日本は資本主義国家と言えるのか
ソンビ企業を助け新産業を見殺す国
日経ビジネス2016.01.11
かつて世界を制した日本の電機産業が凋落の一途をたどる。
シャープや東芝が経営危機に陥り、一部の事業が「国有化」されようとしている。
一方、有望なベンチャー企業には誰も手を差し伸べない。この国はどこへ行くのか。
電機産業の「国有化」が進んでいる。経営危機にあえぐシャープは主力の液晶事業を切り離し、「日の丸液晶会社」のジャパンディスプレイ(JDI)と統合する方向で詰めの交渉を続けている。この記事を読んで、私は背筋が寒くなり、かすかな希望も打ち砕かれそうな気分になった。シャープ、東芝・・・ドイツ名門企業VW 世界的な企業もイノベーションに成功しなければあっという間に倒産の危機に立たされるのが今の世界経済の現実である。
JDIの筆頭株主は同社に2000億円を出資している産業革新機構。政府が出資する「国策ファンド」であり、「経済産業省の別動隊」とも呼ばれる。
「日本の半導体、液晶産業の競争力が低下しだのは、韓国や台湾の官民一体となった攻勢に民間だけでは抗しきれなかったから」。経産省が液晶再編を主導する背景にはこんな思いがある。
企業に直接金を出せない経産省は、本来、ベンチャー育成のために作られた革新機構を使って電機業界に公的資金を注入し続ける。半導体のルネサスエレクトロニクス。 JDIとソニー、パナソニックの有機EL事業を統合したJOLED。東芝が買収したスマートメーターのランディス・ギアなど。
革新機構はこれまで電機大手の再編・M&A(合併・買収)に総額約4000億円を投じている汀我々は民間ファンド」と主張するが、資金のもとをただせば税金。革新機構による電機産業への資金注入は「国有化」にほかならない。
「今度はお上が守ってくれる」
2011年にJDIを作る時、経産省はシャープにも合流を促した。シャープが入ればJDIは名実ともに液晶の日本代表になり、日本航空の再建の時のように「国が一方の企業に加担した」という批判は避けられるからだ。
だがシャープは経産省の誘いを断った。「液晶で世界最強のシャープが、何で負け組と一緒になる必要がある」。当時、会長の町田勝彦はうそぶいた。
この頃からシャープの業績は坂道を転がるようにして落ちていくのだが、町田は官の軍門に下ることを潔しとしなかった。 2012年にはアップルのスマートフォン「iPhone」などを受託生産している台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業と提携し、大型液晶パネルの新鋭工場、堺工場の半分をホンハイ会長の郭台銘(デリー・ゴー)に売った。
この時、町田と郭は、ホンハイがシャープ本体に出資することでも合意していた。町田はこんな話をしている。
「格下だと思っていたホンハイの工場を見せられた時、シャープはもうとっくに抜かれとる、と悟った。しかしシャープの社員は自分たちが上だと信じ込んでいる」「漁師さんの話だと、イワシは弱いから水槽に入れても運ぶ途中でみんな死んでしまう。そこにアンコウを1匹放り込むと、食われまいと必死に逃げるから、店に着くまで生きとるそうや。ホンハイの出資は劇薬だが、ぼんやりしたシャープの社員がこれで目を覚ましてくれたらええ」
しかし2012年に町田が会長を退くと、残ったイワシたちはホンハイとの提携を全力で拒んだ。「(他社の知財を尊重しない)あんな盗っ人企業と組めるはずがない」。町田の後の会長になった片山幹雄はホンハイを毛嫌いし、役員陣も総じて反ホンハイだった。デリー・ゴーをカノレロス・コーンに見立て、シャープを日産自動車のようによみがえらせる町田の構想は、変化を恐れるサラリーマン集団によって阻止された。
だがホンハイ撃退で一致団結したサラリーマン集団にも、シャープ再建のアイデアはなかった。座して待つうちに資金は底を突き、片山の後、社長になった奥田隆司や高橋興三の仕事は、主力行のみずほ銀行と三菱東京UFJ銀行、経産省への支援要請になった。
高橋は持ち時間を使い果たした。
2016年3月末には借入金など5100億円の返済期限が来るが、銀行に借り換えを頼める状況ではない。最大の資産かつ重荷でもある液晶事業の売却以外に道はない。 買い手がJDIになるか革新機構になるか。それはたいした問題ではない。どちらに転んでも国が大株主になり「国有化」されることに変わりない。
