2025年5月14日に航空自衛隊のT-4練習機が愛知県犬山市の池に墜落し二人の貴重な人命が失われました。現時点で事故原因は公表されていませんが、筆者は状況から考えると老朽化や部品不足が原因のような気がします。T-4は1990年代初頭に配備が開始され、現在も多数が運用されています。航空自衛隊では、定期的な整備や部品交換を通じて機体の安全性を確保していまるとの見解をしめしています。が、運用開始から30年以上が経過し最終号機(36-5812)の納入が2003年で20年以上経過ていることから、老朽を疑われて当然である。しかし、T-4の後継機についてはいままで全く動きがありませんでした。


皮肉なことに事故直後に開催された防衛・セキュリティ総合展示会DSEI JapanにおいてT-4練習機として三菱重工業が自社開発のコンセプト機模型を初披露した。当ブログで2015年T-4の後継機問題を取り上げた頃はまったくT-4の後継機の動きが見えず、いっそのことATD-X(X-2)をT-4の後継機としたらどうか?という記事を書いた。

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【徹底考察】空自次期練習機「T-X」は何を選ぶべきか? ― 三菱案・T-7・M-346・アエラリス・X-2練習機型の選定条件基準はどうあるべきか?考察

― 三菱T-XからT-7派生型、M-346、アエラリスまで各案を徹底比較 ―

2025年5月21日、T-4練習機は防衛・セキュリティ総合展示会「DSEI Japan」において、航空自衛隊の次期中等練習機「T-X」への提案として、自社開発のコンセプト機模型を初披露した。この動きは、老朽化したT-4の後継機選定がいよいよ現実のものとして動き出したことを意味する。だが、候補は三菱案のほかにも複数存在し、各案が一長一短の要素を抱えている。

ここでは、現在浮上している候補機を「予想コスト」「実現性」「将来発展性」の3軸から分析し、空自にとって最適なT-Xとは何かを考察する。


航空自衛隊 次期練習機「T-X」

2020年9/18記事⇑

2025年5月21日、幕張メッセで開幕した「DSEI Japan 2025」で、三菱重工業が防衛省に提案中の次期練習機「T-X」構想のコンセプトモデルを初公開した。T-Xは、現在使用されている国産中等練習機T-4の後継機として位置づけられており、航空自衛隊の次世代パイロット養成に向けた鍵となる存在である。

では、T-4の後継に何を選ぶべきか?ここでは現在名前が挙がっている各案を比較・検討し、日本の将来に最適な選択を考察していきたい。


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【考察】空自次期練習機「T-X」の選定はどうあるべきか?

― 三菱T-XからT-7派生型、M-346、アエラリスまで各案を徹底比較 ―

2025年5月21日、三菱重工業は防衛・セキュリティ総合展示会「DSEI Japan」において、航空自衛隊の次期中等練習機「T-X」への提案として、自社開発のコンセプト機模型を初披露した。この動きは、老朽化したT-4の後継機選定がいよいよ現実のものとして動き出したことを意味する。だが、候補は三菱案のほかにも複数存在し、各案が一長一短の要素を抱えている。

ここでは、現在浮上している候補機を「予想コスト」「実現性」「将来発展性」の3軸から分析し、空自にとって最適なT-Xとは何かを考察する。



【候補①】三菱重工案「T-Xコンセプト機」
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概要

三菱重工がDSEIで発表したコンセプト機は、模型のカラーリングはX-2(旧ATD-X)と同様に三菱重工の「ハウスカラー」をしているせいかX-2(旧ATD-X)を小型化したようなデザインの双発機である。純国産機として開発される見込みであり、今後日英伊共同開発の(GCAP)との親和性も意識した設計がなされているとみられる。GCAPが、オーストラリア、カナダ、サウジアラビア等々世界中で注目をうけておりGCAP採用国に併せて採用される可能性がある。純国産化とするより英国イタリアと提携に進むと思う。

予想コスト

  • 開発費:2,000〜3,000億円(新規設計・試作含む)

  • 機体単価:60〜80億円(小ロット生産前提)

実現性

  • 技術的には可能だが、防衛予算との兼ね合いが課題。

  • 純国産であるがゆえにコスト高。開発スケジュールも長期化の恐れありX-2(旧ATD-X)を流用する可能性もあると思う。

  • 三菱はF-2やX-2、F-X開発などの経験があるため設計能力は高い。

発展性

  • GCAPとの運用思想共有が可能で、将来的に「戦術訓練支援機」や「軽戦闘攻撃機」への転用も期待できる。

  • 国内生産維持や技術継承の面でも価値がある。

総評

「高価だが夢のある選択」。政治的に「国産を守る」という意味では支持を得られるが、財政的には厳しい判断となる可能性大。


【候補②】ボーイングT-7A派生型(国際共同開発案)


