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【産経新聞】<独自>長射程ミサイル運用原則、日本主体で発射 24日発足の統合司令部 米軍頼らず


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防衛省・自衛隊が保有を目指す長射程ミサイルの運用について、自衛隊が米軍に頼らずに日本側が主体的に発射する基本原則を策定していたことが23日、分かった。複数の政府関係者が明らかにした。長射程ミサイルは24日に発足する、陸海空自衛隊の指揮を一元化する「統合作戦司令部」が基本原則に基づいて運用の中心的役割を担う。

通常より遠方のおおむね1千キロ以上へ飛ばせる長射程ミサイルは「スタンドオフミサイル」とされ、侵攻してくる敵部隊の攻撃圏外から攻撃できる手段。敵領域内の軍事目標をたたく「反撃能力」としても活用され、防衛力強化の要に位置付けられる。


運用する上では人工衛星や無人機、レーダーなどの多様な情報収集手段による探知・追尾が必要で、地上発射型だけでなく艦艇や戦闘機などさまざまな発射手段を持つことで抑止力を発揮する。陸海空自衛隊を一体運用する必要があり、新しく発足する統合作戦司令部の一元指揮が前提となる。


自衛隊は司令部創設に先立ち、長射程ミサイル運用の基本原則を検討。令和4年末に策定された国家安全保障戦略は、9年度までに「わが国が主たる責任をもって」、他国の侵攻に対処できる態勢の構築を掲げており、日本の主体性を原則とすることで固有の抑止力としたい考えだ。


ただ、直ちに運用できるわけではない。7年度に先行配備する長射程の米国製巡航ミサイル「トマホーク」の運用には互換性のあるシステムを持つ米軍の支援が欠かせない。また、主軸となる長射程の国産巡航ミサイル「12式地対艦誘導弾能力向上型」も7年度から配備されるが、一元運用に必要な「統合指揮ソフトウエア」などの段階的整備には9年度まで要する。


影響力を保持するため日本の長射程ミサイル保有にかつて慎重だった米国側との情報共有も懸念材料だ。自衛隊幹部は「米側が許可しないと発射できない事態にしてはいけない」と話した。

統合作戦司令部の発足と日米防衛戦略の変化

2024年3月、自衛隊の陸海空を一元的に指揮する「統合作戦司令部」が正式に発足した。これは、日本が有事の際により迅速かつ柔軟に対処できるようにするための組織改編であり、これにより自衛隊の作戦能力は飛躍的に向上することが期待されている。特に、中国の軍事的脅威が増す中、日米の防衛協力の形も変わりつつある。

3月には米国のヘグセス国防長官が来日し、日本の防衛大臣と会談を行った。日米防衛協力における役割分担の再調整が議題となり、日本がより主体的に防衛能力を高める方向性が確認された。この変化の背景には、日本が開発を進める長射程ミサイル群が大きく関係している。

日本の長射程ミサイル開発の進展

現在、日本は島嶼防衛と抑止力強化を目的に、いくつかの先進的な長射程ミサイルを開発中である。




1. 島嶼防衛用高速滑空弾(HVGP)

HVGP(Hyper Velocity Gliding Projectile)は、極超音速で飛翔し、敵の迎撃を困難にする兵器である。特に、中国の海洋進出を抑止するために、第一列島線を中心とした地域での運用が想定されている。開発は順調に進んでおり、2026年頃の実戦配備が目指されている。

2. 極超音速巡航ミサイル(HCM)

HCM(Hypersonic Cruise Missile)は、極超音速(マッハ5以上)で飛行する巡航ミサイルであり、従来のミサイルよりも高い機動性と迎撃回避能力を持つ。これは、日本の防衛力強化において極めて重要な兵器となる。HCMは発射後、可変軌道で飛翔し、高度な電子戦環境下でも有効な攻撃能力を持つ。

3. 12式地対艦誘導弾能力向上型

12式地対艦誘導弾の改良版は、射程を大幅に延長し、日本周辺海域に展開する敵艦艇に対する抑止力を強化する。特に、日米共同運用の観点からも、その長距離打撃能力が注目されている。

日本主体のミサイル発射運用と日米防衛戦略の変化

従来、日本は「専守防衛」の原則の下で、敵基地攻撃能力を持たず、米軍の抑止力に依存してきた。しかし、中国や北朝鮮の脅威が増す中、日本がより主体的に長射程ミサイルを運用する方針へと転換しつつある。

1. 日米の役割分担の変化

これまでは、

  • 日本:防御主体(迎撃、監視)

  • 米国:攻撃主体(敵基地攻撃、長距離打撃) という構図だった。しかし、日本が長射程ミサイルを自前で運用することで、

  • 日本:防御+限定的な攻撃能力(敵の侵攻を抑止)

  • 米国:戦略的な後方支援、核抑止力の維持 という新たな役割分担が形成される可能性が高い。

2. 「敵基地攻撃能力」の実質的な運用

政府は公式には「反撃能力」と表現しているが、事実上、日本は敵のミサイル基地や指揮統制拠点を攻撃できる能力を持つことになる。これにより、

  • 先制攻撃ではなくても、敵の攻撃準備を抑止できる。

  • 米軍の支援なしでも一定の反撃能力を確保できる。

3. 自衛隊と米軍の共同運用の深化

日本が長射程ミサイルを運用することで、日米共同作戦の形態も進化する。例えば、

  • 情報共有の強化:米軍のISR(情報・監視・偵察)と自衛隊のミサイル運用の統合

  • 共同演習の増加:実際の発射訓練やシミュレーションを通じた連携強化

  • 即応性の向上:日本が単独で対応できる範囲の拡大

今後の課題と展望

1. 法的・政策的な調整

現行の憲法解釈では、日本の攻撃能力の行使には一定の制約がある。敵基地攻撃能力を実際に運用するためには、法的な明確化が必要であり、今後の国会での議論が重要となる。

2. 技術的課題と量産体制

HVGPやHCMは高度な技術が求められる兵器であり、開発と量産には時間とコストがかかる。特に、

  • 国産技術の確立(海外依存度を下げる)

  • 配備計画の具体化(どこに、どの程度配備するか) が鍵となる。

3. 中国・北朝鮮の反応

日本の長射程ミサイル開発は、中国や北朝鮮から強い反発を招く可能性が高い。すでに中国は、日本の防衛政策の変化に対して「地域の安定を損なう」と警戒を強めている。今後、

  • 外交的な説明努力(国際社会への理解を得る)

  • 同盟国との連携強化(日米のみならず、豪州、韓国などとの協力) が求められる。

結論

統合作戦司令部の発足により、日本の防衛体制は新たな段階に入った。長射程ミサイルの開発と運用を通じて、日本はより主体的に防衛戦略を遂行することが求められる。これにより、日米の役割分担も進化し、日本が「守るだけの防衛」から「抑止力を備えた防衛」へと移行する道筋が明確になりつつある。

今後の課題は多いが、日本が主導的に防衛力を強化し、日米同盟の枠組みの中で戦略的な自立性を高めることが、東アジアの安定にとって重要な要素となるだろう。






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