最近、シャープを辞めた中堅社員によると、問もなく「解体」が始まるシャ
-プ社内は不思議な安堵感に包まれているという。「今度はお上が守ってくれるらしい」 自力再建が絶望的になった2015年4~6月期決算の後も社内は「なんかうちの会社は大変そうだねえ」という無気力な笑いに包まれていた。
むしろ社員の関心は10月にスタートしたカンパニー制にある。自分はどのカンパニーでどのポジションに就くか。サラリーマンとして、うまく立ち回ることに必死なのだ。
ベンチャーに冷たい革新機構 「罪悪感より、むしろ達成感を感じました」。不正会計の発覚をきっかけに、経営危機に追い込まれた東芝。上司に「チャレンジ」を強要されて数字を改ざんした中間管理職は、本誌にこう語った。「会社のためなら不正もやむなし」
という心理が透ける。
革新機構はそんな東芝にも手を差し伸べてきた。 JDIへの出資で液晶事業のリストラを支援し、スマートメーターを作るランディス・ギアの買収にも出資した。「東芝が瀬戸際に追い込まれたら原発機器事業も『国有化』するのではないか」と市場関係者は読む。
ベンチャー育成のために生まれたはずの革新機構は実質的に「電機救済機構」であり、ベンチャーには冷たい。
「俺たちはマサチューセッツエ科大学(MIT)にもカーネギーメロン大学にもスタンフォード大学にも負けない」。彼らには「日本の未来を担っている」という自負かあった。2012年に東京大学の助教を辞めてロボット開発のベンチャー、シャフトを立ち上げた中西雄飛と浦田順一。起業家の加藤崇は2人のロボットヘの情熱に魅せられてCFO(最高財務責任者)を引き受けた。
2013年の春、加藤は東京・霞が関の経産省を訪れた。開発を次のステップに進める資金支援を受けるためだ。自信はあった。
だが応対に出た課長はこう言った。「介護・福祉のロボットなら補助の枠があるんだが、君たちのようなタイプには枠がないんだよ」
介護ロボットのように足元の市場はないが、10年先に必ず必要になる技術だ。そう言って加藤が食い下がると、課長はボソッとつぶやいた。
「そんなにやりたいんなら、アメリカでやればいい…」 帰り道、加藤は怒りが収まらなかっ た。「俺たちは日本がアメリカに負けないように、退路を断ってベンチャーをやっている。それをアメリカでやれだと。官僚のくせに何を言ってるんだ」。
次の週、いちるの望みを託して東京・丸の内の革新機構を訪ねた。応対に出
、た専務執行役員は不機嫌だった。
「言っておくが、我々は民間のファンドだ。リターンを出さなくちゃならない。ヒト型ロボットに出す金はない」最初から取り付く島がなく、専務の説教は1時間に及んだ。
「本省(経産省)は、ちゃんとロボット産業のフィジビリティースタディーをやっている。ヒト型には市場1生がないというリポートもある」
シャフトが開発を継続するために頼んだ出資額は3億円である。だが2兆円の投資枠を持つ革新機構は歯牙にもかけなかった。
世界が2足歩行ヒト型ロボットの必要性を痛感したのは2011年3月である。
水素爆発を起こした東京電力福島第1原発の冷却作業は一刻を争った。だが高い放射線に阻まれて人間は近付けない。誰もが同じことを考えた。「ロボットはどうした」。多くの大企業がロボットを開発していたが、実地に耐える技術はなかった。
「俺たちのロボットが完成していれば…」ヘリコプターで上空から散水をする絶望的なテレビ映像を見ながら中西と浦田は歯がみした。2人が開発していたロボット「S1」は、歩行中に前後左右から蹴飛ばしても転ばない。がれきの山をスイスイと登っていく。その高い重心制御技術は、後に世界のロボット技術者から「ウラタ・レッグ」と呼ばれる。実地に耐えるロボットの開発を目指す2人は加藤に資
金調達を頼みシャフトを立ち上げた。
米国と韓国は、この頃から2足歩行ロボットヘの投資を一気に拡大する。
だが日本では、開発予算が削られた。VC(ベンチャーキャピタノレ)など金融
機関の反応も鈍かった。
「日本では無理かもしれない」 思いつめた加藤は、中西と浦田に開発を続けさせるため、1人でシリコンバレーに飛ぶ。程なく複数の投資家から「話を聞きたい」というオファーが舞い込んだ。米グーグル(現アノレファベット)もその中の一社だった。