概要

米空軍の次期中等練習機T-7A「レッドホーク」の日本仕様導入案。国際共同開発により、一定の仕様をカスタマイズしつつ導入。

予想コスト

  • 開発費:数百億円(仕様変更・共同開発費用)

  • 機体単価:30〜40億円程度(量産時)

実現性

  • 米国との政治的・技術的連携が強く、導入は現実的。

  • ロジスティクスやFMS制度利用でコスト管理も可能。

  • ただし米軍との調整・仕様差の管理が課題。

発展性

  • 将来の戦術支援、模擬戦闘機など多用途化が可能。

  • 米軍とのインターオペラビリティ(相互運用性)も高く、共同訓練に有利。

総評

「現実的かつ実用的な選択」。国産の雇用や技術継承には不利だが、短期導入・コスト重視であれば有力候補。


【候補③】イタリア製 M-346(レオナルド社)



概要

欧州各国で採用されている双発高性能練習機。日本でも過去に研究導入された実績あり。

予想コスト

  • 開発費:不要(既製品)

  • 機体単価:25〜35億円(数量次第)

実現性

  • 導入実績が多く、即納も可能。

  • ただし欧州との後方支援体制や政治的な整合性に課題あり。

  • 日本仕様の改修に一定の費用が発生する可能性。

発展性

  • サブ軽戦闘機、アグレッサー用途にも転用可能。

  • ただしF-35やGCAPとの相関性には乏しい。

総評

「即戦力としては優秀だが、将来性に課題」。短期対応機としてなら有効だが、長期的な発展性は他案に劣る。


【候補④】アエラリス(英国スタートアップ)のモジュラー練習機案

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概要

英国のスタートアップ「AERALIS」による革新的なモジュール式練習機。エンジンや機体構成を任務に応じて交換可能。

予想コスト

  • 開発費:1,000〜1,500億円(共同開発前提)

  • 機体単価:未定(30〜50億円との推定)

実現性

  • 現時点では技術実証段階。導入にはリスク大。

  • GCAPとの連携が期待されるが、英国主導案への依存が強まる。

発展性

  • 高度な柔軟性と再構成能力により、多目的運用が可能。

  • 民間との連携や輸出も見込めるが、軌道に乗るには時間が必要。

総評

「野心的で未来的な案だが、リスクも大」。GCAPとの政治的連携を深める意味では象徴的価値がある。


【候補⑤】T-4の改良型「T-4 2025案」(川崎重工)
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概要

現行T-4の再設計案。アビオニクス更新、エンジン換装等で近代化。

予想コスト

  • 開発費:500〜700億円(基本設計は維持)

  • 機体単価:25〜30億円

実現性

  • 国内量産基盤維持可能。技術的にも十分達成可能。

  • 現行インフラとの互換性が高く、導入スピードも早い。

発展性

  • 戦術訓練支援には制限があるが、国内訓練任務には十分。

  • 老朽機の延命・更新として「最低限の解決策」。

総評

「ローリスク・ローリターンな選択」。緊急対応としては有力だが、次世代戦闘機と連携する長期構想には弱い。


【結論】空自T-Xの選定は何を優先すべきか?

日本が次期練習機T-Xに求めるべき要素は、大きく分けて以下の3点である:

  1. GCAPやF-35、将来無人機との親和性・訓練環境の高度化

  2. 国内防衛産業の維持と技術基盤の継承

  3. コストと時間のバランス

この視点から評価すると、三菱案(T-Xコンセプト)とT-7派生型が特に有力であり、

  • 技術自立・将来性を重視するなら三菱案

  • 現実的かつ実用性を重視するならT-7派生型

となる。一方で、T-4改良型は緊急避難的手段、M-346は即戦力、アエラリス案は未来投資といった補完的な位置づけだろう。








【結論】空自T-Xの選定は何を優先すべきか?

