今年6月末、防衛装備庁から10式戦車の能力向上に関する文書が公開され、陸自主力戦車の強化プロジェクトがスタートしました。この先どのように進んでいくのか、元陸上自衛官の影本賢治氏に解説していただきました。影本賢治 KAGEMOTO Kenji陸上自衛隊の10式戦車 写真:鈴崎利治10式戦車は、2012年から本格運用が始まった陸上自衛隊で最新の戦車です。国産の120mm滑腔砲、複合装甲、ネットワーク戦闘が可能なシステムなどを備え、1200馬力ディーゼルエンジンや無段階自動変速機により、高い機動性を実現したことも特徴です。1世代前の90式戦車は大きく重すぎるという欠点があり、北海道以外での運用が難しいため、10式戦車では軽量化が図られました。既に100両以上が調達され、スローペースではあるものの、徐々に増勢が進んでいます。2024年度予算では10両の取得費用が計上されています。日本を代表する高性能戦車である10式ですが、既に登場から10年以上が経過。諸外国は戦車の装甲やシステムを逐次アップデートして戦闘力の向上を図っているほか、ロシアによるウクライナ侵攻もあり、戦車を取り巻く環境も変わってきています。防衛装備庁は今回、10式戦車の能力向上に関して、車両システムに関連する知見を持つ企業を公募し、意見交換を行うことで、技術的な方策を検討していくとしています。今後、能力向上に関する具体的な検討に入るとみられます。なお、防衛省は2023年9月、装甲車両の近代化に向けた研究に着手する方針を明らかにしています。防衛省は戦車などの装甲車両について、「現代戦においても領土保全に極めて重要な戦力」と位置付けていますが、タンデム弾頭付対戦車ミサイルや自爆型無人航空機により、トップアタック(上方からの攻撃)に対する脆弱性が顕在化しており、これらの脅威に対応する必要があると指摘しています。この事業では、既存の装甲車両を改善・更新するコンセプト設計を行うほか、そのための基盤を確保すべく、動力や電力システム、車体構造を研究していく方針です。
10式戦車能力向上型とは?
10式戦車は、日本の陸上自衛隊が運用する最新鋭の主力戦車(MBT)であり、2010年に正式採用されました。その高い機動性、C4Iシステム(指揮・統制・通信・コンピュータ・情報)、そして先進的な射撃管制装置によって、現代戦に適応した戦車として評価されています。
しかし、近年のウクライナ戦争における自爆型ドローンの進化という戦場環境の変化や技術の進歩に伴い、10式戦車の更なる能力向上が求められています。そのため、防衛装備庁は「10式戦車能力向上型」の開発を進めています。本記事では、その詳細や改良点、今後の展望について詳しく解説します。
10式戦車能力向上型の改良ポイント
1. 防御力の向上
従来の10式戦車は、日本の地形に適した軽量設計を採用しており、他国の主力戦車と比較して重量が抑えられその高機動力性は世界一の性能と言われており、21世紀の高機動戦車のある意味で標準モデルとなると言っても過言でありませんす。しかし、現代の戦場では対戦車ミサイルやドローンによる攻撃が増加しており、高機動力性はドローン攻撃を回避する能力として申し分ない能力を持っているが、防御力の強化が必須となっています。
そのため、能力向上型では、近年の国際情勢特にウクライナ戦争におけ るドローン攻撃の実態を踏まえると10式 戦車はドローンによる攻撃に対する防護力が 十分ではないと指摘されている。これに対処 するためにはいくつかの強化が求められて いる。まず砲塔前面の付加装甲 これはドローンからの攻撃を受けやすい 戦車の上部をさらに防御するために必要と される増加装甲の付加が指摘されている。敵のドローンが上空から投下 する爆発物やミサイルに対して戦車の弱点 を補強する役割を果たす。次にリモート ウエポン ステーションこれは戦車に搭載された銃を 遠隔操作で使用できるシステムで乗員が 直接外部に出ることなくドローンやその他 の脅威に対処でできるようにするものこれ により乗員の安全を確保しつつ迅速かつ効果的な反撃が可能になるさらに アクティブ防護装置も搭載したい。これは ミサイルや弾薬を着弾前に無力化する システムで特にドローンによる攻撃から 戦車を守るために有効な防衛手段だ。この 装置があれば敵の攻撃を迎撃し戦車その ものへの被害を最小限に抑えることが できる。
モジュール式追加装甲の採用による耐弾性向上
アクティブ防護システム(APS)の導入(迎撃装置を搭載し、敵ミサイルを迎撃)
防衛装備庁でも既に防衛装備セミナーでも展示され2024年9月(APS)の入札が行われた
装甲戦闘車両のアクティブ防護システム搭載に関する設計検討複合装甲の強化による防御性能の向上
対ドローン用機関砲および近距離レーダーの搭載(ドローンの早期発見と迎撃能力の強化)
遠隔操作式の軽量無人銃架・砲塔 RWS(Remote Weapon System、Remote Weapon Station)遠隔操作式の無人銃架・砲塔の搭載
20mm30mm機関砲と対空レーダーと欲張りたいが現実的には12.7mmの無人銃架が妥当と思う。(無人化技術を活用し、対ドローン戦闘能力を向上)が予定されています。
2. 火力の強化
10式戦車は44口径120mm滑腔砲を装備しており、高い命中精度を誇ります。しかし、今後の戦場ではさらなる攻撃力の向上が求められるため、
新型砲弾の採用(高性能APFSDS弾の導入)
発射速度の向上(自動装填装置の最適化)
砲の安定化技術の強化(移動中の射撃精度向上)
といった改良が施される予定です。
3. C4Iシステムの改良
10式戦車は既に高度なC4Iシステムを搭載していますが、情報戦の重要性が増す現代において、更なる進化が求められています。
リアルタイムデータリンクの強化(他の部隊との情報共有速度を向上)
AIを活用した自動目標識別機能の追加
電子戦対応機能の強化(敵の通信妨害に対抗する機能)
これにより、ネットワーク化された戦場での即応性が向上し、戦術的な優位性を確保できます。
4. 機動力の向上
10式戦車の最大の特徴の一つが、その機動力の高さです。都市部や山岳地帯など、日本の地形に適応した設計となっています。能力向上型では、
新型エンジンの採用による出力向上
サスペンションシステムの改良による走行安定性の向上
軽量化技術の導入(装甲強化と機動性の両立)
が図られています。
今後の展望と運用の可能性
10式戦車能力向上型は、近代戦に適応するためのアップグレードが施された次世代戦車として期待されています。特に、ネットワーク戦や都市戦闘への対応力が強化されており、今後の自衛隊の作戦において重要な役割を果たすと考えられます。
また、日本の防衛政策の変化に伴い、陸上自衛隊の装備体系の見直しが進められています。将来的には、
無人戦闘車両との連携
AIによる自律戦闘支援
国際共同開発の可能性(他国との技術協力)
といった新たな展開も予想されます。
まとめ
10式戦車能力向上型は、従来の10式戦車の性能を大幅に向上させ、現代の戦場に適応した仕様へと進化しています。防御力・火力・情報戦能力・機動力の全てが強化されており、日本の防衛力向上に大きく貢献することが期待されます。
特に、対ドローン戦闘能力の強化により、新たな脅威に迅速に対応できる点が大きな特徴です。今後も技術革新が進む中で、10式戦車のさらなる発展や、新たな戦闘システムとの統合が注目されます。今後の動向に引き続き注目していきましょう。
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