2013年6月、3人は東京・お台場のオフィスでグーグルとの2度目の電話会議に臨んでいた。電話の向こうで話しているのが誰だかよく分からなかったが、どうやら相手はシャフトの技術を気に入っている様子で「一度、実物を見たい」という。もちろんウェルカムである。来日は7月18日に決まった。 グーグル副社長は3時間で決断 視察チームのリストに見覚えのある名前があった。アンディ・ノレービン。 世界で最も普及しているスマートフォンのOS(基本ソフト)である「アンドロイド」を開発し、その会社をグーグルに売って同社の技術部門担当副社長に収まった大物である。そのルービンは中西と浦田が実機を動かすと、顔を真っ赤にして興奮した。
にの関節はなぜこう動く? この機構の仕組みは?」。約3時間、思う存分、
質問したノレービンは「少し話をしよう」と3人を会議室に誘った。
「君らのロボットは素晴らしい。グーグルが出資するのは難しいことではない。この程度の投資ならこの場で、私か決められる。だが、足りない技術もあるからグーグルの傘下に入って、他の優秀なエンジニアたちと組む手もある。君たち次第だ。金額を決めてくれ。
SCHAFT : DARPA Robotics Challenge 8 Tasks + Special Walking
私はこれから30分、外でコーヒーを飲んでくる」
3人は開いた□が塞がらなかった。
「おい今、投資するって言ったよな」
「言った。で、どうする」
「売ってもいいんじゃないか」
加藤は慌ててパソコンをたたき、将来性を含め、フェアと思える金額をは
じき出した。コーヒーブレークから戻ったノレービンはその数字を見て言った。
「OK、検討可能な金額だ。あとは彼女と話を進めてくれ」
ノレービンについてきた女性の役員がにっこりほほ笑んだ。それから目が回
るほどの忙しさで4ヵ月が過ぎ、ついに会社の売却が決まった。
その年の終わり、米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)が主催するヒト型ロボットの競技会で、米航空宇宙局(NASA)やMITのチームを抑え、シャフトはぶっちぎりの1位に輝いた。
今、中西と浦田はグーグル・ロボティクスの一員として、日本で働いている。直属のボスはグーグル創業者のラリー・ペイジである。会社を売却して億万長者になった浦田がある日、ポツリと漏らした。
「俺、税金を払いたくない」 巨額の所得税を払わなければならないが、浦田はカネが惜しいわけではなかった。加藤が代弁する。
「一番助けてほしい時に、日本は僕らを見捨てた。認めてくれたのはアメリカでした。なのになぜ、日本に税金を納めなくてはならないのか。ましてや、その税金が僕らを全面否定した産業革新機構を通じて、経営に失敗した大企業の救済に投じられる…。やるせないですよ」
結局、浦田は何の節税対策もせず、額面通り所得税を納めた。そのカネは、日
本との手切れ金だったのかもしれない。
パナソニックに買収され10万人いた社員のうち9万人強が離散した三洋電機。元会長の野中ともよは、経営危機の中で自分たちの権益を守るために奔走していたサラリーマン集団を指してこう言った。
「沈みゆくタイタニック号の甲板で一生懸命デッキチェアを並べる人々」
「国が助けてくれる」と安心しているシャープの社員や、不正会計に手を染めた東芝の社員も同じである。大切なのは巨大な組織の中で、自分の居場所を確保することであり、組織そのものがどこへ向かっているかには関心がない。窮地に陥っても、サラリーマン共同体の発想から抜け出せないでいる。「悔しかったら、頑張りなさい」 自分の城を守る気概を失った巨大企業に国の手が伸びる。官僚たちは「だらしない民間の代わりに自分たちが日本経済を立て直す」と思っているのかもしれないが、とんだ勘違いだ。
1960年代から70年代の英国では鉄鋼、運輸、自動車産業などが次々と国有化された。管理職は経営改善の意欲を失い、労働者はストライキに明け暮れた6運転手のストでゴミ収集車が動かずロンドンの街にゴミがあふれた。給食が配送できないので学校も休校になり、灯油が配達されず市民は寒さに凍えた。「英国病」だ。
反転の動きが始まったのはサッチャー政権が誕生した79年。サッチャーは国営企業を片っ端から民営化し、強すぎた労働組合を抑え込み、ヴァージングループのリチャード・ブランソンのような起業家の背中を押した。だが、一度活力を失った社会が息を吹き返すには途方もない時間がかかる。フレア政権が「英国病克服宣言」を出したのは、20年以上後の2001年のことだった。
