【 毎日新聞】自爆型」の攻撃用無人機、陸上自衛隊が初導入 32億円の予算計上
 防衛省は、爆弾を積んで攻撃目標に突入する「自爆型」の小型無人機を陸上自衛隊に導入する。陸自は偵察用の無人機を運用しているが、攻撃用は初めて。タイプの異なる3機種を順次配備していく計画で、第1弾として2026年度に310式の調達を見込む。25年度予算に関連費用32億円を計上した。
image002
【各国の無人機は?ウクライナの高性能ドローン】

 機種の選定は、機体の大きさや想定される攻撃対象、航続距離などに基づいて行う。3タイプのうち、第1弾として航続距離が比較的短く、隊員が持ち運ぶことができる機種を検討。敵の歩兵部隊やトラックなどに対する自爆攻撃をし、1人の隊員が複数の機体を同時に操縦するような運用も想定しているという。

 防衛省は23、24年度、イスラエルやオーストラリア、スペイン製の機体を用いて性能試験を実施した。最終的な選定は一般競争入札で行い、同省整備計画局は「無人機の技術は進化を続けている。試験をした機体に限定せず広く公募したい」と説明する。

 第2弾以降は、遠方の軽装甲車両や舟艇への攻撃を想定し、車両で運搬する機種などを検討している。

 22年末に閣議決定された国家防衛戦略は「無人アセット(装備品)」について、AI(人工知能)や有人装備と組み合わせることで「部隊の構造や戦い方を根本的に一変させるゲームチェンジャーとなり得る」と明記。防衛省は27年度までの5年間に約1兆円を投じ、さまざまな分野で配備を進めるとしている。陸自の「自爆型」無人機もその一環で、主に島しょ部における敵の侵攻への対処を想定している。

 遠隔操作や自動操縦を行う無人機は、長期の連続運用が可能で、人的な被害を抑えられる利点がある。一方、ゲーム感覚に陥り、人命を奪うことへの心理的なためらいをまひさせる恐れも指摘されている。【松浦吉剛攻撃用の小型無人機のイメージ図=防衛省提供

自爆型攻撃用無人機、陸上自衛隊が初導入──32億円の衝撃と日本の国防の行方

■ はじめに

2025年、日本の防衛政策にとって歴史的な一歩となる決定が下された。陸上自衛隊が「自爆型の攻撃用無人機(ロイタリング・ミュニション)」を初めて正式導入するため、令和6年度予算に32億円を計上したのだ。この決定は、単なる新兵器の導入ではない。地政学リスクが高まる中、日本の安全保障戦略が従来の「専守防衛」から段階的に進化していることを象徴している。

本記事では、自爆型無人機の技術的特徴や戦略的意義、周辺国との力の均衡、国内外での議論、そして今後の日本の防衛政策の方向性まで、5000字規模で詳述していく。


■ 「自爆型無人機」とは何か?──現代戦を変えるロイタリング・ミュニション

「自爆型無人機(ロイタリング・ミュニション)」とは、攻撃目標の周辺空域を長時間滞空し、発見と同時に自らを爆弾として突入させて目標を破壊する無人兵器である。既に世界各国が導入を進めており、とりわけウクライナ戦争では、アゼルバイジャン製の「ハーピー」やアメリカ製の「スイッチブレード」などが実戦投入され、その高い効果が証明された。

この兵器の特徴は以下の通りだ。

  • 高精度:目標に対してピンポイント攻撃が可能

  • 小型・低コスト:従来のミサイルよりも遥かに安価で運用可能

  • 難探知:レーダーに映りにくく、迎撃が困難

  • 作戦柔軟性:敵の防空網をかいくぐり、即時攻撃が可能

これにより、従来の砲撃やミサイル攻撃とは一線を画す「スマートな攻撃」が可能となる。今回、陸自が導入を決定した背景には、こうした現代戦のトレンドへの対応がある。


■ 陸上自衛隊が導入する背景──防衛戦略のパラダイムシフト

防衛省が導入を決定した理由は明確だ。それは、日本を取り巻く安全保障環境が、これまでにないほど厳しさを増しているからである。

以下の要素が、今回の導入決定の背景にある。

  • 中国の台湾進攻リスク:中国軍は台湾周辺で実戦的演習を繰り返し、日本の南西諸島も射程に入れている。

  • 北朝鮮のミサイル開発:極超音速兵器・核搭載可能なICBMなど、脅威が年々増している。

  • ロシアの軍拡・日本近海での活動:北方領土周辺でのロシア軍の活動は冷戦時代を彷彿とさせる。

  • ウクライナ戦争が示した新しい戦争の形:兵士が死なずに敵を正確に攻撃するドローン戦が常識となりつつある。

従来、日本の防衛は「専守防衛」に徹し、攻撃的兵器の保有には消極的だった。しかし、相手がドローンによる無差別攻撃を仕掛けてくる時代に、専守防衛だけでは国土を守れない。自爆型無人機の導入は、そうした現実への防衛省の「目覚め」を示している。