日本が次期練習機T-Xに求めるべき要素は、大きく以下の3点である:

  1. 次期戦闘機(GCAP)やF-35との親和性の高い訓練環境の整備

  2. 防衛産業基盤の維持と予算バランス

  3. 段階的な導入による技術と装備の滑らかな移行

この視点から各案を見たとき、もっとも現実的かつ予算的・工業的バランスに優れるのは、川崎重工による**「T-4改良型(仮称:T-4 2025)」**である。




【導入の未来像】

T-4 2025による段階的更新により、T-4からGCAPへのスムーズな訓練体系の移行が可能となり、「練習機断絶」を防ぐとともに、日本の航空教育能力を無理なく維持・強化することができる。さらに、

  • 国産技術の継承

  • 雇用の維持

  • 国内部品サプライチェーンの活用

という、防衛装備移転三原則にも適合した持続的国防の実現に貢献できる。



ここでは、次世代のT-Xに求められる主要要素を、訓練環境、操縦性、技術継承性、経済性、安全性など多角的に整理する。


1.高度な操縦性 ― 新世代パイロットへの橋渡し

T-Xは単なる「練習機」ではなく、F-35やGCAPといった第五世代以降の戦闘機への“ステップ”となる機体である必要がある。よって、以下のような空力特性が求められる:

  • 低速から遷音速域にかけて安定した操縦特性

  • 新開発の遷音速向け翼型の採用

  • 高いロール率・ピッチ応答性による実戦的機動訓練

T-4の操縦性の良さは高く評価されてきたが、今後はそれをさらに洗練させ、GCAPのような超音速・高機動戦闘機への適応力を持たせる設計が必要である。


2.高機能な訓練システム ― 教官と学生の「見える化」連携

近年のパイロット育成では、単なる操縦訓練に留まらず、「教官が学生の飛行データをリアルタイムで評価し、即時フィードバックする機能」が重視されている。T-Xには以下の機能が求められる:

  • グラスコックピット

  • フルデジタルなフライトロガー

  • 教官席からの状況把握支援システム(AR/VR訓練との連携)

  • デブリーフィング支援ソフトウェアとの統合

つまり、T-Xは**「空飛ぶシミュレーター」**としても機能すべき存在になりつつある。


3.次世代技術習得環境 ― GCAP時代の電子戦・データリンク対応

次期戦闘機(GCAP)には、以下のような先端技術の搭載が想定されている:

  • アクティブ電子走査アレイ(AESA)レーダー

  • 自衛用電子戦システム(RWR、ジャマー)

  • データリンク(Link-16/Link-22/次世代マルチドメイン通信)

T-Xは、これらの要素に対応した模擬電子戦訓練環境を提供できる必要がある。これにより、次期戦闘機搭乗前から高度な電子戦・ネットワーク戦技術を習得できる。


4.将来を見据えた「無人機誘導訓練」対応

戦闘機パイロットは今後、単機の操縦だけでなく、複数の無人機(UAV/UAVチーム)を操作・指揮する「エアボス的技能」も求められるようになる。

このため、T-Xには将来的に以下のような機能を組み込むべきである:

  • 模擬UAV編隊の指揮・誘導訓練

  • 複数UAVとのデータリンク訓練

  • AI支援型ドローンとの協調飛行訓練

T-Xは、有人・無人複合戦の基礎教育機体としても活躍するべき時代が来ている。


5.動力と整備性 ― XF5またはXF9系列の小型化型に期待

動力系については、既存のF3-IHI-30ターボファンでは性能不足が指摘されている。将来的には以下の選択肢が現実味を帯びてくる:

  • XF5-1(X-2心神に使用)の派生型:軽量・高推力、推力偏向装置との親和性

  • XF9-1(F-3搭載予定)を元にした小型ターボファンの開発:ややオーバースペックだが技術実証として意義あり

これにより、国産エンジン技術のスピンオフ活用と部品共通化が可能となり、部品供給・メンテナンスの信頼性向上にもつながる。


6.経済性・運用性・国際性 ― 長期運用を見越した設計思想

T-Xは今後30年以上にわたって運用されることが前提であり、そのためには以下の条件が不可欠である:

  • 低燃費・整備性に優れた設計

  • 部品供給の安定性

  • 国際標準規格(MIL-STD)への準拠

  • 多様な気象・地理環境での稼働実績

また、万が一の事故時に備えた安全システム(緊急脱出装置、自動失速防止システム等)も重視されるべきである。


結論:T-Xは「訓練機以上の存在」へ

T-Xに求められるのは、単なる操縦教育機体ではない。**次世代戦闘機運用の前段階としての“マルチドメイン訓練機”であり、“無人機時代の人材育成装置”**である。

【筆者提言】T-4 2025は「最小コストで最大の安定」をもたらす選択肢

T-4は現在でも航空自衛隊の教育訓練体系の中核を成しており、そのインフラ(整備、訓練カリキュラム、部品供給網)はすでに国内に構築されている。このT-4をベースに、以下の改良を加えた「T-4 2025型」を導入することで、最小限のリスクで最大限の効果を得ることが可能となる:

  • アビオニクス全面更新(GCAPやF-35環境に近づける)

  • エンジンの換装または近代化整備(出力・燃費向上)

  • コックピットのグラス化、リンク16等の戦術データリンク対応

  • 整備・訓練体系の最小限の変更で済む運用面の柔軟性

現実的には、T-4の近代化改修で即応性を確保しつつ、T-7派生型もしくは三菱T-Xで長期的な置き換えを図る二段階導入が最適だ。

特に、三菱T-Xを将来的に軽戦闘支援機や輸出モデルに発展させる可能性は、日本の航空産業の将来を左右する大きな鍵となる。選定には短期と長期の視野を併せ持ち、冷静かつ戦略的な判断が求められる。さらに、T-4改良型はそのコンパクトな設計と良好な操縦性により、将来的には無人機訓練支援やアグレッサー用途、空対空訓練支援機としての用途拡大も視野に入れられる。開発コストは他案の1/3〜1/5に抑えられ、整備・部品供給も既存インフラを活用できることから、極めて高い費用対効果を誇る。

【結語】三菱案やT-7案日英伊共同開発案は未来への投資として有望だが、今は「T-4 2025」で堅実に進むべき

将求められる要件 ― 戦闘機パイロット育成の未来を支える多機能訓練機とは

現在、航空自衛隊が運用する中等練習機T-4は、戦闘機パイロット育成の中核として長年活躍してきた。しかし、その初飛行からすでに40年が経過しつつあり、機体の老朽化と次世代戦闘機への訓練ギャップという問題が顕在化している。これに代わる「T-X(T-4後継機)」の選定・開発は、単なる練習機の更新にとどまらず、航空自衛隊の将来を左右する国家的プロジェクトとも言える。

【追加特報】GCAP新練習機案



DSEI Japan 2025において、ジェット練習機「M-346」ブースのレオナルドトマッソ・パニ上席副社長(マーケテイングおよび戦略キャンペーン担当)が、「GCAPを運用するための練習機について、GCAP向けの練習機についても当然ながら検討しています。」との話が出たとのこと。今年の3月末から4月初めにかけてイタリアで開催された『軍用機飛行訓練会議(Military Flight Training conference 2025)』でも、いくつかの空軍から『GCAPと練習機はセットで開発すべきだ』という声が挙がっていました。

 現時点で、GCAP向け練習機がどのような機体になるかはまだ確定していませんが、社内ではいくつかのアイデアやコンセプトを検討しており、それらをこれから設計・開発していく段階です」

 機体のコンセプトについては未だ確定的なものはないとしつつ、従来機種と比較した場合に求められる機体の変化という点について、パニ氏は次のように語ります。

「機体構造に関して、我々は革命的な変化が必要になるとは考えていません。一方で、アビオニクスやコックピットに関しては、大きな進化が必要になると考えています。GCAPに参画していることで、そうした技術的知見やノウハウを得ることができました。

 練習機の分野においても、GCAPと同様の方向性を踏襲していくべきと我々は考えています。私たちは、GCAP向け練習機に関して、GCAP本体と同様にイギリスのBAEシステムズや日本の三菱重工業といったパートナー企業と共同で設計・開発されるべきだと考えています」実のところ、GCAPで求められる機体性能を考えると、既存の練習機では対応が難しいのではないかという懸念を、筆者は長らく感じていました。

 というのも、GCAPは単なる戦闘機ではなく、自機のセンサーや共に行動する無人機、さらに遠方を飛行する有人機やその他のアセットなどとネットワークで結ばれた機体になると考えられています。その場合、パイロットには単に機体を操縦する技能ではなく、いかに大量の情報を整理し、そこから状況を判断して適切なアセットに適切なタイミングで指示を出す、あるいは連携するという決断をスムーズに行う技能が求められます。

 筆者もしてきしたように、GCAPと同様の設計思想で、同様の機能を備えた新練習の開発案はこれから本格化する可能性がある、
伊太利M-346ベースになるか、三菱の新練習機やX-2機体発展型、川崎T-42025発展型、英アエラリスベースの機体にGCAPミッションを再現できるコクピット+GCAPに対応できるや地上シミュレーターが開発されるのであれば、おそらく次世代戦闘機のパイロット育成という観点からは、それが最適な選択肢といえるでしょう。

、GCAP採用国が共同で開発する新型練習機という選択肢も、今後は検討が必要になるのかもしれません。是非開発していただきたい。