2期目の首相就任演説でサッチャーは国民にこう語りかけている。 「英国政府はもはや、みなさんの面倒を見ることができません。どうか自分の足で立ってください」
サラリーマン資本主義に侵された今の日本にサッチャーがいたら、業績不振を政府や景気のせいにして思考を停止しているサラリーマンに向かって得意のセワフを言うだろう。 「悔しかったら、頑張りなさい」
東大ベンチャーがグーグルの手に
突きつけられた日本の成長課題
【第911回】 2014年1月17日 週刊ダイヤモンド編集部
身長約1.5メートル、ブロックの散乱したでこぼこ道を悠々と歩き、手すりのない2メートルを超えるはしごも自在に登っていく。
東京大学発のベンチャー企業が開発した二足歩行のロボット――。「蹴っても倒れない」という技術は、開発者の浦田順一氏にちなみ「ウラタ・レッグ」と世界の研究者に称賛されているほどだ。
この企業の名は「SCHAFT(シャフト)」。実は、2013年末に開かれた、米国防総省国防高等研究計画局(DARPA)主催の災害救助ロボットコンテストで、米航空宇宙局(NASA)など強豪15チームを抑えてトップに輝いた、知る人ぞ知る世界的な注目企業なのである。
11年末から、東大助教であった中西雄飛氏と浦田氏がヒト型ロボットの商業化に向け、ベンチャーの設立を検討。12年4月にDARPAのコンテスト開催が発表されたことを受け、まずはそのロボット開発に向けて、12年5月にシャフトを設立したのだ。
そのシャフトがいきなりコンテストに優勝したことで日本の技術力の高さを見せつけた反面、大きな課題も浮き彫りになった。実は、米検索大手グーグルがすでにシャフトを買収していたのだ。
ロボットの開発には、試作機でも数千万円単位の費用がかかることもあり、シャフトにとって資金調達が悩みの種となっていた。技術では絶対的な自信があり、日本のベンチャーキャピタル(VC)や国の関係機関などに投資や融資を説いて歩いたものの、徒労に終わっていたのだ。
資金調達を担当した共同創業者の加藤崇氏は、「『おもしろい技術だね』とは言ってくれるが、市場が立ち上がっておらず、引き受けては見つからなかった」と振り返る。
結局、当時、加藤氏自身が関わっていた投資ファンドから大部分の資金を調達。ACCESS共同創業者の鎌田富久氏の出資を受けて、ようやく試作機の完成にこぎつけた。
その後も、DARPAの開発資金を得て開発を進めながら、商業化に向けて資金調達の交渉を続けていた。
そんな中、たどり着いた先がグーグルのVCであった。ロボットの事業化を目指す、グーグル本体につながり、あっと言う間に買収へとつながっていったのだ。
グーグルに決めたのも「軍事転用しないことに加え、ハイテクにかける思いが強い。何よりも市場をつくれる力がある」(加藤氏)ということだった。
かくして、日本で相手にされなかった、最先端のロボットベンチャーをグーグルが手中に収めた。加藤氏は、「本当は日本で資金調達したかった」と言うが、ここにはグーグルのおひざ元である、米西海岸のシリコンバレーには日本が逆立ちしてもかなわない現実がある。
日本のみならず世界トップレベルの研究者たちが、資金面での心配なく研究に打ち込むためシリコンバレーに磁石のように吸い寄せられるという現実である。
ベンチャー育成の装置
「シリコンバレーの中心地で家を買おうとすると、1億円からしかないと不動産屋に言われる。インド人や中国人がどんどん買っているようだ」(サンノゼ在住日本人)
今、シリコンバレーは、好景気に沸いている。
フェイスブックやツイッター、リンクトインなど新興のIT企業が上場を果たし、企業価値1000億円を超えるIT企業は、両手で数えられないくらい生まれている。
フェイスブックやグーグルなどの敷地の移転・拡張や、シリコンバレー中心地のパロアルト、マウンテンビュー周辺の住宅需要も増しており、賃料も、売買代金も高騰しているのだ。米フォーブス誌の米高級住宅地ランキングでもシリコンバレーがトップ1、2を占めているほどである。
さらに、インドや中国など世界からソフトウェアエンジニアが集まり、アップル、ツイッター、フェイスブックなどの主要企業の平均給与が年1200万円に及んでいる(グラスドア・ドットコム調べ)。