■ 32億円の内訳と導入計画──まずは試験運用から
導入する小型攻撃用UAVの区分とスケジュール
Ⅰ型①発射主体 隊員が携行②目標 敵歩兵  ③導入時期令和8年(2026年)までに導入準備終了

Ⅱ型①発射主体 隊員が携行②目標 舟艇車輛等 ③導入時期令和7年(2025年)までに導入準備終了

Ⅲ型①発射主体 車輛 ②目標 より遠方の舟艇車輛等 ③導入時期令和8年(2026年)までに導入準備終了

報道によると、32億円の予算は以下の用途に使われると見られている。

  • 自爆型無人機の調達費

  • 操作訓練、シミュレーション施設の整備

  • ソフトウェア開発および連携システムの構築

  • 電波対策(ECM、通信傍受防止)

初年度は、おそらく数十機程度の導入に留まる見込みだが、南西諸島や離島防衛、都市型ゲリラ対応など多用途が期待される。将来的には、海上自衛隊や航空自衛隊と連携して、統合無人機運用システムの構築も視野に入れている可能性が高い。


■ 国内の議論と政治的ハードル──「専守防衛」に反するのか?

自爆型無人機の導入に対して、国内では当然ながら賛否が分かれている。

賛成派の主張

  • 「敵基地反撃能力」として抑止力を高めるために不可欠

  • 有事の際、人的損害を抑えられる画期的な技術

  • 先進国の中で日本だけが導入していないのはむしろ異常

反対派の主張

  • 自衛隊が「攻撃兵器」を保有するのは憲法違反の可能性

  • 相手国への先制攻撃に使われる恐れがある

  • 武器輸出三原則や平和国家イメージに逆行

これに対して政府は、「自爆型無人機は防御のための反撃能力であり、憲法の枠内である」と説明している。ただし、将来的に敵基地攻撃に使われる可能性がある以上、国民的議論は避けて通れない。


■ アメリカとの連携と技術支援──日米同盟の次なるステージ

実は今回の導入には、アメリカの影がちらついている。アメリカはすでに「スイッチブレード」や「フェニックスゴースト」など複数の自爆型ドローンを実戦投入しており、その技術供与やライセンス生産の可能性が報じられている。

これが意味するのは、自衛隊がアメリカ軍との即応性をさらに高めることだ。日米共同作戦の中で、自衛隊が独自にロイタリング・ミュニションを展開できれば、島嶼防衛・拠点防衛の即応力が飛躍的に向上する。

また、アメリカからの技術支援があれば、国産ドローン開発のブーストにもなるだろう。


■ 今後の展望と課題──量産体制、国産化、法整備

自爆型無人機導入はスタート地点にすぎない。今後、日本の防衛政策における主要課題は以下のとおりだ。

  1. 量産体制の整備:防衛装備庁や民間企業(MHI、IHIなど)との連携による国産化

  2. 統合運用システムの構築:無人機と有人戦力の連携強化

  3. 法整備と指揮命令系統の明確化:いつ、誰が「発射命令」を出すのか

  4. サイバー対策と電波戦への対応:敵のジャミング・ハッキングに備えた防御

  5. 国民理解の醸成:「無人兵器=悪」のイメージ払拭と現実的な議論

特に今後数年で、無人機による「情報収集+攻撃」一体化運用が鍵となる。中国やロシアは既にAIドローンの実戦配備を視野に入れており、日本も遅れてはならない。


■ 結論──「攻撃なき時代」は終わった

「平和はただ願うものではなく、準備してこそ得られる」

それが今の日本に突きつけられている現実である。ロイタリング・ミュニションの導入は、専守防衛というドクトリンを維持しながらも、“使える抑止力”を手に入れるための現実的な一歩である。

軍事技術は倫理と表裏一体だ。しかし、相手が武力を強化するなら、こちらも抑止力を持たねばならない。陸自の「自爆型無人機」導入は、まさにその決意の表れだろう。

「守るための攻撃力」──それが、これからの自衛隊のキーワードになるのかもしれない。



令和5年(2023年)以降、「運用実証」のために調達する(可能性がある)と報道されたUAVは12機種に及びます。ただし、そのすべてについて調達されたかどうかは分かりませんし、これ以外にも調達された機種があるかも知れません。当然のことながらその結果も不明ですが、導入の方針を固めたということは、必要な事項の確認を完了したか、その見込みがあるということでしょう。

image002

■ 陸上自衛隊の導入候補とされる「自爆型無人機」──技術・性能・特徴を徹底解説


①【アメリカ製】Switchblade(スイッチブレード)シリーズ
image005

開発:AeroVironment社(米)
想定:短距離・歩兵部隊支援用として有力候補

image007

■ Switchblade 300(軽量型)

  • 全長:約0.6m

  • 重量:約2.5kg(携帯可能)

