-22)に比べて以下のような優れた特徴を持っています。

  1. 高速性と航続距離の向上

    • 最大速度約520km/hで、ヘリコプターよりも迅速な展開が可能。

    • 航続距離は約3,900kmと長大で、広範囲の警戒任務に適する。

  2. 運用の柔軟性

    • 短距離での垂直離着陸(VTOL)が可能で、いずも級護衛艦の飛行甲板で運用できる。

    • 翼の折りたたみ機構を備えれば、艦内格納庫への収納も可能。V-280はV-22に比べ単純構造で頑丈


  3. 積載能力

    • 兵員輸送や物資搬送のための広いキャビンを持ち、電子機器やレーダーの搭載に適応可能。

これらの特性により、V-280はヘリコプター型早期警戒機よりも高性能な選択肢となり得ます。

V-280の早期警戒機としての改修案

V-280を早期警戒機として運用するためには、以下のような改修が必要です。

  1. レーダーの搭載

    • E-2DホークアイのAPY-9レーダーに匹敵する性能を持つAESA(アクティブ電子走査アレイ)レーダーを機体上部に搭載。

    • 回転式レーダードーム(レドーム)や、機首・胴体側面に固定レーダーを設置する方式を検討。

  2. 通信・データリンクシステムの強化

    • イージス艦やF-35Bと連携できる高度なC4ISR(指揮・統制・通信・コンピューター・情報・監視・偵察)システムの搭載。

    • JADGE(日本の防空指揮システム)やリンク16などのデータリンク対応。

  3. ステルス性と防御能力の向上

    • 低RCS(レーダー反射断面積)設計の追加。

    • 自衛用電子戦システムやフレア・チャフディスペンサーの搭載。

いずも級護衛艦での運用の利点

いずも級護衛艦は、F-35Bの運用を前提とした改修が進められていますが、早期警戒機の導入は今後の課題です。V-280を早期警戒機として搭載することで、以下のような利点が得られます。

  1. 航空機運用の多様化

    • F-35Bの支援機として、艦隊の防空能力を強化。

    • 有事の際の索敵範囲を拡大し、先制攻撃のリスクを低減。

  2. ヘリコプター運用との両立

    • いずも級はヘリコプター運用も重視しているが、V-280なら格納・運用が比較的容易。

    • SH-60KやMCH-101と組み合わせることで、対潜・対空・輸送の複合運用が可能。

  3. 既存インフラの活用

    • V-280はV-22と同様に、海上自衛隊の基地や補給体制を活用できる可能性がある。

    • 米海軍・海兵隊との共同運用も視野に入れた統合運用が可能。

英海軍の「マーリン HM.2」との比較


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英国海軍は、クイーン・エリザベス級空母の早期警戒システムとして「マーリン HM.2」を改修し、CROWSNEST(クロウズネスト)システムを搭載しました。これは、機体側面に装着可能なAN/APS-145レーダーを搭載し、広範囲の索敵能力を提供するシステムです。

「マーリン HM.2」の特徴:

  • モジュール式レーダー搭載:必要に応じて早期警戒任務と通常の対潜哨戒任務を切り替え可能。

  • 既存の艦載ヘリを活用:新たな固定翼機の調達を必要とせず、艦隊防空能力を強化。

  • 運用の柔軟性:艦載ヘリコプターとしての運用を維持しつつ、早期警戒任務に従事。

これに対し、V-280を早期警戒機として運用する場合、より高速かつ広範囲の警戒が可能となり、F-35Bとの連携において優位性を持つ可能性があります。ただし、マーリン HM.2のように既存の艦載ヘリを活用する方式もコスト削減の観点から有力な選択肢となるでしょう。

課題と今後の展望

V-280を早期警戒機として導入するには、以下のような課題があります。

  1. 開発・改修コストの問題

    • 既存のE-2Dの導入と比較した場合、コスト面での優位性を慎重に評価する必要。

  2. レーダーの適合性

    • 現行のE-2D並みの性能を確保できるレーダーを搭載できるかどうかの技術的検証。

  3. 艦艇運用との調整

    • いずも級の甲板運用や格納庫スペースをどの程度確保できるかの検討が必要。

まとめ

いずも級護衛艦にV-280ヴェイラーを早期警戒機として搭載することで、日本の海上防衛力を大幅に向上させる可能性があります。英国海軍のマーリン HM.2の運用事例も参考にしながら、ティルトローター機の高い機動性と索敵能力を活かすことで、新たな艦隊防空の形が構築できるでしょう。