なぜ、シリコンバレーでは次々と世界に通用する企業が生まれるのだろうか。
まず、起業における考え方が日本とは違う。シリコンバレーでは、最もかっこいい職業が「起業家」であると言われる。とりわけ、中心地のスタンフォード大学では、成績優秀者が卒業後にベンチャー企業を設立するのは、至って自然な選択だ。
その若者たちを、エンジェル投資家と呼ばれる、過去に経営を成功させ財をなした人々が支援している。単なる資金援助に限らず、ビジネスプランの策定や、人材確保も手助けしてくれるのである。
かつて、サン・マイクロシステムズの共同創業者が、まだ会社も設立していなかったグーグルの創業者らに、10万ドルの小切手を手渡したという話も有名だ。このような投資家が、そこかしこにいるのである。
市場のないような新たなサービスへの投資こそ、通常の組織で合意を得にくい。そこでエンジェル投資家の出番である。投資家としての彼らの柔軟な思考が起業のハードルをぐっと下げている。
加えて、VCも活発に動いている。米国の金融緩和により余ったカネが、VCに流入していることもあり、立ち上がったばかりのベンチャーに、少額投資することが流行っている。
中には、200万円程度の資金を与え、経営やサービスの基礎固めを3カ月間程度でみっちりと教え込む、いわば「合宿」を実施するVCもある。
代表格のYコンビネーターは、2005年以降、630社を超えるベンチャー企業に投資し、オンラインストレージサービスのドロップボックスの誕生などにつながった。
シリコンバレーのVC事情に詳しい、SV Frontier代表の鈴木陽三氏は、「3カ月間であれば、ビザなしで滞在できる国も少なくないため、世界中から集まる応募を厳選してシリコンバレーに滞在させて、短期集中で一人前の起業家に鍛え上げている。他の起業家や有力な投資家と出会い、デモと呼ばれる発表会でメディアに出て、資金を得て旅立っていく『登竜門』となっている」と話す。
つまり、人材育成と資金提供、メディアを通じたマーケティングの仕組みが、ベンチャー企業を設立する「入り口」の段階できちんと整備されているのである。
「出口」は9割が売却
もっとも、さらに重要なのは、シリコンバレーには、投資家が株式公開や転売などにより、資金を回収する「出口」が担保されていることである。
CBインサイツのレポートによれば、シリコンバレーの「出口」の案件は、毎年150前後あり、その9割が他企業による買収(M&A)という。上場する場合はわずか1割であり、これが日本と決定的に違う。
日本の場合は、ベンチャーに投資しても、上場益以外ではなかなか資金を回収できない。その点、シリコンバレーでは、活発な企業買収により、出口のあてが見込まれているのである。
こうして、09年以降、シリコンバレーではVCによる投資案件が約3300件、計315億ドル(3.1兆円)を超える資金が投じられたと言う(同レポート)。
その最右翼とも言うべきが、グーグルであり、VCを通じて、ベンチャー企業の出資や、本体による買収を進め、その先端技術を自社サービスに取り込んできたのである。
シリコンバレーに20年以上在住し、年間1000社超のベンチャー企業の動向を見ている校條(めんじょう)浩氏は、「1万社近くのベンチャー企業がいろいろなサービスを起こしている。中国や韓国はそこから何を学べるのかと必死になっている中で、日本はこの10年間、シリコンバレーから何も学んでいない」と指摘する。
話を戻せば、シャフトが買収された理由も、これでわかるだろう。
今、日本の政府も成長戦略を唱え、ベンチャー支援を柱の一つと据えているが、結局どんなに「入り口」を整備しても、「出口」となるM&Aが活発にならなければ、どん詰まりになってしまうのである。
東大発ベンチャーがグーグルに買われた意味は、とても重い。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 小島健志)
日本には投資銀行が無い、そのかわり総合商社がある。いやあった?
日本のベンチャーキャピタルも・・・・あまり機能しているようには思えない。
ホンダ、ソニー、キラ星のごとく登場した日本のベンチャー企業はもはや登場しないのか・・・
幾つか注目している企業はあってもシリコンバレーのように育っていない。
アベノミクスもこの点に注力すべきなのかもしれない。