  • 航続時間:約15分

  • 射程:10km以内

  • 誘導方式:GPS誘導+光学センサー

  • 特徴

    • 個人が持ち運び、バックパックから即発射可能

    • 小型だが対人・軽装甲車両に有効

    • ウクライナ戦争で実戦投入済み

    • 部隊レベルの即応型装備に最適

■ Switchblade 600(重装型)
image011

  • 重量:約23kg

  • 航続時間:40分以上

  • 射程:最大40km

  • 弾頭:対戦車能力あり(Javelinに類似)

  • 特徴

    • 高性能EO/IRセンサー(昼夜対応)

    • 榴弾と同程度の破壊力を持つ

    • 重装甲車両、指揮所攻撃などに適す

トルコ製ドローン「バイラクタルTB2」

image020

1「バイラクタルTB2」は、トルコが開発した中型の無人航空機(UAV)であり、偵察と攻撃の両方の任務をこなす高性能ドローンです。全幅約12メートルの両翼を持ち、小型の精密誘導兵器を搭載可能で、目標の監視から破壊までを一体的に行える点が特徴です。この機体が世界的に注目を集めるきっかけとなったのは、ウクライナとロシアの戦争における活用です。ウクライナはトルコから供与されたバイラクタルTB2を多数運用し、上空からロシア軍の位置情報を収集するとともに、攻撃任務にも投入しました。その成果として、ロシアの車列などを破壊する様子が映像で公開され、ドローンが戦局を左右しうる存在であることを強く印象づけました。また、2020年のナゴルノ・カラバフ紛争でも、アゼルバイジャンがバイラクタルを使用し、アルメニアの地上戦力に甚大な打撃を与えました。同機による空撮映像はソーシャルメディアを通じて広まり、「ドローン戦争の幕開け」とまで評されました。バイラクタルTB2の運用思想は、撃墜を前提にしながらも、低コストで多数展開することで戦術的優位を得るというものです。情報収集能力と攻撃能力を兼ね備えたこの機体は、現代の戦場において不可欠な装備として、各国の関心を集めています。
乗員: 0 機内, 3 地上局
長さ: 6.5 m (21 ft)
翼幅: 12 m (39 ft)
最大離陸重量: 650 kg (1,430 lb)
ペイロード: 150 kg (330 lb)
エンジン: 1 x 噴射装置付き内燃機関、100 Hp
燃料容量: 300リットル (79 US gal)
燃料の種類: ガソリン

性能最大速度: 120ノット (220 km/h)

巡航速度: 70ノット (130 km/h)
交信距離: 見通し内伝搬
実用上昇限度: 27,000フィート (8,200 m)
運用高度: 18,000フィート (5,500 m)
航続時間: 27 時間

HERO-120







image014
ヒーロー120は、イスラエル製の自爆型小型攻撃用UAV(無人航空機)であり、高精度な対地攻撃を目的とした兵器です。発射前には「キャニスター」と呼ばれる容器に翼を折りたたんだ状態で格納され、空気圧によって発射されます。発射後には翼が展開し、電気モーターによってプログラムされた経路を自律的に飛行します。特徴的なのは、十字型の翼構造です。これにより、特に装甲車両の上部といった弱点を狙う「トップ・アタック」において高い操縦精度を発揮します。また、赤外線カメラを搭載しており、操作者がリアルタイムで標的を確認しつつ攻撃の方向を調整可能です。万一状況が変化した場合でも、攻撃を中止できる機能も備えています。一方で、重量は18キログラムと重く、歩兵が長距離を持ち運ぶには負担が大きいです。そのため、通常は車両やヘリコプターで目的地付近まで運搬され、そこから人が隠密に接近して発射する形で運用されます。精密性と柔軟性を兼ね備えたヒーロー120は、現代の戦場において「神出鬼没のスマート兵器」として注目されています。
  • 重量:約18kg

  • 航続時間:60分以上

  • 射程:最大60km

  • 弾頭:4.5kg

    image017
    国産UAVが採用される可能性も

 運用実証が行われたと考えられる機体の中で唯一の国産機が、SUBARUの「VTOL機」です。VTOL(ヴイトール)とは Vertical Take-Off and Landing の略で、「垂直離着陸」という意味です。

 SUBARUはこれまで陸上自衛隊向けに、垂直離着陸型のUAVである「遠隔操縦観測システム FFOS」と「遠隔操縦偵察システム FFRS」を開発・製造してきた企業です。提案しているUAVも機種名が「VTOL機」なので、当然、垂直離着陸機でしょう。それ以外の諸元や性能に関する情報はなく、Ⅰ型からⅢ型のどの種別なのかも判断できません。ただし、「多用途/攻撃用UAV」であり、自爆型UAVに該当しないことから、令和8(2026)年度に導入されることはないようです。




image023
かつて富士重工業が開発した、陸上自衛隊の遠隔操縦観測システム FFOS 写真:陸上自衛隊


image026